著者
前島 渉
出版者
大阪市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本研究で対象とした地層はインド、オリッサ州およびジャールカンド州の石炭-ペルム系タルチール累層、オリッサ州の白亜系アトガー累層、西南日本の新第三紀山陰-北陸区に属する糸生累層および国見累層である。このうちオリッサ州のタルチール累層、アトガー累層および国見累層で重要な成果を得た。タルチール累層の研究では、石炭紀末からペルム紀にかけてのゴンドワナ氷床の衰退と消滅の初期段階において急斜面性ファンデルタが形成され、その過程で氷河の崩壊や山間の氷河湖の決壊が頻繁におこり、高流速かつ浅水深の大規模なシート洪水流が頻発して、射流領域での堆積作用がおこったことが明らかとなった。このようなシート洪水流堆積物には反砂堆起源の中〜大規模な斜交層理がよく保存されている。アトガー累層については、上部扇状地堆積物中に認められる側方への連続性のよい塊状砂岩や弱く成層した礫まじり砂岩がシート洪水流堆積物であると考えられ、礫まじり砂岩の成層構造がシート洪水流内で常流と射流の両領域が繰り返すことによって形成されていったことを明らかにした。国見累層では、扇状地堆積物中の特に下部扇状地起源と考えられる地層に、反砂堆起源の斜交層理をともなう射流領域のシート洪水流堆積物がよく発達しており、河川流の作用よりはむしろシート洪水の作用の方が卓越したため射流領域の堆積物の地層への保存ポテンチャルが高くなったと考えられる。これは扇状地面の傾斜が交差点近傍で急変し、傾斜が一気に低下することによって河川流の運搬能が急速に衰えて粗粒砕屑物の堆積が一気に起こり、そのため河川チャネルが激しく分岐して浅化してついにはチャネルの形態をも失ってしまったためとみなされる。そのため洪水時には下部扇状地を広くおおうような高流速・浅水深の射流領域のシート洪水がひんぱんに発生したと考えられる。
著者
佐藤 満 井野 秀一
出版者
昭和大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

大地震等で孤立した被災地に容易に携帯搬送でき、電力や燃料を使わずに閉鎖空間からの初期救助活動に利用できる携帯瓦礫昇揚装置の開発を行った。1t以上の瓦礫を1分以内に50mm昇揚できる仕様の外径347mm高さ90mmの昇揚機構を試作した。動力源には加熱することで大量の水素を放出する水素吸蔵合金を利用し、その熱源には酸化カルシウムと水の反応熱を利用した。試作した昇揚機構は0.2MPaという比較的低い水素内圧で1.19tの出力を発揮し、昇揚動作中に堅牢な水素気密性が保たれることを確認した。さらに140gの酸化カルシウムの反応熱によって上記の出力が達成できることを実験的に示した。
著者
浅沼 幹人 宮崎 育子
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

アストログリアでのグルタチオンおよびメタロチオネインの発現誘導およびその放出が,ドパミン神経特異的酸化ストレスであるドパミンキノンによるドパミン神経障害に対する抗酸化機構として重要であるであることを明らかにできた.神経・グリア培養系およびパーキンソン病モデルマウスを用いた検討により,セロトニンアゴニストがアストログリアの増殖誘導ならびにドパミンキノンセンサー分子賦活を介したドパミン神経保護作用を併せ持ったパーキンソン病治療薬となり得る可能性を示すことができた.
著者
川瀬 光義 林 公則 金 淳植 真喜屋 美樹
出版者
京都府立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

1990年代から、基地受入の見返りとしての性格が濃厚な、新たな財政支出が増え、沖縄県内、とりわけ名護市をはじめ北部地域自治体に集中的に投じられたが、当該地域の経済状況は、沖縄県内の他地域と比べて格段の改善はみられなかった。2010年度から再編交付金事業の新規計上を見送った名護市では、他の方策で事業資金を獲得する方向が追求されていること、地元企業等においても地場産業や民需を開拓する動きがすすんでいることなど、財政・地域経済ともに基地に依存しなくても成り立つことが明らかになった。
著者
土器屋 由紀子 岩坂 泰信 梶井 克純 山本 正嘉 山本 智 増沢 武弘
出版者
江戸川大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

2004年に無人化された富士山測候所を有効に活用し、国際的な視点に立って、多方面に開かれた総合研究施設とすることを目的として調査研究を行った。主要な行事としては、2006年11月22,23日に国際ワークショップ/シンポジウムを開催した。以下に内容を要約する。(1)富士山は工業発展の著しい東アジア大陸の東に位置しており、偏西風の通り道であり、大気汚染の観測サイトとしての価値は大きい。(2)富士山測候所の施設はまだ十分利用可能であり、利用されずに放棄されるのは資源の無駄と考えられる。最近、中国のWaliguan山、台湾のLulin山に大気化学観測地点が新設されている。ハワイのマウナロア、さらに中央アジアの山などを含めた高所観測ネットワークの中で富士山の観測が不可欠である。(3)航空機の宇宙線被爆の観測にとっても、富士山はユニークな連続観測地点である。(4)日本で唯一永久凍土が確認された富士山におけるコケ類の調査は地球温暖化を目視できる「指標」であり、今後、より詳しい継続的な観測には測候所を基地として利用することが望ましい。(5)富士山頂で7年間サブミリ波望遠鏡による冬季観測を成功させた技術を活かすことによって、天文学並びに超高層大気化学への利用が可能である。(6)高山病の原因の究明や高所トレーニングにとって富士山測候所は有用な施設である。(7)脂質の代謝機構の解明や、耳の蝸牛機能に対する低圧低酸素環境の影響など医学研究にも測候所の施設は有用である。(8)廃止になった筑波山測候所を生き返らせ、リアルタイムの気象データの配信を含めて水循環の研究に用いている筑波大学の業績に学ぶところが大きい。(9)新しい分析化学的な手法や新素材の開発・応用などにも低温・低圧の高所研究施設として測候所は利用できる。
著者
梅本 順子
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

多方面において人道的、かつ教育的に活動した牧師、田村直臣という人物の足跡を、The Japanese Brideに代表される日本の風習や習慣を紹介するための英書の発行や、それに先立つ童話集の翻訳などの仕事を中心に、文化の受容、発信という視点からたどった。田村の多様な活動の背景には、四年あまりのアメリカ留学と、帰国後も五年に一度の割合で海外に出かけた経験がある。当時まれにみる国際人として、幅広い知識と卓越した語学力で日本文化を発信、かつ西欧の文化の受容と紹介に努めたことが明らかとなった。田村が先駆者となったものとしては、宗教教育の実践、児童文学の翻訳の際の言文一致体の導入などが挙げられる。また、アメリカでのThe Japanese Brideという英文書籍の出版は、新渡戸稲造の『武士道』よりも早い。日本女性の窮状を、結婚をテーマに紹介した同書には、当時すでに男女平等を説く、田村の思想が表れていた。そのため、同書を日本で翻訳・出版するとなると、保守派のみならず、日本基督教会側からも圧力がかかった。それが「花嫁事件」であり、田村は牧師職の剥奪という処分を受けるが、独立教会の牧師として、「児童」と「女性」の問題に生涯にわたって関わり続けたのだった。
著者
河野 允宏
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

前年度は、3次元波動伝播理論と理論的震源関数を用いた地震動モデルを作成し、この地震動モデルの有効性の検証を、兵庫県南部地震で測定された神戸大学、新神戸変電所、松村組の技術研究所の3ヶ所の地震記録を対象に行うと共に、これらの地震動特性の構成についての考察を行っている。地震動モデル作成において、断層面での滑り分布は、Sekiguchi et al.(1995)の結果を考慮したが、震源関数を規定する断層破壊に関するパラメータは、神戸大学記録のNS成分1つのみと地震動モデルの対応する成分と合致させることから決定した。このようにして、一つの震源関数を定めた。神戸大学のEW成分、新神戸変電所および松村組技術研究所のNS、EW成分の地震動は、それぞれの地盤モデルから評価されたグリーン関数と上記の一つの震源から作成した。神戸大学、新神戸変電所、松村組技術研究所の加速度記録のNS、EW成分と地震動モデルの波形、速度応答スペクトラムの比較により、地震動モデルと観測地震動は全体的に良く合致していることが示された。しかし、3次元地盤での地震動を波動伝播理論を用いて計算すると莫大な時間を必要とする。そこで今年度は、前年度の研究成果を更に発展させ、上記の3つの観測点の震源から地震基盤までの地震動は従来と同じ3次元地盤波動伝播理論を用いて計算し、1次元の地盤で置換された表層地盤の基盤に、その地震動を入射し、表層地盤での任意の位置での地震動を評価する方法を示した。この様にして作成された地震動モデルにより、神戸大学、新神戸変電所、松村組の技術研究所の3ヶ所の地震記録のシミュレーションを行なった結果、3次元地盤の波動伝播理論を用いて作成した前年度の地震動と殆ど同じ程度のシミュレーション結果が得られた。この研究によって、兵庫県南部地震の様な直下型地震動に対しては、今年度示した方法で、将来発生する兵庫県南部地震の様な直下型地震動を極めて短時間に予測出来る可能性を充分に示した。
著者
小菅 正裕
出版者
弘前大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

本研究は、地震波の波形を用いて震源位置を推定する方法を開発し、特に本震直後の余震活動を明らかにすることを目的としている。2011年東北地方太平洋沖地震等については通常の方法での震源決定を行い、余震域が本震からの経過時間の対数に比例して広がったことを明らかにした。本研究で開発した方法は、ひな形(テンプレート)地震と連続波形の相関を用いて震源を推定するものである。この手法を東北地方太平洋沖地震へ適用したが、余震活動の全容解明には課題を残した。しかし、この手法の改善により、例えば地殻内の流体分布の解明などへの応用が期待できる。
著者
布川 日佐史
出版者
静岡大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

生活保護における就労支援の一環として始まった福祉事務所と公共職業安定所の連携をもとに、公共職業安定所の就労支援においても、「就労のための福祉」が課題として位置づけられるようになった。本研究は、「就労のための福祉」の展開に着目し、生活保護の実施機関である福祉事務所(自治体)と、職業紹介の実施機関である公共職業安定所(国)との連携のあり方と役割分担、すなわち、就労可能な生活困窮者に対する最低生活保障と就労支援のあり方を検討した。
著者
下野 洋平
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

乳がんでは、寛解後10年以上してからがんの転移性再発がみられることがある。このような再発には、転移先の臓器で細胞周期が停止した休眠状態を維持して潜在するがん細胞が関与するとされる。本研究では、ヒト乳がん組織を直接移植したヒト乳がん異種移植マウスのがん細胞の多くが細胞周期の停止したG0期にあること、がん細胞の細胞周期の停止と一次繊毛の有無には関連がないこと、およびケモカインレセプターCXCR4の発現低下が細胞周期の停止と関連することを解明した。さらに、ヒト乳がん異種移植マウスのがん細胞に特徴的な発現を示す一連のマイクロRNAを同定し、それらが制御する遺伝子およびシグナル伝達系の一端を解明した。
著者
中村 るみ
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

1.磁気嵐/サブストームに伴う磁気圏尾部内でのプラズマ流の変動GEOTAIL衛星データを用いた磁気圏尾部内部でのプラズマ流の解析結果を基に,サブストーム、磁気嵐等の擾尾現象に伴う粒子加速の開始領域について議論した。GEOTAILによる、従来より広範囲での観測結果から、加速された粒子が再分配される際に起こる、尾部に向かってのエネルギー解放がどのように進行し、磁気圏構造が変動するかを示唆した論文を発表した。2.磁気嵐時の磁気圏構造と磁気圏尾部に蓄られるエネルギー量の導出GEOTAIL衛星が磁気圏遠尾部境界付近に位置していた期間のデータを用いて、磁気圏尾部のサイズ、磁気フラックス量を求め、磁気嵐/太陽風変動に伴う磁気圏形状と磁気圏遠尾部内に蓄積されるエネルギーの変動を調べた。その結果、磁気圏遠尾部断面の形状が磁気嵐各相での太陽風/惑星空間磁場の圧力の非等方性により変形することや、100Re以遠の磁気圏尾部領域でも、磁気嵐に伴い、磁場のエネルギーの蓄積が、見られることが明らかとなった。本研究テーマについての結果をまとめた論文は現在、印刷中である。3.磁気嵐に伴う高エネルギー粒子フラックスから求めた内部磁気圏構造の変動極軌道衛星SAMPEXの1MeVの電子データを用いて、磁気嵐に伴う内部磁気圏の粒子分布の変動を統計的に調べた。特に、L=2〜8の領域での電子データに見られる急激な減少/増加が、環境流発達に伴う磁場変動が引き起こす捕捉粒子軌道の変化が原因とした場合に、どの程度解釈できるかを、環電流のモデルを使って比較することで考察した。結果については、現在投稿準備中である。
著者
小張 敬之 木村 みどり 木村 みどり
出版者
青山学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

ELPcoは、日本ユニシスと協力してLMsを開発してきた。LMsが、iPod等の携帯ツールを利用することにより、e-1earningやm-1earningを可能にし、新しい技術を統合的に利用して学習することが、学生の興味・関心を高め、自立した学習者を養成し、効果的な学習成果をあげている。ネットワークを利用した英語学習において、携帯電話は小さなコンピューターとして機能し、ドリルやテスト、チュートリアルやWeb上でのSocial learningも可能である。我々の研究により、新しい技術を融合したブレンド型の学習を通して、より理想的な指導と学習環境を提供できることが判明した。学習者は現在、モバイルコンピューターの技術発展により、時間と場所を問わずにあらゆるテーマに関する学習ができる。
著者
原 大介
出版者
豊田工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

日本には「中間型手話」呼ばれるタイプの手話があり、一般的には日本手話と日本語対応手話の文法が混ざり合ったものであると言われるが、明確な「混合」は確認できなかった。聴者が使う中間型手話は、音声日本語のフットをリズムの単位として利用する傾向がある。語表出の時間は日本手話よりも30%超長い傾向にあった。取扱い分類辞と道具分類辞の使用比率においては、聴者の中間型手話は、日本手話や手話を知らない日本語話者のジェスチャーにおける使用比率と有意に異なっており物品のどの側面に着目しCLとして表現するかに独自性が見られた。ろう者が使用する中間型手話は、表出方法は簡略されるが日本手話文法に依存する傾向が強かった。
著者
広瀬 慎一
出版者
富山県立大学短期大学部
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

富山県高岡市の玄手川(延長3km)は農業用排水路で、効率的な排水処理と、小魚のトミヨや水草のナガエミクリを中心とした生態系の保全の両立を目的として、水路底の80%をコンクリートとする近自然工法で改修された。また、中流部100mには水路底を砂利舗装とした生態系保護区が設けられた。施工前後約10 年間にわたるモニタリングの結果、近自然工法については、湧水は元に戻り、堆砂は適度で、トミヨやナガエミクリなどの生態系は回復した。排水処理のための水草刈りは、やり易くなったとの農家の評価であった。生態系保護区(ワンド)については、植生は近自然工法の本川よりす早く回復し、トミヨは施工前より倍以上の密度となった。また、水路断面の詳細流速分布調査から、水草内領域における流速は、水草外領域の流速の約3割であり、トミヨが長時間遊泳できる流速(巡航速度)が水草内領域で実現されていることがわかった。以上から、近自然工法と生態系保護区(ワンド)を組み合わせたミチゲーション(影響緩和)手法」が排水処理と生態系保全の双方に効果的であることがわかった。
著者
津止 正敏 斎藤 真緒
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究は近隣コミュニティとその動力を焦点化している。従来の堅固で安定的なコミュニティ開発の中核的動力は、階層化を伴いつつ不安定で流動化という変容過程にある。コミュニティ開発を担うボランタリーアソシエーションもNPO等新たな主体も影響力を強めている。開発主体の変容は、「エリア・テーマ・クラス」の三位一体型コミュニティ・タイプから、「エリア」「テーマ」「クラス」それぞれに分離独立あるいはクロスオーバーする複雑なコミュニティ・タイプを不可避としている。
著者
中村 由美子 宗村 弥生 内城 絵美 伊藤 耕嗣 杉本 晃子 鳴井 ひろみ 吹田 夕起子 澁谷 泰秀 浜端 賢次 杉本 晃子 権 美子
出版者
青森県立保健大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本研究では,病気の家族メンバーがいる家族へのケアを支援するために,項目反応理論を用いた家族機能尺度の有用性について検討することを目的とした。病気の家族メンバーには、がん患者や介護の必要な高齢者を含んでいた。有効回答を得られたのは195名(男性52名,女性142名)であった。構造方程式モデリング手法(共分散構造分析)を用いてモデルを構築した結果,"家族機能"と"QOL"という2つの構成概念が直接影響を及ぼすことが示された。また,項目を洗練化するために,合計19項目からなる尺度を項目反応理論(IRT)によって分析した。項目反応理論を用いた分析は,項目の洗練化だけではなく家族機能モデルの開発にも有用であった。
著者
今野 裕昭
出版者
宇都宮大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

震災後の生活再建過程に関する真野地区の被災者への面接聞き取り、アンケート調査の再分析、避難所避難者の属性分析、および、まちづくり推進会(復興まちづくり事務所)による地区復興の推移を総合した結果、次のような知見を得た。(1)震災そのものの被害に、高齢者、障害者、母子家庭、低所得者、貸貸家屋居住者など社会的弱者への集中という階層性と、彼らが多く滞留するインナーシティヘの集中という地域差別性とが確かめられたが、その後の生活再建の過程はこの階層間の格差をさらに増大するものであった。(2)[住の再建]避難所→仮設住宅→災害復興住宅という、行政が用意した復興プランにのり比較的自立的に再建できたものおよびぎりぎりのところで再建できたものと、最初から貸家に留まりこのルートにのれなかったものとの間の格差が拡大してきている。政策的な配慮から漏れた中高年層も、社会的弱者の立場に立たされてきた。(3)[職の再建]仮設工場、災害復興工場のメニューを行政は用意しているが、こうしたルートにのれるのは大きい企業者のみであり、中小零細自営業主は、家族・親戚、得意先の助力で再建しても、その後の不況もあって、運転資金にすら困る状態が続いている。(4)[社会的環境]被災者を被災した場所にという方針が最初からとられなかったために、従前のコミュニティは消失し、災害復興住宅でもコミュニテイが形成されていない。(5)行政が用意した生活再建のルートにのれない人にとって、行政と住民の間を仲介する中間集団の支援が必要であることが明らかになった。
著者
鈴木 治
出版者
独立行政法人医薬基盤研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

生物資源保存の重要性が指摘されているが,実験用齧歯類として重要なシリアンハムスター,スナネズミ,モルモットなどは胚・精子凍結保存が完備されていない。そこで卵巣を凍結保存することによる系統保存法の確立を試みた。シリアンハムスターではガラス化保存卵巣由来の産仔が得られたが,スナネズミとモルモットについては産仔が得られなかった。それらの動物種では移植免疫や手術手技を考慮する必要があると思われた。
著者
木下 博 門田 浩二 伊東 太郎 平松 佑一 木村 大輔
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

健常成人を対象に手指での6gから200gまでの軽量小物体の精密把握運動中の把握力・持ち上げ力関係について調べた。重量が22g以下では把握面の摩擦状況に関わらず軽量程把握力/持ち上げ力比、把握力に占める安全領域の割合、力の変動係数が増大した。重量弁別実験および指先の物理的変化実験からは皮膚感覚情報が軽量物体把握時に減少することが示唆された。軽量域での把握力の変動増大と安全領域の上昇は、被験者自身が随意的に把握力を必要以上に上昇させていることも示しており、把握力の対費用効果が軽重量域では重い重量とは異なり対生理学的効率よりも対心理的安定性を重視する戦略が取られていることが示唆された。
著者
津森 登志子
出版者
県立広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

メラノコルチン4受容体(MC4R)がキイロールを果たすとされる中枢レプチン・メラノコルチン情報伝達系は、摂食行動やエネルギー消費のみならず、血糖値やインスリンの恒常性にも重要な役割を担っている。MC4Rプロモーターの支配下に緑色蛍光蛋白を発現する遺伝子導入マウスを用いて、研究代表者らは迷走神経背側運動核 (DMV) が多数のMC4R発現ニューロンを含むこと、またこれらのニューロンの中に胃や十二指腸の壁内神経節あるいは膵内神経節のニューロンにシナプス形成するものを見いだした。これらのことから、MC4R発現 DMV ニューロンからの投射線維は胃腸や膵臓の機能調節に密接に関与することが示唆された。