著者
近藤 俊明 出口 保行 VALENTI Stavros COX Brian
出版者
東京未来大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

不登校の予兆行動を検証するため、計6校の、小学1~3年、小学4~6年、中学1~3年の3グループを、3年間、継時的に追跡調査した。不登校査定尺度(Kearney, 2002)を用い、(1)嫌な刺激を避ける、(2)社会的評価を避ける、(3)他者の注意を引く、(4)楽しいことが出来る、の4つの機能を持つ行動群を、学年ごとに分析した。4つの行動群のうち、(1)嫌な刺激を避ける、(2)社会的評価を避ける機能を持った行動群が、小学1年から多くの学年において不登校に影響を与えていることが明らかになった。さらに、早期からの、上記行動群に焦点を当てた介入が、不登校の予防に有効であることが考察された。
著者
横澤 一彦
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本プロジェクトの目的は、高次視覚と行為への理解であり、多くの認知心理学的実験が行われた。第1に、同時に提示される2つの日常物体の奥行き回転による方位差を弁別させる実験課題における反応時間と誤答率を測定した(Niimi & Yokosawa, 2008)。その結果、視覚系は正面、側面、後面に特異的であり、高速で正確であったが、斜め方向では時間がかかり不正確であった。このような特性は水平線や対称性などの方位特異的な特徴に基づくことが分かった。日常物体の方位の視覚判断の効率性は方位依存的であり、前後軸を基に知覚されている可能性が考えられる。第2に、刺激と反応が対応しているときに効率的であるという刺激反応適合性がまったく無関係な次元間でも生ずるかを調べた(Nishimura & Yokosawa 2006)。その結果、直交型サイモン効果と呼ぶ上右/下左が優位となる結果が得られた。この直交型サイモン効果は、左反応が正極になると減弱するか、逆転した。この結果は、刺激の正負の符号化によって、反応の正負の符号化が自動的に生起することを示している。第3に、時間的に系列的に提示された文字列中の標的において、報告される標的の正答率の違いを調べた(Ariga & Yokosawa, 2008)。その結果、提示系列の後半に比べ、前半に標的が提示されるとき、その正答率が低下することが分かった。この新しい現象を「注意の目覚め」と命名した。
著者
吉田 美幸 楢木野 裕美 鈴木 敦子
出版者
福井医療短期大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

本研究は、検査・処置を受ける幼児後期の子どもの調整能力発揮への支援プログラムを開発し、その効果を明らかにすることを目的とした。文献検討および、医療処置のなかでも点滴・採血を受ける幼児後期の子どもの自己調整機能とその発揮に向けた関わりに対する看護師への面接調査結果を基にプログラムを作成した。プログラム研修を看護師に実施し、研修前後の看護師のケア実践について調査した。その結果、研修後の看護師は、幼児後期の子どもの自己調整機能の発揮に向けた意図的な観察や実践をし、子どもと共にケアを探求する姿勢へと変化していく一方、多忙な中でのプログラム活用方法への検討の必要性が示唆された。
著者
篠原 ひとみ 兒玉 英也
出版者
秋田大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

乳児の夜泣きへの看護介入方法を探索するために、児の唾液中のメラトニン濃度が睡眠-覚醒リズムの発達の有効な指標となり得るかどうかを明らかにすることを目的に児の唾液中のメラトニン濃度を測定した。そして起床時刻、就寝時刻、最長持続睡眠時間、総睡眠時間、昼寝回数、昼寝時間、保育環境との関係を分析した。対象は生後3-15ヵ月の児(平均7.6±3.2ヵ月)67名(男児36例、女児31例)とその母親である。唾液は母親が1日4回、朝起床時(6時-9時)、昼(11時-13時)、夕方(15時-18時)、夜就寝前(20時-23時)に採取した。67名の唾液中のメラトニン濃度の平均値(SD)は朝起床時40.1(35.3)、昼13.6(21.7)、夕方14.6(24.7)、夜就寝前23.2(28.4)であり、昼や夕に高濃度(10pg/ml)を示す児は生後3-5ヵ月に多く認められた。児の1日の総睡眠時間、最長持続睡眠時間、夜間の覚醒回数、昼寝回数との関係では、昼と夜のメラトニン濃度は昼寝回数と正の相関、昼のメラトニン濃度と最長持続睡眠時間に負の相関、朝のメラトニン濃度と総睡眠時間に負の相関が認められた。また夕と夜のメラトニン濃度は1週間当たりの外気浴日数と負の相関が認められた。生後3-5ヵ月の乳児では昼や夕でもメラトニン濃度が高値を示す例が多く認められたが、月齢と伴にその頻度は減少した。昼のメラトニン濃度が高値の場合昼寝回数が多く、最長持続睡眠時間が短縮する傾向がみられたことから、生後5ヵ月以降、月齢が進んでも日中のメラトニン濃度が高値の場合、睡眠-覚醒リズムの発達の遅れを検討する必要があると考えられる。
著者
内山 清子
出版者
国立情報学研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

本研究は、効率的な検索に利用するシソーラス構築のために、分野における基礎的で必須である専門用語について以下の3点の研究を実施した。 (1)専門用語の専門度(分野基礎性)を示す指標の分析:文書中に出現する専門用語について、分野を理解する上で必須・基礎的なレベルから専門性が高いレベルまでの段階を分野基礎性として客観的な指標について、論文や書籍の文章構造中の出現傾向について分析を行う。 (2)分野基礎性判定手法の検討:分析結果に基づいて、自動的に分野基礎性が高い用語を抽出する方法を検討する。 (3)システムへの応用の検討:分析に基づいて分野基礎性が高い用語判定を利用してシソーラスを構築し、システムへの応用の可能性について議論した。
著者
今井 國治 藤井 啓輔 池田 充 川浦 稚代 川浦 稚代 藤井 啓輔
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本申請研究の主たる目的は、CT検査時における被ばく線量(重要臓器線量)を測定した上で、申請者がCT画像上で発現に成功させた確率共鳴現象を利用して、病変検出能の向上を図ると共に、CT検査時の被ばく線量軽減を行うことである。特に今回は脳梗塞部の検出(脳溝の狭小化や早期虚血性病変)に主眼を置き、どのような条件の時に効果的に確率共鳴が発現するかを検討し、最終的に臨床への応用を目指す。確率共鳴はノイズ強度が10HUの時に最も効率よく発現し、コントラスト分解能も鮮鋭度も大きく改善した。また、この改善効果はノイズの種類に依存し、高周波を多く含むノイズを付加した際に、その効果が大きくなることを定量的に示した。
著者
酒井 健
出版者
法政大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

本研究は、20世紀フランスの思想家ジョルジュ・バタイユ(1897ー1962)の初期の活動、とりわけ総合的文化誌『ドキュマン』(1929ー1931)をめぐる活動を、当時の文化的背景に注目しながら解明した。視点としては文化多元主義(諸文化の多様性をそのままに肯定する立場)をとった。成果としてあげられるのは、前世紀からの西欧近代一元主義に膠着して危機的状況にあった同時代の西欧文化を、バタイユが、考古学、民族誌学、前衛芸術の最新の情報を呈示しながら、批判、相対化、活性化していった様を論文やシンポジウムを通して具体的に呈示できたことである。
著者
白川 恵子 林 以知郎
出版者
同志社大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、アメリカ独立革命期の建国神話がいかに構築され、それが共和政期および南北戦争以前期の文化の中で、いかに表象され、大衆に受容されてきたのかを考察する。特に、(1)建国祖父の伝記による独立革命の矛盾の曖昧化、(2)共和政期以降の建国神話受容、(3)独立革命のイデオロギーと文学的体制転覆的想像力との関連、(4)南北戦争以前期の煽情主義的/感傷主義的ナラティヴに反映・表象さえる建国神話に焦点が当てられる。
著者
市川 貴子
出版者
広島大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2011

中学校技術家庭科技術分野(以降、中学校技術科)において、身近な機構の学習内容を通して、技術的なものの見方・考え方を育てる授業について検討し、実践を行った。学習指導要領の改訂により、中学校技術科では、技術を適切に評価・活用する能力と態度を育成することが重視されるようになった。技術を評価する力を育成するためには、技術に関する基礎的な知識に加えて、技術的な評価の視点をもつことが必要である。そこで、ロボット製作など機構の学習において重要である強度設計や機能設計の学習内容を検討すると同時に、エネルギーや開発コスト、製品寿命等のトレードオフについても発展的に学習できる教材を開発することを目的とし、実践した。授業実践では、傘や文房具など身近な道具に使われている機構を予想し、解析することを通して、運動を変換する機構や、効率的に力を伝える機構の学習を行った。また、模型の製作を通して、同じ仕事をする道具にも複数の機構があることに気がつかせた。例えば、穴あけパンチの場合、紙の差し込む位置がレバーの手前からものと、向こうからのものがある。より多くの紙に穴をあけられるものは、ハンドルが長く力が増幅されやすいが、刃をまっすぐ下ろすためのパーツが多いなどである。自分の考えた機構模型と、製品とを比べることで、道具が製品化されるまでには、より効率のよい機構が検討され、材料の強度やコスト、生産性なども合わせて考えられていることを理解させた。その結果、身近な機構の学習を通して、生徒に状況に応じた最適解の概念や製品を多面的に評価する視点をもたせることができた。授業後の生徒のアンケートによると、「製品と自分たちの模型は全然違った。」「他のものも見てみたい。」のような好意的な意見もあり、生活の中に存在するいろいろな機構を評価する意欲ももたせることはできたと考える。この実践が、生徒自身の製作活動時のみならず、既製品を購入する際にも、製品の特徴や利点、欠点など技術的な視点をもって評価し、最適なものを決定する力を育てるきっかけになったと考える。
著者
堀井 直子 前川 厚子
出版者
中部大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

本研究は、使用が簡便な肺がん患者用生活調整尺度(短縮版)の開発を目的として行った。堀井ら(2010)による肺がん患者用生活調整尺度(22項目版)について、新たに263名(平均年齢69.8±7.58)を対象に調査を行った。探索的因子分析の因子負荷量を基準に、短縮版に用いる10項目を選択した。短縮版の下位尺度はいずれも内的一貫性を示した(α=0.657~0.805)。また、22項目版と短縮版の間の相関係数(r=0.858~0.922)から基準関連妥当性も支持された。以上より、短縮版は22項目版と同様の構成概念を測定できることが示唆された。
著者
菊池 彦光 藤井 裕
出版者
福井大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

競合的な交換相互作用を有する一次元量子磁性体は新規な物性が期待される。本研究ではダイヤモンド鎖、三本鎖、ジグザグ鎖磁性体の磁性を調べた。ダイヤモンド鎖の新規化合物の強磁場磁化を測定し1/3磁化プラトーの徴候を見いだした。三本鎖磁性体の現実物質アントラライトとセニックサイトの磁気的性質を研究した。アントラライトは非常に複雑な磁気相図を示すのに対し、セニックサイトは低温まで磁気秩序を示さない。両化合物の構造は類似しているにもかかわらず、磁性は顕著に異なる事から量子相転移が基底状態に存在する事が示唆される。ジグザグ鎖磁性体NaCr2O4において新規な機構に基づく巨大磁気抵抗効果を見いだした。
著者
西原 和久
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

平成18年度は、本科研費研究の国家意識に関する研究課題の遂行のために、海外には、1)中国の南京大学、2)マレーシアのマレーシア国立大学、3)オーストリアのインスブルック大学に赴いた。とりわけ、中国およびオーストリアにおいては、それぞれの機関で学生・研究者に対して複数の講演を実施し、また当地の関係社会学者とかなり突っ込んだ社会学的国家論の議論ができた。すなわちそれは、グローバル化を価値中立的な概念として提出する意義、グローバル化時代に対応した脱国家的な方向性をもった社会学的な近代国民国家論の展開、そしてそのための現象学に影響を受けた問主観性論をもとにした人際(にんさい)関係構築へ向けた土台作り、の意義を持った。またシンガポール国立大学のブライアン・S・ターナー教授などを名古屋大学に招聘し、講演を中心として情報提供いただいた。彼の『被傷性(傷つきやすさ)と人権(Vulnerability and Human Rights)』に関する理論志向性は、申請者の間身体性論を基盤とする間主観性論の社会学的展開に非常に近く、今後の研究協力を約束できた。なお、直接的には今年度の研究実施計画とは関わらないが、今回の科研費の成果を十分にふまえて、フィリピンにおける国際社会科学連盟の大会での講演、および韓国・慶尚大学における倫理教育学会での招待講演を行うことができた。以上が研究成果であるが、これらを基にして各種の論文作成、著書作成,学会報告などをおこなったことを合わせて記しておきたい。
著者
大島 隆幸
出版者
徳島文理大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

研究成果の概要:糖尿病などに代表される生活習慣病の最重要原因は肥満であり、核内受容体型転写制御因子PPAR-gamma は、脂肪細胞の分化制御を介した肥満の倹約因子である。今回我々は、PPAR-gamma のSUMO 化修飾の生理学的意義を明らかにすることを目的に、まずPPAR-gamma2 特異的ノックダウンマウスを作成した。そしてこのマウスは、痩せの大食いと共に、脂肪肝が全く認められないという表現系を示した。
著者
地主 将久 菰原 義弘
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

肺非小細胞癌の自然発癌モデル、ヒト検体を活用して肺非小細胞がんにおけるEGFR-TKIの治療抵抗性に寄与する免疫制御因子を検索したところ、肺腺癌においてM2マクロファージ、MDSCなど免疫抑制系ミエロイド細胞の分化・活性にかかわるシグナル群とEGFR-TKIの治療応答抑制、T790Mなど治療抵抗性遺伝子変異出現率が正の相関を示すことが判明した。さらに、肺非小細胞癌自然発がんモデルに対するCSF-1阻害剤投与により、EGFR-TKIによる効果は相乗的に増強することを解明した。一方PD-1など免疫チェックポイント経路は変化はなかった。肺腺癌における免疫制御経路を同定したうえで重要な成果である。
著者
戸崎 哲彦
出版者
島根大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

現存する『柳宗元集』の南宋刊本は、劉禹錫原編三十巻に属する永州公庫本三十三巻本残巻と、北宋・沈晦校刊四十五巻本に属する韓醇詁訓本、眉山百家註本、魏仲挙五百家註本、鄭定重校添註本、劉怡増広音辯本、廖瑩中刪去註氏本に大別され、さらに後者は韓本と劉本と眉本等の三系統に分けられる。前者は正集とは別に序目一巻を備えた三十一巻であり、また編者・作者の文学観と制作時期を反映した編次になっているが、後者は内容分類によって編次を大きく変えている。眉本は魏本・鄭本・廖本へと継承されているが、韓本と魏本には註を異にする複数の覆刻本が存在しており、鄭本では補修部分に今日亡失する多くの版本と註とが用いられている。
著者
林 浩一 井門 康司
出版者
鳥羽商船高等専門学校
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究では,磁性エラストマー部材の振動特性が,磁場印加から受ける影響について調べた.その結果,磁場印加により磁性エラストマー部材の固有振動数や減衰率は変化するが,減衰率の変化は固有振動数変化の主要因ではないことを明らかにした.また,空気流により励起される磁性エラストマー板の振動は,印加磁場強度に応じて周波数の顕著な変化は確認できなかったが,振幅は変化することを明らかにした.
著者
矢原 徹一
出版者
九州大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
2000

カエル類では、一般に世代が重複し、一メスが一年に複数回産卵し、雌雄間で成熟時の体サイズに差がある。このような条件を備えた生物では、親が季節的に性比を変化させる可能性が理論的に予測される。しかし、カエル類では幼生・幼体期には外見で性別がわからないため、これまで性比の研究は皆無であった。申請者は、共同研究者の向坂・三浦と協力して、ツチガエルの卵を使ってDNA性判定を行う技術を確立した。本研究の目的は、この技術を使って両生類ではじめての本格的な性比研究を行い、親が季節的に性比を変化させる可能性を検討することである。日本産ツチガエルには、性染色体の形態や性差に関して明瞭に異なる2つの系統が分化している。新潟県などの日本海側地域の系統では、性染色体に関してメスがヘテロ(ZW型)だが、静岡県などの太平洋側地域の系統では、性染色体に関してオスがヘテロ(XY型)である。2000年度には、ZW型集団に関して予測どおり親が季節的に性比を変化させていることを明らかにし、論文を公表した。本年度には、XY型集団で性比の季節的変化を調べた。XY型集団では、母親側が性比を調節することは困難であり、そのため性比の季節的変化はないものと予測していた。ところが、DNA性判定の結果、XY型集団においても性比が季節的に変化することが判明した。この結果は、オスがX精子とY精子の比率を調節しているか、あるいはメスがX精子とY精子の受精効率が変わるように卵膜を変化させているか、どちらかを示すものである。いずれにせよ、従来の常識を覆す発見であるため、さらに証拠を固めたうえで、論文を公表したい。
著者
野口 明生
出版者
東京工業大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2004

私の研究課題はAlexander多項式における解析的性質の研究である.この研究は私が行ってきたAlexander多項式をLefschetzゼータ関数という力学系ゼータ関数に翻訳することによって性質を調べる手法をさらに推し進めていくものである.初年度にあたる平成16年度は計画どおりにLefschetzゼータ関数の零点の研究をとおしてAlexander多項式の零点の研究をした.この結果,Alexander多項式の零点のp進数論的振る舞いが,ある力学系のエントロピーの情報を与えていることが解明された.このことは一般的に力学系ゼータ関数と呼ばれるゼータ関数の零点がエントロピーの情報を与えているとされる事実と符合し,Alexander多項式をLefschetzゼータ関数と見なす視点が有効に働くということが確認された.この零点とエントロピーの関係は単にAlexander多項式にゼータ関数としての正当性を与えるだけではなく,以下の2つの応用を導いた.1つは結び目の上で分岐する3次元球面のr重巡回被覆空間に対する1次のホモロジーの位数の指数的増大性をAlexander多項式の零点を使って明示的に記述した。この増大性の問題はGordonに始まりRiley, Gonzalez-Acuna and Shortといった人たちによって研究されてきたもので,今回の研究はそれを引き継ぐものである.もう一つはAlexander多項式の最高次の係数も同様にある種のエントロピーであって,その零点によって明示的に記述することが出来た.Alexander多項式はAlexander加群が有限生成かどうかを判別するという重要な因子であるとされている.しかしこの研究を通じて,この有限性に対する障害は零点の分布によって引き起こされ,最高次の係数はそれらの和になっていることが解明された.
著者
下澤 楯夫 西野 浩史 馬場 欣也 水波 誠 青沼 仁志
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

機械受容は、動物と外界との相互作用の「基本要素」であり、機械刺激の受容機構を抜きにして動物の進化・適応は語れない。従来、機械受容は「膜の張力によるイオンチャネルの開閉」といった「マクロで単純すぎる」図式でとらえられて来た。また、機械感覚の超高感度性の例として、ヒトやクサカゲロウの聴覚閾値での鼓膜の変位量が0.1オングストローム、つまり水素原子の直径の1/10に過ぎないことも、数多く示されてきた。しかし、変位で機械感度を議論するのは明らかに誤っている。感覚細胞は外界のエネルギーを情報エントロピーに変換する観測器であり、その性能はエネルギー感度で表現すべきである。エネルギーの授受無しの観測は「Maxwellの魔物」で代表される統計熱力学上の矛盾に行き着くから、いかなる感覚細胞も応答に際し刺激からエネルギーを受け取っている。コオロギの気流感覚細胞は、単一分子の常温における熱搖動ブラウン運動)エネルギーkBT(300°Kで4×10^<-21>[Joule])と同程度の刺激に反応してしまう。機械エネルギーが感覚細胞の反応に変換される仕組み、特にその初期過程は全く解明されていない。この未知の細胞機構を解明するため、ブラウン運動に近いレベルの微弱な機械刺激を気流感覚毛に与えたときの感覚細胞の膜電流応答の計測に、真正面から取り組んだ。長さ約1000μmのコオロギ気流感覚毛を根元から100μmで切断し、ピエゾ素子に取付けた電極を被せてナノメートル領域で動かし、気流感覚細胞の膜電流応答を計測した。長さ1000μmの気流感覚毛の先端は、ブラウン運動によって約14nm揺らいでいることは計測済みである。先端を切除した気流感覚毛を10-100nmの範囲で動かしたときの膜電流応答のエネルギーを計測し、刺激入力として与えた機械エネルギーと比べたところ、すでに10^6倍ほどのエネルギー増幅を受けていた。従って、機械受容器の初期過程は細胞膜にあるイオンチャンネルの開閉以前の分子機構にあることが明らかとなった。
著者
福嶋 秩子 鑓水 兼貴
出版者
新潟県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

研究代表者は1983年にパソコンを利用した言語地理学データ処理システムSEALを開発した当初から、個別項目の言語地図の描画だけでなく、異なる言語地図の重ね合わせを意図して開発を行い、種々の総合・比較の方法を実践してきた。最近の研究代表者による研究で、過去に行われた旧世代の調査結果と若い世代の新しい調査結果とを比較し変化の跡をたどることができた。本研究では、異なる言語地理学調査データを比較分析する手法をさらに進めた。(1)言語地図の作成・方言分布の解釈について、特に総合の観点から考えた。(2)奄美徳之島及び新潟県で調査を行い、その結果と過去の調査の結果を比較し、その間におきた言語変化について検証した。