著者
渡邉 浩崇
出版者
大阪大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-28

本研究プロジェクトは、日本宇宙政策の始まりの1950年代後半から冷戦終結の1980年代後半までの展開を、当時の政治・経済・安全保障・科学技術をめぐる日本外交との関連に注目しながら、歴史的に検証したものである。国内外での資料収集、国際的な研究会やシンポジウムの開催、資料集(原稿レベル)の作成、そして日本語と英語による雑誌論文・学会発表・図書などの研究発表を行うことができた。総じて、日本宇宙政策史における今後の研究課題を残しつつも、ほぼ予想通りの成果を収めることができた。
著者
杉村 和美
出版者
愛知学泉女子短期大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1993

1.研究実施計画の第1点である、性別、ライフスタイルによる中年期の自我同一性再構成の様相については、先行研究で特徴が明確化されていない女性に焦点を当て、面接法による検討を行なった。対象は、40代女性59名(有職群・専業主婦群)である。結果は以下の2点である(杉村,1993)。(1)次の4つの自我同一性再構成のパターンを見いだした。a.社会的役割同一性の安定→個人的同一性、b.社会的役割同一性の動揺→個人的同一性、c.社会的役割同一性の安定→その再確認と継続、d.社会的役割同一性の動揺→変化の方向が不明確。(2)パターンa・cは有職群、パターンbは専業主婦群に多いという結果から、中年期の自我同一性再構成の様相がライフスタイルによって異なること、特に専業主婦において心理的葛藤が顕在化しやすことが示された。2.研究実施計画の第2点である、自我同一性再構成における親子関係の変化の重要度については、有職群、専業主婦群ともに40%の対象者が、自我同一性再構成の要因として、子供の成長を契機とした“子育ての再考"(Erikson,et.al,1986)を報告するという結果を得た。このことから、女性に関しては、どのライフスタイルにおいても、親子関係の変化が、中年期の自我同一性再構成の重要な要因であることが確認された。3.自我同一性再構成を、親子関係と関連づけながら、より確実に把握するための新しい方法論を検討した。具体的には、対人関係的領域を重視し、自我同一性発達の力動的過程を把握し得る、Grotevant & Cooper(1981)の自我同一性地位面接を、わが国で初めて翻訳して修正を加え、予備面接を実施した。結果は現在分析中で、次年度は、第1に、この結果をもとにして本面接法を確立すること、第2に、本法を用いて自我同一性再構成を把握するとともに、これと親子関係の変化との関連の詳細を検討することを計画している。
著者
山口 清次 長谷川 有紀 小林 弘典 虫本 雄一 PUREVSUREN Jamiyan
出版者
島根大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2010

成人には無害でも小児に対して健康被害を起こす薬剤が知られている。そこで、培養細胞とタンデムマス質量分析計を用いるin vitro probe acylcarnitine(IVP) assayという方法を応用して、小児に対する薬物等の脂肪酸β酸化に対する毒性を評価するシステムを確立した。アスピリン、バルプロ酸などは、脂肪酸代謝の脆弱な細胞でβ酸化障害が増強された。ベザフィブレートはβ酸化異常症の代謝を改善した。
著者
丸山 定巳 花田 昌宣 宮北 隆志 中地 重晴 下地 明友 原田 正純 足立 明 井上 ゆかり 田尻 雅美 藤本 延啓
出版者
熊本学園大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

本研究の目的は、近年の水俣病被害者救済策や地域振興策が水俣病患者にもたらすものを50年の歴史に照して検証することであった。そこで根本的に問われることは、改めて水俣病被害とは何であるのかを解明することであった。この基礎の上に立って、今日の意義と課題を明確にして行くことである。そのために、過去の資料、研究成果、種々のデータを洗い直し、現地のさまざまなアクターに密着して、被害者ばかりではなく水俣病に関わるステークホルダーとともに調査を実施した。それによって、水俣病という負の経験を将来に活かすことができ、また、環境被害に関する国際フォーラムを通してその成果を国内外に発信することができた。
著者
林 克洋
出版者
名古屋大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究では、星形成領域のX線やガンマ線観測から、宇宙線の加速/伝播についての観測的制限を目指した。「ひとみ」衛星の喪失により、X線や軟ガンマ線の観測データを用いた研究はできなかったが、Fermi衛星によるGeVガンマ線と、Planck衛星によって取得されたダストの光学的厚さをベースとする星間ガスの分布をと詳細に比較することで、カメレオン分子雲領域についてガスの柱密度を精密に測定しすることに成功した。そして原子ガスの柱密度が、場所によって従来の1.3-1.5倍程度に大きくなる可能性を明らかにした。その結果得られた宇宙線スペクトルは、太陽系近傍において概ね一様であることを示した。
著者
大塚 康夫 王 野 庄司 一夫
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

本研究では、二酸化炭素を酸化剤として用いて、天然ガスの主成分であるメタンを、エタンならびにその二次的分解生成物であるエチレンに、低温で選択的に直接転換する方法の開発を目指した。さまざまなランタナイド酸化物を触媒とし、固定床石英製反応器中でCH_4とCO_2の反応を行ったところ、プラセオジムやテルビウムの酸化物上では、CH_4からC_2H_6への選択的変換が450〜650℃の低温で極めて速やかに進行することを見いだした。W/Fの増加にともない、C_2H_6収率は増大し最大で8C-mol%に達したが、触媒活性はいずれも反応時間の経過とともに緩やかに低下した。これらの酸化物は上記の反応温度域では容易に酸素を放出するので、その過程で生成した格子欠陥が反応に関与しているものと推論される。次ぎに、耐久性のある高性能複合触媒の開発を目的として、酸化還元能を持つCe、Cr、またはMnの酸化物粉末を、塩基性のCaOを与えるCa硝酸塩水溶液に含浸して焼成したところ、いずれの二元系酸化物触媒も、C_2生成に対して相乗効果を示すことを見いだした。C_2炭化水素の選択率と収率はともにCO_2分圧の上昇に従い増加し、前者は70kPaの分圧で65〜75%に達した。これらの3種の触媒は、ガス流通時間が8〜10hにおいても、安定な性能を示した。TPD、XRD、XPSを用いる触媒解析の結果より、CO_2はまずCa^<2+>サイトに吸着し、吸着CO_2は隣接するCe^<3+>、Cr^<3+>またはMn^<2+>のサイトで活性化されて表面酸素種を与え、この化学種がC_2炭化水素の選択的生成の酸化剤として機能することが明らかとなった。本研究で得られた成果は、多量のCO_2を含む低品位天然ガスの直接転換利用プロセスの発展に貢献するものと期待される。
著者
澤田 典子
出版者
静岡大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

最終年度となる今年度は、黎明期(前7世紀半ば〜前5世紀)の古代マケドニア王国史を、断片的な文献史料と近年の考古資料との整合性の検証を軸として解明するという研究目的のため、前年度までに行なったマケドニア王国の建国神話についての分析と、マケドニア王国に関する考古資料の整理・検討を踏まえて、建国神話と考古資料の整合性を検証しながら神話の史実性についてさらに考察を深めた。建国神話を中心とした史料から読み取れる初期のマケドニア王国史について、ギリシア世界との関係という側面からも考察し、その成果は、論文「前5〜4世紀のマケドニアとギリシア世界」(平成21年度掲載予定)にまとめた。また、これまでの考察を総括したうえで、初期のマケドニア王国の「独自性」について、マケドニア王家と貴族層というエリート社会に焦点を絞って検討し、同時代のポリス世界とは異なるマケドニアの社会のあり方を、論文'Social Customs and Institutions:Some Aspects of Macedonian Elite Society'(平成21年度掲載予定)にまとめた。これらの作業を通して、マケドニア人のアイデンティティという、今後の研究につながっていく大きな問題についても考察し、初期のマケドニア王国における彼らのアイデンティティの形成・展開過程がその後のマケドニアとギリシア世界の関係史において重要な意味を持つことを明らかにした。
著者
松本 仁志
出版者
広島大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

本年度は,左利き児童の実態を踏まえた上での単位教材の作成,書字教材モデルの作成,予備的検証を以下の通りに実施した。1.文字の字形、文字の大きさ、文字の位置、書式(マス・縦罫・横罫)などの形式的な要素ごとに単位教材モデルを作成した。2.単位教材モデルをもとに、小学校第3学年及び第4学年を対象とした、文字習得に関わる教材、の配列・配置に関する教材、左手による筆記具の持ち方の改善に関する教材を作成した。ただし、左手による筆記具の持ち方の改善を図るための教材については、左利き児童の持ち方と書字姿勢のパターンが多様なため、典型的なモデルを作成するには至らなかった。3.大学生を対象に、書字教材モデルの有效性について、予備的検証を行った。その結果、文字習得に関わる教材、文字群の配列・配置に関する教材については、視認しやすい教材文字を配することの効果及び書式における横罫の優位性は確認できたが、その他の点については、右利き用のものと比して効果は確認できなかった。また、左手による筆記具の持ち方の改善を図るための教材については、データを処理に至らなかった。予備的検証において、視認しやすい文字の位置や書きやすい書式など、一般的な点での成果しか認められなかったのは、左利き者の書字特徴の捉えが不十分であったことを意味している。一人一人の実態にあわせた教材を提供するためにも、左利き児童の実態について、特に書字姿勢、筆記具の持ち方、書字行為(筆圧、書字方向、書字速度など)の実態に焦点化した再調査の実施と、その結果を踏まえた特徴の類型化が必要がある。
著者
岡田 温司 篠原 資明 鈴木 雅之 小倉 孝誠 並木 誠士 喜多村 明里 水野 千依 柳澤 田実 松原 知生
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

肖像には二重のベクトルがある。ひとつはモデルへと引き戻されるもの(モデルに似ていると思わせるベクトル)、もうひとつはモデルから観者へと表出してくるもの(モデルの性格や内面性が表われていると思わせるベクトル)である。この反対方向の運動は、「肖像」を意味するイタリア語「リトラット」とフランス語「ポルトレ」に象徴的に表われている。前者は、「後方へと引き戻す」という意味のラテン語「レ-トラホー」に、後者は「前方へと引き出す」という意味の同じくラテン語「プロ-トラホー」に由来するのである。かくのごとく「肖像」は、模倣と表出、後退と前進、現前と不在、顕在と潜在、保管と開示、隠匿と暴露、ピュシス(自然)とアレーテイア(真理)、これら両極の引き合いや循環性のうちに成立するものなのである。
著者
武村 知子
出版者
一橋大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

1980年にバンド「アインシュテュルツェンデ・ノイバウテン」を結成し、現在、音楽・文芸・舞台・映画等様々な分野で活躍中のドイツのアーティスト、ブリクサ・バーゲルトの二十年にわたる活動の全容をあきらかにすること。日本ではかろうじて、ごく一部の「音楽」活動しか知られていない彼の多岐にわたる営為、ことに言語芸術的営為に焦点をあてて紹介することで、彼とそのバンドに対する従来の一般的評価に新しい視点をくわえ、彼の作品に新しい位置づけを与えること、いわば、「音楽」という狭い領域のなかから彼とその営為とを、人間の言語的営為一般のなかへ放り出し、広々した混迷の歴史のなかに位置づけようとしては失敗することによって、彼の営為に接近すること。そのようにしてしか接近しえないものとして彼の営為をとらえることによって、彼の作品、および、それらの作品が生まれるに至った現代文化のある深層にスポットを当てることが可能になるということを明らかにすること。15年にわたって蓄積した膨大な資料にもとづいて、上記のような意図に沿ってこころみた集大成は、したがって、研究成果の集大成というよりは、集大成することの失敗の集大成という様相を呈する。レコード、CDどころかインターネットで音楽を聞く、聞くことを反復するとはどういうことなのか?歌詞の翻訳とは何か、あるいは、音楽の記憶とは何か、そこで生じるメランコリーはなにゆえのものか。そうしたことを言語をもって考察し、その考察が文字として印刷される、あるいはされないとはどういうことなのか、音楽と言語とがこもごもにめざすユートピアは、書字文化からデータ文化への移行期にあって、その非在の様相をどのように変えるのか、「研究成果」としての「書物」は、その変化のなかでどのような立ち位置を見出すことができるのか?そうした複合的な問いに対するひとつの解答のこころみ、あるいはその確信的失敗の例証として、この研究報告書としての「書物」は成立するだろう。
著者
渡辺 孝男
出版者
東北大学
雑誌
環境科学特別研究
巻号頁・発行日
1985

仙台市では冬季(12月-3月)にスパイクタイヤの使用によって道路粉塵が多量に発生し、ことに都心部での汚染が著明で、環境問題となっている。本研究は仙台市内および対照地区である田尻町下より得たハトの肺、高度道路粉塵汚染空気中で飼育したラットの肺を対象にSi.Al.Ti.Pb.Ca等道路粉塵関連の最素を中心に、環境粉塵濃度と吸入量との対応、生体反応を観察し、長期人体影響の予測を試みた。1)土鳩による道路粉塵曝露調査;1984年3月と1985年2月に捕獲した曝露群と対照群の合計120羽の土鳩の肺の元素分析の結果、曝露群に有意に高値を示すのは、Al,Pb,Ti,Caの4元素であり(P<0.01)、また 遊離珪酸と相関するSi濃度も同様に高い傾向を認めた(P=0.06)。曝露群の肺中の各元素濃度の相互関係では、Si,Ti,Alの3元素間と、Ti,Al,Fe,Cdの4元素間では、相互に有意な相関関係を認めた。以上の所見は、道路粉塵曝露による、Si,Al,Ti,Ca,Pb等の肺内への侵入・蓄積を示す。また、道路粉塵の長期慢性曝露の生体影響の観察に、土鳩による生体学的モニタリングの有用性が明らかとなった。2)動物曝露実験による道路粉塵の生体影響; ラットを用いて、冬季間(12月-3月)の道路粉塵曝露の結果、曝露群ラットの肺中元素濃度が対照群より高値を示したのは、Al,Siの2元素であった。なお、ラットの肺中元素濃度は土鳩のそれに比してかなり低レベルであった。道路粉塵曝露による生体影響では、曝露群で若令期の体重増加の抑制傾向を認めた。しかし、加令とともにその差は小さくなり、曝露中止後はその抑制傾向を回復し、曝露群と対照群、非曝露群との間で差を認めない。臓器重量および一般血液、血清生化学性状では、3群間に特定の有意な変動を認めない。なおラットの道路粉塵曝露実験は、1年1期間の短期間であり、道路粉塵の生体への慢性影響の観察には、さらに長期の継続的道路粉塵曝露実験が必要かつ重要である。
著者
松宮 義晴
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

最適な効果的な種苗放流効果法を検討し計画するために,一般的には放流実験が推進されてきた。正攻法の進め方であるが実験計画のむずかしさや,同一条件で実験できないため要因選択の困難さが伴う。最近では視点を変えたやり方として,シミユレーション法も適用されつつある。種苗放流は少ない情報や不正確なデータのもとで,より多くの収益(少ない損失)を得るように最適な行動(放流計画)を決定しなければならない。ここでは,不確実な対象(目的,目標)に情報を入れ,これを推定しながら,次の行動を決定するという考え方を明示する(条件付確率を基としたベイズ決定方式という)。情報と意思との調和のもとで,放流という意思決定がなされ,決定のタイムリミットや情報を得る調査の費用との関連も数量的に表示できる。具体的な例として,長崎県平戸島の志々伎湾のマダイと遊漁の価値も高い淡水魚のアユをとり挙げる。放流計画は種苗の数・大きさ,放流時期・場所などの検討課題があるが,ここでは環境収容力が存在するとの前提下で,天然魚の資源量と放流種苗の数(数量的対応問題)のみ検討対象とした。事前情報は前年秋〜初春の産卵親量,産卵数,流下仔魚,追加情報I(データ,過去の知見)は春の稚魚数や遡上期の数,追加情報IIは初夏の着底期や解禁日前の生息数とした。天然魚資源量の状態と放流種苗数という行動の関数である効用関数(効用とは金額の望ましさの程度を示す値,損失関数を使うこともある)の作成,最適放流計画に関した事前情報の効果(価値,影響),追加情報の価値,追加情報IからIIへの情報更新などについて具体例と対応しながら精査した。
著者
芳賀 満 岡田 文男 内田 俊秀 エドヴァルド ルトヴェラゼ ジャンガル イリヤソフ
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

地中海文明、イラン文明、インド文明と中国文明が出会う中央アジアにおいて、特にアレクサンドロス大王遠征の実証的研究を目的として、バクトリア地方のアム河河畔のギリシア・クシャン系の都市カンピール・テパを発掘し、その遺構や遺物から前4世紀から後2世紀までの同都市の変遷を解明した。ギリシアの神々ディオニュソスとアリアドネが表されたテラコッタ製遺物からは、この地までディオニュソス教が伝播しその信者が存在したこと、図像からはギリシア文明とインド文明が融合していることを明らかにした。
著者
信原 幸弘
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

心は環境に対する主体の適応を促進するための装置であるという目的論的機能主義の立場から、心の自然化を試みた。とくに志向性と意識の自然化をめぐる諸問題の解決を目指した。その結果、以下のような成果が得られた。1.信念や欲求のような命題的態度とよばれる心的状態は構文論的構造をもち、論理的な推論に従う点に特色がある。しかし、コネクショニズムによれば、脳状態はそのような構文論的構造をもたず、力学的なパターン変換に従う。このことから、命題的態度は個別に脳状態に対応せず、たかだか全体論的に対応するにすぎないことが言える。ただし、意識的な命題的態度に関しては、発話ないし脳の運動中枢の興奮パターンとして個別的に実現されていると考えられる。2.命題的態度は合理性に従うことをその本質とする。そして合理性は一群の規則として体系化できないという意味で非法則的である。従って、命題的態度の目的論的機能は非法則的な合理的機能ということになる。このことから、行為の理由となる信念と欲求は必ずしもその行為の原因とは言えないという、行為の反因果説を支持する論拠が得られる。しかし、このような反因果説につながる非法則的な合理的機能はコネクショニズム的なメカニズムによって実現可能であり、けっして自然化不可能な機能ではない。3.知覚や感覚のような意識的な心的状態はそれに特有の感覚的な質を備えているが、この感覚質は意識的な心的状態の内在的な性質ではなく、その志向的内容に属する性質であると考えられる。このことから、痛みの経験のようなふつう非志向的と解される心的状態も実は志向的であり、痛いという性質は身体の客観的な性質であると考え直す必要が出てくるが、そのような再解釈は十分可能である。
著者
相澤 直樹
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

ラット膀胱における伸展受容一次求心性神経活動測定を行った。検討の結果、TRPV1とTRPV4はそれぞれ別の経路を介して膀胱伸展受容求心性神経活動を促進することを明らかにした。さらには、化学的膀胱炎を誘発する物質でありTRPA1受容体刺激薬にも分類されるacrolein(cyclophosphamideの主要代謝物)の膀胱内注入では、Aδ線維とC線維の両方の神経活動が促進され、内因性NO産生を増加させるNO基質であるL-arginineおよびPDE5阻害薬のtadalafilの投与によって、それらが抑制しうることを明らかにした。また近年、膀胱の微小収縮(microcontraction)が膀胱求心性神経活動の促進に関与することが示唆されている。この微小収縮による求心性神経活動の促進機構が、過活動膀胱の主症状である尿意切迫感発現の背景にある病態メカニズムの一つとする興味深い仮説がある。我々が行った検討の結果、新規過活動膀胱治療薬であるアドレナリンβ3受容体作動薬ミラベグロンが、ラットにおいて、膀胱微小収縮を抑制し、同時に伸展受容求心性神経活動のうち主にAδ線維を抑制し得ることを明らかにした。このことは、β3作動薬が過活動膀胱症状を改善する作用機序として、この微小収縮による求心性神経活動の促進機構に対する抑制作用が関与することを示唆するものと考えている。さらに、膀胱の微小収縮ではなく、脊髄反射を介した膀胱収縮(等容量性律動性膀胱収縮)とそれに同期する求心性神経活動の測定法を確立した。その結果、ラット膀胱の伸展受容求心性神経のうち、AδとC線維の両者が、"伸展"のみではなく"収縮"にも応答することが示された。
著者
奥本 素子
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究は、東日本大震災の被災資料を展示し、その展示物に対する来館者の語りを収集したデータをテキストマイニングで分析し、資料に対する来館者の集りの傾向を明らかにした。その結果、被災資料に対して来館者は単に道具名や形式的な知識を語ることはなく、主語を伴った具体的な経験を語ることが多かった。展示物の解釈は一人称的語りによって展開されることが明らかになったという結果より、今後の鑑賞支援の在り方として知識の提供だけでなく体験に繋がる文脈の提供の重要性が示された。
著者
SLEVIN K.M
出版者
大阪大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

シンプレクティックな対称性をもった2次元系のアンダーソン転移の臨界指数を、いわゆるSU(2)モデルのシミュレーションにより正確に決定した。今まで数多くのシミュレーションが行われてきた安藤モデルと比べて、このSU(2)モデルではスケーリングの補正が特に小さい。この特徴によりスケーリング補正を無視することが可能となり、従来に比べて非常に正確な臨界指数の決定が可能となった。本研究はPhysical Review Letters誌の2002年12月号に載された。MacKinnon-Kramer法による局在長の計算を改良し、並列計算機を効率的に利用できるようにした。東京大学物性研究所の並列計算機を利用することにより、3次元系SU(2)モデルの臨界指数の決定を現在進めている。磁性不純物を含んだランダム系におけるdephasingの問題を研究するプログラムを、このプロジェクトの初年度に開発した。しかしながら期待したよりもはるかし小さいdephasingの効果しか得られなかった。この理由は今後の研究課題である。
著者
岩竹 淳 図子 浩二 北田 耕司
出版者
石川工業高等専門学校
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究は,疾走能力とジャンプパフォーマンスとの関係について明らかにしようとし,特に立五段跳の0-3歩(プレス型ジャンプ力)および3-5歩(スイング型ジャンプ力)について着目した.実験の結果,疾走能力上位者は,プレス型およびスイング型ジャンプ力がともに高いことが示された.プレス型ジャンプ力は,垂直跳や立幅跳のパフォーマンスと強い関連を示した.スイング型ジャンプ力は,ドロップジャンプのパフォーマンスとより高い関連を示した.したがって,立五段跳パフォーマンスを高めるには,長い時間と短い時間で脚が発揮する力を向上させることが必要になる.本研究の知見は,疾走能力の改善に有益なものと考えられる.
著者
天野 伸治郎
出版者
北海道大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

海洋環境汚染物質として有機スズに着目した。有機スズ(TBT)は船底の生物の付着を防ぎ船舶の燃費改善を目的に船底塗料として近年使用されてきた。しかし環境ホルモン様作用があることが明らかになって現在日本では使用が禁止されている。しかし近隣諸国ではいまだに使用されているため日本近海の汚染は依然として深刻である。健全な海域環境を維持することは海洋に囲まれた日本においては非常に重要な事項である。そこで生物の遺伝子発現プロファイルを確認することで海洋の有機スズ汚染をモニタリングすることを模索した。海産動物ホヤ類は脊策動物に分類され、無脊椎動物から脊椎動物への進化の過程上に存在する生物と考えられている。それゆえホヤの研究を通して脊椎動物における原始的かつ共通な生物学的システムの存在を明らかにできると予想される。また定着生物であることから遺伝子プロファイルにその海域の汚染状況を反映することが期待できる。現在、海産生物で大規模なマイクロアレイが開発されているのはカタユウレイボヤのみであることからカタユウレイボヤを用いた海洋汚染検出システムの構築を試みた。前年度までにTBT被曝により特異的に発現が亢進すると思われる遺伝子14個と抑制される遺伝子28個を確認した。それらの遺伝子がTBTの濃度及び被曝時間に関連してどのような発現変動が見られるかをRT-PCR法を用いて確認した。またそれらの遺伝子の組織特異性をWhole Mount in situ Hybridaization法を用いて確認した。さらに海水中の有機スズ濃度が高い韓国沿岸のホヤと日本沿岸のホヤの体内に残留する有機スズ濃度を比較してみたところ韓国産のホヤで明らかに高く、またそれに相関して発現が亢進しているとみられる遺伝子1個と抑制されている遺伝子1個を確認した。結果、これらの遺伝子を使用しての海洋の有機スズ汚染の検出の可能性が示唆された。
著者
水谷 仁 藤村 彰夫
出版者
宇宙科学研究所
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

当初の研究計画に従い、惑星チャネル地形の形態に関する数理モデル、解析法について研究を進め、最後に火星のチャネル地形と地球の河川についての比較研究を行い、火星チャネルを形成した流体の特性についての制約条件を求めることを行った。特に本研究では当初の予定通り、チャネルの蛇行に注目し、蛇行を引き起こす水理学学的モデルを再検討し、惑星チャネル一般の問題として定式化した。この結果蛇行の波長、1とチャネルの幅、W(河幅)あるいは深さとは1=aWの関係にあることが判明した。この一次の関係式は実際に地球の河川で観測された事実と一致し、また本研究の結果、金星、火星のチャネル地形についても成り立っていることがわかった。これは惑星地形学としてはじめての発見であり、きわめて興味深い特徴であると思われる。また上式の比例係数、aは火星のチャネル地形と地球河川とはほぼ同じ値を取るのに対し、金星のチャネル地形では約10倍大きな値を取る。この事は火星チャネル地形が地球河川と同じように流水によって作られた事を示唆するものである。この比例係数は、aはチャネルを流れる流体のレイノルズ数、プラントル数の複雑な関数になっている。この関係式を使ってチャネル地形を作った流体の特性を原理的には明らかに出来ると思われるが、まだ本研究ではその段階にまで達しなかった。