著者
石割 隆喜 渡邉 克昭 貴志 雅之
出版者
大阪外国語大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

石割は、いまだ「小説」的である『V.』における「個」としてのパラノイア的主体が、同様にパラノイア的でありながら『重力の虹』においては「多」的主体性へと変容したと捉え、これを従来の「小説」という表現形式の「ポスト・ノヴェル」への移行という観点から検証した。これを踏まえ、ピンチョンの「ラッダイト」が「多」として表象されていないこと(「デカさ」ゆえ、"apparition"たりえていないこと)の重要性も指摘した。渡辺は、死をもたらす銃の発砲と映像の撮影との問に見られる類同性によって引き起こされるアポリアを強調しつつ、デリーロ文学の弾道を描いた。両者の不安的な共犯関係を視野に入れ、無限に反復される暗殺の映像によって増殖する亡霊的なアウラという視点から、『リブラ』に描かれたオズワルドの肖像の分析を行った。『アンダーワールド』におけるザプルダー博物館とテキサス・ハイウェイ・キラーをめぐる論考において、多次元的な「シューティング」が、歴史を無化する揺らぎをいかに惹起するかを考察した結果、正史へのパリンプセスト的な上書きにおいて、銃とナラティヴが螺旋状に振れ合っていることが明らかになった。貴志は、アメリカ演劇について以下の3つの観点から研究課題にアプローチし、その成果を論文、著書、口頭発表の形で公表してきた:(1)「他者」の記憶と人種的歴史を再現し、正史脱構築を目指すメディアとしての身体;(2)人種・ジェンダー・階級を包摂した文化的アイデンティティの表象・形成メディアとしての身体;(3)「他者」のアクティヴィズムを表象・生産し、支配的権力を脱構築する政治文化戦略メディアしての身体。以上から、現代アメリカ演劇における身体は、政治文化的表象性を多様に変容しつつ、複雑化するポストモダンの文化的アイデンティティと歴史認識問題を可視化する(再)表象メディアとして強力に作動していることが明らかになった。
著者
長谷 千代子
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

現在中国では、宗教的な活動や慣習の意味が問い直されている。本研究では、主に中国における宗教についてのとらえ方の現代的変化を、聖性の在り方そのものと聖性が現れる「場所」や「もの」の在り方の具体的な変化をとおして明らかにしようとした。その結果分かったのは、政治的には宗教活動場所を特定の場所に限定しようとする力が働く一方で、そうした場所での活動に飽き足らなくなった人々が新たな活動場所を作ったり、世俗的な生活そのものを宗教的な修業の場として読み替えたりして、伝統的なものとは異なる聖なる場所を創造していることだった。
著者
杉原 数美 太田 茂 北村 繁幸 西嶋 渉
出版者
広島国際大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究では、先ず近年環境汚染が懸念されはじめた医薬品の日本の河川における汚染実態を調査し、生活雑排水や簡易浄化槽処理水が流入する二級河川で一級河川より高濃度で検出されることを明らかとした。さらに、医薬品は環境中での動態が調査されておらず、環境中における代謝分解などの受けやすさ、代謝分解物の毒性変動などは不明である。本研究では、化学物質の分解代謝にかかわる環境因子として紫外線による医薬品分解とその生物毒性変動を調査し、毒性が発現する医薬品があることを明らかにした。
著者
遠藤 愛
出版者
筑波学院大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究の結果から,国内トップレベルのジュニア選手、国内,および世界トップレベルのプロ選手らは,フォアハンドにおいて,平均70%以上の割台でオープンスタンスを使用していることが明らかになった.また,後ろ脚に体重をため,その脚を軸として体幹を捻る動作を取り入れたオープンスタンスを習得することによって,パフォーマンス(ショットの正確性,ボールスピード)の向上に寄与する可能性が示された.
著者
坂野 登
出版者
京都大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

・研究1では、左右の前頭葉機能の個人差を測定する目的で開発された「順序性の記憶」に関する神経心理学的パフォ-マンス・テストバッテリ-を、ブックレット方式とカ-ド式によるテストとして作成し両者の比較を行った。課題は線画の中にひらがなが埋め込まれている、かくし図形の系列の記憶テストである。ブックレット方式によって十分にその目的を達成できることが明らかになったので、集団実験と個別実験結果を合わせてテストの妥当性を検討した。前頭葉機能の個人差と関係すると考えられる腕組みを指標にしたところ、腕組みで右腕が上の左前頭葉優位のタイプは文字の順序性の成績、左腕が上の右前頭葉優位のタイプは絵の順序性の成績と関係し、いずれのタイプでも分析性・抽象性の低い認知スタイルの被験者の成績がよいことが明らかになった。・研究2では、研究1と同一のテストの回答方式を空間認知テストに変更しその変化を見たが、その結果腕組みではなく、知覚・認知的機能の個人差と関係していると考えられる指組みによって、文字と絵認知の速さの個人内変動を弁別できた。すなわち、左半球での知覚・認知的機能と関係する右指上のタイプでは文字認知の変動が相対的に大きく、逆に右半球優位の左指上のタイプでは絵認知の変動が相対的に大きかった。・研究3では、様々な神経心理学的テストを遂行時の脳波パタ-ンの因子分析的研究を行い、左半球課題と右半球課題および個人差を分離することができた。・研究4では、研究1で用いた順序性の記憶テストを研究3の課題に追加して分析し、半球優位性と個人差について検討したところ、全般的には左半球優位的な課題ではあるが、しかし個人によってはそれが右半球優位の課題として用いられているという個人差を見いだすことができた。
著者
鬼塚 千絵
出版者
九州歯科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

歯科における診断は口腔情報やエックス線写真から判断することが主であるが、医療面接で患者からの情報によりある程度の診断が可能とされている。しかし、言語情報からの判断基準については曖昧さが残っている。そこで、臨床経験の豊富な歯科医師が医療面接において患者からどのような言語情報を優先的に得ることや診断および治療方針を決定するかについて、その思考過程や熟達化プロセスを明らかにすることを目的に本研究を行った。臨床経験を積んだ歯科医師と若手の歯科医師の間に言語情報に対する認識および思考過程の違いがあることを明らかにした。
著者
加藤 貴昭
出版者
慶應義塾大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本年度(平成18年度)の研究目的は、各種スポーツ競技のライブ状況下における競技者の眼球運動測定データを蓄積すると共に、新たなデータ計測および解析方法について検討し、さらに熟練選手に共通する視覚探索パターンの解明を試みることである。本年度は野球競技における走者の盗塁時の測定、スキー競技におけるスキーヤーのスラローム時の測定、アイススケート競技におけるコーナリング、スピン時の測定を重点的に行った。特に昨年度に引き続き行った雪上でのアルペンスキー競技の実験においては、2台のハイビジョンカメラレコーダを用いて身体運動の映像を撮影し、眼球運動を測定するための専用ハードシェルリュックを作成した。身体運動計測、眼球運動計測共にキャリブレーション方法や撮影機器の準備には工夫を凝らし、これまで以上に詳細なデータを計測することが可能となった。このスキー実験の手法を基に、スケート競技においては実際の氷上のリンク上にて身体運動と眼球運動を計測し、スピードスケート競技者とショートトラックの競技者のコーナリング時における視線、および身体動作の制御方法について考察した。また、各実験において得られた知見をもとに、各種スポーツ競技場面における熟練選手の視覚探索活動を総括し、熟練選手共通の視覚探索パターンについて考察した。特に時間的な変化を伴う情報や空間の位置関係を把握するのに優れた特性を持つ視覚機能である周辺視システムを活用しているとの仮説に対する検証を行った。周辺視システムを活川するためのストラテジーとして視覚対象の中心付近に視支点(visual pivot)を定め、その結果として身体運動の安定、制御を巧みに行っていることが示唆された。このような眼球運動と身体運動のコーディネーションによって、熟練選手が持つスポーツ競技特有の視覚情報獲得スキルが成り立つことが考察できた。
著者
佐藤 哲郎
出版者
松本大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

本研究の目的は社協ワーカーが地域福祉活動を推進していくために、どのような技術を活用し地域へ働きかけているのかそのプロセスを明らかにすることである。研究方法は社会福祉士有資格者で実務経験が10年以上の社協ワーカー14名を対象に半構造化インタビューを行い、修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチにおいて分析を行った。分析の結果2つのコア・カテゴリー、8つのサブ・カテゴリー、24の概念からなるプロセスを生成した。次に、実践に関する55項目を抽出した質問使調査を行った。その結果、6因子・30項目からなる評価尺度を作成した。
著者
青木 尊之 森口 周二 下川辺 隆史 高木 知弘 滝沢 研二
出版者
東京工業大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2014-05-30

① AMR法を適用した複雑形状物体を含んだ非圧縮性単相流体(乱流LES)シミュレーション:格子ボルツマン法により、複雑形状を含んだ物体回りの流れとして、複数台の自転車を含む競技を想定した流れのシミュレーションを行った。計算のTime-to-Solutionを大幅に短縮するAMR法を適用した。また、検証として行った球周りの流れでは、レイノルズ数が50万程度で抗力が急激に低下するドラッグ・クライシスを再現することができた。②マルチ・フェーズフィールド法による動的領域分割:粒成長を並列計算の領域分割に適用し、時間発展させることで各領域の体積(計算負荷)を均一にしつつ、各領域が凸形状になるようにトポロジー最適化が行えることを確認した。これまでのスライス・グリッド法や空間重点曲線による領域分割と比較し、領域間通信量を低減できることを確認した。③AMR法による気液二相流シミュレーション:Octreeベース細分化によるAMRを用いて最細格子を気液界面に適合させ、弱圧縮性流体計算による気液二相流計算を行うことができるようになり、均一格子を使う場合と比較して1/100の格子点数で計算することができた。④流体-構造連成問題:物体適合格子における要素の消滅および出現させる手法を開発した。この手法の自由度を増すため、接触物の間に互いにスライド可能なメッシュに分割する手法を提案した。これにより接触位置が互いに変わる状況も再現できるようになり、これまでの物体適合格子の並列効率を保つことができる。⑤フェーズフィールド法による凝固と粒成長のシミュレーション:強制対流下で成長するデンドライト形態変化を詳細に検討した。また、自然対流を伴うデンドライト凝固シミュレーションを行い、自然対流が凝固組織を大きく変えることを明らかにした。800 GPUを用いた世界最大の理想粒成長シミュレーションを行い、理想粒成長の統計的挙動を初めて明らかにした。
著者
山本 博徳 菅野 健太郎 喜多 宏人 砂田 圭二郎
出版者
自治医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

ダブルバルーン内視鏡を用い、臨床使用経験を増やし、平成18年3月までにはダブルバルーン内視鏡を用いた小腸内視鏡検査は530件以上となった。これらの経験によりダブルバルーン内視鏡挿入手技が確立され、小腸における止血術、ポリペクトミー、狭窄拡張術、ステント留置、異物回収などの治療手技も確立した。また、独協医科大学との共同研究の形でカプセル内視鏡との比較も行い、今後の小腸疾患に対するアプローチ法の確立に努めた。ダブルバルーン内視鏡の応用として従来の方法では内視鏡挿入が出来なかった術後バイパス腸管や、ビルロートII法やRoux-en-Y吻合などの輸入脚に対する内視鏡観察、処置を積極的に経験し、これら術後腸管に対する胆道疾患の治療法も確立した。平成15年度に立ち上げた小腸内視鏡研究会内に世話人の施設を中心に、自治医科大学、日本医科大学、名古屋大学、京都大学、広島大学、九州大学、福岡大学の7施設でワーキンググループを立ち上げ、小腸疾患に関する多施設共同研究を行った。海外におけるダブルバルーン内視鏡の教育、普及にも努め、その結果世界33カ国以上で導入されている。既にヨーロッパ、アメリカ、アジア、オセアニアの諸国からその有用性、安全性の報告が多数見られており、世界レベルにおいてダブルバルーン内視鏡が小腸内視鏡検査のスタンダードとして認められてきている。国際的な経験の共有、技術の均一化、知識の向上のために日本、アメリカ、カナダ、ドイツ、オランダ、中国、韓国の代表者を世話人とした1st International Workshop on Double-Balloon Endoscopyを平成18年8月に東京で開催する予定で準備を進めている。ダブルバルーン内視鏡を用いた小腸の基礎的研究として腸内細菌叢の研究を自治医科大学の細菌学教室と共同で行っている。この研究には消化器内科から大学院生を専属で細菌学教室に派遣し、腸内容物を嫌気性条件で採取し、定量培養その他の手法を用いて細菌叢を定量的に同定するという手法で進めている。
著者
吉澤 緑 福井 えみ子 松本 浩道 長尾 慶和
出版者
宇都宮大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、種々の遺伝子の多型分析を行い、遺伝子組成(成長ホルモン遺伝子GH、脂肪酸不飽和化酵素遺伝子SCD、がん抑制遺伝子TP53などの遺伝子型の組み合わせ)が既知の雌牛の卵子および精子から体外受精胚を作出し、望む形質を有する子牛を効率的に生産しようと企図された。2010年10月、8個の体外作出胚を受胚雌牛1頭に各2個、4頭の雌に移植し、2頭の分娩が予定され、2011年7月21日雄1頭が無事誕生、26日の雄は死産であった。
著者
矢野 友紀 中尾 実樹
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

哺乳類においては、補体成分C3の活性化断片C3dが、B細胞上の特異的レセプター(CR2)に結合し、正常な抗体産生応答を支持していることが明かとなっている。本研究では、硬骨魚類においても、哺乳類のC3dと相同な活性化断片が生成するのか、CR2と相同なC3dレセプターが存在するのか、およびC3dが獲得免疫に及ぼす影響するのかについて精査した。まず、コイ血清をザイモサンで処理し、補体第2経路を活性化すると、ヒトC3dに似たサイズ(35kDa)の断片が精製することを確認した。この断片のN末端アミノ酸配列を決定し、これがコイのC3dであることを確認した。2種の主要なコイC3アイソフォーム(C3-H1とC3-S)の両者からC3dが生じることも確認した。ただし、C3dへの分解効率は、C3-H1の方が高かった。両アイソフォーム由来のC3dをグルタチオン(GST)-S-トランスフェラーゼとの融合タンパク質として発現させることに成功した。これら組み換えタンパク質(GST-C3d-H1とGST-C3d-S)は、コイ末梢血リンパ球に対してMgイオン非依存的に結合性を示した。抗コイC3ウサギIgGはこの結合を濃度依存的に阻害した。一方、対照として用いたGSTは全く結合しなかった。C3d-H1とC3d-Sでは、前者の方が高い結合能を示した。以上の結果から、コイにおいても、哺乳類と同様にC3d断片が生じ、これを認識するCR2様のレセプターがリンパ球上に存在することが示唆されるとともに、コイにおけるC3遺伝子多重化によるC3の機能分化のさらなる証拠が得られた。
著者
遠藤 俊祐
出版者
名古屋大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

1,四国三波川帯の五良津岩体を構成する各種岩石(エクロジャイト,ざくろ石角閃岩)の熱力学相平衡解析(pseudosection解析)を行い詳細かつ定量的な温度-圧力経路を導出した,この研究では,複雑な履歴を経た岩石から信頼度の高い温度-圧力経路を導出するため,逆解析(地質温度圧力計)および前進解析(pseudosection解析)を組み合わせた相補的手法を用いる重要性と,各変成段階で酸化還元状態を独立の変数として考慮する重要性を示した.こうした精密解析の結果,これらの岩石が沈み込み帯において,沈み込み,沈み込むプレート(スラブ)から剥離し,マントル深度から上昇するプロセスを明らかにし,そのメカニズムについてモデルを提案した.これまで五良津岩体の大部分を構成するざくろ石角閃岩は,エクロジャイトが浅所まで上昇する過程で加水変質による産物と考えられてきたが,一部のざくろ石角閃岩は深部で安定であり,初生的岩相であることを示した.エクロジャイトより低密度なざくろ石角閃岩が卓越することで,五良津岩体は浮力上昇した可能性がある.2,天然には稀少でありながら,沈み込み帯深部に普遍的に分布することが予測され,重要視される'ローソン石エクロジャイト'をフランシスカン帯ジェナー海岸から新たに発見した.新たに見出した同岩石は,解析の結果,より高温の沈み込み帯を特徴づける'緑簾石エクロジャイト'から低温沈み込み帯を意味する'ローソン石エクロジャイト'へ変化したものであることが明らかとなった.また,特に低温の沈み込み帯条件では,塩基性岩は高い保水能力をもつため,系内の水がすべて含水鉱物として固定される状態(流体が存在しないか,水以外を主成分とする流体が存在)が一般的となる可能性を示唆した.このことは従来の高圧変成岩の解析で一般的に行われる,H_2O流体の存在の仮定に注意を促すものである.
著者
浦田 広朗
出版者
名城大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

本研究課題では、高等教育政策研究の一環として、我が国の私立大学が果たしている公共的機能を実証的に明らかにした。私立大学に投入される資源を示す財務データ(特に収入データ)とアウトプットを示す教育・研究の成果データを広く収集した上で、私立大学が十分には「公」に支えられていない中、公共的機能を果たしていることを、都道府県の経済水準・政府と家計の教育支出・大学教育供給量・大学進学率のパス解析や、公共性の包括的指標としての公的収益率の計測、私立大学の教育や施設設備に投入される公的資金の分析などにより明らかにした。
著者
土井 正晶
出版者
東北大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2009

これまでに強磁性ナノコンタクト磁気抵抗(NCMR)素子(強磁性層にFe_<50>Co_<50>、スペーサー層にAlO_xNOL(Nano-Oxide-Layer)を用いたスピンバルブ素子)についてスピントルク励起型マイクロ波発振を測定した結果を報告した。測定試料の膜構成はunderlayer/lrMn15nm/COFe3.3nm/Ru0.9nm/Fe_<50>Co_<50>2.5nm/Al-NOL/Fe_<50>Co_<50>2.5nm/Cappinglayerであり、素子サイズは0.4×04μm^2、MR比は4~5%、面積抵抗(RA)は0.7~1.6Ωμm^2である。その結果、磁壁の閉じ込め方によってマイクロ波発振の周波数が異なることが示され、さらにフリー層の磁化方向がリファレンス層の磁化方向と完全に反平行であるときには発振が観測しにくいといった本系独特の特徴ある実験結果が得られた。また、18GHzを超える高いQ値=2300(f/△f:△f=8MHz)のシャープな発振を観察している。この結果は狭窄磁壁とそれに接したフリー層強磁性体を考慮したスピントルク発振シミュレーションの発振周波数とほぼ一致する。さらに、磁化反平行状態を0deg.と定義して印加磁場を膜面内方向で回転させ、ネットワークアナライザを用いたナノ狭窄構造薄膜のスピントルク強磁性共鳴(ST-FMR)による直流電圧スペクトルを測定した。ST-FMRスペクトルと発振スペクトルはともに9GHz付近で共鳴および発振を示した。ST-FMRスペクトルではフリー層磁化の共鳴と考えられる周波数以外に複数の共鳴ピークを示した。一方、発振スペクトルは線幅の狭い単一のスペクトルのみである。この両者の差異を周波数の磁場変化のキッテル式を用いたフィッティング解析から強磁性ナノコンタクトに幾何学的に閉じ込められた磁壁のスピントルク振動に基づいて考察を行った。
著者
池田 誠
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1997

本年度はコード帳符号化方式において、コード帳をデータに応じて更新し、時系列データのの繰り返しにたいして効果的に信号遷移頻度の削減を可能とする適応型コード帳符号化方式の検討を行い、試作したチップの測定評価を行った。この結果、乱数データを用いた場合、信号遷移頻度を25%から50%削減出来ることが分かった。この結果を実証するために次の特徴を有するチップの設計試作を行った。1)コード帳のコード数16,ワード幅:16ビット,2)距離最小コード検出回路としてはWallance-tree型コンプレッサー回路を使用。本チップの測定の結果、符号化回路の消費電力が電源電圧3.3V,動作周波数10MHzにおいて3.6mWとなり、16ビットのバスにおいては、負荷容量が30pF以上場合に本チップが有効であることが分かった。また、本チップは0.5umプロセスで試作を行っているが、現在の最先端プロセスである0.18umもしくはそれより微細なプロセスで試作することで符号化回路の消費電力の削減が可能となり、さらに適用範囲が広まるものと期待できる。また、更なる消費電力削減およびデータ転送効率の向上を目指して、これまでに提案されている圧縮アルゴリズムのうち代表的なものとして、ハフマン符号化、LZ77符号化,LZ78符号化手法を取り上げ、そのLSI化を行った場合のハードウエア量とデータ圧縮効率のトレードオフに関しての検討を行った。その結果、データが既知である場合にはハフマン符号化が圧縮率が最大となるが、一般の場合、過去のデータ列を保持し、その最大一致長を送信するLZ77方式およびその派生の符号化方式であるLZSS方式が、ハードウエア量に制約を課した場合、他と比較して圧縮率が高くなることが分かった。
著者
小森 悟 黒瀬 良一 高垣 直尚
出版者
京都大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

風波水槽に界面活性剤を微量に混和させた溶液を満たし,その水面上に風を吹かせることにより,水面波の測定実験を行った.その結果,界面活性剤の影響は低風速域において特に顕著で,風波の発生を完全に抑制すること,また,砕波が生じる高風速域において界面活性剤は砕波を促進することが確認された.さらに,直接数値計算法を用いることにより,表面張力の低下は風波の波高を増加させること,このため界面活性剤による風波の抑制作用は表面張力の低下によるものではないことを明らかにした.また,粘性の変化も確認できなかったため,このような抑制作用は,マランゴニ効果によって引き起こされていると考えられる.
著者
中嶋 省志
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

商品名サホライドには優れた根面う蝕予防効果が認められている。しかし根面や歯肉が黒くなるという審美的問題があり。本研究では黒くならない根面う蝕の予防剤(象牙質ミネラルの脱灰抑制とコラーゲン分解の抑制)の開発に繋がる探索研究を行った。その結果、フッ化亜鉛に最少量の塩酸を加えた溶液に、サホライドの濃度の約1/5という低濃度フッ素にもかかわらず、これと同等レベルの脱灰抑制効果を認めた。また処置面で着色は認められなかった。一方、コラーゲンの分解抑制効果に関しては、サホライドに匹敵するような十分な効果は得られなかったが、今後、より高い濃度での評価や塗布方法を改良することでこの目標を達成したい。
著者
内山 秀樹
出版者
静岡大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2013-08-30

「すざく」銀河面データにより、天の川銀河拡散X線放射の空間的揺らぎを測定した。統計誤差を除くと、天の川銀河拡散X線放射と宇宙背景X線を合わせた表面輝度は~10パーセク程度の空間スケールで3.6~8.1% (1σ) 揺らぐことを明らかにした。この揺らぎは天の川銀河拡散X線放射が多くの暗い点源の集まりだとした場合の結果と大きく矛盾しない。また、数百パーセクスケールでの鉄輝線強度比の空間分布から、バルジと銀河面ではその拡散X線放射の起源が異なる可能性が高いことも明らかにした。天の川銀河拡散X線放射の研究を元に、「すざく」データを使った、高校物理で扱うボーア模型の学習教材を作成した。
著者
神谷 徳昭 鈴木 大郎 森 和好
出版者
会津大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

非結合代数系からのG(3),F(4) D(m,n)型の構成が端的な概要です。この構成は数理物理学と非結合的代数学の融合分野の研究です。それは歴史的に述べれば19世紀の末のカルタン、キーリング,フルビッツに起源をもつと考えます。勿論現代の数学として4元数、8元数、交代代数、ジョルダン代数の立場からルート系を用いないジャコブソン的な構成方法でフロイデンタールの伝統をうけつぎながら幾何学とリー代数に特に超リー代数の特徴ずけです。三項系代数系の分類とパース分解と南部恒等式の特徴を研究しました。