著者
松本 美佐子 瀬谷 司
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

エンドソームに局在するToll-like receptor 3(TLR3)はウイルス由来の二重鎖RNA(dsRNA)を認識し、タイプI インターフェロンや炎症性サイトカイン産生の誘導、樹状細胞の成熟化を介して抗ウイルス応答を誘起する。しかしながら、どのように細胞外dsRNAをエンドソームで認識するか不明である。本研究では合成dsRNAのpoly(I:C)によるTLR3活性化機構を解析し、poly(I:C)の取り込みとエンドソームTLR3への配送に細胞質タンパクRaftlinが必須であること、RaftlinはクラスリンーAP-2複合体と協調してdsRNAの取り込みに働くことを明らかにした。
著者
伊藤 節子
出版者
同志社女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

食物アレルギーの治療の原則は、正しい抗原診断に基づく必要最小限の食品除去である。京都市内保育園児における調査では、乳児の10.4%が食品除去をしていたが、加齢とともに減少し、除去食品は卵、牛乳、小麦が全体の75%以上を占めていた。そこで加熱調理による卵、牛乳、小麦の抗原性の変化を定量的に検討したところ、加熱や副材料により卵の抗原性は低下させることができ、負荷試験後の食事指導に使用可能な卵アレルゲン食品交換表が作成できた。主な食品の調理による抗原性の変化を加味した食事指導指針を作成した。
著者
小林 繁
出版者
明治大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

精神障害をもつ人の学習・文化支援においては、地域での生活支援や就労支援と連携しながら豊かな人と人との関係をどう作り上げていくかが重要である。それは、様々なプログラムを通して言葉の回復を中心とした豊かで多様なコミュニケーションの力を引き出し・創造していく課題であるということができる。そのためには、当事者へのエンパワーメントの支援が不可欠であり、同時に安心できる居場所などを提供していく取り組みが求められるのである。
著者
坂本 貴彦 黒澤 博身 岩田 祐輔 村田 明
出版者
東京女子医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

以前におこなった研究結果(Miura T, Sakamoto T, et. al. JTCVS: 133:29-36,2007)を踏まえて、軽度低体温〜常温体外循環中の脳循環生理を把握し現在汎用されている体外循環法の脳組織に及ぼす影響に関してpreliminaryな慢性実験を施行した。【対象と方法】Yorkshire pig(生後4-5週目、N=6、8.4-14.0kg)を用い、気管内挿管下に実験を開始、近赤外線分光器(NIRS: NIRO300,浜松ホトニクス)を前額面に装着した。全身麻酔下に、右開胸にて心臓に到達し、大動脈送血、右房脱血にて体外循環を確立した。脳循環生理に大きな影響を及ぼすと考えられる潅流因子の中で、臨床上汎用されている軽度低体温下でのalpha-stat strategyの脳組織に及ぼす影響を中心に実験をすすめた。軽度低体温(34℃)体外循環を90分間、Hct値30%、alpha-stat管理下に施行した。実験終了後、体外循環から離脱しカニューレを抜去し閉創をおこない、その後循環呼吸管理をおこない、人工呼吸器からの離脱をはかった。一週間経過観察をおこない、その間に毎日、実験内容を知らされていない獣医による行動評価をおこなった。行動評価にはNeurological Deficit Score(NDS)およびOverall Performance Categories(OPC)を用い、また一週間目に動物を犠牲死せしめ脳組織の顕微鏡的観察をおこなった。病理組織的診断は実験内容を知らされていない病理医がおこない、細胞レベルの虚血の有無を点数化し実験のendpointとした。【結果】NIRSは特別異常な経過を示さなかった。NDS, OPCともに一週間正常値を示し、豚は外見上異常行動を認めなかった。しかしながら脳組織Neocortex, Hippocampusを中心に虚血性変化を認めた。【考察・結論】Hct30%、軽度低体温下の小児体外循環において、現在多くの施設で汎用されているalpha-statstrategyでは組織レベルの脳障害を惹起している可能性が示された。行動評価が正常範囲内であることから、臨床上問題とならない軽微なものである可能性が高いが、脳高次機能の点では疑問が残り、良好な脳循環を確保しやすいpH-stat strategyの導入がこれを解決することが期待される。今後、血液希釈の程度との相互作用についての慢性実験の重要性が示唆された。
著者
因 京子 松村 瑞子 西山 猛 チョ ミギョン
出版者
日本赤十字九州国際看護大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

映画を用いる教材と教師用リソース、日本人学生にも用いることのできる観察と分析の技能養成のための教材および教師用リソース、ドラマを用いた教室活動案を作成した。ストーリーマンガに基づく教材と教材開発の方法論の議論を含む大学院生向け集中講義を海外と日本で行い、受講者、外国人を含む教師および教師志望者を対象に、使用可能性についての判断を調査した。開発した教材や教材開発の方法論等についての招待講演を海外において2回、国内で1回行なった。
著者
高山 知明
出版者
金沢大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

近世初期における発音への関心の高まりに関する問題を中心に考察した。注目すべき点としては、五十音図の果たした役割である。五十音図はこの時期、謡曲の指南書にも多く引用されている。このことは,五十音図の普及,浸透という点から見て興味深い。すなわち,これが社会的により広く知られるようになったことを示している。しかし,謡曲においては,この当時に特有の五十音図の役割についてより具体的に明らかにする必要がある。その役割について考える上で問題となるのは,中世期から江戸期にかけて生じた諸々の音変化である。長母音の形成、四つ仮名の合流,あるいはさらにハ行子音の脱唇音化といった変化は,いずれも五十音図本来の枠組みから外れる方向を持つ。そのため,当時の知識人たちは,現実の発音と五十音図とのズレに正面から向き合わざるを得なかった。しかし,現実の発音と仮名との関係を知る上で,五十音図を座標に据えると便利である。それとのズレによって体系的な把握が可能になるからである。とくに,謡曲のようにその発音法に独特の伝承を持つ場合には,その発音法を理解する上で五十音図は必要なものであった。五十音図をあらかじめ頭の中に入れておくことによって,どこに注目すればよいかを組織立てて理解することができる。「いろは」しか持ち合わせていないとそのような理解に到達するのは容易ではない。また,当時,五十音図はさほど特殊な存在ではなく,知識層一般にとって受容可能なものになっていたからこそこのように利用できたのであろう。蜆縮涼鼓集をはじめとして,言語音そのものに対する関心が高まった社会的背景に,上述のように五十音図が重要な役割を持って使われていたことが挙げられる。また,別の問題として,近世期の状況を理解するためには、漢語の問題も重要であり、漢語の音韻的特徴についての考察は本課題の研究を今後深めるためにさらに必要になる。
著者
宮崎 章 渡部 琢也 平野 勉 七里 眞義
出版者
昭和大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

高脂肪食を負荷したアポE欠損マウスに、強力な血管収縮作用をもつ血管作動性物質であるウロテンシンIIを持続皮下注すると、動脈硬化病変は8倍に増加した。ウロテンシンII投与マウスから得た腹腔マクロファージの酸化LDLによるコレステロールエステル蓄積(泡沫化)は、対照群の7倍に増加していた。同一の前駆体から派生する新規血管作動性物質として同定されたサリューシンα、βをアポE欠損マウスに持続皮下注すると、動脈硬化病変形成はサリューシンαにより54%抑制され、サリューシンβにより2.6倍促進した。腹腔マクロファージの泡沫化は、サリューシンα投与マウス由来の細胞で68%抑制され、サリューシンβ投与マウス由来の細胞で2.6倍に増加した。ウロテンシンIIやサリューシンは動脈硬化治療のあらたな標的分子として注目される。
著者
鳥谷部 茂
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

バブル経済崩壊後に導入された新たな資金調達方法について、民法の制度設計から、従来の担保制度と整合的な基準を明確にすることにより、堅実で、かつ、効果的な効力(当事者間の効力、第三債務者に対する効力、第三者に対する効力)を導くための検討を行った。その結果、公序良俗による制限、包括根担保による制限、担保構造(被担保債権額、目的債権の特定、第三債務者の特定等)による制限、第三債務者保護による制限、当事者の変更(交替)等による制限などを前提とした再構築が必要であることを明らかにした
著者
西成 活裕
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

車や人の渋滞について、理論解析および実験をおこない、その解消方法を提案した。まず、車の渋滞について、織り込み合流部の理論解析を行い、流量低下を避けるために、車線変更禁止線を引くことで合流ポイントを遅らせるアイディアを提案した。さらに高速道路でのサグ部の渋滞緩和について、渋滞吸収走行の社会実験をした。人の渋滞についても、成田国際空港などの大規模施設における渋滞緩和を想定し、入国審査場での待ち行列の最適化の研究をした。
著者
小林 宜子
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

12世紀半ば以降、イングランドを含む西ヨーロッパ各地の世俗君主の宮廷において、アリストテレスやキケロに代表される古典古代の政治倫理思想の影響を受けながら、世俗社会の政治構造やその倫理的基盤を俗語で論じ、俗語に備わる表現能力を政治理論や社会思想の領域でも最大限に高めようとする努力が盛んに行なわれるようになった。本研究は、14世紀末から15世紀半ばまでのイングランドにおける俗語文学の発達を、こうした汎ヨーロッパ的な思想的潮流の一環として再検証した試みである。
著者
井関 俊夫
出版者
東京海洋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究課題では、非定常な船体動揺データに対して、時変係数自己回帰モデルによる瞬間スペクトル解析の有効性を明らかにするとともに、近年問題となっているパラメトリック横揺れの解析に本手法を適用し、スペクトル構造の時間的変化の解明を理論的ならびに実験的に試みた。当該研究期間内に実施した研究の成果は以下の通り。1.理論的検証:追い波中縦揺れ時系列データに現れる歪度の変動を理論的に検証した。波と船体の幾何学的位置関係による非線形復原力変動が原因と考えられることから、一自由度振動系の理論的検証を行うとともに、瞬間バイスペクトル解析法を提案し、歪度の変動がほぼ説明できることを示した。また、パラメトリック横揺れの理論的考察結果と規則波中実験結果を比較し、横揺れパワースペクトルのピークが一致して存在することを示した。また、時変係数自己回帰モデルを用いた瞬間スペクトル解析結果から、パラメトリック横揺れ発生までの過渡的特徴を明らかにした。最後に、トライスペクトル解析を適用し、パラメトリック横揺れの特徴を確認することができた。2.実験的検証:本学練習船汐路丸の実験航海に参加して非線形船体動揺データの計測を行うとともに、詳細な海象データを得るために、海上保安庁に協力を要請し、野島埼灯台のレーダ波高観測データを入手した。また、1/40汐路丸模型船にワンチップマイコンとラジコン用サーボモータを用いた制御装置と、動揺センサと無線式RS232C通信ユニットを組み合わせた計測装置を搭載し、大振幅実験用自航模型船に改造して大振幅動揺実験を行い解析した。
著者
石塚 譲 因野 要一 西岡 輝美 出雲 章久 川井 裕史 山田 英嗣 大谷 新太郎 入江 正和 上脇 昭範 庄 澄子 高倉 将士 西田 祐子 大石 武士 安田 亮 おおちやまくじら生産組合 猟友会能勢支部
出版者
大阪府立食とみどりの総合技術センター
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

野生獣肉(ホンシュウジカ、イノシシ)成分は野生植生の影響を受けていたが、一般成分に捕獲時期の影響は少なかった。成分中では粗脂肪含量が家畜に比して少ないこと、イノシシ肉のα-Toc含量はブタ肉と同等であること、牛肉よりは酸化しやすいことが判った。利用先である西洋料理店は、年間を通じて野生獣肉を利用しており、肉利用にあたり品質や安全性を重視していること、購入価格が高いと考える店が多いことが判った。
著者
佐々 恭二 山岸 宏光 福岡 浩 千木良 雅弘 丸井 英明
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

21世紀において地すべり危険度の軽減と人類の文化・自然遺産及びその他の脆弱な宝の保護の問題は重要性を増しており,そのための研究、調査の拡大・強化に向けた世界的な協力が緊要である.1999年12月,ユネスコ事務総長と京都大学防災研究所長の間で合意覚え書き「21世紀の最初の四半世紀における環境と持続できる開発のための鍵としての地すべり危険度軽減と文化・自然遺産保護のための研究の推進に関する協力」が交わされた.この合意を推進するため,以下の研究を実施した.1.岡山県高梁市の国史跡・備中松山城の変形し始めている基礎岩盤に差動トランス型伸縮計とクラック変位計を開発・設置し,岩盤変位の精密計測を開始した.2.ユネスコ世界遺産の中で最も著名で,大規模な岩盤崩壊の地形の真上に位置し,クラックや小崩壊などの危険な兆候を示しているペルーのマチュピチュ遺跡の調査と斜面変動の高精度計測のため簡易伸縮計を開発し,11月に現地に持ち込み設置した.3.日本学術会議において2001年1月15日〜19日にかけて,UNESCO/IGCP Symposium on Landslide Risk Mitigation and Protection of Cultural and Natural Heritageを開催し,19カ国,57名が参加し,研究発表・研究推進の打合わせを行った.国際的な地すべり研究の枠組み設立のための「2001年東京宣言:Geoscientists tame landslides」を採択した.佐々が報告したマチュピチュ遺跡の地すべり調査結果と伸縮計観測結果は英国BBC,米国CNN,ロイター通信社,読売新聞等で世界的に報じられ,地すべりの危機に晒される文化遺産に対する国際的な関心を高めることに寄与した.なお,同シンポで発表された論文の中で優れたものを編集しSpringer Verlagより単行本として出版予定である.
著者
作道 信介 羽渕 一代
出版者
弘前大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

ホールド仮説とは、戦後青森県において出稼ぎが「地域を形成し人を留め置く力」として働いたという仮説である。本研究はホールドの実態を下北半島の漁村での生活史調査によって検討した。出稼ぎ者は高賃金を求め、縁故就労によっておもに土木作業に長期継続で稼働した。出稼ぎ維持の背景には経済的動機だけではなく、漁業への愛着、職場での重用、仕事の魅力、出稼ぎを組み込んだ人生設計といった心理的要因があることがわかった。
著者
坂元 眞由美 松本 大輔 川又 敏男 山崎 郁子 中村 美優 安藤 啓司 傳 秋光 川又 敏男 安藤 啓司 山崎 郁子 傳 秋光 中村 美優
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究は重度認知症高齢者の自律神経に音楽がどのような影響をもたらすのかを明らかにすることにある。方法はCDRにて分類した重度認知症高齢者に対し、好きな音楽を用いた介入を個別に週1回、能動的参加群と受動的参加群、コントロール群に分けて行なった。評価方法は加速度脈派測定システム・フェーススケールを使用した。その結果、好きな音楽の受動的聴取または能動的歌唱の両者共に精神安定効果があることを確認した。
著者
井上 純子 平工 雄介 川西 正祐
出版者
鈴鹿医療科学大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

本研究の目的は、吸入された黄砂の肺細胞への影響とその作用機構の解明であった。炎症を介した酸化的損傷機構の関与を予測した。黄砂などのマウスへの投与は生理食塩水に懸濁させ点鼻で行った。週1回4回投与後取り出した肺組織に黄砂投与群で炎症が認められ、ニトログアニン、8-oxodGの生成が示唆された。8-oxodGをHPLCで定量し、黄砂投与群での有意な増加が認められた。これらの結果から、黄砂吸入による肺の炎症と酸化的損傷の関与が示唆された。
著者
細谷 実 加藤 千香子 小玉 亮子 熊田 一雄
出版者
関東学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本研究が4年間に予定していた計画と、それぞれにおいて得られた成果は以下の通りである。(1)近現代日本の言説空間においてどのような男性性がたちあらわれ、どのような社会的事象を生みだしたのか、またそれぞれの男性性がどのような布置の中で競合・協働してきたのか、という全体像のマッピング:新聞雑誌等の文献大量調査については、1930年代『東京朝日新聞』『東京日日新聞』等にあらわれた「モダン・ボーイ」と「三勇士」言説の分析、明治期『愛国婦人』における兵士言説分析、中学校同人誌r初雁』における「青年」言説分析などをおこなった。一方で教科書や育児書などの分析は完全に終了せず、今後の課題となった。したがって、競合・協働の全体像のマッピングの完成までにはまだ必要な作業が残されているが、研究協力者等よりアメリカやドイツの男性史の知見について専門的知識の提供を得たことで、全体像についての仮説提示までにはいたることができた。(2)男性性の歴史的構築におけるキーパーソン達についての人物研究を行い、個別の思想についてのより具体的で詳細な考察を深め、かっそれを(1)で明らかにした近現代日本における男性性問の競合・協働の全体像の中に位置付ける:大町桂月、出口王仁三郎、山田わか、石川啄木、福沢諭吉、新渡戸稲造、中山みきなど、さまざまな人物研究を行なった。その結果、国民軍形成過程における「武士形象」と「男」であることとの複雑な関係性など、新たな知見を1獲得した。(3)(1)(2)の成果を公刊し、また成果に関するシンポジウムを開催する:2003年度に年次報告書『モダン・マスキュリニティーズ2003年』を刊行・頒布したことで、男性史への関心をひろく喚起することができた。シンポジウムについては、ジェンダー史学会のシンポジウム参加などを行なったものの、本研究プロジェクト単独での開催には至らず、今後の課題となった。
著者
生城 浩子
出版者
大阪医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

セリンパルミトイル転移酵素(SPT)はスフィンゴ脂質生合成の初発かつ律速段階の反応を触媒する.SPT活性の変動が細胞内スフィンゴ脂質の種類と総量に直接影響するため,本酵素の活性制御機構の解明は重要である.(1)スフィンゴ脂質含有細菌のSPT遺伝子をクローニングし,大腸菌ないでの大量発現系を構築し,組換え酵素の精製方法を確立した.(2)非反応性の基質誘導体S-2-オキソヘプタデシル-CoA(以下誘導体と略)を合成し,組み換えSPT精製標品を用いて,SPT・L-セリン・アシル-CoA誘導体の三者の反応を詳細に解析した.SPTにL-セリンを加えるとミカエリス複合体を経由して外アルジミン中間体を生じた.SPT-L-セリンニ者複合体に誘導体を添加しても最終生成物である3-ケトジヒドロスフィンゴシンへは変換されなかったが,吸収スペクトルにおいてキノノノイド中間体の新たなピークが観測された.この三者複合体の時間分解スペクトルの速度論的解析の結果,誘導体の結合によってキノノイド中間体の生成・蓄積が誘起され,キノノイド中間体と外アルジミン中間体の平衡状態で反応が停止していることが示された.(3)SPTによるL-セリンCα位の脱プロトン反応の速度(キノノイド中間体生成の反応速度に対応する)をNMRによって解析した.NMR解析はSPT二者複合体におけるL-セリンのCα位の水素-重水素交換は非常に遅いが,誘導体の添加によって100倍加速することを示し,SPTにおけるsubstrate synergismを示した.(4)SPT・L-セリン外アルジミン複合体の立体構造を2.3〓の分解能で決定した.このデータに基づき,SPTの触媒作用における保存されたアミノ酸残基の役割についての議論が可能になった.
著者
田中 義郎
出版者
玉川大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

K_12の教育改革はアメリカが如何に子どもを教育するのかを反映している。しかし、こうした改革の努力が、既存の大学入試や入試政策とのギャップをむしろ広げ、高校での大学進学準備を不適切なものにしていると指摘され、問題点が三つ挙げられている。(1)高校での大学進学準備に関して、生徒のアセスメントのための客観的な評価尺度が欠けている、(2)高校生が行う大学教育の準備と大学入試や入試政策の基準に不整合がある。(3)高校教育改革の中で、大学教育への準備は重用視されていない。こうした状況が、大学への進学を希望する高校生や高校に、混交した情報と方向づけを与え、K_12における数多くの教育改革の努力の最終的な効果を疑問視させるに至ったとされる。整合性に加えて、大学教育は大学卒業率の低下とフレッシュマン(大学1年生)のリメディアル率の上昇を憂慮している。高校で良く準備されて大学に入学してくる学生たちは、こうした問題を抱えずにすんでおり、良好な大学生活を送っている。我が国の場合、高校教育の再検討というよりも、高校での十分な学習ができていないままに大学に入学してくる学生のリメディアル教育の仕組みをどう作るかといった議論が中心であり、大学教育と高校教育との接続において、大学進学を準備するために高校教育を如何に見直すかといった議論が不足していることが再確認された。ユニバーサル時代とは、誰もが大学教育にアクセスできる時代であり、大学はそうした時代に対応すると同時に、その時代を担うという大学の使命を全うするために、内容そのもののユニバーサル化ではなく、そこへのアクセスのユニバーサル化を可能にする努力が大学と高校の間に作られてきていることが確認された。本研究を通じて、社会に出る準備をする期間が大学にまで延長されたという現実とそれを支えるシステムの構築(入学試験と前後の教育の有り様)を如何に準備するかがより鮮明となった。
著者
伊藤 敬雄 大久保 善朗 須原 哲也
出版者
日本医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本邦における自殺者は3万人を10年連続で超え、自殺率は先進国の中においても極めて高し状態で推移している。本研究において、睡眠の量的不足と不規則な睡眠習慣が、直接的もしくは間接的に自殺企図・自殺衝動のリスクを増大させる可能性があると報告した。まず、われわれは認知症高齢者での自殺研究で、画像解析から血管性認知症では基底核の多発性梗塞、アルツハイマー型認知症では左側前頭葉の萎縮が、自殺衝動性との関連性を伺わせる報告をした。次に、われわれは、救命救急センターに搬送された自殺企図者を対象に再自殺率の調査を行った。自殺企図の背景には、その時代を反映した心理的、環境的、社会的、文化的精神病理と家族内関係の問題が複雑に絡み合って存在している。自殺の背景因子把握と精神症状評価をしたうえで、長期に渡るケースマネジメントを行うことが自殺企図者に対して必要であることを報告した。また、気分障害圏、統合失調症圏、そして中高年者の自殺企図の特徴として、致死性の高い自殺企図手段を選択する場合が他群に比して多く認められた。うつ病と中高齢者における自殺企図と衝動性の関連において、脳器質的要因、とくに左側前側頭葉の萎縮と、そのほか、気分障害の既往歴、睡眠障害の既往、そしてアルコール乱用・依存者に強い関連性を指摘した。しかし、当初考えられていたセロトニン系の問題を検討したが、本年度の研究ではそれ以上の生物学的関連を見出すことは出来なかった。自殺率が一向に減少しない本邦において、今後、心理社会学的な自殺予防の取り組みとともに、中高齢者の症例数を重ねることで、自殺企図・自殺衝動と生物学的要因の関連について解明を図って行く必要性がある。