著者
廣田 有里 清野 隆 大内 田鶴子
雑誌
江戸川大学紀要 = Bulletin of Edogawa University
巻号頁・発行日
vol.30, 2020-03-15

地縁型コミュニティの重要性が高まっている現在,希薄になったつながりを取り戻す試みが注目されている。そこで本研究では近隣住民ネットワークを構築する方法に注目し,オレゴン州ポートランド市のシティリペアプロジェクトの取り組みについて報告する。シティリペアプロジェクトは,創造的活動を通して人々が集まる場所を作り,つながりを取り戻す活動を行っている。シティリペアプロジェクトは,デザインされた空間自体は簡易的なものであったが,その建設や作成過程にコミュニティが主体的に携わる点に特徴がある。さらに,建設と政策の過程自体が,コミュニティ形成を強く促す効果があることが明らかになった。
著者
池田 浩貴
出版者
成城大学
雑誌
常民文化 = Jomin bunka (ISSN:03888908)
巻号頁・発行日
no.38, pp.206-181, 2015-03

Now it is becoming the accepted view that the Kamakura shogunate has gradually introduced Onmyodo from Kyoto since Minamoto no Yoritomo ruled as the first shogun, and utilized its divination and ritual methods for the shogunate government based on conventional research. When unusual natural phenomena such as natural disasters, celestial motion, strange behavior of animals, appearances of strange lights or cryptid birds and so on occurred, the Kamakura shogunate followed established procedures to prevent further disasters by holding Onmyodo ceremonies or making offerings to Tsurugaoka Hachimangu depending on the results of divination by Onmyoji about the meaning of the phenomena. Most previous research in this field has focused on Onmyoji or measures taken by shogunate government. In this paper, however, I investigated the abnormal natural phenomena called "kwai-i (strangeness)", which lead the shogunate government to take political procedures, based on Azuma Kagami as a main text. Especially I focused on two strange behaviors of animals, "Kicho-gunhi" (flight of yellow butterflies in groups) and "Sagi-kwai" (specter of herons). Kicho-gunhi occurred mainly at Tsurugaoka Hachimangu and were recorded before or after three wars including the Battle of Oshu (between the Kamakura shogunate and Oshu Fujiwara), Battle of Wada (rebellion of Wada Yoshimori) and Battle of Hoji (rebellion of Miura Yasumura). The articles of Azuma Kagami about Kicho-gunhi seem to include some falsifications. It is doubtful whether all of the Kicho-gunhi cases actually occurred, but even so it is certain that the phenomenon reminded people of occurrence of battles and was regarded as foreboding of battles in the Kamakura period. Sagi-kwai occurred at Shogun Gosho (shogun palace). It was regarded as bad omen and foreboding of Battle of Wada and the famine in the Kanki era. Unlike other kinds of kwai-i, the shogunate government shot herons as a countermeasure against Sagi-kwai without depending on the divination by a Onmyoji.
著者
亀田 豊 山下 洋正 尾崎 正明
出版者
公益社団法人 日本水環境学会
雑誌
水環境学会誌 (ISSN:09168958)
巻号頁・発行日
vol.31, no.7, pp.367-374, 2008 (Released:2010-01-09)
参考文献数
27

The occurrence of sixteen synthetic fragrance materials and nine organic UV filters was investigated in influent, effluent, and excess sludge in 47 sewage treatment plants (STPs) in Japan. Their loads into the STPs and into an aquatic environment via STPs were estimated according to their influent and effluent concentrations. Highest loads in influent into the STPs and effluent into the aquatic environment were 1.79 mg · day-1 · inch-1 for homosalate and 0.31 mg · day-1 · inch-1 for ethylhexyl methoxy cinnamate (EHMC), respectively. Removal ratios of the fragrance materials and organic UV filters in the STPs were also calculated. The removal ratios varied markedly among compounds. The minimums of the removal ratios were higher than 90 % for benzyl acetate, methyl dihydrojasmonate, octyl salicylate, homosalate, benzyl salicylate, isoamyl-p-methoxycinnamate, and octocrylene, moreover, the lowest removal ratio was approximately 50 % for EHMC. The removal ratios due to adsorption onto the sludge to the total removal ratio were evaluated from the concentrations of compounds in the return sludge. The highest ratio of the removal due to adsorption onto the sludge to the total removal ratio was 40 % for 1,3,4,6,7,8-hexahydro-4,6,6,7,8,8-hexamethyl-cyclo-penta-[g]-2-benzo-pyrane and 7-acetyl-1,1,3,4,4,6-hexamethyl tetrahydro-naphthalene. Many of the organic UV filters measured were evaluated to be less removed by adsorption because of the markedly higher adsorption to the influent sludge than to the return sludge. Further research on their adsorption and biodegradation in the STPs is required.
著者
小鹿 勝利 上野 亮介
出版者
森林計画学会
雑誌
森林計画学会誌 (ISSN:09172017)
巻号頁・発行日
no.33, pp.11-18, 1999-09-30

分収育林事業開始後20年が経過し,国有林で24,642ha,民有林で9,916haが設定され,約12万人が約600億円の育林費用を出資した。しかし適地の減少や応募者の減少などから設定面積は漸減傾向にあり,民有林では費用負担者を募集しない相対契約の比重が高まり,国民参加を前提にした事業の性格も変化しつつある。契約満期を迎えた事例では分収金は出資額の半額で,林地所有者は持分を放棄して出資者に分配した。これは木材価格の大幅な低下や伐出経費の増大に加えて,契約時の立木評価や収穫予想の過大評価も原因している。分収育林面積は全人工林面積の0.3%であり,出資金の使途も限定されない。近年の林業生産活動の動向から見る限り,この制度が森林経営の安定化や森林整備の促進に果たした役割は必ずしも大きいとは言えない。今後契約満了を迎える事業が増加していくが,出資金の元本割れへ対応,大面積の契約地での伐採問題,国民参加の実質的な実現などの諸課題があり,分収育林は大きな転機を迎えつつある。
著者
山本 裕 樋口 広芳
出版者
Yamashina Institute for Ornitology
雑誌
山階鳥類学雑誌 (ISSN:13485032)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.144-148, 2004-03-20 (Released:2008-11-10)
参考文献数
4
被引用文献数
2 3

ヤマガラParus variusの1亜種オーストンヤマガラParus varius owstoniの分布域である伊豆諸島南部の三宅島(34°05'N,139°32'E)で,亜種ヤマガラP.v.variusと思われる2個体が1996/1997年の秋冬期に観察された。これら2個体は,羽色や計測値から,亜種ヤマガラP.v.variusと判断された。これら2羽は,三宅島南部のスダジイCastanopsis cuspidata var. Sieboldiiが優占する常緑広葉樹林で,1997年4月まで継続して観察されたが,その後,姿を消した。亜種オーストンヤマガラの分布域での亜種ヤマガラの確認は,本報告が初めてである。
著者
早川 宗志 下野 嘉子 赤坂 舞子 黒川 俊二 西田 智子 池田 浩明 若松 徹
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.124-131, 2014

国内生物の地域区分に関して,これまでにいくつかの植生地域区分等が示されている(環境省・国土交通省 2008)。例えば,日本植物区系(前川 1974),林業種苗法種苗配布区域(http://www.maff.go.jp/j/kokuji_tuti/kokuji/pdf/k0000559.pdf),生物多様性保全のための国土区分(環境庁 1997; 環境省 2001),植生帯エリア(国土技術政策総合研究所 2002)がある。このような植生,地質,地史,気候などに基づく地域区分の他に,管理単位(Management Unit; MU)や進化的重要単位(Evolutionary Significant Unit; ESU)といった系譜関係に基づいた地域区分の提唱がなされている(Moritz 1994)。管理単位とは,集団が他集団と移住による交流をほとんどもたず他と遺伝的に明瞭に識別可能であるもの,進化的重要単位とは,オルガネラDNAにおいて単系統であり,核DNAの対立遺伝子頻度も著しく異なるグループ(Moritz 1994)として提言され,進化の歴史において同種の別集団から長期の隔離状態にあるものをいう(Avise 2000)。遺伝子系列の分布パターンは過去の分散や移入の歴史を反映しているため,現在の地理的分布がどのような歴史的過程により生じたのかを系統関係から解明することが可能である(三中 1997; Avise 2000)。日本在来植物を用いた解析では,木本植物(Tomaruら 1997; Fujiら 2002; Ohiら 2002; Okaura・Harada 2002; Aokiら 2004; Sugaharaら 2011),高山植物(Fujiiら 1997,1999; Fujii・Senni 2006; 藤井 2008),琉球列島に分布する植物(Kyoda・Setoguchi 2010; 瀬戸口 2012)などにおける先行研究がある。このような植物の種内系統の分析結果をもとに,小林・倉本(2006)は進化的重要単位(ESU)の考え方に基づいて日本国内における在来木本植物を18区域へ試作的に区分し,その移動許容範囲として100-200kmを推奨している。さらに,10種の広葉樹に関して種苗の移動に関する遺伝的ガイドラインも示されている(森林総合研究所 2011)。それに対して,広域分布する草本性パイオニア植物の研究事例はイタドリ(Inamuraら 2000,稲村 2001)やヨモギ(Shimonoら 2013a)などの報告があるのみで少ないのが現状である。そのため,木本植物とは生態的特性が大きく異なるススキなどの草本性パイオニア植物における移動許容範囲は未提示であり,系統地理学的研究が必要である。日本全国に分布するススキは,開花時期に関して北方系統が早く,南方系統が遅いという緯度に沿った勾配があるため,生態的に異なる地域系統が存在することが指摘されている(山田 2009)。その一方,日本産ススキの生育地を網羅するような遺伝的解析による系統識別は,著者らが研究を始めた2008年の段階では行われていなかった。そこで,ススキの産業利用時に問題となりうる導入系統と在来地域系統間の遺伝的かく乱リスクを回避するための移動許容範囲の策定を目的として,著者らはススキの日本国内における系統地理学的研究を行ってきた。これまでに得られた著者らの結果を中心に,本論文では広域分布の草本植物ススキがどのような地理的遺伝構造を持つのか,ならびに地域を超えて導入する場合の問題点と地域系統の保全について考察していきたい。
著者
招 筱媛
出版者
大阪市立大学社会学研究会
雑誌
市大社会学 (ISSN:24329045)
巻号頁・発行日
no.15, pp.76-81, 2018-03-31

情報技術の発達とともに, われわれを取り巻くメディア環境はかつてない大きな変化が起こっている. 街頭から電車の中までスクリーンが遍在するようになり, スマートフォン, タブレットの普及によって, もはや我々はラジオ, テレビの前に座らなくなり, 掌の上でいつでもどこでも情報が手に入るようになった. こうした状況のなかで, 「オーディエンス」という概念自体が曖昧になっている. 評者は, 新たなメディア形式の1つである弾幕動画1)のオーディエンスに興味を抱き, その研究を進めている. 弾幕動画と現実空間のメディア・イベント, 弾幕動画のオーディエンスとメディア・イベントの参加者, ネット社会のコミュニケーションと現実社会のコミュニケーション, そのような関係を対比的に考えながら, 本書を読んだ. 本書はメディア研究の社会学理論を踏まえた上で, この数年間に流行した, あるいは今も流行するメディア・イベントの具体例を通して議論を展開している. テーマは音楽フェスからジン(zine)まで様々あるが, すべては「日常生活の時間の流れから相対的に切断された次元に成立するイベント」であり, 「参加者のあいだに連帯の感情が共有されているかのような, 一時的で, 仮説的な体験」である. 挙げられた事例は比較的新しく, 学術的書類がほとんどないため, 本書は社会学の理論で現代の事象を解読する斬新な視点を提示する貴重な一冊になるだろう. ……
著者
松浦 優
出版者
国際基督教大学ジェンダー研究センター
雑誌
Gender and Sexuality (ISSN:18804764)
巻号頁・発行日
no.15, pp.115-137, 2020-03-31

Judith Butler's theory of melancholy gender echoes some findings inasexuality studies; however, it does not consider asexual agency. Thus, thisarticle aims to review Butler's literature from the standpoint of asexualitystudies. I argue that Freudian theory denies the possibility of asexualitybecause of its hypothesis of primary narcissism. Similar to melancholia,primary narcissism has the "trace" of the object. However, Butler overlooksthe significant difference between melancholia and primary narcissism. Unlikemelancholia, primary narcissism is not marked by the experience of selfberatement;thus, it does not contain any affects that can be converted topolitical expression. In the system of compulsory sexuality, asexuality can besituated in a similar position. Based on the above points, I refer to theprohibition of homosexuality in melancholia as "foreclosure" and the denialof asexuality in primary narcissism as "erasure." In this way, Butler'sframework is extended in order to theorize the possibility of resistance inasexuality.
著者
堺市秘書課 編
出版者
堺市
巻号頁・発行日
1939
著者
山口 菜穂子
出版者
お茶の水女子大学21世紀COEプログラムジェンダー研究のフロンティア
雑誌
F-GENSジャーナル
巻号頁・発行日
no.8, pp.47-57, 2007-07

ビリー・ワイルダー監督の『サンセット大通り』(1950年)は、ハリウッド映画製作の歴史を批判的に描いたフィルム・ノワール作品である。20 世紀前半、ハリウッドは「フォーディズム」(効率的な大量生産様式)に基づいた「スタジオ・システム」を発明し、米国における文化表象を覇権的に生産し始めた。この文化生産装置が完成するにつれて、ハリウッド映画は固定化されたジェンダー・イメージを産出し、またそれに裏打ちされた規範的異性愛の欲望を〈正しい〉ものとしてコード化し、表象するに至った。『サンセット大通り』はフィルム・ノワールという批判的形式を用いつつ、第二次大戦後のハリウッド産業の内側で、撹乱的な欲望/ジェンダー表象の生産を企てる映画人たちの姿を描き出している。本稿は、この作品をクイア批評および文化史的観点から分析し、50 年代のハリウッドにおいて〈表象不可能〉な欲望を表出しようと試みた物語として解読する。
著者
星野 一朗
出版者
The Japanese Society of Gastroenterology
雑誌
實驗消化器病學 (ISSN:21851166)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.23-36, 1940

家兎ニ就テ、「フタル」酸、「アミド」、「ニトロ」、及ビ「メチル」安息香酸ヲ連續四十日ニ互リ注射セルニ、之等ガ本來示ス肝臟色素排泄機能亢進性ハ「ニトロ」安息香酸ノ場合稍々著明ニ衰へ、「フタル酸」ニテハ僅ニ不良トナルモ、「アミド」安息香酸及ビ「トルイル」酸ニテハ從前同様ノ促進度ヲ示セリ。組織學的ニハ「ニトロ」安息香酸ノ場合肝臟ニ「ズダン」III染色性物質ノ増多ヲ認ムルノミニンテ、他ノ藥物ニテハ著變ナシ。之等藥物ノ使用ヲ重ヌルニ從ヒ、「アミド」安息香酸及ビ「二トロ」安息香酸ニテハ最初血糖値稍々亢マル時期アレドモ後ニハ影響ナシ。又負荷糖處理能ハ「フタル」酸ニテハ一時不良トナルモ後ニハ恢復シ、「アミド」安息香酸ニ於テハ漸次不良トナリ、「ニトロ」安息香酸ニテハ之ニ反シ次第ニ促進ヲ示ス。「トルイル」酸ニテハ變化ヲ認メズ。
著者
山本 雅史 福田 麻由子 古賀 孝徳 久保 達也 冨永 茂人
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.7-12, 2010 (Released:2010-01-26)
参考文献数
28
被引用文献数
8 9

奄美大島の東側に位置する喜界島特産の在来カンキツであるケラジミカン(C. keraji hort. ex Tanaka)の来歴について検討した.Inter Simple Sequence Repeat(ISSR)分析において,多型が認められたバンドを用いて共有バンド率を算出した.ケラジミカンはクネンボ(C. nobilis Lour.)と最も共有バンド率が高く(0.823),次いでキカイミカン(C. keraji hort. ex Tanaka)との共有バンド率が高かった(0.688).ケラジミカンに認められた16本のバンドはすべてキカイミカンまたはクネンボにも出現した.この3者間でケラジミカンのみに出現する独自のバンドは無かった.この結果から,ケラジミカンがクネンボとキカイミカンとの交雑種である可能性は否定できなかった.葉緑体DNA分析においてはケラジミカン,クネンボおよびキカイミカンは常に同一のバンドパターンを示し,識別できなかった.いずれも自家不和合性であるケラジミカン,キカイミカンおよびクネンボ間の交雑では,ケラジミカンとキカイミカンの正逆交雑において不和合関係が認められ,両者の不和合性に関する遺伝子型が一致することが確認できた.この両者はクネンボとは交雑和合性であった.クネンボとキカイミカンがケラジミカンの親であると仮定した場合,キカイミカンが花粉親の場合に,ケラジミカンはキカイミカンと不和合性になる.以上から,ケラジミカンはクネンボを種子親,キカイミカンを花粉親として発生した可能性があることがわかった.