著者
平野 篤 亀田 倫史 白木 賢太郎 田中 丈士
出版者
国立研究開発法人産業技術総合研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2018-04-01

本研究では、独自技術によって得られた超高純度カーボンナノチューブを用いて、カーボンナノチューブとタンパク質からなる複合体であるタンパク質コロナの形成機構を解き明かすことを目的としている。カーボンナノチューブなどのナノ粒子が環境中から生体内に取り込まれた直後に形成されるタンパク質コロナの構造は、ナノ粒子の生体内動態を決定づける極めて重要な因子であり、ナノ粒子の安全性と深く関わっている。本年度は、昨年度に引き続き、タンパク質コロナ形成におけるカーボンナノチューブの骨格構造や電気的性質の影響を明らかにするとともに、アミノ酸とカーボンナノチューブの相互作用を調べることで、タンパク質とカーボンナノチューブの相互作用を要素還元的に理解することを目指した。分子動力学計算によって得られる相互作用の熱力学的な物性値に対するカーボンナノチューブの曲率依存性を調査した結果、曲率の増加によって相互作用が減少することが明らかになった。また、昨年度、タンパク質とカーボンナノチューブの化学的な相互作用である酸化還元反応が、カーボンナノチューブの原料に残存する夾雑物に由来する金属イオンの影響を受けることを明らかにしており、本年度は、タンパク質以外の生体分子(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドなど)とカーボンナノチューブの間の酸化還元反応における遷移金属イオンの効果を調査することで、酸化還元反応の多角的な理解を目指した。結果として、カーボンナノチューブに含まれる微量の鉄イオンによって引き起こされるタンパク質とカーボンナノチューブの間の酸化還元反応は金属キレート剤であるエチレンジアミン四酢酸(EDTA)によって十分に抑制される一方、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドとカーボンナノチューブの間の酸化還元反応はEDTAによって抑制されないことが明らかになった。
著者
宮崎 徹 新井 郷子 新井 郷子
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

AIM に結合するタンパク質の候補が複数得られた。ヒト血中AIM 濃度測定系(ELISA 法)を確立した。これにより、動脈硬化あるいは大動脈瘤や脳心臓血管障害など動脈硬化を基盤とする疾患や、他のメタボリックシンドロームと血中AIM 濃度の関連性、もしくは疾患の進行度と血中AIM 濃度の関連性を解析することが可能となった。適時不活性化が可能なAIM コンディショナルノックアウトマウスのターゲティングベクターの構築を行った。
著者
新井 郷子 宮崎 徹
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

マクロファージが産生する分泌タンパク質AIM (apoptosis inhibitor of macrophage) は肥満やそれに伴うインスリン抵抗性惹起等の生活習慣病に深く関る分子であり、体内AIMの機能や量の制御は、AIMが関る疾患の予防や病態進行の制御に有効である可能性がある。本研究では、AIMの機能および量的制御方法の探索を行い、また肥満由来の自己抗体産生および脂肪肝由来肝がんについてAIMと疾患の関連性を明らかにした。さらにヒトにおいて健常者および肝疾患患者における血中AIM値測定を大規模に行うことで、AIMによる疾患の制御の可能性および疾患マーカーとしての有用性を見出した。
著者
土田 健次郎 丸谷 晃一 沢井 啓一 黒住 真 野村 真紀 遠山 敦
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1997

伊藤仁斎の全集はその盛名にもかかわらず一度も刊行されたことはなかった。本研究はその全集作成の基礎作業を企図したものである。本研究ではまず資料の調査と収集から着手し、天理図書館の古義堂文庫所蔵の仁斎自身の諸稿本、定評のある林景范筆写本(林本)の焼き付けをはじめとする多数の基礎資料を入手した。また仁斎の刊本には東涯の手が入っていると言われ、仁斎研究は同時に東涯の資料の調査を必須とするが、東涯の基本資料の収集も精力的に行った。本研究では、収集した資料をもとに、まず仁斎全集の基礎作業として、『論語古義』の一部の訳注と、『中庸発揮』の諸稿本の対校表を作成した。また従来の研究においては仁斎の五経観はその四書観に比して明らかに手薄であったが、この方面の成果として、仁斎の『易経』観と『春秋』観についての論文二篇を作成した。さらに仁斎の思想分析に関する論文二篇、日本近世思想史上の重要なテーマである仁斎から荻生徂徠への展開に関する論考二篇も発表した。これらは全て報告書に登載してある。本研究では収集した資料をもとに仁斎の代表作の最良のテキストのデータベース化にも取り組んだ。そのうち『論語古義』、『孟子古義』、『大学定本』、『中庸発揮』、『童子問』、『語孟字義』、『古学先生文集』、『古学先生詩集』はほぼ完成し、『仁斎日札』、『古学先生和歌集』についても2001年中にできあがる予定である。報告書にはそのサンプルを載せた。また仁斎・東涯、古義堂に関する研究文献目録のデータベースも作成し、試行版をインターネットに流した。これは統一方針のもとに新たにキーワードを採集しなおしたものであって、質量ともに従来のものをこえ、さらに作業を継続中である。報告書にはそのデータのプリントアウトしたものを載せた。
著者
小松 かおり 佐藤 靖明 田中 啓介 北西 功一 小谷 真吾
出版者
北海学園大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2019-04-01

本研究では、現代社会で最も脆弱な立場にある熱帯の小農の戦略の歴史について、主食バナナ栽培を共通項として比較し、それを元に、農民を含む地域の住民の食料主権のあり方について検討する。バナナは、アグリビジネス企業に寡占されるグローバル商品である一方、熱帯の重要な主食作物でもあるが、主食作物としてのバナナは、グローバリゼーションの中で周辺化されてきた。現在も、アフリカ、パプアニューギニア、東南アジア、中南米など世界各地の熱帯で重要な作物である。このようなバナナ生産地域における農民の戦略を比較することによって、農民の決定権と住民の食料主権のあり方について検討する。
著者
田崎 博之 大久保 徹也
出版者
愛媛大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2018-04-01

①資料の調査と分析土器生産技術の共有化と維持・伝達を考察するため、「限られた集団によって製作された」と考えられる土器群として、まず土器づくりの場に廃棄された焼成失敗品を取り上げた。具体的な資料は、愛媛県文京遺跡12次調査SK-21と23次調査SX-16(弥生中期後葉)、福岡県迫額遺跡土壙24(弥生後期初頭)出土の焼成失敗品を含む土器群であり、形状や調整痕跡、施文手法に着目して分析を行った。また、画一性の高さから特定の限られた遺跡もしくは遺跡群で生産されたと考えられる香東川下流域産土器群(弥生後期中葉~終末)について、製作技法・手順・胎土的特徴を観察し分析を進めた。分析に供した資料は、高松平野域の27遺跡約900点、徳島・岡山県域の41遺跡の約1500点である。一部については薄片プレパラートを作成し岩石学的観察を行った。加えて、土器焼成失敗品の出土を確認できた石川県八日市地方遺跡(弥生中期中葉と後葉)と、大阪府上の山遺跡(弥生中期前葉)の資料の予備的な調査を行い、次年度の本格的な資料調査と分析にそなえた。②研究集会での分析結果の検証と意見交換研究代表者・分担者・協力者が参画する研究集会を計3回開催した。岡山大学での第1回研究集会においては、研究目的・内容の共通認識を得るとともに、分析資料を絞り込むことができた。香川県埋蔵文化財調査センターで開催した第2回研究集会では、香東川下流域産土器群について、成形・整形・調整痕跡の観察、製作手順の復元、胎土類型について実物を観察しながら検討した。第3回研究集会は愛媛大学で開催し、文京遺跡出土の土器焼成失敗品を観察し、分析結果について論議した。加えて、筑前町文化財収蔵庫で実施した迫額遺跡出土土器群の資料調査では、分析成果の中間成果、分析方法についての意見交換を行い、問題点の整理、問題解決のための方策を検討することができた。
著者
鈴木 哲 松井 岳巳 安斉 俊久 孫 光鎬 菅野 康夫
出版者
関西大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究では,マイクロ波を用いた完全な非接触での生体計測手法を応用し,血圧変動を推定する手法の確立を目指すことを目的とした.手法の有効性の確認のための,①推定法の理論的検討,②システムの試作,③実験室内における試作したシステムの評価実験,を実施した.さらに,臨床的知見の蓄積とシステムの問題点の確認のため,④医療現場における心不全患者へ適用した実証実験,の4点の実施を目標とした.結果として,理論構築およびシステム試作,さらに評価実験を行い,ある程度良好な結果を得た.一方で,臨床的知見の蓄積のための調査については,安全性と精度に課題があったため十分な実施が出来ず見送る結果となった.
著者
中西 和樹 金森 主祥
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

メチルシルセスキオキサン組成の有機一無機ハイブリッド湿潤ゲルを、界面活性剤および尿素を用いた一段階合成法によって作製し、超臨界および常圧乾燥によって、高い可視光透過率に加えて優れた断熱性を示す低密度固体を得た。界面活性剤の濃度と出発組成を緻密に制御して、連続マクロ孔と高気孔率メソ孔・高比表面積を併せもつ多孔体の作製に成功し、これらのゲルの熱伝導率の気体圧力依存性と微細構造との関係を明らかにした。
著者
宇都宮 登雄 齋藤 敦史 神田 淳
出版者
芝浦工業大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

CMOSインバータ発振回路を組込んだ小型センサを用い,ひずみ計測用ゲージとダミーゲージの出力差分を求めることで,ブリッジ回路と同程度のひずみ計測が可能となることを示した.続いて,この小型センサのひずみ計測値をワイヤレスでデジタル出力できる形式に発展させた.また,高サンプリング周波数で計測可能なレシプロカル法を採用した発振回路ひずみセンサを開発した.そして,これらの発振回路ひずみセンサにより,繰返し荷重を受ける試験部材の損傷状況の検出が可能であることを示した.さらに,発振回路ひずみセンサによる,静ひずみ,動ひずみの適切な計測手法を導いた.
著者
井原 賢 長江 真樹 田中 宏明 征矢野 清
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

今年度は、培養細胞試験で発現させるトランスポーターを従来のヒト遺伝子ではなく魚遺伝子を用いた培養細胞試験を開発した。具体的には、データベース上でメダカおよびゼブラフィッシュのセロトニントランスポーター(SERT)遺伝子の塩基配列情報を入手し、その遺伝子を発現するプラスミドを市販のサービスによって合成した。そして、抗うつ薬の標準物質を用いて試験することで、魚SERT遺伝子の抗うつ薬に対する反応性を体系的に明らかにすることに世界で初めて成功した。興味深いことに、魚SERT遺伝子はヒトSERT遺伝子よりも抗うつ薬で強く阻害されることが明らかとなった。具体的には、50%阻害濃度(IC50)で比較した場合、魚SERTのIC50値はヒトSERTのIC50値に比べて、数倍~数十倍低い結果が得られた。つまり魚SERTはより低濃度の抗うつ薬で阻害を受けることを意味する。この情報は、抗うつ薬やGPCR標的薬が魚等の水生生物に与える影響を評価する上で極めて重要な情報を提供してくれる。メダカSERTとゼブラフィッシュSERTの間でも、IC50値に違いが検出された。同じ魚であっても種によって抗うつ薬に対する反応が異なることが予測される。下水処理水に対しても抗うつ薬アッセイを行った。魚SERT遺伝子を用いた場合でも、ヒトSERT遺伝子を用いた場合と同様に、抗うつ薬活性が検出されることを確認した。セルトラリンを用いてミナミメダカに曝露し、通常時の行動をビデオ観察することで行動異常の検証を開始した。
著者
志々田 文明 大保木 輝雄 池本 淳一
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

以下の点を検証した。(1)武術/武道の本義としての武術性(実戦的な実用性)は、暴力性という評価に結びつく以前に人間の動物性からくる生き抜く力にある点。(2)日本武道。剣術/剣道には、その歴史的性格(実戦・芸道・競技)に各々臨機応変に作用する実践知があること。柔術/柔道では、嘉納治五郎の求めた思想が柔術/剣術を総合した新たな様式の武道の出現にあり、武術性を具備した文化的発展にあったこと。(3)東アジア武術。中国武術は近代以降に西欧文化の影響で競技武術として成立し、その国際化に伴い武術性が減少して競技性や娯楽性が重視されてきたこと。また戦後に創始された韓国武芸のテコンドーでも同様であること。
著者
甲斐 知恵子 間 陽子 小船 富美夫 斉藤 泉 山内 一也 宮沢 孝幸
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1997

本研究の目的は、組み換えアデノウイルスを用いることにより、多くの高等動物で汎用できるウイルス感染における自然宿主での細胞性免疫機構の解析法を開発することである。各種動物において以下の様な知見を得た。(1)本研究では、イヌジステンパーウイルス(CDV)膜蛋白(H)遺伝子の組み換えアデノウイルスを作製した。また、CDV-H組み換えアデノウイルスを用いて細胞障害試験を樹立するため、標的となる自己細胞の確立するを試み、皮膚からの細胞株樹立に成功した。その結果、複数のイヌからの樹立に成功し、標的細胞の作製法はほぼ確立した。さらに、その他の条件を決定し、細胞障害試験の確立を試みている。また、組み換えアデノウイルスの発現効率の改良も試みている、(2)細胞障害活性及び液性免疫能を誘導するエピトープが牛疫ウイルスのN蛋白に存在することが明らかとなった。H蛋白の免疫により長期に免疫賦与される事も明らかになった。また、immune-stimulating complex(ISCOM)の利用により、組み換えH蛋白でも細胞性免疫賦与が可能であることが明らかとなった。(3)牛白血病ウイルス(BLV)の主要組織適合性遺伝子複合体(BoLA)クラスII分子には白血病に抵抗性を示すBoLA-DR3アリルが存在することが明らかとなった。羊を用いた接種実験で、これを確認したため、現在BLVの組み換えアデノウイルスを作製して、さらに詳細な解析を試みている。
著者
中務 真人 平崎 鋭矢 荻原 直道 濱田 穣
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

常的な二足性はヒトのみに見られる行動様式であり他に二足性の霊長類はいない。そのため、二足適応の進化に関する比較資料が不足している。これを補うため、飛び抜けた二足運動能力を示す猿まわしの調教ニホンザルについて、形態学、生理学、運動学的調査を行った。二足、及び四足歩行のエネルギー代謝は10才と4才の二頭のニホンザルを対象に行った。体重・時間あたりの二酸化炭素発生量をエネルギー消費の換算値として計測した。歩行速度は1.5から4.5km毎時の範囲で0.5km刻みで計測した。二足でも四足でも、エネルギー消費量はほぼ歩行速度に比例して単調増加した。二足歩行のエネルギー消費は四足歩行時に比べ、10才の個体では、約30%の増加、4才の個体では20-25%高い値を示した。歩行速度にかかわらず、この比は小さい変化しか示さなかった。これまでチンパンジー、オマキザルでの実験に基づいて、二足と四足の歩行エネルギー消費は変わらないとされてきたが、この結果は、それに再考を求めるものである。通常、エネルギー消費の目安として酸素消費が用いられるが、平均的な呼吸商を用いて四足歩行時の酸素消費量を推定するとこれまで報告されている数字に近い値が得られ、われわれの研究方法の妥当性が証明された。歩行ビデオ解析では、調教を受けたニホンザルは通常の実験用サルに比べ、長いストライドと少ない歩行周期を示すことが明らかにされた。このことは関節の最大伸展角が大きなことと関連しており、とりわけ膝関節においてはヒト歩行におけるダブル・ニー・アクションに似た現象が観察された。そのため、通常のサルでは両脚支持期にしか起こらない体幹の上方移動が単脚支持期において認められた。また、頭部、体幹の動揺は通常のニホンザルに比べ有意に小さい。これらの結果は、調教ニホンザルの二足歩行の効率が優れていることを示唆する。
著者
松田 一彦 尾添 嘉久 岡島 俊英 山下 敦子
出版者
近畿大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

イベルメクチン(IVM)やミルベマイシン(MLM)等のマクロライド系化合物による抑制性グルタミン酸受容体(GluCl)の活性化機構解明するため、化合物の結合部位の解明に有用な光反応性試薬を開発した。また、カイコGluClの結晶化に必須の大量発現方法を確立した。さらに捻転胃虫GluClに対するMLM-A_4の活性発現に重要なアミノ酸を同定し、本化合物の結合部位が2か所存在する可能性を見出した。
著者
小林 俊秀 村手 源英 石塚 玲子 阿部 充宏 岸本 拓磨
出版者
国立研究開発法人理化学研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

生体膜に於いて脂質はランダムに配列しているのではなく、脂質二重層の内層と外層の脂質組成は異なり、内層のみ、外層のみをとっても特定の脂質がドメインを形成している。しかし生体膜における脂質の詳細な分布状態はほとんど明らかになっていない。私たちは特定の脂質、あるいは脂質複合体や脂質構造体に特異的に結合するプローブを開発するとともに、それらのプローブを用い、超高解像蛍光顕微鏡、免疫電子顕微鏡法等さまざまな顕微鏡手法を用いて、脂質ラフトをはじめとする脂質ドメインの超微細構造を解析し、また細胞分裂や細胞接着等や種々の病態における脂質ドメインの動態を併せて観測することにより脂質ドメインの機能の解明を試みた。
著者
中田 光 井上 義一 中垣 和英 田澤 立之
出版者
新潟大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

エラー!平成18年度に引き続き、19年4月〜20年3月までは、特発性肺胞タンパク症(自己免疫性肺胞タンパク症)の末梢血及び気管支肺胞洗浄液中のマクロファージ、リンパ球のFACS解析を行った。末梢血では、リンパ球中でもT細胞とNK細胞の減少が見られた。サブセットではCD8陽性細胞が減少していた。CD4T細胞のうち、memory, effectorの数は減少していないが、naiveT細胞が減少していた。興味深いことにCD4T細胞の一部はautoMLRで増殖期に入っており、活性化していることが示唆された。CD19陽性B細胞では、B1cell, B2cellの割合は健常者と変わりないが、CD138陽性形質細胞の割合が上昇していた。単球では、CD86陽性細胞の割合は変わらないが、抑制性のシグナルに関与するPDL1の発現が低下していた。この低下は、単球をGM-CSF存在下で培養することで、回復した。以上のことから、本症では、抗GM-CSF自己抗体の存在により、単球マクロファージのPDL1の発現が低下し、抑制性のシグナル伝達障害により、T細胞の活性化やB細胞の成熟促進がおこるのではないかと思われる。一方、患者肺胞洗浄液では、リンパ球の増加が見られ、洗浄液中のMCP-1濃度と相関していた。また、抗GM-CSF自己抗体価とMCP-1濃度に相関が見られた。肺においては、GM-CSFシグナル伝達障害により、MCP-1濃度が上昇し、リンパ球の遊走と流入が起こると思われる。
著者
中井 泉 由井 宏治 阿部 善也 木島 隆康 星野 真人
出版者
東京理科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

色材の分析で最も信頼できる物質情報を与える、絵画分析に適した世界最先端のポータブル粉末X線回折計と、日本画の染料の分析に有用な光分析装置を開発した。その応用として小布施の北斎館に収蔵の葛飾北斎の浮世絵、男浪、女浪の実地分析を行って、色材の概要を明らかにし、成果はNHKでTV放映された。優れた回折計の開発により、ノルウエーのオスロ国立美術館に招待され、開発した回折計を用いて、世界的な名画、ムンクの「叫び」を分析しムンクが用いた色材について、重要な知見をえることができた。さらに放射光を使った絵画の透過イメージング法を開発し、大原美術館のマティスの絵を分析し、塗り込められた下絵を解き明かした。
著者
渡辺 伸一 飯島 伸子 藤川 賢 渡辺 伸一
出版者
奈良教育大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

本報告書は、カドミウム汚染による健康披害、土壌汚染、農業被害に関する社会学的調査の研究成果をまとめたものである。カドミウム汚染は、他の重金属公害に比べて全国的に多発しているが、本調査では、中でも代表的な事例である富山県神通川流域、長崎県対馬佐須地域、群馬県安中碓氷川流域の3事例を対象とし、比較考察すると同時に、全国的状況の総合的把握を目指した。本調査は、イタイイタイ病(イ病)およびカドミウム中毒に関する公害史の試みの一つでもあるが、環境社会学的視点から、とくに、被害者、家族、地域住民、行政、医学者、研究者等の各主体による認識と対応、および、公害にかかわる被害の社会的増幅・拡大(被害構造)を、地域ごとの違いを含めて明らかにすることに留意した。報告書では、前半で富山イ病を中心とする全国状況の把握、後半の各章で各地域の歴史と現状をそれぞれ紹介する。カドミウム中毒は、骨への激甚な被害をもたらすが、より微量でもカドミウム腎症(近位尿細管障害)の原因となることが明らかになってきた。それは、土壌汚染やカドミウム汚染米等の農業被害の問題ともかかわる。そのためもあり、カドミウムによる健康被害をめぐる医学論争は、イタイイタイ病訴訟や「まきかえし」の時代から30年以上たつ現在も継続している。本調査では、この論争をめぐる社会的要因を探ると同時に、論争の背後での被害者への影響を確認した。