- 著者
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松浦 誠
- 出版者
- 公益社団法人 日本地理学会
- 雑誌
- 日本地理学会発表要旨集 2016年度日本地理学会秋季学術大会
- 巻号頁・発行日
- pp.100076, 2016 (Released:2016-11-09)
1.はじめに 参詣は交通や都市計画,経済などと密接に関係しており,地理学においても重要な研究対象となっている。日本の伝統的な社寺参詣に関しては特にルートが注目され,田中(1987)や,小野寺(1990),小田(2007)などによって研究されてきた。その結果,交通機関の近代化に伴い,より利便性の高い手段を利用するように参詣ルートが変化した点や,参詣の前後に観光目的の社寺名所旧跡巡りが行われていた点が明らかになった。 一方,新宗教の参詣については,地理学以外の学問分野を含めても、ほとんど研究が行われていない。近世末期以降に新宗教が成立すると,それまで特別な往来がなかった地域へ多数の参詣者が流入し,それに伴って交通網の整備や都市機能の変革がもたらされた。新宗教の勢いが衰えたと言われる現在でも,大規模な参詣が定期的に行われ,教団本部や参詣途中の経由地,交通機関に影響を及ぼしている。よって,新宗教の集団参詣は,関連する地域への影響が多大な事柄であり,地理学的に研究すべき重要な課題である。この問題関心から,松浦(2016)では戦後の天理教信者による団体参詣(以下,団参とする)の変遷と,教会による団参の事例を明らかにした。 2.研究目的 本研究では,松浦(2016)で扱わなかった明治期から昭和戦前期までを対象とする。この期間は,天理教の教団形成から一派独立,教勢拡大期にあたる時期である。天理への団参が成立・慣例化する過程を明らかにし,聖地・地場や参詣に対する天理教信者の意識の変化と本部からの働きかけについて考察することを目的とする。また,教会間の縦のつながりが重視されていた天理教において,都道府県単位の教務支庁が設置された経緯と,設置による参詣行動やその他の宗教活動への影響を明らかにする。 3.研究方法 はじめに,明治24(1891)年創刊の天理教の広報誌「道の友」と昭和5(1930)年創刊の「天理時報」に掲載されている団参の報告・募集記事から,各時代の団参の傾向と団参に対する天理教本部の働きかけを明らかにする。 次に,対象期間内の各教会の日誌や教報誌,団参記念の写真帳などから,団参の旅程や実施時期,参加人数,参加者の性別や年齢の傾向など,団参の実態を明らかにする。また,団参及び地場に対する教会,信者の意識を考察する。これらの史料は教会ごとに作成状況や残存状況が異なる。今回は入手できた益津大教会(静岡県),東大教会(東京都),新潟県内の湖東大教会部属教会及び新潟教務支庁と各教会の上部教会の史料を利用した。特に,新潟県内の湖東大教会部属教会と新潟教務支庁の史料からは,天理教における地域意識の形成過程と要因,地方居住者の移動行動への影響を考察する。 4.まとめ 天理教における団参は,教団本部の教会施設建設のための労働力確保という俗的要因と大規模分教会による教勢拡大の報告という信仰的要因から生じた。そして,昭和11(1936)年の教祖50年祭に伴う別席の聴講及び授訓の活発化と普請の労働力確保という本部の思惑から,これまで容易に参詣を行なえなかった遠方の小規模団体を本部へ集めるため,教務支庁に輸送機能を付与した。また,新潟県教務支庁による団参には,オプショナルツアー形式の観光が含まれ,これには鉄道会社が影響を与えていると考えられる。 詳細は,発表で報告する。