著者
斎藤 規夫 本多 利雄 立澤 文見 星野 敦 阿部 幸穎 市村 美千代 横井 政人 土岐 健次郎 森田 裕将 飯田 滋
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:18823351)
巻号頁・発行日
vol.80, no.4, pp.452-460, 2011
被引用文献数
14

アサガオ(<i>Ipomoea nil</i> または,<i>Pharbitis nil</i>)の <i>speckled</i> 変異により淡黄色花を咲かせる 54Y 系統と <i>c-1</i> 変異により白花を持つ 78WW<i>c-1</i> 系統の F<sub>1</sub> 並びに F<sub>2</sub> 植物について,花弁に含まれるアントシアニンとその関連化合物を解析した.<i>speckled</i> 変異が優性の遺伝因子である <i>speckled-activator</i> と共存すると,花弁に吹掛絞が現れる.<i>Speckled</i> と <i>C-1</i> 遺伝子座は強く連鎖しており,78WW<i>c-1</i> 系統にのみ <i>speckled-activator</i> が存在する.このため,F<sub>1</sub> 植物は赤紫花を咲かせ,F<sub>2</sub> では赤紫花,白花,吹掛絞(淡黄色地に赤紫の斑点模様)の花,淡黄色花の植物が 8 : 4 : 3 : 1 の割合で分離する.解析の結果,F<sub>1</sub> と F<sub>2</sub> の赤紫花,さらに吹掛絞の斑点部分には同じアントシアニンが含まれていた.いずれもウェディングベルアントシアニン(WBA)が主要な色素であり,その前駆体など 9 種のアントシアニン(ペラルゴニジン誘導体)も蓄積していた.一方,54Y と淡黄色花の F<sub>2</sub>,さらに吹掛絞の淡黄の地色部分では,カルコノナリンゲニン 2'-グルコシドが主要なフラボノイドとして検出されたほか,少量のカフェ酸とオーロシジン 4-グルコシドやクロロゲン酸もみいだされた.また,78WW<i>c-1</i> と白花の F<sub>2</sub> には,クロロゲン酸とカフェ酸が存在した.これらの結果から,<i>speckled</i> 変異と <i>c-1</i> 変異を持つアサガオでは,それぞれカルコン異性化酵素(CHI)とカルコン合成酵素(CHS)が触媒する反応過程でアントシアニン色素生合成が遮断されていることが強く示唆された.また,吹掛絞の斑点部分では,完全に色素生合成系が活性化していると思われた.さらに,F<sub>2</sub> の赤紫花と吹掛絞の斑点部分に含まれるアントシアニン構成が個体毎に異なることから,これまで報告されていない未知の遺伝的背景が WBA の生合成を制御している可能性が高い.<br>
著者
冨澤 文子 塚原 清彰 河野 淳 野波 尚子 鮎澤 詠美 梅村 大助 西山 信宏 河口 幸江 白井 杏湖 斎藤 友介
出版者
日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.60, no.6, pp.500-508, 2017

<p>要旨: 人工内耳装用児の言語力に関する研究は本邦でも増加しつつあるが, 語彙力に関する詳細な研究は少ない。 今回我々は, 小学校就学前後期以前における人工内耳装用児の語彙力を, 良好群~不良群の6群に分類した。 88例中32例 (36.4%) が就学時期までに健聴児の生活年齢相当の理解語彙力を獲得していた。 一方で63.6%にあたる56例の装用児の理解語彙力は, やや不良~不良な状態であり, 健聴児との顕著な成績差が認められた。 手術時期に注目すると, 4歳時点で語彙発達指数が85以上になった群において手術時期が早い傾向がみられた。 他方, 補聴器開始年齢, 人工内耳装用閾値については, 各群で大きな差は認められなかった。 就学時期までの幼児期段階では, コミュニケーション方法として主に聴覚を使用する症例が多い傾向があり, 手話併用例は少なかった。 しかし, 小学校就学以降は, 理解語彙の不良例においては手話併用例が増加する傾向が認められた。 聴覚障害児の療育や教育の目的は幼児期の言語発達を促し, 就学以降の教科学習や社会生活に求められる書き言葉の獲得にある。 今後は語彙以外の言語の側面も含めた言語活動全体の発達を考慮し, 長期に渡って経過をサポートしていく必要がある。</p>
著者
奥村 伸生 寺澤 文子
出版者
一般社団法人 日本臨床化学会
雑誌
臨床化学 (ISSN:03705633)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.272-282, 2008-07-31 (Released:2012-11-27)
参考文献数
42
著者
金澤 文子 半田 康 宮下 ちひろ
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

難分解性の有機塩素系(POC)農薬は内分泌撹乱作用を持つと懸念されている。POC農薬の胎児期曝露が次世代の小児アレルギーリスクに与える影響を明らかにするため、2002年から2005年の期間、札幌市の一産院で妊婦514名をリクルートし、POC農薬の母体血中濃度を320名で測定した。交絡要因を調整したロジスティック回帰分析で、母体血中POC農薬と18か月の小児アレルギー発症のリスクに有意な関連は認められなかった。曝露レベルが低いため、生後の小児アレルギーに与える影響が低い可能性が示された。免疫機能が発達し、アレルギー症状の診断が明確になる学童期まで追跡調査する必要があると考えられた。
著者
吉澤 文寿 太田 修 浅野 豊美 長澤 裕子 李 東俊 金 鉉洙 薦田 真由美 金 慶南 金 恩貞 李 洋秀 山本 興生 ミン ジフン 成田 千尋 李 承宰 李 洸昊 金 崇培
出版者
新潟国際情報大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

この研究では、日韓国交正常化問題資料の整理及び刊行作業を行った。そして、日本、韓国、米国などの公文書館、資料館で収集した資料を用いて、韓国からの研究者の協力を得て、研究会、パネルディスカッション、シンポジウムを開催した。その結果、日韓国交正常化交渉で議論された請求権および歴史認識問題に関する論点について、国交正常化以後の時期を含めた展開を視野に入れつつ、日米韓三国それぞれの立場から、相応の責任が生じているという一定の見通しを提示することができた。
著者
松澤 文太郎 藤原 祥隆 岡田 信一郎
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会研究報告コンピュータと教育(CE) (ISSN:09196072)
巻号頁・発行日
vol.2001, no.122, pp.17-24, 2001-12-14
参考文献数
4
被引用文献数
1

第1種情報処理技術者試験のような幅広い内容をもつ分野を学習するには,得意科目を伸ばすより,苦手科目を克服する方が学習効果が高い.そこで筆者らは,汎用的な適応化が可能な「Causal Networkによる適応化機能を備えたプロダクションシステム(PS)」を提案した.本研究では,当PSを利用して第1種情報処理技術者試験を題材とした問題出題システムを構築し,数名の学生で試用して,その有用性の評価を行う.A wide range of learning items is included in such a field of study as the Class I Informarion Technology Engineer Examination covers. Therefore it is effective for the learning assistance system of this kind of field to concentrate its energy upon weaker items than stronger ones. This paper proposes a new production system with a user adaptable function(A-PS) based on this idea. It features a real-time estimation of a user profile by a Causal-network. This paper also presents some results of the performance evaluations of A-PS using an experimental learning assistance system for the Class I Information Technology Engineer Examination.
著者
渡邊 三津子 古澤 文
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2014, 2014

<B>1. はじめに</B><BR><br> ソ連崩壊後のカザフスタン農業については、マクロな視点からのすぐれた研究蓄積がある一方で、個別地域における市場経済化がミクロな市場(バザール)や地域の農業にどのような影響を与えたのか、といった点については実態的な調査が行われていないのが現状である。本研究では、人々の生活に最も身近な市場と地域農業との関係に焦点を当てる。ソ連崩壊後20年を経て、地域の市場が市場化やグローバル経済をどのように受容してきたか、また市場の変容が地域農業や土地利用にどのような影響を与えたかを明らかにすることを目的とする。 本発表では、市場の小売店や農業生産者へのインタビューを通じて、近年の青果物の輸入増加に目を付けた農業生産者たちによる新たな取り組みとしての施設栽培の導入について紹介する。 <BR><br><B>2. 青果物輸入量増加と施設栽培の導入</B><BR><br> カザフスタンにおいて、1991年のソ連崩壊後、計画経済から市場経済へと移行する過程で農業生産の大幅な縮小が生じた事はよく知られている(錦見、2004など)。その後、1999年ごろまで農業生産は停滞していたが、その後穀物生産に牽引されて回復過程に入ったとされている(野部、2008)。 しかし、野菜や果物に関しては季節的な変動が大きく、夏場には大量に市場に出回るものの冬場には不足する。アルマトゥ市内の市場やジャルケントの市場での聞き取りでは、冬季に市場に出回るものの多くは、海外(特に中国)からの輸入品である。近年、当該地域では、こうした現状に目を付けて施設栽培を導入する農業生産者も現れた。以下、アルマトゥ市近郊、パンフィロフ地区ジャルケント周辺の2か所における聞き取りの内容を紹介する。<BR><br>1) パンフィロフ地区の農業者の事例<BR><br> アルマトゥ州パンフィロフ地区は、中国と国境を直接接する辺境である。2012年末、中国の青島からカザフスタン共和国のアルマトゥを結ぶ大陸横断鉄道が開通したことにより、現在では経済活動の結節点としての重要性が高まっている。 Sさんは、ソ連時代にはジャルケントの銀行に勤めていたが、2005年に農業企業(有限会社)を設立した。Sさんの農場では、現在25棟の温室を所有し、9月以降冬場にかけてキュウリやトマトを栽培している。 ジャルケントのコーク・バザールで青果物の小売店を営むZさんによれば、現在ジャルケントにはSさんを含む3軒の農家が施設栽培を行っているが、冬場の需要を満たすには至らず中国産のものを仕入れている。<BR><br>2) カスケレン地区の農業者の事例<BR><br> &nbsp; アルマトゥは、1997年にアスタナに遷都されるまでの首都であり、現在でも国内最大人口を抱えるカザフスタンの経済活動の中心地である。アルマトゥから西方約25㎞のカスケレンにおいて農業企業を営むAさんは、もともとエコノミストであり農業経験はなかったが、中国産の野菜の輸入量や品目、価格について調査し、2012年に企業に踏み切った。現在2棟の温室を有し、キュウリとトマトを栽培している。温室自体は韓国製で、その他の栽培技術や種、土などはオランダのものを使っている。Aさんの農場では、農薬は使わず有機栽培を行っている。露地栽培に比べてコストは割高になるが、カザフスタンではまだ有機野菜などの付加価値が認められていないので、他の露地物と同じ価格で販売している。 <BR><br><B>3. まとめ</B><BR><br> &nbsp; ソ連時代以降の食生活の変化に伴って、冬場にも青果物の需要がある一方で、カザフスタンにおける冬場の生産は少ない。ソ連崩壊後、特にカザフスタン南東部においては中国から輸入青果物が大量に出回るようになった。それに目を付けた、農業者が独自に施設栽培を導入し始めたが、技術面やコスト面での課題が多い。 &nbsp; <BR> &nbsp;<br>錦見浩司(2004):農業改革-市場システム形成の実際-.岩﨑一郎・宇山智彦・小松久男編著『現代中央アジア論-変貌する政治・経済の深層-』201-226./野部公一(2008):再編途上のカザフスタン農業:1999~2007年-「連邦」の食料基地からの脱却.「専修経済学論集」43(1)、73-91。
著者
出口 亜由美 立澤 文見 細川 宗孝 土井 元章 大野 翔
出版者
The Japanese Society for Horticultural Science
雑誌
The Horticulture Journal (ISSN:21890102)
巻号頁・発行日
vol.85, no.4, pp.340-350, 2016 (Released:2016-10-27)
参考文献数
36
被引用文献数
1 14

ダリア(Dahlia variabilis)の黒色花はシアニジン(Cy)系アントシアニンの高蓄積に起因するものであることが先行研究により示唆されていた.そのため,ダリア花弁に蓄積する Cy 系アントシアニンはペラルゴニジン(Pg)系アントシアニンよりも花弁の明度 L* および彩度 C* を下げるはたらきが強く,花弁黒色化への寄与度が高いことが予想されたが,これまでにそれを示した報告はない.本研究では,ダリア花弁に蓄積する 4 種類の主要なアントシアニン,Pg 3,5-ジグルコシド(Pg 3,5diG),Cy 3,5-ジグルコシド(Cy 3,5diG)Pg 3-(6''-マロニルグルコシド)-5-グルコシド(Pg 3MG5G)および Cy 3-(6''-マロニルグルコシド)-5-グルコシド(Cy 3MG5G)を抽出精製し,異なる pH(3.0,4.0,4.5,5.0,5.5,6.0 あるいは 7.0)あるいは異なる濃度(0.25,0.5,1.0,2.0 あるいは 3.0 mg·mL−1)における溶液の色(CIE L*a*b*C*)を in vitro で評価した.各アントシアニンの色は溶液の pH により変化した.ダリア花弁の pH に近い pH 5.0 およびアントシアニンが比較的安定な構造を保つ pH である pH 3.0 のいずれにおいても,Cy 3,5diG の L* および C* は Pg 3,5diG と同様あるいは高かったことから,Cy 3,5diG は Pg 3,5diG よりも花弁黒色化への寄与度が高いわけではないと考えられた.一方で,Cy 3MG5G の L* および C* は Pg 3MG5G よりも,特に 2.0 mg·mL−1 以上の高濃度において有意に低く,花弁黒色化への寄与度が高いことが示唆された.同様の傾向が Pg 系アントシアニンと Cy 系アントシアニンを様々な割合で混合した色素の測色でもみられた.Pg 3MG5G の L* および C* は他の 3 種のアントシアニンよりも極めて高かったことから,Pg 3MG5G は 4 種のアントシアニンのなかで最も黒色から遠い色を示すことが考えられた.ダリア花弁に蓄積する Pg 系アントシアニンと Cy 系アントシアニンの量比は品種によって様々であったのに対し,いずれの品種においても 3MG5G 型アントシアニンの蓄積量は 3,5diG 型アントシアニンよりも多かった.これらの結果から,ダリア花弁においては 3MG5G 型アントシアニンが主要に蓄積しており,かつ,Cy 3MG5G が Pg 3MG5G よりも花弁 L* および C* を下げるはたらきが強く花弁黒色化への寄与度が高いために,Cy 系アントシアニンの高蓄積が花弁の黒色化に重要であると示唆された.個々のアントシアニンの花弁黒色化への寄与度は各アントシアニンの構造により決まると考えられたため,L* および C* が最も低いアントシアニンを特定し,それを高濃度で花弁に蓄積させることで,様々な花卉品目において黒花品種を作成することが可能になると考えられた.
著者
大野 翔 保里 和香子 細川 宗孝 立澤 文見 土井 元章
出版者
The Japanese Society for Horticultural Science
雑誌
The Horticulture Journal (ISSN:21890102)
巻号頁・発行日
vol.85, no.2, pp.177-186, 2016 (Released:2016-04-28)
参考文献数
15
被引用文献数
1 10

複色花ダリア(Dahlia variabilis)は,着色した基部と白色の先端部となる花弁をもつ品種群であるが,しばしば一つの花序において花弁全体が着色した単色花弁を生じる.この花色の不安定性は切り花や鉢もの生産において問題となり,しばしば商業的な価値を損なう原因となる.本研究では,花色の不安定性機構の解明と制御に向けて,赤白複色花‘結納’における赤色花弁の発生様相を調査した.‘結納’は複色花弁のみの複色花序,赤色花弁のみの赤色花序,そして赤色花弁と複色花弁とが混在した混合花序を着生した.混合花序において赤色花弁は,花序において複色花弁よりも外側あるいはセクター状に生じ,キメラ個体や枝変わりのような発生様相を示した.赤色花弁の発生頻度は,5 月から 12 月までの圃場での栽培と比較して,10 月から次の年の 7 月までの温室栽培で低かった.冬季から次の年の春季に比較的高い赤色花弁の発生頻度を示した個体を見出し,“R 系統”とし,栄養繁殖後の赤色花弁の発生頻度を調査すると,“R 系統”における赤色花弁を高頻度で生じるという性質は栄養繁殖個体でも維持された.花弁色と葉におけるフラボノイド蓄積の関係を調査すると,赤色花弁を生じる植物体では葉にフラボノイドを蓄積したが,複色花弁のみを生じる植物体では葉にフラボノイドを蓄積しない傾向にあった.したがって,‘結納’の花弁色とシュートにおけるフラボノイド合成能には関連があり,‘結納’の単色花の発生は単なる個々の花弁色の変化だけではなく,植物体全体の変化であると考えられた.
著者
真鍋 知宏 山澤 文裕
出版者
Japan Heart Foundation
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.S2_198-S2_203, 2011

日本国内では, 1年間に2,000以上の市民マラソン· ロードレースが開催されている. 日頃のランニングやジョギングの成果を発揮しようとして, 全国各地で行われる市民マラソン大会には多くの参加者が集まっている. 市民ランナーに対するメディカルチェックは, 現時点においては十分に行われておらず, 走行中に心肺停止を生じることも稀ではない. また, 救護体制は主催者によってまちまちであり, AEDが適切に配備されたロードレースにおいては, 心肺停止者が救命される事例をマスコミ報道などで知ることができる. 一方で公表されない死亡事例も存在しており, その情報を入手するのも容易ではない. ある程度は, マスコミ報道からの情報収集が可能であるが, 病状などの詳細についてはデータとしてまとめられることはなかった. ロードレース中の安全を確保する観点からは, 個別の事例を検討して, 今後の予防に対して活用することが重要である. 日本陸上競技連盟医事委員会では, 陸連, 地方陸上競技協会が主催, 主管しているロードレースにおいて, その救護体制と傷病者数を把握するシステムを構築しようとしている. 現状と今後の課題について報告する.
著者
市川 貴大 深澤 文貴 高橋 輝昌 浅野 義人
出版者
森林立地学会
雑誌
森林立地 (ISSN:03888673)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.23-29, 2002-12-25 (Released:2017-04-03)
参考文献数
34
被引用文献数
6

ヒノキおよびスギ人工林化による土壌の養分特性の変化を明らかにすることを目的に,落葉広葉樹天然林伐採後に人工造林されたヒノキおよびスギ林と,天然更新した広葉樹林が同一斜面上に成立する調査地において,A_0層の乾重および養分含有量,鉱質土壌の化学的性質を調査した。針葉樹林の斜面上部にはヒノキが(ヒノキ林),斜面下部にはスギが(スギ林)それぞれ植栽されている。本研究では,斜面位置ごとに調査結果を広葉樹林と針葉樹林において比較した。ヒノキ人工林化によって土壌深0-30cmにおける交換性塩基量に違いは見られなかった。スギ人工林化によって土壌深0-30cmにおける交換性塩基量は隣接する広葉樹林に比べて多く,特に交換性Ca量は約1.9倍であった。土壌深0-30cmにおける全C,N量,CECは斜面上部のヒノキ林では広葉樹林に比べそれぞれ約0.6,0.6,0.8倍であったが,斜面下部のスギ林では広葉樹林とほぼ同じであった。A_0層量は斜面位置にかかわらず,広葉樹林で約7.1Mg/ha,ヒノキ林とスギ林では共に約9.5Mg/haであった。本調査地のA_0層のC/N比は広葉樹林に比べて針葉樹林で高かった。各調査区のA_0層中の元素含有量と土壌深0-30cmの全C,N量および交換性K,Ca,Mg,Na量の関係について検討したところ,Caについてのみ有意な正の相関関係がみられた。スギ人工林化によってA_0層中に蓄積されたCaの影響を受けて交換性Ca量が増加していると推察された。