著者
新田 秀樹
出版者
法学新報編集委員会
雑誌
法学新報 (ISSN:00096296)
巻号頁・発行日
vol.122, no.11, pp.1-30, 2016-03

本稿は、障がい者制度改革推進会議総合福祉部会が取りまとめた骨格提言(障害者総合福祉法)と実際に成立した障害者総合支援法の異同を確認・評価した上で、法の目的・理念に係る規定が障害者自立支援法から総合支援法に至る改正経緯の中でどのような変遷を辿ったかを明らかにすることを通じて、今後の障害者福祉領域の立法政策の在り方を検討するに当たっての示唆を得ることを目的とする。得られた示唆は次のとおりである。 第一に、総合福祉部会が骨格提言を取りまとめるまでのプロセスは、当事者たる障害者の代表も参加した議論を経ての意見の積み上げ・集約方式による法改正の手法として、今後目指すべき望ましい法改正の一つの在り方の先例になり得る。 第二に、今回の総合支援法の制定プロセスにおいても、国は、給付の「権利化」には、そのことにより財源的保障を求められやすくなることを恐れて、極めて慎重であることが、改めて確認できた。 第三に、在るべき障害者福祉法制を目指して、二〇一二年改正の成果である目的規定の深化や基本理念の明示を、今後の障害者福祉施策の展開や次の法改正の方向性を領導するための指針として活用することを考える必要がある。
著者
新田 麻美 西上 智彦 壹岐 伸弥 中川 幸太郎 石垣 智也 川口 琢也
出版者
保健医療学学会
雑誌
保健医療学雑誌 (ISSN:21850399)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.68-74, 2021-04-01 (Released:2021-04-01)
参考文献数
25

要旨 慢性緊張型頭痛に対し,運動療法や徒手療法,あるいは患者教育との組み合わせが効果的であることが知られているが,患者特性を考慮した介入効果の報告は少ない.本報告では,徒手療法を主とした受動的な介入効果が不十分であったが,運動療法と患者教育を主とした能動的な介入が奏効した不安症状の強い慢性緊張型頭痛症例の考察を行い,患者特性に応じた理学療法介入の有効性を検討した.結果,頭痛に対する不安が強い患者には,患者教育により疼痛に対する捉え方や適切な症状理解と対処行動の形成を促し,自主練習として習慣化できるような運動を実施することが有効となり得る可能性が示唆された.
著者
新田 博之 秀島 栄三 山本 幸司
出版者
Japan Society of Civil Engineers
雑誌
土木計画学研究・論文集 (ISSN:09134034)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.317-324, 2004-09-30 (Released:2010-06-04)
参考文献数
8

近年都市圏において発生している都市水害に対し、地下空間の浸水に対する脆弱性が指摘されている。本研究では、特に浸水発生時において地下鉄列車を安全に退避させるための具体的な列車退避方策を導き出すことを目的として、地下空間への浸水プロセスと列車退避プロセスを結合したモデルを構築する。名古屋市交通局鶴舞線に本モデルを適用した上で、浸水に対する合理的な防災計画の策定について考察する。
著者
伊藤 聡 小西 真治 村上 哲哉 新田 裕樹 阿南 健一 中川 貴之 本田 中 赤木 寛一
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集F2(地下空間研究)
巻号頁・発行日
vol.76, no.1, pp.14-31, 2020

<p> 地下鉄開削トンネルの縦断方向の一部に大きな沈下や沈下に伴うひび割れが多く見られ,その使用にあたって耐荷性能を精度よく評価することが課題となっていた.そこで,鉄筋ひずみの調査を行ったところ,トンネルの中立軸位置が設計計算の値と大きく異なることがわかった.この要因として,トンネルにひび割れが生じることでトンネル縦断方向に伸長する挙動が,両端の変状が起こっていない部分により拘束されることにより見かけの軸力が発生するといったメカニズムを想定し,軸力の算定方法を検討した.さらに,この軸力を用いて構造計算を行った結果,見かけの軸力を与え,トンネル形状を再現した疑似3次元モデルを用いることで,トンネルのひび割れ状況などの変状を精度よく再現できることがわかり,軸力の発生メカニズムの妥当性が確認できた.</p>
著者
新田 孝行
出版者
日本音楽学会
雑誌
音楽学 (ISSN:00302597)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.86-100, 2017

現代オペラ演出は音楽学の新しい課題である。ドイツ語圏ではレジーテアター(演出演劇)がオペラ愛好家や理論家の間で議論を呼んできた。台本上の地理的・時代的設定や登場人物の役柄、プロットを変更する権限を演出家に認めるレジーテアターは、「作品への忠実さ」を尊重せず、こじつけ的解釈を好む演出家の横暴と批判されることも多い。しかし、これを擁護する側は、台本やスコアだけでなく上演もオペラに含まれるとする記号論的観点から、忠実さの要求が的外れにすぎないと主張する。<br> 現代オペラ演出は、1990年代のアメリカで発展したニュー・ミュジコロジーと比較することができる。いずれも学問的‐芸術的実践に属する。前者が音楽学的に再検討されたオペラ上演ならば、後者は研究者による主観的・修辞的音楽言説である。両者はまた音楽作品の意味を動かそうとする。演出家は音楽家ではないが、演出によってオペラのイメージをつくりかえることができる。同じ目的のためニュー・ミュジコロジストは、ある楽曲をそれに新たなものを付け加えるような言語によって解釈する。<br> 言い換えれば、現代オペラ演出とニュー・ミュジコロジーはともに解釈学的性格を有する。ドイツ文学者ゲアハルト・ノイマンは、それを通してオペラに秘められた矛盾した意味が明らかになる窓としてレジーテアターを定義した。似たような考えに基づいて、ニュー・ミュジコロジーを代表する一人のローレンス・クレイマーは、自らの音楽解釈学を「解釈学的窓」という観点から定義している(『文化的実践としての音楽』、1990年)。最終的に、現代オペラ演出はニュー・ミュジコロジーの演劇的で、より説得的なヴァージョンと言える。なぜなら、劇場では作品とその解釈を区別することができないからである。
著者
浅井 龍太郎 鎌田 徹 新田 篤志 和田 美暁 掛橋 秀直 中野 史保子 松田 駿太朗 志摩 典明 西岡 裕 三木 昭宏 片木 宗弘
出版者
日本法科学技術学会
雑誌
日本法科学技術学会誌 (ISSN:18801323)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.43-48, 2019 (Released:2019-01-31)
参考文献数
18

In order to expose substituted, cheated and faked urine specimens submitted for a drug test, a simple and highly sensitive screening method has been developed for the detection of urea in the specimens. This method uses the coloration of a piece of pH test paper which is wetted and set into the headspace of a sample vial containing “urine”, by absorbing NH3 gas generated by the urease reaction. The present method named, “Urease-Headspace method” (UHS method), was evaluated by applying it to various diluted or adulterated urine samples. The detection limit of urea in water was 2×10−4%, which was 100 times higher sensitivity compared with a conventional p-(dimethylamino)cinnamaldehyde (DAC) test. The UHS method was applicable even to deeply colored specimens such as bloody urine because the coloration occurs in the headspace of the sample vial. The UHS method quickly revealed the substituted specimens, e.g. water and green tea. Thus, the present UHS method will be effective for the validity determination of urine specimens, which is increasingly crucial in forensic drug examination.
著者
森田 大夢 平尾 俊貴 石尾 隆 新田 章太 小西 俊司 森 康真 松本 健一
雑誌
ソフトウェアエンジニアリングシンポジウム2019論文集
巻号頁・発行日
vol.2019, pp.253-254, 2019-08-22

ソフトウェア開発者の育成を目的としたプログラミング研修では,プログラミングスキルの向上が期待される.本研究では,研修の効果を測定する試みとして,あるソフトウェア開発企業の新人研修で収集した 22 名のソースコードを用いて,研修前後でのプログラミングスキルの変化をソフトウェア品質の観点から調査した.その結果,研修前後でソースコード内の複雑度はあまり変化せず,宣言命令数が増加する傾向にあることを確認した.その要因として,研修後は変数を必要になった時点で宣言すると同時に初期化して使用するようにプログラムを記述する傾向が見られた.
著者
林 謙一郎 新田 朋子
出版者
日本鉱物科学会
雑誌
日本岩石鉱物鉱床学会 学術講演会 講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.2003, pp.17, 2003

青森県下北半島,恐山地熱地帯には,シリカシンター(珪華)が広範に分布している.湧出する熱水には硫酸酸性型,中性塩化物重炭酸型,中性塩化物型などが報告され,それぞれのタイプで酸素・水素同位体比が異なることが知られている(Aoki, 1992).同位体比の解析から現在の熱水の起源は主に天水で,これに様々な割合でマグマ水起源物質が添加していると考えられてきた.ここでは熱水から沈殿したシリカシンターの酸素同位体比を層序ごとに調べることにより,一連のシンターが生成する間に熱水の起源がどのように変遷してきたかを検討したので報告する.<BR> 本研究では一連のシンターとしては最も厚く,層厚約1.3 mを有するものを検討した.このシンターの生成期間については明らかではない.産状の特徴から,下部層と上部層に区分できる.下部層は厚さ約1 mで,赤や黄色に着色した縞状構造が特徴で,ストロマトライト状の組織を有する部分も存在する.上部層は厚さ約30 cmで白色を呈する1 mm程度の薄層の互層からなる.シンターはまれに外来岩片を伴うが大半は熱水から沈殿したシリカ鉱物のみから成り,X線粉末回折の結果は上部層はopal-Aのみから,また下部層はopal-Aおよびopal-CTの両者から構成されている.<BR> シリカ鉱物の酸素同位体比は通常のレーザー加熱五フッ化臭素法によった.酸素同位体比(&delta;<SUP>18</SUP>O<SUB>SMOW</SUB>)は下部層では概ね+20から+25 &permil;で,上部程重くなる傾向がある.上部層は+25から+30 &permil;で上部に向かい連続的に同位体比が軽くなっている.シリカ鉱物の酸素同位体比は,それを沈殿させた水の酸素同位体比と熱水の温度に支配されているであろう.シリカ鉱物が水と同位体的に平衡になった時の温度として1) 熱水貯留層中の温度(220℃),2) 地表でシリカが沈殿した温度(現在の地表での実測値は96℃)の両者の可能性が考えられる.貯留層中の温度を仮定した場合,熱水の同位体比の計算値は+10から+20 &permil;となり,高温火山ガスあるいはマグマ水の同位体比として考えられる値よりもはるかに大きく,このような組成の熱水の存在は現実的ではない.従ってここでは熱水が地表に噴出した時の温度が,シンターの酸素同位体比を決定していると考えた.非晶質シリカー水間の同位体分配係数を用いて求められた熱水の酸素同位体比は,天水よりも最大12.5 &permil;重い.このことから熱水の酸素同位体比は天水と高温火山ガスの中間にあり,時代とともに両者の割合は変動するが,最近は高温ガスの影響がより強くなっているように思われる.
著者
新田 梢 長谷川 [まさ]弘 三宅 崇 安元 暁子 矢原 徹一
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.100-106, 2007-03-31
被引用文献数
2

近年、理論と実証の両面から適応進化の過程を「微小な遺伝的変化の累積」とみなす従来の進化観に疑問がなげかけられている。我々は、対照的な送粉シンドロームを持ち、花の寿命が半日しかない夜咲き種と昼咲き種を材料に、少数の遺伝子座の変化による適応的進化の実証研究を進めている。本稿ではこれまでに得られている結果を要約したうえで、遺伝的基礎を探る研究の今後の課題について議論した。キスゲ属(Hemerocallis)のハマカンゾウは昼咲き種でチョウやハナバチ媒花、一方、キスゲ(ユウスゲ)は夜咲き種でスズメガ媒花である。開花パターンは、自然雑種集団では、昼咲きパターン、夜咲きパターン、1日咲きパターンが見られ、両親権の純粋な集団に比べ、大きな変異性を示した。人工雑種F1世代では、ほとんどが昼咲きパターンであった。ハマカンゾウの花では、アントシアニンが合成されるために花弁が赤い。キスゲでは、アントシアニンが合成されないため黄色になる。 FI雑種の花では、アントシアニンによる赤い色が見られない。キスゲとハマカンゾウの間に見られる開花時間と花色の違いは、少数の主要な遺伝子座に支配されている可能性が高いと考えられる。また、ESTをもとに相同性配列を検索し、花色の変化に関する遺伝子を調べた。 CHS遺伝子(アントシアニン合成系のカルコン合成酵素の遺伝子)では、ハマカンゾウとキスゲにおいて同義置換のみが見つかり、アミノ酸配列に違いはなかった。したがって、CHS遺伝子のアミノ酸置換によって花色が進化したという証拠は得られなかった。 MYB遺伝子は、ユリにおいて花のアントシアニン合成系の制御に関っているMYB遺伝子にもっとも近縁だった。今後は、適応的進化のシナリオを明らかにするために、形質分離解析やQTLマッピングを進めていく予定である。「微小な遺伝的変化の累積」を仮定した最適化モデルやESSモデルは、その限界を正しく評価し、形質進化に関与した主要な遺伝子を特定したうえで、主要遺伝子の特性を考慮に入れた仮説の提唱とモデル化を行う必要がある。
著者
谷津 裕子 佐々木 美喜 千葉 邦子 新田 真弓 濱田 真由美 山本 由香 芥川 有理
出版者
日本赤十字看護大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

20代女性の出産に対するイメージを当事者への聞き取り調査を通じて明らかにした。20歳代未婚女性33名に非構成的面接法を行い、得られたデータを質的に分析した結果、20代女性の出産イメージを示す10の特徴が抽出された。20代女性が出産に現実味を感じにくい背景には、就労状況の過酷さや職場や地域社会における家族中心施策の未整備,ロールモデルの不在、ライフデザイン教育の不十分さ等が存在し、これらの問題に取り組むことが少子社会における出産環境の創出に向けた喫緊の課題と考えられた。