著者
HORTON William・B
出版者
早稲田大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2010

第2次世界大戦の終戦日は、インドネシアにとって独立戦争という新たな戦いの始まりの日であり、インドネシアで半生を送った熊本県出身の復帰邦人アブドラ・ラフマン・イチキ(市来竜男)にとっては、祖国日本と決別し第2の祖国インドネシアの独立戦争に本格的に身を投じた時期でもあった。その後、市来は1949年1月9日オランダ軍の銃弾に倒れ、東部ジャワ島ダンピット村で42年の人生の幕を閉じた。当研究の目的は、民間人市来が、なぜ戦後の早い時期からオランダから追跡されなければならなかったのか、なぜインドネシア国軍との連携が図れたのかを解明することであった。調査は、市来および独立に関わった日本人に関する戦前から戦後に至るインドネシア及び和蘭の史・資料を収集し読み解くことが中心となり、オランダ国立公文書館三館所蔵の公文書収集調査、早稲田大学中央図書館で当時の文献資料収集調査を行った。公文書および当時の文献から、戦前インドネシアに渡った日本人市来が、「異国」で身につけたのは単にインドネシア語という言語だけではなく、人類学的な意味の「文化」をも身につけ、将に身も心も「インドネシア人」アブドラ・ラフマン・イチキとして独立を希求していたことが理解できた。その長けた言語能力を高く評価した日本軍は、インドネシア防衛義勇軍の教科書の翻訳および訓練に係わらせていくが、一方、市来は軍事訓練を通じインドネシアの独立達成への道を見出し、後日インドネシア国軍と変容していく防衛義勇軍と深くかかわったことが理解できた。民間人でありながら、その言語能力のため日本軍上層部とも深く係わり、そのため戦後戦犯裁判に向けオランダが、日本軍部を追及していく中、市来の情報も収集していったようだ。戦争に関する研究は、その時代に生きた人々をとかく単一的に扱われることが多いが、当研究を通じ、戦前からの邦人移民にとっては、単に国籍のある国が祖国というわけではなく、戦争を契機に身の振り方、ナショナル・アイデンティティーが高まることを詳らかにできたことに意義がある。戦争を通じての邦人移民の多様な身の処し方は、米国の日系邦人の研究では幾分明らかにされてはいるものの、アジアの邦人移民に関しては今後さらなる研究が期待され、そのことは、現在の政治化した言説にも見られる単純な2項率からなる戦争の歴史観を再構することに大いに貢献すると考えられる。
著者
Seung-Kwon Myung Hong Gwan Seo Yoo-Seock Cheong Sohee Park Wonkyong B Lee Geoffrey T Fong
出版者
Japan Epidemiological Association
雑誌
Journal of Epidemiology (ISSN:09175040)
巻号頁・発行日
pp.1112130276, (Released:2011-12-17)
参考文献数
20
被引用文献数
17 24

Background: Few studies have reported the factors associated with intention to quit smoking among Korean adult smokers. This study aimed to examine sociodemographic characteristics, smoking-related beliefs, and smoking-restriction variables associated with intention to quit smoking among Korean adult smokers.Methods: We used data from the International Tobacco Control Korea Survey, which was conducted from November through December 2005 by using random-digit dialing and computer-assisted telephone interviewing of male and female smokers aged 19 years or older in 16 metropolitan areas and provinces of Korea. We performed univariate analysis and multiple logistic regression analysis to identify predictors of intention to quit.Results: A total of 995 respondents were included in the final analysis. Of those, 74.9% (n = 745) intended to quit smoking. In univariate analyses, smokers with an intention to quit were younger, smoked fewer cigarettes per day, had a higher annual income, were more educated, were more likely to have a religious affiliation, drank less alcohol per week, were less likely to have self-exempting beliefs, and were more likely to have self-efficacy beliefs regarding quitting, to believe that smoking had damaged their health, and to report that smoking was never allowed anywhere in their home. In multiple logistic regression analysis, higher education level, having a religious affiliation, and a higher self-efficacy regarding quitting were significantly associated with intention to quit.Conclusions: Sociodemographic factors, smoking-related beliefs, and smoking restrictions at home were associated with intention to quit smoking among Korean adults.
著者
Goetzel C.G. Rittenhouse J.B.
出版者
Japan Society of Powder and Powder Metallurgy
雑誌
粉体および粉末冶金 (ISSN:05328799)
巻号頁・発行日
vol.14, no.5, pp.195-202, 1967

粉末冶金の製品は,一般の航空方面への応用とともに,宇宙衛星の部品として利用されるようになった.宇宙衛星の関係部品は,高度に特殊化された目的を満足させるたあに,広範な発展計画を必要とするものである.この報告では,宇宙衛星に対するいくつかの粉末冶金の応用の紹介と,実際に軌道にのった宇宙衛星に使用された粉末冶金部品および材料の二,三の例について論ずる,粉末冶金製品の例として,93日間の飛行に成功したExplorer皿、のテープレコーダー中の焼結ブAンズベアリングがあり,また航空用衛星(その中には7カ月も活動したものもある)内の,自転抑制装置に用いられた焼結マグネットなどがある.化学的浸食熱応九融点近くの表面温度などに対する抵抗が要求されるようないわゆる高温熱流に対しては,Agを溶浸させたWが用いられる.これは粉末冶金法によってのみ作られるものである.この物質を十分に管理された製造工程のもとで製作するために,複合材料に最適の実用性質を発揮させるような広範な計画が開始された.粉末冶金法で製造されたBeの利点については,特に目下計画中,あるいは設計中の人間宇宙ステーションの表面材料として,および流星群の遮蔽防御などへの応用に対して検討されている.
著者
和田 正平 吉田 憲司 小川 了 端 信行 A.B. イタンダーラ 阿久津 昌三 栗田 和明 江口 一久 小馬 徹 S B Pius A B Itandala
出版者
国立民族学博物館
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1992

平成6年度は以下のような実績をあげることができた。1.カメルーン北西部州では、端が州都バメンダから離れたいくつかの村で調査を行ない、都市化、貨幣経済化の浸透のなかでの性による役割分担の変化を示した。男性のグループは、稲作農民組合を形成して水田耕作を拡大している。一方、伝統的な自給的農業の担い手であった女性もグループで土地を購入し、換金性の高い作物を栽培して貨幣経済に積極的にかかわっていく動きを見せている。男女それぞれが新しい社会経済的なニッチェを生み出している傾向が明らかになった。またカメルーン国北部で、フルベ族の女性の調査を行なった、フルベ社会ではイスラム教の影響で女性の社会的な立場は低いのとされ、仕事も禁じられている。しかし、実際には自活している女性も少なくなく、昔話の中にも女性の力を讚えているものもある。女性の生活を多面的に示し、実際の両性の関係を精密に記述する試みをした。2.セネガル国ダガ-ルで、小川は都市に住む人々の経済活動を調査した。インフォーマル・セクターでの女性の活躍が昨年度から指摘されていたが、全体像の記載の必要から男性も含めたインフォーマル経済従事者たちの活動状況を広く調査した。これらの経済活動と都市民の互助組織がセネガル国全体の経済、発展と密接な関連があることを示した。3.ザンビア国でチェワ社会とンゴニ社会での儀礼における性差に注目して、吉田が調査を行った。その結果、父系社会であるンゴニ社会から母系社会であるチェワ社会へ精霊信仰が導入され、その時点で信仰の主たる担い手が男性から女性へと変化したことがわかった。また、その信仰がチェワ社会の伝統的な儀礼組織の欠如を埋め、それを補完する形で浸透してきていることを示した。4.コートジボワール国ダブ郡で、茨木はアジュクル社会の女性の活動に注目した。最近の都市部での人口急増によってキャッサバを加工した食品、アチュケの需要が高まっている。アジュクルの女性はこの食品を加工生産する作業にふかく関わるようになり、その結果、農作業や日常の生活上の性別の分業に変化がみられるようになった。平成4年度から6年度にかけての本研究によって以下のような成果をあげることができた。1.本研究全体の主題は、女性、伝統と変化、に関わるものであったが、これは研究対象となったそれぞれの民族社会の理解をすすめる上で大きな意味をもつ問題であり、それぞれ有効な記述の観点を引き出すことができた。したがって、女性と変化を主題に研究する視点は、多くの社会にあてはまる普遍性をもち、これからの文化人類学研究の分野として重要であることが示唆される。2.特に変化を踏まえての記述は、多くの場面で有効であった。フェミニズム人類学やマルキズム文化論の影響下の人類学では十分に示すことができなかった、「現在起っている社会の変化に柔軟に対応して変化していく両性の役割」という研究視点を提供することができた。3.本研究にって提供された、女性の文化人類学に向けての研究視点として、具体的には以下のようなものを挙げることができる。それは、都市の中での女性の経済活動、都市と農村との関係で農村女性が果たす役割、農村女性の生活改善運動、他民族やキリスト教との接触による女性の役割の変化、両性の役割のノルムと実際、などである。とくに現在では国際的な経済活動、開発と援助の影響の下で大きな変化と対応を示している女性の諸活動に注目する研究視点が重要であると示唆された。
著者
安部 琢哉 KIRTIBUTR N SLAYTOR M KAMBHAMPATI S THORNE B BIGNELL D.E HOLT J 杉本 敦子 武田 博清 山村 則男 東 正彦 松本 忠夫 SLAYTOR Michael THOME Barbara L HOLT John A SLAYTOR M. KIRTIBUTR N. KAMBHAMPATI エス THORNE B. BIGNELL D.E. HOLT J. GRIMARDI D.
出版者
京都大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1995

本研究は、熱帯陸上生態系で植物遺体の分解に大きな役割を果たしてシロアリが、地球規模で適応放散による多様化を遂げた道筋と機構を明らかにすることを目的とする。シロアリにおける(1)微生物との共生による植物遺体の利用、(2)社会性の発達、(3)食物貯蔵・加工の3過程に注目し、これらに系統進化(DNA解析による分子系統や形態や共生微生物に基づく系統進化)および生物地理に重ね、それに理論的な検討を加えた。特にシロアリの多様化の鍵を握る(1)下等シロアリから高等シロアリへの進化、(2)キノコを栽培するシロアリの起源、(3)社会性の進化と多様性について仮説を提出すると共に、(1)空中窒素固定とセルロース・ヘミセルロース分解、(2)土を食べるシロアリの適応放散、(3)シロアリが地球上でのメタン生成に果たす役割について質の高いデータの提出を目指した。(1)下等シロアリから高等シロアリへの進化中生代白亜紀の遺存森林であるオーストラリアのクイーンスランドの熱帯林とそれに隣接する、第三紀に発達したサバンナにおいてシロアリ種組成を比較した。その結果、前者では下等シロアリが、後者では高等シロアリが卓越していた。このことから、高等シロアリが森林でなくサバンナで進化して熱帯林とサバンナで適応放散を遂げたとの新しい仮説の提出しつつある。(2)キノコを栽培するシロアリの起源シロアリ主要グループの分子系統樹を作成して、キノコシロアリが高等シロアリの中で最も古い時代に分化し、下等シロアリのミゾガシラシロアリ科と近縁であることを明らかにすると共に、キノコシロアリ巣内のキノコ培養基とミゾガシラシロアリ科のイエシロアリの巣内構造物の化学組成を特にリグニン含量を比較することにより、シロアリにおける糞食とキノコ栽培の起源に迫りつつある。(3)シロアリにおける社会性の進化と多様性シロアリ地球規模での多様化を微生物との共生と社会性の進化に注目して検討し,これをT.Abe,S.A.Levin & M.Higashi編(1997):Biodiversity(Springer)中で展開した。(4)空中窒素固定、セルロース・ヘミセルロース分解材を食べるコウシュンシロアリでは体を構成する窒素の50%が空中窒素起源であること、しかし土を食べるシロアリでは空中窒素固定能が低いこと、また下等シロアリでも共生原生動物だけでなくシロアリ自身もセルロースやヘミセルロースを分解する酵素を作ることなど、これまでの常識をくつがえすデータを次々を提出した。(5)土を食べるシロアリの適応放散過程カメルーンの熱帯林で土壌食シロアリの安定同位体分析と腸内容物分析を行い、土食いへの指標として安定同位体比が有効であることを明らかにした。次いでオーストラリアでシロアリ亜科のシロアリの土食いへの進化過程を安定同位体分析、セルロースが分解酵素の活性分析、ミトコンドリアDNAを用いた系統解析から解明し、Termesグループで土食いへの進化が一回起こったことを示した。またTermesグループがアメーバと共生関係を持つことを明らかにした。(6)生態系におけるシロアリの役割シロアリの代表的なグループにおけるメタン生成のデータを実験室で集めると共に、タイの森林で野外調査を行った。シロアリが地球上でのメタン生成に果たす役割についての精度の高い答えを出しつつある。(7)「シロアリの多様化プロセス」ワークショップ世界中の関連分野の研究者を招き、シロアリ研究の現在までの成果をまとめた教科書を編集する目的で国際ワークショップを1997年3月に開催した。
著者
田島 裕 フェンティマン R.G. ミラー C.J. ダイヤモンド A.L. ライダー B.A.K. バークス ペータ 長谷部 由起子 長谷部 恭男 平出 慶道 FENTIMAN R.G MILLER C.J DIAMOND A.L RIDER B.A.K BIRKS Peter ミラー J.C. アダムソン ハーミッシュ デンティス T.C. ゴフ ロード スクリブナ アンソニー
出版者
筑波大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1994

平成6年4月から3年間にわたる日英間の共同比較法研究の全体を総括し、今後の継続的な研究協力の在り方を検討した。研究者ネットワーク作りに重点を置いて研究活動を行ったが、その目的のために、本年度も田島(研究代表者)がバ-ミンガム大学で研究会(24回)を開催した。バ-ミンガム大学では、英国大学における日本法研究の在り方を問題とし、憲法、民商法、企業法、独占禁止法、訴訟手続法、刑法など12の主要テーマについて、具体的な検討をした。これは昨年度に続く二度目の経験であり、非常に大きな反響を呼んだ。研究会の基礎となるプレゼンテーションをレクチャー.レジュメの形でまとめ、最終報告書に添付した。この研究成果は、田島(研究代表者)の責任で、Western and Asian Legal Traditionsと題する著書(添付書類参照)として近く公刊される。予定どおり平成8年9月にケンブリッジ大学において学会を開催し、本格的な比較法研究を行った。その結果は、Anglo-Japanese Journal of Comparative Lawと題する著書として近く刊行されることになっている。また、予定どおり、平成8年4月に、高等法院裁判官フィリップス卿およびウッド教授(ロンドン大学)を招聘し、企業法学シンポジウム(法的紛争の処理)を開催した。約200名の法律家(学者、裁判官、実務家)が参加し、とくに国際企業取引をめぐる法的紛争の処理に当たりイギリス法を準拠法とすることの問題点を論じた。フィリップス裁判官は、筑波大学などでも陪審制と黙秘権の問題について特別講義を行った。また、マスティル卿(貴族院裁判官)も予定どおり8月に来日され、安田記念講義およびブリティッシュ・カウンシル特別講義を開いた。民事司法改革をテーマとしたが、この講義には約300名の法律家が参加した。平成8年8月に公表されたばかりのウルフ報告書に基づくもので、別途開いた専門家セミナー(国際商事仲裁協会)において、三ケ月章東京大学名誉教授を中心として日本の民事訴訟改正とパラレルに検討する機会をもった。この講義は安田火災記念財団から単行本『英国における紛争処理の動向』(平成8年8月)として既に公刊された。平成8年11月、長谷部(東京大学)、長谷部(成蹊大学)はロンドン大学およびバ-ミンガム大学を訪問し、憲法および訴訟法の領域における共同研究を行った。そして、9月のケンブリッジ大学の学会には、平出(中央大学)と田島(筑波大学)が出席した。その学会で特に焦点を当てたのは会社法および金融法・銀行法の領域である。正式の学会とは別に、この共同研究が今後も継続されるようにするため、研究参加者の間で具体的な検討を数日に渡って熱心に行った。その結果、平成9年10月に東京で学会を開催し、その折りに新たな共同研究の基礎づくりをすることになった。その主要研究テーマは、会社法と金融法・銀行法の他、司法制度と国際法・国内法の融合の問題とする。来日が既に確定しているのは、ライダー教授(ケンブリッジ大学)、ア-デン裁判官(高等法院;現在は、法律委員会の委員長と兼任)夫妻、およびヘイトン教授(ロンドン大学)である。なお、オックスフォード大学のバ-クス教授(オールソールズ・カレッジ)は、まだ来日していないが、平成10年に来日を約束している。その機会に日英学会の創設を本格的に検討することになると思われる。なお、研究協力者以外にも数多くの学者、実務家の協力を得たことも付記しておきたい。上記の三ケ月教授のセミナーはその一例である。平成9年4月にはジョン・ボールドウイン教授(バ-ミンガム大学)が来日されるが、これもわれわれの研究活動につながるものである。3年に渡る共同研究を通じて、日本法に関心のある非常に若いイギリス人研究者を数多く(約100名)育てることができたことも協調しておきたい。現在、そのうち2人のイギリス人大学生が日本を訪問し、研究を続けている。最後に、当該研究は、将来も継続されるべきものであり、今回の3年の研究を通じて問題を別に添付した『研究報告書』の中で説明した。それも読んでいただきたい。
著者
PENMETCHA Kumar SUBASH C.B Gopinath
出版者
独立行政法人産業技術総合研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

転写制御蛋白質HutPと標的RNA複合体のX線解析を行った。その結果、HutPは6量体を形成していること、HutPは6量体の両面で、RNAの2個所のUAG繰り返し配列と結合していた。生化学的実験においても、UAG繰り返し配列の重要性が明らかにされた。また、in vivo実験により、活性発現がHutPにより誘導された。以上より、HutPはUAG繰り返し配列と結合し、RNAをステム-ループから3角形様構造に変化させるすることによって、転写終結解除する機構を明らかにした。
著者
GARCIADEBLAS B.
雑誌
Plant J.
巻号頁・発行日
vol.34, pp.788-801, 2003
被引用文献数
6 315
著者
松沢 佑次 PARK Y.B. KOSTNER G.M FUJIMOTO W.Y 山下 静也 KYUNG Y.B.Park KOSTNER G.M.
出版者
大阪大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1996

最近、動脈硬化の最も大きな基盤である脂質代謝異常に人種的・地域的な特徴が存在することが明らかになった。本研究では、コレステロールエステル転送蛋白(CETP)の遺伝子異常と、LDL受容体の遺伝子異常の各タイプ別頻度を国内外で調査し、動脈硬化の国別の遺伝子基盤の相違を明らかにするために以下の検討をした。1.CETP欠損症CETP欠損症の変異は従来6種発見されているが、この中で比較的頻度が高いことが推察されるイントロン14の異常(IN14)及びエクソン14変異(EX15)を中心とする4変異について検討した。CETP欠損症の遺伝子異常としては、6種類発見されているが、IN14とEX15が大部分を占め、G181X変異も頻度は少ないながら、共通変異であった。IN14のホモ接合体は、全例がHDL-C100mg/dl以上を呈し、EX15のホモ接合体ではこれより低値を示す例が多かった。また、CETP遺伝子変異を有しても、HDL-C値が正常のものもあった。これに対して、国外ではCETP欠損症の頻度は極めて少なかった。日系米人の調査では、HDL-Cが90mg/dl以上のものが計27人あり、その中で、EX15のヘテロ接合体が4人、EX15とIN14の複合ヘテロ接合体が1人発見された。また、韓国においても日本人の共通変異が2種見出された。日系米人でも変異は日本人と共通していた。また、ドイツ人の高HDL血症例で新たな変異が見出され、これは日本人には存在しない変異であった。一方、米国及び欧州ではCETP活性の正常な高HDL血症例が存在し、そのリポ蛋白像はCETP欠損症と異なり、CETP欠損症以外の成因による高HDL血症の存在が示唆された。2.LDL受容体異常(家族性高コレステロール血症、FH)LDL受容体異常に関しては、我が国での遺伝子異常として見つかっているものには、約26種類の変異があったが、この中5つは共通変異で、日本人のFHの約1/3がこれらの変異で説明できた。これらの共通は日本全国で分布し、特定の地域への集積は認められていない。一方、欧米のFHではわが国で見出された変異は見つかっておらず、日本人の起源を推定する上で、アジア地区にも対象を広げて解析する必要がある。
著者
川上 彰二郎 大寺 康夫 佐藤 尚 花泉 修 ペンドリー J.B. ラッセル P.st.J.
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

1.偏光分離素子の高性能化単位セル構造の最適化により,消光比,動作波長域,斜入射特性を改善した。また,ARコートにより反射損失を低減させることにより,挿入損失を低減した。2.可視域フォトニック結晶の創生TiO_2/SiO_2を用いた可視域フォトニック結晶を作製した。さらに,これを用いて,複屈折性を利用した波長板や回折格子型偏光分離素子を試作し,動作を確認した。3.バンドギャップ拡大の研究自己クローニング法による変調杉綾と垂直孔形成により,完全バンドギャップが得られることを理論的に示した。さらに,これを実現するために反応性エッチングを含んだプロセスを提案し,原理的に可能であることを実験により示した。4.新しい導波路構造の提案・設計・解析新たに,格子定数・格子方位変調型の導波路構造を提案し,設計、解析を行い,その構造の有効性を確認した。これらは,自己クローニングのみで面内導波路が形成できるという利点を持つ。5.機能性材料とフォトニック結晶の複合技術の開発研究II VI族及びIII V族化合物半導体として,それぞれCdS,InGaAlAs系半導体を自己クローニング型フォトニック結晶と複合させるプロセスを開発し,発光特性の評価を行った。
著者
朝山 邦輔 COQBLIN B. BERTHIE C. STEGLICH F. FLOUQUET J. 三宅 和正 北岡 良雄 FLOUGUET J.
出版者
大阪大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1994

1995年6月 朝山邦輔がオーストリア、フランス、ドイツの大学・研究所を訪問し、以下の研究テーマについて情報交換、研究成果の討論、研究打ち合せを行った。(1)ウィーン工科大学ハウザ-博士、ブラウン教授と重い電子系セリウム化合物の磁性の圧力依存性の研究。(2)グルノ-ブル原子核センターフル-ケ博士と重い電子系超伝導体ウラン化合物UPt_3,URu_2Si_2の研究(3)グルノ-ブル大学ベルティエ博士と酸化物高温超伝導体HgBa_2Ca_2Cu_3OのNMR研究(4)ダルムシュタット大学シュテ-グリッヒ教授、ガイベル博士と重い電子系超伝導CeCu_2Si_2とUpd_2Al_3,UNi_2Al_3の研究(5)ベルリン大学リューダース教授と酸化物高温超伝導HgRa_2Ca_2Cu_3O_3のNMR研究(6)パリ南大学コクブラン教授とCe化合物のT_1の理論的研究(7)キャンベル教授と高温超伝導体における渦系の運動とク-パ-対の対称性との関係同年7月北岡良雄がイタリー・トリエステにおける強相関電子系の夏の学校に出席し情報交換、討論を行った。同年9月朝山邦輔がインド・ゴアにおける強相関物理の国際会議に出席し、高温超伝導、重い電子系超伝導のNMRの結果を発表し、議論及び情報収集を行った。一方、同年9月ダルムシュタット大学ガイベル博士、10月にシュテ-グリッヒ教授を招聘し、共同研究のCeCu_2SiおよびUPd_2Al_3研究成果の交換と討論を行った。同年11月グルノ-ブル極低温研究所ルジェ博士を招聘し、重い電子系セリウム化合物について研究成果の交換を行った。1996年2月パリ南大学コクブラン教授を招聘し、重い電子系セリウム化合物の核磁気緩和時間の理論的研究について情報交換を行った。CeCu_2Si_2の基底状態は本質的には非磁性d波超伝導であり微妙なイオンの配列の乱れにより容易に超伝導が破壊され常伝導磁気秩序状態が発生する事がわかった。磁気秩序状態の性質は未定である。UPd2Al3は超伝導ギャップが線上に消失するd波超伝導でありわずかな試料の乱れや不純物により状態密度が変形し、比熱等にあたかもギャップが点状に消失しているように見せている事がわかった。UPt_3は三重項p波超伝導と結論される。これは強磁性スピンのゆらぎで媒介にした引力機構によるとかんがえられる。URu_2Si_2のク-パ-対の対称性についてはRuのNMR信号がまだ十分強くないので今後の研究に待たなければ成らない。Tc最高を与える酸化物高温超伝導体Tl_2Ba_2Ca_2Cu_3O_<10>,HgBa2Ca2Cu3O8のスピンゆらぎパラメータの測定から高温超伝導体では反強磁性的スピンゆらぎを媒介にした引力機構の可能性が非常に高くなった。軽ドープ系、重ドープ系等を含めた組織的な研究が必要である。応用上重要な渦系の運動とd波対との関係を明らかにする事が重要であり、今後のこの方面の研究も必要である。