著者
荒川 圭太
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

化石燃料の消費によって大気中に放出された硫黄酸化物(SOx)や窒素酸化物(NOx)による酸性雨・酸性霧は地球規模の環境問題である。降雨などに混じる酸性物質(硫酸、硝酸など)が直接的もしくは間接的に植生や農作物の生産性・品質に少なからぬ影響を及ぼすことが懸念される。降雨の酸性化と同様に雪氷の酸性化(酸性雪)も徐々に進行している。酸性雪は冬期間かつ寒冷地域での気象現象であるため、酸性雨に比べてその関心度は低い。酸性雪は地表面に留まる時間が長いため、酸性雪に覆われた植物は、氷点下温度と酸性物質による複合的環境ストレスを長期間にわたって被ることになる。そのため、酸性雪は融雪後の植物の生長に影響を及ぼす環境要因のひとつと考えられるが、酸性雪による植物への影響やその応答性について検証した例は見ない。そこで本研究では、酸性雪によるストレスを実験室レベルでシミュレーションし、酸性雪による越冬性植物の傷害発生機構を解析して酸性雪耐性付与への分子基盤の構築を目指した。これまでに、越冬性作物である冬小麦を用い、酸性雪ストレスをシミュレーションする実験系を構築して酸性雪ストレスに対する冬小麦緑葉の応答性を調べてきた。その結果、酸性物質(硫酸)存在下で凍結融解処理することによって冬小麦緑葉の生存率が低下するのは、共存する硫酸が凍結濃縮されることによって生じるpH低下が主たる要因であることを明らかにした(Plant and Cell Physiology誌に掲載予定)。しかし、酸性雪ストレスによる越冬性作物の傷害発生の分子機構を詳細に解明するまでにはまだ至っていない。今後も当研究課題に関連した生理学的・生化学的解析を継続し、越冬性植物の分子育種による酸性雪耐性の付与や酸性雪耐性品種の選抜による生産性向上・植生回復などへ応用するための分子基盤の構築を試みる所存である。
著者
神川 康子
出版者
富山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

当研究室では1996年から子ども達の基本的生活習慣と日中の生活の質に焦点を当て、唾眠研究を続けている。平成15〜17年度の研究は、睡眠・覚醒リズムの乱れが、子ども達の集中力や情緒の安定性に及ぼす影響力について検証し、生活の改善を図りたいと考えた。そのためには、子ども達、保護者および教員が、基本的生活習慣や生活リズムを整え、望ましい時間帯に睡眠をとることの重要性を科学的に理解することが先決である。そして、子ども達が成長とともに生活の自己管理ができるように周囲から教育支援できるプログラムの作成を目的とした。この3年間の研究の成果はつぎのとおりである。1.2003年実施の富山県における小学校から高校までの養護教諭を対象とした調査で、子ども達の生活が、明らかに夜型化し、睡眠不足になっている傾向が認められた。2.同調査分析の結果、養護教諭が懸念する最近の児童・生徒の心身状況は、「情緒不安定」「精神発達が幼稚」「生活リズムの乱れ」「体調が悪い」「疲れている」の項目であった。3.大学生を対象として、睡眠習慣と心身の健康状態の関連をシミュレーション実験により検証したところ、就寝時刻、起床時刻ともに遅く、睡眠時間が短い学生ほど、昼間の疲労の自覚症状訴え数が多く、反射神経の活動性を調べる「落下反応検査」の5回測定した成績の標準偏差が大きく、作業が不安定であることが判明した。4.しかし、室内環境に、副交感神経優位にする効果のある香気成分セドロールを噴霧することによって、自覚症状訴え数が減少し、作業成績の標準偏差も小さくなり、安定することもわかった。このセドロールの効果は小学生の計算作業や図形認識でも作業量が増え、誤答数と標準偏差は減少するという同様の傾向が認められた。最後に3年間の研究の成果をプレゼンテーションにまとめ、学校現場や地域の研修活動等、3年間で107件に活用し、睡眠のとり方による生活の質(QOL)向上について理解を促した。
著者
楊 立明 中村 みどり 池上 摩希子 周 飛帆
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究では、中国人留学生を英語、日本語能力によりグループに分け、言語能力と社会適応の諸側面を調査した結果、以下の成果を得た。(1)適応意識の多様化(2)適応戦略の変化(3)日本語習得と使用意識の相違また、日本で就職した留学生への面接から、大学生活には適応しても企業での適応には困難を抱えているとわかった。環境要因を加味しつつ、就職後、留学生がどのように適応を図っていくか追跡調査をすることが今後の課題である。
著者
工藤 眞由美 山東 功
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

ボリビア沖縄系移民社会(沖縄第1移住地)では、琉球語(沖縄中南部方言)、本土日本語、スペイン語とのダイナミックな言語接触が起こっている。談話録音については、世代ごと(1世成人移民、1世子供移民、2世、3世)に、文字化を行い、報告書『ボリビア沖縄系移民社会における談話録音資料』としてまとめた。沖縄県那覇市を中心とするウチナーヤマトゥグチ的な表現形式(~シヨッタ形式、~ワケサ等)も使用されていることが明らかになった。言語生活調査については、ブラジル沖縄系移民社会(サンパウロ市)と比較した結果、ブラジル(サンパウロ)では、ポルトガル語へのモノリンガル化が急速に進んでおり、ボリビアでは日本語が維持されるバイリンガルな状況にあることが多面的な調査項目から明らかになった。
著者
辻 とみ子 青山 頼孝 武山 英麿 橋本 和佳 佐々木 敏 川田 智恵子 青山 頼孝 武山 英麿 橋本 和佳 佐々 木敏 川田 智恵子
出版者
名古屋文理大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

地元小学校の6年生に食育支援介入研究を実施した。6年生を対象に「みんな元気だ!朝食パワー」単元構想図(68時間完了)のうち、家庭科と学級活動の時間を使って、9時間を本研究に充当した。3回シリーズで朝食に地産地消を取り入れた出前授業やわが家の自慢の朝食レシピを完成させ、調理実習でスキルを習得させた。子どもたちは「私食べる人」から、「時には私作る人」へと改善した。このプログラムを通して、子から家族へと食生活が改善でき、その変容が継続していることが成果である。
著者
寳月 誠
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

1920年代から20世紀末までの約80年間のアメリカ社会学における主要な逸脱理論の展開過程は以下の時期に区分される。20年代から30年代のシカゴ学派、40年代から50年代のアノミー論や機能分析、60年代のレイベリング論や闘争論、70年代から80年代の保守的な時代の実証主義、90年代から21世紀にかけての統合理論の時代である。この過程を理論的パースペクティブからみると、構造論・相互作用論・行為者論の基本モデル間の循環・組み換え・統合として捉えられる。また、方法論は、実証主義/解釈主義、分析的/ナラティブ、リアリズム/構築主義に区別されるが、これらも時代によって主流となる方法論は交代している。こうした理論の展開過程から知の創造性を活性化する条件として、知識社会学的に以下の点を読み取ることができる。1.新規な逸脱理論は突然生み出されるものではない。構造論・相互作用論・行為者論の基本的パースペクティブ間の循環や組み換え、さらに実証主義や解釈主義などの方法論の交代として生じる。2.逸脱理論の発展は対立する視点を互いに考慮して、自らの立場をより鮮明にしたり、逆に相手の立場を取り入れて互いが類似してくることによって生じる。アボットが指摘するよう、対立する視点から現象を捉える「フラクタルな思考」は、理論の創造性において重要な役割を果たしている。3.理論が基本的なパースペクティブ間の循環であるとすれば、学界で影響力を発揮するには、それが伝統的な理論の継承や再解釈に基づくものであることをアピールし、一定の正統性を引きだすのが効果的である。4.学界での影響力は、理論自体の妥当性以外に、学派内部でのコリンズのいう「相互作用儀礼」の活発度や大学の威信などによって左右される。5.理論の交代を促す要因は社会・時代の要請と関連している。時代にマッチした逸脱理論は人々の関心を得て支持され、現実の政策に反映され、研究資金も獲得しやすく、大学でのポストも得やすい。注目を集める理論・学派ほど、「雪だるま式」に勢力を拡大する。
著者
内村 直尚 森田 喜一郎 橋爪 祐二 土生川 光成 小鳥居 望 山本 克康
出版者
久留米大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

昼休みに15分間午睡をすることによってそれ以後の眠気が減少し、午後の授業だけでなく、帰宅後の学習にも集中できた。また、週3回以上実施した者は昼夜のメリハリのある規則正しい生活リズムが確立し、夜の睡眠も深くなった。午睡導入前の3年間と導入後の3年間の大学入試センターの試験成績を比較すると明らかに導入後の試験成績は上昇していた。保健室利用者および1人当たりの平均利用回数を午睡導入前後の3年間で比較すると導入後の3年間で減少していた。
著者
小林 敏孝 篠沢 隆雄
出版者
足利工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

H16年度において、睡眠の数学モデルによって、睡眠時間が昼間の行動と密接な関係にあることを推定した。H16年度〜17年度にかけて、15名の被験者に睡眠日誌と行動量計(アクチグラフ)を約2週間記録してもらい、彼らの自覚的な睡眠覚醒リズム(SWR)と活動休止リズムを測定した結果、睡眠時間が6時間以下のshort sleeper (SS)では、昼間の活動量が常に高かかった。これに反して9時間を超えるlong sleeper (LS)の昼間の活動量は変動が大きく、SSに比べて低かった。17年度〜18年度にかけて、企業の中高年(38才〜59才)の会社員に対して、睡眠時間が比較的短い6名を選び、彼らに睡眠ポリソムノグラフ(PSG)等を3夜連続で記録した。その結果、平均睡眠時間が5時間半以下の者はREM睡眠の持続が悪く、精神的なストレスが過多であった。また、性格傾向を質問法(YGテスト)で検討した結果、SS群とLS群の間には大きな差異は認められなかった。しかし、面談による被験者の性格傾向としてSS群は快活、多弁の被験者が多く、LS群は物静かな印象を強く受けた。性格傾向に関しては詳細な検討が必要と考えている。以上の3年間の結果から、short sleeperの行動上特徴として、昼間の活動量が常に高いこと、さらに中高年では精神的なストレス過多にある可能性が高いことが明らかになった。これは、昼間の活動を高める性格に関与する性格遺伝子が睡眠時間を決定している遺伝子の有力な候補の可能性が高いことを意味する。3年間の研究期間においてshort sleeperの精神生理的な特徴の同定に多くの時間を要したために、遺伝子の同定に着手できなった。今後、平均睡眠時間が5時間前後でしかも昼間の活動量が高く昼寝の習慣がない群を選び、昼間の活動が高い性格に関与する遺伝子の同定を試みる。
著者
山本 文彦
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究は、近世ドイツにおける帝国郵便と領邦郵便の制度的発展およびその両者の協力関係を明らかにするとともに、郵便がこの当時の最も重要なコミュニケーションツールであり、郵便の発展は、舗装道路を始め、郵便路線図や郵便時刻表の普及をもたらしたことを明らかにした。また郵便の発展は、時間意識と空間意識の変化に大きく貢献し、中世的な時間・空間意識から近代的な時間・空間意識へと変化をもたらす重要なきっかけとなった。
著者
薮下 史郎
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

本研究は、これまで行ってきた『不完全情報と金融市場』に関わる研究の延長線上にあるもので、情報の不完全性や取引費用観点から貨幣金融制度の役割およびその発展過程を理論的に考察し、さらにそれらを日本とアメリカに関して歴史的に比較分析を行ったものであった。完全情報や完全競争市場を前提とした新古典派経済学においては「貨幣」、「金融機関」や「制度」は重要な役割を果たさないが、不完全情報や取引費用が存在し、市場が不完全な経済においては、貨幣制度や金融システムなどの制度のあり方によって、経済活動や経済発展が大きな影響を受けることになる。また、こうした問題を分析するためには経済と政治制度や政治過程との関連を重視した政治経済学的アプローチが不可欠になる。本研究で行った研究は大きく次のように分類することができる。(1)これまでの成長理論や内生的成長理論における貨幣の役割を整理するとともに、貨幣金融制度と経済成長との関連を理論的に分析した。(2)中小企業金融の問題点がどこにあるかを情報の不完全性から明らかにするとともに、それを経済発展と関連づけて考察した。(3)経済制度の意味を明らかにし、また、そうした制度の成立および変化をゲーム理論や新制度学派のアプローチなどを用いて理論的に考察した。(4)明治初期およびアメリカの19世紀における貨幣制度の成立過程を比較検討することにより、政治と経済の相互依存の重要性を明らかにし、理論的分析を補完した。こうした研究成果を『貨幣金融制度と経済発展:貨幣と制度の政治経済学』(有斐閣:2001年9月)としてまとめ刊行した。また、大学内外の研究会などで発表するとともに2002年3月末には上掲書の内容に基づき、『不完全情報下の金融システムと経済発展』と題して南開大学(中国天津)において集中講義を行った。本研究から導いた結果は、今後進める予定である中小企業金融や開発金融に関する研究の基礎となるものであった。
著者
立田 ルミ 富澤 儀一 大西 雅行 中西 家栄子
出版者
獨協大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

本研究は、日本文化が若い世代にどのように捕らえられているかをインターネットを通じて知らせ、また、英語圏の外国人学生が日本文化に対してどのようなイメージを抱いているかの意見を載せ、ホームページを見た人達がこれらに対してどのように感じるかの意見交換の場を設けることにより、よりよく日本文化を理解してもらうことを目的としている。これらのホームページから、日本人学生は日本文化がどのように英語と日本語で紹介されているかを知り、英語圏の外国人学生は日本語と英語でどのように日本文化が紹介されているかを知ることにより、日本文化に対する理解を深めることの助けとなる。以前に開発した茶道のコースは教える側からの日本文化紹介が主であったが、本システムの開発に当たって研究会で何度も議論した結果、教える側からの日本文化の押し付けではないような形にすることに決定した。そこで、獨協大学学生と東京理科大学学生がもし日本文化を紹介するならどのような事を紹介したいかを調査し、それらの調査結果をまとめたものを土台としてシステム開発することにした。それと同時に、獨協大学に滞在中のエセックス大学学生に対して、自分の国に帰ったらどのように日本文化を紹介するかも日本語で書かせた。またイリノイ大学で日本文化を学んでいる学生に対しては、どのような日本文化をもっと知りたいかを調査した。イリノイ大学に留学中の日本人学生に対しても、どのような日本文化を外国人に知らせたいかを調査した。また、日本語をこれから教えようと思っている獨協大学学生に対して、どのような日本文化を通じて日本語を教えたいかを問うた。これらの学生の意見を土台にして、各日本文化の項目について日本語と英語の両方の言語で個々にホームページに載せるとともに、それと関連する写真も載せた。またこれらをデータベース化して、そのトップ3位について詳しく解説を載せた。またこれらのページを見た学生が、自分の意見を追加できるように設計した。この意見交換については文字情報だけでなく画像情報も載せ、ページを見た人はいつでも日本文化に対する意見を投票できるように工夫した。
著者
末吉 秀二 アブドゥルモネム メルカウィ
出版者
吉備国際大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

ヨルダン南ゴールにおいて1950年頃に定住した2つのクランを対象とした家系人口調査をもとに、本研究は、定住の初期(1950-69年)、中期(1970-89年)、後期(1990-2009年)における年平均人口増加率が、0.040、0.041、0.036、および0.039、0.042、0.036と定住初期から中期にかけて上昇し、中期から後期にかけて減少したことを明らかにした。しかし、両クランともに2030年には人口が2倍になることが予想されることから、生存適応を脅かす過剰人口に対する方策の必要性が示唆された。
著者
武田 裕子 大滝 純司 高橋 都 甲斐 一郎 稲福 徹夜 高屋敷 明由美 大滝 純司 高橋 都 甲斐 一郎 森尾 邦正 稲福 徹也 高屋敷 明由美 安井 浩樹 武村 克哉
出版者
三重大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本調査では、医師が専門とする診療科および勤務地選択の際の要因や関連する因子を探るべく、全国の医学部4年生・6年生ならびに研修医を対象に、アンケート調査を実施した。また、すでに専門診療科をもって診療している医師会会員(3県)にも同様の調査を実施した。回答者の属性や個人的な体験・考え方、生育地の規模が特定の診療科選択や最終的な勤務地の決定に影響することが見出された。回答した学生・研修医の2/3がへき地勤務を肯定的にとらえていることがわかった。また、勤務地の決定には生育地の規模が大きく影響していた。
著者
小川 家資
出版者
帝京科学大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本研究は、職場におけるペットの導入が作業者のストレス解消や緩和にどの程度貢献できるかについてオフィスを見立てた実験室での実験と実際の職場での実験から検証した。(1)オフィスを見立てた実験室での実験では、作業効率(作業パフォーマンス)、生理変化(心拍数、脳波)、心理変化(気分プロフィール検査)、人の行動解析を用いてペット以外の条件と比較して検証した。課題とする作業は「単純データ入力作業」、「連続加算作業」、および「パズルゲームによる創造作業」の3水準、休憩は、「ペットと遊ぶ」、「ペット型ロボットと遊ぶ」、および「雑誌を見る」の3水準の計9条件で実験を実施した。実験は被験者2〜3名がオフィスを見立てた実験室で同じ課題作業10分を3回繰り返し、それらの作業間に休憩5分を同じ条件で2回実施した。本学の健康な学生12名(男子6名、女子6名)が被験者として参加した。結論として作業による効果の違いはあるがペットの介在は職場ストレス緩和に貢献できる可能性が示された。(2)実際の職場での実験では、休憩時に犬と触れ合うことによってどのような気分変化が生じるかを検証した。職場ストレスの指標として気分プロフィール検査を使用した。対象者は男性職員4名と女性職員4名であった。測定は出勤時、昼の休憩前後、退勤時の1日4回で対象者にはこの実験へ最低3日の参加をお願いした。この結果から休憩時に犬と触れ合うことは午前中の仕事によって下がった職員の生き生き感を出勤時以上の状態まで増加させ、思考力低下を抑える効果がみられた。以上の2つの実験から職場ストレス解消にはペット導入が作業者の作業効率、生理的な効果、心理的な変化にプラスの効果があることがわかった。しかしながら、現実問題として犬嫌いの人への対応と対象課題作業以外への効果がこれからさらに検討を加えるべき課題として指摘した。
著者
金子 勝一 小田部 明 山下 洋史 上原 衛 松田 健
出版者
山梨学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

若年者の離職・転職および失業の問題が深刻化している。これらの問題を大卒者に限定した場合、入社後3年以内の離職率は3割を超えている。また、若年者が仕事に対する理想と現実のギャップに悩んでいるという指摘がなされている。一方、情報技術(ICT)の急速な進展やグローバル化の流れの中で、多くの日本企業は、これまでのジェネラリスト重視の単線的な採用活動から脱却し、スペシャリストを含めた複線的な採用を進めようとする動きである。このような状況をふまえて、大学や企業・行政が学生の就業意識や職業能力の向上を図るための取り組みの一つとしてインターンシップに注目し、その導入を進めている。本研究では、インターンシップに着目し、大学と企業・行政・地域との関係におけるインターンシップの位置づけについて、人的資源管理論・組織論・情報管理論といった経営学的立場からその理論的枠組みの構築を試みている。研究期間の3年間に、インターンシップ導入大学の増加要因フレームワーク,インターンシップ導入による相互準アウトソーシング・モデル,'インターンシップの準インハウスソーシング・フレームワーク,低賃金アルバイト的インターンシップ・フレームワーク等、多くの研究成果を生み出し、それらの成果を学会発表や学術雑誌の論文として、公表してきた。これらの研究成果は、インターンシップに焦点を当て、学生、大学および企業間のコラボレーションの関係の議論を展開し、インターンシップに関する新たな視点を提示したものである。今後も、研究メンバーと共同で継続的に研究を進め、研究成果を公表するとともに、積極的に教育へ還元していく予定である。
著者
高橋 恵子
出版者
聖心女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

目的:親しい人間関係の発達を理解する代表的な理論である「愛着理論」と「ソーシャル・ネットワーク理論」を理論的・実証的に吟味した上で,両者を統合する理論として筆者が構築してきた「愛情の関係モデル」を提案し,妥当性を実証的に検討することをねらいとしたものである。研究の内容:ステップ1は2理論の基本的な相違を明らかにした上で,先行研究を概観し,人間関係は愛着をその一部として含むソーシャル・ネットワークとして捉えることが有効であるという立場から,筆者の「愛情の関係モデル」を提案した。「愛情の関係モデル」は,個人が持つ複数の重要な他者からなる親しい関係の性質を正確に記述し,さらに,個々人の複雑な関係のネットワークを類型化して個別の特徴をとらえて見ようというものである。ステップ2では「愛着理論」の測定具(Strange Situation Procedure,Doll Play,Attachment Interview,Attachment style)をわが国で使用する場合の問題を検討し,「愛情の関係モデル」の測定具(愛情の関係スケール,ARSと絵画愛情の関係検査,PART)を提案した。ステップ3では幼児から高齢者までの研究協力者から得た実証的な資料について4つの研究をした。最後に,愛着の機能を認めたうえで,それをソーシャル・ネットワークの中に位置づけることの大切さ,しかも,ソーシャル・ネットワークの個人差を記述することを可能にした「愛情の関係モデル」の重要さ,について論じた。
著者
玉野 和志
出版者
首都大学東京
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

資本主義世界経済の転換の下で,各国の都市政策には,グローバル・シティ・リージョンズなどの議論にみられるように,国境を越えて結びつき,成長地域を形成していくことが求められている.本研究では,日本の都市と都市政策において,そのような動きがどの程度具体的に進んでいるかを検証した.検討の結果,1970年代以降そのような必要に駆られた欧米と比べると,日本においてそのような戦略が求められるのは90年代後半以降の比較的最近のことであって,そのためかそのような成長戦略の必要性がまだ十分には認識されていないことが明らかになった.この点は現在の日本経済を考える上でも,興味深い点であり,さらなる検討が求められる.
著者
宇都宮 京子 稲木 哲郎 竹内 郁郎
出版者
東洋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

3年間の研究期間のうち、1年間は、「呪術」という概念の意味を確認するために、それぞれの研究者が分担して、購入した民俗学、宗教学、社会心理学、哲学の領域の書籍を検討し、また、必要に応じて地方にも情報集めに行った。2年目は、1年目で得た情報に基づいて調査を行った。3年目は、それらの結果を整理しつつ分析を行い、総合的見解と今後の課題とをまとめた。2年目の調査においては、1)宗教的伝統に基づいた行為、儀礼、儀式、2)民俗学などの著書に記されている言い伝え等、3)真偽が疑われつつもマスコミなどで時々取り上げられる超常現象、4)いわゆる慣習に基づいた諸行為、5)意志決定に際して、示唆を得るための呪術的行為などの様々な項目について、学歴や職種や地域によって見解の相違が見られるかどうかを調らべることにし、その対象地域は杉並区と荒川区とした。そして、調査結果の単純集計をとり、さらに、呪術的要素と説明変数(地域性・性別・年齢層・学歴・職種・危機体験の有無・科学観など)とのクロス集計をとった。以上のような調査結果の検討を通して、人々の生活の中には、現在も伝統、慣習、宗教などさまざまな要因と結びついて、非合理的と思われる要素が多様なかたちをとって深く染み込んでいるということがわかった。そして、科学的に説明されていなくても、社会的に通用している呪術的要素は多々あり、生活の中における「合理性」の意味をあらためて問う必要性を感じた。同時に、今回の調査を通して、初めは外すつもりであった地域に根ざす文化的要素が意外と重要な意味をもっていることに気づいた。今回は、杉並区と荒川区という東京都の2区でしか調査をおこなえなかったため、地域差についての一般的な結論を出すことはできなかったが、今後、より広い地域で調査をおこない、地域にもとづく文化的要素と呪術的要素との関係の考察を進めていきたいと考えている。
著者
横田 一正 劉 渤江
出版者
岡山県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

実空間を歩行するとき、仮想空間の情報を付加することにより、より豊かな体験をすることができる。本研究では、2つの空間の融合モデルを提案し、電子ペーパー等を考慮した携帯機器を使用したプロトタイプシステムを開発し、その有効性を確かめた。
著者
高橋 真理
出版者
北里大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本研究の目的は、妊娠期女性の夢(睡眠中にみた夢:以下夢)の特徴を定量的に明らかにするとともに、ストレスフルなイベントと関連する不快な夢に対する認知行動療法の有用性を定性的に検討することである。1)妊婦50名、非妊婦12名を対象に、prospectiveに1週間にみた夢想起の特徴(頻度、夢の鮮明度、夢の内容)について検討した。夢をみた平均日数は、4.8日/週であり、妊婦と非妊婦および妊娠時期別での相違はなかった。また、夢の内容は、「妊娠・出産・赤ちゃんに関すること」、「家族とのこと」、「仕事・職場のこと」、「友人のこと」、「TV・アイドルのこと」、「日常の出来事」、「幼い頃、昔のこと」、「奇異な出来事」のカテゴリーに分類された。さらに、「妊娠・出産・赤ちゃんに関する夢」について、妊娠時期別に夢想起の頻度を比較すると、妊娠初期では多い順に7番目のカテゴリーであるのに対し、妊娠中期は3番目、妊娠末期では2番目であり、妊娠の経過とともに、妊娠、出産、赤ちゃんに関する夢想起の頻度が高まることが示された。また、1週間で妊娠・出産・赤ちゃんに関する夢想起の経験をもつ妊婦の割合は、妊娠初期20%、中期57.1%、末期57.1%であり、中期と末期とが初期よりも高率であったが、想起者ひとりひとりの平均夢数の割合では、中期67.9%に対し末期78.6%であり、妊娠中期、末期には妊娠・出産.赤ちゃんに関する夢を想起する妊婦の割合が増え、また、このような妊婦は妊娠経過とともに妊娠・出産・赤ちゃんに関する夢の頻度も増加することが示された。2)「妊娠・出産.赤ちゃんに関する夢」31を内容別に分類した結果、「母乳に関する夢」、「妊娠による身体的変化に関する夢」、「胎児に関する夢」、「出産に関する夢」、「出産後の赤ちゃんのことに関する夢」の5つのサブカテゴリーに分類された。さらに妊娠時期別にサブカテゴリーの頻度を比較すると、妊娠初期は「胎児に関する夢」であったが、妊娠中期は「「母乳に関する夢」、「妊娠による身体的変化に関する夢」、「胎児に関する夢」、「出産に関する夢」、妊娠末期は「出産後の赤ちゃんのことに関する夢」に関する報告がほとんどを占めており、妊娠経過に伴い妊娠・出産・赤ちゃんに関する夢の内容が変化していくことが示された。以上、本報告書では妊娠期女性の夢に関する定量的な特徴を調査研究の結果に基づき記載した。事例による分析は、報告書に成果を纏めて報告する。