著者
鈴木 光也
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.43-50, 2011-01-20

Ⅰ.はじめに 迷路瘻孔は外傷性,炎症性,先天性などさまざまな原因により,中耳側や頭蓋底側に生じることが知られている。迷路瘻孔では,瘻孔部分が内耳において正円窓,卵円窓に次いで第三の窓として働くため,音刺激や圧刺激などの外的刺激を受けることによって外リンパを介して内リンパ還流が生じる。その内リンパ還流によって多くは半規管や前庭が刺激されて眼振やめまいが誘発される。これらの徴候はそれぞれ瘻孔症状およびTullio現象と呼ばれている。迷路瘻孔は,外側半規管隆起が圧倒的に多く,上半規管,後半規管または蝸牛外側壁など他の部位に生じることは稀である1,2)。そのため瘻孔症状およびTullio現象でみられる眼振はほとんどが水平性眼振である。上半規管裂隙症候群(superior canal dehiscence syndrome)とは,上半規管を被っている中頭蓋窩天蓋や上錐体洞近傍の上半規管周囲の骨に欠損が生じることによって瘻孔症状およびTullio現象を生じる新しい疾患単位であり,誘発される眼振の向きは垂直・回旋であることが特徴的である。
著者
横田 美幸 平島 潤子 大里 彰二郎 見市 光寿 風戸 拓也
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.39, no.5, pp.573-585, 2019-09-15 (Released:2019-10-29)
参考文献数
8

麻酔科の診療報酬の変遷を俯瞰し,麻酔科医の立ち位置を考察した.麻酔科医は,その活躍や国民からの期待に沿って評価されている.麻酔料の基本,全身麻酔料(L008)の1986年を1として,2002年では1.74と大きく増加している.最近の麻酔科への逆風は,一部の麻酔科医師の不適切な行動にあるのかもしれない.この逆風の結果,麻酔料の基本部分は1.74から1.71に下げられ,それは他の部分に配分された.麻酔科の領域は広く,麻酔科医の責任は重い.この期待に応えるためには,安全性を確保した上での効率化,すなわち麻酔科医の行うべき範囲と他に任せることを明確にすることであり,そのことが調和のとれたチーム医療へと帰結していく.それを成し得たチームが,今後の変革に対応することができるであろう.
著者
二瓶 泰雄 片岡 智哉
出版者
一般社団法人 廃棄物資源循環学会
雑誌
廃棄物資源循環学会誌 (ISSN:18835864)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.309-316, 2018-07-31 (Released:2019-07-31)
参考文献数
18
被引用文献数
1

本報では,海洋プラスチックごみやマイクロプラスチックの発生源と考えられる陸域・河川ごみの動態を示すために,多くの現地調査事例に基づいて,河川におけるごみ (川ごみ) の輸送状況やごみ組成を示すとともに,日本の河川におけるマイクロプラスチック汚染状況の実態を取りまとめた。その結果,川ごみは出水時に大量に輸送され,川ごみ全体の 6 %がプラスチック等の人工系ごみであった。マイクロプラスチックに関しては,全 23 河川で発見されたこと,流域の市街化が進んでいる河川のほうがマイクロプラスチック汚染が進んでいることも示された。さらに,海洋プラスチックごみおよびマイクロプラスチック対策としての河川におけるごみ捕捉技術の可能性について言及した。
著者
中根 若恵
出版者
日本映像学会
雑誌
映像学 (ISSN:02860279)
巻号頁・発行日
vol.97, pp.5-23, 2017

<p>【要旨】<br>1990年代以降、映画制作者が、自身やその身辺の事柄を主題にするセルフドキュメンタリーの領域に、多くの女性制作者が参入するようになった。これは制作的な側面が男性によって担われることが多かった映画界に大きな変化をもたらした。本稿は、そうした女性のセルフドキュメンタリーの事例として、河瀨直美(1969年-)の作品群に注目し、その特徴と社会的意義を明らかにする。まず第一に、河瀨の作品群にはフィクションとドキュメンタリーの境界を曖昧化するようにして、自らの私生活に焦点を当てるパフォーマティヴな自己表象が一貫した特徴として見られることを指摘する。その上で第二に、そうした自己表象が物質的な身体の提示とも結び付けられながら、慣例的な家族の枠組みを超えた「親密圏」とも呼べる他者との親密な関係の構築過程が示されていることを論じる。最後にこれら2点について、出産をテーマにした2作のドキュメンタリー映画、『垂乳女 Tarachime』(2006年)と『玄牝-げんぴん-』(2010年)を事例に取り上げ、詳細に検討する。こうした考察を通して、河瀨のドキュメンタリー作品群は、一般に女性と結び付けられている行為を敢えてパフォーマティヴに見せながら具体的かつ個別的な他者とのつながりを生み出すことの重要性を見せており、それは、身体というもっとも具体的な自己を起点とした新しい形の親密圏から公共圏へのつながりを見せる点で、自己決定によるオルタナティヴな共同体のあり方を示していると結論づける。</p>
著者
高橋 翠 遠藤 利彦
出版者
日本認知心理学会
雑誌
認知心理学研究 (ISSN:13487264)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.165-173, 2013-02-28 (Released:2013-04-05)
参考文献数
25

顔の魅力に対する進化心理学的アプローチは,異性の容貌において繁殖に寄与する資質の手がかりがヒトに普遍的な魅力規定因であると仮定する.しかし,男性顔において「男らしさ」が知覚される容貌は優れた資質のシグナルであるが,女性は必ずしも魅力を知覚しない.本研究では,「男らしい」容貌から知覚される脅威性もまた,そうした容貌に対する魅力評価を抑制している可能性に着目した.男性顔(無表情・直視)に対する印象評価の多変量解析的検討(研究1),および表情(無表情・笑顔)と視線(直視・逸視)の異なる条件下での魅力評定(研究2)を通じて,評定者の性にかかわらず,脅威性(および脅威表情)の知覚が「男らしい」容貌に対する魅力評価を抑制している可能性が示唆された.ただし研究2では,男女で異なる結果として,女性評定者のみで脅威性が相対的に知覚されにくい場合に「男らしさ」の優れた資質のシグナルとしての側面が魅力として知覚されるようになる可能性も示唆された.
出版者
巻号頁・発行日
vol.[100],
著者
福田 智子 Tomoko Fukuda
出版者
同志社大学人文科学研究所
雑誌
社会科学 = The Social Science(The Social Sciences) (ISSN:04196759)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.1-21, 2021-11-30

『源氏物語色紙画帖』(請求記号:721.2/G9216、資料番号:166700140)の名称で、同志社大学文化情報学部に所蔵されている本書は、『源氏物語』の本文と画が、一帖につき一枚ずつで計十二帖分、二十四枚収められている。取り上げられている帖は、桐壺・若紫・紅葉賀・花宴・明石・蓬生・絵合・初音・若菜下・夕霧・橋姫・早蕨であり、『源氏物語』の帖の順序に沿っている。本稿は、これらの帖の本文と画について、他の『源氏物語』伝本および源氏絵と比較検討しながら、本書を紹介、考察するものである。資料(Material)近世から近代に至る日本伝統文化の分野横断的研究とデータサイエンス教材への活用
著者
佐原 寿史 関島 光裕 山田 和彦
出版者
一般社団法人 日本移植学会
雑誌
移植 (ISSN:05787947)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.016-023, 2015-03-10 (Released:2015-03-31)
参考文献数
49

Although improvements in operative techniques and immunosuppressions have paved the way for increases in the organ donor pool through living donor kidney donations, a vast disparity remains between the number of organs available for transplantation and the demand. Indeed, though progress has been made in the fields of regenerative medicine and stem cell technologies, neither de novo nor regenerated tissues are currently capable of sustaining life in animal models. Xenotransplantation would provide an inexhaustible supply of donor organs. Although there have been reports of severe immunologic response between swine and humans, much progress has been made in the past decade largely because of advances in our understanding of the xenoimmunobiology of pig-to-nonhuman primate transplantation as well as the availability of pigs that have undergone genetic modifications, including the alpha 1,3-galactosyltransferase gene knockout (GalT-KO) swine. The results of preclinical transplantation studies with pig organs or cells have been encouraging when co-stimulatory blockade or more-advanced tolerance-inducing treatment strategies were used. In these studies, the survival times for heterotopic heart grafts were more than a year, for life-supporting kidneys it was approximately three months, and for islets, six months. In this review, we summarize recent progress in the field and discuss strategies for successful clinical trials of xenotransplantation.