著者
岡元 翔吾 齊藤 竜太 遠藤 康裕 阿部 洋太 菅谷 知明 宇賀 大祐 中澤 理恵 坂本 雅昭
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1237, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】投球障害後のリハビリテーションでは,病態の中心である肩甲上腕関節への負担を最小限に抑えることが不可欠であり,肩甲胸郭関節や胸椎の動きを十分に引き出し良い投球フォームを獲得する練習として,シャドーピッチング(以下,シャドー)が頻用される。しかし,硬式球を用いた投球(以下,通常投球)時の肩甲胸郭関節と胸椎の角度については過去に報告されているが,シャドーに関しては明らかにされていない。本研究では,シャドー時の肩関節最大外旋位における肩甲上腕関節,肩甲骨および胸椎の角度を明らかにし,運動学的観点より通常投球との相違を検証することを目的とした。【方法】対象は投手経験のある健常男性13名(年齢24.9±4.8歳,身長173.9±4.3cm,体重72.1±7.3kg,投手経験11.2±5.2年)とした。測定条件は通常投球とタオルを用いたシャドーの2条件とし,いずれも全力動作とした。動作解析には三次元動作解析装置(VICON Motion Systems社製,VICON 612)を使用し,サンプリング周波数は250Hzとした。反射マーカーはC7,Th7,Th8,L1,胸骨上切痕,剣状突起に貼付した。また,投球側の肩峰,上腕遠位端背側面,前腕遠位端背側面に桧工作材を貼付し,その両端にも反射マーカーを貼付した。得られた三次元座標値から肩関節最大外旋位(以下,MER)時の肩関節外旋角度(肩全体の外旋角度),肩甲上腕関節外旋角度,肩甲骨後傾角度,胸椎伸展角度を算出した。また,非投球側足部接地(FP)~MERまでの時間と各関節の角度変化量を算出した。尚,各条件とも2回の動作の平均値を代表値とした。統計学的解析にはIBM SPSS Statistics ver. 22.0を使用し,対応のあるt検定を用い,有意水準は5%とした。【結果】肩関節最大外旋角度は,通常投球145.4±14.2°,シャドー136.4±16.8°と有意にシャドーが小さかった(p<0.01)。その際の肩甲上腕関節外旋角度は,通常投球98.4±16.7°,シャドー91.8±13.1°と有意にシャドーが小さかった(p<0.01)が,肩甲骨後傾角度と胸椎伸展角度は有意差を認めなかった。FP~MERの時間は,通常投球0.152±0.030秒,シャドー0.167±0.040秒と有意にシャドーが長かった(p<0.05)が,角度変化量は有意差を認めなかった。【結論】シャドーは通常投球に比して,MER時の肩甲骨後傾角度や胸椎伸展角度に差はないが,肩甲上腕関節外旋角度が小さくなったことから,関節窩-上腕骨頭間での回旋ストレスが軽減する可能性が示唆された。また通常投球では,重量のあるボールを使用する上,短時間に同程度の肩甲上腕関節での外旋運動を求められるため,上腕骨回旋ストレスが大きくなる可能性が考えられる。投球障害後のリハビリテーションにおいて,シャドーは肩甲胸郭関節や胸椎の動きが確保され障害部位への負担が少ない動作となることから,ボールを使った投球動作へ移行する前段階での練習方法として有用であると考える。
著者
藤 泰子 金 鍾明 松井 章浩 栗原 志夫 諸澤 妙子 石田 順子 田中 真帆 遠藤 高帆 角谷 徹仁 豊田 哲郎 木村 宏 横山 茂之 篠崎 一雄 関 原明
出版者
日本植物生理学会
雑誌
日本植物生理学会年会およびシンポジウム 講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.375, 2011

シロイヌナズナのヒストン脱アセチル化酵素HDA6は、RNA依存性DNAメチル化を介したヘテロクロマチン制御因子として同定されている。我々が行った全ゲノム発現解析の結果から、HDA6とDNAメチル化酵素MET1は、ヘテロクロマチン領域を主とした共通の遺伝子を抑制することが示された。また<I>hda6</I>機能欠損により、これら領域ではヒストンアセチル化の上昇など、エピジェネティックなクロマチン状態の推移が認められた。一方、同領域にはRDR2依存的な24nt siRNAが多数マップされるにもかかわらず、その転写活性は<I>rdr2</I>変異では殆ど影響を受けなかった。HDA6標的領域では周辺のDNAメチル化状態に呼応した2つのCGメチル化状態が観察された。周辺のDNAメチル化領域から孤立している場合では、<I>hda6</I>機能欠損により標的領域のCGメチル化は完全に消失していた。一方、DNAメチル化が隣接する場合には、CGメチル化が残留していた。また、これら両領域ではCGメチル化の状態に関わらず、CHGおよびCHHメチル化はともに消失し、転写が再活性化されていた。さらに、HDA6は周囲のDNAメチル化領域には結合せず、その標的領域にのみ結合していることが確認された。これらの結果から、HDA6はRNA依存性DNAメチル化経路に殆ど依存せず、MET1と協調して領域特異的なヘテロクロマチン抑制に機能することが示唆された。
著者
遠藤 剛
出版者
The Japan Society of Mechanical Engineers
雑誌
日本機械学会論文集 B編 (ISSN:03875016)
巻号頁・発行日
vol.58, no.550, pp.2003-2009, 1992

This paper reports on flows around two-dimensional elliptic wings which are linearly arranged above a flat plate. To solve two-dimensional time-dependent incompressible Navier-Stokes equations which use a body-fitted curvilinear coordinate system, a numerical solution method has been developed, and the method has been applied to the flows around 25% thickness elliptic wing cascades slanted at an angle of attack 15°at a Reynolds number of 1.6×10<SUP>3</SUP>. Those wings are linearly arranged at an equal distance above a flat plate. This paper presents a number of numerical solutions for streamlines, vorticity profiles, lift, drag and pressure distributions. The lift and the drag almost regularly fluctuate with time, and the flow rates through each passage also regularly fluctuate. The present studies have been conducted as basic research into the mechanism of blowing snow off a road.
著者
辻 裕之 遠藤 繁之 原 茂子 大本 由樹 天川 和久 謝 勲東 山本 敬 橋本 光代 小川 恭子 奥田 近夫 有元 佐多雄 加藤 久人 横尾 郁子 有賀 明子 神野 豊久 荒瀬 康司
出版者
公益社団法人 日本人間ドック学会
雑誌
人間ドック (Ningen Dock) (ISSN:18801021)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.563-569, 2015 (Released:2015-12-22)
参考文献数
11

目的:人間ドックにおける尿潜血の意義を検証する.方法:2011年2月からの1年間に虎の門病院付属健康管理センター(以下,当センター)人間ドックを受診した16,018例(男性10,841例,女性5,177例)について尿潜血の結果を集計し,推算糸球体濾過値(以下,eGFR)との関連を検討した.次に2008年から2011年の4年間に当センター人間ドックを受診したのべ58,337例(男性40,185例,女性18,152例)について,腹部超音波検査で腎・尿路結石,またその後の検索を含めて腎細胞がんおよび膀胱がんと診断された例について,受診時の尿潜血の結果を検討した.結果:年齢を含めた多変量解析を行うと,尿潜血とeGFR低値との間には有意な関係を認めなかった.また,超音波上腎結石を有する場合でも,尿潜血陽性を示すのはわずか18.5%に過ぎなかった.さらに,腎細胞がん例で8.3%,膀胱がんでも28.6%のみに尿潜血は陽性であった.結論:人間ドックにおいて尿潜血は従来考えられていたより陽性率が高いが,少なくとも単回の検尿における潜血陽性は,CKDや泌尿器科疾患を期待したほど有効には示唆していないと考えられた.今後,尿潜血陽性例の検索をどこまで行うのが妥当なのか,医療経済学的観点も加味した新たな指針が望まれる.
著者
遠藤 恵子 井上 京子 菊地 圭子 豊田 茉莉
出版者
山形県立保健医療大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

思春期の知的障がい児は、人前でも自分の性器に触るといった特徴的な行動がみられ、社会的自立を視野に入れた性教育の必要性が明らかになった。知的障がい児に対する性教育には、生活を支える視点を教育者がもつこと、障がいの程度やニーズに合わせた個別的な指導、自慰行為などの手順を具体的に示した教材、家庭でも使用できるDVDやインターネットのサイトの作成、繰り返しの指導、自分の感情や意見を表出し自ら意思決定できる訓練が必要である。さらに、知的障がい児自身が教育計画立案や教育実践に参加できる体制が求められる。
著者
千葉 耕司 遠藤 政博
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌 (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1973, no.6, pp.1152-1155, 1973

活性アルミナ触媒の存在下,フェノールとメタノールとからヘキサメチルベンゼンを生ずる反応においてペソタメチルベンゼン,テトラメチルベンゼン類,トリメチルベンゼン類,ポリメチルフェノール類およびポリメチルフェノールのメチルエーテル類が副生した。これらの副反応生成物は原料中のメタノールの割合を減ずるか,もしぐは反応温度を下げるかすると増量した。また,ペソタメチルベンゼンもしくはテトラメチルベンゼンは本反応条件下ではテトラ-もしくはトリ-メチルベンゼンへ転化することなしにヘキサメチルベンゼンへ容易に転化した。フェノールがヘキサメチルベンゼンへ転化する主たる反応径路はつぎのとおりであるものと推察された。<BR>フェノール→2,6-キシレノール→2,4,6-,2,3,6-トリメチルフェノール→2,3,4,6-テトラメチルフェノール→ペンタメチルフェノール→ペソタメチルベンゼン→ヘキサメチルベンゼン
著者
遠藤 秀紀 小原 巌 吉田 智洋 九郎丸 正道 林 良博 鈴木 直樹
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.59, no.7, pp.531-538, 1997-07-25
被引用文献数
8 17

国立科学博物館に収蔵されているニホンオオカミ (Canis hodophilax TEMMINCK 1839)の頭骨3例を用いて骨計測学的検討を行い, 秋田犬との比較を試みた. また, CTスキャンを用いてニホンオオカミの頭蓋骨, 特に前頭骨領域の内部形態を非破壊的に観察したので報告する. 骨計測の結果, ニホンオオカミと秋田犬では最大頭蓋長に有意差はなく, 同サイズの集団間比較を行っていることが確認された. 一方, 最小前頭幅と両眼窩間最小距離の最大頭蓋長に対する割合は, ニホンオオカミで有意に小さく, 同種の前頭骨の発達が悪いことが示唆され, 前頭骨の平面観と側面観からも同様の結果が得られた. しかし, ニホンオオカミにおいてこれまで注目されてきた下顎第一後臼歯長の最大頭蓋長に対する比率には, 二者間で有意差は見られなかった. CTスキャンによる傍正中断像では, ニホンオオカミの前頭洞は, 発達の悪い前頭骨に応じて狭く, 特に背腹方向ヘ圧縮されていることが明らかになった. また, 三次元腹構の結果, 複雑な櫛板の構造が確認された. ニホンオオカミは, 1905年以来捕獲例のない絶滅種である. 今後, 残された標本をCT観察し, 同種の呼吸および嗅覚機能に関する検討を進めることが期待される.
著者
鴇田 恵子 矢島 ひろみ 遠藤 洋子 大曽 契子
出版者
信州大学医学部附属病院看護部
雑誌
信州大学医学部附属病院看護研究集録
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.4-9, 2012-03

眼科手術後患者は眼の安静と感染予防のために洗顔や洗髪に制限がある。術後洗顔・洗髪の開始時期について述べた先行文献は少なく,術後洗顔・洗髪の開始時期と術後感染の関係性のエビデンスはない。そこで眼科手術後患者に対して,洗顔・洗髪を長期間禁止されることへの不快感を調査した結果,洗顔・洗髪を長期間制限されることで不快感を抱く患者が多くいることがわかった。洗顔は,術後から顔面清拭の指導をしているが,視力障害や手術した眼を触ることへの恐怖感があるため,顔面清拭の方法には個人差があった。また,洗髪については,術後3日目までに洗髪をしたいという希望が多かった。今後,顔面清拭の指導方法の統一をすると共に,術後早期から患者自身での洗髪や洗顔が開始できるよう検討が必要である事が示唆された。
著者
近 久満雄 遠藤 淳
出版者
公益社団法人 精密工学会
雑誌
精密機械 (ISSN:03743543)
巻号頁・発行日
vol.27, no.322, pp.733-736, 1961-11-05 (Released:2009-06-30)

Internal threads have been generally produced by using cutting machines, such as tapping mach'nes or lathes. A rolling method of threads has been generally used to manufacture external threads.In this study we tried to roll the internal threads having fine pitch. The authors have made an equipment to roll internal threads using a lathe ; that is, a rolling die is supported on the main spindle of the lathe, and then the tool rest fitted with the thread blank is pushed toward the die by a spring to press the thread blank into the die. The two types of internal threads have been used in the above-mentioned experiment ; one has 1mm pitch and the other 0.5 mm pitch.
著者
福田 健志 太田原 康成 西川 泰正 遠藤 英彦 佐藤 直也 山野目 辰味 小川 彰
出版者
Japanese Association for Acute Medicine
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.14, no.11, pp.745-747, 2003-11-15 (Released:2009-03-27)
参考文献数
10

A 38-year-old man complained of headache and nausea after traveling by aeroplane. On physical examination, high fever and nuchal rigidity were found. Computed tomography showed pneumocephalus. Magnetic resonance imaging showed sphenoid sinusitis. Cerebrospinal fluid examination revealed purulent meningitis. The patient was medically treated using antibiotic agents. The pneumocephalus disappeared and the purulent meningitis was resolved. We suggest that the barotrauma resulted in the pneumocephalus and purulent meningitis. Barotrauma is a potential cause of pneumocephalus, especially if the patient has parasinusitis.
著者
遠藤 秀紀 大村 文乃 酒井 健夫 伊藤 琢也 鯉江 洋 岩田 雅光 安部 義孝
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.79-86, 2012 (Released:2012-08-29)
参考文献数
31
被引用文献数
1

現生シーラカンスの第一および第二背鰭を三次元復構画像を用いて検討し,軸上筋と軸下筋,第一背鰭に関連する筋肉,第二背鰭固有の筋肉の断面積を画像解析手法により計測した。第一背鰭に関連する筋肉は体幹の背側端を超えて鱗状鰭条まで伸長することはなかった。しかし,鱗状鰭条からなる放射した鰭は体幹部の骨性の板によって支持されていた。第二背鰭では,体幹部の2つの骨が鰭の4つの骨格要素を支持し,その4つの骨の周囲には,体幹部から固有の筋層が発達していた。第一背鰭は,体幹部の骨質の板から伸びる比較的小さな筋肉と,体幹部の骨質の板と鱗状鰭条の間の機械的な関節によって制御される,受動的な安定板として機能していると推察された。対照的に第二背鰭は,速度の遅い運動時に積極的な推進力を生み出す装置となっていることが示唆された。第一背鰭が位置する体幹前方と比べて軸上筋と軸下筋が減少する体幹後方においては,肉鰭類の鰭による推進力の発生は,第二背鰭に要求される機能であることが推測された。
著者
藪内 英子 山本 啓之 遠藤 卓郎 八木田 健司 守尾 輝彦
出版者
Japanese Society of Environmental Infections
雑誌
環境感染 (ISSN:09183337)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.137-140, 1998-04-30 (Released:2010-07-21)
参考文献数
14

On 9 March 1996, a 57-year-old Japanese drunken male drown in a public bath in Tokyo. He was transferred to a emergency hospital and recovered. After his discharge on 11 March by walking, he became febrile at night. Next day, because of high fever and dyspnea, he came to the medical attention, and was immediately hospitalized under the diagnosis of acute pneumonia. Although bacteriological, serological examinations and chemotherapy for suspected Legionella pneumonia, definite diagnosis was not obtained and the patient died on 6 April. Culture of the autopsied lung tissue yielded colonies of Legionella pneumophila serogroup (SG) 6, and reexamined serum antibody titer against. L. pneumophila serogroup 6 was 1: 1024 by microplate agglutination test.Examinations for legionellae and their host amobae in the water of 22 bath tubs of 6 public bath facilities located in the area including the facility concerned were carried out on 22 April without notification in advance. Free residual chlorine concentrations of the 22 bath water were from 0.1 to more than 5 mg/L, and water from 2 bath tubs (0.1%) of low chlorine level were legionellae-positive. Host amoebae for legionellae were detected from 10 bath tubs of 5 facilities.Though Naegleria was detected, the bath water where the patient drowned was negative for viable legionellae by repeated trials of culture, 3 times intraperitonal passages of guinea pigs, and coculture with amoebae. The 16S rRNA gene specific for legionellae was detected from the bath water by nested PCR method using primers, 225A-854B and 448A-854B. After filtration of 10 ml bath water, the membrane filter was stained by indirect fluorescent antibody (IFA) method. Rodshaped organisms trapped on the membrane filter were IFA-positive against L. pneumophila SG 6, same with the isolates from lug tissue, and their presumptive number in bath water was estimated as 102-103/ml. Based on the results of nested PCR and IFA staining of rod-shaped bacteria trapped on the membrane filter, the bath water was regarded as contained with viable legionellae due to unknown reason and could be the source of infection when the patient was drowned.
著者
田代 耕一 遠藤 正英 川﨑 恭太郎 猪野 嘉一 森 政雄
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
巻号頁・発行日
vol.2016, pp.77-77, 2016

<p>【はじめに】</p><p>脳卒中片麻痺患者(以下:CVA患者)において歩行の獲得は日常生活動作(以下:ADL)に大きく影響を及ぼす。歩行の獲得には杖や補装具といった歩行補助具の役割が重要となる。特に杖は麻痺側下肢に代わる体重の支持、歩行中のバランス保持などを目的に使用される。そして臨床上、杖の高さの違いによって歩容が変化することを経験する。いくつかの教本によると、杖の高さは大腿骨大転子部の高さとされているが、CVA患者の歩行において大転子の高さでは合わないことも経験する。そのため実際、杖の高さの設定はセラピストの視覚的評価に頼っており、力学的評価を簡易的に測定することは困難である。</p><p>そこでグリップの把持により上肢荷重量が測定可能なリハビリ支援ツールTree(リーフ株式会社製)、足圧インソールモニター(以下:Pit)(リーフ株式会社製)を使用し、グリップの高さの違いがCVA患者の歩行における非麻痺側上肢の荷重量(以下:上肢荷重量)、麻痺側下肢の立脚期荷重量(以下:立脚期荷重量)に与える影響について検討した。</p><p>【方法】</p><p>対象は脳卒中左片麻痺患者1名であり、Brunnstrom recovery stage上肢Ⅲ手指Ⅱ下肢Ⅲ、歩行はT杖、短下肢装具を装着し2動作前型で自立であった。その対象者に対し、Treeのグリップの高さを変更しつつTree使用下での歩行を3回実施した。グリップの高さは、対象者が日常的に使用している杖の高さである90cm、その高さから上下に5cmずつ変更した場合の3条件とした。Treeの設定はフリー走行モードとし、速度は10m歩行にて抽出した快適歩行速度0.35m/sとした。また、測定は85cm、90cm、95cmの順で実施した。そして各3条件においてグリップを把持する上肢荷重量(kg)、立脚期荷重量(%)をそれぞれ測定した。上肢荷重量は全歩行周期における平均値を算出し、立脚期荷重量は連続する3歩行周期における平均値を抽出した。立脚期荷重量はPitを使用し、立脚期は1歩行周期における麻痺側下肢の踵接地からつま先離地とした。Pitでの計測数値は対象者の全体重を100%とし算出した。</p><p>【結果】</p><p> グリップの高さ85cmの場合、上肢荷重量の平均値が1.87kg、立脚期荷重量が53.4±28.2%であった。90cmの場合、上肢荷重量の平均値が1.62kg、立脚期荷重量が50.1±26.5%であった。95cmの場合、上肢荷重量が1.34kg、立脚期荷重量が62.0±31.1%であった。</p><p>【考察】</p><p>グリップが高くなるにつれて上肢荷重量は減少する傾向がみられた。これはグリップが高くなるにつれて、上肢の下方への支持が難しくなったためと考える。</p><p>また立脚期荷重量においては、自身の杖の高さとは異なる場合に増加する傾向がみられた。85cmの場合は、90cmの場合と比較して左下肢前遊脚期に体幹・骨盤帯の右回旋が増加し、さらに体幹の前屈を生じるため股関節屈曲位での振り出しとなる。結果的に屈筋共同運動が誘発され、床から足底までの距離が大きくなる。そのため左立脚期における衝撃が大きくなり、立脚期荷重量が増加したと考える。95cmの場合は、85cm、90cmの場合と比較して左下肢前遊脚期に体幹の前屈・右回旋が減少し麻痺側への重心移動が容易となったため、麻痺側への重心移動が大きくなり立脚期荷重量が増加したのではないかと考える。以上のことから、杖の高さによって上肢荷重量、立脚期荷重量に変化を示し杖の高さが歩行時の重心移動に影響することが考えられる。しかし、Treeのグリップは杖と同機能ではない。そこで今後は症例数を増やし杖使用時、Tree使用時の比較を含めた検証を行っていく。</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>対象には本研究の内容を説明し同意を得た。また当院倫理審査委員会にて承認を得ている。(2016040402番)</p>