著者
田中 聡
出版者
県立広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究はバーチャルリアリティ(VR)技術を利用し仮想環境内で運動療法を行い,健康心理学的にその影響を検討することである。VR運動療法とは,テニスや卓球,スノーボード,空手(瓦割り)時の各動作を利用し,スクリーンに映し出される仮想のスポーツ場面に対して身体運動を行うものである。対象は健常大学生30名(平均年齢22歳)と高齢者10名(平均年齢81歳)とした。大学生群は「VR卓球を用いたラケットスイングを行う上肢運動」と「単調な肩関節の反復運動」(両運動の関節運動方向と可動域は近似)時のPOMS(profile of mood states)及びストレスの定量評価として唾液アミラーゼ活性値測定と心拍数変動(R-R間隔)を計測した。高齢者群はVRスポーツを3ケ月間(1ケ月平均12回施行)行い,改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R),抑うつ、不安評価としてHADS(Hospital anxiety and depression scale),気分評価としてPOMSを測定し,加えて身体機能として筋力,立位バランス,重心動揺,歩行能力を計測した。その結果,大学生群では唾液アミラーゼ活性値は両運動とも有意な変化を示さなかった。R-R間隔変動では,反復運動時交感神経系の活動が有意となり心理的ストレスを与えている可能性が示唆されたが,VR卓球では自律神経活動の大きな変化は示さなかった。POMSではVR卓球を行った場合に正の気分が高く,負の気分が低い傾向を示し,VR環境下での運動はストレス発生を抑制できる可能性が示唆された。高齢者を対象にした16週間のVR運動療法の影響は,身体機能には大きな変化は認めなかったが,抑うつ感や不安感は平均点が改善しHDS-Rスコアは有意に改善した。VRを用いた運動療法はアミューズメント性を有し,かつ不安感や抑うつ感,軽度の認知症の改善に働きかける可能性が示唆された。
著者
関矢 寛史
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究の第1の目的は,プレッシャーが運動制御に及ぼす影響を調べることであった.また,第2の目的は,プレッシャー下における意識的処理や注意の処理資源不足などの認知的変化ならびに生理的情動反応が運動制御に及ぼす影響を解明することであった.実験1では,大学生24名を実験参加者として,プレッシャーがゴルフパッティング課題に及ぼす影響を調べた.実験2では,大学生30名を実験参加者として,プレッシャーが卓球フォアハンドストローク課題に及ぼす影響を調べた.両実験において,低強度のプレッシャーが実験参加者に負荷された.パフォーマンスの得点はプレッシャーによる影響を受けなかったが,ボールの停止位置やバウンド位置はプレッシャーによって偏向した.また,身体運動ならびに身体運動以外の対象への注意がプレッシャーによって増加した.実験1では,テイクバック期及びフォロースルー期の運動変位の減少ならびにダウンスイング期の運動速度と加速度の減少という運動学的変化が生じた.また,テイクバック期におけるグリップ把持力の増加という運動力学的変化が生じた.そして,注意散漫度が増加した実験参加者ほどインパクト時のクラブヘッドの向きがターゲットに向かって右に偏向し,心拍数の増加という情動反応が生じた実験参加者ほどダウンスイングの速度と加速度を増加させた.実験2では,プレッシャーによって打点が前方に移動し,インパクト時のラケット面がターゲットに向かって左を向いた.さらにフォワードスイング期の運動速度が低下し,ボール速度も低下した.また,注意が増加した実験参加者ほど運動の変動性が増加した,これらのことから,課題によって,プレッシャーが運動制御に及ぼす影響は異なるが,プレッシャー下で生じる認知的変化ならびに情動反応の変化によっても運動制御に生じる変化が異なることが明らかとなった.
著者
吉田 和人 杉山 康司 村越 真
出版者
静岡大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究では,卓球選手を対象に,スイングの回転半径の大小が異なる2つの打法(フォアハンドによるドライブ打法とフリック打法)における,打球直前の動作修正時のスイング様式を検討した.その結果,いずれの打法でも,イレギュラーバウンドにより打球までの時間が短くなった場合,遂行中のスイングの慣性モーメントを小さくするなどの動作修正がみられた.こうした素早い動作制御の検討では,動作の力学的特性に着目することが重要であると考えられた.
著者
吉田 和人 村越 真 杉山 康司
出版者
静岡大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本研究の目的は,ボールの視覚情報による卓球一流選手の瞬時の動作修正における反応のメカニズムについて,実験的に検討することであった.卓球選手2名を対象に、フォアハンドによるフリック打法とドライブ打法における,上肢の筋活動、手関節の動き,および動作に関する内観を測定した.試技は,配球者から送られる4m/s程度のスピードの無回転のボールに対する強打とした.配球には,公式ボール(レギュラーバウンド条件)と,イレギュラーバウンドが発生しやすいように表面を凹凸に加工したボール(イレギュラーバウンド条件)を用いた,加工ボールの存在については,被験者に事前に告知しなかった.結果および考察は以下の通り.(1)レギュラーバウンド条件において,被験者コートでのボールバウンドからインパクトまでの平均時間は,フォアハンドフリック打法の場合,被験者Aが205ms,被験者Bが208ms,フォアハンドドライブ打法の場合,被験者Aが243ms,被験者Bが303msであった.(2)イレギュラーバウンド条件における,被験者コートでのボールバウンドからインパクトまでの時間や,動作に関する内観から,手関節を中心とした小さな動きが主なフォアハンドフリック打法は,肩関節を中心とした大きな動きが主なフォアハンドドライブ打法と比べ,短時間での動作修正に適していると考えられた.このことから,動作修正に要する時間は,動作の力学的特性と関連していると推察された.(3)イレギュラーバウンド条件において打球直前の動作修正が知覚された場面では,上肢骨格筋に動作修正への関与が推察される放電パターンの観察される試技と,観察されない試技とがみられた.この筋放電パターンの観察されない試技については,瞬時の動作修正における筋の作用機序のさらなる検討が必要であると考えられた.
著者
神原 文子 本村 めぐみ 奥田 都子 冬木 春子
出版者
神戸学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

第1に、ひとり親家族に育つ50人ほどの子どもを対象にしてインタビュー調査を行い、ひとり親家族の生活状況を捉えた。そのなかで、ほとんどの子どもたちがひとり親家族で育っていることを受容していることを明らかにした。第2に、ひとり親家族で育っている高校生と、ふたり親家族で育っている高校生を対象に「高校生の生活と意識調査」を実施した。その結果、ひとり親家族で育つ生徒とふたり親家族で育つ生徒の比較によると、親子関係の良好さには違いはないが、ひとり親家族に育つ高校生のほうが、小遣いが少ないこと、アルバイトをよくしていること、学習時間が少ないこと、大学進学希望が低いことなどが明らかになった。
著者
原田 一孝
出版者
熊本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

昇圧形スイッチトキャパシタ(SC)電源の場合,半導体スイッチをON/OFFするのに,各スイッチのソース電位は電源電圧より高いことが要求されます.一般には,この種のスイッチにはPチャネル形MOSFET似下,P-MOSFETと略記)を用い,駆動回路の簡略化を図りますが,P-MOSFETの特性として,ON抵抗が大きく,特に最終段では,パワーロスの増加が無視できなくなります.そこで,ON抵抗が小さく,飽和電圧も小さなN-MOSFETを用い,リング形SC電源の特性を活かした駆動回路(最終出力電圧より大きな電圧を得る)を提案することによって,高効率の電源が得られました.3段のSC電源の実験結果では,92%の高効率と30%以上の出力電圧の改善が得られました.また,電源負荷が無くなった時,直ちに動作を止め,節電状態に入ることで,特にモバイル機器では電池の消耗を最小限にすることが出来ます.リング形電源についての節電回路も提案し,それらの実験結果やシミュレーション結果を次の国際会議で発表しました(ITC-CSCC 2002,The 2002 International Technical Conference on Circuits/Systems, Computers and Communications,タイ国).モバイル機器の表示器のバックライトとして,エレクトロルミネセンス(EL)は有望視されています.そのような目的に使用するためのSC電源チップを構成しベアチップを試作しました.出力を補強するための0.1・Fキャパシタ4個を外付けした状態でも,6.8mm角,厚さ3mmと非常に薄く小さな電源回路が得られることが分かりました.MOSFETのチャンネル構造から応用範囲はかなり限定されますが,低ノイズ極小容積を持つ電源が得られることが分かったことは,大きな成果と考えます.
著者
岩瀬 正則 長谷川 将克
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

木質系バイオマスあるいは廃プラスチックと酸化鉄を混合・圧縮し、これを流量1000cc/minのアルゴン気流下、高周波誘導加熱炉内にてモリプデンサセプターを用いて1400〜1800℃の高温に加熱したマグネシアるつぼ内へ投入して、急熱した。なお[Pt-20Rh]-[Pt-40Rh]熱電対により温度を測定した。発生するガスは、これを捕集してガスクロマトグラフィーによりCO,CO2,CH4,H2を定量し、水蒸気発生量は重量測定によって求めた。いっぽう凝縮相は炭素、酸素、鉄をLECO炭素、酸素分析装置あるいは化学分析により定量した。以上より反応生成物の化学種、存在比、分圧比等を求めた。その結果、上記の条件下では、気相中の主成分は水素と一酸化炭素であり、炭酸ガスならびにメタンはほとんど生成しないこと、および凝縮相には金属鉄が生成することを明らかにした。以上の実験結果を不均一系熱力学を用いて解析し、気相と金属鉄については、ほぼ熱力学平衡が成立すること、および金属鉄中の炭素に関しては、生成する固体炭素の結晶性に依存し平衡には到達する場合と相でない場合があることを見出した。すなわち、木質系バイオマスでは、鉄中への浸炭が非常に迅速に進行するが、プラスチックでは、浸炭が遅れることを見出した。これらの結果を総合し、炭酸ガスおよびメタンを生成させず、一酸化炭素と水素を副産物として得ることのできる製鉄法の基礎学理を確立することができた。上記の目的を達成するための具体的条件をまとめれば以下のようである。1.混合圧縮体を急熱することが必要。2.温度は高温ほど望ましい。3.圧縮体中のC/Oモル比を1.1以上にする。
著者
小泉 洋一
出版者
甲南大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

特定宗教が社会において圧倒的な支配力を持つフランスおよびトルコでは、公的領域から宗教を排除することによって政教分離を憲法原則とした。両国ともその際国家による宗教統制を伴いながらそれが行われた。フランスでは宗教の自由が尊重されるとともに社会における宗教的多様性が進むとともに国家の宗教的中立性が重視されたが、トルコでは国家による宗教統制を伴う国家の非宗教性に重点が置かれ、今日でも国家の宗教的中立性は軽視されている。わが国の神道指令と日本国憲法における政教分離を分析する際には、国家の非宗教性および宗教的中立性に注目することが有益である。
著者
万代 道子 秋元 正行 高橋 政代 小杉 眞司
出版者
独立行政法人理化学研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

網膜色素変性の病態理解を深めるために、遺伝学的、免疫学的、各種臨床検査の結果などのデータを蓄積することにより、多面的な病態解析を試みた。まず、変性HPLCに基づくスクリーニング及び直接シークエンスによる確認を行うことにより、労力、経費を効率化して30に及ぶ原因候補遺伝子を網羅的に調べる遺伝子診断システムを確立した。この方法を用いて、典型的な色素変性患者250名を対象に遺伝子診断を行い、これまでに30症例において、疾患原因候補の遺伝子変異を検出した。これは、遺伝形式には無関係に遺伝子診断を行ったが、原因遺伝子の検出頻度が最も高いとさえる優性遺伝に限定した報告とほぼ同頻度の良好な検出率であった。また、検出された遺伝子のプロファイルもこれまでのわが国における報告と相同性が高く、スクリーニングとしての機能は十分果たしていると思われた。また、免疫学的アプローチとして網膜色素変性類縁疾患である自己免疫網膜症の原因の一つともされるリカバリン血清抗体価を加齢黄斑変患者を対照群として調べたところ、網膜色素変性患者において抗体価の上昇がみられた。特に抗体価の高い症例においては眼底所見に比べ強度の視野狭窄の進行や一時的に急激な悪化時期の存在など、二次的な自己免疫機序が網膜色素変性の進行をさらに修飾している可能性が示唆された。さらに臨床画像診断の多面的解析において、色素変性患者では、健常な色素上皮細胞の存在を示唆する自発蛍光を有する領域が、高解像度網膜光干渉断層像(OCT)で観察される健常な視細胞領域と一致するものと一致しないものとが観察され、前者では色素上皮と視細胞の変性がほぼ同時進行していると考えられるのに対し、後者においては視細胞の変性が先行し、変性の激しい領域で色素上皮からの自発蛍光が高輝度となっている可能性が考えられた。これらは色素変性において相互依存的である「視細胞-色素上皮」コンプレックスとしての変性過程が一様でないことを示唆していると思われた。
著者
半澤 直人 玉手 英利 中内 祐二
出版者
山形大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

ウケクチウグイは、分布が南東北の日本海に流入河川に局限され、生息密度が低いために生態や行動などが不明の絶滅危惧種である。本研究では、ウケクチウグイと比較対象のウグイが生息する山形県最上川水系と28年前に同種を調べた福島県阿賀野川水系を調査地として、ウケクチウグイの生息調査、飼育実験、およびDNA多型に基づく集団解析により、生態や集団構造を推定して絶滅の危険性を判定し、保全の方策を検討した。漁協、国交省河川事務所などの協力によりウケクチウグイの調査を進めた結果、最上川下流、阿賀野川上流ではかなりの個体数を確認したが、最上川上流ではほとんど確認できなかった。特に、唯一ウケクチウグイの産卵が確認されている最上川上流の産卵場では、平成18、19年春は前の冬が異常な暖冬だったせいか、産卵が確認できなかった。野外や飼育下での観察により、ウケクチウグイは魚食性が強いことが確認され、生息密度が低いのはこの食性に起因していると推察された。ミトコンドリアDNA解析では、最上川水系と阿賀野川水系のウケクチウグイ集団は明らかに遺伝的に分化し、全てのウケクチウグイ集団でウグイ集団より遺伝的多様性が著しく低かった。マイクロサテライト解析でもウケクチウグイ集団の遺伝的多様性は著しく低かった。2つの異なるDNAマーカーにより、最上川下流で始めてウケクチウグイとウグイの交雑個体が発見された。以上より、両水系のウケクチウグイ集団の個体数は激減して近親交配が進み、一部では種間交雑も生じて個体の適応度が低下し、絶滅の危険性がより高まっていると推察された。今後は、両水系のウケクチウグイ集団をそれぞれ別な保全単位として、産卵場や生息場所の保全対策を緊急に進めるべきである。
著者
冨田 隆史 葛西 真治
出版者
国立感染症研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

一般に昆虫の雌成虫体内では,卵巣発育のためにエクジステロイドが分泌される。エクジステロイド合成系と性ホルモン合成系に関与するチトクロムP450の特定を目的として,マイクロアレイ法により86個のキイロショウジョウバエ全P450遺伝子の発現量を雌雄間で比較した。発現量に性差があった15種類のP450遺伝子につき,定量PCR法による検証を行った。エクダイソン合成系への関与が既知のCyp302a1とCyp315a1や機能不明なCYP6A19の遺伝子が雌成虫体内で約20倍多く発現していることを明らかにした。逆に,Cyp312a1は,雄成虫で数十倍多く発現していることが明らかになった。Cyp312a1遺伝子の多くは腹部で発現し,蛹期より徐々に増大し成虫5日目でピークに達していることから,この酵素は雄生殖器管内で働いている可能性が高い。フェノバルビタール(PB)はほ乳類,昆虫類,菌類などさまざまな生物種でP450の一般的な誘導剤として知られている。P450遺伝子の転写機構を解明する目的で,PBの誘導を受けるP450遺伝子をマイクロアレイ法により特定した。PB処理により10数種のP450が成虫体内で誘導されることを明らかにした。これらの中には殺虫剤抵抗性バエでDDT解毒作用を示すことが知られているCYP6G1の遺伝子も含まれていた。
著者
高宮 信三郎 進藤 典子
出版者
順天堂大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

1.回虫成虫体壁および自活性線虫C.elegansのミトコンドリア蛋白のプロテオーム解析(1)大気圧下の好気的環境に生息する自活性線虫C.elegansと、宿主の腸腔という酸素分圧の低い環境に生息するブタ回虫の体壁から、高純度のミトコンドリアを単離する方法を確立した。(2)C.elegansとブタ回虫体壁からのミトコンドリア蛋白を二次元電気泳動で展開し、そのパターンを比較したところミトコンドリア蛋白の組成が両者間で著しく異なっていた。特に分子量45および31kDa付近において顕著な相違がみられた。C.elegansの蛋白の主要スポット18を切り出し、In-gel digestion後、質量分析計により解析した。C.elegans由来と確定された14スポットのうち11が、ミトコンドリアに局在する蛋白として同定された。そのうちわけをみると、ATP合成酵素のサブユニット(atp-2)、ヒートショックプロテイン(hsp-60)、プロピオニルCoAカルボキシラーゼのα、βサブユニット、TCA回路の構成酵素であるリンゴ酸脱水素酵素およびアコニターゼ、グルタミン酸脱水素酵素であった。また、ミトコンドリア外膜に局在するポーリン様の蛋白も見いだされている。2.回虫呼吸鎖複合体および酸化還元蛋白の分子特性解析(1)回虫成虫体壁のシトクロムb5前駆体を大腸菌で発現させたところ、native蛋白と同一な性質を有した蛋白がペリプラズムに輸送された。本蛋白はワンステップのイオン交換クロマトで精製され,大量調製に適した発現系である。(2)回虫L3複合体II CybSサブユニットの分子クローニングを行ったところ、成虫のものとは異なったものであることが明らかとなった。3.今後の展望:計画した項目は一部未達成であるが、上述のように、比較的少量の材料から高純度のミトコンドリアを調製する方法を確立し、ミトコンドリア蛋白を一部マッピングできたことの意義は大きく、今後,回虫成虫と幼虫の解析を飛躍的に進めたい。
著者
北原 理雄 宮脇 勝 郭 東潤
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

魅力的な都市には人々の生き生きとした活動がある。物的空間だけで魅力ある都市景観を形成することは困難であり、活気あるアクティビティが存在して初めて都市は輝きを増し、都市活性化にも資する成果を生むことができる。街路、広場などの公共空間は、都市におけるアクティビティの主要舞台である。従って、都市景観形成に当たっては、公共空間の物的改善に加えて、その利活用を適切にコントロールする手法の確立が必要不可欠である。上記のような課題意識に立ち、本研究は次の2点を目的として進められた。・この領域で一日の長を有する欧米諸都市において公共空間の利活用に関してどのような制度が用意されているか、またどのような体制のもとで公共空間の利活用がどのように規制・誘導されているか調査し、コントロールの制度とその運用実態を明らかにする。・わが国における実験的取り組みに基づき、現行制度のもとにおける成果と課題を明らかにし、今後の方向性を見いだす。その結果、次のような成果が得られた。(1)既調査6都市(パリ、コペンハーゲン、ミラノ、サンフランシスコ、ポートランド、シアトル)の資料を再整理するとともに、新たにロンドン、ヘルシンキ、ストックホルム、ニューヨーク、クリチバの調査を行い、公共空間の利活用を図る制度とその運用実態を明らかにした。(2)広島、横浜、名古屋など、国内の先駆的都市について追加調査を行うとともに、韓国(ソウル、清州)の調査を行い、アジアにおける公共空間利活用の視点で、現状と課題を検討した。(3)千葉市におけるオープンカフェとパラソルギャラリーの実験を継続し、公共空間の利活用が生み出す賑わいの実態と都市活性化に対する効果を分析した。
著者
今野 美紀 丸山 知子 和泉 比佐子 澤田 いずみ 上村 浩太
出版者
札幌医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本研究は(1)入院児の親を対象に家庭における喫煙状況を調査し、子どもへの受動喫煙の実態を調査する、(2)入院児の親を対象に「禁煙と健康支援活動」を行い、その効果を親の変化と携わった看護師の変化から検討する、以上の2点を目的に調査と看護介入を行った。1.入院児をもつ親の家庭における喫煙状況入院児の喫煙する親50名への調査の結果より、児の殆どは家庭内で受動喫煙に曝露されていた。作成したパンフレットから「換気扇や空気清浄機ではタバコ煙の影響を無くせないこと」を新たに学んだ、と述べる者もおり、禁煙・分煙について正確な知識提供の必要性が示唆された。禁煙に無関心な親は「喫煙をストレス解消の手段」と捉えていたが、禁煙に関心ある親は子どもや家族、自分の健康への影響を案じており、医療者からの禁煙助言を希望する割合が増えた。2.入院児の親に行った「禁煙と健康支援活動」の効果平成17〜18年度に療育目的に母子入院した児の親61名を対象に「禁煙と健康支援活動」を行った。その結果、親の喫煙知識が増えたが、本人の喫煙本数、禁煙の準備性に変化は見られなかった。看護師の喫煙知識は有意に増え、禁煙に携わる自信も次第に高まった。看護師は無関心な喫煙者に対応する困難さや子どもの障害のリスクゆえに喫煙を話題にする躊躇を覚え、親の禁煙意思に影響を与える環境の大きさを感じながらも、入院児の親の禁煙試行を励まし、子どもの健康と関連づけて禁煙の動機付けを高めるよう情報提供をしていた。病棟としては親の禁煙への関心を喚起し、禁煙を話題にしやすい雰囲気を醸成していた。
著者
岡崎 敏雄
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

平成7年度より9年度にわたる資料・先行研究・茨城県下の面接調査の結果、当研究の目的「海外における年少者言語教育研究・日本における帰国子女教育研究の蓄積の結果提出されたCumminsの相互依存の仮説および小野の小学校時代1言語の仮説が、日本的条件下で学習する外国人年少者の諸ケースでどのように妥当しているか、また妥当していない部分についてどのような新たな検討すべき要因があるかを明らかにすること」に関して、両仮説が前提として取り上げた要因群の中に含まれていない(従って海外言語教育研究・帰国子女教育研究では取り上げられて来なかった)「1.日本人教師の外国人年少者の受け入れ観、日本語・母国語教育観」および「2.外国人年少者の父母の日本語・日本社会に対する姿勢、母国。日本語の必要観」の2要因が日本の条件下における年少者言語習得・保持に高い影響度を持つことが示された。以上に基づき、本研究では前者の要因に焦点を当て、これらの教師の持つ言語教育観、またそれらに影響を与える教師・学校の属性それぞれの特色に関わる調査を当研究の一環としてなされた諸ケーススタディを踏まえ、日本語教育を必要とする外国人小中学生の日本語教育担当教師及びクラス担任に対し質問紙調査を実施し、重回帰、クラスター、分散の各分析により分析。考察した。その結果、日本的条件下の教師の言語教育観は、全体として「継続的二言語併行型」を示し、同時に「少数散在型」、「受容型」、「短期滞在注目型」、「滞在エンジョイ型」、「現行制度枠内型」の特徴を示し、属性では「指導した外国人年少者数」、「父母との懇談経験」、「外国人年少者指導研修経験」が大きな影響力を持つことが明らかにされた。
著者
山崎 古都子 田中 宏子
出版者
滋賀大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究の目的は、日本の住宅の長寿化と、減災を促進することである。本論では生活実務に内在するジェンダー性が、住宅管理行動の減衰と技術低下の傾向を生み、それが住宅の長寿化の阻害要因であることを検証した。また、居住者には根強い建て替え意識があることが減災に対する無関心を生んでいることを明らかにした。従って、住宅の長寿命化、減災両側面から住宅の管理責任意識を発揚する必要がある。そのために本研究では、地域と、学校が連携して居住者を育てる減災教育カリキュラムを開発した。
著者
安田 彰
出版者
法政大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究では, デジタル直接駆動スピーカの高性能化を図るため, マルチコイル型ダイナミックスピ. カユニット, 積層型圧電スピーカユニットおよび駆動系デジタル信号処理系に関する研究を行った. マルチコイル型では, サブユニット問のミスマッチが低減され高精度化を図り, 積層型では音圧の向上・実装面積の小型化が実現された. また, デジタル信号処理系でのミスマッチシェーパの性能向上により雑音特性の改善を実現した.
著者
松久 玲子
出版者
同志社大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

1920年代から30年代の広義のメキシコ革命期における公教育制度の形成過程で、女性の教育についても議論が行われた。職業教育として家庭学校が設立され、農村教育において、家庭科カリキュラムが策定された。フェミニスト教育官僚エレナ・トーレスの活動に沿って、主婦役割がカリキュラムにおいて定式化された過程を明らかにし、学校教育におけるジェンダー規範の形成を考察した。女性が家庭での再生産活動を通じ国家に接合されるとともに、一方で女性の自立的身体管理を含意する性教育が社会的反発により学校教育から排除された。
著者
丹後 弘司 重松 敬一 大竹 博巳 山田 篤史 荒井 徳充 大竹 真一 勝間 典司 加畑 昭和 川口 慎二 黒田 大樹 小磯 深幸 河野 芳文 酒井 淳平 辻 幹雄 槌田 直 中井 保行 二澤 善紀 長谷川 貴之 横 弥直浩 吉田 明史 吉田 淳一
出版者
京都教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究グループが作成を進めてきた、理系分野への進学を目指した高校生を対象とし、より広い立場からの高等学校と大学との連携を意識した新しい高等学校数学の実験的教科書・教材を教育現場で使用し、具体的問題を抽出しつつ改善を図る研究を進めた。研究成果としては、教科書紙面、投げ入れ的な実践で教材として用いることができるコラム、授業実践で用いた教材がある。これらの成果は、生徒・授業実践者の感想や授業観察者の評価とともに報告書にまとめ上げた。
著者
麻生 和江
出版者
大分大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

知的障害を持った方々が大学生と,ともに楽しく過ごすためのダンスプログラムの開発に資する資料を得る事を目的とした取り組みである。大きなビデオ映像とのコラボレーションを取り上げた。本稿では練習会・発表会に用いた映像,映像とともに踊る練習会の様子を写真で紹介するとともに,大学生による知的障害者の映像の受け止め,映像の影響に対する観察資料,大学生自身の感想を問う意識調査から,知的障害者の行動を数値的に処理し,知的障害者と大学生が交流するためのダンスプログラムとしての映像の効果を考察した。平成18年から19年にかけて継続して実施した2つの実践的研究からから,以下のような結果を得た。1.知的障害者がダンスを一層楽しむ環境のひとつとして,大学生の存在は欠かせない。2.映像はまず,大学生の意欲向上に働きかける。大学生の意欲が高まることは,知的障害者への声かけ,動きの指導,表情などのひとつひとつの接し方に意気高揚の雰囲気を創出する。知的障害者はその雰囲気に包まれ,自ら意気高揚を招く。大きな映像は,知的障害者に間接的な意欲向上をもたらし,大学生と知的障害者が「楽しさ」を共有する拠点となりうる可能性を確認した。