著者
野島 那津子
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.69, no.1, pp.88-106, 2018 (Released:2019-06-30)
参考文献数
15

A. W. フランクが理想型として提示する「探求の語り」は, 病いの「受容」と苦しみによって新たな何かが獲得されるという信念を語り手に要請する. この「成功した生」の道徳的な語りは, 病いを受け入れられない人の語りを, 失敗した生のそれとして貶める可能性がある. また, 道徳的行為主体に至る個人の努力が強調される一方で, 苦しみを受け入れ経験を語る過程における他者や社会経済的要因の考察が, 不十分または不在である. こうした問題を乗り越えるために本稿では, 病気を「受け入れていない」線維筋痛症患者の語りを通して, 「探求の語り」の成立要件としての病いの「受容」のあり方について検討し, 以下の知見を得た. (1) 病気を「受け入れる/受け入れない」ことの責任は, 周囲の人々と共同で担われ得る. (2) 「耳ざわりのいい」物語が流通する中で病人像が規範化され, そこから逸脱した病者の生き方/あり方が否定され得る. (3) 周囲の人間が病気を受け入れない場合, 病いの「受容」は個人化され得る. (4) 病いを受け入れていなくても, 病者は経験の分有に向けて語り得る. 以上の知見から本稿は, 他者との分有や共同を含めた病いの「受容」の多様なあり方を「探求の語り」に認めることを提起する. 「耳ざわりのいい」物語だけが聞かれる危険性に対しては, 個々の語りのさまざまな「探求」を聴き手が見出し, ヴァリエーション豊かな「探求の語り」が提示されねばならない.
著者
芦田 明
出版者
一般社団法人 日本血栓止血学会
雑誌
日本血栓止血学会誌 (ISSN:09157441)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.37-44, 2020 (Released:2020-02-22)
参考文献数
29

溶血性尿毒症症候群(hemolytic uremic syndrome: HUS)は破砕赤血球を伴う微小血管症性溶血性貧血(microangiopathic hemolytic anemia: MAHA),血小板減少症,急性腎傷害(acute kidney injury: AKI)を3主徴とし,小児期においてはその大半が志賀毒素産生性腸管出血性大腸菌感染症に続発する.我が国では感染症法により本感染症は三類感染症に指定され,全例届け出義務があり,その集計より年間感染者数は3,000~4,000名で,100件程度がHUSを発症することが明らかとなっている.近年の傾向として従来,HUSを続発する血清型は主にO157:H7であったが,O157以外の血清型による症例が増えており感染の確定診断の際には注意を要する.HUSの診断は3主徴の有無により行い,治療は支持療法が主体となる.志賀毒素産生性溶血性尿毒症症候群発症に関する補体系の関与も報告されているが,補体制御薬の効果は確認されていない.基礎,臨床双方の面からのさらなる検討が必要である.
著者
髙橋 渉 伊藤 元太 本郷 良泳 長沼 未加
出版者
一般社団法人 日本薬局学会
雑誌
薬局薬学 (ISSN:18843077)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.98-106, 2022 (Released:2022-10-24)
参考文献数
21

保険薬局で調剤される抗インフルエンザ薬には,内服薬と吸入薬がある.内服薬の服薬指導時間は,吸入薬よりも短い可能性があるが,薬局での抗インフルエンザ薬の服薬指導時間を評価した研究はない.そこで本研究では,2018~2019年シーズンに内服薬(オセルタミビル,バロキサビル マルボキシル)と吸入薬(ザナミビル,ラニナミビル)を処方された患者について,薬局の電子薬歴端末のデータを用いて服薬指導時間と患者の薬局滞在時間を評価した.平均服薬指導時間は,内服薬が3.13分(n=44,080),吸入薬が4.68分(n=19,710)であり,吸入薬では内服薬に比べ約1.5倍時間が長かった.薬局滞在時間の平均は,内服薬で14.61分(n=49,572),吸入薬で14.98分(n=22,937)であり,服薬指導時間でみられたような差は認められなかった.服薬指導時間短縮による影響について,今後さらなる調査が必要である.
著者
猪又 直子
出版者
公益社団法人 日本皮膚科学会
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.133, no.11, pp.2581-2587, 2023-10-20 (Released:2023-10-20)
参考文献数
13

血管性浮腫は,原則,蕁麻疹を合併しないブラジキニン起因性と,蕁麻疹を合併しやすいマスト細胞メディエーター起因性に大別される.前者の代表例,遺伝性血管性浮腫は,喉頭や消化管などの粘膜の浮腫が単独で現れることもあり致死的になる.近年,その新規治療薬として急性発作時のB2受容体拮抗薬,長期予防のブラジキニン阻害薬や抗ヒト血漿カリクレイン抗体,C1-インヒビター阻害薬などが登場し,より安全な管理が可能になった.
著者
Masahiro Nishihori Ryo Kawase Takashi Izumi Hiroe Nakase Erina Onishi Ryuta Saito
出版者
The Japanese Society for Neuroendovascular Therapy
雑誌
Journal of Neuroendovascular Therapy (ISSN:18824072)
巻号頁・発行日
pp.oa.2023-0053, (Released:2023-10-24)
参考文献数
8

Objective: We verified the usefulness of patient management using a balloon-pressurized belt (Stanch Belt Plus) to prevent puncture site hematomas, which can occur at a specific rate even with hemostatic devices after endovascular neurosurgery.Methods: A total of 113 patients who underwent endovascular surgery with a femoral puncture from April 2019 to September 2020 were divided into two groups: 31 cases using a traditional compression belt and 82 cases using a newly introduced balloon-pressurized belt during this period. The clinical data were analyzed retrospectively. The chi-square test and Mann–Whitney U test were used to test for significant differences.Results: There were no significant differences in treatment procedures or frequency of hemostatic device use, but the balloon-pressurized belt group had a significantly lower incidence of hematomas (2.4% vs 12.9%, p <0.05) and a significantly lower incidence of moderate or higher lumbago (22.0% vs 41.9%, p <0.05). The incidence of epidermal detachment tended to be low; however, no significant difference was observed (3.7% vs. 12.9%, n.s.).Conclusion: Patient management with the newly introduced balloon-pressurized belt may decrease the occurrence of groin hematoma and lumbago among complications after endovascular neurosurgery.
著者
大石 理江子 井石 雄三 今泉 剛 細野 敦之 大橋 智 箱崎 貴大 小原 伸樹 五十洲 剛 村川 雅洋
出版者
一般社団法人 日本心臓血管麻酔学会
雑誌
Cardiovascular Anesthesia (ISSN:13429132)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.89-92, 2019-08-01 (Released:2019-09-19)
参考文献数
3

東日本大震災の発生時,当院では胸腹部大動脈瘤に対して腹部大動脈分枝再建術が施行されていた。腹部分枝をバイパスしている途中であり手術中止の判断が難しい症例であったが,中止して閉腹し,覚醒させて帰室させた。 災害時は病院の立地,建物の被災状況,手術の状況等が手術を続行するか否かの判断に影響する。本症例のような経験の共有が,次の災害発生時の対応を改善すると考える。
著者
下山 萌子 後藤 春彦 山村 崇
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.405-412, 2019-10-25 (Released:2019-11-06)
参考文献数
35
被引用文献数
3

近年、日本を訪れる外国人観光客が増加している。特に2000年代以降は、国による観光促進政策が進められたことも後押しして、訪日観光客数は急伸基調にある。本研究では、客室数の増加が顕著な東京都心部において、近年に建てられたホテルの立地傾向を明らかにする事を目的とする。その上で現行の誘導政策と立地実態とを比較しつつ課題を抽出する。訪日観光客増加期に建設されたホテルの立地傾向を詳細に検討したところ、主なパターンとして以下の3種類が得られた。1.駅近の小規模オフィスが、中価格帯の宿泊特化ホテルへの建て替わる、もっとも代表的なパターン。2.駅からやや離れた場所では、小規模オフィスが低価格帯の宿泊特化型ホテルへと建てかわるパターンが見られたが、このタイプのホテル(いわゆる「ビジネスホテル」)の建設は以前よりも鈍化しつつある。3.ターミナル駅から近い商業地域では、複数の事業所が再開発により統合されて大規模複合ビルとなり、その上層部に高級ホテルが設置されるパターンも見られる。最も主流なパターンは1であるため、中小規模の空きオフィスをホテルへ用途変更にするための規制緩和についても検討の余地がある。
著者
今村(滝川) 寿子 望月 敦史
出版者
一般社団法人 日本生物物理学会
雑誌
生物物理 (ISSN:05824052)
巻号頁・発行日
vol.48, no.4, pp.221-227, 2008 (Released:2008-07-25)
参考文献数
29

A cyanobacterial clock protein KaiC shows circadian cycling of the phosphorylation level in vitro. We first developed an observation-based model. The KaiC-KaiA complex formation consequently reduces free KaiA molecules, thereby may exert a negative feedback effect toward KaiC phosphorylation. However, this model was shown not to be adequate to generate the KaiC phosphorylation cycle. Then, we analyzed generalized models and determined necessary conditions to generate the cycle. Based on the result, we realized the observed pattern of the KaiC phosphorylation cycle and predicted an unknown state that lies between KaiC phosphorylation and the formation of the KaiC/KaiA complex.
著者
山田 忠史 中村 昂雅 谷口 栄一
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集D3(土木計画学) (ISSN:21856540)
巻号頁・発行日
vol.67, no.5, pp.67_I_801-67_I_811, 2011 (Released:2012-12-28)
参考文献数
29

本研究は,既存の商物一体型モデルを基にして,サプライチェーンネットワーク上の各主体(製造業者,卸売業者,小売業者,消費市場,物流業者)の分権的な意思決定や行動の相互作用を考慮した,商物分離型のサプライチェーンネットワーク均衡モデルを提案し,各主体の意思決定の定式化やサプライチェーンネットワーク全体の均衡条件を示す.また,比較対象の一つとして,卸売業者が介在せず,流通段階が削減された場合のサプライチェーンネットワークについても,均衡モデルの枠組みで定式化を行う.これらのモデルを用いて簡単な数値計算を行うことにより,流通形態の相違がもたらす,物資流動量(商品取引量,生産量,輸送量)やサプライチェーンネットワークの効率性の変化について,基礎的検討を行う.
著者
田辺 建二 山田 忠史 谷口 栄一
出版者
Japan Society of Civil Engineers
雑誌
土木計画学研究・論文集 (ISSN:09134034)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.431-439, 2008-09-30 (Released:2010-06-04)
参考文献数
27

商品のサプライチェーン全体で生じる現象を記述するモデルとして, サプライチェーンネットワーク均衡 (SCNE) モデルに注目し, 製造業者・卸売業者・小売業者・消費市場の4主体で構成されるSCNEモデルの定式化を示し, モデルの性能の妥当性を検討した. モデルを用いて, 仮想ネットワークに対して, 都市内配送効率化や流入規制などの物流施策の効果を比較分析した. また, 複数の流通段階の利用が可能なSCINEモデルを用いて, 複数の流通段階をもつサプライチェーンネットワークの特性について, 輸送費用やEコマースとの関係の観点から基礎的な評価検討を行った. その結果, 物流施策の影響は施策実施箇所のみならず, SCN全体に波及する可能性が示唆された.
著者
田島 怜路 三輪 富生 鶴見 直樹 森川 高行
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集 (ISSN:24366021)
巻号頁・発行日
vol.79, no.10, pp.23-00044, 2023 (Released:2023-10-20)
参考文献数
12

マップマッチングとは,位置測位誤差を含むプローブカーデータから,その車両の走行経路を特定する技術である.マップマッチングはプローブカーを活用した交通状況調査の前処理に位置づけられ,マップマッチングによって得たリンク旅行時間等は,交通情報として活用されている.本研究では,過去のプローブカーデータのマップマッチングから得られたリンク旅行時間情報を活用し,以降のマッチング候補経路の探索及び選択を行う.トリップごとにマップマッチングと蓄積情報の更新を繰り返すことで,蓄積データベースやマップマッチング精度の変化を分析する.分析の結果,混合ガウスモデルの考え方を援用した複数経路への情報の蓄積によって,交通情報が効率的に蓄積できる可能性が示された.
著者
安藤 慎悟 Golubchenko STANISLAVA 久米山 幹太 谷口 守
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集 (ISSN:24366021)
巻号頁・発行日
vol.79, no.10, pp.22-00283, 2023 (Released:2023-10-20)
参考文献数
15

近年地域活性化施策として注目される「関係人口」を拡大していくうえで,地域と関わりのない無関与者に対して行動変容を促すことができれば,その母数の多さから担い手不足解消への期待が高まる.そこで本研究では,全国の無関与者を対象に,関係人口へとステップアップする要因を明らかにする.その後,関係人口の中でも担い手としてより期待される訪問型関係人口への意向を示す者を11の人物像に分類し,人物像別に地域と関わるための改善要素を明示した.分析の結果,1)年齢の若い人や趣味・関心分野がある人はステップアップしやすいこと,2)公務員と時間的な余裕,夫婦世帯と同行者の理解などという人物像別に求める改善要素の傾向があること,3)移動や滞在費という金銭面に関しては人物像に関わらず負担に感じていることが明らかとなった.