著者
松村 人志 江村 成就 黒田 健治
出版者
大阪医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

研究代表者らは、以前に、一酸化窒素(nitric oxide : NO)の生体内合成酵素(nitric oxide synthase : NOS)の阻害剤であるN^G-nitro-L-arginine methyl ester(L-NAME)をラット間脳領域に持続投与すると、レム睡眼が顕著に増加することを見いだし、続けて、NOを供与する性質を持つ化合物であるNOC 12を同領域に投与すると、レム睡眠が減少することを見いだした。これらの実験結果から、間脳領域のNOがレム睡腹の制御に関与しているのではないかと考えた。レム睡眠を制御するならば、ひいては、意識変容といった病態にも関与する可能性もある。しかし、L-NAMEやNOC 12の作用が本当にNOの変動を介したものなのか、あるいは何らかの別のメカニズムによるものかは明確でなかった。そこで、間脳領域のNOが睡眠・覚醒、とりわけレム睡眠と連関した日内変動を示しているのか、さらにL-NAMEを投与した際に、間脳領域で、本当にNOが量的に低下しているのかを確かめる必要があると考えた。本研究では、無拘束ラットで、2日あるいはそれ以上にわたり持続的に間脳領域のNOの量的変動を測定しつつ、さらに間脳領域にL-NAMFを6時間にわたり持続投与し、その睡眠・覚醒に対する効果を観察しつつ、同時にNOの量的変動を記録することに成功した。その結果、間脳領域のNOは、ラットの活動期である夜間に高値を示し、睡眠期である日中に低下するという日内変動を示し、さらにL-NAMEを持続投与することで、低下を示すことが証明された。本研究では、この成果を、この研究グループがこの2年間になし得た他の関連研究成果とともに報告する。
著者
鳥居塚 和生 平井 康昭 堀 由美子
出版者
昭和大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

硫酸亜鉛(5%) 20μL点鼻による嗅覚障害モデルマウスを作成し,嗅球中モノアミン含量への影響について電気化学検出器を用いた高速液体クロマトグラフィー法により検討した.その結果,対照群に対して,硫酸亜鉛を点鼻投与した群のドーパミン(DA)組織重量は低下することがわかった.この嗅覚障害モデルマウスに対して,漢方処方の加味逍遥散(KSS:柴胡,芍薬,朮,茯苓,当帰,甘草,牡丹皮,山梔子,薄荷,生姜)を経口投与した群では, DA組織重量の低下が抑制された.構成生薬10種より一味の生薬を除いた処方を作成し生薬の寄与を検討したところ,加味逍遥散の脳内モノアミン含量に対する障害改善効果は,構成生薬が総て揃った処方としたときが最も高く,一味を抜くことで弱まることを確認した.また甘草,芍薬,生姜,朮が効果に大きく寄与することが示された.また感覚器入力に対する行動薬理学的検討を実施した.その結果,嗅覚障害モデル動物が記憶学習障害の評価モデルの一つとなりことを明らかにした.またこのモデルにおける嗅球におけるドーパミンレベルの著しい低下と,受動的回避課題の大幅な減衰を引き起こすことに関与する物質を明らかにする目的で,嗅球における神経伝達物質の機能を持つとされるL-カルノシン(β-alanyl-L-histidine)の関与について検討した. L-カルノシンの腹腔内投与により用量依存的にマウスの常同行動を惹起した.またこれらはドーパミン受容体拮抗剤のクロロプロマジン,ハロペリドールおよびドーパミン合成酵素阻害剤で抑制された.中枢におけるドーパミン神経系における制御にL-カルノシンが寄与することを示した.またドーパミンの再取り込み阻害剤ノミフェンシンの投与で,記憶学習障害が顕著な改善を示すことを明らかにした.
著者
岩垣 真人 楠山 研 牧野 邦昭 松山 直樹
出版者
沖縄大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2020-04-01

本研究では,京都帝国大学や,県立兵庫高等商業学校,琉球大学などに着目し,まず,そのような高等教育機関が,どういった経緯で,既存の高等教育機関に対抗して設立されたのか,検討を行う。さらにそれらの高等教育機関において,対抗関係と特殊な事情の下で掲げられた,教育・研究に関する理念が,現実との関係のなかでどのように変容していったのか,分析を行う。この研究では,帝国大学などを軸とした「国策」に基づく高等教育機関の設置やその発展とは異なる,全国各地で地域のニーズに応じて設置・運営された後発の高等教育機関像を並列することで,日本における高等教育機関の複線的記述を一層拡張することを試みていく。
著者
藤井 雅文
出版者
富山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

本研究では、電磁気学および電子物理化学を基礎とする新しい原理による短期地震予測法を確立することを目標としている。地震の直前には地殻の岩盤に圧力が加わることにより、応力誘起された大量の電荷が岩石内部から放出される。そしてこれらが地表面に出現し滞留することで上空の電波によって励起されプラズマ振動する。これがさらに上空の電波伝搬に影響を与え、通常の状況では生じ得ない遠方への超長距離伝搬が引き起こされることが明らかになっている。特に地殻活動に伴う電磁気現象を理論と実験観測の両面から考察し、地震の前に地殻に作用する応力の変動を精密な電波観測により広範囲に検知し、その観測精度を向上することにより地震の短期予測を実現することを目指している。高感度低雑音の観測装置を用いて電磁波の観測を実施している。これまでに規模の大きな地震の数日前から前日にかけて、異常な電波伝搬現象を観測している。特に2022年3月16日の福島沖M7.4の地震の直前に非常に明瞭な電磁波異常を観測した。この観測結果により、これまでの異常現象が地殻活動に由来するものであることを示すことが可能となり、地震前兆時に異常信号が観測可能かどうかの論争に終止符を打てる可能性が高まっている。また、我々は地震予測の適中率と地震発生の予測率を評価しており、近年はそれぞれ90%近い値を得ている。さらに、観測データを深層学習により解析し異常信号から地震の発生を予測する研究を実施しており、高い精度で予測できる結果を得ている。これらの結果をすでにまとめて科学技術誌に投稿し、現在審査結果を待っている。
著者
鶴岡 真弓
出版者
多摩美術大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

前年度に続き、2021年度も、コロナ禍が全世界で終息の兆しがみえず、本研究の重要な目的の1つである、ロシアやカナダなど海外の博物館・美術館おいて、美術史・考古学・宗教民俗学的なアプローチからおこなう「鹿」信仰」の調査、なかでも、「角」を神聖視する「鹿角」信仰の背景を現地調査の実行ができないまま推移した。また21年度末の2月下旬には戦争も勃発し、世界情勢は予測できなかった事態となった。特に本研究の主題であるスキタイ美術の筆頭たる作例「黄金の鹿」(ロシア南西部、黒海東岸、クラスノダール地方コストロムスカヤ、第1号墳出土、前7世紀後半-前6世紀初頭)は、ロシアの博物館(エルミタージュ博物館:サンクト・ペテルブルク)に所蔵されている。初年度から継続させるべき、本作と他の博物館所蔵の「鹿造形」の「様式」「形態」「素材」に関する現地での実見・観察の機会はなお阻まれている。しかし現地には赴けないなかにも、「黄金の鹿」が出土した黒海沿岸からみると、遥か東方の「南シベリア」の巨大古墳から出土した、スキタイの早期の「動物意匠」と比較することによって、「黄金の鹿」が生まれた最盛期を準備した、初期段階の動物意匠の分析できた。そこから「黄金の鹿」の「角」の部位を特徴づけている「湾曲」形態の由来、ならびに早期と成熟期の形態上の差異を解明することを集中的におこなえた。それを証明する遺跡は、スキタイ時代の古墳として最大の、現トゥバ共和国に所在する「アルジャン古墳」である。これはユーラシアの遊牧社会に築かれた「クルガン=大古墳」で、首都クイズイルの北西部のウユク川 (エニセイ川支流) 流域のスキタイ時代 (前8―3世紀頃) に属し、ここから「鹿」「豹」などを象った金工の動物意匠が出土させているので、スキタイ美術の動物意匠の出発点を、「角」の「湾曲」形態の特質に光を当て明らかにできた。
著者
中島 岳志
出版者
東京工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

1920年代前半は大正デモクラシーが拡大した時期とされる。しかし、その数年後の30年代には超国家主義が拡大したとされる。この急激な変化の間にあるものは何か。本研究では、大正デモクラシーと超国家主義・アジア主義の連続性に注目し、その特質を追究した。特に新人会・無産政党メンバーの思想と行動に着目し、彼らの構想に内在する超国家主義・アジア主義の論理を抽出した。成果の一部は『超国家主義-煩悶する青年とナショナリズム』(2018年、筑摩書房)として出版した。
著者
村田 雄二郎
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

研究1年目の今年度は、当初の研究計画にしたがい、備品購入による研究環境の整備、基礎的な文献の収集と調査を行った。また、北京に出張した機会を利用して、中央民族大学を訪問し、胡振華・索文清教授と面談し、中国の民族学研究をめぐって、研究交流を進めた。索教授からは、大陸におけるチベット近現代史研究の現況に関して、貴重な提言と示唆を得た。さらに研究開始後まもなく、日本の外交資料館に収蔵される外交文書「西蔵問題及事情関係雑纂」に、本研究に有用な資料が含まれることが判明した。次年度も引き続き、これらの資料や情報を活用した研究を進めて行くつもりである。以上の作業にもとづく今年度の研究成果は、次の通りである。1、 南京国民政府はその成立当初から、周辺民族、とくにチベット・新疆・モンゴルの統合問題を重要な政治課題に掲げ、行政院(内閣)に蒙蔵委員会を設置するなど、その実効支配のための制度や環境を整えようとした。2、 しかし、そうした努力にもかかわらず、対チベット関係においては、東チベット地区(中央は1939年に西康省を設置)で1930年唄から、チベット・漢軍の激しい武力衝突が頻繁に発生したことが物語るように、中央政府がチベットに実効支配を及ぼす力はなかった。1931年の満州事変が、国民政府による国家統一の危機をさらに深めたことはいうまでもない。3、 こうした状況の中で、1933年にダライ・ラマ13世が死去したことは、中央政府にチベット「介入」へのまたとない機会を提供するものだと受けとめられた。34年、ラサでのダライ・ラマの葬儀に列席した黄慕松は、中央大官の初めてのラサ入りとなった。また、40年の新ダライ・ラマ即位式典に蒙蔵委員会委員長呉忠信が参列したことは、国民政府のチベット関与を一歩前進させるきっかけになった。4、 ただし、呉忠信の式典参加をめぐっては当時から、「主宰」か「参列」かで、その解釈が大きく分かれており、民国期の中蔵関係を考える上での、一つの焦点となっている。次年度は、この点に的を絞り、黄慕松および呉忠信のチベット入りをめぐる中蔵関係の展開について、档案資料を駆使した個別研究を行うことにする。
著者
川上 民裕
出版者
東北医科薬科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2020-04-01

ヒトiPS細胞由来メラノサイトを独自の条件設定で、効率よく分化・増殖させ、大量産生に成功した(特許取得)。本研究は、この細胞のさまざまな臨床応用へのステップである。①メラノサイトの欠如・機能不全疾患である尋常性白斑や脱色素斑への移植を含めた再生医療。②メラノサイトが癌化した悪性黒色腫の機序解明に使用し、重要因子の発見と有意義な治療法の開発。③美白化粧品の主成分である様々な物質のメラノサイトへの効果を検証する美白化粧品開発に利用。
著者
伊藤 要子 相原 真理子
出版者
愛知医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

ストレス環境から生体を防御するため、細胞はストレスタンパク(Heat shock protein : HSP 70)を誘導し、ストレスによる細胞傷害を素早く修復し、細胞を防御(生体防御)している。我々は従来より、HSP 70の生体防御作用を検討してきた。そして予め加温してHSP 70を誘導しておくことにより、次に来る大きなストレスによる傷害を防御できることを平成10、11年度の科研費基盤研究(C)の援助を得て報告した。そして、予備加温により筋肉疲労を防御する結果を得た。この結果は、まさしく運動能力向上を意味し、温熱療法によるHSP 70のスポーツ界への貢献の基盤となった。一方、スポーツもストレスであり、我々は、スポーツというストレスの場に自らを置き、HSP 70を誘導して健康維持に役立てている。そこで、我々は、実際の運動トレーニングに更に、要所に温熱療法を取り入れ誘導されるHSP 70によって競技能力のレベルアップを図ることを目的とした。この温熱療法を取り入れた運動トレーニングを温熱トレーニングと名づけた。そして、低温ミストサウナでの連続加温の条件決定をマウスで検討し、血中リンパ球中HSP 70は、39℃加温2週間で、下肢筋肉中HSP 70は39℃加温3週間で最大となった。よって、レスリング選手に2週間のトレーニングと終了後ミストサウナで39℃10-15分加温し、体力テスト2日前にマイルド加温を実施し、運動トレーニングのみと温熱トレーニング群で体力テストを比較した。その結果、温熱トレーニング群は、体力テスト、HSP 70、NK活性すべてで有意に勝っており、乳酸値も低下しており疲労からの回復も勝っていた。よって、従来の運動トレーニングの考えに、HSP 70の概念を導入し、様々な競技に対する練習・訓練の効果の評価にさいしてHSP 70も指標の1つとして評価する科学的トレーニングが必要と思われた。更に、スポーツを行うに際して、誰もが経験する筋肉痛に対し、これを予防する手段として、マイルド加温による予備加温を検討し有効であることが実証された。医学部学生5人に腕立て伏せ100回、スクワット100回を時間の制限無く実施させ筋肉痛実験を実施したところ、2日前にマイルド加温した予備加温群は自己評価での筋肉痛は有意に減少しており、筋硬度、CPK活性も有意に低下していた。マイルド加温によりHSP 70が誘導され、運動能力が向上することがオリンピックでも、レスリング選手によっても明らかとなった。マイルド加温をスポーツに取り入れた温熱トレーニングは、21世紀のトレーニングとして、HSP 70を指標とした科学的な最先端のトレーニングングである。また、マイルド加温の利用により21世紀のスポーツは、筋肉痛なくスポーツが楽しめる。しかし、このマイルド加温およびマイルド加温によって誘導されるHSP 70の効果は殆ど知られていないのが現況である。多くの人々にHSP 70を知っていただき、自分自身でHSP 70を高め、より健康的にスポーツを楽しんでいただきたい。
著者
吉野 相英 岩田 朋大 立澤 賢孝 古賀 農人
出版者
防衛医科大学校(医学教育部医学科進学課程及び専門課程、動物実験施設、共同利用研究施設、病院並びに防衛
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2020-04-01

BAFMEに関して、これまでの研究に精神症状発症や重症度との関連を報告した例はない。その理由として、BAFMEの症状を持つ患者は通常神経内科を受診するそのため精神症状を正確に捉えきれないことが考えられる。逆に精神症状が出現した患者が精神科を受診した場合、BAFMEと気づかず、例えば抗精神病薬による錐体外路症状の一部であるとされてしまうことが考えられる。本研究により、BAFMEの発症と精神病症状との相関を明らかにすることで、BAFMEの症状を持つ患者に対して適切な処置が施せる様になることに期待ができる。さらには、生物学的な機序が明らかにされていない精神疾患の病態生理の解明にも貢献できる。
著者
金 樹英 西牧 謙吾 東江 浩美 田島 世貴 豊田 繭子 佐久間 隆介 篠原 あずさ
出版者
国立障害者リハビリテーションセンター(研究所)
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

特別支援教育の経験がなく不登校のASD青年を対象にショートケアを実施した。研究期間中に利用登録したのは11人で、就労移行支援サービスや進学などで卒業したのは5人、2年以上利用継続しているのは3人だった。ショートケア利用により親の総合的な精神的健康度は改善がみられた。外来通院患者で不登校の有無で比較したところ、不登校群の方が全検査IQ(FSIQ)、言語理解(VCI)、知覚推理(PRI)の得点が高く、ワーキングメモリー(WMI)、処理速度(PSI)では差がみられなかった。発達障害を伴う場合(N=22)では、同様のパターンがより顕著にみられた。
著者
清水 慶子
出版者
岡山理科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

霊長類の生殖生理および配偶者選択におけるフェロモン作用やケミカルコミュニケーションについて調べた結果、チンパンジーの膣分泌物中のいくつかの物質が性皮の腫脹や月経周期と同期することが分かった。また、同所飼育のニホンザルにおいては、月経周期の同調が見られることが分かった。ニホンザルでは、射精を伴う交尾行動は排卵周辺期に限局されること、妊娠したメスではその後も交尾行動が見られることが分かった。さらに、交尾行動が観察された時は、糞中および尿中estrogen代謝産物の値が高いことが確認された。
著者
鈴木 雅夫 島田 二郎 村川 雅洋 深田 祐作 鈴木 雅夫
出版者
福島県立医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

マグネシウムは多くの酵素活性や細胞内伝達系において重要な役割を担う生体内で4番目に多い陽イオンである。本研究の目的は、マグネシウムの鎮痛効果とその機序を明らかにすることである。1.種々の予定手術患者を対象に、周術期の血清イオン化マグネシウム濃度を測定し、術式、手術時間、輸液量、出血量、尿量との関連を検討した。血清イオン化マグネシウム濃度は手術時間の経過とともに減少し、手術終了後徐々に回復した。血清イオン化マグネシウム濃度の減少は、体表手術や開頭術に比べて開腹術で大きかった。また、長時間手術、輸液・出血・尿量の多い手術で減少の程度が大きかった。2.帝王切開術後患者と婦人科手術患者を対象に、マグネシウム投与の有無による術後鎮痛薬の必要量の差を検討した。いずれの群においてもマグネシウム投与患者は、非投与患者に比べて、術後鎮痛薬の必要量が少なかった。3.雄性Wistar系ラットを用い、Neurometer CPT/Cによる疼痛閾値に及ぼすマグネシウムの影響を検討した。C線維を介する疼痛閾値はモルヒネ2mg/kgの腹腔内投与によって上昇したが、マグネシウム2mM/kg及び4nM/kg単独投与では変化せず、モルヒネとマグネシウムの相互作用も認められなかった。4.雄性Wistar系ラットを用い、ヒスタミン刺激に腰髄後角のc-fos発現を指標として、マグネシウムの鎮痛機構を検討した。c-fos陽性細胞は、ヒスタミン刺激と同側の脊髄後角側部に多く、I、IIそしてX層に主に観察された。ヒスタミン刺激側脊髄でのc-fos陽性細胞数は、マグネシウム150及び300mg/kg投与によって減少した。以上の結果から、周術期にマグネシウムを投与することは臨床的に鎮痛効果があり、この鎮痛効果は脊髄後角の二次求心性神経の反応抑制によることが示唆された。
著者
吉岡 太陽
出版者
国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

本研究の目的は、再生シルクタンパク質から天然シルクの力学物性に匹敵する強く丈夫な繊維を人工的に紡糸するための技術を確立することである。最初に、様々な天然シルクの階層構造を詳細に解析し、それらに共通するフィブリル階層構造の詳細を定量的に解明することで、人工紡糸で目指すべき階層構造の指針を明確にした。次いで、フィブリル階層構造の形成過程を調べ、絹糸腺内部でのナノフィブリル前駆体・自己組織化形成とその集合化を定量的に捉えることに成功した。これら天然シルクの構造形成に関する知見を紡糸技術に模倣・取り込むことで、天然繊維の力学物性に近付ける紡糸技術の改善を得た。
著者
長岡 龍作
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

本研究では、美術を、何かの代替物を意味する「表象」として捉え、超越者と人間との交感を意味する「感応」との関わりを探求した。そのために、(1)仏の感応そのものの表象、(2)仏の感応を呼び起こす場、(3)仏の感応を呼び起こす場の表象、の各柱を設けて調査ならびに分析をおこなった。(1)については仏像・絵巻・宗教説話、(2)については寺院や経塚の立地、(3)については庭園や屏風という具体的な事例を調査し、その成果に則して、美術の宗教的な機能の特性についてあきらかにした。
著者
蓮田 隆志 内田 力
出版者
立命館アジア太平洋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2021-04-01

本研究は、1980年代以降の日本の中学・高校の歴史教科書に掲載されている朱印船貿易・日本町関連情報を記した図版を網羅的に収集する。その上で、記載内容の検討に留まらず、図版がどのような経緯をたどって掲載され、現在に至るまで流通しているのか、背景としての学界動向や学説史、教科書出版を取り巻く社会情勢の推移と関連させて明らかにする。
著者
奥野 利明
出版者
順天堂大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2022-04-01

近年、腸内細菌叢(腸内フローラ)が様々な疾患に関わることが明らかにされ、腸内フローラと健康との関係が注目されている。腸内細菌叢が、多様な脂肪酸代謝物を産生することが明らかにされてきているが、それら脂肪酸代謝物の生体内における役割はほとんど明らかでない。本研究では、腸内細菌が産生する脂肪酸ライブラリーを用いてBLT2を活性化する新規脂肪酸を同定し、機能未知の新規脂肪酸代謝物の生理機能を明らかにする。
著者
須田 千里
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2020-04-01

本研究は、神奈川近代文学館に所蔵される久生十蘭(一九〇二~五七)関係資料、すなわち、作品の草稿・原稿類、発表作品の切り抜きや手入れ資料、作品執筆に際し使用した雑誌・新聞記事など関連資料、同時代評、写真などの特別資料423点について、3年間の調査で詳細な記録を取るものである。また、作品の素材となった雑誌記事(作品毎に封筒に入れられていることが多い)と作品を照合することで、素材の確定や成立過程、推敲課程の跡付けを行う。上記特別資料は作者が死ぬまで手元に置いていたもので、直筆草稿や書き込みのある第一級の一次資料であり、多大な研究成果が期待できる。
著者
田口 善弘
出版者
中央大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

平成29年度はテンソル分解を用いた教師無し学習を用いた変数選択法を用いて、マルチビューデータ解析を行う方法を提案した。この方法では複数個のテンソルの積から新しいテンソルを作成し、このテンソルをタッカー分解するという方法で、通常のマルチビューデータ解析には欠かせない、ここのビューの重みづけ評価をすることなく解析することが可能であることを、人工データ、及び、数々の遺伝子発店プロファイルや、エピジェネティックプロファイルの統合解析で可能にした。タッカー分解の実際のアルゴリズムには高次元特異値分解法が有効であることが分かった。この方法を用いて、マルチオミックスデータ解析を行った。用いたデータはDBTSSからえた、RNA-seq,TSS-seq及びヒストンのアセチル化のデータセットである。更に、遺伝子発現プロファイルからAI創薬を行う方法を提案し、Gene Expression Omnibusにある遺伝子発現プロファイルと、DrugMatrixにあるデータをくみあわせることで実際にAI創薬を行った。対象となった疾患は以下のとおりである。・心臓疾患 ・血友病 ・心的外傷後ストレス障害 ・糖尿病 ・腎臓がん ・肝硬変 また、これとは別に、テンソル分解を用いた教師無し学習を用いた変数選択法を直接マルチオミックスデータに適応し、遺伝子選択を行うと共に、心的外傷後ストレス障害由来の心臓病の原因遺伝子の推定を行った。また、これらの遺伝子についていろいろな種類のエンリッチメントサーバを用いて評価を行い、良好な結果を得た。
著者
山本 英二
出版者
信州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本研究では、平成13年度から15年度にかけて、フィールドワークをおこない、偽文書に関する古文書調査を全国各地で実施した。そして平成16年度は、3ヶ年の調査のデータをもとに報告書と古文書目録の作成に専念した。その概要は以下に述べるとおりである。1.主要な調査先は、長野県木曾郡大桑村定勝寺、長野県長野県立歴史館、山梨県山梨市窪八幡神社、山梨県甲府市山梨県立図書館甲州文庫、東京都文京区東京大学史料編纂所、東京都千代田区国立公文書館、などである。2.調査の方法は、史料所蔵機関の目録を検索して、古文書を閲覧、調査し、真偽を鑑定した。そのうえで関連する周辺情報を収集して、偽文書の作成者、作成時期、作成理由などを突き止めていった。3.なかでも長野県木曾郡大桑村定勝寺では、これまで未公開であった古文書の悉皆調査を実現することができた。調査した古文書は、すべて目録を編成し、デジタルカメラで撮影し、画像データを収集した。整理した古文書は総点数1551点におよび、信州大学人文学部日本史研究室編『長野県木曾郡大桑村須原定勝寺古文書目録』として刊行することができた。また調査成果の一部は、『ブックレット定勝寺』に掲載され、一般向けの啓蒙書として広く社会に還元することができた。とくに木曾地方が美濃国から信濃国に変わった時期を確定するという新発見をすることができた。4.偽文書の鑑定技術に関しては、現状記録方式による総合的な古文書調査が有効であることが確認することができた。とくに江戸時代に作成された偽文書は、関連する近世の古文書を調査することで、ほとんど作成時期や作成理由を特定できることがわかった。またデジタルカメラによる画像情報は、きわめて有効であることもわかった。5.4年間の研究成果は、学術論文8編、口頭発表1編、学術書3編、古文書目録1編として公表することができた。