著者
中井 浩司 渡邊 晴美 高橋 幸子 宮本 浩三 土井 厚 花隈 淳 森下 雄亮 澤田 知広 尾辻 眞矢 平手 裕市 進藤 義明 小菅 浩司
出版者
Japanese Society of Medical Instrumentation
雑誌
医療機器学 (ISSN:18824978)
巻号頁・発行日
vol.79, no.8, pp.638-646, 2009 (Released:2010-01-07)
参考文献数
18

We studied the utility and drawbacks of the earlobe probe sensor on the percutaneous arterial oxygen saturation (SpO2) measurement. The SpO2 from the earlobe, forehead and finger sensor were measured simultaneously, and then changes of SpO2 readings induced by medical interferences and influence by the sensor attachment were compared among three types of sensor. The SpO2 from the earlobe sensor responded to the rapid change of patient clinical condition as well as from the forehead and finger sensor. The pulse wave signal from the earlobe sensor was more stable compared to those from forehead and finger sensor, but the time to display SpO2 readings after the earlobe sensor attachment was similar to the forehead sensor and it took longer than that in case of the finger sensor attachment. Some cases were difficult to measure SpO2 because of extremely thin earlobe and edema of earlobe. The long-term attachment of the earlobe sensor did not leave any surface imprint on the patient skin that is often found with the use of forehead and finger sensor. Also no patient had removed the earlobe sensor on a voluntary basis. While the SpO2 measurement with the earlobe sensor may be affected by several factors such as the earlobe shape and the peripheral circulation, it is the least painful for the patient. The active utilization of the earlobe sensor in clinical practice is promising as a new approach of the SpO2 measurement.
著者
安藤 裕一 植嶋 大晃 渡邊 多永子 田宮 菜奈子
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.67, no.5, pp.311-318, 2020-05-15 (Released:2020-06-02)
参考文献数
20

目的 日常的に運動を行うことは,生活習慣病の予防ならびに健康寿命を延伸するための一つの要素とされている。本研究は,高齢者の参加と安全配慮に主眼をおき全国に展開する「総合型地域スポーツクラブ」(総合型クラブ)の現状を分析し課題を考察することを目的とした。方法 スポーツ庁が2016年に実施した「総合型地域スポーツクラブ活動状況調査」を二次利用し,年代別会員数の記載のある2,444クラブを対象とした。総会員数に対するシニア会員数の割合(シニア会員割合)の4分位点を算出した上で,シニア会員割合が少ない群から順にA群,B群,C群,D群としこれを独立変数とした。また総合型クラブの所在地に基づき6地域に分類したものをもう一つの独立変数とした。従属変数は,総会員数,シニア会員数,シニア会員割合,1人当たりの月会費,クラブ収入総額,会員1人当たりの年予算,スポーツ・レクリエーション活動種目数,スポーツ指導者数,会員10人当たりのスポーツ指導者数,危機管理方策・事故防止対策(全13項目),法人格取得の有無とした。結果 シニア会員割合が高いD群は,会員数,1人当たりの会費,クラブ収入総額,会員1人当たりの年予算が低く,スポーツ指導者数ならびに,会員10人当たりのスポーツ指導者数が少なかった。またD群は危機管理方策・事故防止対策の6項目(健康証明書提出,賠償責任保険加入,安全講習会実施,熱中症対策,医師との連携,AED設置)の実施割合が最も低く,法人格の取得割合も最も低かった。地域間の比較では,シニア会員の割合は,中国四国が高く,中部が低いという地域差を認めたもののいずれの地域もその中央値は20%台であった。危機管理方策・事故防止対策の実施割合は,関東は10項目で最も高かったのに対し,近畿は8項目で最も低かった。結論 高齢の会員割合が高い総合型クラブは人的規模ならびに予算規模が小さく,危機管理方策・事故防止対策が遅れていること,またこれらの規模や安全対策に地域差がみられることが示された。「高齢者は疾病を抱える可能性が高いことを鑑みれば,高齢の会員割合が高い総合型クラブは安全配慮が重要であるにも関わらず取り組みが遅れている」という現状を,該当する総合型クラブならびに関係機関は理解した上で改善を進めることが必要である。
著者
中島 明子 山路 雄彦 大橋 賢人 七五三木 好晴 渡邊 秀臣
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C3O3051, 2010 (Released:2010-05-25)

【目的】 内側縦アーチは足底に加わる体重負荷を分散して支え,着地時の衝撃を吸収し,効率のよい歩行を遂行する上で重要である.内側縦アーチの支持機能の一つとして足底腱膜があげられ,足趾背屈や荷重などの動作に合わせて伸縮を繰り返している.足底腱膜の伸張ストレスはウインドラス機構やアキレス腱足底腱膜連動機構により増大すると報告されているものの,客観的に足底腱膜の形状変化を検証した報告は極めて少ない.そこで,本研究は動態の観察が可能である超音波画像診断装置を用いて,足底腱膜の解剖学的特徴を明らかにし,膝関節,足関節,第一中足趾節関節(以下,母趾)の肢位の違いによる足底腱膜の形状変化について検討することを目的とした.【方法】 対象は健常成人16名(男性8名,女性8名,年齢25.6±4.6歳,身長166.8±7.1cm,体重58.9±7.5kg)とし,測定肢は全例左側とした.計測には超音波画像診断装置(GE社製LOGIQ BookXP Series,Bモード,8MHz)を用い,超音波プローブを踵骨隆起と第一中足骨頭を結ぶ線に平行に当て,長軸方向にて足底腱膜内側部を抽出した.測定部位は踵骨より1cm末梢部(以下,踵骨部)とし,背臥位にて計測した.測定肢位の条件として,膝関節は屈曲位(股関節膝関節90度屈曲位)・伸展位(股関節中間位膝関節完全伸展位)の2肢位,足関節は45°底屈位・中間位・最大背屈位の3肢位,母趾は中間位・最大背屈位の2肢位を定め,3関節の肢位を組み合わせて,計12肢位にて足底腱膜の厚さを計測した.各肢位3回ずつ計測し,平均値を求めた.なお,基本肢位は股関節中間位,膝関節伸展位,足関節中間位,足趾中間位と定義した.また,各肢位は安楽姿勢とし,関節運動は全て他動運動にて行った.統計学的分析では,信頼性の検討に級内相関係数(以下,ICC)を用い,膝関節および母趾の肢位別の比較に対して対応のあるT検定を用いた.さらに,足関節の肢位別の比較に対して一元配置の分散分析後Tukeyの多重比較を用いた.なお,有意水準は5%未満とした.【説明と同意】 対象者全員に研究の趣旨及び方法を説明後,同意を得た上で計測を行った.【結果】 踵骨部の足底腱膜は表層で高エコー,深層で低エコーとして描出された.ICC(1,1)は0.902であり,基本肢位での足底腱膜の厚さは2.41±0.39mmであった.母趾背屈により足底腱膜の厚さは0.11±0.18mm薄くなり,いずれの測定肢位においても有意に薄くなった(p<0.05).一方,膝関節や足関節の肢位変化に伴う足底腱膜の厚さには有意な差は認められなかった.【考察】 足底腱膜は踵骨隆起に起始し,第1-5趾基節骨に停止する強靭な腱組織である.踵骨部の足底腱膜は組織学的に表層の線維配向性が張力方向であるのに対し,深層は網目状であることから,本研究において足底腱膜の表層は高エコーとして描出されたと考えられる.また,足底腱膜の境界線が鮮明に描出されたことで同肢位,同部位での計測で高い信頼性が認められたと考えられる.母趾背屈による足底腱膜の形状変化は,ウインドラス機構が働き,足底腱膜の停止部が遠位上方に巻き上げられ,長軸方向への伸張ストレスを有するために生じたと考えられる.一方,膝関節や足関節の角度と足底腱膜の厚さに関連がみられなかったことの理由としては,膝関節伸展,足関節背屈により下腿三頭筋が伸張され,距骨に対して踵骨が底屈方向に動くものの,足底腱膜の厚さが変動するまでの長軸方向の伸張ストレスはかからなかったと推察される.【理学療法学研究としての意義】 超音波画像診断装置を用いて足底腱膜を鮮明に描出することが可能であった.Javier Pascual Huertaらによると,足底腱膜の厚さは踵骨部にて2.70±0.69mmであったと報告しており,本研究の結果とほぼ一致する値であった.本研究にて高い信頼性を得られたことからも,超音波検査法は足底腱膜の評価ツールとして臨床的有用性が高いと判断できる.このため足底腱膜炎などの踵骨部の足底腱膜の厚さに異常をきたす疾患の評価に,超音波装置を用いて経時的な変化をみることが可能であると考えられる.また,足底腱膜の形状変化は主に母趾背屈により生じ,足関節や膝関節の評価肢位には影響されないことが示された.
著者
後藤 實 野口 友昭 渡邊 武
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
YAKUGAKU ZASSHI (ISSN:00316903)
巻号頁・発行日
vol.78, no.5, pp.464-467, 1958-05-25 (Released:2010-02-19)
参考文献数
9
被引用文献数
2 7

Crude drugs and plants, numbering 229 kinds, were examined for principles having uterus contracting action and it was found that an extract of Lespedeza bicolor var. iaponica NAKAI (family Leguminosae) showed a comparatively strong action. From the result of various tests, the active principle of this plant was assumed to be an alkaloid and the principle was extracted y the usual method, affording white prisms melting at 47-48°. A molecular formula of C12H16N2 was given for this substance from elemental analyticalvalues and molecular weight determination. There has been no report of identification of this kind of a substance fro the Lespedeza sp. and the substance was tentatively named alkaloid L.Ultraviolet absorption spectrum and various tests indicated the alkaloid L to possess an indole ring and a side chain of dimethylaminoethyl group was assumed to be attached to its 3-position. The alkaloid L was therefore derived to its methiodide and it was found that this methiodide was identical with N, N-dimethyltryptamine methiodide in respect to its melting point, elemental analyses, and infrared absorption spctrum. Therefore, the alkaloid L would be N, N-dimethyltryptamine. A dose of 50mγ/cc. of this alkaloid contracted excised uterus of a hamster. The effect of N, N-dimethyltryptamine on the tryptophan demand of Lactobacillus arabinosus, with tryptophan as the essential growth factor, was examined by microbiological assay but no effect was found to be exerted on fungal growth.
著者
岩宮 眞一郎 渡邊 正智 高田 正幸
出版者
公益社団法人 日本騒音制御工学会
雑誌
騒音制御 (ISSN:03868761)
巻号頁・発行日
vol.32, no.6, pp.425-436, 2008-12-01 (Released:2020-01-29)
参考文献数
7

オートバイの排気音に関するアンケート調査及び音質評価実験を行い,通常オートバイを利用するライダーと利用しない非ライダーの排気音に対する意識の違いを検討した。ライダーは,力強い走りを連想させる低音域が優勢で迫力感あふれるアイドリング音,音量が大きく高音域が優勢な走行音を好む。ライダーの評価には,音から連想されるオートバイのイメージの影響がみられた。非ライダーの評価にはそのような影響はなく,排気音全般に対して不快な印象を持ち,音量が大きいほど排気音を嫌っていた。ライダーが理想とする排気音と非ライダーが不快感を覚える排気音の擬音語に共通の表現がみられることからも,両者の意識の違いが分かる。
著者
横田 知樹 近藤 亮磨 渡邊 慎一 森川 博之 岩井 将行
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.59, no.10, pp.1794-1801, 2018-10-15

紫外線(以下UV)は皮膚がんの発症や白内障などの重大な疾病につながるにもかかわらず,その健康影響の評価・予防は国内の労働現場ではあまり知られていない.さらに,反射率の高い建材の普及から過度なUVに暴露する潜在的なリスクは年々増大している.しかし,既存のUVセンシング手法は,天空面などの1方向のみの計測を行うものばかりであり,太陽の動きや地物のUV反射による影響を十分に考慮できていない.既存研究ではウェアラブルデバイスを用いて個人単位でのUV暴露を評価する試みがなされているが,作業者全員にUVセンサを装着することはコストの観点から現実的でない.そのため,作業者の周辺環境において瞬間ごとのUV暴露をより正確に計測することができれば,急性障害のリスクを認識することができ,繰り返し日々計測することで,反覆暴露によって積み重ねられる慢性傷害のリスクを認識することができる.そこで我々は,温熱環境分野で用いられる6方向からの日射と熱放射の計測により人体が受け取る熱量を推定する手法に着目してUVに応用し,地物および壁面からの反射を含めた,6方向からの紅斑紫外線量を計測するセンシングシステムとしてUV-Cubeを提案・設計・実装・評価した.本論文ではUV-Cubeを用いて,直接天方向から光が当たらない屋外作業現場などのUV暴露が軽視されてきた環境にも,太陽高度や反射が作用し複数方向から入射するUVによる潜在的な暴露があることを明らかにした.
著者
渡邊 彩美 新田 收 松田 雅弘 櫻井 瑞紀
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0240, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】腰痛は大多数の日本人が経験する最も多い症状の一つである。腰痛の既往があることは,腹横筋の筋活動低下による筋厚減少および表在筋の過剰な筋活動による筋厚増大と関連することが報告されている。内腹斜筋は体幹深部筋群に含まれ,インナーユニットとして体幹の安定性に寄与するとの報告がある。筋肉量の評価方法としてMRIのT2強調像を用いた方法が挙げられる。MRIの組織分解能は現在存在する検査機器の中で最も精度が高い。腰痛者において腹横筋の筋厚減少は報告されているが,表在および深部筋,筋断面積比についての検討はない。本研究の目的は,腰痛者における深部筋の筋断面積を健常者および表在筋と比較することである。【方法】対象は半年以上腰痛のない成人男性10名(27.6±3.7歳,168.4±4.9cm,58.8±5.8kg)を健常群(A群),疼痛誘発テストで陽性かつ半年に1回以上の頻度で右側に腰痛を生じる成人男性10名(26.1±3.8歳,169.5±5.3cm,61.0±9.0kg)を腰痛群(B群)とした。神経学的・整形外科的疾患を有する者,測定日に腰痛を有する者,心因性疼痛の要素がある者は除外した。測定項目は第3・4腰椎間高位水平断の左右の表在筋(外腹斜筋)と深部筋(腹横筋+内腹斜筋)の面積[mm2]とした。T2強調像はPhilips社製MRI(Achieva 3.0T Quasar-dual)を使用した。撮像肢位は両上肢拳上の背臥位とした。ImageJ(1.48v)を使用し筋断面積を計測した。統計解析は筋断面積を従属変数,腰痛経験の有無と表在筋か深部筋かの2要因を独立変数とした二元配置分散分析を行い,交互作用があった場合には単純主効果の検定をボンフェローニ法により行った。統計ソフトはIBM spss ver19を用い,本研究の有意水準は10%とした。【結果】ICC(1,3)の結果は0.971であり,高い信頼性を認めた。筋断面積[mm2]は右側では表在筋がA群1849.2±373.7,B群2324.5±790.3,深部筋がA群1825.1±526.4,B群1560.1±611.7で交互作用を認めた。単純主効果の検定ではB群の表在筋と深部筋間に有意差を認めた。左側では表在筋はA群2291.1±407.1,B群2458.7±594.5,深部筋はA群1776.9±520.0,B群1714.5±549.9で交互作用は認められなかった。【結論】腰痛群では疼痛部位と同側の表在筋と深部筋の筋断面積の差が健常群に比べて大きくなっていた。先行研究同様に表在筋の筋断面積増大と深部筋の筋断面積減少を認め,腰痛経験が表在筋の筋厚増大に関連していることが明らかとなり,内腹斜筋を含めた深部筋の筋厚減少が示唆された。
著者
福田 早苗 渡邊 映理 小野 直哉 坪内 美樹 白川 太郎
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.293-300, 2006 (Released:2014-07-08)
参考文献数
17
被引用文献数
1

目的 近年,その市場の増大が注目される現代西洋医学以外の伝統的な医療や治療方法であるが,国内での使用の実態を明らかにした報告は,あまり多くない。本研究では,自記式質問票を用いて,町単位の実態調査を実施し,その使用実態を明らかにするとともに,結果から伺える問題点をとらえる。方法 熊本県小国町町民35歳以上64歳以下の3,501人全員を対象とした自記式質問票を実施した(回収率83.6%)。質問票の内容は,「個人の属性」,「健康状態」,「生活習慣」についてであった。現代西洋医学以外の伝統的な医療や治療方法の使用経験の有無については,「漢方薬」,「栄養補助食品/健康食品(カルシウム・ビタミンなど)」,「カイロプラクティック/整体」,「マッサージ/指圧」,「イメージ療法/ヨガ/瞑想」,「鍼灸」,「気功/太極拳」,「アロマセラピー/ハーブ」,「温泉」について,それぞれ,「使用頻度」・「医師の処方/薦めの有無」・「目的」・「効果」・「費用」についてたずねた。結果 現代西洋医学以外の伝統的な医療や治療方法使用・摂取は,約57%であり,全体的に年齢が高いほど,女性であるほど,高かった。最も多いのは,栄養補助食品/健康食品で女性47%,男性35.3%であった。医師に薦められて(処方で)用いている項目で最も多いものは,「漢方薬」であり,女性で24.8%,男性で11.4%であった。もっとも治療院や専門店の利用率が高いのは,カイロプラクティック/整体であった(男性68.6%,女性70.5%)。結論 現代西洋医学以外の伝統的な医療や治療方法使用・摂取は,約57%と,各国平均に比べても高く,使用・摂取は,女性や年齢が高いものに多かった。利用状況は高く,健康政策上に無視できない影響を与えると考えられる。
著者
渡邊 麻里
出版者
文化資源学会
雑誌
文化資源学 (ISSN:18807232)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.17-33, 2018

<p>1975年、歌舞伎座において、日本人のための日本語による、同時解説イヤホンガイドが導入された。現在、イヤホンガイドは歌舞伎公演に定着し、多くの観客が利用するようになり、歌舞伎において重要な地位を占めている。しかし、イヤホンガイドの実態や、誕生の経緯とその目的は、これまで明らかになっていない。そこで本稿では、イヤホンガイドの歴史を振り返り、歌舞伎におけるイヤホンガイドとは如何なるものかを改めて考えるため、1960年の歌舞伎アメリカ公演の際に導入された、イヤホンを用いた同時通訳に着目した。 この同時通訳は、当時ニューヨーク・シティ・バレエの総支配人であり、アメリカ公演で重要な役割を果たしたリンカーン・カースティンの発案によるものである。1960年以前、同時通訳は国際会議では利用されていたものの、舞台芸術においては、同時通訳ではなく、パンフレットや開幕前及び休憩時間における解説が主流であった。それでは何故、アメリカ公演において、歌舞伎に同時通訳が導入されたのか。その目的と経緯を、歌舞伎公演の前年の1959年に行われ、カースティンが関わった雅楽アメリカ公演や、歌舞伎アメリカ公演における演目選定を通して考える。また、アメリカ公演の同時通訳は、ドナルド・リチーと渡辺美代子の二人の通訳者により行われ、その同時通訳台本が残されている。この台本をもとに、当時上演された『仮名手本忠臣蔵』と『娘道成寺』の二つを取り上げ、同時通訳の内容がいかなるものであったのかを考察してゆく。</p>
著者
西本 雄飛 和田 一佐 岡田 智彰 稲垣 克記 渡邊 幹彦
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和学士会雑誌 (ISSN:2187719X)
巻号頁・発行日
vol.78, no.1, pp.48-54, 2018

野球肘の診断には臨床上,理学的所見と共に画像診断が重要であるが,MRIなどの定性的な評価が中心で靭帯の弾性などを定量的に評価した方法は少ない.近年,超音波技術の進歩により組織の質的評価も可能になっている.その一つが超音波エラストグラフィーであり乳腺領域や甲状腺領域で臨床応用されている.運動器領域では腓腹筋筋挫傷,アキレス腱,烏口肩峰靭帯などが評価されている.今回,その技術を応用し,野球肘と診断された野球選手において,肘内側側副靭帯(以下MCL)の弾性を定量化することによって,損傷の程度や罹病期間などとの関係を調査し,復帰までの指標になる可能性があるか検討を行った.投球時に肘内側部痛を訴え,野球肘と診断された24名(平均年齢16歳)の野球選手を対象とした.方法は,超音波診断装置を使用し,探触子(L64)に定量化用音響カプラを装着,Real-time Tissue Elastographyにて測定を行った.計測肢位はGravity test に準じて前腕の自重を掛け,仰臥位,肩関節外転90°,肘関節屈曲30°最大回外位とした.適切な圧迫深度で周期的に端子を肘内側に圧迫させ,測定画像から得られたカプラの歪み値を対象組織(MCL)の歪み値で除したstrain ratio(以下SR)を算出し,5つの値のうち中央3値の平均値をSR値と定義し弾性を評価した.SR値は患側3.11±1.13,健側2.48±0.79と有意差を認めた(p=0.03).これらを骨片の有無で検討すると,裂離骨片あり群(n=9)では,SR値は患側3.86±0.73,健側2.61±0.91と有意差を認めた(p=0.006).裂離骨片なし群(n=15)では患側2.66±1.10は健側2.40±0.72と有意差を認めなかった(p=0.45).裂離骨片なし群で発症後1か月未満とそれ以降で比べると1か月未満は患側と健側で有意差はなく,それ以降も有意差は認めなかったが,患側のみで比べると,発症後1か月未満と1か月以上で有意差を認めた.損傷靭帯は弾性が上昇しSR値は低値になると仮説をたてたが,結果は患側で健側より高く,損傷した靭帯は弾性が低下していると言える.裂離骨片なし群では健患側に差はなく損傷の有無によって弾性に違いはないと思われたが,裂離骨片あり群で患側SR値が有意に高く,裂離骨片の有無が靭帯の弾性に影響していた.また,発症後1か月未満の患側SR値と1か月以上の患側SR値を比較すると前者で有意に低値を示した.靭帯の弾性は損傷の時期に変化しており,急性期は弾性が上昇し,亜急性期〜慢性期は弾性が低下している可能性がある.また,裂離骨片を伴うMCL損傷の野球肘では,靭帯の弾性低下が顕著であった.今後,肘MCL損傷の修復の過程をより正確に超音波エラストグラフィーで捉えることができるようになれば,肘MCL損傷の評価にさらに有用になると考えられる.野球肘の肘MCLは急性期で弾性が上昇し,亜急性期〜慢性期になると低下していた.裂離骨片があると著明に肘MCLの弾性は低下していた.
著者
渡邊 寳陽
出版者
日本印度学仏教学会
雑誌
印度學佛教學研究 (ISSN:00194344)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.1285-1292, 2009

日蓮は,一二六〇年に『立正安国論』を鎌倉幕府の前執権,最明寺入道時頼に奏進した.打ち続く天災地変は,正しい精神によって国が治められていないためであるという,鎌倉幕府の宗教的良心と目される枢要な人物への諫言である.日蓮の諫言はあくまで仏典に尋ねた結論に従った宗教的行為として終始した.その後,日蓮は法難を受け,『立正安国論』は予言の書としての意義を重くしていく.法華経の行者として,四大法難を体験した日蓮は,末法に展開すべき法華仏教の内観の世界を『如来滅後五五百歳始観心本尊抄』として著す.一見,対比的に見られる両書だが,宗教的救済の現実化の側面と,仏法の内面化の側面とを,それぞれの論述のうちに共有していることに注意を要することを指摘する.