著者
加藤 文男 寺田 宙 柴田 尚 杉山 英男 桑原 千雅子
出版者
東邦大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

1.キノコ生息土壌の調査:富士山麓のキノコ生息土壌を採取し、土壌pH,^<137>Cs, Cs, K量を測定した。土壌pHは3.5-5.5と大きく酸性に偏っていた。2.キノコ生息土壌に生息する微生物のCs感受性:13の土壌サンプルについて、生息微生物のCs感受性を調べ、一般に細菌のCs感受性は低く、放線菌は感受性が高いという結果を得た。三宅島で採集した土壌より200mMCsで増殖可能な高度耐性株Streptomyces sp TOHO-2を分離した。3.分離培地のpHの影響:分離培地のpHを5,6,7に調製し、分離される細菌、放線菌の数を測定した.細菌数はpH6で最も多く、pH7の1.6倍、pH5ではpH7の1.15倍であった。放線菌数はpHの低下と共に菌数が減少し、pH7のおよそ50%であった。4,キノコ生息土壌より分離した放線菌のCs取込:これらの菌株に蓄積されるCs量は20mg/g dry wt mycelia程度であった。K202株について菌体内Cs, K量および増殖についてpH5と7で比較すると、Csによる増殖阻害はpH7の方で強く現れ、Cs蓄積量の増加とK量の減少もpH7の方が強く現れた。5.チャンネル阻害剤4-aminopyridine(4-AP)の影響:4-AP存在下でのCs取込量の変化を調べた。4-APによる阻害作用はpH7で強く認められたが、pH5では4-APによるK量の減少は認められたが、Cs量は増加し、増殖にも影響は認められなかった。6.キノコ生息土壌より分離した細菌のCs取込:生息環境に近いpH5でCsによる増殖抑制が強く見られた。また、細胞内Cs蓄積量は調べたいずれの菌株でも5mg/g dry wt前後であり、放線菌の1/4程度であった。7.細胞内Csの局在化:土壌分離放線菌、細菌、いずれの場合も低真空SEMで輝点が観察され、輝点部分にはP. OとともにCsが認められた。輝点以外の領域には、Csのシグナルは観察されず、局在化による毒性の軽減が示唆された。8.ポリリン酸の関与:^<31>P-NMRによりS.lividanns TK24にポリリン酸が存在する事を確認した。ポリリン酸合成に関わるpolyphosphate kinaseをコードする遺伝子ppkの破壊を試みている。
著者
杉山 勝三
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

1ヒスタチン類の唾液内性状: ヒト唾液中のヒスタチン5がヒスタチン3から生成することをin vitroで証明した。ヒスタチン3にα-キモトリプシンを作用させると20分以内にヒスタチン5を生成し、その後更に分解が進み、小さい断片に分解した。この断片化したペプチドは正常のヒト唾液中にも認められた。この知見は腺房細胞で生合成されたヒスタチン3から分泌の過程においてヒスタチン5が生成することを示すものである。2)ヒスタチンのリポタイコ酸に対する作用: グラム陽性菌の表層成分であるリポタイコ酸(LTA)の種々の生物活性に対してヒスタチン類が中和的に作用することを見い出した。この知見は唾液中のヒスタチンがグラム陽性菌に対しても防御的に作用していることを示唆するものである。3)唾液リゾチームの迅速精製法の開発: ヒスタチンの精製過程において唾液リゾチームを迅速に高収率で精製する方法を開発した。この方法はヘパリンカラムクロマトと高速液体クロマトによる2段階法によるもので、精製した唾液リゾチームの分子量は14,690であり、その比活性は卵白リゾチームに比べて約3倍強い活性を示した。4)ヒスタチンの細菌凝集能とリゾチームの増強作用: ヒスタチン類がグラム陰性および陽性細菌を凝集することを見い出し、この凝集が唾液リゾチームによって顕著に増強されることを発見した。これらの知見はヒスタチン類がリゾチームとの協働作用によって口腔内の細菌排除の機構に関与していることを示すものである。
著者
野間口 眞太郎 工藤 慎一
出版者
佐賀大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

亜社会性ミツボシツチカメムシおいて、2つの家族が混ざり合い、2匹の雌親が共同で給餌などの子の世話をする「家族融合」という現象が最近発見された.本研究では,野外調査や室内実験を通して,家族融合の形成プロセス、家族融合を起こさせる主要な要因,雌親同士の個体間相互作用を調べ,この家族融合が亜社会性から真社会性に至る昆虫の社会性進化の次の段階である擬似社会性への移行につながるか否かを検討した.その結果、融合雌の中に給餌をやめて次の繁殖の準備を始める「抜け駆け」雌が現れるため、集団としてより高度な社会性への移行は困難であることが分かった.
著者
遠藤 貢
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

ソマリ人「ディアスポラ」による送金が、「崩壊国家」ソマリアの現地居住者に対して、アフリカでもっとも発達した仕組みである近代化された仕組みを通じて行われ、個人レベルでの送金に加え、多額の投資などの資金送金の窓口にもなっているほか、「ディアスポラ」は特に北西部ソマリランドの政治状況にも深く関与しており、その動向はソマリアという国家の今後のあり方に大きな影響を与える存在であることが確認された。
著者
岡田 聡志
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

平成29年度は、昨年度実施したアメリカのLCME、CCNE、ACPE、及びイギリスのGMC、NMC、GPCの分野別評価基準の対応関係の整理をもとに、基準に関連する研究成果をより広い範囲で抽出・収集することに加え、それらの研究の参照枠組みの特徴を明らかにすることと、機関別評価の動向や議論についても注視しつつ、内部質保証の妥当化と高度化に関するより多くの個別機関の事例を抽出・整理することを中心に実施した。より具体的には、昨年度抽出した評価基準に関連する文献および研究成果について、特にその参考・引用文献に分析の範囲を広げ、著者名、著者の所属機関・地域、分析課題、サンプルの詳細(調査対象やサイズ等)、分析手法、分析結果、データ取得手続き、倫理的配慮の有無を項目として設定し、リストを作成した上で、医学・薬学・看護学の分野の観点から、その参照枠組みの整理・比較を実施した。これにより、国内調査の結果との比較基準を構築することができた。これに加え、国内IR担当者の準拠・参照枠組みの実態についてアプローチするため、昨年度作成した調査項目に基づき、機関レベルと専門分野レベルの観点から調査対象を区別し、スノーボールサンプリングをベースとしながら、調査対象を拡大しつつインタビュー調査を継続的に実施し、インタビュー内容の整理とデータ化を行った。なお、本年度までの研究成果の一部については、学会報告を行うとともに、論文としてまとめ、日本薬学教育学会の学会誌『薬学教育』に投稿し、知見の整理を実施した。
著者
桜井 敬之 新藤 隆行
出版者
信州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

多彩な生理活性を示すアドレノメデュリン(AM)の受容体を構成する1回膜貫通型受容体活性調節タンパク質Receptor activity modifying protein 2,3(RAMP2、3)の病態生理学的役割を、血管内皮細胞特異的および心筋特異的RAMP2 KO、および最近樹立したRAMP3KO、RAMP2/RAMP3およびRAMP3Tgマウスを用いて解析した。本研究で、我々は、個体レベルにおいてはRAMP2およびRAMP3は異なる機能;(1)RAMP2遺伝子は心血管系の恒常性機能維持に重要な働き、(2)RAMP3遺伝子は炎症応答に関与していることを初めて明らかとした。
著者
室田 浩之
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究では真皮線維芽細胞から神経栄養因子arteminがサブスタンスPによって誘導されることに着目し、その機能を検証した。Arteminはアトピー性皮膚炎病変部真皮に蓄積しており、皮膚末梢神経伸長に関与するとともに末梢神経のTRPV1発現増加に貢献することを確認した。TRPV1はヒスタミン誘導性の痒みに関与するとされるが、実際arteminの受容体(GFRα3)のノックアウトマウスではcompound48/80による掻破行動が生じなかった。Arteminはアレルギー炎症と温度知覚過敏性そう痒に関与する分子と考えられ、新しい痒み治療戦略の標的分子としても期待がよせられる。
著者
平田 典子
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

岩澤p進対数関数は通常の局所的なp進対数関数と異なり、解析的に良い性質を持つ.すなわちp進体の代数閉包の完備化である全平面において定義されている,この事実に着目して、岩澤p進対数関数の楕円関数上のアナロジーを構築し、それを用いてp進楕円対数の一次形式の下からのディオファントス近似評価を与えるということが今回の課題の目標であった.p進楕円関数もp進楕円対数関数も局所的な関数であるが、実際には楕円でない場合のp進対数関数の場合と異なり、p進楕円対数関数のもつ代数的な性質が良くなかったため、岩澤p進対数関数の持つ非常に良い性質の楕円版は得られなかったが、最終的な課題である2個のp進楕円対数の一次形式のディオファントス近似の下からの評価については、一次形式の係数である代数的数の高さに関する最良の評価を得ることが出来た,これが高田里奈氏との共著としてKyushu Journal of Mathematicsに出版されたLinear forms in two elliptic logarithms in the p-adic caseの主結果である.これにより、先行結果であったJournal of Number Theory 57巻(1996年)133-169に出版されたG.RemondとF.Urfelsの評価を改良して最良評価に達することが出来たことになる.しかしながら評価の定数部分が大きくなってしまったので、定数の改良も行うことが今後の課題である,なお、代数体上で定義された楕円曲線のS整数点はC.L.Siegelの定理より有限個であることが分かっており、その全ての座標を計算することはS.Langらの論法を用いれば可能であるが、上記の仕事はそのための具体的な評価不等式を与えたことに相当する.
著者
服巻 豊 佐藤 英俊 吉武 尚
出版者
鹿児島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

慢性疼痛の主要な要素は,交感神経の持続的かつ過剰な活性化と認知,情動や行動の問題の複合体である。従って,交感神経の抑制とセルフケア力にかかわるSelf-regulation(あるいはSelf-control)が疼痛マネジメントの鍵となる。我々は,日本独自の心理療法である動作法を用いて,これまで慢性疼痛を抱える維持透析患者の疼痛軽減並びにセルフケア力の賦活効果を明らかにしてきた。よって動作法は,身体コントロールを通した慢性疼痛に有効な新しい疼痛マネジメント法であることを明らかにした。この報告は,3年間を通じて国内・国外の学会ならびに国内学会誌にて報告した。
著者
坂本 要
出版者
東京家政学院筑波女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

この研究は全国に現存する念仏芸能・念仏行事の主だったものを現地調査し、ビデオ撮影をすることを第一目的とした。筆者は1999年以前に180箇所を調査しているが、この4年間の調査の200箇所を加え、計382箇所の調査データーをデーターベース化し、PCに入れるとともに、成果報告として冊子にした。(300ページ)ビデオについては220箇所分を収録している。1999年からの今回の調査では、集中して調査できた箇所は99年三重県伊勢志摩の大念仏調査・2000年福井県若狭地区六斎念仏・2001年長崎県平戸近辺のジャンガラ・六斎念仏・2002年長崎県五島列島チャンココ・沖縄念仏踊り等である。あわせて関西の六斎念仏・双盤念仏の調査を終えることができ、関東の双盤念仏・富士山麓の六斎念仏とあわせて、六斎念仏・双盤念仏が概観できるようになり、引声念仏から六斎・双盤という民間に広がる系譜をたどることができるようになった。長崎の離島にひろがる六斎念仏はまとまった報告がなく、新たな発見といえよう。また風流系念仏踊りについては、九州・沖縄を調べることにより、裏声で唱える念仏、しゃがみこんで踊る念仏等が見出され、新たな課題となった。盆踊りや西南中国に広がる歌垣との関連が注目されるようになった。以上この4年の調査により、念仏行事・念仏芸能のパースペクトをえることができ、風流踊り・盆踊りにつながる民俗芸能の身体表現分析の基礎データーとすることができる。特に映像アーカィブの意義は大きい。
著者
鈴木 健夫
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

18世紀末以降にロシアに大量に移住したドイツ人移民(ロシアドイツ人。19世紀末に約180万人)は帝政末期のロシア化政策、第一次世界大戦、社会主義革命、内戦、飢饉のなかで多くの人びとがドイツや南北アメリカに移住したが、スターリン時代の1920年代末にもかなりの数が国外に、そして不法に国境を越えてハルビンにも逃げた。本研究はそうしたハルビンのロシアドイツ人難民の生活とパラグアイとブラジルへの再移住の実態を解明し、民族的なマイノリティの社会経済的諸問題を考察する。平成28年度には主としてメンノ派のハルビンからのパラグアイ移住(1932年と1934年)の経過(フランス経由、人数等)と移住直後の彼らの社会経済生活を解明したが、平成29年度にはフランスに出張し、メンノ派とルター派が1932年と1934年にハルビンからパラグアイ、ブラジルに向かった、その経由地のマルセイユ(両派到着)、ルアーヴル(メンノ派出港)、ボルドー(両派出港)における当時の地方新聞の記事を古文書館で検索し閲覧し、彼らがハルビンから何年何月何日にどのようにしてマルセイユに到着し、そしてルアーヴル、ボルドーから何年何月何日にどのようにしてパラグアイ、ブラジルに向かったかについて明らかにした。この調査結果を踏まえて平成30年1月7日に報告「ハルビン難民の南米移住 1932、34年――マルセイユ到着、ルアーヴル、ボルドーから出港」を西洋経済史研究会(早稲田大学)で行った。なお、ハルビン在住時のロシアドイツ人難民の生活については、前年度と同様、すでに収集してある史料を分析した。また、ハルビンのロシアドイツ人難民の10年前の歴史について論文「マフノ軍・赤軍に立ち向かうドイツ人移民」を作成、雑誌『セーヴェル』34号(平成30年5月刊行)に発表した
著者
小澤 寛樹 中根 秀之 黒滝 直弘 木下 裕久
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

ICD-10によってうつ病(と診断された長崎大学医学部・歯学部付属病院精神神経科を受診した50歳以上の患者のうち薬物抵抗性または薬物治療不耐性と判断する外来・入院症例を対象した。心疾疾患の既往またその他の重症な身体疾患がなく、頭部MRIを施行し、T2, T1画像にて確認される微小梗塞が存在するうつ病症例において書面にて同意を得た症例に対して脳梗塞の臨床適応が認められているcAMP増強薬(シロスタゾール)を使用した。シロスタゾールを脳梗塞後うつ病患者10名に関して50-200mg投与し、0、4、8, 12週時のHAMD、血清BDNFを測定した。HAMDは経時的に減少を示し、血中BDNFは経時的に増加を示した。一方統合失調症においては変化が認められなかった。基礎的検討としての神経幹細胞に対するリチウムとドーパミン作動薬でありメチルフェニデートの影響を検討した。リチウムは幼弱な神経細胞のマーカーであるTuj1陽性細胞数は、どの濃度でもコントロール群に比べ減少が認められ、1000μMではコントロール群に対して統計学的に有意に減少がみられた。メチルフェニデートは治療濃度においでは神経細胞の分化は促進し、高濃度では抑制を示した。一方グリアのマーカーであるGFAP陽性細胞に関しては、500μMまでは増加傾向を示したが、1000μMでは統計学的な有意差を持って減少が認められた。メチルフェニデートはグリアへの分化には影響は少なかった、また増殖能に関しては抑制的である。これまで我々は炭酸リチウムが濃度依存的に神経幹細胞の増殖能を促進することを報告しているが、このことは増殖の過程と分化は単純に同一というよりむしろ拮抗的なバランスが存在している可能性が示唆され、うつ病や統合失調症の難治化・慢性化にはグリア細胞の役割が重要であることが推察された。
著者
日暮 吉延
出版者
帝京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本研究は、日本人戦犯釈放をめぐる戦後日本外交の政策と対応を一次資料にもとづいて分析するものである。研究代表者は、これまで戦犯釈放問題に関して、対日講和条約発効(日本の主権回復)の前と後に分けたうえで「連合国側の行動」を分析した。これに対して、本研究が取り組んだのは、1950 年代の日本外交が戦犯釈放問題でどのような行動をとったのか、この問題に関する事実を解明することである。そして、この「日本側の行動」は上記の「連合国側の行動」と統合され、研究代表者の「日本人戦犯釈放史」が完成することとなる。
著者
東 哲司 森田 学 友藤 孝明 遠藤 康正
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

酸化ストレスは老化に関与する。抗酸化物質である水素水は、老化による酸化ストレスの増加を抑制するかもしれない。我々は、老化ラットの歯周組織に対する水素水の効果を調べた。4ヵ月齢雄性ラットを水素水を与える実験群と蒸留水を与える対照群の2群に分けた。12ヵ月の実験期間終了後、実験群は対照群より歯周組織の酸化ストレスが低かった。IL-1β蛋白の発現に違いはみられなかったが、インフラソーム関連遺伝子は、対照群よりも実験群の方が、むしろ発現した。水素水の摂取は、健康なラットにおいては炎症性反応はなく、老化による歯周組織の酸化ストレスの抑制に影響があるのかもしれない。
著者
藤澤 秀幸 佐伯 孝弘 姫野 敦子 藤井 由紀子
出版者
清泉女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

研究会を開催して、研究メンバーの専門分野における「怪異」研究を報告した。「怪異データベース」と「怪異研究文献目録」の作成を行った。平成29年5月に笠間書院から『日韓怪異論 死と救済の物語を読み解く』を出版した。研究メンバーの藤澤秀幸・佐伯孝弘・姫野敦子・藤井由紀子の論文4篇、研究メンバーでない日本の研究者の論文1篇、韓国の研究者の論文(日本語訳)5篇、計10篇の論文を収録している。執筆者と論文題目は以下の通りである。藤井由紀子「「火車」を見る者たち─平安・鎌倉期往生説話の〈死と救済〉─」、藤本勝義「『源氏物語』における死と救済」、姫野敦子「中世文学における死と救済─能「鵺」をめぐって─」、佐伯孝弘「死なせぬ復讐譚─『万の文反古』巻三の三「代筆は浮世の闇」を巡って─」、藤澤秀幸「幸田露伴・泉鏡花における「死」と「救済」」、沈致烈「朝鮮王朝小説における死と救済の相関性─「淑英娘子伝」を中心に─」、金基&#29673;「「水陸齋」における死の様相と儀礼の構造的な特徴」、姜祥淳「朝鮮王朝社会における儒教的転換と死生観の変化」、金貞淑「朝鮮王朝時代のあの世体験談の死と還生の理念性」、高永爛「朝鮮王朝後期の韓国古小説に見える女性の死と救済」
著者
小林 啓治
出版者
京都府立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究は、京都府竹野郡木津村(現京丹後市)の役場文書の整理と翻刻を行いながら、行政の最小単位としての地域社会の中で、1930年代以降の戦争がいかなる歴史的意味をもっていたのかを、社会史的かつ総合的に考察することを課題とした。その結果、明らかになったのは、明治以降、地域社会に埋め込まれた徴兵制とそれによって形成された戦争文化が総力戦体制の基軸となったこと、経済更生運動にともなって形成された行政村の組織化を利用して総力戦体制が構築され、やがて戦時体制が地域社会に覆いかぶさり、はぐくまれつつあった自治の契機を破壊していく、ということである。
著者
藤原 勝紀 田畑 治 岡田 康伸 皆藤 章 一丸 藤太郎 下山 晴彦
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

こころの問題が複雑化・深刻化している現代において、臨床心理士をはじめとする専門家、心理臨床家には、高度な専門性が求められている。心理臨床家の養成の難しさは、内面的な心と心の使い方、あるいは全人格に関わる生き方について、いわゆる教育指導が可能かという本質的な課題を提起する点にある。直接の人間関係による臨床実践をつうじて生成する学問、学問を基盤に臨床実践を行う心理臨床家、という学問と臨床実践の相互不可分な専門性の中で、従来の知識伝授型の教育過程とは異なる「臨床実践指導」の在り方に焦点を当てることになった。そこで、臨床心理士の養成と資格取得後の教育研修、ならびに臨床実践指導者の養成に関する教育訓練、教育研修の仕組みや在り方と、その指導内容や方法について検討がなされ、大学院附属心理教育相談室など臨床実践指導機関の役割や位置づけ、大学院教育カリキュラムにおける臨床実践指導の位置と在り方を討議する中、新しい臨床実践指導のパラダイム(従来の「講義-演習-実習」から「実習-演習-講義」への変換)が示された。これは、高度専門職業人として不可欠な倫理教育も含んでおり、臨床実践に根ざしたボトムアップ型の重要性が認識されることになった。このような技術だけではない臨床実践技能の質をどう担保し高めるかという点が、心理臨床家の養成において焦点であり、かつ臨床心理士有資格者にとっては生涯学習的なテーマである。本研究を通して、臨床実践指導の本質が問い直され、その特徴として、指導を受ける側と指導者側との双方向的な視点の重要性も明らかにされた。なお、京都大学大学院教育学研究科では、平成16年度から「臨床実践指導者養成コース」という独立した博士課程が設置され、「臨床実践指導学講座」が新設される運びとなっている。
著者
佐々木 重信
出版者
新潟大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究では,超広帯域(UWB)無線伝送を用いた短距離高速微弱無線ネットワーク実現のための信号設計法,受信技術、誤り制御技術、多元接続時の性能評価法などの検討を行い、主に次の成果を得た。[1]UWB微弱無線伝送におけるピーク放射電力制限を考慮した占有帯域と伝送速度の関係を通信路容量の点から明らかにした。[2]直接拡散(DS)変調を用いたUWB方式を拡張したDS-時間ホッピング(DS/TH)UWB変調,複数の周波数帯を用いるDS-マルチバンドUWB変調,およびこれらを組合せたDS/TH-マルチバンドUWB変調を提唱した。DS-マルチバンドUWBを利用した既存無線業務への干渉低減法を考案し、効果を確認した。[3]DS-UWB多元接続伝送の性能評価法として、簡易版改良型ガウス近似および特性関数による、任意のパルス伝送間隔における多元接続干渉のモデリング法を検討し,その適用範囲を明らかにした。特性関数を用いた方法では任煮のパルス波形やフェージング通信路への対応が可能で、かつ少ない計算量でシミュレーション結果と一致する理論誤り率特性が得られた。[4]DS-UWBにおけるマルチパス環壌を考慮したRake(レイク)受信技術の開発を行った。強度の高いパスを合成する選択Rake受信,最初に到来するパスを基準にパスを合成する部分Rake受信を検討し,パス合成法の違い、ジッタ,パルス間干渉,パス振幅の量子化などが受信性能に与える影響を明らかにした。また,UWBがパルスを間欠的に伝送することに着目し,パス到来時間の推定に基づく最適Rake受信の概念を提唱し,その実装面の問題を解決した方法として、分数間隔選択Rake受信を提案し,従来のRake受信よりも性能を改善できることを示した。またUWB信号のパルス幅とパルス間隔の関係(デューティ比)が受信性能に与える影響を明らかにした。
著者
作野 広和
出版者
島根大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本研究は集落が極端に小規模・高齢化し,コミュニティの維持・存続が不可能となる限界化過程の実態を明らかにした。また,最終的に集落の居住者が不在となる無住化のメカニズムも解明した。しかし,集落の居住者が皆無であっても,土地の所有権は残るため,農地を活用し,家屋等も継続して使用される例が多く見られた。以上のことから,集落機能が消滅する前後において,集落の終末を見据え,土地所有や土地利用のあり方等を検討する「むらおさめ」の必要性があるとの結論に至った。
著者
山辺 昌彦 大岡 聡 植野 真澄 井上 祐子 小山 亮 石橋 星志
出版者
公益財団法人政治経済研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

「東方社コレクション」と「日本写真公社撮影空襲関係写真」について、リストと解題を作成してその全貌を紹介するとともに、展示や写真集により主な写真を広く公開した。これにより、東方社撮影写真が、空襲などの戦争被害をはじめとして、戦時下や戦後直後の市民の暮らしなどを伝える貴重な記録写真であるという、東方社写真の歴史的意義が明確になり、東方社写真の再評価を確立した。また、防衛総司令官・東久邇宮稔彦の東京空襲体験、別所弥八郎撮影写真の特徴なども明らかにすることができた。