著者
小坂 光男 大渡 伸 松本 孝朗 山下 俊一
出版者
長崎大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1989

【緒言】暑熱順化の形成過程における個体レベルの反応は急性の神経性・亜慢性の内分泌性調節変化に引き続いて器質性変化の誘発がある。この器質性変化と言えども細胞レベルにおいては温度刺激後の比較的早期に誘起される可能性は否めない。温熱生理学的手法に加えて、昨今、がん温熱療法のハイパ-サ-ミア分野で脚光を浴びている温熱感受性・熱耐性に関連の深い熱ショック蛋白(Heat shock proteins:HSPs)の誘導の有無を検索し、暑熱負荷時の生体反応、特に暑熱順化機序を個体および細胞レベルで解析・究明することを研究の目的としている。【方法】ナキウナギ、ラット、家ウサギに熱ショック(直腸温:42℃,15分)や寒冷ショック(直腸温:20℃,30ー120分,平成2年度はさらに筋肉・脳温を42℃,15分間加温負荷)を加え、各種体温調節反応を記録、動物は20時間後 10%SDSーPAGEによって、肝・腎・脾・副腎・脳・筋肉の各組織のcytosol fractionに新しい蛋白質(HSPs)の誘導の有無を検索、一部、HSP 70抗体によるWestern Blotting法によって詳細な分析を加えた。【結果】1熱ショック負荷方法(直腸温42℃に到達時間20ー30分が至適)で多少結果に差異が生じるが、2家ウサギで肝の cytosol fraction に 68KD の HSP の誘導、3ラットでは殆んど全組織で HSPs 70KD の誘導、4ナキウナギでは5例中1例において肝ーcytosol frction で 70KD 誘導、他の組織では HSPs の誘導困難、5寒冷ショックによる Cold shock protein(CSP)の検出に関してはラットの肝の cytosol fraction で 32KD の蛋白質が寒冷ショックによって消失する1例を観察している。6すべての動物の筋肉および脳のcytosol fraction で HSP の誘導はやや困難であるが、熱ショック負荷方の改善筋および脳(被殼)温度を42℃,15分間、直腸温43℃によって陽性の結果を得ており、今後更に検討を行う。【まとめ】熱耐性に関連の深い熱ショック蛋白(HSPs)が暑熱負荷20時間以後には細胞内に誘導される本研究結果は暑熱順化機序解明に光明を与える快挙である。
著者
原口 公子 山下 俊郎 重森 伸康
出版者
Japan Society for Atmospheric Environment
雑誌
大気汚染学会誌 (ISSN:03867064)
巻号頁・発行日
vol.20, no.6, pp.407-415, 1985-12-20 (Released:2011-11-08)
参考文献数
17
被引用文献数
1

環境大気中に存在するリン酸トリエステル類について試料の採取方法並びに分析方法を検討した。試料の採取は, ハイボリウムエアサンプラーを用い, ガラス繊維ロ紙の下にXAD-7樹脂を入れたステソレス製円筒を取り付けて, 吸引流速700l/分で24時間行った。採取した試料は, ソックスレー抽出器で抽出後, 酸・アルカリで処理し, シリカゲルカラムを用いて分画する。各溶離液は濃縮後N-P検出器付ガスクロマトグラフで溶融シリカキャピラリーカラムを用いて定量した。添加回収実験は, 8種類の標準物質のアセトン溶液をロ紙上に添加して, 上記の操作を行い回収率を求めた。その結果, リソ酸トリジクロロプロピルとリン酸トリフェニルは, ロ紙上に捕集され, 沸点がそれ以下のリン酸トリブチルやリン酸トリクロロエチルは主に樹脂上に捕集されることがわかった。この方法を環境試料に適用しGC/MS-MFで同定した結果, 大気中には, リソ酸トリエチル, リソ酸トリプチル, リソ酸トリクロロェチル, リン酸トリクロロプロピル, リン酸トリジクロロプロピル, リン酸トリフェニルの存在が確認されその濃度は2~5ng/m3程度であった。
著者
大石 高典 山下 俊介 内堀 基光 Takanori OISHI YAMASHITA Shunsuke UCHIBORI Motomitsu
雑誌
放送大学研究年報 = Journal of the Open University of Japan (ISSN:09114505)
巻号頁・発行日
vol.30, pp.63-75, 2013-03-21

2011年度放送大学学長裁量経費による研究助成を得て、放送大学に保管されている放送大学特別講義『HUMAN:人間・その起源を探る』の一部素材映像のアーカイブ化を行った。一連の作品は、撮り下ろし現地取材に基づく単発のシリーズとしては、放送大学のみならず、日本におけるこれまでで最大の教育用人類学映像教材作成プロジェクトであった。未編集のものを含む当該講義取材資料のうち約40%に当たる部分のアーカイブ化を行うとともに、当時現地取材や映像資料の作成に関わった放送大学関係者と自らの調査地に取材チームを案内した研究者らを中心に聞き取り調査を行った。「ヒューマン」シリーズ撮影から、既に15年以上が経過しているが、狩猟採集民、牧畜民、焼畑農耕民など、アフリカ各地の「自然に強く依存して生きる人びと」に焦点を当てた番組の取材対象地域では、取材後も撮影に関わった研究者自身やその次世代、次次世代におよぶ若手研究者が継続的に研究活動を行っている。これらの研究者との議論を踏まえれば、「ヒューマン」シリーズのラッシュ・フィルムの学術資料としての価値は、以下にまとめられる。(1)現代アフリカ社会、とくに生態人類学が主たる対象としてきた「自然に強く依存」した社会の貨幣経済化やグローバリゼーションへの対応を映像資料から考察するための格好の資料であること。(2)同時に、ラッシュ・フィルムは研究者だけでなく、被写体となった人びとやその属する地域社会にとっても大変意味あるものであり、方法になお検討が必要であるものの対象社会への還元には様々な可能性があること。(3)映像資料にメタデータを付加することにより、調査地を共有しない研究者を含む、より広範な利用者が活用できる教育研究のためのアーカイブ・データになりうること。本事例は、放送教材作成の取材過程で生まれた学術価値の高い映像一次資料は、適切な方法でアーカイブ化されることにより、さらなる教育研究上の価値を生み出しうることを示している。このような実践は、放送大学に蓄積された映像資料の活性を高めるだけでなく、例えば新たな放送教材作成への資料の再活用を通じて、教育研究と映像教材作成の間により再帰的な知的生産のループを生み出すことに貢献することが期待される。
著者
杉山 貢 山下 俊紀 松田 好雄 小林 衛 竹村 浩 土屋 周二
出版者
The Japan Society of Coloproctology
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.369-372,406, 1974 (Released:2009-06-05)
参考文献数
34
被引用文献数
6 1

平時比較的稀な会陰部の刺杭創(杙創)について,2例の自験例を中心に文献的考察を加えて述べる。症例1は8歳女児で校庭の植木の支柱による刺杭創であり,幸い直腸穿孔のみでことなきを得た.症例2は27歳男子で鉄製の椅子の脚による刺杭創で,膀胱・直腸瘻を形成した.刺杭創による腸管損傷について,本邦の報告例について検討すると,1927年に布目が報告して以来症例を加えると27例となり,好発年齢はほぼ外傷年齢である10代と20代に多く,性差は23:3と圧倒的に男性に多かつた.原因物体に関しては,竹による刺杭創が10例と目立った.損傷部位は直腸100%と膀胱88%と高率であり,手術時には特にこの両者への損傷の検索を怠ってはいけない.刺杭創に遭遇した場合には,受傷状況,程度をすばやく把握し,できる限り早期に対処し,むやみに保存療法により時を費すことはあってはならないと思う.
著者
小川 真澄 熊谷 敦史 青野 茂昭 葛巻 和枝 立崎 英夫 山下 俊一
出版者
日本保健物理学会
雑誌
保健物理 (ISSN:03676110)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.145-152, 2021-10-12 (Released:2022-01-06)
参考文献数
18

Since the end of 2019, we have faced a COVID-19 (coronavirus disease 2019) pandemic with SARS-CoV-2 (severe acute respiratory syndrome coronavirus 2). Medical institutions must treat COVID-19 patients while preventing health care workers and other patients from nosocomial infections. COVID-19 also needs to be considered in a case of radiation emergency medicine. Although radioactive materials (RI) and SARS-CoV-2 are different, they have much in common in health risk management when we receive such patients in that they are undetectable by all our five senses and require personal protective equipment (PPE). On the other hand, there are some notable points on preparedness and response for their risk management. We cannot detect SARS-CoV-2 in real-time but can sterilize them with alcohol-based hand sanitizer. RI is difficult to be decontaminated entirely but detectable in real-time with a suitable radiation survey instrument. Under the COVID-19 situation, it is a great challenge to deal simultaneously with a radiation protection and an infection control, especially in an emergency situation of radiation exposure. In order to overcome such difficulty, we at first compare the similarity and difference of risk management between RI exposure and SARS-CoV-2 infection. Then the points of attention are introduced how to manage the radio-contaminated patients with a coexistence of SARS-CoV-2, including the fundamental concept of zoning, PPE, and hand-over of equipment.
著者
山上 佳範 坂本 洋一 河合 淳 藤井 良昭 橋本 孝治 山下 俊彦
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集B2(海岸工学) (ISSN:18842399)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.I_556-I_560, 2012

The mechanism of morphology change at the first (western) entrance of lake Saroma were investigated with the 20 years bathymetric survey data set. It shows that the volume around the entrance decreased after the east jetty construction started and the major morphology changes were erosion along the channel and movement of ebb shoal. A numerical model which aimed to predict the morphology change for several years was developed based on the sediment transport characteristics. The simulation result shows that this model can quantitatively reconstruct the observed morphological changes for 3-4 years.
著者
片倉 喜範 藤井 薫 原田 額郎 山下 俊太郎 門岡 桂史
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

Caco-2細胞をヒト腸管モデル細胞株として用い、SIRT1プロモーター制御下でEGFPを発現するベクターを安定導入した組換えCaco-2細胞を樹立した。フローサイトメーターを用いてEGFPの蛍光強度の変化を追跡した結果、乳酸菌T2102株を陽性菌として選定した。T2102株は、SIRT1の活性化の結果、β-カテニンの脱アセチル化を誘導するとともに、その発現を消失させうることが明らかとなった。また、T2102株はDLD-1細胞におけるテロメラーゼ発現も抑制するとともに、細胞老化を誘導することが明らかとなった。またがん細胞抑制能が足場非依存性増殖能及び造腫瘍能の結果より明らかとなった。
著者
山上 佳範 坂本 洋一 河合 淳 藤井 良昭 橋本 孝治 山下 俊彦
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集B2(海岸工学) (ISSN:18842399)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.I_556-I_560, 2012 (Released:2012-11-15)
参考文献数
3

The mechanism of morphology change at the first (western) entrance of lake Saroma were investigated with the 20 years bathymetric survey data set. It shows that the volume around the entrance decreased after the east jetty construction started and the major morphology changes were erosion along the channel and movement of ebb shoal. A numerical model which aimed to predict the morphology change for several years was developed based on the sediment transport characteristics. The simulation result shows that this model can quantitatively reconstruct the observed morphological changes for 3-4 years.
著者
大津留 晶 ブライデン ベラ 三木 文夫 磯本 一 赤司 有史 小坂 光男 山下 俊一
出版者
日本ハイパーサーミア学会
雑誌
日本ハイパーサーミア学会誌 (ISSN:09112529)
巻号頁・発行日
vol.16, no.3, pp.131-141, 2000

がん遺伝子治療は進行癌や難治性癌の治療において, 副作用が少なくしかも効果的な治療となる可能性を秘めているが, 現段階における治験成績は必ずしも満足いくものではない.一方, 悪性腫瘍に対する温熱療法も, 癌細胞における熱ショック蛋白 (HSP) 誘導に代表される温熱抵抗性機序によりその効果は現況では限られたものである.しかし癌自殺遺伝子治療と温熱療法を併用することにより, 癌細胞に対するFas依存性アポトーシスを介した機序により, 著明な治療効果増強が得られることが見出された.さらに遺伝子治療における副作用をなくす目的で, 癌細胞の温熱耐性獲得時にHSP遺伝子のプロモーター活性が上昇することを応用した, 腫瘍選択的な分子標的治療を新たに考案したので報告する.
著者
大津留 晶 山下 俊一
出版者
日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.88, no.7, pp.1271-1276, 1999-07-10
参考文献数
5

副甲状腺ホルモン関連蛋白(PTHrP)は,悪性腫瘍に伴う高カルシウム血症の原因物質として発見された. PTHrPのN端は副甲状腺ホルモン(PTH)と高い相同性を有し,いずれも共通のPTH/PTHrP受容体に結合し,作用を発揮する.しかし,副甲状腺より分泌され,血中カルシウムレベルを調節するホルモンであるPTHに対し, PTHrPはあらゆる臓器の様々な細胞より,時に応じて分泌され,生理的には主にパラクライン・オートクライン的に作用している.事実その受容体は全身に幅広く分布している.このためPTHrPの生理作用は不明な点が数多くあったが,発生工学的手法などの発展に伴い骨・軟骨系の新知見を始め,その機能の実態が徐々に明らかにされつつある.
著者
山本 寛人 田中 健一 山下 俊介 浮田 昌一 中野 博史 白沢 楽 冨谷 茂隆 小寺 正明 船津 公人
出版者
公益社団法人 日本化学会・情報化学部会
雑誌
ケモインフォマティクス討論会予稿集 第42回ケモインフォマティクス討論会 東京
巻号頁・発行日
pp.1P19, 2019 (Released:2019-10-22)
参考文献数
4

電子エネルギー損失分光法(EELS)から得られたスペクトルデータの解析手法について報告する。EELSは電子線を試料に照射し、透過した電子線に磁場をかけて分光し、エネルギー損失から試料の状態を推定する分析手法である。提案手法では、EELSスペクトルデータに2種類の前処理を適用し、主成分分析による解析を行った。ドライエッチング時のダメージの状態把握および、GaInN量子井戸におけるインジウム含有量の推定結果について報告する。
著者
高橋 麻衣子 鈴木 啓司 山下 俊一 甲斐 雅亮
出版者
Journal of Radiation Research 編集委員会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.118, 2008

哺乳類細胞における主要なDNA損傷修復経路として非相同末端結合修復(NHEJ)と相同組換え修復(HR)が知られ、NHEJは主にG1期で、HRはS期からG2期で働くことが知られている。最近、NHEJ修復経路の中にさらに複数の経路が存在し、少なくともDNA-PKcs/Kuに依存した経路とartemisを必要とする2経路があることが明らかになってきた。しかしながら、これら修復経路がどのような役割分担をしているのかは依然不明である。そこで本研究では、制限酵素を細胞内に直接導入して同じ形状のDNA切断末端を誘導するという系を用い、DNA切断末端の構造依存的な修復経路の役割分担を検討することを目的とした。G0期に同調した正常ヒト二倍体細胞に、制限酵素(Pvu II、100 U)をエレクロポレーション法を用いて細胞内に導入し、DNA二重鎖切断の誘導を抗53BP1抗体を用いた蛍光免疫染色法により検討した。その結果、まず制限酵素導入後1時間の段階で、約90%の細胞の核内に53BP1フォーカスが誘導されるのを確認した。その内、核全面に分布するタイプや計測不能な多数のフォーカスを持つ細胞が60%程度存在し、残りの約20%の細胞は、3〜20個程度が核内に散在するフォーカスのタイプ(タイプIIIフォーカス)であった。制限酵素導入後時間が経つにつれてタイプIIIフォーカスを持つ細胞の割合が増加し、DSBの修復が確認できた。次に、artemis依存的な修復経路を阻害するために、ATM阻害剤KU55933を処理した結果、タイプIIIフォーカスを持つ細胞の割合は処理の有無により顕著な差はみられなかったが、artemisを阻害した細胞では核あたりのフォーカス数はより多かった。以上の結果から、ブラントエンドタイプの切断末端が、その修復にartemisの活性を必要とすることが明らかになった。