著者
國武 絵美 小林 哲夫
出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
化学と生物 (ISSN:0453073X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.9, pp.532-540, 2019-09-01 (Released:2020-09-01)
参考文献数
45

糸状菌(いわゆるカビ)は生育環境中に存在するさまざまな多糖を分解してエネルギー源として利用する.近年,それぞれの多糖の分解酵素遺伝子に特異的な転写活性化因子が次々と同定され,その転写誘導メカニズムの全容も明らかになりつつある.一方でグルコースのような資化しやすい糖存在下で起こるカタボライト抑制では従来の転写抑制因子がかかわる経路とは別の新奇経路が見いだされ,この経路の関与の程度が多糖分解酵素の種類によって異なることが判明した.本稿ではこれらの転写制御機構を介して糸状菌がどのように利用する糖質の優先順位を決定づけているのかについて考察する.
著者
齋藤 岳人 樋口 大樹 井上 和哉 小林 哲生
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
心理学研究 (ISSN:00215236)
巻号頁・発行日
vol.93, no.2, pp.139-149, 2022 (Released:2022-06-25)
参考文献数
24

Perimetric complexity, which is a simple metric of character (letter) complexity defined by an image’s area and peripheral length, has been widely used, especially in alphabetic orthographies. We examined whether perimetric complexity is also a valid index for Japanese kana characters (hiragana and katakana) by comparing it with subjective complexity. We obtained evaluations of subjective complexities from Japanese and English speakers and calculated the mean of each character for each type of speaker for character-based analyses. The analyses revealed three main findings: (a) Perimetric complexity was highly correlated with subjective complexity (rs > .85), and its correlation was higher than that between the subjective complexity and other measures for character complexity (i.e., stroke count). (b) The perimetric complexities were highly correlated across different typefaces, except for significantly different typefaces. (c) Subjective complexity was highly correlated between Japanese and English speakers. These findings suggest that perimetric complexity can also be used as an index for Japanese kana character complexity.
著者
川崎 英二 丸山 太郎 今川 彰久 粟田 卓也 池上 博司 内潟 安子 大澤 春彦 川畑 由美子 小林 哲郎 島田 朗 清水 一紀 高橋 和眞 永田 正男 牧野 英一 花房 俊昭
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.8, pp.584-589, 2013 (Released:2013-09-07)
参考文献数
13
被引用文献数
14

1型糖尿病は膵β細胞の破壊性病変によりインスリンの欠乏が生じて発症する糖尿病であり,発症・進行の様式によって,劇症,急性,緩徐進行性に分類される.今回,本委員会において急性発症1型糖尿病の診断基準を策定した.劇症1型糖尿病の診断基準を満たさず,口渇,多飲,多尿,体重減少などの糖尿病(高血糖)症状の出現後,おおむね3か月以内にケトーシスあるいはケトアシドーシスに陥り,糖尿病の診断早期より継続してインスリン治療を必要とする患者のうち,経過中に膵島関連自己抗体の陽性が確認されたものを「急性発症1型糖尿病(自己免疫性)」と診断し,同患者のうち膵島関連自己抗体が証明できないが内因性インスリン分泌が欠乏(空腹時CPR<0.6 ng/ml)しているものを単に「急性発症1型糖尿病」とする.しかし,内因性インスリン分泌欠乏が証明されない場合,あるいは膵島関連自己抗体が不明の場合には診断保留として期間をおいて再評価することが重要である.
著者
馬殿 恵 今川 彰久 阿比留 教生 粟田 卓也 池上 博司 内潟 安子 及川 洋一 大澤 春彦 梶尾 裕 川﨑 英二 川畑 由美子 小澤 純二 島田 朗 高橋 和眞 田中 昌一郎 中條 大輔 福井 智康 三浦 順之助 安田 和基 安田 尚史 小林 哲郎 花房 俊昭 日本人1型糖尿病の成因診断病態治療に関する調査研究委員会
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.37-46, 2019-01-30 (Released:2019-01-30)
参考文献数
34
被引用文献数
5

抗PD-1抗体投与後に発症する1型糖尿病について,日本糖尿病学会員への調査と文献検索を行い22症例を検討した.初回の薬剤投与日から発症までの平均期間は155日,発症時の平均年齢63歳,平均血糖値617 mg/dL,平均HbA1c8.1 %,尿中C-ペプチド4.1 μg/日(中央値),空腹時血中C-ペプチド0.46 ng/mL(中央値)であった.31.6 %に消化器症状,27.8 %に感冒様症状,16.7 %に意識障害を認め,85.0 %でケトーシス,38.9 %で糖尿病性ケトアシドーシスを発症した.50.0 %が劇症1型糖尿病,50.0 %が急性発症1型糖尿病と診断された.膵外分泌酵素は52.6 %で発症時に,28.6 %で発症前に上昇した.1例でGAD抗体陽性であった.抗PD-1抗体投与後に発症する1型糖尿病は,劇症1型糖尿病から急性発症1型糖尿病まで幅広い臨床病型を呈し,高頻度に糖尿病性ケトアシドーシスを発症するため,適切な診断と治療が不可欠である.
著者
三浦 麻子 小林 哲郎 清水 裕士
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2022-04-01

本研究の目的は,様々な社会的行動・態度の個人差を説明する新たな価値観概念として「常民性」―民主主義やキリスト教といった現代欧米社会に深く根ざす思想の呪縛を受けない,システム正当化,生活保守主義,個人幸福志向などが複合した概念―を探究し,妥当性と信頼性の高い測定尺度を開発することである.(a)質的面接調査,(b)Web調査,(c)尺度開発の3プロジェクトが遂行される.一般的な質問紙調査ではリーチできない層を対象とする丹念な質的データ収集にもとづいて概念の精緻化を試みる点,尺度開発に統計モデリングを活用する点に学術的独自性と創造性がある.
著者
河村 和徳 三船 毅 篠澤 和久 堤 英敬 小川 芳樹 窪 俊一 善教 将大 湯淺 墾道 菊地 朗 和田 裕一 坂田 邦子 長野 明子 岡田 陽介 小林 哲郎
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

東日本大震災では多くの被災者が生じ、彼らの多くは政治弱者となった。本研究は、彼らの視点から電子民主主義の可能性について検討を行った。とりわけ、彼らの投票参加を容易にする電子投票・インターネット投票について注目した。福島県民意識調査の結果から、回答者の多くは電子投票・インターネット投票に肯定的であることが明らかとなった。しかし、選管事務局職員は、こうしたICTを活用した取り組みに難色を示す傾向が見られた。ICTを利用した投票参加システムを整備するにあたっては、彼らが持つ懸念を払拭する必要があることが肝要であり、財源の担保に加えシステムの信頼を高める努力が必要であることが明らかになった。
著者
齋藤 岳人 井上 和哉 樋口 大樹 小林 哲生
出版者
日本基礎心理学会
雑誌
基礎心理学研究 (ISSN:02877651)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.170-174, 2022-03-31 (Released:2022-06-17)
参考文献数
22

Although online research has shown promise as an alternative to laboratory research, it is unsuitable for the mere exposure effect because it is unknown whether participants sufficiently pay attention to repeated stimuli. To overcome this problem, we developed an online research method using exposure frequency in everyday life, which was combined with a cross-cultural comparison to consider the effect of confounding factors. Participants familiar and unfamiliar (Japanese and English speakers) with kana characters evaluated their attractiveness. After standardizing the attractiveness for each participant, we calculated the mean of each character’s view for each type of speaker to calculate a character-based correlation. The result of the Japanese speakers showed a moderate positive correlation between attractiveness and log-transformed exposure frequency to the characters counted by a Japanese corpus, indicating an occurrence of the mere exposure effect. This result cannot be explained by such confounding factors as the visual aspects of the characters due to a non-significant correlation in the English speakers. This study provided a more appropriate way to study the mere exposure effect in online environments.
著者
岩田 和彦 小林 哲則
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J106-D, no.1, pp.57-65, 2023-01-01

多様な音声表現が可能な対話音声合成の構築を目的として,複数の異なる音声表現を収集する手法の設計に取り組んだ.従来は,それぞれを適切な表現とすることに注意が向けられ,互いに他の表現とは無関係に表出させた音声が収集されていた.しかし,このような収集方法を採ると,それぞれの表現の隔たりが大きくなり,それらの合成音声を対話の流れの中で発話ごとに使い分けたときに違和感が生じるという問題が起こる.そこで,話し手の心的状態が次々と変化して,収集したい音声表現が満遍なく出現するように進行する対話シナリオを導入した収集手法を設計した.所望の音声表現を対話の流れの中で順に表出させることで,全体としての調和が保たれた表現となることが期待できる.実際に,対話の状況に応じて異なる複数の音声表現を収集し,これらと従来の方法で収集した音声表現とに基づく合成音声を用いたそれぞれの模擬対話の対比較による主観評価を行った.本手法で収集した音声表現の合成音声では,異なる表現を対話の流れの中で使い分けたときの自然性が改善されていることが示され,本手法の有効性が確認された.
著者
小林 哲郎 松井 勇佑 佐藤 真一
出版者
神戸大学
雑誌
挑戦的研究(開拓)
巻号頁・発行日
2020-07-30

本研究は深層学習の技術をテレビニュースの内容分析に応用し、大量の映像情報を目視に頼ることな、自動的に分析する方法論を確立する。深層学習は、分析対象の分類に有効となる特徴を自ら学び取っていくため、様々な角度や表情で人物が映されるテレビ映像の分析に有効である。本研究の文脈では、事前に特定することが困難な政治家の顔の特徴をアルゴリズムが自律的に学習していくことで、ニュース内における特定の政治家の出現を高い精度で検出することが可能になる。こうした深層学習に基づいた計算アルゴリズムと網羅性の高いニュースアーカイブを組み合わせることで、従来の内容分析では回答できなかった社会科学的問いに答えることを目指す。
著者
齋藤 岳人 井上 和哉 樋口 大樹 小林 哲生
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第19回大会
巻号頁・発行日
pp.4, 2022 (Released:2022-04-20)

本研究の目的は,記憶や流暢性現象(真実性効果など)において重要な要因と考えられている書体の読みやすさに書体への接触,使用経験が関与するのか明らかにすることである。そこで,大学生を対象として,無意味文字列に対する書体の読みやすさと接触頻度,使用頻度のWeb調査(7件法のリッカート法)を行い,これらの関係を検討した。書体ごとの評定値を平均し,相関係数を算出したところ,読みやすさと接触頻度で.69,読みやすさと使用頻度で.77の高い正の相関が有意であった。しかし,特徴的な形態の書体や,特定の種類の書体では接触,使用頻度に関係なく,読みやすさが判断されていた。この結果は,普段から目にすることが多く,使用する機会の多い書体が読みやすいと判断される一方で,形態的要因から読みやすさが判断される書体も存在することを示唆する。
著者
小林 哲
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.29-40, 2021-06-30 (Released:2021-06-30)
参考文献数
28

地方は,長期に渡り構造的問題を抱えており,それを解決する方法として注目されているのが,交流人口を糧とする地域ブランディング手法に基づく地域経済の活性化である。しかし,現在,新型コロナウイルス感染症の蔓延により,その政策が実行できずにいる。そこで,本稿では,コロナ禍での地域ブランディング政策を,①交流人口を維持するための政策,②交流人口に代わる市場の開拓,③交流人口以外を糧とする地域ブランディング政策の可能性の3つの視点から考察する。なお,コロナ禍での政策には,構造的問題の解決という長期的視点(線)と,コロナ禍という特殊状況への対応という短期的視点(点)の両方が必要となる。本稿では,この両方の視点を踏まえて,コロナ禍での地域ブランディングの在り方を明らかにする。
著者
松山 洋一 藤江 真也 齋藤 彰宏 XU Yushi 小林 哲則
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. SP, 音声 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.110, no.220, pp.7-12, 2010-10-01
参考文献数
7

通所介護施設において,人同士の会話に介在させ,コミュニケーションを活性化するロボットについて報告する.本研究では,具体的なタスクとして高齢者通所施設で行われている難読ゲームを取り上げる.難読ゲームは,司会者の存在する複数人対話の一形態だと考えることができる.ここでロボットは,複数人会話における制約を満たしながら,会話を活性化させるための行動選択を行う必要がある.本論文では,既に人同士で行われているコミュニケーションを妨害せずに活性化を実現するため,会話における参加者の役割や,参加者間が共有する話題を推定しながら,様々な場面において適した行動を取るフレームワークを提案する.
著者
小林 哲
出版者
日本商業学会
雑誌
流通研究 (ISSN:13459015)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.1-12, 2018 (Released:2018-03-31)
参考文献数
31
被引用文献数
2

医療や教育サービスにおいて,サービス終了時に便益を享受することができず,その後しばらくして便益がもたらされることがしばしば存在する。このような現象は便益遅延性と呼ばれており,顧客満足の評価や顧客参加の在り様に大きな影響をもたらすことが指摘されている。しかし,このサービスにおける便益遅延性は,私たちにひとつの理論的な問題を提起する。便益遅延性がサービスの基本特性である生産と消費の同時性(不可分性)に反するというのがそれである。もし,サービスにおいて生産と消費が同時になされるのであれば,消費すなわち便益の享受が遅延することはない。一方,医療やサービスにおいて便益が本当に遅延するのであれば,それはサービスの基本特性である生産と消費の同時性に反することになり,この種の医療や教育は“サービスではない”とみなすこともできる。そこで,本稿では,サービスの基本特性に立ち返り,便益遅延性の発生メカニズムを探ることで,このような矛盾が生じる理由を明らかにし,サービス・マネジメントの新たな可能性について考察する。結論を先に述べるならば,医療や教育サービスにおける便益遅延性は,サービス・デリバリー(生産)と便益の享受(消費)との間に顧客資源が介在することによって生じる。さらに言えば,便益遅延性は,このような顧客資源介在型サービスの特徴のひとつに過ぎない。したがって,医療や教育サービスの成果を高めるには,便益遅延性のみならず,それをもたらす顧客資源介在型サービスの特徴を理解しマネジメントする必要がある。
著者
成尾 英仁 小林 哲夫
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.287-299, 2002-08-01
参考文献数
37
被引用文献数
5 11

薩摩・大隅半島南半部と南方海域に位置する種子島・屋久島において,6.5ka BPに鬼界カルデラで発生したアカホヤ噴火に伴った地震の痕跡が多数見つかった.地震の痕跡は,薩摩・大隅半島南半部では砂や軽石・シルトが噴き出す噴砂脈であるが,種子島・屋久島では礫が噴き出した噴礫脈である.噴砂脈は薩摩半島中南部と大隅半島中部のシラス台地上に集中しており,シラス(入戸火砕流堆積物:A-Ito)の二次堆積物から発生するものが主体である.一方,噴礫脈は種子島・屋久島の海岸段丘面上に存在しており,礫に富む段丘堆積物から派生したものと,基盤をつくる熊毛層群の風化・破砕された礫から発生したものとがある.<br>これら噴砂・噴礫脈の発生時期であるが,種子島・屋久島地域での噴礫の発生は火砕流噴火の直前~同時期の1度だけであったが,薩摩・大隅半島南半部での噴砂は噴礫の発生と同時期だけでなく,鬼界アカホヤ火山灰(K-Ah)の降下中にも発生した.<br>すなわち,最初の巨大地震は,種子島・屋久島地域から薩摩・大隅半島南半部にわたる広い範囲で噴礫・噴砂を発生させたが,2度目の地震は数時間ほど後に発生し,震源はより北部に移動した可能性が大きい.