著者
和田 崇
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2017年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.100011, 2017 (Released:2017-05-03)

本研究は,「映画のまち」と呼ばれる広島県尾道市と映画とのかかわりについての全国的な認知状況,さらに尾道市における映画を活用したまちづくりに対する認識を把握,整理したものである。 旅行先を決定する際に参考とするメディアについて尋ねたところ(MA),「旅行雑誌」が最も多く(38.3%),「テレビ旅番組」(33.2%),「知人・友人からのクチコミ」(24.3%),「旅行代理店パンフレット」(21.9%)が続いた。テレビ旅番組以外の映像メディアは「テレビCM」が10.1%,「映画」が9.1%,「テレビドラマ」が6.6%となり,一定の情報源となっている状況が確認できた。 これに対して,実際に映画やテレビドラマで映し出された場所や作品の舞台となった場所を観光で訪れたことのある者(フィルム・ツーリスト,以下「FTs」)の割合は回答者全体の38.3%に達した。年齢や性別による違いは確認できないが,近畿と関東以北の居住者,および映画鑑賞本数の多い者ほど,その割合が大きくなる傾向が認められた。FTsのうち直近5年以内にそうした観光を行った者は72.1%で,そのうち90.5%が個人で,14.8%が団体で旅行している。 個人旅行の訪問先をみると,国内では北海道が最多で(25件),長野(9件),東京(8件),京都(6件)などが続いた。北海道は映画「北の国から」「幸せの黄色いハンカチ」のロケ地を訪ねた者が,長野はNHK大河ドラマ「真田丸」やNHK連続テレビ小説「おひさま」の舞台を訪ねた者が多い。外国のロケ地等を個人で旅行した者も18件と多く,国別にみると,「千と千尋の神隠し」の舞台といわれる台湾,「ローマの休日」ロケ地のあるイタリアを旅行した者が比較的多い。団体旅行でも,個人旅行と同様に,外国(11件)と北海道(6件)を訪ねた者が多かった。 尾道市が「映画のまち」と呼ばれていることの認知状況を尋ねたところ,「知っている」と回答した者は26.6%であった。年齢性別では40~50歳代の女性が,居住地では中国・四国と関東の居住者が,また映画鑑賞本数が多いほど,「知っている」と回答した者の割合が大きかった。 尾道でロケが行われた映画等(以下「尾道ロケ映画」)を鑑賞したことがある者の割合は59.2%であり,作品別にみると,「時をかける少女(1983年)」が37.3%,「てっぱん(NHK連続テレビ小説,2010年)」が19.0%,「転校生(1982年)」が18.4%,「男たちの大和/YAMATO」が17.3%,「東京物語(1953年)」が10.5%と1割を超えた。年齢別にみると,60歳以上は「東京物語」を,40~50歳代は「時をかける少女」「転校生」などの大林宣彦監督作品を鑑賞した者の割合が大きく,「てっぱん」は年齢の高い女性ほど鑑賞率が高まる傾向がみてとれた。なお,男女とも20~30歳代において尾道ロケ映画を鑑賞したことのない者の割合が他世代と比べて20%以上高い結果となった。また,それらが尾道でロケが行われたことを知っている者は35.9%にとどまった。 次に,尾道市で行われている映画関連活動の認知状況を尋ねると,いずれかの活動を知っている者は回答者全体の14.4%にとどまった。活動内容別にみると,「大林宣彦監督作品ロケマップ」が最多で(6.8%),その他は「おのみちフィルム・コミッション」3.5%,「シネマ尾道(NPO運営映画館)」2.9%,「おのみち映画資料館」2.5%と低率にとどまった。また,「大林宣彦監督作品ロケマップ」を知っている者は40歳代,「おのみち映画資料館」を知っている者は50歳代以上が中心で,20~30歳代はいずれの活動も知らない者が多かった。 尾道に観光目的で訪れたことのある者は19.2%で,そのうち「映画のまち」と知ったうえで訪れたことがある者は5.4%,「映画のまち」と知らずに訪れたが訪問後にそのことを知った者が3.9%,「映画のまち」と知らずに訪れ訪問後もわからなかった者が9.5%であった。 また,尾道市で開催されれば参加したいと考える映像関連イベントを尋ねたところ,「映画より他の観光施設等を楽しみたい」と回答した者が21.6%と最多であったが,「ロケ地訪問ツアー(マップ配布・個人)」が19.2%,「ロケ地訪問ツアー(ガイド付・団体)」が13.8%,「尾道ロケ映画愛好者による交流会」が10.1%など,映画鑑賞本数の多い者や20~30歳代の女性を中心に,映画関連イベントに対するニーズの存在も一定程度確認できた。
著者
中島 直樹 杉村 隆史 小野 恭裕 江崎 泰斗 柳瀬 敏彦 梅田 文夫 名和田 新 本村 正治
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.40, no.8, pp.521-529, 1997-08-30 (Released:2011-03-02)
参考文献数
16

副腎アンドロゲンは抗糖尿病作用を有すとされるが, その詳細な機序は明らかでない. 今回, 非インスリン療法中の成人男性糖尿病患者59名および非糖尿病者32名の計91名について早朝空腹時に血中dehydroepiandrosterone (以下DHEA), DHEA-sulfate (DHEA-S), testosterone, estradiol, cortisol, 空腹時血糖, HbA1c, IRIを測定した. 全対象において, 血中DHEA-S濃度はHbA1c (p<0.05) や空腹時血糖値 (p<0.05) と有意の負相関を示した. 比較的高IRI血症群 (IRI10μU/ml以上群, n=25) では, 正IRI血症群 (n=66) に比して血中DHEA濃度が有意に低下していた (1.91±1.32ng/ml vs. 2.42±1.12ng/ml, p <0.01).糖尿病群から抽出した28名で6カ月後に再検をしたところ, HbA1c値1%以上改善群 (n=6) では血中DHEA-S濃度は有意 (p<0.05) に増加した. また, 血中IRI低下群 (n=12) では血中DHEA濃度が有意に (p<0.05) 増加した. 以上, 成人男性においては, 糖尿病コントロール状態と血中DHEA-S濃度が関連し, 一方血中IRI値と血中DHEA濃度が関連することが示唆された. これらの関連は経時的観察においても認められた.
著者
和田 忠志
出版者
医学書院
雑誌
訪問看護と介護 (ISSN:13417045)
巻号頁・発行日
vol.10, no.10, pp.858-863, 2005-10
著者
尾崎 茂 和田 清
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.117, no.1, pp.42-48, 2001-01-01
被引用文献数
5

動因喪失症候群(amotivational syndrome)は, 有機溶剤や大麻等の精神作用物質使用によりもたらされる慢性的な精神症状群で, 能動性低下, 内向性, 無関心, 感情の平板化, 集中持続の因難, 意欲の低下, 無為, 記憶障害などを主な症状とする人格·情動·認知における遷延性の障害と考えられている.1960年代に, 動因喪失症候群は長期にわたる大麻使用者における慢性的な精神症状として報告された.その後, 精神分裂病の陰性症状, うつ病, 精神作用物質の離脱症候などとの鑑別が問題とされ, 定義の曖昧さを指摘する意見もあるが, 現時点では臨床概念として概ね受ケ入れられつつある.その後, 有機溶剤使用者においても同様の病態が指摘されるとともに, 覚せい剤, 市販鎮咳薬などの使用によっても同様の状態が引き起こされるとの臨床報告が続き, 特定の物質に限定されない共通の病態と考える立場がみられつつある.また, 精神作用物質使用の長期使用後のみならず, かなら早期に一部の症状が出現することを示唆する報告もある.1980年代より, X線CTなどを用いた有機溶剤慢性使用者における脳の器質的障害の検討によって, 大脳皮質の萎縮などが指摘されてきた.最近は, 神経心理学的手法, MRI, SPECTといった形態学的あるいは機能的画像解析などを用いて, 動因喪失症候群の病態をより詳細に解明しようとの試みがなされつつある.それによれば, 動因喪失症候群にみられる認知機能障害の一部には, 大脳白質の障害が関連し, 能動性·自発性低下には前頭葉機能の低下(hypofrontality)が関連している可能性が示唆されている.これについては, 動因喪失症候群の概念規定をあらためて厳密に検討するとともに多くの症例で臨床知見を重ねる必要がある.治療については今のところ決め手となるものはなく, 対症的な薬物療法が治療の中心である.賦活系の抗精神病薬や抗うつ薬を中心に投与しつつ, 精神療法や作用療法を適宜導入して, 長期的な見通しのもとに治療にあたることが求められる.
著者
多和田 真太良
出版者
学習院大学大学院
巻号頁・発行日
2017-03-31

「ハラキリ・フジヤマ・ゲイシャ」はどこから生まれたのか。武士は海外で切腹したのだろうか。富士山はどこに描かれたのだろうか。芸者はそれほど海外に進出していたのだろうか。総てを海外の劇場の舞台の上で演じ印象付けたのは、日本人自身である。19世紀後半から20世紀初頭にかけて、欧米では「日本」を題材にした数多くの舞台作品が製作された。徳川幕府の鎖国が解消されると、日本の絵画や調度品がヨーロッパのあらゆるジャンルの文化を刺激し、ジャポニズムが生まれた。そもそも19世紀後半、西洋に模倣された日本人は誰だったのか。初期ジャポニズム演劇の特徴は派手な衣裳、アクロバティックな動き、日本の歌舞音曲をイメージした音楽である。幕府末期に世界中を視察して回った数々の遣欧、遣米使節団は、当時の新聞にも大きく取り上げられた。しかし彼らのいでたちは地味で、顔は浅黒い。このイメージが反映されているとは考えにくい。海外への渡航が許されるようになると多くの軽業師や手品師など、芸人一座が瞬く間に世界進出を果たした。彼らの巧妙な技芸は欧米の人々を魅了し、まだ新しい娯楽だったサーカスに強い影響を与えた。突如として街中に現れ、大衆の生活文化に浸透した「日本」や「日本人」の姿は、やがて演劇や音楽として「模倣」され、数多くのジャポニズム演劇を生み出した。直接的な利害関係のない、「どこにもない国」として描かれた日本は、次第に風刺劇のための架空の世界として利用されるようになる。1885年3月、イギリスのサヴォイ・オペラでは、喜歌劇『ミカド』が大ヒットとなる。中世の封建社会の中で描かれていたのは、1月にナイツブリッジに開場した日本人村で見かける日本人たちを彷彿とさせる衣裳で歌い踊る「日本」の人々だった。この舞台の成功は、観客が「日本らしさ」を享受できたことだと言われている。しかし外見的特徴だけを忠実に再現して、突飛な物語を展開しても観客は同調しない。作者ギルバートは、あえて「架空の国」に仕立て上げ、物語のリアリティと劇の虚構性との距離感を精密に計算していた。じつはこれまで多くのジャポニズム演劇は、その奇抜で日本人には受け入れがたい「誤解」と「反発」から存在自体を顧みられてこなかった。それは世界的に名声を博しているオペラ『蝶々夫人』も例外ではないが、これらの作品に系譜があることは知られていない。日清、日露戦争を経てジャポニズム演劇は「喜劇」から「悲劇」へと転換する。決して「どこにもない国」ではなく、着実に欧米社会に脅威となりつつあった日本は、欧米の帝国主義的な世界観の中では、支配される側でなくてはならなかったのだ。『ミカド』と『蝶々夫人』の間には『ゲイシャ』という中間的な存在があり、「日本」のイメージの変遷を語るには欠かせない。支配する男性=西洋と、支配される女性=東洋の構図はロティの『お菊さん』から『ゲイシャ』、『蝶々夫人』へと続く潮流となるが、一方でジャポニズムへのあこがれは「日本人の身体」「美意識」といった領域へと深化していく。川上音二郎の「ハラキリ」や、貞奴の「狂気」や「死」の描写は、日本人特有の身体性として模倣され、表象されていく。 また一方で、能の流入は、テキスト重視の西洋演劇が失った始原的なものを想起させ、イエイツをはじめとする能の形式の模倣が行われるようになる。演劇が「模倣する」芸術である以上、その対象は共有できるイメージを持った存在でなくてはならない。「日本らしさ」を表現するために取り入れられたものとして、視覚的要素(舞台装置・衣裳)に加えて、聴覚的要素(セリフ・音楽)に注目したい。舞台上に登場する「日本語」は単なるでたらめではなく、文脈に沿ったものや、音声としてそれ自体が「日本語」の表象になっているものもある。日本語の使用不使用によって舞台の日本に対する印象も変わるのである。母音を多用し、長音や促音をほとんど用いない単語はより日本的なイメージを醸し出す効果を生んでいることが分かる。その一方で、日本語を観客が聞いたことがない場合や、作者が日本語に習熟し思い入れが強い場合のいずれも、日本語は使用されていない。『蝶々夫人』を生み出したアメリカでも『ミカド』をはじめ、ジャポニズム演劇は人気を博した。しかし大国としても多民族国家としても成長しつつあったアメリカにとって、人種差別と演劇は切り離せない。白人が「黒人」を演じるミンストレル・ショー、白人が黄色人種を演じるイエローフェイスは、アメリカ固有の演劇と言っても過言ではない。特にイエローフェイスは、中国人移民の台頭著しい西海岸側での黄禍論を象徴するフリスコ・チャイニーズ・メロドラマというジャンルを生み出した。「陽気で知恵が足りない、幸せそうな」ミンストレル・ショーのブラックフェイスとは対照的に、「狡猾で性悪な」イエローフェイスがステレオタイプ化する中で、『ミカド』の果たした「日本」のイメージの区別化は大きかった。川上音二郎一座が経済的には苦境に立たされながらも、黄禍論的排他姿勢をそれほど受けずにブロード・ウェイで受け入れられたのは、偶然ではない。 また、初期のジャポニズム演劇として名を残すフランスの作品『麗しのサイナラ』も、ブロードウェイで少なくとも2回はリニューアルされ上演された。「サイナラ」3作を比較しながら、この作品の魅力に迫るとともに、デイヴィッド・ベラスコが小説『蝶々夫人』の劇化には、当時のブロードウェイにおけるジャポニズム小説のセンチメンタリズムや、ジャポニズム演劇のリバイバルが複数行われていたことなど、ジャポニズム演劇に注目することで、時代の空気を読み解くことが出来る。ここに満を持した形で登場した川上一座の歴史的なタイミングの良さが、その後の20世紀演劇全体に強く影響を及ぼすこととなる。20世紀の幕が開け、新たな芸術への模索が始まった時期に登場したのが川上音二郎と貞奴の一座である。彼らの表現は、西洋にとっての他者として「観られる」ことを常に意識したものであった。それはかつて開国直後に「日本」のイメージを植え付けていった軽業芸人一座や日本人村の人々と同じまなざしである。常に彼らにはテキストを身体の動きで表現しようとする原理があり、それはテキストからの脱却を図ろうともがいていた20世紀の前衛芸術家たちに強い衝撃を与えることとなった。常に躍動的な変化を続けてきたジャポニズム演劇の変遷を追うことで、表象することの原理を探ることが出来るのである
著者
安原 大生 川島 篤志 和田 幹生 花本 明子 加来 奈津子
出版者
一般社団法人 日本プライマリ・ケア連合学会
雑誌
日本プライマリ・ケア連合学会誌 (ISSN:21852928)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.53-58, 2021-06-20 (Released:2021-06-23)
参考文献数
7

目的:破傷風は強直性痙攣を引き起こす致命率の高い感染症である.筋症状の治療として硫酸マグネシウムが有効である可能性が報告されているが,その使用実態の知見は乏しい.本研究の目的は重症管理を必要とした破傷風に対する硫酸マグネシウム使用の概要を明らかにすることである.方法:国内で医師が登録する複数のメーリングリストを利用し,重症管理を必要とした破傷風に対する硫酸マグネシウムの使用実態についてアンケート調査を行った.結果:対象となるのべ24,266人のうち計604名からの回答があった.重症管理を必要とした破傷風症例の経験者は252名であり,そのうち硫酸マグネシウムの使用経験者は126名であった.結論:重症管理を要する破傷風症例において,硫酸マグネシウムの使用が相当数認められることが明らかとなった.破傷風治療の選択肢として,硫酸マグネシウムの有用性については更なる知見の蓄積が必要である.
著者
森井 亙 尾上 謙介 中村 佳重郎 大谷 文夫 細 善信 和田 安男
出版者
京都大学防災研究所 / Disaster Prevention Research Institute Kyoto University
雑誌
京都大学防災研究所年報. B (ISSN:0386412X)
巻号頁・発行日
vol.49, no.B, pp.245-251, 2006-04-01

京都大学防災研究所付属地震予知研究センターの地殻変動観測所のうち近畿地方に分布する3観測所(屯鶴峯・阿武山・天ヶ瀬)で,1989年終盤から1995年初頭にかけて顕著な地殻歪の変動が記録され,その後1995年兵庫県南部地震が発生した。上記3観測所の記録は,何れも1989年終盤から約3年の間南北方向の圧縮が増大したことを示し,その後約2年の間は南北方向の圧縮の増大が沈静化したことを示している。さらに1994年半ばからは,逆に南北方向の伸長が急激に増大したことを示している。この様に圧縮と伸長が入れ替わる変動を震源断層のプレスリップで説明することは困難である。我々は,1989年終盤から始まった地殻歪の変動を紀伊半島下に潜り込むプレートと地殻下部の部分的な固着によって引き起こされた変動と考え,単純なモデル計算を行った結果,観測記録をよく説明できることが分かった。当該の地殻歪変動は,兵庫県南部地震の準備過程を捉えたものではなく,それとは独立に生じた現象であり,むしろ,この急激な地殻歪の変動が兵庫県南部地震を誘発したものであると考えられる。
著者
森井 亙 尾上 謙介 中村 佳重郎 大谷 文夫 細 善信 和田 安男
出版者
京都大学防災研究所 / Disaster Prevention Research Institute Kyoto University
雑誌
京都大学防災研究所年報 = DPRI annuals (ISSN:0386412X)
巻号頁・発行日
no.49, pp.245-251, 2005

京都大学防災研究所付属地震予知研究センターの地殻変動観測所のうち近畿地方に分布する3観測所(屯鶴峯・阿武山・天ヶ瀬)で,1989年終盤から1995年初頭にかけて顕著な地殻歪の変動が記録され,その後1995年兵庫県南部地震が発生した。上記3観測所の記録は,何れも1989年終盤から約3年の間南北方向の圧縮が増大したことを示し,その後約2年の間は南北方向の圧縮の増大が沈静化したことを示している。さらに1994年半ばからは,逆に南北方向の伸長が急激に増大したことを示している。この様に圧縮と伸長が入れ替わる変動を震源断層のプレスリップで説明することは困難である。我々は,1989年終盤から始まった地殻歪の変動を紀伊半島下に潜り込むプレートと地殻下部の部分的な固着によって引き起こされた変動と考え,単純なモデル計算を行った結果,観測記録をよく説明できることが分かった。当該の地殻歪変動は,兵庫県南部地震の準備過程を捉えたものではなく,それとは独立に生じた現象であり,むしろ,この急激な地殻歪の変動が兵庫県南部地震を誘発したものであると考えられる。
著者
福田 豊 畑瀬 卓司 和田 数字郎 佐藤 彰洋 中村 豊
雑誌
研究報告インターネットと運用技術(IOT) (ISSN:21888787)
巻号頁・発行日
vol.2021-IOT-54, no.10, pp.1-7, 2021-07-02

1997 年に最初の無線 LAN 規格 IEEE 802.11 が策定されて以来,伝送レートを高速化するために数年ごとに新しい規格が登場し,現在では第 6 世代と言われる IEEE 802.11ax の標準化が完了している.標準化は後方互換性を維持しながら進んだため,最新規格 IEEE 802.11ax の AP (Access Point) でも IEEE 802.11a/b 対応機材は接続し通信を行うことができる.この後方互換性と比較的短い年月での世代更新により,キャンパス無線 LAN では多様な IEEE 802.11 規格が混在している.しかし,異なる規格の混在はスループット特性が低下する Performance Anomaly 問題の発生を招くため,可能な限り規格の混在を回避する運用が望ましい.そのためにはまず全接続に対する無線 LAN 規格の混在状況を把握する必要がある.そこで本稿では九州工業大学のキャンパス無線 LAN を利用する端末の規格を調査し,得られた知見から混在を回避するための運用方法を述べる.
著者
中村 理恵子 大森 泰 須田 康一 和田 則仁 川久保 博文 竹内 裕也 山上 淳 天谷 雅行 北川 雄光
出版者
一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
雑誌
日本消化器内視鏡学会雑誌 (ISSN:03871207)
巻号頁・発行日
vol.60, no.8, pp.1515-1526, 2018 (Released:2018-08-20)
参考文献数
24

自己免疫性水疱症は自己抗体により細胞間接着が障害され,皮膚や重層扁平上皮に水疱が形成される疾患の総称である.多くは皮膚に水疱やびらんを形成するが,目,鼻,口腔粘膜,口唇,咽喉頭,食道などの重層扁平上皮にも水疱やびらんを形成することがある.しかし,咽喉頭および食道粘膜における病変の発生頻度や特徴についてはよく知られていない.この研究においては,自己免疫性水疱症における上部消化管内視鏡検査の重要性を評価することを目的とし,内視鏡的な咽喉頭食道病変の発生頻度をprimary endpoint,内視鏡的・臨床的特徴を見出すことをsecondary endpointとして評価を行った.口腔または咽喉頭病変を50.4%,咽喉頭病変を30.8%に認めた.通常観察で食道粘膜面に異常を認めなかった症例の40.6%において機械的刺激による表皮剥離または血疱形成(Nikolsky現象)を呈した.全体の16.8%に通常観察で食道病変を認め,56.0%がNikolsky現象陽性を呈した.皮膚病変を認めない29.2%の症例において,77.7%に口腔または咽喉頭病変,36.1%に食道病変,58.3%にNikolsky現象を認めた.上部消化管内視鏡所見より自己免疫性水疱症を疑うことは可能であり,その内視鏡的特徴および所見を理解しておくことは重要である.
著者
多和田 裕司
出版者
大阪市立大学大学院文学研究科
雑誌
人文研究 : 大阪市立大学大学院文学研究科紀要 = Studies in the humanities : Bulletin of the Graduate School of Literature and Human Sciences, Osaka City University (ISSN:04913329)
巻号頁・発行日
vol.69, pp.41-58, 2018

本稿は、臓器移植にかんするイスラームの倫理を検討することによって、現代社会においてイスラームがどのように実践されているかを示すことを目的としている。臓器移植は、コーランとハディース(ムハンマドの言行録)に基づくイスラームの伝統的な死生観にたいして倫理的な課題を突きつけてきた。しかし医療技術の進歩とそれによって得られる治療成果の高まりにともない、いまや世界中のイスラーム法学者の大半は、人体から人体への臓器移植をイスラームの教義からみて許されるものとしてとらえている。本稿では、イスラーム世界で臓器移植を肯定的にとらえる代表的なファトワ(イスラームにおける法的勧告)を紹介した後、臓器移植にかんするマレーシアの医療ガイドラインと同国におけるイスラームの権威が発したファトワを比較検討する。結論として、イスラームは、現代の生命倫理と共通する価値を持つ可能性を有していることが示される。イスラームは、イスラーム教義と非イスラーム的な価値が出会う境界上で、つねに現代社会に、より適合的な宗教へと変容を続けているのである。
著者
和田 勉
出版者
情報処理学会 ; 1960-
雑誌
情報処理 (ISSN:04478053)
巻号頁・発行日
vol.61, no.4, pp.393-396, 2020-03-15

スリランカの学校を訪問視察した報告を記す.Vishaka Balika Vidyalaya,Sapugaskandaは小中高一貫の女子校であり,コンピュータ教室での授業を見学した.授業はシンハラ語と英語が併用されている.Saegis Campusは外国の大学の国内校・専門学校・外国語学校を兼ねた学校であり,CS, IT, 経営,ビジネスなどのコースがある.Mahinda Rajapaksa CollegeはSenior Secondary卒業後に入学する学校でありUniversityへはさらにその後に入学する.韓国の援助で作られたICT教室がありMicrosoft Showcase Schoolに選出されている.
著者
河野 美幸 梶本 照穂 小沼 邦男 野崎外 茂次 伊川 廣道 北谷 秀樹 和田 知久 川中 武司 中村 紘一郎
出版者
特定非営利活動法人 日本小児外科学会
雑誌
日本小児外科学会雑誌 (ISSN:0288609X)
巻号頁・発行日
vol.27, no.7, pp.1132-1137, 1991-12-20 (Released:2017-01-01)

The normal position of the anus is not defined objectively. Using a simple technique, the anal position index was designed to define the position of anus in neonates and infants as follows: the ratio of the distance between the scrotum and the anus to the distance between the scrotum and the coccyx for males and the distance between the vagina and the anus to the distance between the vagina and the coccyx for females. The anal position index in neonates was not affected by body weight. In male infants, the anal position index was not affected by age. But in female infants, the anal position index decreased from neonatal period to three months of age but no significant difference was demonstrated from three months of age to twelve months of age. We think that the anal position index is useful as an objective parameter to assess the localization of the anus.
著者
佐藤 江奈 菅谷 知明 岩村 佳世 長谷川 信 田澤 昌之 和田 直樹
出版者
北関東医学会
雑誌
北関東医学 (ISSN:13432826)
巻号頁・発行日
vol.70, no.3, pp.193-198, 2020-08-01 (Released:2020-09-03)
参考文献数
22

【目 的】 変形性股関節症患者の術前後の関節可動域および筋力について明らかにすること.【対象と方法】 後外側進入法により人工股関節全置換術を施行した14名を対象とし,股関節周囲の関節可動域(ROM)および筋力を術前,術後1週,術後2週で測定した.術側と非術側の比較は対応のある差の検定を行い,術前から術後2週の変化については分散分析および多重比較を行った.【結 果】 術前ROMでは股関節内転以外は非術側に対して術側が有意に低かったが,術後2週では有意な差はなかった.術側の股関節外転ROMは,術後有意に改善した.筋力は非術側に対して術側が術前,術後2週ともに低かった.術側の股関節屈曲,伸展筋力は術後1週で有意に低下し,術後2週で有意に改善した.【結 語】 術側ROMは術後2週で非術側程度に改善した.術側筋力は術後2週で術前レベルに回復するが,非術側に比べて有意に低かった.術後1週の筋力は,術前よりも低下していることを考慮し,理学療法介入をするべきである.
著者
和田 重司
出版者
中央大学経済研究所
雑誌
中央大学経済研究所年報 = The annual of the Institute of Economic Research, Chuo University (ISSN:02859718)
巻号頁・発行日
no.50, pp.195-222, 2018

Marxʼs reformation theory of social system had been a subject of severe controversy while the Russian revolution was connected with it. But, after the collapse of the Soviet Russia, its revolution has been regarded either as anti-Marxʼs theory or as a singular system which had no relevance with it. In accordance with this change, the controversy on Marxʼs reformation theory seems considerably to have lost its severity. But now at the present, when Marxʼs theory can be examined without any political concern, it might be rather more suitable and necessary than the past time, to investigate into the reality of Marxʼ s thought. The present paper tries to show the theoretical themes of Marxʼ s reformation theory, in particular, the relation between the theory of "Das Kapital" and Marxʼ s special researches into the social forms of primitive "communes" of the human-beings.