著者
菅原 国香
出版者
東洋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

1.蘭書が渡来して「Chemistry」にあたるオランダ語"Chemie, Scheikunde"を、はじめに訳した語は「煉丹術・銷錬術」(『波留麻和解』1796)、「製煉術」(宇田川玄随1798)、「錬金術」(『訳鍵』1810)、「分離術」(『和蘭字彙』)、「鎔分術」(橋本宗吉)、「分析術」等。2.宇田川榕菴『舎密開宗』(1837)の参考書『紐氏韻府』というのは、ニューウェンホイスの『学芸技術百科事典』、すなわち、Gt.Nieuwenhuis, Algemeen Woordenboek van Kunsten en Wetenschappen全8巻8冊(1820-29)であることを、明らかにした。3.H.Davyがボルタ電堆で電解して1807年にアルカリ金属を単離したことが、『ニューウェンホイス百科事典』中にあり、これを榕菴が『開宗』にはじめて紹介した。4.榕菴が電極の正負を誤解していると、従来日本では考えられていたが、その誤解を解き榕菴がボルタ電堆の電極「積極」「消極」を正しく導入していたことを、明らかにした。5.『舎密開宗』以前、日本にはじめて薬化学を紹介した宇田川玄随『製煉術』(稿本1785-8)と原本を比較検討し、「製煉術」、「蒸餾」など、初出の玄随の化学用語をまとめた。6.橋本宗吉『蘭科内外三法方典』(1805)とそのオランダ語原本(1749)とを対比し、訳語を検討した結果、宗吉は"Scheikonst, Scheikust"を「製薬」及び「鎔鑠」と訳し、最後は「鎔分術」と訳した。また、「濾過」「沸騰」「凝固」「乾燥」などはすでに常用していた。7.榕菴は、「元素」を造語するとき、中国の明代の辞書『正字通』の「素」の項目を参照し、「Atoom」の学習にはニューウェンホイスの百科事典の「Atoom」の項目を写していた。8.竹原平次郎・桂川甫策・石橋八郎・加藤宗甫訳『化学入門』(1867-73)の原本の一つはC.R.Fresenius ; Leerboek der Scheikunde, door F.A.Enklaar(1852)であることを明示した。
著者
大櫃 敬史
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

米国からわが国に伝えられた近代体育の諸相を特定の宗派-コングリゲーショナル派(会衆派)-に注目をして、日本及び米国に所蔵されている史料によりその内実を検討した。結果として、当初アメリカン・ボードは、キリスト教を日本に布教する傍らその一手段として体育の布教を目論んでいた事実が判った。その際リーランドを日本に派遣したアマースト大学は、コングリゲーショナルの力強い支持を得て成立した大学であり、わが国への体育移植に当たっても、人的・教育的また思想的にも夥しい影響を及ぼしていることが判明した。リーランド帰国後も米国政府は、長い間日本でのアマースト方式の体育の行方に関心を示していた事実も明らかになった。
著者
前田 英雄
出版者
鳴門教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

本研究では,食前や食後に栄養素を理解することができるように食品中のミネラルのうち磁気性をもつ鉄とビタミン C の理解を深め,可視化する教材開発を行った。食品中の鉄の有無を検証するため 23 種類の食品を灰化しネオジウム磁石との付着度合いを観察した。ビタミン Cについては,酸っぱいというイメージをもっているためビタミン C のナトリウム塩やカルシウム塩を用いる官能検査や野菜や果物切片を用いてスタンプ法によるビタミン C の検出実験を行った。
著者
山田 理恵 山本 徳郎
出版者
鹿屋体育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本研究では,日本各地において行われてきた伝統的な打球戯の形態と変遷について明らかにすることを目的とした.具体的には,今日まで継承されている八戸・長者山新羅神社の加賀美流騎馬打毯と徒打毯,山形・豊烈神社の騎馬打毯と徒打毯,宮内庁主馬班の騎馬打毯,薩摩・大隅地方のハマ投げ,徳島県で行われていた騎馬打毯などについて,文書を中心とした史料の調査・収集と収集史料の解読・吟味,現地調査による動画・静止画の撮影・編集とデータの蓄積を行い,それらをもとに,各地の伝統的な打球戯の形態と移り変わり,独自性について考察した.その主な内容は,次のようにまとめられる.1.現在薩摩・大隅地方において継承されているハマ投げは,伝統的な競技法に基づきながらも異なる形態で行われており,さらに普及のための活動もなされている.2.徳島県では,特に1938年5月以降,馬産熱の振興と馬の育成,馬術の向上,尚武の精神の高揚などを目的として騎馬打毯の大会や講習会が盛んに開催されるようになり,第二次世界大戦中まで続けられていた.戦後は,馬の需要の減少等に伴って徐々に衰退していったと考えられる.3.八戸と山形の騎馬打毯は祭礼・神事と結びついていること,また八戸では免許制度も確立されていることが,今日まで継承されてきた要因であると考えられる.4.徳島の騎馬打毯の場合は,儀礼的な要素をもっていなかったことが衰退した一因であると考えられ,ここに,八戸・山形の騎馬打毯の展開とは異なる徳島の騎馬打毯の独自性があるといえる.
著者
関口 正幸
出版者
独立行政法人国立精神・神経医療研究センター
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

恐怖・嫌悪体験を記憶することは生物の生存に重要であるが、ある種の精神・神経疾患ではこの記憶の極端な亢進が見られる場合がある。本研究では恐怖・嫌悪体験の記憶(恐怖記憶と略)を調節する神経機構解明を目的として研究を行った。その結果、①恐怖記憶は食餌として摂取する不飽和脂肪酸のバランスに影響を受け、これにはカンナビノイド神経伝達が関与すること、②新生児期にストレスホルモンに曝露されると、成長してからの恐怖記憶が弱まりにくいこと、等を明らかにして論文報告した。これらの研究成果は、恐怖情動異常亢進の症状を有する精神・神経疾患の病態解明や治療法開発に有用な基盤情報となることが期待される。
著者
西田 佐知子 西田 隆義 高倉 耕一
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010-10-20

植物には、気温や地質条件などでは説明できない不可解な分布様式を示すものがある。このような分布は、繁殖干渉という、繁殖過程で他種(とくに生殖機構が似ている近縁種)が悪影響を与える現象で説明できる可能性がある。そこで本研究では主にフウロソウ属植物などを用い、繁殖干渉が植物の分布に及ぼす影響について調査と解析を行った。その結果、フウロソウ属の中でも繁殖干渉が見られること、それが近縁種の棲み分けなどに関わっている可能性があることを確認した。
著者
柴田 美紀
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本研究では、米軍基地の存在がどのように沖縄県民の「英語」に対する意識とその学習動機に影響しているかを調査した。軍雇用者128名と非軍雇用者153名から得たアンケート回答を分析し、次の点が明らかになった。(1)軍雇用者のほうが英語学習の必要性を強く認識している。(2)「沖縄人」という帰属意識を持つ回答者が大半であったが、基地問題を外へ向けて発信する道具として英語をとらえてはいない。また、10名にインタビューした結果、基地問題と沖縄における雇用の複雑な現状が浮き彫りとなった。
著者
山元 啓史
出版者
東京工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010-04-01

代表者は2007年に和歌用の形態素解析ツールを開発した。その解析対象は八代集に限定されていた。本研究では八代集の解析済みデータを用い、連接規則をコンピュータ処理で獲得し、それにより二十一代集の解析を実行し、品詞タグづけを行うことを目的とする。KyTea(京都大学KyTeaプロジェクト)とそれに付属する点推定連接規則学習システムにより、ノートブック程度のマシンであっても数十秒で学習モデルの生成ができた。これを用いて、二十一代集の単位切りを行ったところ、ほぼ96%の高い割合で解析ができた。未知語の入力と未知語周辺の連接規則の学習はまだ必要であるが、二十一代集の単位分割を行う辞書は完成した。
著者
石川 雅典 小野澤 章子
出版者
秋田桂城短期大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

本プロジェクトは、季節労働の供給変化と規定要因、ならびに供給変化と送出地域の社会経済構造との関係について、北海道内の沿岸漁業地域である椴法華村(現在の函館市椴法華地区)を対象として追究したものである。対象地における季節労働、とりわけ出稼ぎ労働の調査研究に基づいて知見を整理すると次のようになる。1.供給変化(減少)は、需要側における採用条件の厳格化が直接の要因であった。かつて供給側で広範にみられたグループ就労は小規模化・個人化がすすみ、地縁関係を契機とした社会空間とネットワーク形成の変容が示唆された。2.一方、需給のミスマッチが生じていて、供給側における送出母体の衰微がもう一つの要因として指摘できる。母体の衰微は対象地の基幹産業であり、戦後の送出母体であった沿岸漁業のあり方と深い関係がある。つくり育てる漁業が進展する中で、漁業資源の限界性と動力船の所有/非所有を境界とした漁業層の階層化とが一層顕著になり、沿岸漁業の縮小化がすすんでいる。在村する若年世代はほとんど漁業に就業しておらず、生活スタイルや地域への関心という点でも他の世代との差異が著しい。対象地は、沿岸漁業を中心とする多様で異質な地域へと移りつつある。3.筆者らはかつて漁業と出稼ぎとによる職業分化の状況を見出した。対象地の生活と地域はこれによって維持されてきた。しかし今日、対象地では職業分化とは次元の異なる局面を迎えつつある。この局面は展開次第によってはかなり以前より予測できたことではあったが、供給変化とともにあらわれた新たな局面は従来の枠組みによる漁業の存続や局地的地域社会の維持が困難になりつつあることを意味している。
著者
工藤 孝幾
出版者
福島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本研究の目的は、運動技術を練習するときの練習の仕方について、大学生がどの程度正しく認識しているかを、実験的方法を中心にインタビューと質問調査法を組み合わせることによって多角的に分析することであった。分析の結果、彼らは、正しい動きの反復練習を繰り返すだけでは学習にはつながらないことを認識しているにもかかわらず、実際の練習行動においては、できるだけ正しい動きの反復回数を増やす方略を採用していることが分かった。
著者
大槻 信
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究は、はじめて訓点資料に触れる人に向けた「訓点資料入門」を作成することを目的とする。同時に、その「入門」を用いて大学院生などの若手研究者を育成し、その若手研究者と共同で訓点資料の原本実地調査・研究を行うことを目的とする。「入門」を教育に実用することにより、プロトタイプの「入門」を作成し、その改訂を進めた。同時に若手研究者育成と研究の進展を目指す。
著者
高田 英一 桑野 典子 森 雅生 関 隆宏 関口 正司 高森 智嗣
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

この研究は、我が国におけるIR及び内部質保証の在り方に関する研究である。この研究で、内部質保証を支援するIRのための人材の教育カリキュラムとデータベースの活用に関する研究も行った。また、IRによる内部質保証の実質化の支援の状況を把握するために、国立大学を対象とするアンケート調査を実施した。調査の結果、IRは内部質保証の支援を十分に実施していないことが分かった。今後は、IRは、個別の課題の調査分析にとどまることなく、全学としての内部質保証システムに位置付けて活用することが重要といえよう。
著者
岩田 高明
出版者
安田女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

明治5年(1872)の「学制」公布よりちょうど10年前、幕府はヨーロッパの教育事情を調査する命令を下した。それは、文久2年(1862)の遣欧使節派遣に際してなされた。幕府は使節団に対して、外交交渉と同時にヨーロッパの産業や諸制度の調査を命じたのであるが、その中に政治制度・軍制とならんで、学制の調査が重要調査事項に指定されていた。もとより、教育制度は、議会制度・税制・軍制などとともに近代国家の重要なシステムである。このような認識を政策担当者が持つようになった背景には何があったのか、それを本研究では明らかにしようとした。そして、当時としては最新の、すなわち19世紀中頃の西洋教育情報を含んでいる小関高彦『合衆国小誌』や、漢訳洋書『海国図志』『瀛環志略』『地球説略』『地理全志』『聯邦志略』『英国志』を調査分析した。その結果、これらの書籍の中には、文化の繁栄を支える大学の存在だけでなく、産業革命とともに発展してきた鉱工業のための人材を育成する中等専門学校、国民を養成するための教育制度などの情報が豊富にあることが分かった。とくに、ヨーロッパの先進国やアメリカ東部諸州において形成されつつあった国民教育制度についての情報が日本にもたらされていたことは重要である。また『聯邦志略』『英国志』は英米の宣教師が著したもので、教育が近代社会の基本的なシステムとして位置づけられていることも重要である。この点に早くから着目していたのが箕作阮甫である。彼は蕃書調所教授であり、西洋事情研究の第一人者であった。その箕作阮甫が文久2年遣欧使節派遣の時ヨーロッパ教育事情調査指令に関わったのではないかと考え、現在調査中である。
著者
加藤 眞義 菅野 仁
出版者
福島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究では、苧麻(ちょま)を素材とする織物生産の技術伝承に焦点をあわせ、同生産と後継者育成事業との現状について調査した。対象地は、福島県昭和村、沖縄県宮古島市、同石垣市、新潟県小千谷市、同塩沢町(現南魚沼市)である。1.昭和村においては、原麻生産地(新潟への供給地)としての伝統を地域活性化のシンボルとし、村外からの体験生・研修生を積極的に受け入れ、苧麻生産から織りまでの一貫した研修内容を準備している。体験生たちの参加動機には、狭義の技術習得を超えて、農山村生活への憧れ、現代的なライフスタイルの見直しといった要素が含まれている。当初、村民は外部からの来村者に対して違和感をもち、体験生たちは村の生活規範にとまどうこともみられたが、コミュニケーンの積み重ねによって、双方の受容過程が促進されたことがうかがえる。今後は生産物の販路確保、定住者の生活基盤の確保が課題となっている。2.「上布」生産の伝統をもつ宮古島市、石垣市、小千谷市、塩沢町においては、原則的に地元出身者優先で技術伝承研修が実施されている。これは人口上の過疎問題が昭和村と比して深刻化していないためであると考えられる。ただし、伝統技術の継承は、今日では高度にライフスタイルの選択としての側面をもつため、実際には外部からの意欲ある参加者も受け入れており、その参加動機は上述の昭和村の場合と重なっている。3.いずれの産地においても、糸積み工程の担い手不足が深刻な問題となっている。同工程を「隠れた前程」としたままにおくのではなく、生産工程全体を可視化することが課題となっている。4.宮古島市、石垣市、昭和村においては、かつて「伝統とは何か」についての若者層の問題提起が今日の伝統継承の重要なきっかけとなった。伝統の継承にたいしてこの「伝統定義」の検討・議論の与える力については、今後の研究課題となる。
著者
森 直樹
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

NF-κB活性化は、ATLやバーキットリンパ腫(BL)、ホジキンリンパ腫(HL)の発症に必須である。ATLの原因ウイルスHTLV-1のTaxやBL及びHLの原因ウイルスEBVのLMP-1並びにHLで高発現するCD30はNF-κBを活性化するが、過剰なNF-κB活性化は細胞死や老化を誘導する。NF-κB制御因子IκB-ζが、ATLやBL、HLで高発現していた。Tax、LMP-1、CD30はIκB-ζの転写を活性化した。IκB-ζはNF-κB/IFN制御遺伝子の発現を誘導したが、Tax、LMP-1、CD30依存性NF-κB活性を阻害した。IκB-ζはNF-κBを正と負に制御し、発がんに関与する。
著者
棚橋 尚子
出版者
奈良教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本研究の目的は、漢字に付されたルビが児童の漢字習得に有効であるかの解明にある。近年、一般に使用する漢字の総体が多くなるに伴い、新聞等において常用漢字表外の漢字にルビを付す形のいわゆるルビ付き表記が多く見られるようになった。また、名文暗唱の流行も手伝い、児童が目を通す書物の中には総ルビ表記のものが目につくようになってきた。名文暗唱のブームを作った斎藤孝は総ルビ表記を評価し、児童が漢字の読みに習熟するために効果があるとしている。斎藤に限らず、従来多くの識者が、ルビ付き表記で漢字は覚えられる旨の指摘を続けてきた。しかしながら、棚橋が1999年に行った複数の調査によれば、漢字に対して苦手意識のある児童は、ルビの有無にかかわらず漢字そのものを敬遠する傾向があることが分かっている。本研究では、このような実態を踏まえ、教師の意識調査と、児童に対する漢字習得調査を柱に「ルビは漢字の習得に有効か」という点を追究した。その結果、まず教師の意識調査からは、自身の漢字習得経験においてルビの有効性を自覚していたかどうかにかかわらず、母集団(108名)の3割以上の教師が、漢字の「書き」についてもルビが効果的だと考えていることが理解できた。さらに、小学生1699名を対象にした、実験群(ルビ付き表記による事前学習をさせる群)と統制群(事前学習をさせない群)を設定した漢字ルビの効果を測定する調査では、統計処理の結果、ルビ付き表記を見せて学習させることが、漢字の読みの習得ばかりか、書きの習得にまで影響を及ぼす(極めて有為である)ことが判明した。したがって、従来、研究者個人の経験則に基づいて指摘されてきた漢字習得における漢字ルビの有効性は、科学的にも存在すると結論することができた。
著者
研谷 紀夫
出版者
関西大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究では、今後増加すると想定される写真アーカイブをより客観的な観点から調査分析することが可能なデータを集約し「リサーチプロファイル」として継承していくモデルを示すことができた。また、これまではあまり焦点の当てられなかった写真の来歴情報や、目録化に際して参考とした証言者のインタビューや専門家の議論の過程、さらに被写体を計量分析した客観的なデータを体系的に集約してまとめ、学術利用に活用できる資料として公開できる点も明らかにした。またこれらのテキスト、映像、音声、静止画像などのメディアを電子書籍形式で集約し、1つのファイルで閲覧し、より持続的に保存できるフローとモデルを明らかにした。
著者
平田 由美 成田 龍一
出版者
大阪外国語大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

研究の目的:本研究は、「毒婦物」と呼ばれる、1880年代前後の日本に出現した、実在あるいは架空の女性犯罪者を主人公にした実録風読み物の一群を近代国民国家成立期の規範的な女性像からの逸脱に対する抑圧的言説、否定的規定による女性のカテゴリー化とみなしてその表象行為じたいを分析対象として、近代におけるジェンダー編成を歴史的に考察することを目的として行われた。研究の経過:研究の基礎となる対象資料を文学テクストに限定することなく、新聞・雑誌などのジャーナリズムや錦絵、演劇脚本などの視角的メディアにまで及ぶ広範囲の資料調査を国内外で精力的に行った。この基礎調査をもとに具体的なテクスト分析の対象となる資料となる近世戯作・明治戯作、近代小説・近代戯曲、芝居絵・錦絵・錦絵新聞などを絞り込み、カード形式による整理を完了した(デジタル形式によるデータベース化は技術的、財政的困難のために将来の課題として残った)。テクスト分析の作業じたいは対象全体の7割程度まで進んだ。19世紀についていえばそのほとんどをカバーすることができており、報告書執筆におおむね差支えがないだけの作業が完了している。研究の成果:以上の作業結果として、歴史研究と文学研究、文化研究の如何を問わず、従来の「毒婦」に関する言説の多くが、二次資料や典拠不明の記述に依拠していたこと、そしてそのことによってステレオタイプ的な毒婦イメージが再生産されてきたことが実証的に明らかにされたと考える。研究成果の一部はすでに論文等として発表されているが、代表者による論考をさらに増補して、女性表象に関与するジェンダー力学の政治性に関する総括的論集として刊行する予定である。
著者
楢崎 洋子
出版者
武蔵野音楽大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

筆者の区分による三善晃(1933〜)の作曲活動の第1期(1950年代から1960年代半ばまで)を対象にした平成18年度の研究に引き続き、平成19年度は1960年代後半以降を対象に器楽作品と声楽作品の相互関係を考察した。その結果、第2期(1966年〜1971年)には合唱作品において、複数の声の響きと器楽による言葉のアーティキュレーションと音響化が認められ(たとえば《四季に》《王孫不帰》)、その手法は第3期(1972年〜1984年)における合唱とオーケストラのための3部作(《レクイエム》《詩篇》《響紋》)の合唱とオーケストラにも認められる。第4期(1985年〜1994年)における、合唱を2群に分けるほかピアノを2台にする等の編成の大規模化は、第2期、第3期における声と器楽の響きによるデクラメーション手法の延長にとらえられる。第5期(1995年〜)には三善にとって初のオペラとなる《遠い帆》(1999)を書くが、《遠い帆》では歌唱パートが朗唱に徹する傾向にあるのに対し、合唱とオーケストラのための《三つのイメージ》(2002)においては、言葉の音響化に創出的なデクラメーションが認められる。三善の構想する「オペラではないオペラ」は、オペラと銘打った作品においてよりも、声と器楽を複合させた作品において具現されている。また、声を伴わないオーケストラのための4部作(《夏の散乱》《谺つり星》《霧の果実》《焉歌・波摘み》)においては、三善がそれまで追求していた死と生の関係、あるいは個々の人間存在とそれらの関わりが、独奏楽器とオーケストラの関係やオーケストレーションに追求されている。
著者
苅谷 剛彦 濱名 陽子
出版者
関西国際大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

この研究は、1970年代末から1980年代初頭にかけて、政府関係の審議会等の公式文書や政策文書において、日本が西欧諸国へのキャッチアップが完了したという認識を持つに至った経緯、さらにはその認識を持つことで、その後の教育政策やその基盤となる社会認識・教育問題の社会的構築にどのような影響がおよんだのかを明らかにした。研究の結果、ジャパン・アズ・ナンバーワンなどの海外の日本認識が提供した知識の影響と、キャッチアップ型近代化の限界と問題点が日本の教育政策を打ち立てる上でのトラウマとしてつきまとっていたことが示された。中央集権制や詰め込み受験教育の弊害などの「開発国家型」の教育としての問題である。