著者
前田 富士男
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

西洋絵画は近世以降、物語性に即して線描・明暗・色彩を統合して自然主義的な再現を実践してきた。しかし、1800年頃に始まる近代では、19世紀後半の印象主義の登場や20世紀初頭の抽象絵画の成立が告げるように、色彩表現が圧倒的に重要な役割を演じるようになる。しかし、こうした問題を絵画作品の構造問題として追究する試みは、従来なされていない。われわれが本研究で「色彩メディア」概念をあえて使用するのは、作品構造の変革に対応する色彩表現の変容を追究するためにほかならない。その意味で、本研究では、「オーバーラップ」をキー概念として提示する。印象主義時代に始まる点描やクロワゾニスムは、本質的には、色彩を重層化、オーバーラップする方法以外の何ものでもない。点描やクロワゾニスムについて、画面平面内のある色相と他の色相とのコントラストや視覚混合がこれまで重視されてきた。しかし、そうではない。ある画面層内における色彩の関係づけにとどまらず、その画面層と別種の関係づけをもつ他の画面層とを重ねることが重要なのだ。つまり、色彩の関係化の関係化が問題なのである。それをオーバーラップと呼ぶ。この方法は言い換えれば、画面層そのもののオーバーラップ、つまり、画面のポリフォーカス化を含意する。セザンヌからピカソに連続する表現革新は一般に、色彩とは無関係に論じられるが、そうではない。また、開かれた作品として特徴づけられる近代美術の特性も、色彩とは別次元で理解されてきたが、そうした理解も不十分なのである。本研究は、19世紀後半からの色彩研究の一次資料をドイツ・スイスにて実証的に調査し、その資料の分析にもとづき、色彩メディアのもつ絵画における特性を「オーバーラッブ」と統括し、色彩のオーバーラップこそ、近代絵画の作品構造の変革をも照らしだすとの、新しい視座を提起する。
著者
有賀 玲子 前田 篤彦 小林 稔
出版者
特定非営利活動法人 日本バーチャルリアリティ学会
雑誌
日本バーチャルリアリティ学会論文誌 (ISSN:1344011X)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.119-128, 2012

Consumers are very keen to communicate with a richer set of media and 3D shape is a very intuitive and powerful means of communication. Recently, users and developers have become more interested in capturing, in 3D, things that currently exist. New services will emerge if consumers can access 3D capture devices that are low cost and low effort. Existing 3D scanners take too long and are difficult to set up. We propose a box type capture device with which anyone can rapidly capture whole surfaces of target objects without any complicated operations. This paper proposes the three basic technologies of the capture device and demonstrates their feasibilities.
著者
前田 義信 伊藤 尚 谷 賢太朗 佐藤 輝空 加藤 浩介
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. WIT, 福祉情報工学 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.111, no.58, pp.63-68, 2011-05-13
参考文献数
27
被引用文献数
1

社会問題のひとつである"いじめ"は強者から弱者に対して行われる従来型の一方的な攻撃から,対等な他者との間で加害者と被害者が流動的に入れ替わる双方向の攻撃へとその性質を変容させつつある.当事者はいつ自分が被害者になるか予想することもできない不安を常に持ち,それゆえ対等な他者からの承認を常に必要とする"フラット"な関係が築かれるようになった.また流動性ゆえに,教育者をはじめとする支援者も対策に頭を悩ませている.そこではどのような事態が生じているのか?本稿では,エージェント,価値,エージェントが起こす行動,相互作用で構成される形式的な人工学級モデルを提案し,マルチエージェントシミュレーションによってその現象を調べる.相互作用を繰り返すことによって自分が見出す価値数がゼロになった経験を有するエージェント(いじめ被害者)と,他のエージェントから反感性の行動を連続的に受け続けたエージェント(いじめ被害者の候補=潜在的いじめ被害者)を定義し,その状況を調べた.その結果,交友関係における対立回避i,相補性やべき乗分布に従ういじめの特性が観察され,支援者によるいじめ発見の困難さとの関連性を考察した.
著者
石國 裕一 近堂 徹 前田 香織
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. MoMuC, モバイルマルチメディア通信 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.111, no.203, pp.7-12, 2011-09-01
参考文献数
9

インターネットを利用した映像配信サービスは,利用者の要求や視聴形態が多様化・高度化してきている.これらの変化や要望に対して,配信プラットフォームでは柔軟かつ迅速に対応していくことが求められる.本稿では,利用者の要望する映像の加工などの機能拡張が容易なビルディングブロック方式を採用したゲートウェイによる映像配信プラットフォームの設計と実装について述べる.本プラットフォームの特徴は,ゲートウェイの各機能ブロック(モジュール)の連携を管理・制御することによりユーザからの多様な要求に応じた映像加工処理を柔軟に行える点にある.
著者
松山 優治 岩田 静夫 前田 明夫 鈴木 亨
出版者
日本海洋学会
雑誌
沿岸海洋研究ノート (ISSN:09143882)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.4-15, 1992-08-29
被引用文献数
3

相模湾では時々,急潮が発生し,沿岸に設置された定置網に破損・流失という甚大な被害を与える.本研究では急潮を三例紹介し,その特徴について報告する.二例は沿岸域で急激な水温上昇と水位上昇を伴い,岸を右に見ながら湾を反時計回りに移動することが示された.観測点間の上昇の時間的なズレから,水温変化の移動速度は0.6〜1.0m/sで,水位変化の移動速度は2.0〜3.0m/sと推算された.二例のうち一例(1975年4月23日の急潮)は,黒潮の相模湾への接近が原因と考えられた.他の一例(1988年9月18日の急潮)は台風通過に伴うエクマン輸送で沖合水が沿岸に蓄えられ,それが移動したと推論された.発生原因は異なるが伝播特性は非常によく似ており,水温変化は非線形の内部ケルビン波あるいは回転系での沿岸密度流として,また水位変化は陸棚波の移動として考えると説明ができる.もう一例は反時計回りの循環流に半日周期の内部潮汐が重なって強い流れとなって,網の流失を引き起こした.最大流速は0.8m/sを越え,60m深での水温変化の全振幅は8℃にも達した.
著者
前田 しほ
出版者
日本ロシア文学会
雑誌
ロシア語ロシア文学研究 (ISSN:03873277)
巻号頁・発行日
no.34, pp.75-82, 2002

現代ロシアの代表的な女性作家であるワレーリヤ・ナールビコワは,1958年にモスクワに生まれ,ゴーリキー名称文学大学を卒業し,1988年にЮность誌にデビュー作『昼の星と夜の星,光の均衡Равновесие света дневных и ночных звезд』を発表した。80年代後半から90年代にかけてロシア文学界は,ソ連時代の抑圧から解放された作品群が堰を切ったように登場し,華々しい時代を迎えていた。それらの中でもナールビコワの作品は言語に対する豊かな感性と官能的な言葉の響きで読者を圧倒し,その「過激さ」はソビエトの読書界に大きな衝撃をもたらした。作家アンドレイ・ビートフは上記の作品の序文で,彼女の作品世界は「驚くほど魅惑的で,透明で繊細で」,その文体は「息遣いのように彼女固有のもの」だと賞賛した。その一方で,ナールビコワの作品が保守的な読者や批評家からは大きな怒りと反発を買ったことも指摘せねばなるまい。ウルノフによれば,ナールビコワの小説は「技巧的な言葉使い」によって複雑にされた陳腐なものにすぎない。性や生理を正面から取り上げたため,当時は「スカートをはいたマルキ・ド・サド」「ポルノグラフィ」「官能小説」といった風評が流れたという。しかし実際は,ナールビコワの描写はエロティックではあっても,ポルノグラフィの性質はまったく欠いている。性行為そのものの描写は避けられ,隠楡やほのめかしを駆使した言葉遊びが展開される。エロティックなのは文体のかもしだす雰囲気なのだ。ナールビコワにコンセプチュアリズムとの関連性が指摘されるのも,言葉遊びを駆使した文体ゲームによるところが大きい。代表的な例だけでも,しゃれ,文字・言葉の入換え,くりかえし,否定のнеを多用した言葉遊びなどがあげられる。まるでゲームでもしているかのようだ。また,ロシア古典文学をはじめとして,聖書や史実,おとぎ話,スローガン,子ども向けテレビ番組などからさまざまなテキストが借用される。作品の題名や人物名にもその遊び心はよくあらわれている。これら文体的特徴については別の場で論じているので,本稿では深く立ち入らないが,ナールビコワの官能性は文体と密接に結びついたものである。しかしエロティシズムがいかにして生生れ高められているかという構造を解明するには,文体との関係だけでなく,プロットの面からの考察も必要だろう。従来の議論では,文体の濃密さに対してプロットの稀薄さが目立つと指摘されてきた。確かにプロットは動きが少なく,劇的な変化も展開も期待されない。しかしそれは男女の恋愛に描写を集中するために,それ以外の事物が極力省略されているからだろう。ナールビコワの描く恋愛は常に「不可能」であることを前提とした,いってみれば禁じられた恋だが,まさにこの禁止こそがエロスを生みだす要因である。なお今回の分析にあたっては『一人目のプランと二人目のプランПлан первого лица. И второго』(以下『プラン』と略す)と『オコロ・エコロОкодо зкодо』の二作品を題材とした。
著者
前田 英俊 田崎 信幸 竹内 公博 小川 義雄 松場 貢
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会九州支部会報 (ISSN:02853507)
巻号頁・発行日
no.59, pp.9-12, 1992-12-21
被引用文献数
5

1.平成3年9月14日に台風17号,次いで27目に19号が長崎県に襲来し,水稲に大被害を及ぼした。とくに諌早地域を中心とする県失地帯に大被害を及ぼしたので,31地点の坪刈調査により,被害要因の生態的解析を行った。2.品種による差異 早生の日本晴は被害が最も少なく,早生の晩のヒノヒカリから強く影響を受けており,出穂期の遅い品種ほど被害が大きかった。出穂期から登熟期のごく初期に台風にあったものがとくに登熟歩合への影響が強く,登熟が進んでいたものは影響が少なかった。また,出穂期の遅い品種ほど粒厚の薄い方に分布が多くなった。3地形による差異 海岸近接地および平坦地で直接海からの暴風にあった地点での被害は著しいが,回りを山に囲まれ風をあまり受けなかった地点は影響が少なかった。4.海岸からの距離による差異 海岸から離れるほど収量,品質ともに向上した。とくに海岸から2.5?以内に作付されたものは品質低下が著しく,塩分濃度の高い潮風がこの範囲までは強く吹いたことを示した。
著者
中村 高宏 前田 卓志 松下 雅仁
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. PRMU, パターン認識・メディア理解 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.105, no.674, pp.167-172, 2006-03-10
参考文献数
6

指紋認証装置はコストの性能のバランスのよいバイオメトリクス認証技術として最も普及している.本報告では,指紋特徴点の照合処理において,照合相手指紋の特徴点と一致しない特徴点(不一致特徴点)を従来のように一律に切り捨てるのではなく,不一致特徴点に対しても「真の相手側特徴点と一致しない真の特徴点かどうか」を示す「真の不一致特徴点らしさの信頼度(不一致信頼度)」を評価して照合スコアに反映することにより,他人指紋の判別精度を向上するという照合方式を提案する.実験により,不一致特徴点を真偽評価なしに一律に扱う従来の照合手法とは異なり,本人指紋の拒否エラー率がほとんど変化することなく,他人指紋の受容エラー率のみが改善されることを示す.
著者
飯田 修一 春原 嘉弘 前田 英郎
出版者
農業技術研究機構近畿中国四国農業研究センター
雑誌
近畿中国四国農業研究センター研究報告 (ISSN:13471244)
巻号頁・発行日
no.3, pp.57-74, 2004-03
被引用文献数
5

「LGCソフト」は農業生物資源研究所放射線育種場で1992年に低アミロース良食味の低グルテリン米品種の育成を目的に,「ニホンマサリ」の低アミロース突然変異系統の「NM391」を母とし,低グルテリン米系統「LGC1」を父として人工交配を行いF1を養成し,F2から,近畿中国四国農業研究センター(旧中国農業試験場)において育成された品種である。2000年から「中国173号」の系統名で奨励品種決定調査等の試験を行ってきた結果,2002年9月3日に「水稲農林381号」に登録され,「LGCソフト」と命名された。「LGCソフト」は低グルテリン,低アミロース,良食味という新しい特性を持った新品種であり,タンパク質摂取制限が必要な腎臓病患者等の病態食等の利用が期待される。「LGCソフト」の特性の概要は以下の通りである。1 出穂期及び成熟期は「エルジーシー1」,「ニホンマサリ」とほぼ同じで「コシヒカリ」より4日程度遅く,育成地では早生の晩に属する粳種である。2 稈長は「エルジーシー1」,「ニホンマサリ」より8cm程度短い短稈で,穂長は「ニホンマサリ」並かやや短く,穂数は「エルジーシー1」,「ニホンマサリ」と同程度である。草型は偏穂数型である。3 収量性は「エルジーシー1」,「ニホンマサリ」よりやや劣る。4 耐倒伏性は,「エルジーシー1」,「ニホンマサリ」と同じやや強である。5 品質は,低アミロースのため糯種に近い白濁があるが,この点を除けば「エルジーシー1」,「ニホンマサリ」並の中である。6 食味は水加減を15%程度減じた場合,「エルジーシー1」,「日本晴」より明らかに良好である。また,「エルジーシー1」に「LGCソフト」を33~40%程度混米をした条件でも「日本晴」より食味が良好となる。7 白米中の易消化性タンパク質のグルテリン含量が低く,難消化性タンパク質のプロラミンが多い。8 米の用途としては慢性腎不全患者の病態食としての利用が考えられる。9 いもち病抵抗性遺伝子はPiaを持つと推定され,葉いもち圃場抵抗性,穂いもち圃場抵抗性はともに中である。10 白葉枯病抵抗性は中,縞葉枯病抵抗性に対しては罹病性で,穂発芽性はやや難である。「LGCソフト」は,中国,四国,近畿,東海から関東に至る地域の平坦地帯から中山間地帯に適すると考えられる。低タンパク質にするため多肥栽培はしない。登熟気温が低いとアミロース含量が増加する。栽培にあたっては,直播栽培,多肥栽培を避け,異品種の混入を注意する。また,腎臓病等への病態食として用いる場合には専門医,栄養士の指導を受ける。
著者
柿崎 淑郎 前田 陽二 辻 秀一
雑誌
研究報告情報システムと社会環境(IS)
巻号頁・発行日
vol.2013-IS-124, no.1, pp.1-7, 2013-05-31

本稿では,属性を集約して管理する属性プロバイダ [1] において,ユーザの代理人として属性交換を制御する e-執事を提案する.e-執事は属性プロバイダの一機能として,サービスプロバイダからの属性要求に対して,属性交換の可否を判断したり,属性開示の粒度を設定したりする.また,e-執事は属性交換の履歴を記録することで,ユーザが把握しきれない属性交換の全容を管理し,ユーザを支援する.
著者
千葉 昌幸 漆嶌 賢二 前田 陽二
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.676-685, 2006-03-15
参考文献数
12
被引用文献数
5

インターネットおよびE コマースの進展により,氏名,住所,資格情報などの"個人属性" 情報がインターネットを通じて様々な場所で交換されているが,同時に個人情報漏洩のリスクもまた急速に大きくなってきている.インターネットサービスにおいても個人情報保護法を遵守し,適切に個人属性を管理できる仕組みが求められている.本稿では,オープンな標準技術に基づき相互運用性の高い環境の下,個人属性を安全に交換,管理する情報化基盤「属性情報プロバイダ」を提案する.属性情報プロバイダは,運用システムの安全性について第三者機関の認定が得られた複数のサービス事業者により構成されるものである.利用者は,属性情報プロバイダに個人属性を登録および委託することで,以後は直接取引相手に渡すのではなく,利用者の同意を得たサービス提供者にのみ属性情報プロバイダを介して個人属性を安全に渡す.ネットワークプロバイダ,PKI などとともに今後,情報ネットワークの重要な基盤になると期待される.According to explosive growth of the Internet and e-commerce "personal attribute" information such like a name, a postal address and some qualifications have been exchanged on it. However privacy risk has been rapidly raised at the same time. Thus proper personal attribute management has been required conforming to the Personal Data Protection Law enacted in April 2005. In this paper we will propose the "Personal Attribute Provider" which is an infrastructure for secure exchange and management of personal attribute based on open standards that will provide higher interoperability. Some part of personal information will be registered and entrusted to the provider which should be founded by trusted authorized organization then user, attribute provider and service provider which can be online shopping site can exchange the personal attribute on the agreement with the user. Distributed management of personal attribute which relies on the federation of multiple attribute providers can reduce irreparable damage of privacy and digital signature technology used in the attribute provider can offer authenticated personal attribute to service provider. This paper describes the investigation result for it as it should be important commonly used infrastructure on the information network as well as network providers and PKI are in the future.
著者
前田 明彦
出版者
高知大学(医学部)
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2002

Q熱(Coxiella burnetii以下Cb感染症)の臨床像を明らかにすることを目的に、発熱性疾患、原因不明の脳髄膜炎、および、不定愁訴を伴う不登校の小児を対象に、Cb感染症の病因的関与について、血清学的および分子細菌学的検討を行った。Cbゲノムの検出にはPCR法を、血清診断としては、蛍光抗体法による、I相菌抗体、II相菌抗体の各々IgG、IgM抗体を測定した。小児6例をQ熱と診断した。全例で、ペット飼育歴があり、遷延性の発熱(19日間〜7カ月間)が主訴であった。随伴症状に特異的なものはなく、不明熱2例、呼吸器感染症から髄膜炎に進展した例、SLE様症状、4カ月間持続する易疲労性のため不登校を呈した例など非特異的かつ多彩な症状を呈した。診断根拠は、全例血液中Cb-PCR陽性で、髄膜炎の1例を除いてCb抗体の上昇が確認され、他の感染症、自己免疫疾患は否定し得た。明らかな免疫不全症を有さないにもかかわらず、異なった複数の常在菌による敗血症を合併した例が2例認められた。4例においてはミノサイクリン、ドキシサイクリンの2〜3週間投与が奏効した。慢性Q熱と診断した3歳男児例では、テトラサイクリン系薬剤は無効、Cbの標的食細胞のアポトーシスを誘導するIFN γ投与が有効であったが、投与中止後に再発死亡した。肝脾腫、慢性疲労症候群を呈した2例では、Cbゲノムが間歇的に陽性となり、年余にわたる長期の治療、フォローアップが必要であった。不明熱ではQ熱を積極的に疑うことが、診断に重要であることが確認された。不登校を主訴とする12歳例はアジスロマイシンの間歇的投与により、Cbゲノムの陰性化に伴い、易疲労性および不登校は改善した。不登校児ではQ熱を鑑別することが必要である。
著者
永田 晴紀 渡辺 三樹生 伊藤 光範 前田 剛典 戸谷 剛 工藤 勲
出版者
一般社団法人日本機械学会
雑誌
スペース・エンジニアリング・コンファレンス講演論文集 : Space Engineering Conference (ISSN:09189238)
巻号頁・発行日
vol.2004, no.13, pp.1-4, 2005-01-20

Small-scale reusable sounding rocket system is under development to provide means of stratosphere observation and three-minutes microgravity experiment. The propulsion system is a hybrid type that uses solid fuel (plastics) and liquid oxygen as propellants and free from explosives, resulting in the dramatically reduced launch cost. To enhance the burning rate of the solid fuel and to augment the thrust, the rocket has employed a new fuel grain design. This new design, named CAMUI as an abbreviation of "Cascaded Multistage Impinging-jet", allows mixing and combustion to occur around stagnation points on fuel surfaces. Successful launch experiments using a 50-kgf CAMUI engine have proved the feasibility of the basic idea of the system. Finally, possible configurations of the stratosphere observation vehicle and the microgravity test vehicle are presented.
著者
前田 君江 (2002-2003) 尾沼 君江 (2001)
出版者
東京外国語大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2001

1.昨年度に引き続き、イランの現代詩人シャームルーAhmad Shamlu(1925-2000)に関する研究を行った。今年度は、シャームルーの政治的思想と作品との関わりから、さらに進んで、彼が1950-60年代におけるイラン詩の状況の中でうち立てた、独自のジャンルと詩論についての研究を行った。2.シャームルーは、イラン詩において初めて、she'r-e mansur「非韻律詩」のジャンルを確立した詩人である。本研究では、歴史的にshe'r-e mansur(「散文の詩」)と呼ばれてきた作品を分析することによって、ペルシア詩におけるshe'r-e mansur概念の再考を試みた。これによれば、ペルシア語のshe'r-e mansurは、従来、prose poetryと訳されてきたが、形態的には、文学研究一般で言われるところの「散文詩」ではなく、avant garde free verse(「完全自由詩」)と呼ばれるものに近い形であることが明らかになった。しかし、同時に、she'r-e mansurが、「詩」において必要不可欠であるとされてきた「韻律」を排除したために、「散文」であるとみなされ、かつ、she'r-e mansur自体もまた、韻律の存在に関わりなく、詩が「詩たらしめるもの」を追求するという点で、「散文詩」と同様の文学史的課題を背負ってきたことを明らかにした。3.韻律形式は、現代においてもなお、ペルシア文学において、絶対的な価値をもつものであり、これを侵すことの意味もまた重大であった。シャームルーが、詩から韻律を排除するに際して、うち立てた概念のひとつが、「純粋詩」である。本研究担当者は、シャームルーの「純粋詩」の思想を、ペルシア詩において、新しい「詩」概念の形成として捉え、これを分析した。これによれば、第一に、シャームルー詩作論においては、「それ自体の形態をもった詩が、おのずから生まれてくる」という、彼の個人的な感覚が、非韻律詩創出の契機となっていることが指摘できる。また、第二に、シャームルーの主張する無意識性が、たとえば、「自動記述」において見られるような、無意識の利用ではなく、外界における体験が詩人の感覚を支配する力の強さを確信している点で、特徴的であることが明らかになる。4,さらに、シャームルーが事実上、詩作のうえでの師として位置づけたニーマー・ユーシージNima Yushij(1897-1960)の詩論の分析を通し、両者の詩学上の対立点が、詩における韻律リズムの存在に関するものだけでなく、詩と詩のフォルムとの関係をめぐるものであった点を明らかにした。
著者
西保 岳 林 恵嗣 本田 靖 近藤 徳彦 小川 剛司 前田 清司
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2013-04-01

体温上昇性の換気亢進による動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)低下が脳血流などの循環反応に及ぼす影響、さらに、意識的な呼吸調節によってPaCO2を増加させることで、脳血流量や血圧反応が改善されるかどうかについて検討した。暑熱下一定負荷運動時及び安静時体温上昇時において、深部体温上昇性の換気亢進反応を意識的な呼吸調節によって抑制できること、さらに,このように意識的に換気亢進を抑えることで、深部体温上昇に伴う脳血流量の低下が抑制されることが初めて示唆された。