著者
長木 誠司
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

これまでほとんど研究対象とされてこなかった、日本の出版楽譜制作の歴史、すなわち楽譜出版の歴史ではなく、作曲者の手稿等から出版用の版下を制作する技術(music engraving)の歴史の概要が明らかとなった。高度な技術を持った職人たち、出版された楽譜に名前すら残らない職人たちによる制作の歴史は、従来まったく手が付けられなかった。明治以来、洋楽を受容した歴史はさまざまな観点から研究されているが、この楽譜制作の領域がどのような西洋の模倣から始まり、音楽出版界でどのように変容されてきたのかということを、出版譜の歴史や実際の技術者たちからの聞きとりによって追跡した。
著者
Hirofumi Tsuboi Kenji Fujimori
出版者
Tohoku University Medical Press
雑誌
The Tohoku Journal of Experimental Medicine (ISSN:00408727)
巻号頁・発行日
vol.251, no.3, pp.225-230, 2020 (Released:2020-07-17)
参考文献数
27
被引用文献数
6

For increasing medical care demand by aging population, the Japanese government is shifting to home medical care for treatments that do not necessarily require hospitalization. It is therefore essential to identify factors involved in improving the quality and outcomes of home medical care. This study examined the effect of hospital discharge support in long-term care wards on readmission rates. We used medical insurance and the Long-Term Care Insurance data of patients aged ≥ 65. Participants were patients who discharged between April 2012 and March 2016 from long-term care wards that did not require 24-hour monitoring and had no specific incurable diseases. Participants were divided into two groups according to hospital discharge support, defined by medical fee incentives for discharge planning and coordination of medical and nursing services after discharge. We explored the association between hospital discharge support and risk-adjusted readmission based on patient characteristics for one year beginning the month after patient discharge. This study involved a total of 10,998 patients: 2,563 patients with hospital discharge support and 8,435 patients without relevant support. In the group with hospital discharge support, there was a significant reduction in readmission rates. When examined by patients’ characteristics, this association was significant in groups with age ≥ 85, care needs levels 1 to 2 (conditions requiring partial care for daily living), dementia or fracture. Our results suggest that hospital discharge support by medical and nursing care workers is effective in reducing readmission rates. Moreover, patients’ age, care needs, and underlying disease should be considered.
著者
入江 貴博
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.169-181, 2010-07-31 (Released:2017-04-21)
参考文献数
74
被引用文献数
1

温室効果ガスに起因する地球温暖化への懸念を背景として、欧米では外温生物の温度適応に関する研究集会が近年頻繁に開催されている。決定成長の生活史を伴う分類群を対象とした研究者の間では、低い温度環境で育った外温動物が長い発育期間を経て、より大きな体サイズで成熟するという反応基準の適応的意義が古くから議論の対象となってきた。この温度反応基準は、分類群の壁を越えて広く観察されることから「温度-サイズ則」と呼ばれている。温度-サイズ則が制約の産物であって、自然淘汰の産物ではないのだという可能性は、主に昆虫を対象とした実証研究によって繰り返し否定されてきた。その一方で、この普遍的な反応基準を進化的に支える適応的意義を説明する数多くの(相互に背反しない)仮説が提唱されている。この数年で温度-サイズ則の適応的意義を説明するための理論的基礎は整いつつあり、現在はそれらの妥当性を検証するための実証研究に対する需要が高まっている。しかしながら、多くの仮説は生活史進化の分野で理論研究の一翼を担ってきた最適性モデルに基づくものであり、数式を用いた表現に慣れていない者にとっては、その論理を直感的に理解することが容易でない。従って、本稿ではまず生活史形質の温度反応基準に関する過去の研究を幅広く紹介することで、この分野での基礎となる考え方を紹介する。次に、温度-サイズ則の適応的意義を説明するために提唱されている代表的な仮説をいくつか取り上げ、可能な限りわかりやすく解説する。最後に、この問題を解決するために今後取り組まれるべき課題を述べる。
著者
森本 元 高橋 佑磨 鶴井 香織
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.39-46, 2015-03-30 (Released:2017-05-20)
参考文献数
44
被引用文献数
2

クラインは、生物の形質の進化や適応のメカニズムを検討可能な興味深い現象である。この現象には古くから多くの進化学者・生態学者が魅了され、さまざまな経験的一般則が発見されてきた。量的形質である体サイズや体重のクラインを扱ったベルクマンの法則は、その代表例である。ただし、これらの法則は、優れた視点を有すると同時に、その定義に曖昧な部分も多い。クラインとは空間的なパターンのことであるが、それを生み出すメカニズムは一つではない。それゆえ、観察された現象へ与えられる名称と、その現象を説明するメカニズムは、区別して扱われるべきである。しかしながら、現状ではこの点について混乱もある。ベルクマンの法則の適用範囲が拡大していく中で、アレンの法則や温度-サイズ則といった温度勾配を背景とした法則とベルクマンの法則との関連性および相違点を改めて確認し、整合性を与える必要も生じている。そのためには、量的形質のクラインが地理的な環境要因の勾配に応じた可塑的応答と、量的遺伝を基盤とした適応進化の地理的差異によって構成されることを再確認することが第一歩となる。本稿では、量的形質のクラインにおける基礎的な考えと量的形質のクラインに関する法則の問題点を整理することで、マクロな視点から生物の一般則を導く「クライン研究」がさらなる進展をするための基盤整備を目指す。
著者
伴野 太平 小森 ゆみ子 鈴木 聡美 田辺 可奈 笠岡 誠一 辨野 義己
出版者
日本栄養・食糧学会
巻号頁・発行日
vol.69, no.5, pp.229-235, 2016 (Released:2016-12-15)

さつまいもの一種である紅天使を健康な女子大学生22人に摂取させた。加熱後皮をむいた紅天使の食物繊維は2.9g/100gだった。摂取開始前1週間を対照期とし,その後1週間単位で紅天使を1日300g,0g,100gとそれぞれ摂取させた。排便のたびに手元にある直方体の木片(37cm3)と糞便を見比べ便量を目測した。その結果,対照期には1.8±0.2(個分/1日平均)だった排便量が,300gの紅天使摂取により約1.6倍に,100g摂取により約1.5倍に増加した。排便回数も紅天使摂取量の増加に伴い増加した。300g摂取でお腹の調子は良くなり便が柔らかくなったと評価されたが,膨満感に有意な変化はなかった。各期の最終日には便の一部を採取し,腸内常在菌構成を16S rRNA遺伝子を用いたT-RFLP法により解析した結果,紅天使摂取により酪酸産生菌として知られるFaecalibacterium属を含む分類単位の占有率が有意に増加した。

2 0 0 0 OA 戻れない身体

著者
齋藤 香代
出版者
日本音楽教育学会
雑誌
音楽教育実践ジャーナル (ISSN:18809901)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.18-23, 2009 (Released:2018-04-11)
参考文献数
16
出版者
史学研究会 (京都大学文学部内)
雑誌
史林 = THE SHIRIN or the JOURNAL OF HISTORY (ISSN:03869369)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.95-100, 1953-05-20

個人情報保護のため削除部分あり
著者
大島 堅一 植田 和弘 稲田 義久 金森 絵里 竹濱 朝美 安田 陽 高村 ゆかり 上園 昌武 歌川 学 高橋 洋 木村 啓二 櫻井 啓一郎
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2012-04-01

日本の地域分散型エネルギーシステムへの移行には次の方策が必要である。第1に経済性向上のための対策が必要である。分散型エネルギーの経済性を高めるには、技術革新と制度改革とを並行して進める必要がある。第2に、分散型エネルギー中心の電力システムに改革するには、変動電源の安定化やデマンド・レスポンスなどの対策を効果的に講じなければならない。第3に、政策転換の不確実性の克服である。この際、集中型エネルギーシステムと分散型エネルギーシステムとの間で政策的バランスを取る必要もある。第4に、公正かつ中立的な電力市場をつくる必要がある。

2 0 0 0 OA 御赦例書

出版者
巻号頁・発行日
vol.[38] 向方御赦例書 二十一 利慾私慾之類,
著者
田島 利基 李 沛譲 朱 赤
出版者
一般社団法人 日本機械学会
雑誌
日本機械学会論文集 (ISSN:21879761)
巻号頁・発行日
pp.20-00372, (Released:2021-04-09)
参考文献数
15

In recent years, electric powered wheelchairs have become indispensable in long-term care. Up so far, many electrically powered wheelchairs have been developed to reduce the burden of caregivers, in which omnidirectional electrically powered wheelchairs attracted researchers’ attentions because these types of EPWs can be used without stress in narrow and/or crowded spaces. In this research, we have developed an omnidirectional wheelchair typed mobile assistive robot with power assistance. In addition, traditional electric powered wheelchairs use a joystick or a force sensor as the operation interface. Joysticks cannot be used by the elderly or disabled, and force sensors are too expensive to be used for wheelchairs. In this study, we have developed a new type of Human Machine Interface (HMI) using a mechanism that can detect force at low cost by using linear potentiometers and compression coil springs instead of a force sensor. The accuracy of the developed HMI is verified, and its effectiveness is confirmed in practical use. Further, we conducted power assisted experiments in forward/backward and lateral directions and turn on the spot using an admittance control with the developed HMI attached to our omnidirectional wheelchair robot. From the experimental results, the developed HMI control accurately measures the forces applied on the wheelchair by the user. Finally, a power-assisted experiment was conducted in the straight direction on a 5-degree slope. These experiments proved that our HMI-based power assist system is effective for omnidirectional wheelchairs.
著者
岡 真理
出版者
岩波書店
雑誌
思想 (ISSN:03862755)
巻号頁・発行日
no.989, pp.1-3, 2006-09
著者
西村 多久磨 村上 達也 櫻井 茂男
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.453-466, 2015-12-30 (Released:2016-01-28)
参考文献数
35
被引用文献数
3 3

本研究では, 共感性を高めるプログラムを開発し, そのプログラムの効果を検討した。また, プログラムを通して, 社会的スキル, 自尊感情, 向社会的行動が高まるかについても検討した。介護福祉系専門学校に通う学生を対象に実験群17名(男性6名, 女性11名 ; 平均年齢20.71歳), 統制群33名(男性15名, 女性18名 ; 平均年齢19.58歳)を設けた。プログラムを実施した結果, 共感性の構成要素とされる視点取得, ポジティブな感情への好感・共有, ネガティブな感情の共有については, プログラムの効果が確認された。具体的には, 事前よりも事後とフォローアップで得点が高いことが示された。さらに, これらの共感性の構成要素については, フォローアップにおいて, 実験群の方が統制群よりも得点が高いことが明らかにされた。しかしながら, 他者の感情に対する敏感性については期待される変化が確認されず, さらには, 社会的スキル, 自尊感情, 向社会的行動への効果も確認されなかった。以上の結果を踏まえ, 今後のプログラムの改善に向けて議論がなされた。
著者
伊藤 謙 宇都宮 聡 小原 正顕 塚腰 実 渡辺 克典 福田 舞子 廣川 和花 髙橋 京子 上田 貴洋 橋爪 節也 江口 太郎
出版者
国際日本文化研究センター
雑誌
日本研究 = Nihon Kenkyū (ISSN:09150900)
巻号頁・発行日
vol.51, pp.157-167, 2015-03-31

日本では江戸時代、「奇石」趣味が、本草学者だけでなく民間にも広く浸透した。これは、特徴的な形態や性質を有する石についての興味の総称といえ、地質・鉱物・古生物学的な側面だけでなく、医薬・芸術の側面をも含む、多岐にわたる分野が融合したものであった。また木内石亭、木村蒹葭堂および平賀源内に代表される民間の蒐集家を中心に、奇石について活発に研究が行われた。しかし、明治期の西洋地質学導入以降、和田維四郎に代表される職業研究者たちによって奇石趣味は前近代的なものとして否定され、石の有する地質・古生物・鉱物学的な側面のみが、研究対象にされるようになった。職業研究者としての古生物学者たちにより、国内で産出する化石の研究が開始されて以降、現在にいたるまで、日本の地質学・古生物学史については、比較的多くの資料が編纂されているが、一般市民への地質学や古生物学的知識の普及度合いや民間研究者の活動についての史学的考察はほぼ皆無であり、検討の余地は大きい。さらに、地質学・古生物学的資料は、耐久性が他の歴史資料と比べてきわめて高く、蒐集当時の標本を現在においても直接再検討することができる貴重な手がかりとなり得る。本研究では、適塾の卒業生をも輩出した医家の家系であり、医業の傍ら、在野の知識人としても活躍した梅谷亨が青年期に蒐集した地質標本に着目した。これらの標本は、化石および岩石で構成されているが、今回は化石について検討を行った。古生物学の専門家による詳細な鑑定の結果、各化石標本が同定され、産地が推定された。その中には古生物学史上重要な産地として知られる地域由来のものが見出された。特に、pravitoceras sigmoidale Yabe, 1902(プラビトセラス)は、矢部長克によって記載された、本邦のみから産出する異常巻きアンモナイトであり、本種である可能性が高い化石標本が梅谷亨標本群に含まれていること、また記録されていた採集年が、本種の記載年の僅か3年後であることは注目に値する。これは、当時の日本の民間人に近代古生物学の知識が普及していた可能性を強く示唆するものといえよう。