著者
小森田 秋夫 高橋 一彦
出版者
神奈川大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

1993年に一部の連邦構成主体で導入され、2010年に全国化したロシアの陪審制は、いま困難な状況のもとにある。第1に、テロ、スパイなど一定の国家犯罪の適用除外、控訴審制度導入と関連した一連の事件の州級裁から地区裁への移管にともなう適用犯罪の縮小という制度的変更と、訴追側や一部の弁護士の陪審制適用の回避志向などの結果、事件数は大幅に縮小している。第2に、連邦最高裁の方針にもとづき、陪審員の判断対象を縮小する裁判実務が行なわれている。陪審制にとってのこの逆風は、少なくとも部分的には、それが「訴追側への偏り」というロシアの刑事訴訟の病弊を克服する可能性を示すという成果のゆえ、と見ることができる。
著者
永野 幸生 山本 雅史 古藤田 信博
出版者
佐賀大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

最先端分析機器「次世代シーケンサー」を用いてDNAを分析することで、様々なカンキツの類縁関係を調べた。その結果、既知の知見をより厳密に再確認し、さらに、新規な発見をした。中でも特筆すべき発見は、新たに命名したヒマラヤンライムの発見である。ブータンで見つけたヒマラヤンライムは、世界中で知られているメキシカンライムと形態的に似ているが、DNAを調べるとメキシカンライムとは異なるものであった。
著者
新原 道信
出版者
中央大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2020-04-01

本研究は、“異物への過剰な拒否反応”である“「壁」の増殖”を、現代社会の焦眉の問題として捉え、この潮流に対するオルタナティヴとしての“共存・共在の智”を、“探求型のフィールドワーク”によって明らかにする。具体的には、研究期間内に、ブラジル北東部などでの調査を遂行し、ヨーロッパにおける“「壁」の増殖”の焦点となっているメリリャとセウタ、ランペドゥーザ等での調査からの知見と比較し、今日の「異端・異物を排除・根絶する力」を縮減するような〈“共存・共在の智”の存立基盤はいかなるものか、どのように伝達可能となるか〉という「問い」に応える。
著者
竹井 成美
出版者
宮崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

1605年に長崎のコレジョ(大神学校)で印刷されたラテン語(一部ポルトガル語とアルファベットによる日本語)による『サカラメンタ提要』という典礼書の中には、その後半部分の「葬儀のための典礼」の箇所に、点々と祈りの歌であるグレゴリオ聖歌が19曲収録されている。それらは、五本の譜線が朱色で、また当時ヨーロッパで用いられていた特殊な四角い形をした、いわゆるネウマ譜(音符)は黒色で印刷されており、いわば二重式の楽譜印刷で刷られている。まさに日本初の楽譜印刷によるものである。本研究は、以下の2つを明らかにすると同時に、グレゴリオ聖歌のいくつかをレクチャーコンサートや講演の中で一般の人々に紹介することができた。(1)今日、東洋文庫と上智大学キリシタン文庫に存在するそれぞれの『サカラメンタ提要』の原本を比較すると、例えば1曲目の「Subvenite sancti Dei」は数カ所の植字ミスと思われる箇所が判明した。また当時のゴツゴツしたネウマ譜の一つひとつの印刷工程をチェックしながら、19曲すべてを今日の五線譜に解読することができた。(2)19曲中の1つ「Tantum ergo」は、当時のポルトガルとスペインでしか歌われていなかった、いわばローカル聖歌であることを、当時のスペインの作曲家たちの作品の中から証明することができた。(3)当時の日本で歌われた可能性のあるグレゴリオ聖歌を、折に触れてレクチャーコンサートや16世紀の東西交流史をテーマとした講演の中で実際に演奏したり、CDで紹介することができた。折しも、今年は『サカラメンタ提要』の印刷から400年に当たり、なんらかの形で19曲全曲を演奏する企画をしたいと考えている。
著者
粕田 承吾 勇井 克也
出版者
奈良県立医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2021-04-01

スズラン は、主に観賞用として栽培されている。しかし、野山に自生しているスズランも多くみられ、食用のギョウジャニンニクと外観が似ていることから、誤食による食中毒が現代でも後を絶たない。スズラン毒の主成分はconvallatoxin (CTX)と呼ばれる強心配糖体の一種である。摂取した場合、嘔吐、頭痛、眩暈、心不全、血圧低下、心臓麻痺などの症状を起こし、重症の場合は死に至る。一方、CTXによる中毒では出血傾向を示すことが経験的に知られているが、その機序は現在までのところ、まったく不明である。本研究では、CTXが血液凝固系に対する影響を検討し、その作用機序を明らかにする。
著者
足立 亨介
出版者
高知大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

甲殻類は見た目に緑青食から赤燈色まで様々な色を呈するが、これは外骨格中に含まれる色素タンパクであるクラスタシアニン(CRCN)によるものである。CRCNはアポタンパク質とアスタキサンチン(Asx)が結合した複合体としての色を本来呈するが、加熱などで変性するとタンパク質の変性によりAsxが放出され、赤色を呈する。エビ・カニがゆでると赤くなるのはこのためである。本研究では組換え発現系によってクルマエビCRCNアポタンパク質を調製し、Asxと再結合することによりその色彩多様性の解析を試みた。
著者
柴崎 浩一 渡辺 卓也 長谷川 勝彦 山脇 敏裕
出版者
日本歯科大学新潟短期大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

H. pyloriの初感染時期を推測する目的で、園児とその両親を対象に唾液中のH. pylori DNAの検出を行った。園児のH. pylori DNA検出率は年齢とともに上昇する傾向がみられ、4歳児と5歳児の間で有意に上昇していた。H. pylori陽性であった園児の母親のH. pylori陽性率は陰性児の母親の陽性率に比し有意に高率であった。これらは園児における初感染は3歳未満で起こっており、4.5歳間でも感染の危険性が高いことを示している。さらに、H. pylori陽性児の母親の陽性率が高かったことは母親から園児への感染が最も重要であることを示している。
著者
衣斐 大祐
出版者
名城大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

NMDA受容体拮抗薬のケタミンは、難治性うつ病にも治療効果を示すため米国ではすでに使われ始めている。一方、Psilocybinなどセロトニン5-HT2A受容体(以下、5-HT2A)刺激薬も即効性と持続性を有する抗うつ作用を示すことが報告された(Kyzar et al, Trends Pharmacol Sci 2017)。我々は既にケタミンの抗うつ作用が5-HT2Aを介していることを見出している。そこで本研究では、5-HT2Aを介する抗うつ作用に関わる神経回路および抗うつ関連分子を明らかにし、ケタミンの抗うつ作用における5-HT2Aの役割を明らかにすることを本研究の目的とする。
著者
石井 亜矢乃 和田 耕一郎 狩山 玲子 小比賀 美香子
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

再発性尿路感染症に対する乳酸菌膣坐剤の有効性に関する臨床研究ならびに実験研究を実施した。臨床研究では、反復性膀胱炎患者に乳酸菌膣坐剤を投与し、投与前より有意に再発回数が減少した。次世代シーケンサーによる解析で、膣より乳酸菌(Lactobacillus crispatus)が確認できる症例もあった。実験研究では尿路バイオフィルム(緑膿菌、大腸菌、黄色ブドウ球菌)に対する乳酸菌と各種抗菌薬の評価を行った。乳酸菌によるバイオフィルム形成抑制効果を認め、抗菌薬併用下で乳酸菌による抑制効果はさらに増強した。以上より、再発性尿路感染症に対して乳酸菌膣坐剤は有効な予防法・新規治療法に繋がることが示唆された。
著者
川勝 真喜 鈴木 和憲
出版者
東京電機大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

老人保健施設においてBGMとして高周波音を含む音源と含まない音源を2週間ずつ流し,音楽呈示前後で認知症患者の精神症状を評価する方法の1つであるNeuropsychiatric Inventory,(以下NPI)スコアの差を比較した.回帰分析の結果, 高周波音を含む音源と含まない音源の呈示期間の前後のNPIスコアの差に有意差があり,FRS呈示時にNPIスコアの増加が抑えられていた.我々はこれまでに別の施設でも同様の結果を得ている.このことから人の耳に聞こえない高周波音を含む音楽や自然音は,可聴域の音のみを呈示した場合よりも認知症高齢者の周辺症状(BPSD)の緩和に効果がある可能性が示唆された.
著者
山田 量崇 Weirauch Christiane 蔡 經甫
出版者
徳島県立博物館
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

ムクゲカメムシ下目の主要3科(ムクゲカメムシ科、オオムクゲカメムシ科、ノミカメムシ科)に対し、飼育実験系を確立し、交尾行動の観察を行った。3科ともメスの右側方からオスの腹部が挿入されて接合するオス上位の姿勢が観察された。ムクゲカメムシ科の交尾ペアの形態観察から、オスの腹部付属片の機能について検証した。第3~8腹節の付属片(側背板)がメスの腹部後方を背腹面に挟むように把握することがわかった。メス側には、把握される部位(背板の一部)がやや厚くなるなどの形態の変化が見られた。科ごとにオスの腹部第8側背板の機能が異なっていた。
著者
要 真理子 前田 茂
出版者
跡見学園女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

20世紀初頭に英国唯一の前衛芸術運動ヴォーティシズムを先導したウィンダム・ルイスが1940年代にメディア論におけるグローバリズムの先駆的思想を提示した経緯を明らかにし、そのうえで、今日のグローバリズムならびにナショナリズムの潮流を美学的/感性論的な観点から再検証する。これまでの予備的な研究を通じて、ルイスにおいては、未来派への不信感、ナチズムへの共感、そしてマーシャル・マクルーハンの「グローバル・ヴィレッジ」概念にも通じる思想には、共通する思想背景があることが明らかとなりつつある。政治学的には両立不可能にも見える以上の態度がいかにしてルイス個人において矛盾なく共存できたのかを明らかにする。
著者
川端 輝江 仲井 邦彦
出版者
女子栄養大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

授乳期間中の母親の魚介類摂取及びn-3系脂肪酸代謝と、出生児の成長と発達の関連性を検証した。その結果、n-3系脂肪酸であるドコサヘキサエン酸(DHA)の母乳組成及び濃度は、魚介類摂取量と正相関した。⊿5不飽和化酵素遺伝子型(rs174547)C/C群(対象者の約15%)では、T/T群に対して母乳中DHA組成が有意に低値であった。出生から7か月までに児が摂取したDHA濃度を推測し、その濃度別に児の発育について検討したところ、児の体重増加との間には関連はみられなかった。今後、DHA摂取と発達との関連においてさらなる検討が必要と考えている。
著者
渡邉 克昭 貴志 雅之 花岡 秀 辻本 庸子 中 良子
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

アメリカをめぐる様々な「神話」をスパイラルに巻き込みつつ、銃は、政治的、社会的、文化的に幾重にも屈折した表象を担ってきた。銃は、近年メディアと共犯関係を結ぶことにより、「撃つ/写すシューティング」の射程は、個体間から国家間、さらには時空を超え、歴史性にまで及ぶようになった。このように重層的な象徴性を帯び、アメリカ的想像力を駆動してきた銃は、ジェンダー、エスニシティを横断し、屈折と変容を繰り返してきた合衆国そのものと怪しく重なり合う
著者
中山 敦雄 松木 亨
出版者
愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

人工多能性幹細胞(iPS細胞)作製技術により、脳機能障害での神経細胞解析が可能になった。しかし自閉症は症例ごとに遺伝学的原因と背景が多彩で、コントロールiPS細胞・誘導神経細胞と比較しても神経細胞の表現型の差が原因遺伝子に由来するのか遺伝学的背景の差に由来するかはわからない。我々は標準iPS細胞にゲノム編集で既知の自閉症原因遺伝子変異を導入し、コントロールと遺伝学的背景に差がない自閉症モデル細胞の作製を試みた。 iPS細胞610B1株でNLGN4X遺伝子ノックアウトに成功したが、神経細胞への分化誘導が困難であった。別に2つのiPS細胞株で同様のノックアウトが完了しモデル細胞として解析する。
著者
織田 裕行 中森 靖 木下 利彦 池田 俊一郎
出版者
関西医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

「自殺企図男性のLOH(Late-Onset Hypogonadism)症候群に関する検証」の課題名で、関西医科大学総合医療センター倫理審査委員会に申請し、2017年9月19日に承認を得て本研究を継続してきた。その内容は、救命救急センターに自殺企図で搬入された男性のテストステロン値を測定し、日本において自殺率が最も高い年齢層である50歳代男性の自殺企図と加齢男性性腺機能低下症候群(Late-Onset Hypogonadism:LOH症候群)との関係を検証することにある。具体的には、救命救急センターに搬入された男性自殺企図者を対象として、総テストステロン値、遊離テストステロン値を測定すること、その検査結果と本人や家族から得た情報を踏まえLOH症候群による影響を検証する予定であった。しかし、予期できない研究環境の変化が生じた。そのため、現状の中で「自殺企図男性のLOH(Late-Onset Hypogonadism)症候群に関する検証」が達成できる方策を再度検討した。その結果、「自殺企図男性のホルモン値に関する検討」として関西医科大学総合医療センター倫理審査委員会に申請し、2019年7月23日に承認を得て救命救急センターに搬入された男性自殺企図者を対象とした総テストステロン値の調査を実施することとした。2021年度には、第40回日本性科学会学術集会において、「男性自殺企図者に対するホルモン値調査の結果報告 -男性ホルモンと甲状腺ホルモンの比較-」として一部報告を行った。さらに検討を加え、日本性科学会雑誌に投稿中である。
著者
清水 里美 郷間 英世 船曳 康子 米澤 朋子
出版者
平安女学院大学短期大学部
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2021-04-01

(1)1歳6ヵ月児健診、3歳児健診、および5歳児健診時における発達スクリーニングに適した項目と保護者向けの発達評価に関する問診項目を選定し、タブレットで反応を収集分析できるシステムを開発する(2)開発したタブレット版発達スクリーニング検査を各健診の該当年齢児に実施し、新版K式発達検査の2020年版の標準化データと比較する。また、タブレット版実施時に行動を直接観察評価し、タブレットによる取得情報と比較する。以上の分析を通じてタブレット版の有効性について検討する(3)クリニック等に協力を求め、臨床事例にタブレット版発達スクリーニング検査をおこない、適用可能性を検証する
著者
竹本 浩典 北村 達也 足立 整治 モクタリ パーハム 田部 洋祐
出版者
独立行政法人情報通信研究機構
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

下咽頭腔は喉頭腔と左右の梨状窩からなり、音声の個人性(声のその人らしさ)の生成要因である。本研究では、まず下咽頭腔を3次元で音響解析し、声道伝達関数に2つの深い零点を生成するメカニズムを解明した。次に声道と音源の相互作用を考慮した声帯振動モデルを構築し、下咽頭腔が音源波形に与える影響を検討した。その結果、下咽頭腔は音源より声道伝達関数により多くの個人性の要因を与えることが明らかになった。
著者
伊庭 幸人
出版者
統計数理研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

与えられた確率的な力学系(雑音を含む非線形のダイナミクス)に対して、珍しい現象(レアイベント)を効率的にサンプリングし、その確率をバイアスなしに計算する手法を研究し、「時間逆転シミュレーション」の方法を開発した。開発した手法は、ゴールとなる珍しい事象(たとえば東京に台風が来襲する)から初期値に向かって逆にパスを生成することで、ゴールの範囲が狭い場合の計算効率を高める点に特徴がある。逐次インポータンス・サンプリング法(SIS)を利用することで、適正な計算時間で確率をバイアスなく計算できることが示された。提案手法はさまざまな極端事象の解析に応用できることが期待される。