- 著者
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土`谷 敏治
高原 純
平林 航
- 出版者
- 公益社団法人 日本地理学会
- 雑誌
- 日本地理学会発表要旨集
- 巻号頁・発行日
- vol.2014, 2014
Ⅰ.はじめに<br> 本来鉄道は,通勤・通学,買い物,通院,観光,用務などの諸目的を実現するため,その目的地に到達する移動手段の1つであり,鉄道に乗車すること自体が目的ではない.しかし,諸目的のうち観光については,鉄道が単なる移動手段だけではない場合が考えられ,鉄道そのもの,あるいは鉄道に乗車することが観光の目的となりうる.新納(2013)によると,鉄道をはじめとする乗り物は,①観光地への移動手段,②観光資源をみるための移動手段,③それ自体が観光資源となるものの3つの位置づけが可能であるとしている.すなわち,①は他の目的達成のための派生需要に過ぎないが,②と③は鉄道自体が目的の本源的需要であるとする.<br> 静岡県の大井川鐵道は,旧国鉄の蒸気機関車が全廃された後,SL列車の運行を最初に復活させ,さらに定期的に運行していることで知られる.収支面や技術面などさまざまな側面からの検討がなされた結果,1976年にSL列車の大井川本線での運行が開始され(白井,2013),明らかにSL列車自体を観光資源と位置づけた経営をしている.しかし,これまで利用者に対して,その属性や観光利用の特色について調査したことがないという.これを踏まえて,本研究では大井川鐵道のSL列車利用者について,その諸属性,旅行目的とその特色を調査・分析し,利用者の側面から大井川鐵道の観光利用の特色と今後の課題について検討することを目的とする. <br><br> Ⅱ.調査方法<br> 今回の調査は,大井川鐵道のSL列車利用者,すなわち,観光目的での大井川鐵道利用者を対象としている.このため,調査は2013年10月19日(土)と20日(日)の2日間にわたって実施した.両日は,いわゆる秋の観光シーズンの週末,土曜日と日曜日に相当する.また,大井川鐵道でもこの日から11月末までを観光シーズンの重点期間と位置づけており,19日に観光シーズンに向けての列車ダイヤ改正を実施した.<br> アンケート調査は,2日間3往復6列車の車内で,利用者に調査票を配布し,利用者自身が記入する方式で回答を求めた.主な質問項目は,年齢・性別・居住地等の利用者の属性,個人・家族・団体等の同行者構成,旅行日数,大井川鐵道乗車回数,観光の目的などである.また,SL列車の利用パターンを明らかにするため,SL列車の停車駅間で,乗車中の旅客数を数え,輸送断面を作成した.<br><br> Ⅲ.調査結果の概要<br> 2日間の調査によって,SL列車の旅客輸送断面とその特色が明らかになるとともに,アンケート調査の結果,503人から有効回答がえられた.<br> 1.SL列車の利用は,往路の下り千頭行きが中心で,上り新金谷行きは往路の半分程度以下の利用である.また,ツアー客を中心に,新金谷・家山間の区間利用がみられ,上り列車利用促進,全区間乗車促進策が求められる.<br> 2.SL列車の利用者は,いわゆる中高年の女性中心という観光客の一般的特色に比べ,広い年齢層にわたっていることが明らかになった.また,鉄道が対象ということもあり,比較的男性の利用者が多い.その居住地は,愛知県,三重県,岐阜県など中部地方が多く,距離的に大きな差がない東京都,神奈川県など南関東からの誘客が課題である.<br> 3.SL列車利用者の旅行目的は,SL列車に乗車することに集中しており,SL列車以外の観光目的への誘導が必要である.<br> 4.SL列車利用者は,一人旅をはじめ,夫婦旅行・家族旅行・友人同士などの個人旅行と,旅行会社のツアーやグループ旅行などの団体旅行に2分される.前者は,大井川鐵道までの交通手段として,家族旅行を中心に自家用車の利用が多い.ただし,夫婦旅行や一人旅のように同行者人数が少ないとJR線利用が増加する.後者は,ツアーバス利用が基本である.また,団体旅行に比べ個人旅行では,SL列車乗車以外の旅行目的の割合が高まる.<br> 5.SL列車利用者は約1/4が再訪者で,比較的リピーター率が高い.さらに,再訪者ほどSL列車乗車以外の旅行目的をもつ場合が多い.<br> 以上の結果から考えられる今後の課題としては,区間利用の対策として,蒸気機関車はもちろん,旧型客車,駅や検修設備を含めた大井川鐵道全体の特色・魅力をこれまで以上に利用者に伝え,車内・駅での見学の機会を増やすことが求められる.SL列車乗車に偏重した旅行目的,片道乗車への対策として,沿線・沿線以外の静岡県内の観光地・観光施設の活用・連携と広報,ツアーを企画する旅行会社への働きかけ,JR各社との協調,各種マスメディアの活用も重要である. 参考文献<br>白井昭 2013.保存鉄道とは技術と文化の継承である。(インタビュー).みんてつ44:20-23.<br>丁野朗 2013.観光資源としての地域鉄道.運輸と経済73(1):10-17.<br>新納克広 2013.鉄道経営と観光 ―派生需要と本源需要―.運輸と経済73(1):4-9.