著者
前田 薫 生駒 美穂
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.251-258, 2018-10-25 (Released:2018-11-07)
参考文献数
19

【目的】がん患者の痛みを緩和するために,オピオイドを漸増し,結果的に非常に高用量となる症例をしばしば経験する.今回,がん患者のオピオイド投与量に影響する因子について検討した.【方法】2009年1月1日から2014年12月31日までに新潟大学医歯学総合病院緩和ケアチームが関与した患者のうち,20歳以上で固形がんと診断され,オピオイドの処方を開始から死亡まで当院で行った症例について,電子カルテによる後ろ向き調査を行った.オピオイド徐放製剤の量に応じてA群(経口モルヒネ換算で120 mg/日未満),B群(同120 mg/日以上300 mg/日未満),C群(300 mg/日以上)の3群に分け,オピオイド量に影響する因子について検討した.【結果】対象は109名.A群は51名,B群は33名,C群は25名であった.C群では他群に比べ年齢が低く,オピオイドの投与期間が長く,増量幅が大きく,神経浸潤が多かった.【結論】がん患者において,若年,長いオピオイドの投与期間,オピオイドの増量幅が大きいこと,神経障害性痛の要素が,高用量のオピオイド投与に影響する可能性が示唆された.
著者
今井 信雄 前田 至剛
出版者
学校法人 関西学院大学先端社会研究所
雑誌
関西学院大学先端社会研究所紀要 (ISSN:18837042)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.27-41, 2010 (Released:2020-03-31)

本稿は都市の空間構造の変容について、旧日本軍の軍用地を核として歴史的に跡づけ、その社会学的な意義を指摘するものである。それら「軍都の空間」が、都市の空間形成(地方都市のみならず大都市圏においても)にとって決定的であったというのが、中心的な枠組みである。本稿では、旧日本軍が占有していた「軍用地」を持つ地域として三重県と群馬県を取り上げる。そして、三重県の地方都市、群馬県の地方都市において、軍都の空間がどのように都市形成の核となってきたのかを素描する。 アメリカの都市社会学を範として発展してきた日本の都市社会学は、できるだけその理論に適合的な事例を取り上げ、理論を組み立ててきた。戦勝国のアメリカでは、軍用地の非軍用施設への転用という事態が行われなかったのであり、日本の社会学は軍施設の転用という都市形成の重大な契機を見落としてきてしまったのだろう。本稿では、軍都の空間の変容をみていくことで、日本における新しい都市空間の社会学を構想するものである。
著者
笹田 耕一 松本 行弘 前田 敦司 並木 美太郎
雑誌
情報処理学会論文誌プログラミング(PRO) (ISSN:18827802)
巻号頁・発行日
vol.47, no.SIG2(PRO28), pp.57-73, 2006-02-15

本稿ではオブジェクト指向スクリプト言語Ruby を高速に実行するための処理系であるYARV: Yet Another RubyVM の実装と,これを評価した結果について述べる.Ruby はその利用のしやすさから世界的に広く利用されている.しかし,現在のRuby 処理系の実装は単純な構文木をたどるインタプリタであるため,その実行速度は遅い.これを解決するためにいくつかの命令実行型仮想マシンが提案・開発されているが,Ruby のサブセットしか実行できない,実行速度が十分ではないなどの問題があった.この問題を解決するため,筆者はRuby プログラムを高速に実行するための処理系であるYARV を開発している.YARV はスタックマシンとして実装し,効率良く実行させるための各種最適化手法を適用する.実装を効率的に行うため,比較的簡単なVM 生成系を作成した.本稿ではRuby の,処理系実装者から見た特徴を述べ,これを実装するための各種工夫,自動生成による実装方法について述べる.また,これらの高速化のための工夫がそれぞれどの程度性能向上に寄与したかについて評価する.
著者
前田 幸男
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.72, no.2, pp.2_326-2_349, 2021 (Released:2022-12-15)
参考文献数
44

本稿の目的は、ある特定のヒトの繁栄のために他のヒトおよびヒト以外の種を犠牲にしている状況を受けて、ノン・ヒューマンからのシグナルを 「声」 という形で拾い上げていくことはいかにして可能かという問いに応答することにある。本稿はいかにしてデモクラシーの主体をヒトに限定せずに構想できるかという問いに応答するものでもある。これにより環境破壊の阻止という実質的結果も得ることを目指すことを意味する。本稿はまた、ヒトが生態系と地球全体に与え続けている負荷に対して、気候危機や新型コロナ危機などのノン・ヒューマンから人類に挑戦が仕掛けられているという問題構成に立脚して議論を行っている。 そのためにまず第1節と第2節で自由民主主義体制の限界地点を確認し、第3節でそれを超えようとする熟議民主主義、第4節で 「モノゴトの議会」 の議論を経由したアゴーン的デモクラシーに焦点をあてる。第5節で政治的主体のノン・ヒューマンへの適用の仕方についてジェーン・ベネットを参照しながら論じる。第6節でノン・ヒューマンの立憲主義的な新展開について論じ、最後に生命の豊饒さをデモクラシーの豊饒さとして反映させ、ヒトとノン・ヒューマンとの関係性を戦争から政治へ転換させていくための課題を挙げることで論を閉じる。
著者
前田 壮志 大木 哲史 坂野 鋭
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 A (ISSN:09135707)
巻号頁・発行日
vol.J105-A, no.12, pp.175-178, 2022-12-01

耳認証系に対するオクルージョンの影響を,制御可能な変動を含まないデータベースに対して,画像処理的にオクルージョンを加えることで認証系に与える影響を調べた.オクルージョンとして,髪,イアフォン,イアリングを想定した人工的なオクルージョンを与えた認証実験を行ったところ,異なった画像記述子を用いた系であっても耳上部及び耳孔付近のオクルージョンの影響が最も大きいという事実が明らかになった.
著者
橋本 泰典 宮田 章正 大友 教暁 前田 朝平 松木 明知
出版者
日本蘇生学会
雑誌
蘇生 (ISSN:02884348)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.176-178, 2001-07-20 (Released:2010-06-08)
参考文献数
9

51歳の女性が自殺目的にクロルプロマジン, フェノバルビタールなど8種類の薬物を服用後発見され, 本院に搬送された。来院時, 直腸温24℃で意識レベルはJCSで300, 瞳孔散大, 対光反射も消失していた。心電図上, 心室性頻拍と心室細動を繰り返した。ただちに気管挿管後, アドレナリン投与, 15回の電気ショックで除細動を行い成功した。復温を開始し, 中枢温が30℃に回復した頃から呼名開眼, 対光反射を認めた。搬入12時間後には体温も37℃に回復し, 脳波も正常となり抜管した。神経学的に後遺症を残さず回復した理由として, クロルプロマジンなどの神経節遮断薬と睡眠薬を大量に服用していたため, 低体温麻酔と同様の状態になっていたことが関与したと考えられた。
著者
山口 武志 影山 和也 中原 忠男 岡崎 正和 前田 一誠
出版者
全国数学教育学会
雑誌
数学教育学研究 : 全国数学教育学会誌 (ISSN:13412620)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.1-20, 2017-01-27 (Released:2019-01-17)
参考文献数
20

It is still very difficult for children to understand the meaning of division although various efforts for the improvement of teaching division have been implemented. Therefore overall researches which both capture difficulties and misconceptions of various kinds of division systematically and propose better way of teaching and learning of it to overcome them are required. From this perspective, as the first step of our research, we developed six sets of test of division, for fifth and sixth graders in the elementary school and first graders in the junior high school, which could reveal difficulties of understanding the meaning of division systematically. In six sets of test, various factors of story problems of division which will be expected to affect the percentage of correct answers, such as effect of the order or value of the dividend and the divisor, effect of figures, number lines, word expressions, key words and so on, were taken into account. It is the main reason for us to develop new tests why most of previous test or studies of division only focused on specific grade or specific kind of division such as division with fractions which children have difficulties. We conducted the longitudinal and cross-sectional survey with six tests for children at both elementary schools and junior high schools located in three prefectures: Okayama, Hiroshima and Kagoshima. This article reported results of children’s performance of solving problems of “partitive division and the extension of its meaning”, and analyzed children’s difficulties and misconceptions of them in terms of various factors of story problems of division.
著者
渡邉 聡 前田 洋枝
雑誌
鈴鹿大学・鈴鹿大学短期大学部紀要 人文科学・社会科学編 = Journal of Suzuka University and Suzuka Junior College Humanities and Social Sciences (ISSN:24339180)
巻号頁・発行日
no.1, pp.129-142, 2018-03-15

本論文は、倫理的消費やソーシャルビジネスに参入する消費者ならびに生産者の行動動機と、それを支える経済・社会的メカニズム(「倫理的市場」と呼ぶ)を、経済学的に明らかにすることを目的としている。結果として、倫理的市場を形成するには、倫理的消費とソーシャルビジネスをつなぐプラットフォームの媒介的機能が必要であること、また、チャリティーショップを事例に、家庭におけるボランティアの参加が倫理的市場を形成する要因になることを示した。
著者
前田 健
出版者
日本弁理士会
雑誌
別冊パテント (ISSN:24365858)
巻号頁・発行日
vol.75, no.27, pp.35-55, 2022 (Released:2022-11-24)

近時,製品(商品及びサービスを含む)の単位・対価関係が明確ではないビジネスモデルの重要性が増している。本稿は,それらの「新たな」ビジネスモデルを①複数の製品の組合せ,②複数の顧客グループの組合せ,③同一顧客グループ内での価格差別に分類し,実際の裁判例を分析して損害額算定上の課題を抽出した。売上げ減少の逸失利益の算定においては,事実的因果関係を有する損害額を算定するために,①権利者製品・侵害者製品の確定,②それら製品の付随品も①に含めてよいか,③侵害がなかった場合に侵害者が提供し得た代替製品の認定が論点となる。議論に際しては,独立かつ完結していると評価し得るものであって支払われる一群の対価が密接不可分といえる範囲のものを,製品の単位と捉えるべきだろう。また,仮に保護範囲を限定する立場を採るなら④売上げに対する知的財産の寄与度の認定も論点になるが,排他権を行使すれば確保し得たすべての逸失利益が保護範囲に含まれると考えるべきだろう。ライセンス料相当額の算定は,理念的には侵害者利益の一部を権利者に分け与えるよう行うべきだが,同様に①~④の要素が重要となる。
著者
前田 真理子 小島 道生
出版者
障害科学学会
雑誌
障害科学研究 (ISSN:18815812)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.249-259, 2022-03-31 (Released:2022-10-01)
参考文献数
15

先行研究において、ダウン症児の平仮名の濁音・半濁音、特殊音節の読み書き能力には音韻情報処理能力の関与が示されている。本研究では、音韻情報処理能力を伴う濁音・半濁音、特殊音節の読み書き指導を実施し、指導の在り方を検討した。対象児は、特別支援学校に通う小学4 年生~6 年生のダウン症女児3 名であった。アセスメントの結果、A児は濁音・半濁音の読み書き能力、B児は特殊音節の読み能力、濁音・半濁音の書き能力、C児は濁音・半濁音の読み書き能力、特殊音節の読み能力の向上を目的とした指導を行った。その結果、ダウン症児に対しての特殊音節の読み能力、濁音・半濁音の書き能力の指導に音韻情報処理能力の指導が影響していることが示唆された。また、オンライン指導では、ラポート形成や回答しやすい問題形式等の配慮を行うことで課題への取り組みやすさにつながる可能性が示された。
著者
佐井 佳世 久保 尚士 櫻井 克宣 玉森 豊 前田 清
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.82, no.7, pp.1339-1343, 2021 (Released:2022-01-31)
参考文献数
8

症例は86歳の男性.心窩部不快感を主訴に近医を受診し,内視鏡検査で胃角部小彎に3型進行胃癌を指摘され,当院を受診した.諸検査で,cT3N2M0 Stage IIIと診断し,手術の方針とした.術中所見では肝門部リンパ節,総肝動脈リンパ節,左胃動脈リンパ節が累々と腫大しており,根治的切除を断念し,胃切除のみを行った.術後にTS-1を開始するも,術後10カ月目のCTで転移リンパ節の増大を認め,ラムシルマブ併用パクリタキセル療法に変更したが,リンパ節は縮小せず,術後19カ月目よりニボルマブの投与を開始した.術後22カ月目のCTでリンパ節腫大は消失したが,ニボルマブによる下垂体機能低下症が出現し,投与を中止した.術後40カ月現在,再発なく生存中である.転移再発胃癌に対するニボルマブの奏効率は11%程度と報告され,中でも完全奏効は極めて稀である.今回,ニボルマブを投与し完全奏効を得て長期生存中の切除不能進行胃癌を経験したので報告する.
著者
宗像 昭子 鈴木 利昭 新井 浩之 横井 真由美 深澤 篤 逢坂 公一 松崎 竜児 三浦 明 渡辺 香 森薗 靖子 権 京子 金澤 久美子 宮内 郁枝 鈴木 恵子 久保 和雄 尾澤 勝良 前田 弘美 小篠 榮
出版者
The Japanese Society for Dialysis Therapy
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.34, no.13, pp.1525-1533, 2001-12-28 (Released:2010-03-16)
参考文献数
14

今回我々は, 当院で維持血液透析を施行している安定した慢性腎不全患者59名を対象患者として, ベッドサイドにて簡便に使用できるアイスタット・コーポレーション社製ポータブル血液分析器i-STATを用いて, 透析前後で全血イオン化Ca (i-Ca) 濃度を測定し, 血清T-Ca濃度との関係について検討し, 以下の結果を得た.1) 透析前後における血清T-Ca濃度, 全血i-Ca濃度は, それぞれ9.43±0.90→10.54±0.70mg/dl (p<0.05), 1.26±0.10→1.30±0.07mmol/l (p<0.0001) と, いづれも有意な増加を示した. 2) Caイオン化率は, 53.43±0.03→49.55±0.04% (p<0.001) へと透析後有意に低下した. この原因として, 血液pHの変化の影響が考えられ, 血液pHとCaイオン化率との間には明らかな負の関係が認められた. 3) 透析前後における, 血清T-Ca濃度と全血i-Ca濃度の関係について検討したところ, 透析前ではy=7.507x+0.015 (r=0.839; p<0.001) と強い正の相関が認められたが, 透析後においては, 全く相関が認められなかった. この点について, pHならびにAlbを含めた重回帰分析法を用いて検討したところ, T-Ca=3.369×i-Ca+5.117×pH-32.070 (r=0.436, p=0.0052) と良好な結果が得られた. 4) 透析前後の全血i-Ca濃度の測定結果から, 容易に血清T-Ca濃度を換算できるノモグラムならびに換算表を作成した.以上の結果より, ポータブル血液分析器i-STATを用いた, ベッドサイド (“point-of-care”) での全血i-Ca濃度の測定とノモグラムの利用は, 透析室においてみられるCa代謝異常に対して, 非常に有用であると考えられる.
著者
前田 豊樹 三森 功士 牧野 直樹 堀内 孝彦
出版者
一般社団法人 日本温泉気候物理医学会
雑誌
日本温泉気候物理医学会雑誌 (ISSN:00290343)
巻号頁・発行日
pp.2318, (Released:2018-10-26)
参考文献数
22

これまで温泉治療が様々な疾患に療養効果があることは示されてきたが,一般的にどのような疾病に予防効果があるのかは示されていない.また,温泉入浴の禁忌症は示されているものの,某かの疾病の発症を促進する可能性についても知られていない.このような状況を踏まえて,筆者らは,平成24年度から3カ年間,65歳以上の高齢別府市民2万人を対象に,温泉の利用歴と各種疾患の既往歴に関するアンケート調査を実施し,その解析結果を先頃論文報告した.結果は,性別によって分かれており,温泉入浴が,男性においては,心血管疾患の予防に寄与し,女性では,高血圧に予防的に働くが,膠原病などの発症には促進的に働く可能性などが示唆された.このように,温泉は必ずしもすべての疾患の予防に働くわけではなく,一部促進する場合もあり得ることが伺えた.この疫学調査から伺える予防的効果には,温泉の効能としては期待されてこなかったものやこれまで示されてきた効能に反するものが含まれている.本編では,様々な疾患に対する温泉の予防効果と治療効果のずれという観点から,アンケートによる疫学調査をレビューする形で紹介したい.