著者
春木 伸裕 佐藤 篤司 杉浦 正彦 呉原 裕樹 辻 秀樹
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.487-490, 2010-03-31 (Released:2010-05-11)
参考文献数
15
被引用文献数
4

症例は1型糖尿病で通院中の55歳女性で,インスリン注射を3日前から自己中断し意識障害を呈し入院となった。血液検査にて糖尿病性ケトアシドーシスと診断し治療を開始した。翌日38℃の発熱と腹部膨満を訴えたため,緊急CTを施行した。腹水,門脈ガス,広範な腸管気腫を認め,腸管壊死による急性腹膜炎と診断し緊急手術を施行した。開腹すると,回腸末端の約200cmの回腸が分節的に壊死しており,S状結腸も暗紫色を呈し虚血に陥っていた。上腸間膜動脈および下腸間膜動脈は本幹から末梢まで拍動を触知できたことから,非閉塞性腸管膜虚血症(nonocclusive mesenteric ischemia: 以下,NOMI)と診断し,壊死した腸管の切除と下行結腸に人工肛門を造設した。NOMIは主幹動脈に器質的閉塞がないにもかかわらず,腸管に虚血あるいは壊死を生じる予後不良の疾患で,自験例は著明な脱水と,高血糖による高浸透圧が増悪因子となり,NOMIを発症したものと考えられた。
著者
鈴木 譲 菊池 潔 末武 弘章
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2008

全ゲノムが解読された最初の食用魚であるトラフグを用いて,有用形質を支配する遺伝子の特定めざした.トラフグとクサフグなどの種間交雑を進めて解析することにより,体サイズ,脊椎骨数,鱗の有無,寄生虫耐性,警戒心の強さ,淡水適応能力に関する遺伝子の染色体上の位置が特定され,ゲノム情報に基づく優良個体選抜育種への道筋をつけることができた.また,性決定遺伝子の特定に成功し,雄の価値が高いこの魚における性制御技術の開発に成功した.
著者
森島 保 早原 悦朗 松井 信行 平山 弘三
出版者
Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子通信学会論文誌. C (ISSN:03736113)
巻号頁・発行日
vol.J65-C, no.4, pp.257-262, 1982-04-20

DC-DCコンバータやDC-ACインバータに広く用いられているロイヤー回路は,回路構造が簡単にもかかわらず回路解析が面倒なため,従来,スイッチング時間や電力損失の評価はほとんどなされていなかった.本論文は比較的低負荷時のロイヤー回路の動作解析を行ったものである.回路素子のモデルは磁心のB-H特性は平行四辺形の折線で近似し,トランジスタは電荷蓄積効果を考慮した Ebers-Mollのモデルを用いた.又,計算方法は状態推移法を使用した.計算機によるシミュレーションの結果は実用上十分な精度であることを実験によっても確めた.
出版者
日経BP社
雑誌
日経エレクトロニクス (ISSN:03851680)
巻号頁・発行日
no.998, pp.38-43, 2009-02-23

インタフェースにとって,規格争いは宿命だ。新しい規格が出ては消え,また生まれていく中で,強いものだけが生き残る。 厳しい生存競争で,ひときわ輝かしい戦歴を誇るのがUSBである。1996年の登場以来,数々のインタフェース規格に打ち勝ちながら勢力を拡大してきた(図1)。
著者
後藤 真孝
出版者
日本酪農科学会
雑誌
ミルクサイエンス (ISSN:13430289)
巻号頁・発行日
vol.61, no.3, pp.239-245, 2012

日本人には,牛乳やアイスクリームなどの乳製品を飲食すると腹痛・下痢などの腸内障害を起こす「乳糖不耐症」の人が多い。これは乳製品に含まれる乳糖から引き起こされ,予防・改善法の一つに酵素補充療法となるラクターゼ(乳糖分解酵素,β-ガラクトシダーゼ)の服用がある。本稿では乳糖を分解する酵素をラクターゼと呼ぶことにする。この経口服用用の酵素には,主にカビ由来のラクターゼが使用されている。しかしながら,日本において,ラクターゼは医薬品として規定(昭和46年6月1日付け薬発476号厚生省薬務局長通知「無承認無許可医薬品の指導取締りについて」の別紙「医薬品の範囲に関する基準」)されており,店頭販売されておらず一般健常人の入手は極めて難しい。日本人における乳糖不耐症の頻度は70~80%と言われながら,ラクターゼ製剤を入手できないことは乳製品の敬遠や低乳糖乳製品の飲食しかできない結果となり,美味しい食品をそのまま他の人と同じように味わえないことに繋がる。一方,米国ではダイエタリーサプリメントとしてラクターゼ製剤が店頭販売され,一般健常人が容易に入手できる。そこで本稿では,カビ由来ラクターゼに着目し,その利用について考察する。

2 0 0 0 OA 童解英語図会

著者
弄月亭陳人 抄撮
出版者
文永堂
巻号頁・発行日
vol.3帙, 1870
著者
福岡 安則 黒坂 愛衣
出版者
埼玉大学大学院人文社会科学研究科
雑誌
日本アジア研究 = Journal of Japanese & Asian studies : 埼玉大学大学院文化科学研究科博士後期課程紀要 (ISSN:13490028)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.49-65, 2020

山川エイさんは,1950 年12 月,福島県生まれの女性。私たちが彼女に初めて会ったのは,2005 年9 月6 日,東京高等裁判所813 号法廷で「父子関係死後認知請求訴訟」の控訴審の弁論が開かれたときであった。"山川エイ"というのは,この死後認知訴訟上の仮名である。傍聴に出かけたのは,ハンセン病退所者の川島光夫(仮名)の誘いに応じたものと記憶する。このとき,私(福岡)は拙著『在日韓国・朝鮮人』(中公新書)を彼女にプレゼントしている。その後,私たちは,ゼミの学生たちも伴って,12 月6 日の期日にも,2006 年1 月17 日の期日にも,傍聴に出かけた。2006 年2 月28 日の判決期日には,大学院の博論合否判定会議と重なったため不参加。控訴棄却の報を受けた。東京高裁でお会いした3 回のうちのどこかで,私たちは彼女に聞き取りを申し込んだ。返答は「先生に聞き取りされたら,弁護士さんにも内緒にしていることまで喋っちゃうから,私,嫌だ」というものであった。福岡としては,フィールドワーカーとしての力量を褒められたものと思って,全然腹が立たなかったのを記憶している。2016 年はじめに「ハンセン病家族集団訴訟」が提訴され,弁護団から山川エイも原告の一人となっていることを聞き,担当の赤沼康弘弁護士のご好意で,2018 年8 月3 日,立川市の赤沼法律事務所で2 時間半の聞き取りを実施できた。開口一番,彼女が言ったのは「〔以前,話を聞かせてほしいと言われて〕私が断った理由,すっごい印象があるのは,催眠術をかけて,ちっちゃいときの思い出をぜんぶ思い出させるっていうのが,頭から離れなくって。自分はちっちゃいときのことを〔せっかく〕忘れてるのに,なんで〔それを思い出させて〕言わせるんだ,と思って」というものであった。同席した赤沼弁護士も,彼女は「忘れたい,話したくない,という思いがものすごく強い」人だという。にもかかわらず,よく語ってくれたと思う。けっして雄弁に語るというわけではなく,質問に短い応答が返ってくるという語りであった。かつ,語りのトピックが繰り返し巡ってきたときに,前に語られたことの真意が掘り下げて語られるという語り口であった。彼女の語りのまとめにあたっては,できるだけ,そのような語り口をも再現したいと思う。読者は,多少もどかしさを感じるかもしれないが,語りのスタイルの再現も,大事なことだと思う。Ms. Ei Yamakawa is a woman born in Fukushima Prefecture in December 1950. We initially met her in September 6, 2005 when the plead on the appeal of the Postmortem Paternity Lawsuit was held at the Tokyo High Court. "Ei Yamakawa" is the pseudonym used in this lawsuit.We attended the trial in response to the invitation of Mitsuo Kawashima (a pseudonym), Hansen's disease ex-patient. At that time, I (Fukuoka) presented her a copy of my book Zainichi Kankoku-Chosenjin, since I already knew that her father was a zainichi Korean. After that, we attended later trials with Fukuoka's seminar students in December 6 and January 17, 2006. We missed the sentence in February 28 because I had to attend the doctoral dissertation examination committee, and we heard that the court dismissed Yamakawa's appeal.Somewhere in the three times we met her at the Tokyo High Court, we applied for an interview with her. The answer was, "I don't want to do because I likely would confess everything even I did not tell my lawyer, if I get an interview by you." We were not disappointed because we accepted it as her praise for our field worker skill.At the beginning of 2016, the Compensation Lawsuit against the Government by the Family Members of Hansen's Disease Ex-patients was filed, we heard that Yamakawa was one of the plaintiffs and were able to conduct an interview with her in the support from her lawyer, Mr. Yasuhiro Akanuma. The interview was practiced for 2 and a half hours at Mr. Akanuma's law office.Her first words were, "I clearly remember the reason why I turned down your interview proposal last time. I thought that you would use hypnosis to urge me to tell you even the memory I did not want to remember. I hate to remember my youth memory. I was barely able to forget that memory. Why should I remember and tell my bothering memory for you?" Mr. Akanuma said, "Ms. Yamakawa is a person who wants to forget her old memory and does not want to tell her story to others, I think."We are grateful that she willingly shared her story with us, eventually. She was not eloquent and she made short answers to our questions. Only after repeating same question in a similar way, we were able to grasp her real intention. We tried to revive her original telling style when we organize her interview. Some readers may feel rather irritating with her storytelling style, but we believe that it is important to understand interviewee's original style.
著者
唐木 英明
出版者
公益社団法人 日本獣医師会
雑誌
日本獣医師会雑誌 (ISSN:04466454)
巻号頁・発行日
vol.60, no.6, pp.391-401, 2007-06-20 (Released:2011-06-17)
参考文献数
48

1986年, 英国において牛海綿状脳症 (BSE) が発見され, 1996年に英国政府は, BSEが人間に感染して, 新変異型クロイツェルフェルトヤコブ病 (新型ヤコブ病) を引き起こした可能性を認めた. 牛から牛への感染を防ぐための肉骨粉禁止と, 牛から人への感染を防ぐための危険部位の食用禁止という2つの対策が適切であったために, BSEも新型ヤコブ病もその数を減らしたが, 感染から発病までの問に長い潜伏期があるので, 対策の効果が現れるのに時間を要した. その間のリスクコミュニケーションの失敗から, 英国民の政府に対する信頼は低下した. 政府は「安心対策」として, 30ヵ月齢以上の牛をすべて殺処分にする「30ヵ月令」を実施し, 多額の税金を投入した. 日本でも2001年にBSEが発見され, 不適切なリスクコミュニケーションのために, 不安が広まった. 日本政府は, 肉骨粉の禁止と危険部位の除去に加えて, 「安心対策」として食用牛の全頭検査を開始した. 検査では弱齢牛のBSEを発見できないので, 陰性になった牛の中にBSEがいる可能性が高いのだが, 国民の間には「すべての牛を検査して, 政府が安全を保証しているのだから, BSEに感染した牛を食べることはない」という誤解, いわゆる「全頭検査神話」を生み出すことになった.
著者
西田 良平 中尾 節郎 石賀 崇 西上 欽也
出版者
京都大学防災研究所
雑誌
京都大学防災研究所年報. B = Disaster Prevention Research Institute Annuals. B (ISSN:0386412X)
巻号頁・発行日
vol.41, no.B-1, pp.1-9, 1998-04-01

鳥取県東部は1943年9月10日に鳥取地震が発生し、1083名の人が亡くなる大きな被害を出している。この時、地震断層として吉岡・鹿野断層が出現した。1969年から、鳥取観測所での微小地震観測が開始されると、断層に伴う地震活動が観測され、鳥取地震を発生させた地殻応力が現在も作用していることが判っている。最近、地震活動が活発化し、それらの地震活動で左横ずれ断層の整列化が見られた。しかし、鳥取県東部地域は低地震活動が続き、隣接している兵庫県北西部では、右横ずれ断層である湯村断層周辺で、1995年兵庫県南部地震前後で地震活動、地殻応力の変化が観測され、西南日本の広い範囲で地殻応力の変化があったことが判った。
著者
佐藤 清隆
出版者
明治大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

本研究では、第二次世界大戦後のイギリスにおける多民族都市レスターの南アジア系移民(主としてインド系)コミュニティの歴史を、「宗教」(ヒンドゥー教、シク教、イスラーム教など)を中心に据えて明らかにした。その際、一方では、各民族・宗教内の多様性や差別に注意を払い、他方では、彼らとイギリスの多文化主義政策の下でおこったレスターの多宗教統合との関連を重視して検討をおこなった。また、本研究の過程で、数多くのインタビューを実施し、「多宗教・多文化の歴史研究所」(明治大学)から『記憶と語り』シリーズの一部として英語による5冊のブックレットを刊行した。
著者
外井 哲志 大塚 康司
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集D
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.319-324, 2008

道路案内標識で表示される地名を運転者が情報として十分に利用するためには,案内標識の情報を記載した地図を用いて自らが経路と地名の関係を事前に学習しておく必要がある.また,この地図を利用することで,案内標識が設置された経路を選定するなど,地図と連携した案内標識の積極的活用が可能になる.本研究では,こうした観点からシミュレータを用いた室内実験によって,案内標識情報を記載した地図を用いた事前学習の効果を分析した.その結果,地図を用いた事前学習により,地名情報の利用が増加し,予定経路どおりに走行できる割合が向上するばかりでなく,予定経路以外の経路を走行する距離,心理的負担が軽減することが明らかとなった.