著者
田村 理納 宮澤 理稔
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

2011年3月11日に発生したMw9.0東北地方太平洋沖地震の4日後に、静岡県東部においてMj6.4(Mw6.0)の地震が発生した。この地震は、東北地方太平洋沖地震のセントロイドから約450km離れた余震域外の領域で発生しており、また約4分前に発生した福島県沖の地震(Mj6.2)の表面波が通過している最中に発生していたため、どの様な誘発過程を経て発生に至ったのかを調べた。まず、静岡県東部地震の震源にどのような応力変化が働いていたのかを調べるため、静的ΔCFF、表面波と地球潮汐による動的ΔCFFを調べた。東北地方太平洋沖地震による静的応力変化及び表面波による動的応力変化の最大値は、それぞれ約21 kPa, 200 kPaであり、動的応力変化は静的応力変化に比べ一桁大きかった。地球潮汐による応力変化と福島県沖の地震の表面波による動的応力変化は最大で約1.2 kPa, 0.3 kPaであった一方、静岡県東部地震発生時の値はいずれも負の値で約-0.2 kPa, -0.01 kPaであった。次に、静岡県東部地震の破壊域での前震活動の有無について調べた。気象庁一元化震源カタログによると静岡県東部地震の発生前に震源域を含む領域では地震活動が認められていないため、matched filter法により検出を試みたところ、本震の約17時間前に本震の震源から約2km北北東の場所にM1.0の地震が1つ見つかったが、それまでの微小地震活動を考慮すると本震を誘発した前震とは結論付けられない。以上の結果を踏まえ、地震発生サイクルにおけるclock advanceによる、静岡県東部地震の「見かけ遅れ誘発」の可能性を提案する。まず静岡県東部地震の震源域の摩擦応力が、東北地方太平洋沖地震による静的な応力変化及び、表面波の動的な応力変化によって急速に増加した。その後、東北地方太平洋沖地震の大規模な余震の表面波による動的な応力変化及び、地球潮汐による応力変化によって摩擦応力がより摩擦強度に近づき、応力擾乱がなかった場合の発生予定時刻よりも早まって(clock advance)地震が発生した。大振幅の応力擾乱が作用してから遅れ破壊に至るまでの時間が、地震発生サイクルのスケールと比べてわずかでしかないことから、もともと静岡県東部地震のような地震が発生する準備が十分整っていたことが示唆される。
著者
苅谷 愛彦 松永 祐 宮澤 洋介 石井 正樹 小森 次郎 富田 国良
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.113, 2008

<BR><B>はじめに</B><BR>長野県白馬村白馬尻と白馬岳山頂を結ぶ白馬大雪渓ルートは北アルプスの代表的な人気登山路である.しかし大雪渓の谷底や谷壁では融雪期~根雪開始期を中心に様々な地形・雪氷の変化が生じ,それに因する登山事故が例年起きている1).特に,広い意味での落石 ―― 岩壁や未固結堆積物から剥離・落下・転動した岩屑が谷底の雪渓まで達し,それらが雪面で停止せず,またはいったん停止しても再転動して≧1 km滑走する現象 ―― は時間や天候を問わずに発生しているとみられ,危険性が高い.大雪渓のように通過者の多い登山路では,落石の発生機構や登山者の動態などを解明することが事故抑止のためにも重要である.本研究では,大雪渓に静止画像データロガー(IDL)を設置し,地形や雪氷,気象の状態および通過者の行動を観察・解析した.<BR><BR><B>方法・機器</B><BR><U>IDL</U>:KADEC21 EYE II(カラーCCD,画素数2M).<U>IDL設置点</U>:大雪渓左岸谷壁(標高1730 m).方位角約240度,仰角約5度.<U>記録仕様</U>:2007年6月10日~8月7日の毎日.0330~1900JSTの毎時00/30分に記録(6月10日10時開始).<U>画像解析</U>:肉眼による静止画と疑似動画の解析(落石,通過者数,融雪,気象など).<U>関連野外調査</U>:5月上旬~10月下旬に地温観測や落石位置のGPS測量などを複数回実施.<BR><BR><B>結 果</B><BR><U>IDLの作動</U>:設置直後から正常作動していたが,8月8日以降停止し,無記録となった(浸水による回路損傷).<U>撮像状態</U>:レンズへの着水による画像の乱れや濃霧により,谷を全く見通せない状態が全記録(1767画像)の約21%あった.<U>融雪</U>:反復測量に基づく日平均雪面低下量は5月上旬~6月上旬に約14 cm,6月上旬~7月上旬に約12 cm,7月上旬~8月上旬に約17 cm,8月上旬~9月上旬に約24 cmだった.この傾向は画像解析でも確認された.登山者の増加する7月~8月に融雪が加速したが,主谷はU字型断面をもつため雪渓表面積の減少は著しくなかった.<U>気象</U>:上記のように,全画像の約1/5に降雨や濃霧の影響が認められた.しかし大雪渓下部での降雨や濃霧が大雪渓上部でも同時発生していたのか否かは不明である.一方,大雪渓上部のみでの霧や雪面での移流霧の発生が多かった.<U>落石</U>:画像の前後比較により,雪渓上に落下し,停止した礫が確認された.また,それらの一部には融雪の進行による姿勢変化や再転動が認められ,撮像範囲外に移動したものもあった.さらに,雪渓上に達したナダレや土石流堆積物に含まれていた礫の一部にも姿勢変化や転動が認められた.なお,滑走する礫が雪面に残す白い軌跡は画像では確認できなかった(現地観察によれば,明確な軌跡を残すような巨礫の滑走は5月上旬~10月下旬に生じなかった可能性がある).<U>その他の地形変化</U>:大雪渓上部の珪長岩分布域では落石が定常的に発生しているが,画像では確認できなかった.<U>通過者</U>:7月20日(金)まで日通過者は≦40名(画像不鮮明などによる解析誤差あり)だったが,21日(土)に61名となった.これ以降増加し,27日(金)に292名,28日(土)に253名を記録した.時間帯別累計では,6時以降に増えて8時30分~10時30分に最多となり,11時以降減少することが判明した.<BR><BR><B>主たる結論</B><BR>(1)雪渓には谷壁や支谷から礫が到達し,雪面を滑走するほか,雪面に停止した礫の再転動も生じる.(2)記録期間における大雪渓下部の視界不良率は約20%である.(3)遠隔山岳地における地形,融雪,気象および登山者のモニタリングにIDLは有効である.(4)定量解析のためにIDL画素数の増量のほか,新たに動画記録も望まれる. <BR>--------------------<BR>参考文献:1)小森2006(岳人),2)苅谷ほか2006(地質ニュース),3)苅谷2007(地学雑),4)Kawasaki et al. 2006(EOS Trans. 87(52) AGU 06Fall Mtg. Abst).<BR> ◆本研究は,東京地学協会平成19年度研究調査助成対象.
著者
安藤 陽夫 清水 信義 宮澤 輝臣
出版者
特定非営利活動法人 日本呼吸器内視鏡学会
雑誌
気管支学 (ISSN:02872137)
巻号頁・発行日
vol.20, no.8, pp.668-671, 1998
参考文献数
5
被引用文献数
2

気管支鏡についてのアンケートを行い, 中四国の31施設(88.6%)から解答をいただいたので, その結果を中心に考察を加えて報告する。1. 気管支鏡施行前に行う検査については, (1)感染症対策(2)出血対策(3)気管支鏡の適応決定(4)気管支鏡検査の精度向上の観点から検討し, 施行されるべきであると思われた。2. 前投薬および麻酔方法は, 従来からの方法が多く施行されているが, 患者にとってより楽な検査とするために常に前向きに検討していくべきと思われた。3. 適応と禁忌については, ほぼ共通の認識ができあがっているように思われた。4. 合併症としては, 気胸・キシロカイン中毒に加えて, 大出血・感染症・呼吸不全の経験のある施設も少なくなかった。5. 軟性気管支鏡は数・種類ともに確保されていると思われたが硬性気管支鏡はまだ少数の施設に常備されているのみであった。6. 気管支鏡のインフォームドコンセントは医師により行われていたが, その内容の充実が望まれる。7. 気管支鏡施行後の洗浄方法・洗浄液・保管方法についての関心は薄く, 十分な対応がなされているとは言いがたい。
著者
宮澤 史穂 井出野 尚 小嶋 祥三
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第6回大会
巻号頁・発行日
pp.103, 2008 (Released:2008-11-10)

絶対音感とは外的な基準なしにその音の高さを同定することができる能力である。絶対音感保持者と非保持者の違いが見られる現象の1として、音高の記憶方略の違いが挙げられる。音高を記憶する際に、非保持者は物理的な音の高さで保持するのに対し、絶対音感保持者は音名で保持する傾向があるということが知られている(Zattore,2001)。行動的な研究以外にも、PETやfMRIを用いた研究では、絶対音感保持者は左半球に特有な脳活動が見られることが示唆されているが、その数は多くなく、統一された見解は得られていない。また、近赤外線分光法(NIRS)は、非侵襲的なニューロイメージングの手法であり、騒音もないことから、聴覚実験に適していると考えられる。そこで、本研究では課題の難易度(音高の保持を必要とするかどうか)を操作し、2種類の音の弁別課題を行った。また、課題遂行中の脳活動をNIRSによって計測し、絶対音感保持者と非保持者の違いを検討した
著者
都築 伸介 大井川 秀聡 豊岡 輝繁 魚住 洋一 長田 秀夫 鈴木 隆元 宮澤 隆仁 苗代 弘 島 克司
出版者
一般社団法人 日本脳卒中の外科学会
雑誌
脳卒中の外科 (ISSN:09145508)
巻号頁・発行日
vol.37, no.5, pp.375-378, 2009 (Released:2010-04-16)
参考文献数
4

A 74-year-old man presented with subarachnoid hemorrhage (SAH) and underwent neck clipping of a left middle cerebral artery (MCA) aneurysm 10 years ago. This patient presented with SAH again due to rupture of a de novo aneurysm of the anterior communicating artery (A-com. aneurysm). The A-com. aneurysm was clipped successfully. The “old” left MCA aneurysm was then inspected. A collapsed “old” aneurysmal dome and a previously applied clip were identified. The “old” aneurysmal dome was resected for histopathological examination. The wall of this aneurysmal dome varied in thickness and consisted of a thin layer of fibrous connective tissue. Fibroblasts were scattered in the aneurysmal wall and either the muscular layer or internal elastic lamina was absent. The aneurysmal dome collapsed to a certain degree, but the lumen of the dome was completely intact. In addition, neovascularization of microcapillaries was observed both inside and outside the aneurysmal dome. Some of these microcapillaries were filled with fresh erythrocytes. Thus the aneurysmal wall was apparently “vigorous.” The previous orifice of the aneurysm did not fuse together at all and could be opened widely with ease during preparation for histopathologic examination. We speculated that the clipped aneurysmal dome survived for 10 years for the following reasons: 1) Although the mechanism of neovascularization of the microcapillaries is unclear, the clipped aneurysmal dome may have obtained nourishment from the microcapillaries. 2) The cerebrospinal fluid may have incubated the dome and provided optimal circumstances for its survival. Considering the radical cure for ruptured cerebral aneurysms by neck clipping or coil embolization, the findings described in this report will be valuable for neurosurgeons and neurointerventionists. Regardless of the time since treatment, ruptured aneurysms treated by either neck clipping and/or coil embolization are at risk of recurrent subarachnoid hemorrhage when the blood re-enters the aneurysms in cases such as clip slip-off or coil compaction.
著者
中村 善紀 宮澤 健 井口 欽之蒸 北原 昇 松尾 俊彦
出版者
一般社団法人 国立医療学会
雑誌
医療 (ISSN:00211699)
巻号頁・発行日
vol.33, no.5, pp.445-452, 1979
被引用文献数
1

日本において高山病は通常3,000m以上の高度で登山者におこるが, 低地へ移送することによつて迅速に症状は改善され治癒するので, 本邦での剖検例は全く報告されていない. 当病院は海抜600mの地にあり, 日本アルプス最寄りの松本市にあるため, 毎年数名の本症患者が入院して数日間で軽快退院している. 最近2例の死亡者があり, 剖検の機会があつたので報告する.<br>症例1 23才 女 槍ケ岳(3,179m)に登頂し高山病にかかり, 低酸素血症, 錐体路徴候, 昏睡に陥り, 発病11日後に死亡した. 剖検では回復期の肺浮腫, 多数の出血巣, 肺胞内の硝子化した滲出物を認め, 脳で神経膠細胞増殖を伴う脳白質の血管周囲病巣を認め, 点状出血が多数認められた.<br>症例2 16才 男 唐松岳(3,100m)に登り高山病となる. 低酸素血症, 錐体路徴候, 昏睡を示し, 発病後5日で死亡した. 剖検では心疾患によらない著明な肺浮腫, 脳白質に限局した血管周囲性脱髄と出血が特異的であつた.<br>2例とも同じような臨床経過と, 肺浮腫と出血並びに脳白質の浮腫と点状出血を示した.

1 0 0 0 OA 高山病の研究

著者
中村 善紀 宮澤 健 井口 欽之蒸 北原 昇 松尾 俊彦
出版者
一般社団法人 国立医療学会
雑誌
医療 (ISSN:00211699)
巻号頁・発行日
vol.33, no.5, pp.445-452, 1979-05-20 (Released:2011-10-19)
参考文献数
28

日本において高山病は通常3,000m以上の高度で登山者におこるが, 低地へ移送することによつて迅速に症状は改善され治癒するので, 本邦での剖検例は全く報告されていない. 当病院は海抜600mの地にあり, 日本アルプス最寄りの松本市にあるため, 毎年数名の本症患者が入院して数日間で軽快退院している. 最近2例の死亡者があり, 剖検の機会があつたので報告する.症例1 23才 女 槍ケ岳(3,179m)に登頂し高山病にかかり, 低酸素血症, 錐体路徴候, 昏睡に陥り, 発病11日後に死亡した. 剖検では回復期の肺浮腫, 多数の出血巣, 肺胞内の硝子化した滲出物を認め, 脳で神経膠細胞増殖を伴う脳白質の血管周囲病巣を認め, 点状出血が多数認められた.症例2 16才 男 唐松岳(3,100m)に登り高山病となる. 低酸素血症, 錐体路徴候, 昏睡を示し, 発病後5日で死亡した. 剖検では心疾患によらない著明な肺浮腫, 脳白質に限局した血管周囲性脱髄と出血が特異的であつた.2例とも同じような臨床経過と, 肺浮腫と出血並びに脳白質の浮腫と点状出血を示した.
著者
宮澤 信太郎
出版者
公益社団法人 応用物理学会
雑誌
応用物理 (ISSN:03698009)
巻号頁・発行日
vol.69, no.5, pp.493-503, 2000-05-10 (Released:2009-02-05)
参考文献数
63

誘電体酸化物光学結晶は多岐にわたる光との相互作用をもっており,光機能結晶としての開発の歴史が長い.おもに線形・非線形電気光学結晶について過去の結晶開発をふり返り,従来の特性限界を打破する新結晶の出現にふれて,機能性結晶開発は「温故知新」でもあることを紹介する.そこでは新しい知識に加えて新しい認識が「新」機能結晶を生んでいる.可視~近赤外域から紫外域,遠赤外域への光周波数の拡大をもたらす,光非線形性やフォトリフラクティブ機能の「新」機能結晶がこれからの光情報技術 (IT) を担うことを予感させる.