著者
平川 浩文 小阪 健一郎
出版者
森林総合研究所
雑誌
森林総合研究所研究報告 (ISSN:09164405)
巻号頁・発行日
vol.8, no.3, pp.175-178, 2009-09

コテングコウモリは、シベリヤ南東部・サハリン・千島列島・朝鮮半島・日本に分布する。森林に生息する小型のコウモリ(体重4-9g)で昆虫を餌とし、春から秋にかけては草や木の枯葉を主なねぐらとする。一方、晩秋から早春にかけては樹洞の利用も観察されている。しかし、活動が低下するこの時期をどのように過ごしているのかに関する情報はきわめて限定的で不明な点が多い。本種は雪面にあいた穴の中あるいは雪面で時々発見される。我々の知る範囲で7件の報告、8例の記録がある。地域別にみると、北海道4例、栃木1例、新潟1例、広島2例(広島の1例は3個体同時に発見)である。発見時の状況はさまざまであるが、発見時、個体はすべて休眠中で生存しており、雪面あるいは雪中をねぐらとして利用していたと考えられる。しかし、これらの観察が何を意味するかについては必ずしも明らかではない。今回、我々は11月末という早い時期に雪中で休眠中のコテングコウモリを記録したので、以下報告し、その意味について考えてみたい。
著者
朝倉浩介 平川豊 大関和夫
雑誌
第75回全国大会講演論文集
巻号頁・発行日
vol.2013, no.1, pp.311-312, 2013-03-06

ALM(Application Layer Multicast)におけるストリーミング配信では、データを受信したノードがマルチキャストツリーの下層ノードへデータを送信するため、ノードの離脱によってツリー下層のノードへの配信の中断が発生する。先行研究において、離脱の影響を受けたノードが予め設定していた予備の接続先へ再接続する手法が提案されているが、予備の接続先の保持のために帯域幅が専有され、配信の遅延が増大する問題や、ツリー再構築後の不適切な予備の接続先への対処が明確にされていない問題がある。本論文では、予備の接続先を重複させ、ツリー再構築後の予備の接続先の更新を用いたALM構築手法を提案する。
著者
平川 幸子
出版者
法政大学公共政策研究科『公共政策志林』編集委員会
雑誌
公共政策志林 = Public policy and social governance (ISSN:21875790)
巻号頁・発行日
no.6, pp.231-247, 2018-03

近年,途上国を中心に発生している新興・再興感染症が,人々の健康に重大な影響を与える公衆衛生危機として課題となっている。感染症パンデミックをはじめとする公衆衛生危機に備えて,日本でも事前の計画作成を行っているが,想定外の事象が発生することで柔軟な対応が求められる場合も多い。本稿では,日本と米国の公衆衛生緊急事態への対応について,2009年に発生した新型インフルエンザH1N1への対応を中心に分析し,日米の対応の比較を行った。米国においては大統領や州知事が緊急事態宣言,保健福祉省長官の公衆衛生危機事態宣言の発出等により,緊急対応が行われた。日本でも2012年に新型インフルエンザ等対策特別措置法が制定され,緊急事態宣言等を含めて整備されている。
著者
比嘉 輝之 我那覇 章 近藤 俊輔 親川 仁貴 安慶名 信也 平川 仁 鈴木 幹男
出版者
耳鼻咽喉科臨床学会
雑誌
耳鼻咽喉科臨床 (ISSN:00326313)
巻号頁・発行日
vol.114, no.12, pp.909-916, 2021

<p>Cochlear implant surgery has been introduced successfully and is now one of the commonly performed surgeries. However, the surgical strategy of cochlear implantation in patients with chronic middle ear diseases, such as chronic otitis media and cholesteatoma, has not yet been fully established. In the present report, we describe the surgical technique adopted and prognosis of two patients with severe adhesive otitis media who underwent cochlear implant surgeries. Both underwent one-stage cochlear implantation combined with external auditory canal closure (blind-sac closure). Mastoidectomy with removal of the whole canal wall was performed to remove the otitis lesion thoroughly, and external auditory canal wall closure was performed to prevent recurrence of the lesion. A pneumatized tympanic cavity was observed and canal wall closure was maintained in both cases. Both patients acquired fair hearing ability with the cochlear implants. No severe complications have occurred until now, four years since the cochlear implantation. Although external ear canal closure destroys the natural structure of the external ear, one-stage cochlear implant surgery combined with canal closure is useful for elderly patients with systemic complications who desire shortening of hearing-deprived period.</p>
著者
畑上智彦 大関和夫 平川豊
雑誌
第74回全国大会講演論文集
巻号頁・発行日
vol.2012, no.1, pp.475-476, 2012-03-06

車車間のアドホックネットワーク向けのルーチングプロトコルとして、あて先車両の存在するゾーン情報と自車両との相対的な位置関係を利用したルーチングを行うDORPzがある。この方式では、通信中にあて先車両の右左折などによって存在するゾーンが変わった場合、あて先車両との通信が途絶えてしまう可能性があり、その対策手法については検討されていなかった。本論文では、交差点付近に通過した車両のゾーン情報を共有するエリアを設け、あて先車両が存在するゾーン情報を保持することで、通信の持続性を向上させ従来手法からの特性向上を図っている。
著者
森田 哲夫 平川 浩文 坂口 英 七條 宏樹 近藤 祐志
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement
巻号頁・発行日
vol.29, 2013

&nbsp;消化管共生微生物の活動を通して栄養素の獲得を行う動物は微生物を宿すいわゆる発酵槽の配置により前胃(腸)発酵動物と後腸発酵動物に大別される.消化管の上流に微生物活動の場がある前胃発酵の場合,発酵産物と微生物体タンパク質はその後の消化管を食物とともに通過し通常の消化吸収を受ける.一方,後腸発酵ではその下流に充分に機能する消化管が存在せず,微生物が産生した栄養分は一旦ふりだしに戻り,消化を受ける必要がある.その手段として小型哺乳類の多くが自らの糞を食べる.このシンポジウムでは消化管形態が異なる小型哺乳類を対象にこの食糞の意義について考える.<br><br>&nbsp;糞食はウサギ類に不可欠の生活要素で高度な発達がみられる.発酵槽は盲腸で,小腸からの流入物がここで発酵される.盲腸に続く結腸には内容物内の微細片を水分と共に盲腸に戻す仕組みがある.この仕組みが働くと硬糞が,休むと軟糞が形成される.硬糞は水気が少なく硬い扁平球体で,主に食物粗片からなる.一方,軟糞は盲腸内容物に成分が近く,ビタミン類や蛋白などの栄養に富む.軟糞は肛門から直接摂食されてしまうため,通常人の目に触れない.軟糞の形状は分類群によって大きく異なり,<i>Lepus</i>属では不定形,<i>Oryctolagus</i>属では丈夫な粘膜で包まれたカプセル状である.<i>Lepus</i>属の糞食は日中休息時に行われ,軟糞・硬糞共に摂食される.<br><br>&nbsp;ヌートリア,モルモットの食糞はウサギ類と同様に飼育環境下でも重要な栄養摂取戦略として位置付けられる.摂取する糞(軟糞,盲腸糞)は盲腸内での微生物の定着と増殖が必須であるが,サイズが小さい動物は消化管の長さや容量が,微生物の定着に十分な内容物滞留時間を与えない.そこで,近位結腸には微生物を分離して盲腸に戻す機能が備えられ,盲腸内での微生物の定着と増殖を保証している.ヌートリア,モルモットでは,この結腸の機能は粘液層への微生物の捕捉と,結腸の溝部分の逆蠕動による粘液の逆流によってもたらされるもので,ウサギとは様式が大きく異なる.この違いは動物種間の消化戦略の違いと密接に関わっているようにみえる.<br><br>&nbsp;ハムスター類は発達した盲腸に加え,腺胃の噴門部に明確に区分された大きな前胃を持つ複胃動物である.ハムスター類の前胃は消化腺をもたない扁平上皮細胞であることや,前胃内には微生物が存在することなどが知られているが,食物の消化や吸収には影響を与えず,その主な機能は明らかとはいえない.一方,ウサギやヌートリアと比較すると食糞回数は少ないが,ハムスター類にとっても食糞は栄養,特にタンパク質栄養に大きな影響を与える.さらに,ハムスター類では食糞により後腸で作られた酵素を前胃へ導入し,これが食物に作用するという,ハムスター類の食糞と前胃の相互作用によって成り立つ,新たな機能が認められている
著者
島村 和夫 三善 正道 平川 利幸 岡本 五郎
出版者
THE JAPANESE SOCIETY FOR HORTICULTURAL SCIENCE
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.422-428, 1987 (Released:2007-07-05)
参考文献数
21
被引用文献数
3 3

ユスラウメ台及び共台 (寿星桃) の‘山陽水蜜桃’を王幹形で育て, ほぼ成木期に達した6年生及び8年生時に新梢, 根, 果実の生育を比較調査した.1. ユスラウメ台では10cm以下の新梢の比率が共台よりも高く, これらは着葉密度が高く, 伸長が5月中に停止した. 20cm以上の新梢は共台の方がユスラウメ台より多く, これらは6月以降も伸長を続けた.2. ユスラウメ台の新根生長は4月下旬から5月上旬にかけて活発で, 6月中旬にはほとんどが褐変し, 白根は消失した. 共台の新根生長はユスラウメ台より約1か月遅く始まり, 7月中旬まで多くの白根がみられた.3. ユスラウメ台の果実は硬核期中も活発に肥大を続け, 共台よりも大果となり, 4~5日早く完熟した. 果汁の糖度は1983年はユスラウメ台の方が高かったが, 6月下旬から7月上旬に降雨が続いた1985年は共台の方が高かった.4. 以上のように, モモの主幹形仕立にはユスラウメ台が適していると考えられるが, 共台でも幼木期から積極的に着果させ, 夏季せん定を十分行うなど樹勢安定を図れば, 主幹形で栽培することは十分可能であると思われる.
著者
伊藤 健太 平川 剛 柴田 義孝
雑誌
第77回全国大会講演論文集
巻号頁・発行日
vol.2015, no.1, pp.401-402, 2015-03-17

日本では地震や土砂災害などの自然災害,降雪や路面凍結による交通障害や交通事故が多発している.災害発生時には広範囲で迅速な状況把握や監視が必要である.また,平常時の通勤通学や災害発生時における災害対応や被災地支援において,目的地の状況把握や目的地までの道路状況把握は重要である.加えて,センサデータ収集技術や無線ネットワーク,DTN,ITSなど様々な技術が発展し注目を集めている.本研究では,これらの技術を組み合わせ,劣悪な通信環境を考慮しセンサデータを用いた複数車両による道路状況監視システムを構築する.このシステムにより,複数センサデータを収集,選択,利用した道路状況監視,車両間での情報共有,ウェブアプリケーションによる情報提供を実現する.
著者
平川 和貴 岡崎 茂俊 村上 浩雄 金山 尚裕
出版者
特定非営利活動法人 日本レーザー医学会
雑誌
日本レーザー医学会誌 (ISSN:02886200)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.349-355, 2021-01-15 (Released:2021-01-15)
参考文献数
28
被引用文献数
1

光線力学的療法は,低侵襲ながん治療法として優れているが,光増感剤の改良により,がん選択性と治療効果をさらに向上できる可能性がある.従来のポルフィリン光増感剤は,一重項酸素生成による生体分子の酸化損傷を作用機序としているが,低酸素条件でも活性を維持できる電子移動機構に着目し,ポルフィリンのリン錯体による生体分子の光損傷を評価した研究例を紹介する.ポルフィリンのリン錯体は,DNA,タンパク質(酵素を含む),葉酸,ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドを可視光照射下,電子移動を介して酸化損傷した.さらに,ポルフィリンのリン錯体の中には,培養細胞レベルでがん選択性を示す誘導体が確認された.また,担癌マウスによる実験で高い腫瘍選択性を示す分子も明らかになった.
著者
平川彰
出版者
北海道大學文學部
雑誌
北海道大學文學部紀要 (ISSN:04376668)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.1-19, 1953
著者
平川 彰
出版者
北海道大學文學部
雑誌
北海道大学文学部紀要 (ISSN:04376668)
巻号頁・発行日
no.2, pp.3-19, 1953-03

On the basis of the Double Truth (二諦)the Sarvastivadins adopt, the preasent writer tries to prove that the epistemology and the ontology, both making out their Dharma-theory, Stand in intimate relations to each other. According to the Abhidharmakosasastra and Yasomitra's commentary on it, paramarthasatya (勝義諦)and samvrtisatya(世俗諦)advocated by the Sarvastvadins mean respectively paramarthasat(勝義有)and samvrtisat(世俗有), thus these two kinds of sat are equally recognised by them as satya, ie, as truth. Svabhava dharmah of the school belong to paramarthasat which, however, presupposes samvtisat, both being established on the mutual relationship. The Sarvastivadins are strongly opposed by the Sunyavadins who insist upon the nihsvabhavata of the dharmas and interpret the svabhavas of the Sarvastivadins only as svo bhavah. But this opposition should be regarded as merely one-sided, because according to the Sarvastivadins svabhava may be interpreted both as substance and as attribute so that dharma presupposes dharmin which is samvrtisat sc. prajnaptisat(仮有) In this respect the relation between paramarthasat and samvtrtisat is, stricly speaking, different from that between guna and dravya of the Vaisesika school. Namely the Sarvastivadins teach that dharma is an attribute inasmuch as it has an owner (dharmin) and that it is at the same time a dravya, inasmuch as the owner of the dharma is Prajnapti (conventional). Thus in this point that the dharma has the double meaning consist, the present writer believes, the characteristics of the Dharma-theory of the Sarvastivadins and only by interpeting it in the way, we can understand the reason why the Savrastivadins insist upon the anatmavada and the ksanabhngavada on the one hand, while they accept the svabhava of the dharmas on the other.
著者
益澤 秀明 平川 公義 富田 博樹 中村 紀夫
出版者
日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.104-110, 2004-02-20 (Released:2017-06-02)
参考文献数
31
被引用文献数
2 4

交通事故による脳外傷後には,特徴的な知的障害・人格変化・社会適応障害が後遺しやすい.しかし,専門家も見過ごしやすいため社会問題になり,"高次脳機能障害"とよばれるようになった.しかし,この命名では従来からの高次脳機能障害と紛らわしく混乱が生じている.そこで"脳外傷による高次脳機能障害"とよぶことにした.本障害は外傷後の意識障害の期間と関連し,急速に生じる全般性脳室拡大の程度とも関連する.つまり,本障害はびまん性軸索損傷やその他のびまん性脳損傷によってもたらされる大脳白質損傷による神経ネットワークの障害と考えられる。画像所見変化に注目することにより非外傷性疾患との鑑別も容易であり,急性期管理に携わる脳神経外科医の眼が後遺症評価においても重要である.
著者
倉茂 好匡 池尻 公祐 鈴木 幸恵 平川 一臣
出版者
日本地形学連合
雑誌
地形 = Transactions, Japanese Geomorphological Union (ISSN:03891755)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.131-149, 2005-04-25
参考文献数
19

当縁川流域での農業開墾は1894年に開始され, その後この流域内の農地面積は1930年ごろより激増した.一方, 当縁川下流部にある湿原内では1986年から1920年の間に蛇行流路の切断が生じ, このため開墾開始後に運搬されてきた土砂が新流路側方に堆積して自然堤防を形成した.この自然堤防堆積物の層序構造観察とその粒径組成および137Cs濃度の分析を行った結果, 砂質物質の堆積が1930年代終わりごろより開始されたのに対し, それ以前の堆積物はシルト質のものであることが判明した.この砂質堆積物に対して粒径分布トレーサー法を用いてその給源を推定したところ, 砂質堆積物は支流である忠類幌内川流域から主に流出してきていることがわかった.また, 本流のうち1980年代に直線化された区間も砂質堆積物の重要な給源となっていた.それに対し, 本流上流部からの砂質堆積物の供給量は少なかった.忠類幌内川流域の農地は, 第三紀層よりなる豊頃丘陵を刻む谷の谷底部付近にのみ存在している.それに対し, 本流上流部の農地は扇状地上に存在する.これらのことから, 特に豊頃丘陵の谷底部で行われた集中的な農地開墾が大きな砂質堆積物流出を招いたと判断した.
著者
福島(平川) あずさ
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究 (ISSN:21871930)
巻号頁・発行日
vol.2019, no.29, pp.101-111, 2019-01-01 (Released:2019-10-10)
参考文献数
27
被引用文献数
1 1

目的 玄米食者は便通や便の性状がよく,望ましい腸内環境である可能性があり,主観的健康感が高いことが報告されている.本研究では,主観的健康感と腸内細菌叢の関連性を明らかにすることを目的とした.方法 1,222 名が参加したGENKI Study の対象者に呼びかけて,Nested Study として97 名の便を集め16S rDNA アンプリコン解析を行い,門レベル,属レベルで主観的健康感との関連を検討した.結果 主観的健康感が高い者はとくに酪酸産生菌の占有率が高い傾向があり(p=0.052),またRosebria 属の占有率が高いほど主観的健康感が有意に高かった(p=0.020).主観的健康感が高かった玄米食者は酪酸産生菌が有意に高く(p=0.023),とくにFaecalibacterium prausnitzii (p=0.026),Rosebria (p=0.013),Bilophila (p=0.048)属の占有率が有意に高かった.考察 主観的健康感が高い者は酪酸産生菌や短鎖脂肪酸産生菌と関連があることが明確になった.腸内細菌によって産生される酪酸とその代謝産物は,直接ないし間接的に中枢神経系の回路網を介し情動に影響を及ぼすことが先行研究で推察されている.今後の研究課題は,対象の選択バイアスを少なくすると共に,追跡研究や介入研究によって,普遍性の高い,主観的健康感と「腸内細菌叢―腸管―脳」の因果関係を明確にすることである.結論 主観的健康感が高いほど酪酸産生菌のRosebria,Faecalibacterium prausnitzi の占有率は高く,短鎖脂肪酸産生菌Blautia,Bilophila 属の占有率が高いことが明らかになった.
著者
平川 南
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
国立歴史民俗博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Japanese History (ISSN:02867400)
巻号頁・発行日
vol.133, pp.317-350, 2006-12-20

道祖神は、日本の民間信仰の神々のうちで、古くかつ広く信じられてきた神の代表格である。筆者は古代朝鮮の百済の王都から出土した一点の木簡に注目してみた。王宮の四方を羅城(城壁)が取り囲んでおり、木簡は羅城の東門から平野部に通ずる唯一の道付近にある陵山里寺跡の前面から出土した。木簡は陽物(男性性器を表現したもの)の形状を呈し、下端に穿孔もあり、しかも「道縁立立立」という文字が墨書されていた。おそらく六世紀前半の百済では、王京を囲む羅城の東門入り口付近に設置された柱に陽物形木簡を架けていたのであろう。日本列島では、旧石器時代から陽物形製品は、活力または威嚇の機能をもち、邪悪なものを防ぐ呪術の道具として用いられていたとされている。現在各地の道祖神祭においても、陽物が重要な役割を果している。古代においても、七世紀半ばの前期難波宮跡および東北地方の多賀城跡から出土した陽物形木製品は、宮域や城柵の入り口・四隅で行われた古代の道の祭祀の際に使用されたと考えられる。七世紀から一〇世紀頃まで「道祖」は、クナト(フナト)ノカミ・サエノカミという邪悪なものの侵入を防ぐカミと、タムケノカミという旅人の安全を守る道のカミという二要素を包括する概念であった。陽物形木製品を用いた道の祭祀は都の宮域や地方の城柵の方形の四隅で行われてきたが、一〇世紀以降、政治と儀礼の場の多様化とともに実施されなくなったと推測される。そして、平安京の大小路や各地の辻(チマタ)などに木製の男女二体の神像が立てられ、その像の下半身に陽物・陰部を刻んで表現し、その木製の神像が道祖神と呼ばれるようになったのである。近年の陽物形木製品の発見とその出土地点に着目するならば、道祖神の源流を古代朝鮮・日本における都城で行われた道の祭祀に求めることができるであろう。