著者
加瀬 裕子 多賀 努 久松 信夫 横山 順一
出版者
日本老年社会科学会
雑誌
老年社会科学 (ISSN:03882446)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.29-38, 2012-04-20 (Released:2020-01-30)
参考文献数
16

本研究は,認知症の行動・心理症状(Behavioural and Psychological Symptoms of Dementia;BPSD)に対し効果的な介入行動の傾向を明らかにすることを目的としている.質問紙調査により収集したBPSD改善事例130を,多重コレスポンデンス分析を用いて分析した. 分析の結果,BPSDの内容と効果的な介入行動は,4群に分かれた.第一群は,行動性・攻撃性のあるBPSDであり,落ちつかせる介入が効果に関連していた.第二群は,混乱と失見当識への対応が主要課題であるBPSD群で,その改善には,社会性と能力活用を刺激する介入が関連していた.第三群は「幻視」等生理学的な原因に由来するBPSDであり,対立を避けつつメリハリのある生活をめざす介入が効果に結びついたことが明らかになった.第四群からは,被害妄想改善には聴覚の低下を補完する介入の効果が示唆された.
著者
水田 啓介 伊藤 八次 西田 基 秋田 茂樹 加藤 雅也 小塩 勝博 海田 健宏 古田 充哉 宮田 英雄 柳田 正巳 柴田 康成 横山 壽一 松原 茂規 小泉 光 森 芳郎 大野 通敏 近藤 由香 藤宮 大 山田 匡彦 渡辺 英彦 加藤 洋治
出版者
耳鼻咽喉科臨床学会
雑誌
耳鼻咽喉科臨床 (ISSN:00326313)
巻号頁・発行日
vol.90, no.12, pp.1399-1407, 1997-12-01 (Released:2011-11-04)
参考文献数
14

IPD® (supratast tosilate) was investigated for its prophylactic efficacy and therapeutic efficacy in the treatment of cedar pollinosis during the 1996 cedar pollen season. The subjects investigated were patients at the Gifu University School of Medicine and its affiliated hospitals, who had a history of cedar pollinosis. The patients were classified into two treatment groups: the prophylaxis group (70 patients), in whom IPD® administration began before the start of cedar pollen dispersion, and the treatment group (49 patients), who underwent IPD® treatment only after cedar pollen dispersion had begun and symptoms of pollinosis had manifested.Results were as follows: (1) The nasal symptoms (sneezing, runny nose, nasal congestion) were milder in the prophylaxis group than in the treatment group throughout the cedar pollen season, with the difference being significant during the season's first 2 weeks. (2) In the prophylaxis group, IPD®'s inhibitory effect was rated as excellent in 18.6% of the patients, good in 45.7% and fair in 20.0%. In the treatment group, the improvement in the symptoms was rated as disappearance in 4.2%, excellent in 20.8% and good in 43.8%. (3) When symptom inhibition in the prophylaxis group was investigated as a function of the duration of IPD® administration prior to the start of pollen dispersion, the good + excellent inhibition rate was 57.7% in the subpopulation pretreated for <2 weeks (26 cases), 64.9% with 2 to <4 weeks' pretreatment (37 cases) and 85.7% with 4 to <6 weeks' pretreatment (7 cases). Thus, IPD®'s prophylactic inhibitory rate increased with the length of the pretreatment period. (4) In the prophylaxis groups, the CAP-RAST value was significantly reduced at the time of peak pollen level and at the end of the pollen season compared with the value before IPD® administration.
著者
大曽 基宣 津下 一代 近藤 尚己 田淵 貴大 相田 潤 横山 徹爾 遠又 靖丈 辻 一郎
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.15-25, 2020-01-15 (Released:2020-02-04)
参考文献数
33

目的 健康日本21(第二次)の目標を達成するため,各自治体は健康課題を適切に評価し,保健事業の改善につなげることを求められている。本研究は,健康日本21(第二次)で重視されるポピュレーションアプローチに着目して,市町村における健康増進事業の取組状況,保健事業の企画立案・実施・評価の現状および課題について明らかにし,さらなる推進に向けたあり方を検討することを目的とした。方法 市町村の健康増進担当課(衛生部門)が担当する健康増進・保健事業について書面調査を実施した。健康増進事業について類型別,分野別に実施の有無を尋ねた.重点的に取り組んでいる保健事業における企画立案・実施・評価のプロセスについて自記式調査票に回答してもらい,さらに参考資料やホームページの閲覧などにより情報を収集した。6府県(宮城県,埼玉県,静岡県,愛知県,大阪府,和歌山県)の全260市町村に調査票を配布,238市町村(回収率91.5%)から回答を得た。結果 市町村の健康増進事業は,栄養・食生活,身体活動,歯・口腔,生活習慣病予防,健診受診率向上などの事業に取り組む市町村の割合が高かった。その中で重点的に取り組んでいる保健事業として一般住民を対象とした啓発型事業を挙げた市町村は85.2%,うちインセンティブを考慮した事業は27.4%,保健指導・教室型事業は14.8%であった。全体では,事業計画時に活用した資料として「すでに実施している他市町村の資料」をあげる市町村の割合が52.1%と半数を占め,インセンティブを考慮した事業においては,89.1%であった。事業計画時に健康格差を意識したと回答した市町村の割合は約7割であったが,経済状況,生活環境,職業の種別における格差については約9割の市町村が考慮していないと回答した。事業評価として参加者数を評価指標にあげた市町村は87.3%であったのに対し,カバー率,健康状態の前後評価は約3割にとどまった。結論 市町村における健康増進・保健事業は,全自治体において活発に取り組まれているものの,PDCAサイクルの観点からは改善の余地があると考えられた。国・都道府県は,先進事例の紹介,事業の根拠や実行可能な運営プロセス,評価指標の提示など,PDCAサイクルを実践するための支援を行うことが期待される。
著者
横山 博 長澤 和也
出版者
広島大学大学院生物圏科学研究科
雑誌
生物圏科学 : 広島大学大学院生物圏科学研究科紀要 (ISSN:13481371)
巻号頁・発行日
vol.53, pp.73-97, 2014

日本産養殖魚介類の寄生虫の標準和名目録を作成した。国内の養殖対象魚介類に寄生する微胞子虫類7種,鞭毛虫類4種,繊毛虫類7種,粘液胞子虫類32種,単生類24種,吸虫類9種,条虫類3種,線虫類10種,鉤頭虫類6種,ヒル類5種,甲殻類30種を含む合計137種の寄生虫について標準和名を整理し,うち40属,77種について新標準和名あるいは改称を提案した。また,日本における発生事例や寄生虫の生物学や病理学など,魚病学的に重要な参考文献を付記した。
著者
大高 恵莉 大高 洋平 森田 光生 横山 明正 近藤 隆春 里宇 明元
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.51, no.10, pp.673-681, 2014 (Released:2014-11-12)
参考文献数
20
被引用文献数
2 8

目的:動的バランス機能の評価法であるMini-Balance Evaluation Systems Test(Mini-BESTest)の日本語版を作成し,その妥当性を検証した.方法:Guilleminらのガイドラインに準じ日本語版Mini-BESTestを作成した.バランス障害群20 名(平均年齢65.4±18.7 歳)及び健常群7 名(平均年齢69±5.9 歳)に日本語版Mini-BESTest,Berg Balance Scale(BBS),国際版転倒関連自己効力感尺度(FES-I),Activities-specific Balance Confidence Scale(ABC Scale)を実施し,Spearmanの順位相関係数を求めた.結果:日本語版Mini-BESTestの平均施行時間は20.0 分で,BBS(r=0.82,p<0.01),FES-I(r=-0.72,p<0.01),ABC Scale(r=0.80,p<0.01)と有意な相関を認めた.分布の非対称性を示す指標である歪度(skewness)はそれぞれBBS -1.3,日本語版Mini-BESTest -0.47であった.結論:日本語版Mini-BESTestは既存のバランス評価法との併存的妥当性を示し,かつBBSのような天井効果を認めない点で優れていると考えられた.
著者
横山 侑政 瀧川 一学
出版者
一般社団法人 人工知能学会
雑誌
人工知能学会全国大会論文集 第31回全国大会(2017)
巻号頁・発行日
pp.1K13, 2017 (Released:2018-07-30)

グラフ分類問題において、従来研究では部分グラフ指示子の線形モデルで表現可能な仮説クラスの学習に制限されていた。そこで、本研究では非線形モデルである決定木を弱学習器に用いた勾配ブースティングを提案する。本手法では、決定木の学習は全部分グラフ指示子に基づいて行う。いくつかのベンチマークデータセットに対して実験を行うことで、その性能を評価する。
著者
横山
雑誌
最新精神医学
巻号頁・発行日
vol.7, no.5, pp.439-447, 2002
被引用文献数
3
著者
赤澤 正人 松本 俊彦 勝又 陽太郎 木谷 雅彦 廣川 聖子 高橋 祥友 川上 憲人 渡邉 直樹 平山 正実 亀山 晶子 横山 由香里 竹島 正
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.57, no.7, pp.550-560, 2010 (Released:2014-06-12)
参考文献数
37
被引用文献数
1

目的 わが国の自殺者数は,平成10年に 3 万人を超えて以降,11年に渡りその水準で推移しており,自殺予防は医療や精神保健福祉の分野に留まらず,大きな社会的課題となっている。本研究では心理学的剖検の手法で情報収集がなされた自殺既遂事例について,死亡時の就労状況から有職者と無職者に分類し,その心理社会的特徴や精神医学的特徴の比較•検討を通じて,自殺既遂者の臨床類型を明らかにし,自殺予防の観点から有職者ならびに無職者に対する介入のポイントを検討することを目的とした。方法 心理学的剖検の手法を用いた「自殺予防と遺族支援のための基礎調査」から得られたデータをもとに分析を行った。調査は,自殺者の家族に対して独自に作成された面接票に準拠し,事前にトレーニングを受講した精神科医師と保健師等の 2 人 1 組の調査員によって半構造化面接にて実施された。本研究で用いた面接票は,家族構成,死亡状況,生活歴,仕事上の問題,経済的問題等に関する質問から構成されていた。なお,各自殺事例の精神医学的診断については,調査員を務めた精神科医師が遺族からの聞き取りによって得られたすべての情報を用いて,DSM-IVに準拠した臨床診断を行った。本研究では,2009年7 月中旬時点で23箇所の都道府県•政令指定都市から収集された自殺事例46事例を対象とした。結果 有職者の自殺者は,40~50代の既婚男性を中心として,アルコールに関連する問題や返済困難な借金といった社会的問題を抱えていた事例が多かった。無職者では,有職者に比べて女性の比率が高く,20~30代の未婚者が多く認められ,有職者にみられたような社会的問題は確認されなかった。また,有職者では死亡時点に罹患していたと推測される精神障害としてアルコール使用障害が多く認められたのに対して,無職者では統合失調症及びその他の精神病性障害が多く認められた。結論 自殺予防の観点から,有職者に対しては,職場におけるメンタルヘルス支援の充実,アルコール使用障害と自殺に関する積極的な啓発と支援の充実,そして債務処理に関わる司法分野と精神保健福祉分野の連携の必要性が示唆された。一方で,無職者に対しては,若い世代の自殺予防に関する啓発と支援の充実,統合失調症と自殺に関する研究の蓄積の必要性が示唆された。
著者
横山 幹子 YOKOYAMA Mikiko
出版者
Editional Board of "Library, Information and Media Studies"
雑誌
図書館情報メディア研究 = Library, Information and Media Studies (ISSN:13487884)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.1-16, 2018-03-31

アメリカの哲学者、ヒラリー・パトナムは、2016年3月13日に亡くなった。彼は、その哲学的な経歴において、科学的世界観と常識の世界観の両方を受け入れることができる、満足のいく哲学的実在論を求めて、実在論に対する立場を変えてきた。彼は、まず(狭い意味での)形而上学的実在論を、次に内的実在論を、それから、デューイレクチャーにおいて、選言説を含む自然な実在論(常識の実在論)を主張する。しかし、晩年、彼は、依然として常識の実在論を主張する一方で、選言説に反対し、リベラルな自然主義、リベラルな機能主義を主張する。本論文では、選言説への批判に焦点を当て、リベラルな自然主義やリベラルな機能主義の妥当性を検討する。そのため、まず、『心・身体・世界:三つの撚り糸』での自然な実在論と選言説について説明する。次に、リベラルな自然主義とリベラルな機能主義を概観する。それから、選言説への晩年のパトナムの批判を整理する。そして、最後に、リベラルな自然主義とリベラルな機能主義がかなり妥当する考えである一方で、それには、哲学的分析の役割をどのように考えるかという問題(常識は哲学かという問題)も含まれていると論じる。
著者
大江 修造 横山 公彦 中村 正一
出版者
公益社団法人 化学工学会
雑誌
化学工学 (ISSN:03759253)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.104-107,a1, 1971-01-05 (Released:2010-10-07)
参考文献数
8
被引用文献数
9 7

メタノール・エタノール・水系に塩化カルシウムを16.7wt%と飽和 (室温) に溶解させた場合の気液平衡を大気圧下で測定し, 気液平衡曲線を得た。塩化カルシウムの添加によりメタノールのエタノールに対する相対揮発度は減少するがエタノールの水に対する相対揮発度は増大している。
著者
横山 芳春 安藤 寿男 橋本 聡子
出版者
日本古生物学会
雑誌
化石 (ISSN:00229202)
巻号頁・発行日
vol.76, pp.32-45, 2004-09-22 (Released:2017-10-03)
被引用文献数
1

Large oyster shell beds are contained in incised-valley fill deposits of the Cycle 1 of the Miwa Formation, Shimosa Group, Lake Kasumigaura area, Ibaraki Prefecture . This paper describes taphonomic processes of large oyster shell beds well exposed in three localities . Six shell bed types can be recognized on the basis of their lithology, sedimentary facies, mode of fossil occurrence and associated fossils : 1) autochthonous aggregated, 2) autochthonous scattered, 3) parautochthonous aggregated, 4) cross-bedded aggregated, 5) crossbedded scattered and 6) shell-fragment aggregated types. The large oyster shell bed higher than 5 m and wider than 30 m at east Hama (Loc. 1) is characterized by type 1 with two layers of type 3 five to 20 cm thick that seem to have formed by sudden storm events. The second shell bed at west Hama (Loc. 2) shows two mounds 3 m high and or wider than 7-10 m composed of type 1 and covered by massive muddy sediments. This means that the oyster banks were buried under estuary mud. The last example at Sakihama (Loc.3) is the largest oyster shell bed in this area with height of 5m and width of 70m. It can be divided into three unit bounded by two erosional surfaces. The unit I is composed mainly of type 1 representing in situ oyster reefs, and subordinately of 3 formed by reworking through tidal current. The unit II composed of types 4 and 5 forms a shallow channelfilled structure that seems to have been formed as a tidal channel. The overlying unit III above a flat erosional surface mostly consists of type 6. Reworked oyster shell fragments might have concentrated intermittently and condensed through muddy sediment bypassing within tidal flat to embayment.
著者
川村 正英 井上 一 花川 志郎 横山 良樹 長島 弘明
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1001-1003, 1990-08-25

抄録:全人工股関節置換術(THR)後抜去のやむなきに至り,Girdlestone関節形成術と同じ状態になった症例について,歩行機能を中心に評価した.1975年以来私たちが扱った.THR抜去症例,8例9関節を対象として,直接検診を行った.原疾患は慢性関節リウマチ(RA)4例5関節,変形性股関節症(OA)2例2関節,大腿骨頭壊死(AN)1例1関節,大腿骨頸部骨折1例1関節である.抜去原因は感染が7例8関節,著明なゆるみと骨折が1例あった.RA以外の4例は杖と補高装具を使用して少なくとも自宅周辺は歩行可能であり,うち3例は就労もしていた.しかしRAの4例は,調査時には全例車椅子生活か寝たきりであった.THR抜去を行った場合,杖が使える上肢機能があって他の関節障害が重篤でない症例では,術後の筋力増強訓練や補助具の使用により実用的な歩行が十分期待できる.
著者
森田 とわ 山口 智史 小宅 一彰 井上 靖悟 菅澤 昌史 藤本 修平 飯倉 大貴 田辺 茂雄 横山 明正 近藤 国嗣 大高 洋平
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Ea0348, 2012 (Released:2012-08-10)

【はじめに、目的】 膝蓋骨骨折や膝蓋腱断裂,大腿四頭筋断裂などでは,膝伸展筋の機能不全によって歩行時に膝折れを呈し,膝伸展位保持が困難になる.この膝折れを防止するために,膝伸展位保持装具(以下,膝装具)が使用されることがある.支持性の良い膝装具は膝伸展筋力を代償するだけでなく,他の関節周囲筋の筋活動を変化させる可能性がある.しかしながら,膝装具使用時の歩行時筋活動量について言及された報告はない.本研究では,膝装具が歩行時の下肢筋活動量へ及ぼす影響を検討した.【方法】 対象は健常成人9名(年齢:24.4±2.8歳,身長:1.73±0.04m,体重61.2±6.3kg)とした.課題は20m/minに設定したトレッドミル上での膝装具装着および非装着の2条件の歩行とした。膝装具は,両側支柱付きのニーブレース(アルケア株式会社)を使用し,十分な練習後に装着非装着での歩行,装具装着での歩行の順番で課題を行った. 表面筋電図の測定には,筋電図記録用システム(Delsys社)を使用した.記録筋は,両側下肢の大殿筋(GM),内側ハムストリングス(MH),大腿直筋(RF),ヒラメ筋(SOL),前脛骨筋(TA)とした.電極は,筋腹上に能動筋電を貼付し,サンプリング周波数は1kHzで記録した.また,両側の母趾球部と踵部にフットスイッチを貼付し,歩行周期の特定および時間距離因子(重複歩幅,歩行率,立脚期割合)の算出をした.得られた筋電図波形は、全波整流後30歩行周期分を加算平均して平滑化した後,フットスイッチの情報から,立脚相と遊脚相に分け,それぞれの積分値(μVs)を算出した.また歩行時の重心動揺を計測するため,小型加速度計(ワイヤレステクノロジー社)を使用した.加速度計は,第三腰椎棘突起部に伸縮ベルトで固定し,サンプリング周波数60Hzで記録した.加速度データは,10歩行周期分のデータを加算平均し平滑化した後,時間で2回積分し変位を算出した.その変位から1歩行周期における左右移動幅を算出した.統計解析は,装具の有無による各筋活動量と時間距離因子,重心動揺の違いを検討するため,対応のあるt検定を用いた.有意水準は5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】 所属機関の倫理審査会により認可され,事前に全ての対象者に研究内容を説明し,同意を得た.【結果】 装具着用により,装着下肢の立脚相においてGM,MH,RF,TAの筋活動量が有意に減少した.装具着用側の立脚相における各筋の平均積分値は(装具あり条件、装具なし条件)で,GM(6.33μVs,7.98μVs),MH(4.22μVs,5.39μVs),RF(1.43μVs,1.80μVs),TA(2.71μVs,3.53μVs)であった.一方,SOLについては,装具あり条件7.79μVs,装具なし条件7.88μVsで統計的有意な差を認めなかった(p=0.783).遊脚相においては,いずれの筋でも筋活動量に有意な差を認めなかった.また,装具非装着側の立脚相および遊脚相においては,いずれの筋でも装具着用の有無による有意な筋活動量の差を認めなかった.時間距離因子については,装具着用の有無による有意な差を認めなかった.重心の左右移動幅は,裸足歩行17.7cm,装具歩行23.8cmで装具装着により有意に増加した.【考察】 膝装具は,膝伸展筋以外の筋活動量も減少させることが示された.GM,MH,RFの筋活動量の減少は,膝装具によって体重支持に必要な筋活動が代償されたためだと考えられる.重心の左右移動幅が増大したが,これは膝関節を伸展位に保持したことにより,下肢を振り出すために生じた体幹側屈や分回し歩行などの代償動作が影響していると推察される.分回し歩行では,初期接地において通常より底屈位での接地になり,このことが,荷重応答期におけるTAの筋活動量が減少につながった可能性がある.また,立脚相のSOLにおいては,有意な変化を認めなかったことから,SOLの役割である下腿が前方へ倒れていく速度の制御に必要な筋活動は,膝装具によって影響をうけないと考えられた.しかしながら,本研究においては各関節の関節運動に言及することはできないため,今後,三次元動作解析装置などを用い検討する必要があると考えられた.【理学療法学研究としての意義】 膝装具を使用することにより,膝関節周囲筋だけでなく股関節や足関節の筋活動量も減少することが示唆された.膝装具を適用する際には,他の下肢筋の負荷をも軽減できる一方で,筋力低下の誘引にもなると考えられ,十分な配慮が必要である.