著者
大岡 恒雄 金澤 浩 島 俊也 白川 泰山
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.AdPF1015, 2011

【目的】<BR> 当院では2009年11月よりロボットスーツHAL福祉用(Hybrid Assistive Limb,以下 HAL)を導入し,これまでに延べ約60名の患者を対象に実施してきた.HALは,下肢に筋力低下や麻痺などの障害を持つ対象者に対して脚力や歩行を補助するツールとして現在約40の医療機関や施設等で使用されている.しかし,その方法や効果についての報告は少なく,疾患別の症例報告もほとんどみられない.今回,当院にてHALを使用した脳卒中片麻痺患者について筋電図学的分析を中心に検討したので報告する.<BR><BR>【方法】<BR> 症例は70代男性,身長168.0cm体重78.0kgであった.平成13年頃より数回脳梗塞を繰り返し,平成18年にさらに脳梗塞を発症し右片麻痺となった.以降,近医にてリハビリテーションを実施し,平成22年2月より当院にてHALを用いた歩行練習が開始となった.Brunnstrom stageは上肢VI,手指VI,下肢VIであり,歩行能力は四点支持歩行器を使用し自立レベル,階段昇降は不能であった.Demandは「立ち座りがスムースになれば」,「ユンボに乗りたい」であった.これまでのHALの実施回数は1ヶ月に1または2回の合計12回であった.当初はHAL装着下での膝関節及び股関節の屈伸練習,立ち上がり練習,歩行練習を実施した.HAL実施3回目より階段昇降練習を追加した. HALに対する感想は,介入時は「重たい」,「歩きにくい」が,HAL実施3回目より「脚があがるようになった」,「階段が昇れるようになった」とHALに対する肯定的なコメントが聞かれ,HAL実施10回目以降は「ユンボに乗れた」というコメントが聞かれた. <BR> HAL実施12回目において,HAL装着の有無が歩行に与える影響を調査する目的で表面筋電図(Tele MyoG2 EM-602,Noraxon)を使用した.導出筋は,両側の大腿直筋,内側広筋,半腱様筋,大殿筋,腓腹筋内側頭,前脛骨筋の12筋とし,筋電図解析ソフトウェア(Myoresearch XP, Noraxon)を用いて解析を行った.測定は,HAL装着前(以下,装着前),HAL装着時(以下,装着時),HAL装着後(以下,装着後)の歩行中の筋活動を測定した.解析に用いた歩行は10m歩行区間の中間時の安定した1歩行周期を解析し,得られたデータより各筋の平均振幅を算出し,合計3回の平均値を各筋の平均振幅とした.同時に歩行動作を三次元動作解析システム(ICpro-2DdA,ヒューテック株式会社)を使用し歩幅の解析を行った.毎回のHAL実施前後には,10m歩行テスト,各動作のVTR撮影を実施した. また,毎回のHAL実施前後にHALの使用感を聴取した.<BR> <BR>【説明と同意】<BR> 対象には事前に本研究の趣旨と測定内容に関する説明を十分に行い,紙面で同意を得た.また,医療法人エム・エム会マッターホルンリハビリテーション病院倫理委員会の承認を得て行った(MRH1002).<BR><BR>【結果】<BR> 各筋の平均振幅のうち,右側の内側広筋の立脚期は装着前は34.4±5.67μV,装着時は55.5±0.6μV,装着後は41.2±7.77μVであった.右側の内側広筋の遊脚期は装着前は14.7±6.43μV,装着時は19.8±2.48μV,装着後は19.4±0.99μVであった.左側の内側広筋の立脚期は装着前は20.4±2.23μV,装着時は46.4±3.55μV,装着後は28.1±2.75μVであった.左側の内側広筋の遊脚期は装着前は11.9±4.07μV,装着時は31.8±8.17μV,装着後は51.2±10.9μVであった.右側の大殿筋の立脚期は装着前は19.4±4.38μV,装着時は35.5±3.46μV,装着後は28.2±7.00μVであった.その他の筋については装着による変化を認めなかった.また,右側の歩幅は装着前が28.9cm,装着時は35.6cm,装着後は32.1cmであった.HAL介入前(以下,介入前)とHAL実施12回目(以下,介入後)の測定結果を比較した.10m歩行テストは,介入前は独歩にて21.5秒28歩であったが,介入後は16.1秒21歩と歩行時間の短縮がみられた.<BR><BR>【考察】<BR> 筋電図の結果から,HAL装着によって両側の立脚期及び遊脚期の内側広筋や右側の大殿筋の筋活動が増大していた.これは,麻痺側下肢の立脚期における支持性や遊脚期の際の振り出しをHALのアシスト機能によってもたらしたと考えられる. また,HAL装着による右下肢の振り出しの増大が右側の歩幅を増大させたと考えられる.10m歩行テストの結果からもHAL実施後,顕著な歩行能力の改善を認めた.発症後約9年が経過している本症例の歩行機能はプラトーに達していたと考えられた.しかし,HALの介入により,歩行能力や階段昇降能力に改善がみられたことから,心理面にも良い効果をもたらしHALの長期継続が可能となっていると考えられる.<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 本症例の結果から脳卒中片麻痺患者に対してHALの実施には効果が期待され,理学療法の新たな発展に寄与するものではないかと考えられる.今後は脳卒中片麻痺患者のさらなるデータの収集を行い,その効果や適応について検討していきたい.<BR><BR>
著者
高良 恒史 大西 憲明 堀部 紗世 橋詰 勉 金澤 治男 横山 照由
出版者
一般社団法人日本医療薬学会
雑誌
医療薬学 (ISSN:1346342X)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.77-82, 2003-02-10 (Released:2011-03-04)
参考文献数
12
被引用文献数
3 3

For the development of a practical training system to effectively teach sterilization techniques, we conducted on unregistered questionnaire survey of the undergraduate student's view about the training practice for glass ample cutting, and then evaluated and discussed the introduction to practical training of pharmaceutical health care and sciences for the third-grade undergraduate students. Among 96 third-grade undergraduate students, 54 students (56%) had some experience in cutting glass amples while the remaining students did not. Twenty-six of the 54 students with some experience (48%) had some anxiety regarding glass ample cutting, while only 13 of the 42 inexperienced students (31 %) had such anxiety. Twelve of the 13 inexperienced students overcame some anxiety against glass ample cutting. Moreover, 87 of 96 students (91%) considered that receiving practice in glass ample cutting was necessary for them. Consequently, the training programs on glass ample cutting were found to be appropriate and useful for students to develop sufficient practical skills and accurate ability in sterilization techniques. As a result, we are now preparing to introduce a training program for glass ample cutting in addition to the regular practical training of pharmaceutical health care and sciences at Kyoto Pharmaceutical University.
著者
高良 恒史 大西 憲明 橋詰 勉 金澤 治男 横山 照由
出版者
一般社団法人日本医療薬学会
雑誌
医療薬学 (ISSN:1346342X)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.57-62, 2002-02-10 (Released:2011-03-04)
参考文献数
8
被引用文献数
5 5

In 1996, the Department of Clinical Pharmacy at the Education and Research Center of Kyoto Pharmaceutical University was established to enrich the education program of pharmaceutical health care and sciences, and to also be used as a pre-training program for undergraduates before taking part in externships at hospitals or pharmacies. In the following year, the training center of clinical pharmacy (a simulated pharmacy) was also founded, and has since been used for the practical training of pharmaceutical health care and sciences for third-year undergraduate students. We herein describe our findings of an unregistered questionnaire survey of the undergraduate students' view, while also evaluating and discussing the effectiveness of this training program.Almost all students considered undergoing the practical training to be useful and necessary for them, because their scores before and after the training were 4.24 and 4.56 points on a scale of 5 point maximum, respectively. The students also evaluated each part of the training program, with mean values before and after the practice 3.75-4.01 and 3.70-4.39, respectively. The students did voice various opinions regarding the practical training program. Consequently, the students are satisfied with the practical training programs at present, however, we will have to continually improve such programs to better meet the students needs.
著者
金澤 元紀
出版者
一般社団法人 経営情報学会
雑誌
経営情報学会 全国研究発表大会要旨集
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.79-79, 2008

内定者SNSは近年、内定者のフォローアップツールとして急速に利用されてきているWEBベースのツールである。内定者SNSは、従来型のWEBベースのフォローアップツールとは異なり、参加者によるつながりが存在している。また、他の社内SNSと違った特徴を持っている。内定者SNSを利用する目的として、内定辞退やエンゲージメントなど様々な目的が含まれているが、本研究では導入担当者及び利用者に調査を行い、その背景やフォローアップ効果について検証した。
著者
薮谷 智規 金澤 隆志 福田 晃規 本仲 純子
出版者
日本海水学会
雑誌
日本海水学会誌 (ISSN:03694550)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.36-42, 2004-02-01

食塩中の微量元素を迅速かつ多元素同時定量する方法の開発を目的として, 分離濃縮法に塩中マグネシウムを担体とする共沈を用い, 測定法にプラズマ分光法を使用する分析法について実験検討を行った.塩試料を純水約500mlに溶解し, 0.45μmのメンブランフィルターでろ過して不溶成分を除去後, 0.1mol1<SUP>-1</SUP>HNO3溶液とした.本溶液を遠心分離管に秤取後, 沈殿剤として3mol1<SUP>-1</SUP>NaOHを添加し, 沈殿生成後4時間以上放置した.さらに, 2500rpm, 10分間遠心分離を行った後にデカンテーションを含む操作を3回実施し, 沈殿の洗浄を行った.沈殿を濃硝酸で溶解し, 内標準元素を含む溶液を添加した後, 最終溶液量を2mol1<SUP>-1</SUP>HNO<SUB>3</SUB>10mlとなるように純水を加えた試料を測定溶液とした.その溶液を誘導結合プラズマ質量分析法 (ICP-MS) で測定を行った.<BR>Mg共沈時の回収率はAl, Fe, Mn, Co, Ni, Cu, Zn, Cd, REEsについていずれも90%以上であり, その相対標準偏差 (RSD) は3%以内の結果が得られた.また, 塩試料の主要な構成元素であるNa, K, Ca, Srの除去率はほぼ100%であった.本実験における空試験値は測定対象元素において検出限界以下あるいはその付近の濃度であり, 本方法における実験時のコンタミネーションの低さが確認された.実際試料として, 伯方の塩 (伯方塩業製) の分析を行ったところ, μgkg<SUP>-1</SUP>の濃度域であるAl, Fe, Mn, Co, Ni, Cu, Zn, Pbの定量が可能であった.
著者
宗像 昭子 鈴木 利昭 新井 浩之 横井 真由美 深澤 篤 逢坂 公一 松崎 竜児 三浦 明 渡辺 香 森薗 靖子 権 京子 金澤 久美子 宮内 郁枝 鈴木 恵子 久保 和雄 尾澤 勝良 前田 弘美 小篠 榮
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 = Journal of Japanese Society for Dialysis Therapy (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.34, no.13, pp.1525-1533, 2001-12-01
参考文献数
14
被引用文献数
1

今回我々は, 当院で維持血液透析を施行している安定した慢性腎不全患者59名を対象患者として, ベッドサイドにて簡便に使用できるアイスタット・コーポレーション社製ポータブル血液分析器i-STATを用いて, 透析前後で全血イオン化Ca (i-Ca) 濃度を測定し, 血清T-Ca濃度との関係について検討し, 以下の結果を得た.<br>1) 透析前後における血清T-Ca濃度, 全血i-Ca濃度は, それぞれ9.43±0.90→10.54±0.70mg/d<i>l</i> (p<0.05), 1.26±0.10→1.30±0.07mmol/<i>l</i> (p<0.0001) と, いづれも有意な増加を示した. 2) Caイオン化率は, 53.43±0.03→49.55±0.04% (p<0.001) へと透析後有意に低下した. この原因として, 血液pHの変化の影響が考えられ, 血液pHとCaイオン化率との間には明らかな負の関係が認められた. 3) 透析前後における, 血清T-Ca濃度と全血i-Ca濃度の関係について検討したところ, 透析前ではy=7.507x+0.015 (r=0.839; p<0.001) と強い正の相関が認められたが, 透析後においては, 全く相関が認められなかった. この点について, pHならびにAlbを含めた重回帰分析法を用いて検討したところ, T-Ca=3.369×i-Ca+5.117×pH-32.070 (r=0.436, p=0.0052) と良好な結果が得られた. 4) 透析前後の全血i-Ca濃度の測定結果から, 容易に血清T-Ca濃度を換算できるノモグラムならびに換算表を作成した.<br>以上の結果より, ポータブル血液分析器i-STATを用いた, ベッドサイド ("point-of-care") での全血i-Ca濃度の測定とノモグラムの利用は, 透析室においてみられるCa代謝異常に対して, 非常に有用であると考えられる.
著者
金澤 麻由子 Mayuko KANAZAWA
出版者
神戸芸術工科大学
雑誌
芸術工学2017
巻号頁・発行日
2017-11-25

本作「きみとぼくのあいだのコト」は、2015年5月に出版した絵本『ポワン』の主人公の黒パグ「ポワン」と白パグ「フォーン」の眠る姿が描かれた絵画作品であり、鑑賞者のふるまいに相互作用するインタラクティブな作品である。 鑑賞者が近づくとその気配を感じ取った絵画上の主人公(犬)たちの反応を様々な映像アニメーションで表現することで、あたかも絵画と鑑賞者の想像力とが対話を生成していく「動く絵画」としてのアートディスプレイであり、絵本の世界観を映像インスタレーション作品として制作したものである。リアルタイムでの相互作用を可能にするセンサーとして、BLASTERX SENZ3D(3D深度&音声認識対応の3Dカメラ)を用い、表情と音声認識技術を用いた。センサーカメラを使用することで、よりリアルタイムでの絵画とのコミュニケーションと、鑑賞者と作品との関係性が近づき、目標としている「癒し」や「安らぎ」の感情を生む作品を目標にした。 本稿では2017年9月に銀座ステップスギャラリーでの個展開催にて新作発表する本作の「戌-pug-」展での本作の制作意図とともに制作方法などについて考察する。 "Affair between you and me" is in art display based on "Un Point" picture book that was published in July 2015. Its main message is "yourself as you are". "Un Point" - a picture book consisting of series of paintings, a story of two sleeping dogs – black and white pugs was adapted as a interactive video installation. When the viewer approaches the installation, dogs notice the presence and react in various ways. The installation main concept is: a painting that communicates with its audience. The concept of the book is used as a basis for the animation. To achieve the real time interaction, a sensor camera "BLASTERX SENZ3D" was used. Both video and sound is used to create communication with the viewer. The goal of the installation is to create a feeling of relief and healing through communication with the painting. The installation was exhibited with commentary and design explanation as part of "IMU-Pug" exhibition in Ginza Steps Gallery in September 2017.
著者
藤田 恒夫 桑原 厚和 金澤 寛明 岩永 敏彦
出版者
新潟大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1992

1.腸の分泌に関係する細胞要素としては、消化管に広範囲に分布するEC細胞とVIP含有神経が最も重要である。二重染色の結果は、EC細胞とVIP神経が密接な位置関係にあることを示した。2.イヌの十二指腸を用いたin vivoの生理実験で、セロトニンとVIPは単独投与により、腸の分泌が亢進した。同時投与により、分泌は飛躍的に増大した。セロトニン投与により門脈中のVIP濃度が上昇することと考え併せると、下痢はEC細胞から分泌されたセロトニンが近傍のVIP神経に局所ホルモンとして作用しVIPの放出を招く結果、セロトニンとVIPの相乗効果により腸分泌が強く刺激された状態と理解される。3.PACAP(Pituitary Adenylate Cyclase-Activating Polypeptide)が腸上皮のイオン輸送を強く刺激することがわかった。PACAPによる塩素イオンの分泌亢進は、コリン作動性および非コリン作動性神経の刺激を介した間接作用である。PACAPにはVIP放出作用があることから、この分泌反応の最終信号物質はVIPであると思われる。4.セロトニンによる腸分泌に関する受容体のタイプを特異的な拮抗薬を用いて検討し、5-HT3と5-HT4であることを示した。5.黄色ブドウ球菌が産生する毒素であるStaphylococcal enterotoxin(SEA)は、激しい嘔吐を起こすことが知られている。本研究ではSEAの腸管内投与が下痢を起こすことを示し、この分泌反応にはEC細胞が関与する可能性を示した。
著者
前田 憲吾 清水 芳樹 杉原 芳子 金澤 直美 飯塚 高浩
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.98-101, 2019 (Released:2019-02-23)
参考文献数
9
被引用文献数
2 1

症例は48歳女性.43歳時に下肢硬直感が出現したが3か月で自然軽快した.両下肢の筋硬直が再発し,ミオクローヌスが出現し入院.意識清明,言語・脳神経は異常なし.両足趾は背屈位で,足関節は自他動で動かないほど硬直していた.神経伝導検査は異常なく,針筋電図では前脛骨筋に持続性筋収縮を認めた.血液・髄液一般検査は正常で,抗GAD65抗体・抗VGKC複合体抗体は陰性.脊髄MRIにも異常なく,症候学的にstiff-limb症候群(SLS)と考え,ステロイドパルス療法を実施し筋強直は改善した.その後,血液・髄液の抗glycine受容体抗体が陽性と判明した.プレドニゾロン内服後,再発はない.
著者
de Guerin Maurice 金澤 哲夫
出版者
慶應義塾大学日吉紀要刊行委員会
雑誌
慶応義塾大学日吉紀要 フランス語フランス文学 (ISSN:09117199)
巻号頁・発行日
no.43, pp.78-65, 2006

モーリス・ド・ゲランGeorges-Pierre-Maurice de Guérin は一八一〇年八月四日タルヌ県アンディヤックの近く、ル・ケイラ(ル・カイラとも)Le Cayla の館に生まれ、同地で一八三九年七月一九日に死んでいる。二九年に満たない人生において残した作品は数少く(自ら焚書も行っている)、特に二篇の散文詩『ル・サントール』Le Centaureと『ラ・バカント』La Bacchante の作者として知られているが、他に著作として、『グロキュス』Glaucus を始めとする韻文詩、『緑のノート』Le Cahier vert(一八三二年から一八三五年にかけての日記)、『書簡』(家族や友人たち、特に姉ウージェニー宛の、そしてバルベー・ドールヴィイ宛の手紙)、そしてここに訳出を試みた『マリーの死についての瞑想』Méditation sur la mort de Marie がある。 この作品が捧げられているイポリット・ド・ラ・モルヴォネーHippolyte de la Morvonnais はマリーの夫で、モーリスが彼と知り合ったのは、ブルターニュ地方のラ・シェネーにおいてであった。﹁サン・ピエールの修道会﹂を主宰していたラムネーLamennais の許をモーリスが訪れたのは一八三二年一二月、そこでイポリットに出会ったのが翌年四月。その後アルグノンの谷にあるモルヴォネー宅を、八月、一一月(一週間)、一二月から一八三四年一月にかけて(四五日間)、と三回訪ねている。妻のマリーとも親しくなり、彼女に一篇の詩『アルグノンの周縁』Lesbords de L'Arguenon(一八三三年一一月一五日作)を捧げている。この間の一八三三年九月にラムネーは修道会を解散。一八三四年一月モーリスはモルヴォネー家を辞し(別れの場面と抑制された悲しみが『緑のノート』に一月二四日付で書き留められている)、パリに赴く。そこで一八三五年一月二六日、ある友人からの手紙によって、四日前の一月二二日にマリーが死んだことを知る。二月一杯、『緑のノート』にこの死について凝らした心の内の思いを繰返し綴っている(二月二日、九日、一二日、二七日)。そしてモーリスは『マリーの死についての瞑想』を書き、イポリット宛三月二一日付の手紙に同封した。彼はこの手紙を次のように書き始めている。 ﹁私はあなたに、友よ、私の思考の生のように脈絡を欠き、混乱して、表題のない数ページを送ります。大きな苦悩のように何か単純で静かなものを作りたかったのですが、私は自分を制御できずに、不吉な混乱に気が動転し、頭はある考えの激しさに酔い、色々とわけのわからない想像の中を駆け巡っています。私の知性の構成に深い欠陥を認めずにはいられないのは、特にこのような試練においてなのです。落ち着いた考えは知性の力を示します。ところがここでは、そして更に私がするすべてのことにおいては、これは、狂人の言葉のように、一貫性のない、痙攣して、いつでも突然中断する一つの創作以外の何でしょう。﹂ この手紙は『マリーの死についての瞑想』を著者自身がどのようにとらえていたかを明快に言い表していて興味深いが、それとともにこの作品には彼自身題をつけなかったことを語っている。そのため、これは一九一〇年にアナトル・ル・ブラーズAnatole le Braz によって『表題のないページ』Pages sans titre という題のもとに公表されたが、一九三〇年のアンリ・クルアールHenri Clouard 版で『マリーの死についての瞑想』と題され、以後、ベルナール・ダルクール編の全集(一九四七年)を含めて、後者を表題とすることが多かった。最近ではマルク・フュマロリ編の詩集を始めとして、前者の表題を用いる傾向にある。ここに訳出するに当って、表題は『マリーの死についての瞑想』とした。これはゲラン自身が与えた題ではないが、他方﹁表題のない数ページ﹂は手紙の中の一語句であり、これもまた著者が題として考えたものではない。ここでは、内容を卒直にわかりやすく伝えていると思われる方を選んだ。 アルベール・ベガンが『ロマン的魂と夢』の中で(Albert Béguin, L'Âme romantique et le rêve)、『マリーの死についての瞑想』をゲランの傑作としていることは知られている。一方、ゲランの全集を編纂したベルナール・ダルクールはこれを失敗作とみなし、翻訳できない詩を、詩人でもある翻訳者が翻訳しようとした一つの試みであると考えている。先に引用したゲランの手紙にある通り、著者自身これを完成した作品とはみなしていない。それどころか、自分の構成力の欠如を告白している。思いを寄せた女性の死という辛い経験が引き起した心の乱れも影響しているだろうが、錯綜する思い、抽象化へと赴く思考の歩みを手探りするかのようにして積み重ねる言葉やイメージが文章を時に不明瞭にしている。 翻訳に当ってできる限りテクストのシンタックスを尊重するべく努めたがなかなか首尾よくいかず、またそのために訳文が時として回りくどく、生硬になった。訳者の力不足にもよるが、もともと翻訳不能なものをフランス語で詩として書いたと言われ得るようなテクストを、更に日本語に翻訳しようとした困難さにもよる。 『マリーの死についての瞑想』の第一行からモーリスは、かつてイポリットとともに辿ったブルターニュの森の小径へと読者を導く。それは自然の小径であり、記憶の小径であり、夢想の小径であり、魂の小径であって、自然のそして心の風景の記述が追憶への巡礼に、抽象的な思考に、精神世界に通じる。テクストの歩みとともに言葉がイメージが絡み合い、いつしか言い難いものの回りを巡る―表現できない何かに到達しようとする試みのようである。語るのが本質的に難しいことがある。死をめぐって、不在をめぐって、生の根源をめぐって、魂の在り処をめぐって、言葉がもつれ暗中模索し、文章は錯綜し、不明の域をさ迷い始める。だがそこにこそこのテクストの陰翳や深みがあり、そして密かな香気が漂っているようにも思う。訳文の拙さが原文の姿を損なっていないことを願うのだが⋮⋮ 翻訳はマルク・フュマロリ版(Maurice de Guérin, Poésie, édition présentée, établie et annotée par Marc Fumaroli,Gallimard, «Poésie», 1984)に拠ったが、ベルナール・ダルクール編の全集(OEuvres complètes de Maurice deGuérin, texte étabi et présenté par Bernard d'Harcourt, Les Belles Lettres, 1947, 2 vol.)を適宜参照した。
著者
笹谷 孝英 野津 祐三 小金澤 碩城
出版者
日本植物病理学会
雑誌
日本植物病理學會報 (ISSN:00319473)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.24-33, 1998-02-25
参考文献数
38
被引用文献数
3

日本の異なる地域および植物から分離したインゲンマメ黄斑モザイクウイルス(BYMV)28分離株について, 判別植物の反応と血清反応を比較した。BYMVはインゲン15品種の反応で4つのPathotypeに分けることができた。Pathotype Iはインゲン品種の本金時のみに全身感染を示し, 他の品種には局部感染であった。Pathotype IIは本金時, ケンタッキーワンダーおよび他4品種に全身感染を示し, Pathotype IIIは本金時, ケンタッキーワンダー, マスターピースおよび他4品種に全身感染を示し, Pathotype IVは今回用いた15品種すべてに全身感染を示した。Pathotype II に属するBYMVはソラマメにおいて他のPathotypeに属すものより高い種子伝染性を示した。BYMVあるいはクローバ葉脈黄化ウイルス(ClYVV)に対する16種のモノクローナル抗体(MAb)を用いたTAS-ELISAで, BYMV28分離株には血清学的差異が観察され, 病原性とある程度一致したが, ポリクローナル抗体を用いたDAS-ELISAでは, 分離株間での顕著な差異は観察されなかった。MAb-1F3はPathotype I, II, IIIとClYVVの1株と反応した。MAb-2C4はPathotype IIのみと反応し, MAb-5F2は今回用いたBYMVとClYVVすべての株と反応した。MAb-2B4, -2C5, -3F9, -3F11, -4G8および-4H9はPathotype IIとIIIのすべてと, Pathotype IとIVの一部の株と反応した。MAb-1A2と-2H8はPathotype IIIとClYVV2分離株と強く反応した。以上より, 日本のBYMVは病原性および血清学的に変異に富んでおり, 4つのPathotypeに分かれることが明らかとなった。
著者
山田 泰士 志垣 竹弥 金澤 親良 安野 嘉郎 浪本 正晴
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.97, 2009

【はじめに】<BR> 左片麻痺により起居動作や歩行の円滑性が妨げてられている症例に対して、その原因の一つとなっている肩関節亜脱臼(以下肩亜脱臼)と上肢屈筋痙性を軽減する目的で、上肢装具を試作し一定の効果を得ることができたので報告する。<BR>【対象】<BR> 視床出血により左片麻痺を呈した45歳男性。理学療法所見では、左上肢Brunnstrom Stage2~3で左肩亜脱臼が認められた。また動作時に左上下肢の痙性を認め、左上肢は屈曲肢位を呈し、生活動作全般で非対称姿勢が生じていた。深部腱反射は左上腕二頭筋と左上腕三頭筋においてやや亢進状態であった。<BR>【上肢装具】<BR> ネオプレーン生地3mmを使用し肩全体を包み込み、烏口突起から後方に固定用補強ベルト付けた。前腕部からのベルトを前腕外側から上腕内側に螺旋状に走らせ、腕全体を引き上げて肩関節後方で止めた。<BR>【方法】<BR> 1肩亜脱臼:単純X線撮影による骨頭下降率を計測した。2動作分析:起居動作と杖歩行の動作分析を行った。また歩行は、10m歩行の速度、歩幅、歩数を計測した。(1,2共に装具非装着時、装着時計測)<BR>【結果】<BR> 1肩亜脱臼:骨頭降下率は非装着時で20%、装着時で6%と亜脱臼の改善を認めた。<BR> 2動作分析:1)起居動作、非装着時:左肩甲帯は後退し、左肘関節と手指は連合反応により屈曲を呈している。装着時:左肘関節は連合反応により軽度屈曲位であったが、左肩甲帯は中間位となり、手指は若干伸展位を認めた。2)杖歩行、非装着時:左肩甲帯は前傾し、左肘関節と手指は連合反応により屈曲を呈している。体幹は右偏側位で非対称的であり、左下肢への荷重が不十分である。10m歩行:速度平均62秒、歩幅平均40cm、歩数平均55歩。装着時:左肘関節と手指は若干屈曲を呈しているが装着前と比較し手指は伸展位を認めた。左肩甲帯は中間位となり、体幹はほぼ正中位で保持され対称的となった。そのため左側への重心移動が可能となった。10m歩行:速度平均59秒、歩幅平均42cm、歩数平均52歩。<BR>【考察】<BR> 本装具では、前腕部からベルトを螺旋状に走らせ、上肢を外旋・伸展位に保持し上肢全体を引き上げることを可能にした。このことにより関節窩での上腕骨頭の位置の改善や左上肢下垂位により生じる上腕二頭筋の伸張反射亢進、連合反応による左上肢屈筋痙性の高まりを軽減できたと考える。また左肩甲帯を中間位に矯正したことも過剰な連合反応の抑制にも繋がった。これらにより、姿勢が対称的となり起居動作や歩行時の動作改善に繋がったと推察された。そして、本装具を常時装着することは、疼痛軽減や関節拘縮の予防を促し、また麻痺側上肢の痙性を抑制し、麻痺側上肢自体の使用頻度増加による機能回復が促される可能性があるために、今後一人で本装具を着脱できるよう改良する予定である。
著者
金澤 裕之
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.133-140, 2015-04-01 (Released:2017-07-28)

近代語研究の進展に貢献し得る比較的新しい資料に、いわゆるSP(平円盤)レコードを音源とする各種の録音資料がある。しかしこの資料に関しては、言語(特に、話しことば)の研究にとって重要な要素である「音声」を有しているという事実があるにも拘わらず、その活用という点では、必ずしも十分な成果がもたらされていないというのが、客観的に見た現在の状況である。そこで本稿では、録音資料に関するこれまでの経過、並びに、最新のニュースや試みの実態を詳しく伝えるとともに、録音資料のこれからの可能性について言及する。
著者
谷 冴香 三木田 直哉 古川 福実 金澤 伸雄
出版者
公益社団法人 日本皮膚科学会
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.125, no.1, pp.97-100, 2015-01-20 (Released:2015-01-20)
参考文献数
11

抗精神病薬や抗菌薬にて薬疹の既往がある57歳女性.市販の鼻炎薬Aを内服した翌日より全身に発熱を伴う発疹が出現した.抗ヒスタミン薬内服とステロイド外用開始後も症状は増悪し,顔面腫脹も出現した.尿と画像所見から尿路感染が疑われ,抗菌薬とステロイドの全身投与により皮疹,尿路所見ともに軽快した.薬剤リンパ球刺激試験とパッチテストにて鼻炎薬Aとその成分のベラドンナ総アルカロイドが陽性を示した.ベラドンナ総アルカロイドは各種市販薬に含まれるが,同様の報告はこれまでになく,注意が必要である.

1 0 0 0 OA XV 放射線治療

著者
武本 充広 片山 敬久 勝井 邦彰 金澤 右
出版者
岡山医学会
雑誌
岡山医学会雑誌 (ISSN:00301558)
巻号頁・発行日
vol.120, no.3, pp.313-320, 2008-12-01 (Released:2009-01-05)
参考文献数
14