著者
鈴木 彩加 スズキ アヤカ Suzuki Ayaka
出版者
大阪大学大学院人間科学研究科 社会学・人間学・人類学研究室
雑誌
年報人間科学 (ISSN:02865149)
巻号頁・発行日
vol.34, pp.23-38, 2013-03-31

現代の日本社会において、草の根レベルの保守運動が活発化している。1990 年代後半には「新しい歴史教科書をつくる会」によって歴史修正主義に基づく中学校歴史・公民教科書の制作と採択運動が行われた。2000 年代前半になると、保守系諸団体によって男女共同参画反対運動が行われ、行政に大きな影響を与えた。これらの草の根保守運動は、市民運動とも類似性をもつ草の根レベルの新しい保守運動として注目されている。その契機となったのが小熊英二・上野陽子(2003)による「つくる会」の実証研究である。しかし、草の根保守運動を対象にした実証研究はその後行われておらず、とくに社会的影響力の大きかった男女共同参画反対運動に関しては保守系団体がどのように人びとの支持を集めているかが明らかにされていない。そこで本稿では、全国的にみても男女共同参画反対運動が活発だった愛媛県の市民団体A 会を事例とし、保守系団体が男女共同参画を問題化し人びとの支持を集めることができた要因を提示した。分析と考察の結果、愛媛県の男女共同参画反対運動では「つくる会」歴史教科書運動では見られなかった保守系諸団体間のつながりが草の根レベルでも存在していること、そして“ 家族” に争点化することで女性会員の生活意識に訴えかけていることが明らかとなった。
著者
鈴木 和明 齋藤 豪 張 英夏 近藤 邦雄 中嶋 正之
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. D, 情報・システム (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.91, no.12, pp.2961-2972, 2008-12-01

ドット絵とは,1990年代前半までの据置き型ゲーム機や現在でも携帯型ゲーム機などで用いられる低解像度の画像の表現手法であり,その表現手法を用いて制作された画像でもある.ゲーム制作などでドット絵が大量に必要になる場合,アーティストが1枚1枚描かなければならず制作に手間がかかるため,本研究では計算機によってドット絵風のキャラクタ画像を生成する手法を提案する.ドット絵風の画像を生成するために,写真から輪郭線を抽出して,その輪郭線をもつ画像を縮小する.はじめに,抽出される輪郭線がドット絵において頻繁に用いられる形状になるように,Canny edge detectorに対してドット絵作成に特化した変更を行い,そのCanny edge detectorを用いて輪郭線画像を生成する.次に,そのような輪郭線をもつ画像を縮小するが,既存の縮小手法では,画像がぼやけたり,画像の輪郭線が途切れたり,画像の線と線が隣接し潰れてしまう問題があった.これらの問題を解決するために,輪郭線を保護しつつ縮小するアルゴリズムを提案する.これらのアルゴリズムを用いて,ドット絵風のキャラクタ画像を生成した.
著者
上原 万里子 石島 智子 松本 一朗 岡田 晋司 荒井 綜一 阿部 啓子 勝間田 真一 松崎 広志 鈴木 和春
出版者
日本海水学会
雑誌
日本海水学会誌 (ISSN:03694550)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.202-210, 2010-08-01 (Released:2011-08-10)
参考文献数
32

Magnesium (Mg) is essential for a diverse range of physiological functions, as it is involved in a variety of the body's biochemical processes. Mg deficiency, either from inadequate intake or from excess excretion, is often suspected to be associated with the development of many symptoms and diseases. The nutritional and physiological importance of Mg has already been well established. Mg was finally confirmed to be the most effective element for preventing several diseases, such as cardiovascular disease and metabolic disorders including obesity, diabetes and hypertension. Recently, many studies and meta-analyses have proved the above findings. Furthermore, a number of studies have reported the effects of Mg deficiency on carbohydrate, lipid, protein, vitamin and mineral metabolism. In this review, we discuss the effects of dietary-Mg deficiency on proteins, lipids, ascorbic acid and mineral metabolism, including kidney calcification and bone loss, in rodents. Furthermore, we performed transcriptome analysis to comprehensively understand the effects of dietary-Mg deficiency in rat livers and femora by using DNA microarray.
著者
原 尚志 熊谷 りさ 佐々木 絢奈 法井 美空 鈴木 太朗
出版者
日本物理教育学会
雑誌
物理教育 (ISSN:03856992)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.6-11, 2018-03-09 (Released:2018-04-03)
参考文献数
10

福島第一原子力発電所事故による放射能汚染は,既に予想よりも大分小さいことが明らかになっているが,事故から6年半経過した現在でも十分に知られてはいない。福島高校スーパーサイエンス部は,2014年に福島県内外で高校生個人線量調査を実施し,福島県内高校生の個人線量は自然放射線量とほぼ同等であることを報告した。今回は2016年の調査結果と,外れ値の分析について報告する。
著者
松浦 友紀子 伊吾田 宏正 宇野 裕之 赤坂 猛 鈴木 正嗣 東谷 宗光 ヒーリー ノーマン
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.61-69, 2016 (Released:2016-07-01)
参考文献数
19
被引用文献数
2

野生動物管理のための個体数調整捕獲が各地で行われているが,十分な成果を上げている例は少ない.その要因の一つとして,野生動物管理者や捕獲の担い手の育成不足があげられる.そこで,野生動物管理の担い手像を考えるシンポジウムを2015年2月14日に札幌で開催したので,その内容を報告する.シンポジウムでは,イングランド森林委員会で国有林のシカ類管理を統括しているノーマン・ヒーリー(Norman Healy)氏が,英国の野生動物管理者の教育システム,シカ猟認証制度(Deer Stalking Certificate)の概要及びシカ類を資源利用して得た収入を森林管理に還元する仕組み等について基調講演を行った.北海道の取組みについては,人材育成の必要性は認識されていたものの,狩猟者の育成にとどまり十分には為されてこなかった実情について報告した.また,現状ではニホンジカ(Cervus nippon)の個体群管理の目標達成が困難であること,その要因として実行体制と人的資源の欠如があることを指摘した.さらに,今後のニホンジカ管理においては,趣味の狩猟者である「ハンター」と,個体数調整捕獲に職業として従事する「カラー」を明確に区分し,カラーを捕獲プログラムの中で活用する体制を作る必要性を指摘した.これらを踏まえて,具体的な人材育成の取り組みとして,2015年度から開始が予定される新しいシカ捕獲認証について話題提供をした.この認証制度は,イングランドのDeer Stalking Certificateをモデルとしながら日本向けに改善したものである.以上から,捕獲をコーディネートできる人材やカラーなど,日本の野生動物管理を担う人材育成の仕組みを提案した.
著者
平田 美紀 流郷 千幸 鈴木 美佐 古株 ひろみ 松倉 とよみ ヒラタ ミキ リュウゴ チユキ スズキ ミサ コカブ ヒロミ マツクラ トヨミ Hirata Miki Ryugo Chiyuki Suzuki Misa Kokabu Hiromi Matsukura Toyomi
雑誌
聖泉看護学研究 = Seisen journal of nursing studies
巻号頁・発行日
vol.2, pp.51-57, 2013-04

背景 子どもの権利条約において親からの分離の禁止"が謳われているが,子どもの採血場面では親が付き添う施設は少ない現状である.採血場面に親が付き添い親の助けを受けた子どもは,安心を得ることができ,親の支援を受けながら自分なりの方法で採血に立ち向かうことができる.しかし,これらはほとんどが幼児後期の子どもが対象であり,親の存在の意義が大きい幼児前期の子どもを対象とした研究は少ない.目的 幼児前期の子どもの採血場面に,母親が付き添った場合の子どもの対処行動を明らかにすることを目的とする.方法 幼児前期の子どもに,母親が付き添った場合の行動をビデオ撮影し,採血終了後,母親へ半構成的面接を行った.結果 採血前は【緊張を高める】,【周囲を確認する】,【抵抗する】,【誘導に従う】,【安心を求める】,【覚悟する】の6カテゴリーと10サブカテゴリー,採血中は【緊張の持続】,【苦痛を表現する】,【誘導に従う】,【終了を予測する】,【安心を求める】,【進行を確認する】の6カテゴリーと11サブカテゴリー,採血後は【終了を確認する】,【緊張がとける】,【満足感を得る】の3カテゴリーと7サブカテゴリーが抽出された.結論 母親が付き添った場合の幼児前期の子どもの対処行動は,採血の経過をイメージすることができないため,母親が主体的に身体的接触を持ち,具体的な対処行動を示すことで見通しを得ることができる.また母親からの賞賛は,子どもの採血に対する緊張感を早期に解くことができる.
著者
橋本 竜作 柏木 充 鈴木 周平
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.368-376, 2006 (Released:2008-01-04)
参考文献数
18
被引用文献数
4 4

書字の習得障害を呈した学習障害児を検討した。症例は 7 歳 11 ヵ月,右利き男児。診断は ADHD と DCD。知能,口頭言語および読みの発達は正常,漢字と仮名に共通した書字の獲得に必要な能力 (視覚認知,運筆能力,構成能力) も正常であった。書字における誤反応の特徴は,漢字が不完全な形態,仮名が無反応であった。漢字に関して視覚性記憶を,仮名に関して運動覚心像を検討した。結果,漢字学習における失敗には記銘時の方略の欠如が,仮名学習における失敗には運動覚性心像あるいは音韻と運動覚心像との連合の形成不全が関与することが示唆された。それゆえ,われわれは本例の書字の習得障害には漢字と仮名で異なる障害機序が存在すると推察した。
著者
鈴木 誉保
出版者
一般社団法人 日本生物物理学会
雑誌
生物物理 (ISSN:05824052)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.031-035, 2021 (Released:2021-01-29)
参考文献数
10
著者
伊東 孝 鈴木 伸治 武部 健一 津田 剛 原口 征人 藤井 三樹夫 鈴木 盛明 小野田 滋 為国 孝敏
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

近年、「ハードな土木」に対し、土木政策や事業決定のプロセスなど「ソフトな土木」を解明することも土木史の重要な課題と考えられるようになった。本研究は、日本の高度経済成長の牽引役を果たしてきた高速道路に焦点をあて、欧米で普及しているオーラルヒストリーの手法を用いて、1)関係者がご存命のうちに、話を聞き、整理し、資料として後世に残すこと、2)あわせて土木史研究に適用できる方法論を確立することを目的としている。本研究成果の概要は、次の通りである。本研究は、土木学会土木史研究委員会オーラル・ヒストリー研究小委員会がおこなった。1)インタヴューの実施及び証言記録の作成と保管本研究では、4箇年の研究期間をとおして、戦後の道路行政の黎明期を代表する3人の技術官僚にインタヴューを実施し、証言記録の作成と保管をおこなった。(1)平成14〜15年度は、高橋国一郎氏(元建設省事務次官・元日本道路公団総裁):通算7回(2)平成15〜16年度は、井上孝氏(元建設省事務次官・元参議院議員・元国土庁長官):通算6回*井上氏は平成16年5月以降、体調をくずされ、11月に逝去された。今回のオーラルヒストリー・インタヴューが氏の最後のお仕事になった。(3)平成16〜17年度は、山根孟氏(元建設省道路局長・元本州四国連絡橋公団総裁):通算10回2)土木史研究におけるオーラルヒストリー手法の構築3人のインタヴュー対象者へのインタヴューをとおして、オーラルヒストリーの方法論構築に向けての内容蓄積と検討をおこなった。そして最終年度に、5冊の報告書(「実践編」3冊と「理論編」2冊)を作成した。それぞれのインタヴューは、「実践編」として3冊の速記録にまとめた。また蓄積したオーラルヒストリーの方法論を「総括編」とし、ワン・デイ・セミナー(16年度開催)の速記録とともに、2冊の「理論編」としてまとめた。
著者
鈴木 信孝
出版者
日本補完代替医療学会
雑誌
日本補完代替医療学会誌 (ISSN:13487922)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.141-151, 2018-09-30 (Released:2018-10-12)
参考文献数
20

妊娠中のハトムギ使用について解説した.市販のハトムギ茶を妊娠中に摂取して流産や早産になるという証拠はなく,産後に市販のハトムギ茶摂取を禁ずる科学的根拠もない.したがって,妊婦が常識の範囲内でハトムギ茶を飲用もしくはハトムギ調理品を食することは,問題ないと考えた.ただし,ハトムギ摂取に過敏になっている妊婦は,無理にハトムギ飲食を行う必要はない.また,妊娠中のハトムギ摂取に関しては医師に相談することが肝要である.妊娠中のハトムギの製薬であるヨクイニンの内服については,必ず産婦人科医師の管理のもとに行うべきである.また,ハトムギの栄養補助食品も,妊娠中は中止するか,もしくは医師と相談の上で使用するのが望ましい.ただし,妊娠中にこれらの医薬品や食品を飲み続け,流産,早産,児の奇形等が発症したとする報告はない.妊娠中はハトムギ摂取を控えるべきであるという伝承については,ハトムギに麦角菌が感染し,産生された麦角アルカロイドによる子宮収縮が深く関与していたという仮説を立てた.また,小麦・大麦・ライ麦,トウモロコシなど麦角菌に感染する可能性のあるイネ科植物の麦角アルカロイド汚染の有無を知ることは,妊婦の流産・早産予防上,重要であることも指摘した.
著者
福永 寛 櫻木 悟 藤原 敬士 藤田 慎平 山田 大介 鈴木 秀行 宮地 剛 川本 健治 山本 和彦 堀崎 孝松 田中屋 真智子 片山 祐介
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.43, no.SUPPL.2, pp.S2_154-S2_158, 2011 (Released:2012-12-05)
参考文献数
3

Kounis症候群とはアレルギー反応に伴い急性冠症候群をきたす症候群であり, 冠攣縮に合併したタイプ1とプラーク破裂に伴う血栓形成に起因するタイプ2に分類される. 今回, われわれはKounis症候群により心肺停止をきたした2症例を経験したので報告する.症例1: 76歳, 男性. 腰部脊中柱管狭窄症の術中にセフォペラゾンを投与したところ, アナフィラキシーショックを発症した. 下壁誘導にてST上昇を認めたため急性冠症候群と診断, 緊急冠動脈造影にて右冠動脈#1に血栓および#4AVに完全閉塞を認めた. 血栓吸引療法のみで再疎通が得られた.症例2: 61歳, 男性. 起床時より四肢・体幹に蕁麻疹を認め, その後, 心肺停止となり, 当院へ搬送された. 心肺蘇生術にて心拍再開したが, その後, 心室頻拍が頻発, 急性冠症候群を疑い緊急冠動脈造影を施行した. 冠動脈に有意狭窄は認めなかったが, 心電図上胸部誘導で一時的にST上昇を認めたため, 左前下行枝の冠攣縮と診断した.
著者
岡本 誠 甲斐 嘉晃 三澤 遼 鈴木 勇人 時岡 駿
出版者
一般社団法人 日本魚類学会
雑誌
魚類学雑誌 (ISSN:00215090)
巻号頁・発行日
pp.22-014, (Released:2022-09-07)
参考文献数
35

A single specimen (130.0 mm standard length: SL) of Platyberyx mauli Kukuev, Parin and Trunov, 2012, collected at 452–453 m depth off Shizugawa Bay, Miyagi Prefecture, Japan, is the first record of the species from the Pacific Ocean. Previously reported only from the eastern central Atlantic, P. mauli is characterized by the following combination of characters: dorsal-fin rays 28 (28 in present specimen); anal-fin rays 17 (17); pectoral-fin rays 17 or 18 (18); total vertebrae number 33 or 34 (34); head length 30.4–33.9% SL (30.5% SL); body depth 45.6–52.2% SL (46.3% SL); prepectoral length 34.2–35.3% SL (34.2% SL); dorsal-fin base length 75.4–79.1% SL (76.1% SL); ventral caudal spur absent; procurrent rays cylindrical; gill rakers stout, rounded, with many small bristles, especially near tip and midway along each raker; jaw teeth in multiple rows anteriorly; posterior margin of upper jaw extending nearly to posterior margin of orbit; dorsal pharyngeal papillae multifid; conspicuous multifid papillae throughout inside of mouth cavity. The new standard Japanese name “Shamoji-yaegisu” is proposed for the species. Additionally, a single specimen (176.9 mm SL) of Platyberyx andriashevi (Kukuev, Parin and Trunov, 2012), collected off the Pacific coast of Hokkaido, represents the first record of the species from that region. A key to the six species of Caristiidae currently known from Japan is provided.
著者
鈴木 大慈
出版者
一般社団法人 日本統計学会
雑誌
日本統計学会誌 (ISSN:03895602)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.229-256, 2021-03-05 (Released:2021-03-05)
参考文献数
63

本稿では深層学習がなぜうまくいくのかという疑問に答えるべくその統計理論を紹介する.特にその関数近似能力および推定能力に関して議論し,深層学習には対象の関数に合わせた適応的推定が可能であることを紹介する.そのため,深層学習の万能近似能力を紹介した後,Barronクラスや非等方的Besov空間における推定理論とミニマックス最適性を議論し,線形推定量と比べて次元の呪いを回避できることや関数の滑らかさの非一様性への適応性といった優れた性質を持っていることを紹介する.最後に,パラメータがサンプルサイズよりも多いニューラルネットワークがいかに汎化するかをカーネル法の観点から解析した汎化誤差理論を紹介する.
著者
鈴木 堅弘
出版者
国際日本文化研究センター
雑誌
日本研究
巻号頁・発行日
vol.38, pp.13-51, 2008-09-30

本論は、春画として最も有名な北斎画の「蛸と海女」を取り上げ、この画図を中心に春画・艶本表現における図像分析を試みた。まず具体的な図像分析に先駆けて、同種のモチーフが「あぶな絵」や「浮世絵」にも描かれている背景を追うことで、近世期の絵画表現史における「蛸と海女」の画系譜を作成した。そしてその画系譜を踏まえて、北斎画を中心とした春画・艶本「蛸と海女」の図像表現のなかに、同時代の歌舞伎、浄瑠璃、戯作などに用いられた「世界」と「趣向」という表現構造を見出すことにより、春画・艶本分野においても同種の演出技法が用いられていたことを発見するに至った。また、こうした図像分析を通じて、北斎画を中心とした春画・艶本「蛸と海女」の表現構造が、太古より連綿と続く「海女の珠取物語」の伝承要素や、江戸時代の巷間に流布した奇談・怪談の要素で構成されていることを読み解いたといえよう。