著者
長野 仁 高岡 裕 真柳 誠 武田 時昌 小曽戸 洋
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

中国を起源とする漢方だが、腹診と小児鍼は日本で発達した診断・治療法である。本研究の第一の目的は、日本における腹診の発達の歴史の解明である。加えて、もう一つの日本発の小児鍼法も解析対象である。本研究の成果は、腹診の起源と変遷と、小児鍼成立に至る過程、の二点を解明した事である。加えて、資料の電子化とオントロジー解析も実施し、更なる研究に資するようにした。
著者
狩俣 繁久
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

本研究は、東京大学名誉教授柴田武が1970年から1975年までの6年間に宮古島平良市で調査して得られた宮古平良方言資料に記載された方言語彙(「柴田ノート」)をパソコンに入力して整理し、録音した。(1) 総語数1万1千のうち、重複を整理し、6千5百に確定した単語について、宮古平良市で、柴田武東大名誉教授が調査した立津元康さんと同じ平良市下里出身の話者の方言を録音した。病気等で録音ができなくなった話者にかわって、新たに話者を選定し直した。下地明増(大正7年生)、下地文(大正12年生)のお二方で、ともに下里生まれで下里育ちで、現在も下里に在住の方である。(2) 録音場所は前年度にひきつづき平良市中央公民館和室を利用した。録音は、蝉の声などの雑音がなく、遮音のために部屋を閉め切っても暑くない冬を選んだ。録音は若干の補足調査をのこしてほぼ終了した。(3) その方言語彙を録音資料の音質、および保存性にすぐれているDAT(デジタルオーディオテープ)とMD(ミニディスク)を使用して録音した。MDは補助的な録音である。(4) 「柴田ノート」から25年経っていて、現在の話者が知らないと答える語も少なくなかったし、発音の変化した単語も若干みられたが、全体に影響をあたえるほどのものではなかった。(5) 録音された音声をもとに平良方言の音声の詳細な分析をおこない、類似の音韻体系をもった、おなじ宮古諸方言の下位方言の調査もおこなった。
著者
吉田 勝平
出版者
高知大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

エネルギー変換用蛍光色素の開発を目的として新規複素多環系固体発光性色素を分子設計・合成し、これら色素の溶液状態および固体状態における光物性を測定し、固体発光性とX線結晶構造の相関性を追究した。さらに、色素を高分子樹脂中に含有させた蛍光フィルムを試作し、それら光物性や耐光性を評価した。蛍光フィルムは優れた波長変換機能と良好な耐光性を示し、太陽光や人工光の波長分布を簡便に調整できることがわかった。
著者
田坂 敏雄
出版者
大阪市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

バンコク・ファッション・シティ計画とは、ファッション産業関連3業種の国際競争力強化を狙った産業政策である。本報告の第1章では、バンコク・ファッション・シティ計画とは何かを追究する。本報告では、11のサブ・プロジェクトの目標と課題を示し、現在、どのように取り組まれているかを解説した。同計画は「人の創造」や「まちの創造」だけでなく、何よりも「ビジネスの創造」である。「ビジネスの創造」とはファッション関連3業種である繊維・衣料産業、製靴・皮革産業、宝石・ジュエリー産業の競争力を強化する計画である。そこで、第2章では繊維・衣料産業を取り上げ、この産業を取り巻く国際状況を概説する。そして衣料産業がサプライチェーンを改善し、グローバリゼーション時代に対応する構造改革に取り組んでいる状況について解説する。第3章は宝石・ジュエリー産業の現状と競争力強化計画を取り上げる。バンコク・ファッション・シティ計画は、産業競争力の強化計画の中でも、とくに人材の育成に力をおき、デザイン力やブランド開発に結び付くことを狙ったものである。それは、タイの宝石・ジュエリー産業がもはや下請け生産や委託生産では生き残ることが出来ず、デザイン力やブランドを開発して直接的に消費者に結び付くことを企図したものである。第4章では製靴・皮革産業を取り上げる。製靴・皮革産業の競争力強化プログラムの特徴は、国際的な下請け生産の基地から自前のデザインやブランドの創造を目指し、専門家による個別のビジネス・プランを提案しているところにある。また、バンコク・ファッション・シティ計画に関する資料と、AFTAの影響について考察したタイ開発研究所(TDRI)の3つの報告書を翻訳した。タイ工業連盟(FTI)は、「AFTAの発効がタイのファッション産業にどのような影響を与えるか」について、タイ開発研究所に調査を依頼した。タイ開発研究所は、ファッション産業を(1)繊維・衣料産業、(2)宝石・ジュエリー産業、(3)皮革産業に分け、それぞれの産業実態と国際競争力について調査し、1996年にタイ工業連盟に答申した。本報告書では、その3本の報告書の翻訳を納めている。また、「バンコク・ファッション・シティ構想に関する資料」では、タイ工業連盟の機関誌に載った論文とインタビュー記事、『トラキット・カーウナー』誌の特別論文、そして産業振興局の『ウサハカム・サーン』誌の論文の計4本を翻訳・紹介したものである。これらの論文やインタビュー記事により、バンコク・ファッション・シティ計画の基本的内容を掴むことができるのではないかと考える。
著者
平塚 良子 植田 寿之 藤田 博仁 久保 美紀 戸塚 法子 牧 洋子
出版者
大分大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本研究の目的は、福祉サービス利用者の生活事象を環境との関係で捉えるために多次元的・全体的・総合的に把握するエコマップ(eco-map)の評価尺度の開発を行い、利用者の生活支援に資することにある。加えて、人間と環境との関係理論の構築をも遠望している。研究方法は開発した評価尺度(評価モデル)をソーシャルワーカーに実験的に適用してもらい、評価尺度の妥当性、客観性、信頼性等々を図りつつ安定した評価モデルを導き出すというものである。最終年にあたる今年度の成果の特徴は、下記の通りである。1)評価モデルの最終的な精査を行い、最終版の評価モデルを導き出した。方式は初年度のデジタル型の方式を採った。物理的環境概念をより反映させ、評価の妥当性を高めるために評価尺度には「非該当」を導入した。2)評価において正確さを高めるために、(1)「エコマップ評価簡易版」と(2)評価項目、評価基準等の詳細な説明を加えた「評価ブックレット」を作成した。3)最終版評価モデルを、2)を活用しつつソーシャルワーカー(19名)が実践事例に適用するようにした。評価モデルとしては、おおむね安定性を保持することができ、本研究の評価尺度開発はおおむね目的が達成できた。4)適用結果の分析デザインにはデジタルやアナログ的発想を採り入れた。(1)評価項目と環境とをクロスさせつつ分析するアナログ方法、(2)評価項目4群に分けて図式作成し相関させつつ評価点から分析するアナログとデジタルの混合的方法、(3)試みとして実践の1事例を統計的に分析するデジタル的方法。分析手法の開発は今後の課題。5)人間と環境との関係についての全体的な特性が抽出できた。今後より詳細な分析を図りたい。6)本研究は、評価尺度開発が中心となったが、今後、集積した事例数を総合的に分析する手法の開発を手がけ、人間と環境との関係理論の構築を図りたい。(以上の詳細については研究成果報告書に記載)
著者
渡部 幹 山本 洋紀 清水 和巳 番 浩志 山本 洋紀 清水 和巳
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

制度の維持と変容を司る心理変数について、それらがどのような役割を果たしているか、そしてそれが制度とどのように関係しているかについて、3つの実験シリーズを行った。それぞれ、公共財における懲罰行動の分類とその行動に対する評価、他者の信頼性を判断する際の脳の賦活動、公正分配の規定要因、についての研究を行った。その結果、交換ネットワークの流動性や懲罰についての共有理解がそれらに影響を及ぼし、制度の生成基盤になる可能性が示された。
著者
藤原 静雄
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究の目的は、民間部門を包括的に規律するわが国個人情報保護法の次なる課題(第2世代の個人情報保護法の立法課題)を探ることである。研究期間内に実施した研究の成果は大要以下のとおりである。1.比較法研究(1)個人情報保護をめぐる、イギリス、アメリカ、ドイツ、フランス、EU、APECの動向を一通り展望することができた。とくにドイツ、EUについては、現地調査をもとに、運用実態にまで立ち入った分析ができた。(2)諸外国の動向調査は、今後のわが国の立法資料となると考えるし、個人信用情報機関、犯罪と個人情報保護、外国人問題と個人情報保護、マーク制度などの研究は、今後のわが国の個別法制を考える上で参考となると思われる。 '(3)外国の実態調査をもとにしたイギリス・ドイツでの過剰反応問題の分析は、新聞等でも紹介したように、わが国の過剰反応問題を客観的にみることに貢献したと思う。2.国内法制の研究(1)個人情報保護法の各種ガイドライン等の検討を通じて、法の運用実態を分析した。第2世代の立法課題の主要なものは把握できた。(2)安全管理(セキュリティ)についても実態を調査等することで、民間部門を規制する法の在り方を探ることができた。(3)個別法制として重要な、教育、医療、金融についても調査を進めた。とくに、教育分野については、従来の判例答申などを網羅的に検討した。(4)公的分野・私的分野を問わず、法施行後の判例・審査会答申・苦情相談等をできる限り多く収集した。今後の法制の在り方を考える上での基礎作業としての意義は大きいと考える。(5)地方公共団体の個人情報保護条例も主要なもの、特徴のあるものはほぼ検討した。
著者
伊東 正博 中村 稔
出版者
独立行政法人国立病院機構(長崎医療センター臨床研究センター)
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

放射線誘発腫瘍研究の最も大きな課題は放射線特異的な遺伝子異常や形態変化が存在するか否かであり、チェルノブイリ組織バンク症例を用いて解析を行ってきた。事故から20年が経過し周辺地域での甲状腺癌の発生は小児から成人にシフトし依然高い発生率を呈している。チェルノブイリ組織バンクには約2,500症例が登録されて病理組織や遺伝子(DNA, RNA)が保管されている。チェルノブイリ症例では遺伝的・環境的に同じ地域の自然発症例との比較データが欠けていたが、近年、同地域の非被曝小児症例が集債され、放射線被曝特異的な組織型は存在しないことが明らかになってきた。甲状腺癌の約95%は乳頭癌が占め、被曝形態や被曝年齢により様々な形態変化が存在する。乳頭癌の亜型(乳頭状、濾胞状、充実性)頻度に被曝、非被曝群間で差は見られず、手術時年齢により関連していた。そのなかで被曝時年齢と潜伏期によりある程度の形態発現が規定されていた。充実性成分は被曝時年齢よりも短い潜伏期と関連しRET/PTC3変異が高率に観察された。高分化型形態を呈する乳頭癌ではRET/PTC1変異が優位であった。短い潜伏期ほど浸潤性が高く、長い潜伏期ほど腫瘍辺縁の線維化が目立った。BRAF変異は被曝との関係は見られず年齢と強い相関を示し、若年者での変異は低率であった。RET再配列とBRAF変異は相互に排他的であった。乳頭癌の亜型間での細胞増殖指数に有意差は認めなかった。予後は概して良好で5年生存率が98.8%、10年生存率が95.5%であった。組織亜型による差は認めなかった。被曝と甲状腺癌形態の解析には更なる症例集積が必要である。
著者
三谷 研爾 吉田 耕太郎
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

この研究は、歴史的に多言語地域だったボヘミアおよびシレジアについて、そこでの複数文化共生の伝統がどのようにして学術研究の対象となってきたか、さらに蓄積された学術情報がどのようにして文化資源に転換され、実際に社会的に活用されているかを考察するものである。人文学的な研究活動とその成果利用の循環が、それぞれの地域の政治的・社会的条件に規定されながらおこなわれていることが、事例に即して検証された。
著者
和井田 清司 高田 喜久司 小林 恵 藤田 武志 小林 毅夫 釜田 聡 尾島 卓
出版者
上越教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

2年間にわたる研究では,研究協力者を含めいくつかのワーキンググループを作り成果をあげた。1.理論研究班は,文献研究を通して,総合学習の理論と方法の基礎を探究した。特に,義務制と違う高校段階の特質を,学科制度や生徒の発達段階の違いから明らかにした。2.質問紙調査班は,行政機関調査と学校調査を実施し,学校段階における実践状況と行政の学校支援の状況を明らかにした。特に,学校における温度差の違いは,創立年次との関連があること,学科制度と実践の特質に連関があることが明らかになった。3.実践研究班は,先進的な事例を参照しつつ,実践構築の方向について検討した。ここでは,総合学習の実践と学校改革が連動することで効果を発揮すること,総合学習の実践にはカリキュラム開発とともに探究ツールの活用が有効であることが示唆された。4.小中高連携班は,連続セミナーや座談会を通して,新潟県上越地域における総合学習実践上の学校間連携を追究し,その糸口を開いた。だが,総合学習の実践状況は,各学校段階において温度差があり,連携の重要性にもかかわらずその困難さも明確になった。5.海外研究班は,東アジア各国での総合学習の文献調査や現地調査(中国・韓国・台湾)を実施した。その上で,中国における総合実践活動,韓国における裁量活動,台湾における統整課程の比較を行い,総合学習の共通性と差異を明らかにした。以上,1〜5の各分野に分けて研究実績を略述した。詳細については,各種学会での口頭報告やシンポジウム,また2冊の研究報告(中間報告書2004.3,最終報告書2005.3)および紀要論文等において公表している。
著者
牧野内 猛
出版者
名城大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

濃尾平野臨海部と大江と鍋田で掘削されたボーリングの泥質コアの火山灰分析が行われ,鬼界アカホヤテフラ(K-Ah,約7000年前)など,数層の広域テフラ(広域に分布する火山灰層)が検出された.これに基づき平野表層の地下地質を検討した結果,従来と異なる新しい見解に達した.すなわち,濃尾傾動運動(西方に傾動)による沈降は,平野西部より東部が遅れ,かつ東部では小規模と認識されていた.しかし,平野東部の海成粘土層は,より早期から,かつ厚く堆積している.この事実は,濃尾傾動運動は絶え間なく進行したのではなく間欠的であった可能性を示唆している.
著者
吉水 清孝 藤井 教公 細田 典明 沼田 一郎
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

本研究において研究代表者は,研究分担者の協力の下に,『ミーマーンサー・スートラ』第2巻および第3巻の構成分析を行い,それを基にして以下の4点にわたる研究成果を発表した。1.ヴェーダ祭式の主要規定文(教令)は祭式開始に向けた命令を規定文動詞の語尾により発し,その命令が,他の個々の儀礼規定文に遷移する。この遷移によってヴェーダのテキスト内の階層的構造が成立する。2.「定期祭は昇天のための手段である」という見解と「定期祭は果たすべき義務である」という見解とは両立する。なぜならばこの規定文は「天界を望む者は祭式すべし」という教令(B)とは独立の教令だからである。この独立性は,テキスト解釈における簡潔性を重んずる解釈法によって証明される。AはBに従属し,Bで命ぜられた祭式の開催期間の規定であると仮定すると,Aの動詞は祭式挙行を命ずるのみならず,生涯に渡り挙行を反復することをも間接的に命じていることになり,動詞の果たす機能を複雑にしてしまうからである。3.クマーリラは,個人の意識における祭式遂行の側面とテキスト解釈の側面を区別している。彼は,場所・時間・機会・果報・浄化対象という5種の,個人により祭式挙行のうちに「統合し得ないもの」(anupadeya)を挙げ,規定文は原則として,これら統合し得ないもののうちの一つを前提(ud-dis)して,祭式のうちに「統合すべきもの」(upadeya)を規定する(vi-dha),と主張した。4.二つの祭式構成要素間の階層をテキスト解釈により確定することが「配属」(viniyoga)と呼ばれ,祭式の会場で実際に観察される「助力」(upakara)と対比される。事実関係に着目する「助力」の理論は,祭式の意義の相対化に繋がる恐れがあるとみなされ,「祭式の効力は人が来世でどこに生まれるかを決定できない」と主張した初期の解釈学者バーダリに帰せられた。
著者
坂田 清美 吉村 典子 森岡 聖次
出版者
和歌山県立医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

近年わが国における児童の肥満傾向の者や高脂血症が増加を続けているため、児童を対象とした高脂血症、肥満予防を主な目的とした教材を開発した。教材の開発にあたっては単に知識を与えるだけでなく、自ら考え判断できるスキルを身に付けるよう工夫した。教師の使いやすさや、保護者に対しても教育効果が上がるように配慮した。和歌山県中部の一地域において、小学4年生を対象に教材を用いて教育を実施した結果、「コレステロール」の言葉の認知度は、1年間で61%から79%まで上昇した。「食物繊維」という言葉の認知度は59%から78%まで上昇した。油、塩、砂糖に関する正解率では、15問中13問以上正解した者の割合は、38%から49%まで上昇した。お菓子の材料が記載されていることを知っている者は73%から85%まで上昇した。肉・魚を同じくらい食べると答えた者は51%から54%まで上昇した。野菜を毎日食べる者は、37%から42%と増加した。朝ご飯を毎日食べる者は、78%から81%と増加した。運動をほとんど毎日する者は、41%から43%へと微増した。健康教育教材を使用することにより、健康に関する知識の向上がもたらされた。運動については、今後さらにプログラムを充実させる必要がある。今後は、血清脂質等に与える影響を評価し、さらに健康教育プログラムを他の学年にも実施し、こころと体、健康と病気についての段階的で、包括的な学習プログラムへ発展させる予定である。
著者
城間 祥之
出版者
札幌市立高等専門学校
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

平成11年度は,まず,花形図形を基本パターンとするパターン生成プログラムを開発し,その花形図形に各種変換を施しイメージを変えるプログラムを開発した.ここでは,拡大・縮小・回転変換,せん断変換,三角変換などのプログラムを開発した.また,変換プログラムを複雑系手法に基づく抽象模様生成プログラムに適用することを目的として,まず,ベクトル画像として生成される抽象模様をビットマップ画像に変換するアルゴリズムを開発し,セル・オートマトン画像生成プログラムに組み込んだ.ここでは,セル・オートマトンの(1)1次元2状態3近傍の256ルール,(2)1次元2状態5近傍総和型の64ルール,(3)1次元2状態5近傍の43億ルール,(4)1次元2状態線形セルオートマトン,(5)2次元9状態5近傍線形セルオートマトンなどの関数プログラムに画像形式変換アルゴリズムを組み込んだ.平成12年度は,まず,(1)網目状カオスのような面積保存型,および(2)面積変化型円環状カオス,(3)翼状カオス,(4)チョーサとゴルビツキーの対称型カオスなどの関数形式描画プログラムを開発し,これらに上記の各種変換プログラムを組み込んだ.同様に,フラクタルについてもシェルピンスキー曲線,コッホ曲線などの描画プログラムを開発し,上記の各種変換プログラムを組み込んだ.次に,開発したシステムを基に生成した抽象模様パターンを各種デザイン業務に適用する応用実験を行った.ここでは,ボールペンの絵柄,ペットボトルのラベル,包装紙,ティッシュペーパー箱の絵柄,風呂場の大理石風壁模様,乗用車や飛行機のイスカバーのデザイン,化粧品ケース,ダイニングセット,CDジャケットの絵柄,金属製他コースター,ブックマークなどへ適用し,その有効性を確認した.今後は,開発したシステムを芸術・デザイン系高専での授業の中で活用していきたいと考えている.
著者
加藤 康子
出版者
梅花女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

近代以前の日本の子どもの読み物の中で、江戸時代中期から明治剛期にかけて出版された絵草紙には、「絵」という視覚的な要素と文章があいまって、読み物の内容を印象深く読者に伝える効果がある。近代以降の子どもの読み物でも、挿絵や絵本は同様である。江戸時代から現代までの子どもの読み物、特に絵草紙や絵本には、英勇譚が少なくない。ただ、近代以前には武士が登場してくるが、近代以降では武士の存在は次第に薄れ、価値観が変容していく。本研究では、江戸時代から現代の子どもの読み物の系譜を辿り、作品分析からその価値観について考察した。これよって、日本の子どもの読み物の中で、どのようなことが読者を夢中にさせたのか、また作り手と読み手のそれぞれが何を求めていたのか、を考えていくきっかけになり、近代以前日本児童文学と近現代日本児童文学の関係を密接にする手だてになり、未来を担う子どもたちの読み物や絵本の体験をどのようにするかという課題への示唆も得られるのではないかと思われる。研究の結果、近代以前日本児童文学では、絵草紙として、上方絵本、草双紙、豆本以外にも武者絵本などがあり、近代以後もそれらを踏襲したような絵本があるが、無学や今回の調査を踏まえれば、日本の英勇譚によく登場する人物は、源義経、源頼光、豊臣秀吉である。この中で注目されるのは、源頼光とその家来たちの英勇譚である。この物語は、個人の人生を辿った史実に近い逸話が物語化されているのではなく、史実とは異なる空想の物語がほぼ同じ内容で、類型化された絵と共に長く伝えられてきていることに特徴がある。また、頼光を中心にしているものの個人の活躍よりも四天王と保昌を加えた六人の集団が活躍するところにも特徴がある。これらの頼光を中心とした一連の物語は、日本の民族が長年にわたって培ってきた、民族の物語の一つといえる。また、史実とは異なる創作物語の英勇譚である江戸後期の『南総里見八犬伝』も集団の架空物語であり、大きな敵に向かって何度も挑戦していく構造に相通ずるところがある。この構図は読者を魅了し、現代の人々が魅了されている「ファンタジー」にも通じるところがあるのではないかと考えている。したがって、日本民族の物語は忘れられつつあるが、それを享受する素地はあり、時代に合わせた復権を試みる意義があると考える。
著者
松田 一朗
出版者
東京理科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

旧世代の符号化方式で記録された映像コンテンツを、画質を保ったまま効率的に再符号化する技術の開発を行った。主に静止画像および動画像符号化の国際標準であるJPEGおよびMPEG-1方式を対象として再符号化アルゴリズムの実装と検証を行い、既存の映像データの符号量を10~30%削減することに成功した。この結果は、過去に記録された膨大な量の映像資産を、最新の符号化方式に匹敵する効率で蓄積・保存する手法を確立したことを意味する。
著者
田島 照久
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本研究では、キリスト教による再解釈によってゲルマン的民間習俗が現在のキリスト教文化圏とくにドイツ語文化圏に残存している状況を、調査を通じてうかびあがらせ、さらに教会暦のうちに取り込まれたゲルマン的要素をキリスト教の祝祭の調査分析を通じて明らかにすることができた。さらにキリスト教の現代におけるヨーロッパ土着化の姿を神学思想面および図像学的側面から跡づけることも試みることができた。平成13年度はキリスト教文化圏の中に公然として残存しているゲルマン的習俗の代表とも言うべきファストナハト(謝肉祭)について現地調査と映像資料の収集を中心的に行った。2月にドイツのアレマン地方の古習俗の残存するエルツァハの伝統的仮面行列、さらにフライブルク市の「バラの月曜日の大仮面行列」、オッフェンバッハの「魔女集会」などを現地調査することができた。平成14年度は春から初夏にかけて行われる、「春祭り」、「五月祭」、「聖ゲオルゲ騎乗」などの伝統的習俗を、ハスラッハ、ニュルティゲン、オクセンハウゼンで現地調査した。さらに夏から秋にかけてドイツ、スイスの各地で行われている「ワイン祭り」をとくにライン河、モーゼル川地域を中心に調査した。この調査ではドイツで最古の「ワイン搾り機の中に立つキリスト像」をモーゼル川河畔の村エディガー・エラーの聖マルティン教会で調査することができた。平成15年度は北ドイツ、オーストリアを中心とした民間習俗調査を実施した。ツェレ、ゴスラールでは木組み家屋の銘文の調査、オルデンブルクでは「マリア生誕市」、ゴスラールでは年一度の町祭りなどを調査した。オーストリアではザルツブルク、アルプバッハ、レッヒ、サン・アントンで民俗資料の収集を兼ねて民間習俗の現地調査を行った。以上の現地調査によって得られた成果は「宗教民俗学資料データベース」(責任者田島照久)に加えWeb上で一般公開をすでに一部行っている。神学思想面からの成果としては、「キリスト洗礼図」をめぐる「キリスト教のヨーロッパ土着化」と見られる現代的シンクレティズムといえるものを確認できたので、研究成果のひとつとして報告書にまとめた。
著者
田中 牧郎 岡島 昭浩 岡部 嘉幸 小木曽 智信 近藤 明日子
出版者
独立行政法人国立国語研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

明治後期から大正期にかけて進んだ「言文一致」という出来事について,コーパスを活用して,精密かつ見通しよく記述することを通して,コーパス言語学の方法を日本語史研究に適用することを目指した。言文一致にかかわる言語現象のうち,コーパスを活用して記述することで,新たな日本語史研究の視野が拓けると想定されるものとして,語彙体系の変化,待遇表現構造の変化,テンス表現の変化の三つを取り上げて,『太陽コーパス』(言文一致期にもっともよく読まれた総合雑誌を対象とするコーパス)を用いた分析を行い,その成果を発表した。語彙体系については,動詞を例に,言文一致期に定着する語と衰退する語とを対比的に分析した。また,待遇表現構造については,二人称代名詞を例に,会話の文体や,話し手と聞き手の階層や性別の観点から分析した。さらに,テンス表現については,口語助動詞「テイル」「テアル」が定着する用法と,文語助動詞「タリ」が残存する用法とが相補関係にあることなどを解明した。いずれの研究においても,コーパスを用いることによって,共起語,出現文脈,出現領域などを定量的に考察することができ,共時的な構造分析の方向にも,通時的な動態分析の方向にも,新しい展開を図ることができた。コーパスを使わない従来型の研究では実現不可能だった,精密で見通しのよい記述を達成することができ,コーパスを日本語史研究に導入する意義を具体的に確かめることができた。また,コーパス分析ツールとして,XML文書へのタグ埋め込みプログラム『たんぽぽタガー』を開発し,使用説明書とともにweb上で公開した。このツールの公開は,コーパス言語学による日本語史研究の利便性を高める効果が期待できる。
著者
柊中 智恵子 中込 さと子 小野 ミツ 前田 ひとみ 武藤 香織 北川 小夜己 矢野 文佳 村上 理恵子 福田 ユカリ
出版者
熊本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、遺伝性神経難病である家族性アミロイドポリニューロパチーに焦点を当て、患者・家族と看護職のニーズ調査をもとに、看護職に対する遺伝看護教育プログラムを開発することを目的として実施した。患者・家族のニーズ調査から、発症前遺伝子診断を受けて生きる人、発症者、家族といった立場の様々な苦悩や葛藤の様がわかった。また、看護職も遺伝性疾患ということで、対応に困難を感じていた。これらの結果に基づき、教育プログラムに盛り込む内容を検討した。
著者
鵜飼 尚代 田尻 紀子
出版者
名古屋外国語大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

本研究の目的は、発光素子への応用に偏っている窒化インジウムガリウム(以下、InGaN)結晶薄膜を、光検出素子用材料として特徴づけ、かつ、高速高感度素子の試作研究を行うことである。試作研究では、Metal-Semiconductor-Metal構造(MSM構造)の受光部1mm×1mmの大面積素子で、10Vで100 pA以下の暗電流、0.1A/W以上の受光感度、および、10ns台のパルス応答を確認した。透明サファイア基板という点、及び、窒化ガリウム(以下、GaN)層上のInGaN薄膜を光感受層とする点、の2つの特徴を活かして、波長400-500nm帯の可視光検出器としての得失を明らかにすることができた。即ち、表面入射と裏面入射の相違を調べ、電極直下部の光電流への寄与を明らにできた。この知見を基にInGaN/GaN 2層構造の特異な電圧依存性を解明し、ショットキーダイオード形素子において、バイアス極性による350nmと400nmの2色弁別検出を実証できた。また、下地GaN層の厚さとバイアス電圧の制御により、紫外線に感応しない青色用狭帯域光検出器を実現できた。ここで用いたInGaNは厚さ30nm以下の薄膜であり、ピエゾ効果に基づく内蔵電界を有効に利用した。膜厚を増せば感度は大きく増大するが、暗電流も増大する。これは、歪み緩和による結晶性の変化に依ると解釈できる。なお、高速応答性に関連して深い準位を評価し、DLTS法によりGaN層に深さ約0.5eVの電子トラップ準位の存在を確認したが、光パルス信号に対する反応の遅い電流成分(光持続電流)を解消するには至らなかった。今後は、InGaN層の内蔵電界の利用を中心に本研究を発展させたい。