著者
加藤 淳子
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2015-04-01

再分配における平等の問題は、福祉国家研究のみならず、哲学や思想などでも重要課題である一方で、その背後にある動機付けや心理過程については、直接のデータをもって分析されることはなかった。本研究は、福祉国家の所得階層構造(高中低所得層)を踏まえ実際の再分配の問題を考えるため、仮想社会における再分配ルール決定の際の参加者の脳の活動をfMRIで計測することで、平等をめぐる心理過程の解明した論文を自然科学英文専門誌に掲載し、社会科学の分野から複合分野である脳神経科学へ参入に成功した。また、脳神経科学実験を行う際に、政治学の行動分析の知見がどのように役に立つか方法論的考察も行い社会科学専門誌にも寄稿した。
著者
今枝 奈保美 後藤 千穂 加藤 利枝子 服部 奈美 山本 和恵 小田 敦子 田中 秀吉 藤原 奈佳子 徳留 裕子 徳留 信寛
出版者
特定非営利活動法人 日本栄養改善学会
雑誌
栄養学雑誌 (ISSN:00215147)
巻号頁・発行日
vol.69, no.5, pp.229-240, 2011 (Released:2011-10-25)
参考文献数
41
被引用文献数
1 1

【目的】地域在住高齢者のビタミン摂取量分布を観察し,摂取量評価や栄養計画がまだ十分に実践されていないビタミン群(α-カロテン,β-カロテン,β-カロテン当量,クリプトキサンチン(以下Cry),葉酸,V.B6,V.B12,V.E,パントテン酸)と,従来から評価されてきたビタミン4種(V.A, V.B1, V.B2, V.C)との相関を観察し,栄養計画の効率化を検討する。【方法】健康な地域在住高齢者242人を対象に,隔日4日間の食事を調査し,ビタミン摂取量の分布,分布を正規化する変換係数,個人内分散と個人間分散の分散比を観察した。ビタミン間の関連はデータを正規化後,エネルギーを調整した偏相関係数で評価した。【結果】不足者割合が高かったのは,V.A, V.B1, V.B2, V.B6, V.Cであった。個人内/個人間の分散比はV.D,V.B12 で男女とも高値,V.K,葉酸,V.C,は男性で低値,V.B2 は男女とも低値であった。次にV.B2 の摂取量はV.B6,葉酸,パントテン酸の摂取量と相関が高く,V.CはV.K,V.B6,葉酸との相関が高かった。V.AとCryの相関は低かった。【結語】偏相関係数の観察から,4種のビタミンを増やすよう食事計画すると,β-カロテン,レチノール,V.K, V.B6,葉酸,パントテン酸の摂取増加が期待できるが,Cry, V.D, ナイアシン,V.B12 に関しては独立した食事計画が必要であることが示唆された。
著者
加藤 毅
出版者
日本高等教育学会
雑誌
高等教育研究 (ISSN:13440063)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.61-79, 2010

<p> 大学を取り巻く経営環境の悪化や,求められる経営の質の高度化・複雑化を受けて,大学職員に対する期待や要求が高まりつつある.断絶的ともいえる大きな改革を実現するための有効な手段となることが期待されるSD に関して,過去十数年間の間にさまざまな議論が蓄積されてきた.そこで展開されるSD 論は,意欲ある大学職員を励まし,時には理論的支柱となり,あるいは旺盛な学習意欲を受け止めるという重要な機能を果たしてきた.同時に,SD の必要性に関する社会的認知も高まり,SD 論に対して,個別性の高い具体の問題状況に応えることが求められるようになりつつある.</p><p> ところが現実には,現時点においてSD は,大学経営の効率化や高度化という目的を達成するための,可能性を有する手段の一つに過ぎない.そのため,本来であればSD の有効性に関する説得的な議論や,質の高い職員を効率的に養成するためのSD の在り方の解明がすすめられるべきところ,「権威主義的な考え方」のもとで,SD 論はこういった課題への取り組みをほとんど行ってきていない.最近になってようやく,大学院教育を含む研修全般について,業務実績と結びつけることの重要性が認知されるようになり,そのための方策が模索されはじめた.</p><p> 他方,これからのSD の在り方を考える上で必須と考えられる現状の理解水準についても,十分とはいえない.例えば,大学経営の現場では,従来型業務の効率化や高度化は依然として大きな課題として残されており,これに加えて,問題発見や課題解決などの業務に対応するための新たな取り組みが求められつつある.正反対の性質を持った2つの要求の板挟みにあい,大学職員は引き裂かれつつある.この重要な動向についても,従来のSD 論ではほとんど理解されていない.</p><p> このような問題状況の中で,本研究では,我が国において実践されている先進的な研修の試みについて,インテンシブな調査および分析を行った.その結果,業務と研修が一体化することにより,業務の効率化と高度化が同時に実現するとともに,担当者に求められる新しい実務能力も着実に向上する,という,SD における新たな構図(OJD<sup>2</sup>)の可能性を見いだした.そしてこの構図の延長上に,先進的な大学の現場で,業務プロセス全体が研修プログラムとして機能するというスタイルのマネジメントがすでに展開されていることを発見した.</p>
著者
田中 一範 北脇 城 保田 仁介 加藤 淑子 本庄 英雄 岡田 弘二
出版者
近畿産科婦人科学会
雑誌
産婦人科の進歩 (ISSN:03708446)
巻号頁・発行日
vol.42, no.4, pp.493-498, 1990 (Released:2011-07-05)
参考文献数
25
被引用文献数
1

Congenital defect of the vagina is estimated to occur once in every 4, 000-5, 000 female births, and about 5% of those women have a funcitioning uterus. We present a case of congenital defect of the vagina with functioning uterus. The patient was a 15-year-old girl, who had had cyclic lower abdominal cramping since 12 years of age. Her height was 155 cm and her weight 55 Kg. Her vital sings were normal, and her secondary sexual characteristics were adequate. The basal body temperature was biphasic. On pelvic examination, the external genitalia were normal. The vagina terminated blindly 1 cm inside the introitus. Rectal examination revealed that the uterus was normal in size and shape. Chromosome study showed a 46XX karyotype. Intravenous pyelography revealed no urinary tract anomalies. We selected simple surgical reconstruction of the vagina with uterine conservation. The uterine body was incised vertically to reveal a bicornate uterine cavity which ended blindly above the hypoplastic and non-canalized cervix. The blind termination of the vagina was incised and elongated, and.the potential vaginal cavity was canalized and dilated. Stenosis of the neovagina was prevented by the insertion of a Hegar's cervical dilator (no. 18) for ten minutes every night and sanitary tampons during the daytime. Cyclic and painless menstruations now occur without any stenosis or consequent infection.Other reports of congenital defect of the vagina with functioning uterus are summarized and discussed.
著者
加藤 元一郎
雑誌
神経心理学 : Japanese journal of neuropsychology (ISSN:09111085)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.24-26, 2010-03-25
参考文献数
3
著者
岩田 博夫 加藤 功一 笹井 芳樹 滝 和郎
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2002

胚性幹細胞(ES細胞)からのインスリン産生細胞の分化誘導:マウスまたカニクイザルのES細胞から米国NIHのMcKayらの報告した分化誘導法を基本に研究を進めてきた。インスリン陽性細胞には2種類のタイプが存在し、一つはインスリン染色で細胞全体が強く染色される小さな細胞、他はインスリン染色で細胞質のみ染色される比較的大きな細胞であった。また、サブカルチャーを行っても常にインスリンの免疫染色が陽性になる細胞が存在した。さほど高効率ではないが、間違いなくインスリン産生細胞へと分化誘導できていると考えている。高効率にインスリン分泌細胞を分化誘導するために、Tet systemを利用してカニクイザルサルES細胞内でPDX-1遺伝子発現を制御することによりインスリン分泌細胞へと分化誘導する方系を作成した。ES細胞からのドーパミン産生細胞の分化誘導:PA6細胞のConditioned Medium中の成分とポリイオンコンプレックス形成法を用いて表面を試作し、この表面上でES細胞をドーパミン産生細胞へと分化誘導した。また、PA6細胞のConditioned Mediumを用いてES細胞を浮遊培養しドーパミン分泌細胞への分化誘導を行った。培養30日後においてもドーパミンの検出ができた。中空糸内にカニクイザルES細胞を封入した後、PA6細胞の順化培地中で培養を行ったところ、効率よく神経細胞へと分化した。免疫隔離膜:PEG脂質を用いて細胞表面を細胞に障害を与えることなく極めて薄い層で覆うことができた。カプセル化による体積増加が極めて小さい生細胞マイクロカプセル化法として極めて有力であると考える。ヒトES細胞:ヒトES細胞使用許可の取得が諸般の事情で遅れ、平成18年3月10日付けでヒトES使用計画の大臣確認書が交付された。このため大部分の仕事はマウスES細胞とカニクイザルのES細胞を用いて研究を行った。
著者
加藤 勇気 小山 総市朗 平子 誠也 本谷 郁雄 田辺 茂雄 櫻井 宏明 金田 嘉清
出版者
東海北陸理学療法学術大会
雑誌
東海北陸理学療法学術大会誌
巻号頁・発行日
vol.28, 2012

<b>【はじめに】 </b>動的バランス能力低下を引き起こす要因として、足底感覚の低下が報告されている。その機序の一つとしては、機械的受容器の非活性化が示唆されている。臨床では、機械的受容器の賦活にタオルギャザーや青竹踏みが用いられている。しかし、刺激量が定量化できない事、随意運動が不十分な患者では施行できない事が問題となっている。近年、経皮的電気刺激(transcutaneous electrical stimulation以下TES)を用いた機械的受容器の賦活が報告され始めている。本手法は、刺激量が定量化でき、随意運動が不十分な患者でも施行できる利点がある。過去報告では、下腿筋群に対する運動閾値上のTESによって、足底感覚と動的バランス能力の改善を認めている。しかし、感覚鈍麻を認める患者においては、可能な限り弱い強度での電気刺激が望ましい。本研究では、足底に対する運動閾値下のTESによって動的バランス能力が向上するか検討した。<br><b>【方法】 </b>対象は健常成人17名(男15名、女3名、平均年齢24.6±3.2歳)とし、10名をTES群、7名をコントロール群に分類した。TES装置はKR-70(OG技研)を用いた。電極には長方形電極(8㎝×5㎝)を使用し、足底、両側の中足骨部に陰極、踵部に陽極を貼付した。TESは周波数100Hz、パルス幅200us、運動閾値の90%の強度で10分間連続して行った。コントロール群は10分間安静を保持させた。動的バランス能力の評価にはFunctional Reach Test(FRT)を用いた。FRTの開始姿勢は、足部を揃え上肢を肩関節90°屈曲、肘関節伸展回内位、手関節中間位とした。対象者には指先の高さを変えない事、踵を拳上しない事を指示し、最大前方リーチを行わせた。測定は2回行い、その平均値を算出した。統計学的解析は、各群の介入前後の比較に対応のあるt検定を用いた。本研究の実施手順および内容はヘルシンキ宣言に則り当院倫理委員会の承諾を得た。対象者には、評価手順、意義、危険性、利益や不利益、プライバシー管理、目的を説明し書面で同意を得た。<br><b>【結果】 </b>TES群は介入前FRT 34.6±3.2㎝、介入後36.9±3.2㎝と有意な向上を認めた。一方で、コントロール群は介入前34.3±1.9㎝、介入後34.6±2.0㎝と有意差は認められなかった。<br><b>【考察】 </b>足底に対する運動閾値下のTESは、動的バランス能力を向上させた。過去の報告で用いられた下腿筋群に対する運動閾値上のTESの作用機序としては、筋ポンプ作用によって末梢循環が改善され、機械的受容器が賦活されたと示唆されている。したがって、本研究における運動閾値下のTESの作用機序は異なるものであると考えらえる。運動閾値下のTESは、刺激部位の機械的受容器や上位中枢神経系の賦活が報告されている。機械的受容器の感受性改善は、足底内での細かな重心位置把握を可能とし、上位中枢神経系の賦活は、脊髄反射回路の抑制によって協調的な動作を可能にすると考える。今後、足底に対する運動閾値下のTESと重心動揺、上位神経系との関係を明らかにすることで、動的バランス能力向上の機序がより明確になると考える。<br><b>【まとめ】 </b>本研究によって足底に対する運動閾値下のTESが動的バランス能力を向上させることが示唆された。
著者
安藤 香織 大沼 進 安達 菜穂子 柿本 敏克 加藤 潤三
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.1-13, 2019

<p>本研究では,環境配慮行動が友人同士の相互作用により伝播するプロセスに注目し,調査を行った。友人の環境配慮行動と,友人との環境配慮行動に関する会話が実行度認知や主観的規範を通じて本人の環境配慮行動の実行度に及ぼす影響を検討した。調査は大学生とその友人を対象としたペア・データを用いて行われた。分析には交換可能データによるAPIM(Actor-Partner Interdependence Model)を用いた。その結果,個人的,集合的な環境配慮行動の双方において,ペアの友人との環境配慮行動に関する会話は,本人の環境配慮行動へ直接的影響を持つと共に,実行度認知,主観的規範を介した行動への影響も見られた。また,ペアの友人の行動は実行度認知を通じて本人の行動に影響を及ぼしていた。結果より,友人同士は互いの会話と相手の実行度認知を通じて相互の環境配慮行動に影響を及ぼしうることが示された。ただし,環境配慮行動の実施が相手に認知されることが必要であるため,何らかの形でそれを外に表すことが重要となる。環境配慮行動の促進のためには環境に関する会話の機会を増やすことが有用であることが示唆された。</p>
著者
中村 達也 野村 芳子 加藤 真希 北 洋輔 鮎澤 浩一 小沢 浩
出版者
日本重症心身障害学会
雑誌
日本重症心身障害学会誌 (ISSN:13431439)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.445-449, 2016-12-01 (Released:2019-04-01)
参考文献数
14

大脳基底核損傷後には、咽喉頭の知覚低下により、不顕性誤嚥を来すことが多い。咽喉頭の知覚低下改善に、黒胡椒嗅覚刺激が有効であるとする先行研究があるが、これを小児に適応した報告はない。今回、黒胡椒嗅覚刺激により嚥下機能が改善した小児症例を経験した。症例は1歳3カ月時、脊髄梗塞後に生じた心肺停止による蘇生後脳症のため大脳基底核を損傷した。安静時の嚥下反射は認めず、気管内吸引は頻回であったが、味覚刺激時には嚥下反射惹起を認めた。また、嚥下造影検査では咽喉頭に嚥下前の食物の残留を認めるも誤嚥は認めなかったことから、咽喉頭の知覚低下が唾液貯留の主な原因と判断し、2歳3カ月より黒胡椒嗅覚刺激を行った。気管内吸引回数を指標に、A1B1A2B2デザインで検討したところ、黒胡椒嗅覚刺激時には気管内吸引回数が徐々に減少する傾向がみられ、最終的には1日数回程度まで減少した。黒胡椒嗅覚刺激は、本症例の咽喉頭の知覚を改善し、良好な唾液嚥下の契機となった。これは、黒胡椒嗅覚刺激が小児の咽喉頭知覚の改善にも有用である可能性を示唆する。
著者
加藤 綾子
出版者
一般社団法人 経営情報学会
雑誌
経営情報学会 全国研究発表大会要旨集
巻号頁・発行日
vol.2013, pp.302-305, 2013

デジタル技術の進展に伴い従来の産業構造が変化している。この変化を捉えるために先行研究では、レコード産業を対象にデジタル録音技術が形成する2つの道筋と同産業の進化モデルの第四段階を示した。デジタル技術は既存市場の最盛期を牽引したが、他方で個人制作やDIY的生産活動の顕在化を招いた。進化の第四段階では制作・管理機能が一部で統合化するが、他方で生産消費者の制作物が従来型の管理層を必ずしも必要とせず流通小売プラットフォーム上に登場し得ると指摘された。本報告は、この進化モデルについて他のメディア・コンテンツ産業や情報産業などへの応用可能性や一般化可能性を検討するために、産業構造論や産業組織論の観点から考察する。