著者
高橋誠 吉澤寛之
雑誌
日本教育心理学会第61回総会
巻号頁・発行日
2019-08-29

文部科学省(2015)では,小規模校の児童・生徒の傾向として,集団の中で自己主張をしたり,他者を尊重する経験を積みにくく,社会性やコミュニケーション能力が身につきにくい,児童生徒の人間関係や相互の評価が固定化しやすい,などの特徴を持つ可能性が指摘されている。Sullivan(1953)によると,児童期には,他者に対して偏見をもつ傾向があり,子どもの集団の中では,頭が良い,社交的,運動神経がよい,等によって,「人気がある」,「ふつう」,「不人気」などと児童自身が判定される「社会的批判」がなされるという。これらより,小規模校では流動的な関係をもつことができる環境とは異なり,一度他者を根拠のない一方的で,主観的な見方で捉えるようになると,その関係を変化させることは難しくなると考えられる。全国的に学校の小規模化が予測されていることからも,人間関係の固定化は喫緊の課題に位置づけられる。 本研究では,人間関係が固定化される小規模校の児童における社会性の課題を明らかにするため,ある県内で調査を実施し,自治体統計を指標とした地域クラスター間で子どもの社会性の比較をする。方 法(1) 調査対象校抽出を目的とした小学校の分類 A県内の369校の小学校を,人間関係の固定化に影響すると考えられる自治体統計(人口密度・転入率・転出率)と当該小学校の学級数を指標として,潜在混合分布モデルによる分析を行った。4から7クラスターまでの分析結果を比較し,適合度やエントロピーに基づき6クラスターを採用した(AIC=-1867.870,BIC=-1660.598,SBIC=-1828.748,Entropy=.961)。Figure 1に示す特徴をもつ,6つのクラスターに分類された。対象校については,各クラスターから各市町村の平均学級数に近い学校を2校ずつ,特定の町(第1著者の勤務地域)は全小学校が抽出された。(2) 測定尺度と調査対象 「人間関係形成」はキャリア意識尺度(徳岡他,2010),「自己制御」は社会的自己制御尺度(原田他,2008),「共感性」は児童用多次元共感性尺度(長谷川他,2009),「偏見」は偏見尺度(向田,1998),「権威主義」は権威主義的態度尺度(吉川・轟,1996)を用いて測定した。抽出された小学校(19校)で2018年12月に調査を実施し,回答に不備のない児童1737名(4年男子83名,女子65名;5年男子381名,女子411名;6年男子384名,女子413名)のデータを分析した。結果と考察 分布の非正規性を考慮し,クラスターを独立変数,各尺度を従属変数とした対応のない平均順位の差の検定(クラスカル-ウォリス検定)を実施した結果,すべての変数で有意となった(χ2(5)=11.373~66.463,ps <.01)。多重比較の結果,人口密度や転入,転出が多い地域(クラスター2)は,他地域よりも人間関係形成,自己主張,感情・欲求抑制,共感的関心,権威主義が有意に高かった。流動的な環境であると,様々な人と触れ合う経験を積むことで,人間関係形成能力が高まるといえる。人口密度が高くても転入や転出が少ない地域(クラスター1)は,人間関係形成や自己主張が有意に低かった。人口密度が高くても,流動的でない環境では,人間関係形成能力が向上しにくいと言える。逆に,人口密度が少なくても,転入・転出が多い地域(クラスター3)は,視点取得が有意に高かった。流動性のある環境では,他者の視点で考える能力が高まると言える。また,人口密度や転入・転出が少ない地域(クラスター4,5)は,共感的関心が有意に低かった。固定化された人間関係で生活することで,その集団内での自分の立場が決まってしまい,他者への思いやりも困難になると考えられる。 今後は,地域クラスター間の差に影響する要因を明らかすると同時に,人間関係が固定化される小規模校の子どもの社会性を育成する実践の開発が求められる。
著者
北井 克佳 吉澤 聡 マシエルフレデリコ 鍵政 豊彦 稲上 泰弘
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.39, no.11, pp.3044-3053, 1998-11-15
参考文献数
20
被引用文献数
2

並列計算機のスケーラビリティを活かした並列ネットワーキング方式について検討した.複数のネットワーク・インタフェースを用いて同一クライアントと双方向通信を可能とするOSの機能拡張により,並列通信による通信性能の向上とインタフェース間の負荷の均一化によるシステム性能の向上を図った.32ノード構成の研究用並列計算機Paradise (Parallel and Data?way Oriented Information Server)を用いて評価した結果,6並列通信で転送量50MB以上の場合には通信性能が5.6倍に向上した.This paper discusses the parallel networking feature that supports performance scalability to the number of network interfaces.On our experimental parallel processor,Paradise(Parallel and Data-way Oriented Information Server),we have developed a new IP routing feature that allows every network interface to communicate to and from the same client processor,thus providing scalable high-performance communication not only for a single session by using multiple network interfaces,but also for total system throughput by balancing the sessions among the network interfaces.The results of performance evaluation,using six Ethernet nodes on Paradise,ATM-LAN and three workstations,has demonstrated the effectiveness of this parallel networking feature.
著者
山本 竜也 三宅 博行 山口 秀樹 吉澤 望
出版者
日本建築学会
雑誌
日本建築学会環境系論文集 (ISSN:13480685)
巻号頁・発行日
no.783, pp.451-461, 2021-05
被引用文献数
1

<p>While improvements in the energy-saving performance of buildings are required, productivity improvements and health management are also getting more necessary due to work style reforms. This trend demands the development of new methods which enable us to quantitatively assess the physiological and psychological quality of the built environment from the design stage. In terms of the light and visual environment, spaciousness is one of the factors that affect the comfort, intellectual productivity, and health of users of interiors.</p><p>In this research, definition of "spaciousness" by Inui will be used, but the purpose of this study was to propose a comprehensive quantitative spaciousness evaluation index of the interiors, including spaces of different sizes and shapes, considering various factors related to light and visual environment.</p><p>In recent years, technological developments have made complex data processing possible and expanded the range of experiment methods. VR technology is one of them, and there are many merits of using it in promoting spaciousness evaluation, such as to virtually compare spaces that are separated from each other by a great distance. This research aims to verify the validity of using VR with HMDs for spaciousness evaluation, through subject experiments in six real spaces with different volumes and usages. Volumes ranged from a minimum of 35 m<sup>3</sup> to a maximum of 1,969 m<sup>3</sup>, and vertical illuminance ranged from 30 lx to 720 lx at the subject's observation position. Openings were blocked from line of sight and daylight was shut off by closing the blinds. VR spaces with several lighting environments for each space were reproduced. In experiments using ME method, we compared and verified the cases where the real space and the VR space were used as the reference stimulus for the comparative stimulus of the real space. Major findings are as follows:</p><p> 1) In order to verify how well the VR space could reproduce the real space from the point of view of the optical environment, we compared the luminance of the targeted real space and the VR space, and found that high-luminance parts could not be reproduced on HMD: Oculus Quest, which has an output limit of approximately 100 cd/m<sup>2</sup> or higher in luminance. However, the overall luminance balance, including main parts such as the floor, walls, and ceiling, could be well reproduced on VR display.</p><p> 2) There were no statistically significant differences (5% level) in 62 pairs among 65 pairs. As to the remaining 3 pairs, the light source had a large effect on the reproducibility of luminance and the relative error from the real space was relatively large. In particular, when the subject's evaluations were divided around 2.0, as in Experiment III, where the reference stimulus was 120lx and the comparative stimulus was 30lx, a reversal phenomenon occurs in which the average luminance of the real space of 30 lx including the light source is larger than that of the VR space of 120 lx including the light source due to the influence of the large light source. In conclusion, it is approximately possible to use the VR space, which does not cause luminance problems, as a reference stimulus for spaciousness evaluation.</p>
著者
田邊 純 成松 翔太 石栗 太 飯塚 和也 増山 知央 横田 信三 吉澤 伸夫
出版者
宇都宮大学農学部
巻号頁・発行日
no.48, pp.117-121, 2012 (Released:2013-10-08)

林木育種において,苗木の木材性質及び曲げ性能の評価は,材質優良家系の早期選抜のために重要である。本研究では,4年生少花粉品種由来のスギ2家系(南会津4及び東白川9)を用いて,木材性質及び曲げ性能を評価し,材質の早期選抜の可能性を検討した。成長形質,木材性質及び曲げ性能に関して,使用した2家系間に有意な差が認められた。容積密度及び晩材仮道管S2層ミクロフィブリル傾角(MFA)は,スギ未成熟材における過去に報告された値とほぼ同様の値(30°)を示した。苗木の曲げヤング率(MOE)は,気乾密度及びMFAと関係があったことから,MFA及び気乾密度によって,MOEを早期推定できることが示唆された。しかしながら,供試した材料のほとんどに圧縮あて材が存在していた。そのため,苗木を用いてMFAを指標として材質を早期評価するためには,圧縮あて材の存在に注意すべきであることが明らかとなった。
著者
小沢 慶彰 村上 雅彦 渡辺 誠 冨岡 幸大 吉澤 宗大 五藤 哲 山崎 公靖 藤森 聡 大塚 耕司 青木 武士
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和学士会雑誌 (ISSN:2187719X)
巻号頁・発行日
vol.75, no.6, pp.696-700, 2015 (Released:2016-09-10)
参考文献数
8

直腸腫瘍に対し砕石位にて手術施行後に下肢コンパートメント症候群を合併した2例を経験したので,その予防対策とともに報告する.症例1は61歳男性.直腸癌に対し腹腔鏡下低位前方切除術施行した.体位は砕石位,下肢の固定にはブーツタイプの固定具を用い,術中は頭低位,右低位とした.手術時間は6時間25分であった.第1病日より左下腿の自発痛と腫脹を認めた.後脛骨神経・伏在神経領域の痺れ,足関節・足趾底屈筋群の筋力低下を認めた.下肢造影CTで左内側筋肉の腫脹と低吸収域を認めた.血清CKは10,888IU/Lと高値,コンパートメント圧は22mmHgと高値であった.左下腿浅後方に限局したコンパートメント症候群と診断し,同日筋膜減張切開を施行した.術後は後遺症なく軽快した.症例2は60歳男性.直腸GISTに対し腹会陰式直腸切断術を施行した.体位,下肢の固定は症例1と同様であり,手術時間4時間50分であった.術直後より左大腿~下腿の自発痛と腫脹を認めた.術後5時間には下腿腫脹増悪,血清CKは30,462IU/Lで,コンパートメント圧は60mmHgと高値であった.左下腿コンパートメント症候群と診断,同日筋膜減張切開を施行した.術後は後遺症なく軽快した.直腸に対する手術は砕石位で行うことが多いため,下腿圧迫から生じる下肢コンパートメント症候群の発症を十分念頭におく必要がある.一度発症すれば重篤な機能障害を残す可能性のある合併症であり,砕石位を取る際には十分な配慮をもって固定する必要がある.また,発症した際には早期に適切な対処が必要である.当手術室ではこれらの臨床経験から,砕石位手術の際に新たな基準を設定,導入しており,導入後は同様の合併症は認めていない.それら詳細も含めて報告する.
著者
鈴木 学 放生 雅章 小林 信之 篠原 有香 高崎 仁 吉澤 篤人 杉山 温人 工藤 宏一郎 豊田 恵美子
出版者
一般社団法人 日本結核病学会
雑誌
結核 (ISSN:00229776)
巻号頁・発行日
vol.83, no.10, pp.661-666, 2008-10-15
参考文献数
14
被引用文献数
2

〔背景〕わが国の結核罹患率は近年減少傾向にあるが,外国人結核は増加傾向(2000年5.1%から2003年6%)を示している。在日外国人登録数も年々増加しており,今後も外国人入国が増加することが予想される。〔目的〕当センターにて入院加療を行った外国人結核症を対象に,臨床的特徴について検討し,過去の報告と比較することにより,現在の外国人結核対策の問題点を明らかにし,今後とるべき対策についても提言を行う。〔対象〕当センターで2004年1月から2007年4月の間に結核症の診断にて入院加療を行った52症例を対象とした。〔結果〕男性29人,女性23人,年齢は31.8±8.8歳。出身国は中国,韓国が多く,有空洞症例は54%で,薬剤耐性は8.2%に認められた。治療完遂率は92%であった。〔考察〕以前の報告に比べて,耐性率は減少し治療完遂率は増加していた。治療完遂率の向上は日本版DOTSの推進,医療費の公費負担や言語の問題への対応など,社会全体的な体制の整備が大きく寄与したと考えられる。今後も結核蔓延国からの入国が増えることが予想されるため,新たな対策により,新規結核症を早期発見,早期治療することに加えて入国後の健康増進支援に努めることで罹患率の低下,治療完遂率の上昇を図るべきであると考える。
著者
原田 脩平 加藤 仁志 栗林 朋宏 轟木 信彦 吉澤 和真 松澤 正
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.F3P3585, 2009 (Released:2009-04-25)

【目的】マッサージにおいて効果が大きいとされている血液循環改善について検討した.本研究では下腿にマッサージを施行し,その前後の末梢側(足背)と中枢側(大腿)それぞれの皮下血流量の変化を明らかにすることを目的とした.【対象】対象者は循環障害などの疾患に問題のない健常大学生15名(男子9名,女子6名,平均年齢20.7±1.3歳)とした.ヘルシンキ宣言に基づき全対象者に同意を得た.なお,本研究は群馬パース大学の研究倫理委員会の承諾を受けて実施した.【方法】対象者を背臥位にして,マッサージ施行前後で末梢・中枢側の皮下血流量と血圧を測定し比較した.皮下血流量を測定するプローブは末梢側では足背,中枢側では大腿前面中央に貼付した.マッサージ試行の3,2,1分前のデータを測定し,基準値を決定した.続いて左下腿部に10分間マッサージを施行し,終了直後,5,10,15,20分後のデータを測定した.手技は下腿全体へ軽擦・圧迫・揉捏法を施行した.また,マッサージ施行前後に最大・最小下腿周径を測定し比較した.統計学的分析はWilcoxonの符号付順位検定にて行った.【結果】マッサージ施行後に末梢側・中枢側共に血流量が増加した(p<0.05).両者の変動は類似しており,5分後に減少し再び上昇した後,徐々に下降した.収縮期血圧において施行直後に低下がみられ,その後に大きな変動はなかった(p<0.05).下腿周径は最大・最小共に,施行後に減少した(p<0.05).【考察】マッサージ施行後に血流が増加したのは,マッサージにより滞っていた末梢側の血液が中枢側へ送られ,施行部の静脈管やリンパ管が空虚になり,そこへ新しい血液が急激に流れ込んだために血流量が上昇したと考えた.また,血流の変動は血流の上昇により中枢側へ流れ込んだ血流が滞り,血流量は5分後には施行前に比べ減少した.その後,滞っていたリンパ液が徐々に左静脈角で静脈に吸収されたことでリンパの流れが再び改善し,血管の周囲に張り巡らされているリンパ管による圧迫も軽減したことで,10分後の血流は再び上昇したと考えた.中枢側と末梢側による血流変化量については,同様な変化を示したため,浅・深膝窩リンパ節より上位のリンパ本幹で滞っていることが示唆された.血圧については,マッサージ施行により静脈環流量,心臓への血液流入量が増加した.それに伴い一回拍出量や心拍出量も増加したことで圧受容器が感知し,血管を拡張させた.これにより血管抵抗が低下し,血圧が低下したと考えられた.下腿周径において,施行前 後で有意にその値が低下したのは,末梢に滞っていたリンパ液が中枢側に還流されたためと考えた.本研究により,皮下血流量の上昇,血圧の低下,下腿周径の減少が認められたため,マッサージの血液循環の改善は認められた.
著者
吉澤 俊
出版者
上田女子短期大学
雑誌
紀要 (ISSN:21883114)
巻号頁・発行日
vol.44, pp.99-109, 2021-01-31

マチエール(matière)は、現代の絵画において重要な位置を占めながら、印刷物・タブレット等による「イメージ」を中心とした「鑑賞」では、結果的に排除されることも多い。本論では、マチエールの中でも、絵画平面と空間とのまさに「境界」にあたり制作の最終的な到達点となる「表層」に焦点を当て、「被膜層」、「絵画層」、「表層に対する時間的変容」という三つの視点を手がかりに、作家の主題表現における表層の役割について代表的作品をもとに論じていく。その上で、「実制作」を通して主題表層の具体的な技法の活用方法を探ることにより絵画表層の表現技法の可能性を明らかにする。
著者
吉澤 圭介
雑誌
情報処理学会研究報告ソフトウェア工学(SE)
巻号頁・発行日
vol.2002, no.64(2002-SE-138), pp.27-34, 2002-07-11

組込みソフトウェア開発における開発規模の尺度(サイズメトリクス)としてスケールポイント法を考案した。スケールポイントとは入出力を行う機器の数・画面数・通信コマンド数という開発規模と関係の深い3つの指標から求めるものである。開発規模と開発工数には相関があることから、過去のプロジェクトの実績から規模と工数との関係式を統計的に求め、この式を用いて見積り対象の開発工数を予測することができる。本稿ではスケールポイント法による開発工数の見積りの有効性を一般的に知られているLOCと比較することにより示す。さらにこの手法を実際のプロジェクトの開発工数見積りおよび計画立案に適用した事例について報告する。
著者
山田 忠史 吉澤 源太郎
出版者
Japan Society of Civil Engineers
雑誌
土木計画学研究・論文集 (ISSN:09134034)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.683-689, 2002-09-30 (Released:2010-06-04)
参考文献数
21

港湾間の国際競争が激しい国際コンテナ物流においては, 港湾の整備・運営に要する費用を抑制し, 荷役システムを効率化する必要がある. 本研究では, コンテナ埠頭の荷役容量に注目し, 発生費用の抑制に留意して, 適正な荷役能力を決定する方法を提案した. この手法を用いて, コンテナ埠頭の荷役効率向上に寄与する荷役システムについても考察した. 待ち行列理論を応用したモデルを構築し, その計算精度をシミュレーションモデルと比較することにより, その妥当性・実用性を確認した. モデルを実際の港湾に適用した結果, 荷役システムの効率化には, バース数の削減, 高性能なガントリークレーンの活用, 港湾EDIの導入が有効であることを示した.