著者
小林 宏子
出版者
上智短期大学
雑誌
上智短期大学紀要 (ISSN:02877171)
巻号頁・発行日
vol.28, pp.73-84, 2008

本論は、聖マリア修道女会創立400周年に当たり、修道会創立に到る聖ジャンヌ・ドゥ・レストナックの体験を、挫折の中で見出されたアイデンティティという観点から論述し、アイデンティティ確立の課題に直面する学生達に、模範と励ましを提示する試みである。ジャンヌは、世間からは理想の道の挫折と評価される、観想修道会からの退会という体験の中で、神から新しい修道会創立への招きを受け取り、その実現へと踏み出して行く。この新しいアイデンティティの受諾と実現のためには、以前の理想像としての自己を放棄する必要があった。彼女に、この自己放棄を果たさせ、新しい可能性へと開く勇気を与えたのは、イエスの生き方を理想とし、そのイエスを自己のアイデンティティの原型として受け取る信仰であり、イエスに一致して神が示す招きを果たそうとする愛である。このジャンヌの経験は、挫折の中から、新たな道を見出すキリスト教信仰の力強い模範である。
著者
細谷 昂 米地 文夫 平塚 明 佐野 嘉彦 小林 一穂 佐藤 利明 劉 文静 山田 佳奈 吉野 英岐 徳川 直人
出版者
岩手県立大学
雑誌
総合政策 (ISSN:13446347)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.1-73, 2004-01-16

中国河北省〓台市〓台県の前南峪村は、1995年以来「前南峪経済試験区」となって、模範村として全国的にも注目されるにいたっている。その理由は、(1)「生態農業」を、(2)集体経営で実施し、成功を収めたからである。つまり、(1)村を取り囲む山地に、栗やりんごなどを植林して緑化し、洪水を防ぎながら、果樹作によって経済的にも村を豊かにしたのである。しかも(2)これらの事業を、村全体の集体経営としておこなっている。人民公社時代の集体農業の非効率性を解決するために、中国では生産請負制を導入した。その具体的なやり方はさまざまであったが、一般的には、土地を個人に分配して請け負わせるという、個別化の道であった。しかし前南峪では、村民のきびしい議論を経て集体経営の道を選び、成功したのである。現在では、この集体経営のなかに工業をも導入し、その収入が畑作や果樹作を上回るにいたっている。しかし、(1)環境保全と生活の向上との両方を追求してきた「生態農業」が、経済発展のいっそうの追求のなかで環境破壊に至るのではないかという問題、そしてまた(2)集体経営におけるる「個と集団」の問題が、生活水準の向上、とくに学歴水準の向上によって「個の」自己主張という形で顕在化するのではないかという問題を抱えていることを見逃すわけにはいかない。
著者
小林 悟志
出版者
植生学会
雑誌
植生学会誌 (ISSN:13422448)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.51-61, 2008
参考文献数
33
被引用文献数
2

&nbsp;&nbsp;1. 本研究は,南九州の30地域について,葉の表皮組織の違いによる判別をもとに,ツブラジイとスダジイおよび雑種の分布を明らかにすることを目的とした.<BR>&nbsp;&nbsp;2. 従来から行われてきた葉の表皮組織によるシイ類の判別法では,葉の任意の位置で観察されており,スダジイとツブラジイおよび雑種の判別を誤る可能性がある.本研究では,葉の横断面の全体が顕微鏡観察できる位置で観察領域を設定し,葉の表皮組織による判別をより正確なものにした.<BR>&nbsp;&nbsp;3. 南九州におけるシイ類の垂直分布は,海岸部では全標高域にわたってスダジイが卓越していた.一方,内陸部では,比較的標高の低い地域はツブラジイであるが,標高が高くなるにしたがいスダジイの分布する割合が高くなり,山頂や尾根沿いにはスダジイのみが分布していた.<BR>&nbsp;&nbsp;4. 内陸部の久木野では,スダジイは山頂から尾根部に多く,標高が低くなるにつれて個体数が少なくなる傾向が認められた.一方,ツブラジイは調査区域内のより標高の低い地域に多く,標高が高くなるにつれてその個体数が少なくなる傾向が認められた.また,雑種個体は標高の高低によって分布が偏る傾向は認められず,ツブラジイとスダジイの両種が混生している標高域に多く分布していた.<BR>&nbsp;&nbsp;5. 海岸部と内陸部の2地域で行った雑種個体における葉の表皮組織の1層と2層の割合は,周辺に分布するツブラジイとスダジイの分布状況を反映しており,両種の交雑によるF_1形成,ツブラジイまたはスダジイと雑種との戻し交雑,雑種同士の交雑等,分布域によって異なる交雑様式が進行していると考えられた.<BR>&nbsp;&nbsp;6. 堅果の形態は,採集場所ごとに異なっていたが,その形態は葉の表皮組織で判別した両種の母樹の分布状況を反映していた.
著者
小林隆著
出版者
ひつじ書房
巻号頁・発行日
2004
著者
池田 彩夏 小林 哲生 板倉 昭二
出版者
日本認知科学会
雑誌
認知科学 (ISSN:13417924)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.8-21, 2016-03-01 (Released:2016-09-01)
参考文献数
41

In the field of language development, one interesting issue is how Japanese-speaking children acquire the case markers that play a role in understanding a sentence’s struc-ture, because previous studies reported that caregivers often omit them when talking to their children (e.g., Rispoli, 1991). Although grasping the characteristics of parental input on case markers is crucial for understanding a child’s acquisition process of them,the studies so far have shown insufficient data to clarify the qualitative and develop-mental characteristics of case marker inputs because of small sample size or a limited target age. This study used a larger sample of mothers (N=52) with children who ranged from 1 to 3 to measure their tendency to talk to their children using a struc-tured production-elicited task. Our results revealed that Japanese-speaking mothers tended to omit case markers more frequently when speaking to children than to adults. The omission rate also differed depending on the child’s age, the type of case mark-ers, verb transitivity, and maternal views about speech to children. Additionally, the mothers tended to omit arguments more frequently when speaking to children, sug-gesting that Japanese-speaking children have fewer opportunities for listening to case markers because of sentence simplification. These findings have important implications for investigating the relationship between parental language input and child language development.
著者
朝比奈 俊彦 小林 隆夫 寺尾 俊彦
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.42, no.9, pp.1168-1174, 1990-09-01
被引用文献数
1

目的:受精卵の着床や妊娠初期の接着現象に関しては, その機序は依然として不明な点が多くいまだ十分解明されているとはいえない. そこでわれわれは, 着床直後のマウス初期胚およびヒト初期妊娠着床部, さらに正常子宮内膜培養細胞における接着関与物質の局在を酵素抗体法を用いて検索し, 初期胚と子宮内膜との接着機構の解明を試みた. 方法:(1)ICR系雌マウスをPMS-hCGを用い過排卵処理し交配させ, 妊娠5日目に子宮を摘出しfibronectin (FN), laminin (LM), type IV collagen (C_<IV>), XIII因子subunit S (XIII_S)の染色を行った. (2)ヒト患者において手術的に摘出した卵管妊娠(7〜8w)および子宮筋腫合併妊娠(5w)の着床部で, FN, LM, C_<IV>, XIII因子subunit A (XIII_A, XIII_Sの染色を行った. (3)ヒト患者において, 手術的に摘出した筋腫子宮の正常内膜部分を無血清培地にて単層培養し, FN, XIII_A, XIII_Sの染色を行った. 染色はすべて酵素抗体間接法を用いた. 結果:(1)マウス初期胚着床部では, FNとXIII_Sがtrophoblast giant cellsに, C_<IV>は子宮内膜上皮細胞に陽性染色された. LMはdistal endodermとその基底膜に陽性染色された. (2)ヒト初期妊娠着床部ではC_<IV>がsyncytiotrophoblastの表面と絨毛間質部, および子宮又は卵管内膜間質部に, FNとXIII_Aが絨毛間質部, および子宮又は卵管内膜間質部に陽性染色された. (3)子宮内膜培養細胞においてはFNとXIII_Aが間質細胞に陽性染色された. 結語:(1)マウス初期胚着床時の接着現象において, FN, C_<IV>およびそれらの接着に架橋的に働くXIII 因子の関与が強く示唆された. (2)ヒト初期妊娠の接着機構においてもFN, C_<IV>, XIII因子の関与が強く示唆された. (3)さらにそのFNとXIII因子は, 子宮内膜間質細胞で産生されていることが判明した.
著者
阿部 広明 大林 富美 原田 多恵 嶋田 透 横山 岳 小林 正彦 黄色 俊一
出版者
The Japanese Society of Sericultural Science
雑誌
日本蚕糸学雑誌 (ISSN:00372455)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.196-200, 1996

CSD-1系統はカイコ支137号 (<i>nsd-1</i>/<i>nsd-1</i>) に日137号 (+<sup><i>nsd-1</i></sup>/+<sup><i>nsd-1</i></sup>) の濃核病ウイルス1型 (DNV-1) 感受性遺伝子 (+<sup><i>nsd-1</i></sup>) が所属する第21連関群を導入し, 継代, 維持している。このためCSD-1系統は, 第21連関群について, 日137号の染色体と支137号の染色体を一本ずつもつ<i>nsd-1</i>/+の雌に, 支137号の雄を交配し, 蛾区内でDNV-1感受性個体 (<i>nsd-1</i>/+) とDNV-1非感受性 (完全抵抗性) 個体 (<i>nsd-1</i>/<i>nsd-1</i>) が1:1で分離するようにしてある。本研究は, +<sup><i>nsd-1</i></sup>遺伝子に連関しているランダム増幅多型DNA (RAPD) を利用し, CSD-1系統内よりDNV-1を接種することなく, 幼虫ならびに成虫のDNV-1感受性を診断する方法について検討した。PCRの鋳型となるゲノムDNAを, 幼虫の場合は切断した腹脚2本から, 成虫の場合は切断した脚2本から, それぞれ抽出し, 特定のプライマーを使用してPCRを行い, RAPDの有無を調べた。その結果, RAPDによる診断結果とDNV-1感染の有無が一致した。この方法により, ウイルスを使用することなくDNV-1感受性個体を検出し, その個体から次代を得ることが可能となった。
著者
小林 良夫 能美 隆 下池 洋一 上野 浩志 前川 麻弥 鈴木 克裕 川本 範之 山地 松夫 佐藤 隆
出版者
日本質量分析学会
雑誌
Journal of the Mass Spectrometry Society of Japan (ISSN:13408097)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.205-215, 2003 (Released:2007-10-16)
参考文献数
4
被引用文献数
3 2

The purpose of this study is to estimate the amounts of kerosene poured at the scene of arson. Several analytical methods have been carried out to detect kerosene in fire debris. There is no study to compare the methods quantitatively. First we discussed comparison about several analytical methods, and got the conclusion that the most sensitive method was found to be the analysis using gas chromatography/mass spectrometry (GC/MS) after extracting by ether. The detection limit of this methed was 0.05 µg/g.The kerosene concentration of tatami had an effect on the condition of combustion. We estimated the diffusion speed of kerosene sprinkled on tatami. We conducted experiments to check the condition of tatami burning, due to the amount of kerosene. Furthermore, we showed the evidence to get fire debris from the inside not the surface to get information about the kerosene amount.
著者
笹本 洋子 松村 正 小林 由佳 内古閑 修 長澤 利彦 十川 裕史 佐々木 環
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.49, no.9, pp.599-604, 2016 (Released:2016-09-29)
参考文献数
22
被引用文献数
1

7X歳女性, 血液透析 (HD) 歴1年. 透析当日, 来院時から全身倦怠感と発熱 (37.5°C) を認め入院となった. 血液培養検査でG群β溶血性レンサ球菌を検出した. 一時40°C近い発熱と敗血症様の症状を呈し全身状態が悪化したが, 抗菌薬の点滴により全身症状は速やかに改善した. しかし同時に両眼の視力低下を認め, 敗血症による両眼の内因性細菌性眼内炎と診断された. 内因性細菌性眼内炎は, 視力予後不良な疾患として知られているが, 幸いにも速やかな診断の上で抗菌薬の全身投与と抗菌薬の頻回点眼により最終的には視力回復を得た. 今回, われわれは早期の診断と適切な抗菌薬の全身投与によりG群β溶血性レンサ球菌 (GGS) の敗血症から発症した内因性眼内炎から視力回復した症例を経験した.
著者
津久井 亜紀夫 小林 恵子 斉藤 規夫
出版者
The Japan Society of Home Economics
雑誌
日本家政学会誌 (ISSN:09135227)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.115-119, 1989

フィリピン酸紫ヤム塊根粉末中のアントシアニン色素の安定性に関する研究の一環として, 蝶豆花アントシアニン色素とpH, 温度, 紫外線ならびに窒素ガス中での貯蔵における影響について検討し, 下記の結果が得られた.<BR>1) UBEおよびPAのANの23日後の色素残存率は, それぞれ 30℃ で 97% と 77%, 60℃ で 61% と 30%であった. 90℃ では4~5日でほとんど分解された.<BR>2) UBEおよびPAのANをアンプル管に入れ, 60℃で23日間加熱した.空気中での色素残存率はUBEが62%, PAが30%であったが, 窒素中では, それぞれ約85%で安定であった.<BR>3) UBEおよびPAのAN溶液に殺菌灯を直接照射した場合は6時間後約20~30%の色素残存率であったが, アンプル管中のPAの色素残存率は100%, UBEが約95%で安定であった.また屋外に放置した場合は両ANとも1日間で分解退色した.<BR>4) PAのAN溶液に各種添加物を添加し, 加熱した結果, とくにレアスコルビン酸および過酸化水素水によって, 分解退色した.<BR>以上の結果, UBEのANは, ANの中では温度には比較的安定で紫外線照射さえ避ければ十分に加工食品への利用が可能であると考える.