著者
小笹 晃太郎 鷲尾 昌一
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.18-24, 2009 (Released:2014-06-13)
参考文献数
19

インフルエンザ予防接種は,インフルエンザに罹患することによって重篤な合併症を生じやすい高リスク者を守るという考え方に基づいて勧奨されているが,高齢者でのインフルエンザ予防接種の有効性は,無作為化対照試験が少なく観察研究に負うところが多く,観察研究にはその実施上種々の課題がある。まず,評価のアウトカムは,できるだけ診断の特異度が高く,誤分類の小さいものが望ましい。しかし,医療機関で診断されたインフルエンザをアウトカムとすると,特異度は高いが医療機関への受診行動や医療機関での診断過程で,ワクチン接種群と非接種群でのインフルエンザ診断の精度に差異の生じることが考えられる。したがって,このような差異的誤分類を避けるために,特異度が比較的高くなくて非差異的誤分類が生じるアウトカムであっても,接種群と非接種群から同じ精度で把握するほうが,正確な評価の観点から望ましい場合もあると思われる。 高齢者を対象としたインフルエンザ予防接種の有効性を評価する従来の観察研究の結果から,ワクチン接種者は非接種者に比べてインフルエンザ罹患や死亡等のアウトカムを生じにくい低リスク者が多く,そのためにワクチンの有効性が過大評価されているのではないかという疑問が指摘されている。このような偏りや交絡を評価して調整するために,インフルエンザ流行期と非流行期,ワクチン合致度の高いシーズンと低いシーズン,大規模流行シーズンと小規模流行シーズン,および特異度の高いアウトカムと低いアウトカムを使用することで有効性の比較を行うことが求められる。いずれも後の群で有効性が低くなることが期待され,そうでない場合には偏りや交絡が残されている可能性が高いので,それらの偏りや交絡を除去して得られる高リスク因子を見いだす必要がある。その結果として見いだされたインフルエンザによる死亡が生じやすい高リスク者,たとえば,基礎疾患と機能性障害を併せ持つような人たちでの有効性の評価と,その人たちに対する接種を進めていくことが望まれる。
著者
有賀 健高
出版者
一般社団法人 環境情報科学センター
雑誌
環境情報科学論文集 Vol.28(第28回環境情報科学学術研究論文発表会)
巻号頁・発行日
pp.223-226, 2014 (Released:2014-12-03)
参考文献数
7

本研究では,風評被害の払拭には福島原子力発電所近辺を産地とする食品に対する消費者意識を把握することが重要であるという立場から,主に消費者の環境意識が,発電所近辺を産地とする食品購入に与える影響について検証した。アンケート調査によって得られたデータの分析から,環境意識の高い消費者ほど原発近辺を産地とする食品に対する購入意欲があることが示された。また環境意識以外の分析から,食品中の放射性物質の規格基準への信頼,高年齢,男性といった要素は購入意欲に正の影響があることがわかった。一方,高所得,高学歴,子供が多い,居住地が原発から離れているといった要素は購入意欲に負の影響を与えることが明らかとなった。
著者
永松 茂樹
出版者
石油技術協会
雑誌
石油技術協会誌 (ISSN:03709868)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2, pp.205-211, 2006-03-01 (Released:2007-09-03)
参考文献数
5

Utilization of heavy crude including unconventional oil may be indispensable to cope with an increasing demand of crude oil in developing countries, such as China and India. Upgrading technologies and processes are, therefore, important for utilizing such heavy oils. In the present paper, upgrading technologies of carbon rejection and hydrogen addition processes are reviewed. Coking and SDA are focused as carbon rejection process. Hydrogen thermal cracking process based on slurry technology is focused as hydrogen addition process. Characteristics of such processes and possibility for integration of SDA and hydrogen thermal cracking are presented.
著者
原 貴敏 垣田 清人 児玉 万実 土井 孝明 安保 雅博
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.228-233, 2014 (Released:2014-05-10)
参考文献数
16

Alien hand syndrome (AHS) is a rare neurologic disorder in which movements are performed without conscious will. Cognitive rehabilitation is usually first considered for treating AHS. However, we proposed different modalities for the treatment. This is the first case report showing therapeutic effects of the NEURO-15 program that consists of low-frequency repetitive transcranial magnetic stimulation and intensive occupational therapy on AHS symptoms and upper limb dysfunction caused by a stroke one year and three months before. A 68-year-old male developed right upper limb palsy secondary to cerebral infarction on the medial side of the left frontal lobe. On admission, he exhibited disturbed skilled motor behavior, compulsive grasping of the right upper limb, and dissociated behavior of the right hand independent from the left. The right hand interfered with the actions executed by the left hand. The left hand restricted the right hand in its actions by holding it. Six months after the onset, his Activities of Daily Living improved and he was discharged from hospital to home. However, his compulsive grasping of the right upper limb symptoms remained, and he underwent NEURO-15 one year and three months after the onset. His right upper limb function improved. Compulsive grasping of the right upper limb disappeared, and the contradictory action of the right upper limb was rarely seen. These results suggested that NEURO-15 influenced the neural network including the primary motor cortex and supplementary motor area.
著者
中里 雅光
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.100, no.4, pp.928-933, 2011 (Released:2013-04-10)
参考文献数
12
被引用文献数
1

近年,肥満者の増加と,肥満を基礎にして発症する糖尿病,脂質代謝異常,高血圧症などの肥満症やメタボリックシンドロームを呈する患者数が増加している.生活習慣病の根底にある肥満の治療は食事療法や運動療法といった生活習慣の変容が基本であるが,現実的には困難であり,減量に成功する症例は少ない.最近,さまざまな摂食調節ペプチドの同定や各因子間のネットワークを含めた摂食調節機構の解析が進んでおり,摂食調節物質そのものや受容体をターゲットにした創薬により,新しい抗肥満薬が開発され実用化されつつある.
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.52, no.10, pp.599-604, 2015 (Released:2015-11-10)

リハビリテーション科医としての開業-在宅医療に特化したクリニックという選択-…神山 一行 599リハビリテーション科単科である当院の歩みと現状…水野 雅康 602
著者
風間 健太郎
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.3-23, 2015 (Released:2015-04-28)
参考文献数
169
被引用文献数
1 5

鳥類が担う多様な生態系機能の大部分は,生態系サービスとして人間に利益をもたらす.そのうち供給サービスや文化サービスは古くから人間に認知されてきたが,基盤サービスや調整サービスの認知度は低く,その価値評価も不十分である.鳥類は捕食,移動,および排泄を通じて,種子散布・花粉媒介,餌生物の個体数抑制,死体の分解・除去,および栄養塩類の循環などの多様な生態系機能を担う.これらは,有用植物の生産性向上,有害生物の防除,生息環境の創成・維持などの利益を人間にもたらす.近年ではこれら生態系サービスの価値を経済的に評価する試みがなされているが,その実例は少ない.主に農耕地生態系において古くから鳥類の生態系サービスを享受してきた日本においては,その理解と価値評価がとくに必要とされる.
著者
日高 紀久江 紙屋 克子 増田 元香
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.361-367, 2006-05-25 (Released:2011-03-02)
参考文献数
15
被引用文献数
5 3

目的: 経管栄養を行っている遷延性意識障害患者 (以後, 意識障害患者と略す) の栄養状態の評価を行い, また在宅や高齢者施設等で簡易に評価可能な栄養評価指標について検討した. 方法: 意識障害患者46名を対象に1) 身体計測, 2) 血液検査, 3) 安静時代謝量から栄養評価を実施し, また栄養状態と関連があると思われる臨床症状と身体計測・血液検査値との関連から評価指標を検討した. 結果: 意識障害患者の平均年齢は76.3±14.3歳であり, 脳梗塞を原因とする患者が最も多かった. 身体計測値においては, 健常者の同性・同年齢の値を標準値として相対値で表した上腕三頭筋皮下脂肪厚 (%TSF) は平均 (Mean±SD) 105.7±39.8であったものの, 上腕筋周囲長 (%AMC), 下腿周囲長 (%CC) は各87.5±11.5, 73.6±9.4であった. 血液検査では, 血清アルブミン (Alb) の平均は3.3±0.5g/dlであり, 46名中35名 (76.1%) は3.5g/dl以下であった. また臨床症状では, 眼瞼結膜が蒼白な患者の血色素量 (Hb)・ヘマトクリット (Ht) の平均は各9.9±2.1g/dl (p<0.01), Ht=29.3±6.6% (p<0.01) であり, さらにAlbも蒼白のない患者に比較して有意に低値であった (p<0.05). 考察: これまで意識障害患者の過剰栄養が留意されてきたが, 本研究ではAlbが3.5g/dl以下であるたんぱく・エネルギー栄養不良 (PEM) のリスク者が多く, 過剰栄養よりむしろ低栄養が問題であることが明らかになった. したがって安静時代謝量の測定や身体・精神機能, 合併症の併発等を考慮しながら定期的に栄養評価を実施し, カロリー調整を行う必要がある. また, 眼瞼結膜はHb・Ht, Albの低下に関連していたことから, 栄養評価指標の一項目となり得る可能性が示唆された.
著者
Seishi KIKUCHI
出版者
The Japan Academy
雑誌
Proceedings of the Imperial Academy (ISSN:03699846)
巻号頁・発行日
vol.4, no.6, pp.271-274, 1928 (Released:2008-03-19)
参考文献数
3
被引用文献数
38
著者
阿部 富弥
出版者
日本蘇生学会
雑誌
蘇生 (ISSN:02884348)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.32-38, 1987-04-25 (Released:2010-06-08)
参考文献数
18
著者
坂田 亮一 勝俣 学 押田 敏雄 島田 裕之 神田 宏
出版者
日本養豚学会
雑誌
日本養豚学会誌 (ISSN:0913882X)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.76-81, 2004-06-20 (Released:2011-06-08)
参考文献数
13

通常の豚肉を用いて, 高温と低pH処理によりPSE様状態を呈する肉を人為的に調製した。調製した豚肉試料がどの程度のPSE状態であるか判定するために, 試料から抽出した筋漿タンパク質の変性程度を透過率 (Transmission Value: TM値) で測定した。その保水性, ならびにソーセージを試作しクッキングロス, 物性などの項目について比較検討を行い, PSE様豚肉における保水性とクッキングロスの関係について調べた。また加熱後の各豚肉ソーセージ試料の色調を測定し, 生肉でのPSE状態との関連性を検討した。PSE処理時のpHの低下に伴いTM値が上昇し, 筋漿タンパク質の変性が顕著に進んだ。ろ紙加圧法による保水性の測定値 (M/T値) は試料のPSE状態が進むに伴い, その値が徐々に低下し, クッキングロスは増加した。用いた試料において, 保水性とクッキングロスの間に負の相関が認められた。また, PSE様肉の保水性とクッキングロスともに, その測定値は対照区より劣る値を示した。色調測定での Hunter 値において, PSE状態の進行とともに正常肉に比べてLおよびb値の上昇とa値の低下が明らかにみられ, L*, a*およびb*も同様の変動を示し, 肉眼的所見からも赤色に乏しく白けた色調を呈した。物性測定の結果では, PSE状態が進むにつれテクスチャーが低下する傾向がみられ, このようなソーセージは商品価値が低いものと判断された。
著者
大原 重洋 鈴木 朋美
出版者
日本コミュニケーション障害学会
雑誌
コミュニケーション障害学 (ISSN:13478451)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.15-22, 2004-04-25 (Released:2009-11-19)
参考文献数
20

自閉症児における疑問詞構文への応答能力の発達過程を検討した.対象は,自閉症児26名であり,統制群として知的障害児26名を選んだ.各対象児の応答可能な疑問詞の種類数を調べたところ,自閉症児も知的障害児と同じ順序で疑問詞構文への応答能力を獲得することが見いだされた.〈S-S法〉の段階における応答可能な疑問詞の種類数を比較検討したところ,自閉症群は,知的障害群と同じ〈S-S法〉の段階でも,応答可能な疑問詞の種類数が少なかった.自閉症児と知的障害児とでは,〈S-S法〉の段階と疑問詞構文への反応の関連が異なることが示唆される.
著者
Maki Takami Wataru Aoi Hitomi Terajima Yuko Tanimura Sayori Wada Akane Higashi
出版者
SOCIETY FOR FREE RADICAL RESEARCH JAPAN
雑誌
Journal of Clinical Biochemistry and Nutrition (ISSN:09120009)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.79-85, 2019 (Released:2019-01-01)
参考文献数
39
被引用文献数
9

Although supplementation with several antioxidants has been suggested to improve aerobic metabolism during exercise, whether dietary foods containing such antioxidants can exert the metabolic modulation is unclear. This study aimed to investigate the effect of intake of the specific antioxidant-rich foods coupled with exercise training on energy metabolism. Twenty young healthy, untrained men were assigned to antioxidant and control groups: participants in the antioxidant group were encouraged to consume foods containing catechin, astaxanthin, quercetin, glutathione, and anthocyanin. All participants performed cycle training at 60% maximum oxygen consumption for 30 min, 3 days per week for 4 weeks. Maximum work load was significantly increased by training in both groups, while oxygen consumption during exercise was significantly increased in the antioxidant group only. There were positive correlations between maximum work load and fat/carbohydrate oxidations in the antioxidant group. Carbohydrate oxidation during rest was significantly higher in the post-training than that in the pre-training only in the antioxidant group. More decreased levels of serum insulin and HOMA-IR after training were observed in the antioxidant group than in the control group. This study suggests that specific antioxidant-rich foods could modulate training-induced aerobic metabolism of carbohydrate and fat during rest and exercise.
著者
Masatoshi KAMATA Shotaro NAGAHAMA Kei KAKISHIMA Nobuo SASAKI Ryohei NISHIMURA
出版者
JAPANESE SOCIETY OF VETERINARY SCIENCE
雑誌
Journal of Veterinary Medical Science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.74, no.2, pp.231-234, 2012 (Released:2012-03-02)
参考文献数
13
被引用文献数
8 16

Behavioral effects induced by intravenous administration of morphine at 0.3, 0.6, 1.2, and 2.4 μg/kg and fentanyl at 5, 10, 20, and 40 μg/kg were evaluated in dogs and cats. In dogs, fentanyl and morphine depressed activity and level of consciousness in a dose- dependant manner. In cats, higher doses of fentanyl stimulated activity temporarily, but excitement, so-called "opioid mania," was not observed. Morphine induced distinctive behavioral changes characterized by sitting with fixed staring, and "opioid mania" was not observed in cats.