- 著者
-
前田 洋介
- 出版者
- 公益社団法人 日本地理学会
- 雑誌
- 地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
- 巻号頁・発行日
- vol.84, no.3, pp.220-241, 2011-05-01 (Released:2015-09-28)
- 参考文献数
- 114
- 被引用文献数
-
3
4
本稿は,英語圏地理学で展開されてきたボランタリー・セクター(VS)研究の歩みと論点を整理することで,日本における研究の方向性を探ることを目的とする.1970年代後半から1980年代にかけ,Julian WolpertとJennifer Wolchを中心に,地理学でVSが本格的に研究されるようになった.先進資本主義国において,福祉国家の再編に伴い,VSが公共サービスの提供主体として期待されるようになる中,地理学は第1に,VSの空間的特徴を示してきた.また,Wolchにより「シャドー・ステート」が議論されてからは,公的資金を通じた政府とVSの関係性に最も焦点があてられ,その背景にある新自由主義の進展とともに批判的に検討されてきた.しかし,最近では,シャドー・ステート概念ではとらえられない両者のより複雑な関係性も示される中,新たな枠組が求められているといえる.その中で,近年のボランティア等の担い手をめぐる研究は,地理学のVS研究を前進させる一つの鍵になると思われる.