著者
奥野 英雄 多屋 馨子
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.104, no.4, pp.782-787, 2015-04-10 (Released:2016-04-10)
参考文献数
10

麻疹ウイルスは感染力が強く,わずかな感受性者を見つけて感染伝播する.我が国では国をあげた麻疹排除への取り組みが奏功し,患者報告数も減少傾向であり,日本国内の土着株である遺伝子型D5は2010年5月を最後に検出されなくなった.しかし,海外で感染した輸入例を発端とした小規模のアウトブレイクの報告はいまだにあり,医療機関を受診した麻疹患者から,医療関係者や周りの患者へ感染が伝播した報告も見られる.麻疹には有効なワクチンが存在するが,特異的な治療法はなく,感染が拡大してしまってから対処できることは限定的である.麻疹の感染対策には,感染が発覚してから対処するよりも,麻疹の特徴を知ったうえで,平時から備えておくことが重要である.
著者
向井 千夏 奥野 誠
出版者
JAPANESE SOCIETY OF OVA RESEARCH
雑誌
Journal of Mammalian Ova Research (ISSN:13417738)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.176-182, 2010 (Released:2010-12-03)
参考文献数
32
被引用文献数
1

体内受精を行う哺乳類では,精子鞭毛は射精にともない運動を活性化し,雌生殖器官内での受精能獲得時には超活性化と呼ばれる運動を示す.精子は卵に出会うまで,鞭毛運動を維持するためにATPが必須であるとともに,活性化や超活性化の運動変化を引き起こす細胞内シグナル伝達においても,cAMPの生成やタンパク質リン酸化にATPが必要となる.ATPの供給経路としては解糖系と呼吸系の2つがあげられるが,従来,精子の形態やその生産効率からミトコンドリアによる呼吸系が主であると考えられてきた.しかし,近年の研究成果により,鞭毛主部における解糖系によるATP供給が主要な働きをしていることが明らかとなってきた.本稿では,マウスでの知見を中心に,精子の鞭毛運動とシグナル伝達に関わるATP供給について解説する.
著者
平 朝彦 飯島 耕一 五十嵐 智秋 坂井 三郎 阪口 秀 坂口 有人 木川 栄一 金松 敏也 山本 由弦 東 垣 田中 智行 西村 征洋 鈴木 孝弘 木戸 芳樹 渡邊 直人 奥野 稔 井上 武 黛 廣志 小田 友也 濱田 泰治 室山 拓生 伊能 隆男 高階 實雄 勝又 英信 原田 直 西田 文明 南川 浩幸 金高 良尚
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.118, no.7, pp.410-418, 2012-07-15 (Released:2012-12-04)
参考文献数
20
被引用文献数
7 5

東北地方太平洋沖地震において関東地方を中心に前例のない広域的な液状化被害が報告されている.都市地盤における液状化現象を理解し,その対策を立てるには,液状化が地下のどこで起ったのかを同定することが極めて重要である.本報告では,千葉県浦安市舞浜3丁目のボーリングコア試料に対して,X線CTスキャン解析を実施し,非常に鮮明な地層のイメージの取得に成功した.この結果,地面下13 mまでの地層を5つのユニットに区分することができ,その中で6.15 mから8.85 mまでの間で地層のオリジナルな構造が破壊されており,液状化した層であると判定した.この手法は,今後の液状化研究に関して,大きな貢献が期待できる.
著者
重宗 明子 三浦 清之 上原 泰樹 小林 陽 古賀 義昭 内山田 博士 佐本 四郎 笹原 英樹 後藤 明俊 太田久稔#清水博之#藤田米一#石坂昇助#.中川原捷洋#奥野員敏#山田利昭#小牧有三#堀内久満#福井清美#大槻寛#丸山清明
出版者
農業技術研究機構中央農業総合研究センター
雑誌
中央農業総合研究センター研究報告 (ISSN:18816738)
巻号頁・発行日
no.16, pp.17-37, 2011-03

「華麗舞」は1979年に北陸農業試験場(現中央農業総合研究センター・北陸研究センター)において,超多収品種の育成を目的として,インド型多収品種「密陽23号」を母とし,日本型多収品種「アキヒカリ」を父とする人工交配を行って育成された品種である.1990年から「北陸149号」の系統名で関係各府県における奨励品種決定調査試験およびその他の試験に供試してきたものであり,2006年10月4日に新品種として「水稲農林415号」に命名登録された「華麗舞」の特性の概要は以下のとおりである.1. 出穂期は「コシヒカリ」より4~5日早く,成熟期は「コシヒカリ」より5~9日早く,育成地では"中生の早"である.2. 稈長は「コシヒカリj」より20cm程短く" 短",穂長は「コシヒカリ」より長く" やや長"穂数は「コシヒカリ」より少なく"少",草型は"穂重型" で,脱粒性は"難"である.粒形は"細長"である.千粒重は「コシヒカリ」よりやや軽い. 3.収量は,標肥では「コシヒカリ」より少ないが,多肥では「コシヒカリ」並である.4.炊飯米は, 「コシヒカリ」.「日本晴」よりも粘りが少なく,硬い.表面の粘りが少ないのでとろみのあるカレーソースとのなじみが良く,カレーライスへの嗜好性が高い.5. いもち病真性抵抗性遺伝子はPiaとPibを併せ持つと推定され,葉いもち圃場抵抗性は"中",穂いもち圃場抵抗性は不明である.穂発芽性は"やや易",障害型耐冷性は"極弱"である.
著者
奥野 真吾 橋本 健 清水 里恵 高木 えり奈 梶口 智弘
出版者
一般社団法人 日本血液学会
雑誌
臨床血液 (ISSN:04851439)
巻号頁・発行日
vol.62, no.10, pp.1510-1514, 2021 (Released:2021-11-03)
参考文献数
11

症例は75歳女性。肺腺がん術後再発に対する抗がん剤治療歴と特発性血小板減少性紫斑病(ITP)に対するHelicobacter pylori除菌治療歴がある。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するBNT162b2 mRNA COVID-19ワクチン接種の2週間後に貧血を指摘され,血液・腫瘍内科を受診した。直接・間接クームス陽性の正球性正色素性貧血を認め,LDH・間接ビリルビン・網赤血球が高値であり,自己免疫性溶血性貧血(AIHA)と診断した。BNT162b2 mRNA COVID-19ワクチン接種の他には明らかな誘因を認めなかった。Prednisolone療法により速やかに病勢の改善が得られた。COVID-19の感染拡大抑制のためワクチン接種が非常に重要であると考えられているが,ワクチン接種の広がりとともにITPの発症・増悪が報告されている。一方でAIHAの報告は希少である。今後のワクチン接種事業の進展に際しAIHAの発症についても注意すべきと考えられた。
著者
菅沼 悠介 石輪 健樹 川又 基人 奥野 淳一 香月 興太 板木 拓也 関 宰 金田 平太郎 松井 浩紀 羽田 裕貴 藤井 昌和 平野 大輔
出版者
公益社団法人 東京地学協会
雑誌
地学雑誌 (ISSN:0022135X)
巻号頁・発行日
vol.129, no.5, pp.591-610, 2020-10-25 (Released:2020-11-13)
参考文献数
101
被引用文献数
1

The Antarctic Ice Sheet (AIS) is one of the largest potential contributors to future sea-level changes. Recently, an acceleration of AIS volume loss through basal melting and iceberg calving has been reported based on several studies using satellite observations, including radar altimetry, interferometer, and gravity measurements. A recent model that couples ice sheet and climate dynamics and incorporates hydrofracturing mechanism of buttressing ice shelves predicts a higher sea-level rise scenario for the next 500 years. However, the calibration and reproducibility of the sea-level rise projection from these models relies on geological sea-level reconstructions of past warm intervals. This suggests that a highly reliable reconstruction of the past AIS is essential for evaluating its stability and anticipating its contribution to future sea-level rise. In particular, a relative sea-level reconstruction in East Antarctica is the key to solving the problems and refining future projections. The current understanding of sea-level change along the East Antarctic margin is reviewed, including Glacial Isostatic Adjustment (GIA) effects, and a new strategy is proposed to address this topic based on seamless sediment coring from marine to lake in the East Antarctic margin. This project will provide essential data on AIS change since the last interglacial period.
著者
奥野 克巳
出版者
日本文化人類学会
雑誌
文化人類学 (ISSN:13490648)
巻号頁・発行日
vol.76, no.4, pp.417-438, 2012

マレーシア・サラワク州(ボルネオ島)の狩猟民・プナン社会において、人は「身体」「魂」「名前」という三つの要素から構成されるが、他方で、それらは、人以外の諸存在を構成する要素ともなっている。人以外の諸存在は、それらの三つの要素によって、どのように構成され、人と人以外の諸存在はどのように関係づけられるのだろうか。その記述考察が、本稿の主題である。「乳児」には、身体と魂があるものの、まだ名前がない。生後しばらくしてから、個人名が授けられて「人」と成った後、人は、個人名、様々な親名(テクノニム)、様々な喪名で呼ばれるようになる。その意味において、身体、魂、名前が完備された存在が人なのである。人は死ぬと、身体と名前を失い、「死者」は魂だけの存在と成る。これに対して、身体を持たない「神霊」には魂があるが、名前があるものもいれば、ないものもいる。「動物」は、身体と魂に加えて、種の名前を持つ。「イヌ」は、イヌの固有名とともに身体と魂を持つ、人に近い存在である。本稿で取り上げた諸存在はすべて魂を持つことによって、内面的に連続する一方で、身体と名前は多様なかたちで、諸存在の組成に関わっている。諸存在とは、身体と魂と名前という要素構成の変化のなかでの存在の様態を示している。言い換えれば、諸存在は、時間や対他との関係において生成し、変化するものとして理解されなければならない。人類学は、これまで、精神と物質、人間と動物、主体と客体という区切りに基づく自然と社会の二元論を手がかりとして、研究対象の社会を理解しようとしてきた一方で、複数の存在論の可能性については認めてこなかった。そうした問題に挑戦し、研究対象の社会の存在論について論じることが、今日の人類学の新たな課題である。本稿では、身体、魂、名前という要素の内容および構成をずらしながら諸存在が生み出されるという、プナン社会における存在論のあり方が示される。
著者
奥野 祐次
出版者
日本疼痛学会
雑誌
PAIN RESEARCH (ISSN:09158588)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.233-241, 2014-12-10 (Released:2014-12-29)
参考文献数
17
被引用文献数
1 2

Purpose: Neovessels and accompanying nerves are possible sources of pain. Previous work demonstrated that transcatheter arterial micro−emboliza­tion (TAME) for patients with adhesive capsulitis resulted in excellent pain relief. We hypothesized that abnormal neovessels also play an important role in nighttime shoulder pain with other conditions as well as adhesive capsulitis and that TAME can relieve pain.   Material and Methods: TAME using imipenem ⁄ cilastatin sodium as an embolic agent proceeded to seventeen shoulders in sixteen patients, including adhesive capsulitis (n=6), subacromial impingement syndrome (n=7), rotator cuff tear without surgical indication (n=2), stiff shoulder (n=1), and chronic pain post scapula fracture (n=1). All patients had nighttime shoulder pain and previous conservative therapies applied for at least three months and persisted moderate−to−severe pain (Visual Analog Scale > 50 mm) before treatments. Adverse events, changes in Visual Analog Scale scores of night pain, and changes in self reporting sleep quality scores were assessed at 1 week and at 1, 3, and 6 months after the procedure.   Results: Abnormal neovessels were identified in all cases. No major adverse events were related to the procedures. Transcatheter arterial micro− embolization rapidly decreased nighttime pain visual analog scale scores from 72 ± 7 mm to 42 ± 26 mm at 1 week after the procedure, with further improvement at 1, 3 and 6 months (28 ± 22 mm, 19 ± 24 mm, and 16 ± 23 mm respectively). Self reporting sleep quality scores and nighttime pain frequency improved and maintained for 6 months.   Conclusion: Abnormal neovessels were observed in all patients. TAME of this lesion was feasible, effectively relieved unrelenting chronic night shoulder pain.
著者
溝畑 剣城 谷川 英二 竹田 秀信 松尾 耐志 奥野 修一 平瀬 健吾 増田 幸隆 福井 学 木村 智
出版者
藍野大学
雑誌
藍野学院紀要 (ISSN:09186263)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.65-77, 2006

これは,3歳のMr.Rが両親の離婚で「父親」に見捨てられ,19年後,自ら求めて再会した抑圧的な父親に思いの丈を突きつけた,直面化と長引いたエディプス・コンプレックスの自覚,克服の物語である。5歳以後,母は再婚し「義父」と彼の連れ子の義兄,母が産んだ異父弟との生活で,Rは居場所を失った。7歳時,交通事故はそんな状況で起こった。現場に急行した警官に「理想の父」を見てRは救われた。そして24歳で結婚,26歳の12月長男誕生の予定である。しかし口唇裂の長男を堕胎するか否かでRは苦悩する。「妻の父」への報告も躊躇した。通常業務に,通信大学履修,論文作成,三種の仕事と第一子堕胎の決断を迫る,苦悶の極みに,父親を殺したいと思うまでにRはなった。だが「論文指導教授」が精神分析医Dr.Jで,RはJに精神療法を希求した。僅か9回,4ヶ月の面接での回復は,基本的信頼感がほぼ達成されたことを暗示している。
著者
藤原 康雄 奥野 博久 松岡 義幸 萱原 瑞穂
出版者
Japan Society of Civil Engineers
雑誌
土木史研究 (ISSN:09167293)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.191-196, 1991-06-05 (Released:2010-06-15)
参考文献数
6

JR大阪環状線は戦後の復興の中から大阪市民の強い要望により1956 (昭和31) 年3月20日に着工され、1961 (昭和36) 年4月に完成した。しかしながら「の」字運転のためににそれほどの効果が期待されず、ほぼ同時に旧西成線の高架化も着工し、1964 (昭和39) 年に完成した。この年は東京オリンピック、東海道新幹線の開通と大きなプロジェクトが成功した。環状線の開通は種々の困難を乗り越え、最新の技術を酷使し、城東線と西成線をむすぶことによって旅客の流動の差を2倍程度に押さえ、大阪市の発展に多大な効果があった。
著者
松本 篤幸 寺山 慧 奥野 恭史
出版者
一般社団法人 日本生物物理学会
雑誌
生物物理 (ISSN:05824052)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.193-197, 2022 (Released:2022-07-25)
参考文献数
9
被引用文献数
1

タンパク質機能を理解する上で,その動的振る舞いを知ることは極めて重要である.我々は近年発展目覚ましいクライオ電子顕微鏡単粒子解析によって得られる3次元密度マップから,深層学習技術を利用して直接的に運動性の情報を抽出する手法DEFMapを開発した.本稿ではその概説と構造生物学への展開について紹介する.
著者
齋藤 泉 大西 浩次 安藤 享平 大川 拓也 小野 智子 篠原 秀雄 高橋 淳 松尾 厚 奥野 勉
出版者
長野工業高等専門学校
雑誌
長野工業高等専門学校紀要 = Memoirs of Nagano National College of Technology (ISSN:02861909)
巻号頁・発行日
vol.48, pp.1-11, 2014-06-30

We measured the transmittance of filters and the substitutes for direct observation of the sun, from 2009 to 2012. In this paper, we report the results of the measurements in detail. This paper gives fundamental data for observing solar eclipses safely.
著者
大西 浩次 齋藤 泉 安藤 享平 大川 拓也 小野 智子 篠原 秀雄 高橋 淳 松尾 厚 奥野 勉
出版者
長野工業高等専門学校
雑誌
長野工業高等専門学校紀要 = Memoirs of Nagano National College of Technology (ISSN:02861909)
巻号頁・発行日
vol.48, pp.1-10, 2014-06-30

May 21, 2012, solar eclipse was observed in Japan. This time, annular eclipse occurred over a wide range; i.e. the southern part of Kyushu, the southern part of Shikoku, the southern part of the Kinki, the southern part of the Chubu, such as the Kanto. Other regions became a partial solar eclipse. Approximately 83 million people are living in the path of annular phase, we were expected many people to observe the eclipse. Eclipse is a valuable opportunity to increase interest in science. On the other hand, when observing the sun, it runs a strong risk that leads to trouble in the eyes of people due to the strong sunlight. For example, in the case of the eclipse in Germany in 1912, solar eclipse retinopathy patients of 3,500 has occurred. We conducted our activities for many people to observe the eclipse safe. One of them is the spread of safe solar eclipse observation method, another is a research study of the safety of the solar eclipse glasses.In this paper, we report the transmittance measured in the various filters; solar viewing glass on the market, and their substitutes. These are valuable archival material related to solar observation glass for the solar eclipse in the future.
著者
笠間 友博 山下 浩之 萬年 一剛 奥野 充 中村 俊夫
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.116, no.4, pp.229-232, 2010 (Released:2010-10-13)
参考文献数
21
被引用文献数
1

The Futagoyama lava dome, one of the post-caldera central cones of Hakone volcano (Kanagawa, Japan), is though to have formed by a single eruption at 5 ka. However, in this study, we show that the dome formed over the course of at least three eruptions. We discovered a relatively old block-and-ash flow deposit (Hakone-Futagoyama Yamazaki block-and-ash flow deposit [Hk-FtY]) that originated from the Futagoyama lava dome, as indicated by its chemical composition and its age of 20,390 ± 40 yr BP. We also re-examined the source of the Shinanoya pyroclastic flow deposit, which was previously interpreted to be of Komagatake origin and was dated at 17,920 ± 320 yr BP (reference), and concluded that this deposit also originated from the Futagoyama lava dome. The recent eruptive history of Futagoyama suggests that its eruptions may have been synchronous with those of Kamiyama. In addition, the eruptive centers of Futagoyama and Kamiyama are aligned with each other along a linear trace.