著者
西澤 晃彦
出版者
日本都市社会学会
雑誌
日本都市社会学会年報 (ISSN:13414585)
巻号頁・発行日
vol.2012, no.30, pp.5-14, 2013-09-01 (Released:2014-03-07)
参考文献数
14

In the recent study of poverty, it is pointed out that the present poor have been individualized and shows weak inclination for solidarity. In addition, they have been excluded from local community and their geographic mobility is high. The urban sociology is good at treating the social world and permanent community of the city, but the present poor is likely to be spilled out from the social net of local community. This paper offers some suggestions, which enables the urban sociology to contribute to the study of poverty.
著者
森 豪大 籔谷 祐介 春木 孝之
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.640-647, 2023-10-25 (Released:2023-10-25)
参考文献数
27

シビックプライドとは、都市に対する市民の誇り定義され、地域を良くしようという当事者意識に基づくものである。人口減少が進む日本では、Uターン人口増加の手がかりとしてシビックプライドが注目されている。そこで、地元に対するシビックプライドと、環境要因に対する意識が、Uターン意向の形成にどのような影響を与えるかを調査した。ランダムフォレストの結果、大学生のUターン意向形成には、第1に地元に希望する仕事があること、第2に地元に住み続けたいという意識、第3に地元にいる家族や友人の存在が影響を与えることがわかった。
著者
Yasumi Maze Toshiya Tokui Takahiro Narukawa Masahiko Murakami Daisuke Yamaguchi Ryosai Inoue Koji Hirano Takeshi Takamura Kenji Nakamura Tetsuya Seko Atsunobu Kasai
出版者
The Japanese Circulation Society
雑誌
Circulation Journal (ISSN:13469843)
巻号頁・発行日
pp.CJ-23-0458, (Released:2023-10-28)
参考文献数
18

Background: Few studies have compared the Barthel Index (BI) score and postoperative outcomes of transcatheter aortic valve replacement (TAVR) and surgical aortic valve replacement (SAVR). We aimed to examine the relationship between the BI score and postoperative outcomes in patients who underwent TAVR and SAVR.Methods and Results: The study included patients who underwent SAVR between January 2014 and December 2022 (n=293) and patients who underwent TAVR between January 2016 and December 2022 (n=312). We examined the risk factors for long-term mortality in the 2 groups. The mean (±SD) preoperative BI score was 88.7±18.0 in the TAVR group and 95.8±12.3 in the SAVR group. The home discharge rate was significantly lower in the SAVR than TAVR group. The BI score at discharge was significantly higher in the SAVR than in TAVR group (86.2 vs. 80.2; P<0.001). Significant risk factors for long-term mortality in the TAVR group were sex (P<0.001) and preoperative hemoglobin level (P=0.008), whereas those in the SAVR group were preoperative albumin level (P=0.04) and postoperative BI score (P=0.02). The cut-off point of the postoperative BI score determined by receiver operating characteristic curve analysis was 60.0.Conclusions: The BI score at discharge was a significant risk factor for long-term mortality in the SAVR group, with a cut-off value of 60.0.
著者
野家 啓一
出版者
東北大学哲学研究会
雑誌
思索 = SHISAKU (ISSN:0289064X)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.1-20, 2012-10-17
著者
中谷 和人
出版者
日本文化人類学会
雑誌
文化人類学 (ISSN:13490648)
巻号頁・発行日
vol.81, no.3, pp.431-449, 2016 (Released:2018-02-23)
参考文献数
40
被引用文献数
3

ミシェル・フーコーの生権力(生政治)論は、我々の生をとりまく今日の社会政治的布置を批判的に記述・分析するための有効な視座を提供してきた。しかし他方で、フーコー自身は、生がそうした特定の権力布置から絶えず「逃れ去る」ものであることも鋭く指摘していた。本論ではこの指摘を踏まえつつ、デンマークの障害者美術学校「虹の橋」に所属していた一人の男性生徒のドローイングに焦点をあて、その「線を描く」という営みが、いかに現在支配的なそれとは異なった生存の仕方(生き方)を可能とするかを追究していく。1980年代以降デンマークで進められてきた脱施設化の過程は、決して障害者の単なる「自由解放」ではなかった。むしろ、その延長線上に近年実施されたある全国プロジェクトの例から浮き彫りになるのは、かれらの自己決定や参加を、いかに 客観的で標準化された形式のもとで監視し、コントロールするかという問題である。そしてそのさいに活用される方法こそ、「監査」と呼ばれる新しい統治技法にほかならない。だが、自己と他者の統治、そして自らの生の形式化は、必ずしも監査の実践を通じてのみなされうるわけではない。そこで取り上げるのが、虹の橋に長年在籍しつつも、2012年に急逝したセアンという男性の事例である。先在する経験の模倣や再現ではなく、むしろ、その真の「所有」を通じて自己自身の変容へと向かうセアンの線描画制作、そしてその作品の中にたどられた「物語」に随うという他者の営みがつくりあげてきたのは、監査におけるそれとは根本から異なった、美学的でかつ倫理学的な自己の自己自身に対する関係、自己と他者のあいだの関係である。本論ではこれを、プロジェクトで作成される「図」と、セアンが描く「作品」との比較を通じて明らかにすることで、今日支配的な社会政治的布置の内部で「線」が切り開く生の新たな可能性について探究する。
著者
平林 ルミ
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.56, pp.113-121, 2017-03-30 (Released:2017-09-29)
参考文献数
47
被引用文献数
2 2

2014年1月,日本は国連の「障害者の権利に関する条約(通称, 障害者権利条約)」を批准した。その中にある合理的配慮(reasonable accommodation)とは,「障害者が他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を享有し,又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって,特定の場合において必要とされるものであり,かつ,均衡を失した又は過度の負担を課さないものをいう」と定義されている。本稿では,学習障害(LD)のある子どもへの合理的配慮としてのICT活用に焦点をあてる。まず目に見えない障害と言われるLDのある子どもへの合理的配慮とプライバシーに関する最新の知見を展望する。次に合理的配慮の対象を判断するための評価研究の動向についてRTI研究及び学業スキルの流暢性評価に焦点をあてる。さらに,LDのある子どもへのICT導入の次の段階としての指導法研究を紹介し,LDのある子どもへの合理的配慮としてのICT活用の動向を整理する。
著者
小倉 拓郎 水野 敏明 片山 大輔 山中 大輔 佐藤 祐一
出版者
応用生態工学会
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
pp.22-00012, (Released:2023-09-06)
参考文献数
37
被引用文献数
1

河川管理事業において,従来の掘削事業は,定型形式で施工管理されることが慣例であったが,近年は河川環境への配慮が重視されてきたことから,中小河川であっても定型形式の技術指針と異なる掘削方法が必要とされている.そのためには,河道の三次元情報を詳細に把握し,綿密な測量計画を立案する必要がある.そこで本研究は,滋賀県を流れる A 川において,希少種に配慮した掘削事業を対象とし,RTK-UAV を用いて効率的に掘削土砂量を把握する方法について検討した.RTK-UAV を用いることで,河道掘削範囲に立ち入ることなく 10 分程度で撮影することができた.また,河道掘削事業前後の測量成果から差分解析を試みた結果,8,851.08 m3の掘削土砂量が算出された.この値は,施工者が算出した掘削土砂量である8,332 m3 に近い値を示した.RTKUAV を用いた地形測量成果から差分抽出を行う際には,写真測量が不得意としている水域,植生などの扱いに留意する必要がある.とくに,植生高は植生被覆の異なる 2 点の標高差を用いて概算で計算し,体積を計算した.総じて,RTK-UAV を用いた掘削土砂量の算出方法は,測量の設定や植生に留意することで,実務レベルで使用できることが明らかとなった.
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.109-113, 2016 (Released:2016-02-28)
参考文献数
17
著者
湯澤 規子
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.74, no.5, pp.239-263, 2001-05-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
30
被引用文献数
1

本稿では生産者の生活と紬生産との関わりを視野に入れて,結城紬生産地域における機渥の家族内分業の役割を明らかにすることを目的とした.その際,織り手の生活と紬生産の全体像をとらえるため,ライフヒストリーを分析対象とし,考察を進めた.結城紬生産地域では, 1980年頃まで年間約3万反に及ぶ結城紬が安定的に生塵されてきた.そこでは,生産関連業者が原料や製品の流通,加工を分業しており,さらに機屋と呼ばれる製織業者における生産工程は家族内分業によって担われている.機屋においては「織り」,「緋括り」,「下椿え」という三っの生産工程が存在し,妻が織り,世帯主が緋を括り,世帯主の父母が下持えに従事するというような家族内分業がみられる.結城紬の生産工程はすべてが手作業で行われ,緋括りや織りなど,特定の技能が要求される.家族内分業は,緋の括り具合や糸の織り込み具合など,生産者一人ひとりが持っ技能上の特徴に規定されており,その特徴は生産者の間でお互いに把握されていることが重要である.また,家族構成員の数や構成員それぞれの性別,年齢の違いなどは家族内における紬の生産環境に影響を与えており,それによって家族内分業にも違いがみられる.紬生産に従事している家は,農作業や家庭内で営まれる家事・育児を含めた労働力需要を家族労働力で調節する中で紬生産を行っている.長期的にみれば,家族構成員の出生や死亡,就学,就職,結婚などによって変動する家族労働力構成に対応して,紬の生産形態を変化させる例もみられる.本稿ではそのような生活と紬生産間の調節を家族内分業の柔軟性によるものと考えた.家族内分業には上記のような,農作業や家事労働との調節が含まれているため,紬生産の経営形態転換時においても,農作業や家事に従事する家族労働力の有無が直接的に影響を及ぼしていた.そのため,経営形態転換時の対応は各機屋ごとに多様であった.各機屋の多様な動向は,経営転換,廃業という行動が,外部からの経済的影響によって生じるというよりは,外部からの経済的影響がある中で,さらに各機屋が有する家族的な条件に規定されて生じていることを示している.
著者
神谷 卓也 山口 優太 中谷 真太朗 西山 正志 岩井 儀雄
出版者
一般社団法人 映像情報メディア学会
雑誌
映像情報メディア学会誌 (ISSN:13426907)
巻号頁・発行日
vol.75, no.3, pp.438-447, 2021 (Released:2021-05-01)
参考文献数
29

本論文では,頭上カメラで撮影された映像中の身体動揺を用いることで,立ち止まる人物の性別を識別できるかどうかについて評価する.従来より性別認識において,歩容の映像から抽出された特徴量が用いられている.一方,立ち止まる人物の動きについては,性別認識において,これまで考慮されてこなかった.立ち止まる人物の性別を識別するため,我々が過去に提案したLocal Movement (LM) 特徴量を,身体動揺が撮影された映像から抽出する.本論文の目的は,LM特徴量と識別器との組合せによって,性別を識別できるかを評価することにある.ここでは識別器として線形SVMを用いた.男女の身体動揺の映像データセットを構築し,性別認識の精度を評価した.実験結果から,LM特徴量と線形SVMとを組合せた本評価対象手法は,他の手法と比べて,立ち止まる人物の性別を,身体動揺の映像から高精度に識別できることを確認した.
著者
奥野 克巳
出版者
日本文化人類学会
雑誌
文化人類学 (ISSN:13490648)
巻号頁・発行日
vol.76, no.4, pp.417-438, 2012-03-31 (Released:2017-04-17)

マレーシア・サラワク州(ボルネオ島)の狩猟民・プナン社会において、人は「身体」「魂」「名前」という三つの要素から構成されるが、他方で、それらは、人以外の諸存在を構成する要素ともなっている。人以外の諸存在は、それらの三つの要素によって、どのように構成され、人と人以外の諸存在はどのように関係づけられるのだろうか。その記述考察が、本稿の主題である。「乳児」には、身体と魂があるものの、まだ名前がない。生後しばらくしてから、個人名が授けられて「人」と成った後、人は、個人名、様々な親名(テクノニム)、様々な喪名で呼ばれるようになる。その意味において、身体、魂、名前が完備された存在が人なのである。人は死ぬと、身体と名前を失い、「死者」は魂だけの存在と成る。これに対して、身体を持たない「神霊」には魂があるが、名前があるものもいれば、ないものもいる。「動物」は、身体と魂に加えて、種の名前を持つ。「イヌ」は、イヌの固有名とともに身体と魂を持つ、人に近い存在である。本稿で取り上げた諸存在はすべて魂を持つことによって、内面的に連続する一方で、身体と名前は多様なかたちで、諸存在の組成に関わっている。諸存在とは、身体と魂と名前という要素構成の変化のなかでの存在の様態を示している。言い換えれば、諸存在は、時間や対他との関係において生成し、変化するものとして理解されなければならない。人類学は、これまで、精神と物質、人間と動物、主体と客体という区切りに基づく自然と社会の二元論を手がかりとして、研究対象の社会を理解しようとしてきた一方で、複数の存在論の可能性については認めてこなかった。そうした問題に挑戦し、研究対象の社会の存在論について論じることが、今日の人類学の新たな課題である。本稿では、身体、魂、名前という要素の内容および構成をずらしながら諸存在が生み出されるという、プナン社会における存在論のあり方が示される。
著者
前川 隆嗣 香西 彩加 湯浅 正洋 榎原 周平 根來 宗孝 渡邊 敏明
出版者
日本微量栄養素学会
雑誌
微量栄養素研究 (ISSN:13462334)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.25-31, 2022-12-15 (Released:2023-01-18)
参考文献数
25

Udon dashi soups (soup for thick wheat noodles) are specially prepared and served at each restaurant chain. To clarify the difference in taste depending on the restaurant chain, the taste of udon dashi soup by the taste sensor and the high-performance liquid chromatography (HPLC) was scientifically evaluated in this study. Udon dashi soup (A) is a concentrated dashi, which is diluted and utilized for udon dashi soup served at the restaurant chain. Udon dashi soups (B, C, D) are Kansai-style dashi served in the restaurant chain in Hyogo prefecture, and udon dashi soups (B, C) are served in the restaurant chain in the same family. These udon dashi soups are generally made from shaved fishes, such as dried sardine shavings and dried kelp. After diluting these udon dashi soups to 4% Brix, Taste Sensing System (TS-5000Z) with the taste sensor was used to quantify eight different taste components: sourness, bitter stimulus, astringent stimulus, umami, and saltiness as the initial taste, and general bitterness, astringency, and umami richness as the aftertaste. Free amino acids in the udon dashi soups were also determined using the HPLC analysis. Three types of udon dashi soups (B, C and D) had less sourness and astringent stimulus than udon dashi soup A, but had a stronger umami and saltiness. However, no difference in the aftertaste (general bitterness, astringency, and umami richness) was detected. The taste of udon dashi soup D was significantly different from that of udon dashi soups B and C. In particular, the sourness and astringent stimulus were suppressed, and both saltiness and umami became stronger in udon dashi soup D. From the determination of free amino acids, udon dashi soups A, B and C showed high values for glutamic acid, aspartic acid and histidine, while no serine and arginine were not detected in udon dashi soup C. Very high levels of taurine and histidine in udon dashi soup D were contained. Anserine and carnosine were also characteristically found in udon dashi soup D. Therefore, udon dashi soups B, C and D may be mixed by the different processing methods using the different ingredients respectively. From these findings, it was suggested that scientific evaluation of taste characteristics of udon dashi soup is possible by using the taste sensor and amino acid analysis.
著者
堀場 明子
出版者
国際ボランティア学会
雑誌
ボランティア学研究 (ISSN:13459511)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.59-68, 2016 (Released:2019-08-01)

本稿は、2004年から再燃化したタイ深南部の紛争について、その歴史的、政治的要因を整理し、長引く紛争の現状を紹介するものである。また、タイ政府とマレー系武装勢力の間で2013年から始まったトラック1レベルの和平対話について、また現軍政権下において行われている和平対話に向けた取り組みついても考察している。それにより、報道されない紛争の一つといえるタイ深南部紛争について包括的な理解を促したい。また、和平対話の成功に重要な役割を担っている市民社会の現状と課題について、特に市民社会の脆弱性がどのように和平対話に影響するか、現地調査を基に検討している。紛争下で最も弱い立場にある人々の声を集約しトラック1の和平対話に届け、政策に盛り込ませる提案をすることが重要であるが、タイ深南部の市民社会団体の多くは分断し対立している状態であり、彼らの能力強化と意識改革が必要といえる。ボトムアップの平和構築活動が何よりも重要であり、市民社会への支援が、時間がかかるけれども持続可能な和平につながるからである。また、同地域における、国際社会が果たしうる役割について、特に信頼醸成活動の重要性についても論じている。
著者
島田 眞路
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学会年会要旨集 第96回日本薬理学会年会 (ISSN:24354953)
巻号頁・発行日
pp.2-B-SL09, 2022 (Released:2022-12-26)

わが国の科学技術力の衰退、低迷が止まらない。先日、世界各国のTop10%論文数が公表されたが、日本は長期低迷傾向にあり、今年は2カ国に抜かれ、10位から12位となってしまった。何とヨーロッパ諸国の中で後塵を拝してきたスペインとアジアの隣国韓国に抜かれたのである。その原因は、国の科学技術研究費を抑制してきた財務省/文科省にある。国立大学法人化をきっかけに、国立大学運営費交付金を2004年から毎年1%減らし続け、現在では10%以上減額となっている。厚労省も基礎医学研究に対してバッシングを行い続け、卒後臨床研修制度=大学否定、日本専門医機構=学会否定を行ってきた。このアカデミズム否定は、かつての文化大革命を想起させる暴挙である。これらの政策のおかげで日本の研究力は顕著に低下した。そのよい例が今般の新型コロナウイルス感染症対応で露わになった。ワクチン、治療薬ともその開発は、欧米に大きく遅れをとってしまった。これらの科学技術研究を中心とするアカデミズム抑制政策を即刻転換しなければ、日本の科学技術力は本当に地に堕ちる可能性があり、深く憂慮している。

2 0 0 0 OA 世界史めぐり

著者
中村孝也 著
出版者
妙義出版社
巻号頁・発行日
vol.中世篇, 1950
著者
堀内 萌未
出版者
Hokkaido University
巻号頁・発行日
2021-03-25

ニホンウナギの養殖では天然資源に依存しない安定的な種苗生産技術の確立が求められている。そのためには雌雄の親魚が必要であるが、本種は飼育下では性比が著しく雄に偏ることが知られている。現在は、雌性ホルモンであるエストラジール-17β(E2)を投与することで雌化を誘導しているが、商業生産を見据えるとステロイドホルモン投与に依存しない雌親魚の安定供給技術の確立が必要である。ウナギの性分化には飼育密度等による環境要因が関与していると考えられているが、飼育下で性比が著しく雄に偏る直接的な要因は不明である。本種は環境依存型あるいは環境感受型性決定をすると考えられるが、その分子機構についてはほとんど調べられていない。そこで本研究では、性分化に関与する遺伝子および性分化に影響を及ぼす環境要因に着目し、ニホンウナギの性分化の分子機構を明らかにすることを目的とした。 まず、先行研究により本種の性分化に重要な時期であるとされた全長25-35 cm の天然個体のRNA サンプルを確保するため、新たに天然個体を採集し、宮崎および大分天然ニホンウナギ189 個体の組織学的観察により、詳細な性分化過程を調べた。その結果、形態的性分化の兆候は全長25 cm 前後からわずかにみられ始め、卵巣様構造あるいは精巣様構造が認められた。その後、全長30 cm 前後から分化過程の生殖腺が現れ、全長31-34cm の非常に短い期間に卵巣あるいは精巣に分化することが示唆された。また、耳石を用いた年齢査定の結果、同じ年齢であっても生殖腺が形態的性分化後の個体は未分化個体に比べて全長が大きかったことから、生殖腺の性分化には年齢よりも体サイズが関与していると考えられた。既知の卵巣形成関連遺伝子の発現は、増殖期の卵原細胞および減数分裂初期の卵母細胞を含むシスト状の構造を有する卵巣でcyp19a1a、foxl2a のmRNA 量が高く、より発達した卵母細胞を含む卵巣ではfigla、sox3、foxn5、zar1、zp3 のmRNA量が高値を示した。このような卵巣におけるcyp19a1a の一時的な発現はニュージーランド天然オーストラリアウナギおよび福島天然ニホンウナギでも同様であると考えられ、cyp19a1a およびその転写因子とされるfoxl2a によるE2 産生は卵原細胞増殖に重要な役割を果たしていると予想された。また、精巣形成関連遺伝子のgsdf、amh、foxl2b、foxl3b のmRNA 量は全長33.7 cm 以降の精巣からより高値を示す傾向がみられ、本種の精巣分化に直接関わる遺伝子がそれらの発現以前に存在する可能性が考えられた。しかし、形態的未分化生殖腺では、既知の性分化関連遺伝子の発現に二型性がみられる個体はほとんど認められなかった。 次に、天然個体との比較を行なうため、飼育個体の性分化過程を調べた。飼育下で卵巣個体を得ることは難しいことから、性分化に飼育密度(他個体の存在)のストレスが影響しているのではないかという仮説のもと、自然環境下での単独および低密度飼育実験を行なった。養成ニホンウナギの性分化過程は天然個体とは異なり、全長20 cm 前後から卵巣分化、遅れて全長25 cm 前後から精巣分化を開始する個体が観察され、卵巣への分化が先に起こることが示唆された。さらに、精巣分化過程では精巣卵を持つ個体もいくつか観察されたのに対し、天然個体では観察されなかったことから、飼育環境が影響している可能性が考えられた。既知の性分化関連遺伝子の発現は、cyp19a1a、foxl2a、foxn5、zar1、zp3 は天然個体と同様の発現動態であったが、gsdf、amh のmRNA 量は卵巣分化過程および分化後の卵巣以外の全ての生殖腺で高値を示す傾向がみられた。また、形態的未分化生殖腺が9 個体認められたものの、卵巣様構造および卵巣分化過程の生殖腺を含む卵巣が28 個体、精巣様構造の生殖腺を含む精巣が27 個体認められ、性比はほぼ1:1 になった。従って、本種は基本的には遺伝的性決定をするが環境(特に他個体の存在)の影響を受ける環境感受型性決定をすると思われ、他個体の影響がない飼育環境下では雌作出が可能であることが明らかになった。加えて、現在行なわれているE2 投与による雌親魚の作出は遺伝子攪乱を招くことも懸念された。 最後に、性分化の分子機構を明らかにするため、卵巣精巣間で発現に差のある遺伝子を次世代シーケンスを用いたRNA-seq 解析により網羅的に探索し、その後定量PCR によりmRNA 量に差のある新規性分化関連遺伝子を絞り込んだ。本研究では卵巣個体間でも既知の卵巣形成関連遺伝子の発現にばらつきがみられたため、cyp19a1a のmRNA 量が高値を示す天然個体および単独/低密度飼育個体の卵巣分化過程の生殖腺および卵巣、cyp19a1a のmRNA 量が低値を示す単独飼育個体の卵巣、天然個体および単独飼育個体の精巣を用いてシーケンシングを行ない、得られたリードをニホンウナギのドラフトゲノム配列へマッピングした。続いて、マッピングされたリードをもとにコンティグを形成し、それらの相対量(RPKM 値あるいはFPKM 値)を卵巣分化過程の生殖腺および卵巣と精巣で比較することにより候補遺伝子を選抜した。卵巣分化過程の生殖腺および卵巣で相対量が高い49 遺伝子、精巣で相対量が高い11 遺伝子をそれぞれ候補とし、実際に定量PCR によりmRNA 量の測定を行なった。その結果、cyp19a1a のmRNA 量に関係なく比較的高い発現を維持し続ける可能性のある5 遺伝子(zglp1、pkp4、aurkc、sdc1、erbb3)が同定された。特に、zglp1 はごく最近マウスで卵母細胞の分化に必須な転写因子として同定されており、本種においても同様な役割を果たすことが示唆されたことは特筆される。また、EGF(上皮成長因子)受容体として知られるerbb3 をはじめとする4遺伝子は細胞分裂に関与する遺伝子であり、卵原細胞の増殖に関与すると推察された。さらに、精巣では、9 遺伝子(col1a1、pcdha8、prkar1a、recql、map2k5、rgs11、ednrb、arsd、Tetraspanin)が高いmRNA 量を示した。これらはコラーゲン産生、細胞接着および体細胞増殖などに関与する遺伝子であり、精小嚢形成に関与すると思われた。本研究により、既知の卵巣形成および精巣形成関連遺伝子よりも先行して発現する多くの遺伝子を初めて同定できた。 以上本研究では、天然ニホンウナギおよび養成ニホンウナギの両方の生殖腺における詳細な性分化過程と、既知の性分化関連遺伝子の発現動態を初めて明らかにした。これまで、本種はE2 投与個体の卵巣分化過程のみが報告されていたが、本研究ではE2 未投与の飼育個体の卵巣および精巣を用いた性分化機構解析が可能となった。また、自然環境下での単独飼育により、得られる生殖腺の性比がほぼ1:1 になり、本種の性は遺伝的に決まることが示唆された。さらに、全ての卵巣分化個体で共通して発現する遺伝子を初めて同定した。これら遺伝子の発現動態から、形態的未分化生殖腺であっても性の予測が可能になると期待される。本研究成果により、不明瞭な点が多かった本種の性分化の分子機構解明が大きく前進した。また、これらの知見は、将来的に本種で未だ実現していないホルモン投与に依存しない性統御技術の確立に貢献できるであろう。