著者
和田 尚明 渡邊 淳也
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究では、言語系統的に全く異なる言語である日本語と、英語をはじめとする主な西欧諸語の時制現象における相違点・類似点を指摘・考察した。特に、(1)これらの言語の時制現象を統一的に扱える時制理論として、時制関連領域に属する助動詞・アスペクト・モダリティ・証拠性ならびに話者の主観性が反映したモデルを確立し、(2)主観的要因によって大きな影響を受けるいくつかの言語環境において、これらの言語の時制現象がどの点で共通し、どの点で異なるかを示した。
著者
江口 弘久 谷原 真一 中村 好一 柳川 洋
出版者
自治医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

(1)各県ごとの患者把握率Gは、疾病の種類に関係がない。(2)小児人口あたり突発性湿疹発生には地域変動がない。以上の仮定を設定し、小児あたり定点数地域格差および年末年始、連休などの受診への影響を調整した患者報告数の都道府県格差を比較するモデルを構築した。このとき、サーベイランスで報告されている定点あたりの患者数をPとすると、その県での小児人口あたり患者数T1とのあいだには、P×(定点数)=(小児人口)×T1×Gの関係が成り立つ。よって定点あたり患者数Pは、P=(小児人口)×T1×G÷(定点数)と表すことができる。突発性湿疹の定点当たりの患者数をESとすると、小児人口あたり患者数T2について、同様に、ES×(定点数)=(小児人口)×T2×Gであるから、ES=(小児人口)×T2×G÷(定点数)と表すことができる。よって、各都道府県についてP/ES=T1/T2となる。仮定から、突発性発疹の発生率T2は地域差がない定数としたので、P/ESの値を比較することで、地域格差を検討することが可能になる。実際に突発性発疹の定点あたり患者数を分母に用いた数値による検討では、麻疹の場合、1995年の北海道東北地域では第5週〜20週にかけてほぼ一定の値を示し、特続的な麻疹患者発生が考えられた。1996年では近畿、四国地域に前後の週と比較して著しく高い値が観察された週が存在し、サーベイランスシステムにおけるデータ入力ミスの可能性が考えられた。九州地域では福岡県で定点あたりの患者報告数では他の県と比較して高くなっていたが、この指標では大きな格差は認められなかった。各都道府県の小児あたり定点数の地域格差が是正されたために地域格差が観察されなかった可能性がある。
著者
胎中 千鶴
出版者
目白大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

本研究では、近代における「国技としての相撲」をめぐる現象と言説について、これまで相撲史において言及されることが少なかった植民地・占領地など、いわゆる「外地」との関係性という視点から考察を試みた。その結果、「国技」成立の歴史的・政治的背景や帝国ナショナリズム分析、外地における「国技相撲」の実態解明について、多くの点が明らかになり、一定の成果を得た。
著者
川野 徳幸 大瀧 慈 原田 結花 小池 聖一 大瀧 慈 小池 聖一 原田 結花 原田 浩徳
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

(1)セミパラチンスク核実験場近郊住民を対象にアンケート調査及び証言収集調査を実施した。3年間で計459件のアンケート及び252点の証言を回収した。(2)従来収集したアンケート回答結果を用い、地区住民の核実験体験及び体験と被曝線量・爆心地からの距離との相関を検討した。同地区住民の核実験体験の有無は、爆心地からの距離に左右されている可能性が極めて高いことを明らかにした。(3)セミパラチンスク地区在住骨髄異形成症候群(MDS)患者の遺伝子変異を解析し、AML1変異が被曝線量依存性に高頻度であることを明らかにした。
著者
佐藤 彰一
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

研究着手の出発点であるトゥールのサン・マルタン修道院長アゲリクスのみならず、12月30日の聖人として5世紀のトゥール司教ペルペトゥスについての記述が含まれていることを明らかにした。中世の聖人祝日暦の系統を大きく二分するものとして、「アドン祝日暦」(860年)と「ウズアルドゥス祝日暦」(865-870年)がある。より広く参照されたウズアルドゥスの聖人祝日暦では、ペルペトゥスは4月8日が祝日とされているから、本写本がアドンの聖人祝日暦の系統に属する蓋然性が極めて高いことが明らかになった。
著者
佐藤 亨 奥田 良二 稲垣 伸一 佐藤 郁
出版者
青山学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究は19世紀におけるアイルランド移民について、大西洋をはさんだ4地域(南北アイルランド、アメリカ合衆国、カナダ)を取り上げ、多くの移民を送り出した「移民大国」アイルランドの移民前夜の状況、そして多くの移民を受け入れた「移民国家」カナダとアメリカ合衆国両国におけるアイルランド移民の影響を、さらには移民たちが外国に定住した後に祖国アイルランドに与えた影響を、歴史的・文化的・宗教的に検証し、「移民大国」と「移民国家」の内実を相互関係のうちに探求したものである。具体的には次の3点において明らかにした。(1)南北アイルランドにおける移民排出の歴史的背景についての考察(2)北米大陸にアイルランド移民が及ぼした社会的・文化的影響についての考察(3)移民を通してみたアイルランドと北米大陸の両地域の相互関連性についての考察。本研究の対象は大西洋をはさむ4地域であり、下記のように4人の研究者がそれぞれ一つの地域を担当する。南アイルランドからの移民(奥田良二)、北アイルランドからの移民(佐藤亨)、アメリカ合衆国への移民(稲垣伸一)、カナダへの移民(佐藤郁)。以上が担当地域であるが、研究方法や一次資料として用いたテキストは、統計(数値)をもとにした分析もあれば、詩や小説などの文学テキスト、あるいはソングなど多岐にわたる。なお、各研究者によって地域分担が決まっているものの、地域を横断するものが移民であるゆえ、南・北アイルランド担当者が北米大陸について、そして北米大陸担当者が南・北アイルランドについて言及した場合もある。また、本研究の成否は、各地域の研究を有機的に関連付けられるかどうかにかかっており、次の3点の具体的な作業を前提としたものである。(1)各地域についての先行研究(二次資料)の収集・読解(2)各地域における現地調査、及び一次資料の収集・読解・データベース化(3)研究者間の日常的な情報交換と定期的な研究会の実施。
著者
津村 建四朗
出版者
山形大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

地震活動の研究には、信頼できる地震カタログが不可欠である。我が国の全国的な地震調査事業は、明治17年に、内務省地理局(後の中央気象台)によって開始された。初期段階の約25年間は、主として測候所、郡役所等からの震度報告に基づいて震央が推定されていた。しかしそれら原報告及び解析結果のかなりの部分は既に散逸しているため、明治時代の地震活動の研究は進んでいない。本研究は残存する地震資料を収集・整理し、新たな地震カタログをつくり、データベース化することを目的としている。平成7年度には、1885-92の7年間についてミルンが作成したカタログをファイル化するとともに、気象庁に残存する原報告、中央気象台による調査結果を整理し、震度観測データファイルを作成した。平成8年度には、1904-10の7年間について「中央気象台年報(地震の部)」所載の地震観測表から震度観測データファイルを作成した。また、当時の震度観測地点約1500点の位置を特定し、観測地点データファイルを作成した。さらに、これらのデータファイルを用いて震度分布図をパソコンに表示させるとともに、第一近似の震央を自動推定し、これをマニュアルで修正するプログラムを開発した。これによって震度データに基づく震央再決定が効率的におこなえるようになった。中部地方以西については、震度分布からの震央決定が可能であるが、東日本については、異常震域の現象のため困難な場合が多い。このため目的とした地震カタログの完成には、さらに地震計記録の活用が必要である。平成9年度には、国立天文台水沢観測センターに保存されている地震計記録の調査を行った。
著者
新谷 尚紀
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

本研究は、高齢化社会における老人と社会の問題に対して、近畿地方の伝統的な農村社会の典型例として奈良市大柳生、伝統的な都市社会の典型例として京都市東山区祇園弥栄地区をそれぞれフィールドとして民俗誌的研究を実施したものである。奈良市大柳生は宮座と両墓制のみられる村落で、その民俗調査研究の結果、以下の諸点が明らかになった。宮座の頂点に立つ長老衆に対しては特別な権威と敬意が村人たちから寄せられている。それは神社祭祀という特別な時間と場所に集中しているが、長老の存在はその妻や子供、孫までも含めて村落生活の様々な場で、その長寿の価値が村落内で暗黙の内に認められている。また、氏神の祭祀を重視する村落生活が背景となって、日常においても死の穢れを極端に忌避する生活が維持され、死体を埋葬する墓地を集落から遠く離れた山中に設営し、一方、石塔を建てる墓地は集落に比較的近い場所に設ける両墓制の形式が採用されており、死穢忌避の観念を背景とする宮座祭祀と両墓制との相関関係が推定された。京都市東山区祇園弥栄地区は、祇園八坂神社の門前におよそ正徳年間(1711-16)以降に開発されてきた繁華街の典型例であるが、この調査により以下の諸点が明らかになった。このような商業地域の場合、商家の定着率が低く人物の交流も家を単位とするよりも職業上の関係による部分が大きい。したがって、地元の祇園八坂神社の祭礼においても老舗としての商家の自覚と才覚とで一定の役割を担う老人がある一方では、他出したり移入したりした老人たちが多く、地域のすべての老人が活躍できるわけではない。むしろ、行政関与の老人福祉施策に対応した老人会の活動を通してその生きがいの確保をめざす老後の生活、自分の職業歴において獲得した人間関係を基本とした個人的な価値観に基づく生きがいの追及を試みる老後の生活など、多様な老後生活の充実への工夫がみられた。
著者
金子 仁子 坂本 道子
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

保健婦が実施してきた、住民とともに保健活動を推進し施策化へ至る方法論つまり保健婦活動におけるヘルスプロモーションを推進する方法を明確にしたい。ヘルスプロモーションをめざした活動を行った効果として、住民の健康意識・保健行動・健康度への影響についても明かにしたい。1 保健婦活動におけるヘルスプロモーション推進方法探求のための事例検討文献から選んだ地域(福祉活動由来のもの保健活動由来のもの)に、実際に現地に赴き、関係者から活動の発展プロセス、施策化への住民のかかわりの現状を調査し、活動促進要因を抽出した。、福祉活動と保健婦活動の相違点では、保健婦活動由来ではセルフケアの概念が取り入れられていることが明らかになり、活動推進要因は民主的な話しあいや民主的なリーダーの存在、タイムリーな学習であった。2 ヘルスプロモーション推進のための健康学習グループ活動支援の効果一般住民に比べ健康康学習グループ活動に参加している住民のセルフケア行動や、地域の健康問題への関心は、塩分を控えるなど保健行動は望ましい状況になり、地域保健活動も関心が高くなっていることが明らかになった。3 ヘルスプロモーション推進のためのコミュニテイ・ミーテイングの成果と課題2年間に渡り練馬区において、住民主体による施策関与方法の1方法として行われたコミュニテイ・ミーテイングについての効果は、住民がその方法を活動に取り込むなどがあり、課題は行政側と住民側のパートナーシップであった。
著者
小沢 朝江 池田 忍 水沼 淑子
出版者
東海大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

(1)近世内裏における天皇常御殿と女御常御殿を比較すると、同じ用途の部屋でも天皇御殿の方が天井が高く、仕様も高い。また本途(1坪当たりの大工工数)は、天皇常御殿の御学問所など表向の御殿に次いで高いのに対し、女御常御殿は若宮御殿よりも低い。したがって両常御殿の寸法の差異は、女性の身体寸法に合わせたものではなく、天皇と女御の「格」の差を表現したものと判断される。(2)女御御里御殿は、女御の御産に用いる御殿であり、延宝度以降南東隅を上段、上段の西室を二の間、北室を寝所兼産所とする平面を踏襲したが、寛政度以前が上段・寝所を中心とする内向きの御殿であるのに対し、寛政度は、上・下段から成る儀式空間に変化した。この寛政度上段・二の間の「錦花鳥」「子の日の小松引き」の障壁画は、一見異なる画題ながら「根引きの小松」のモチーフで連続する。小松は、江戸時代中期以降定着した「内着帯」に用いられる道具のひとつで、寛政度の障壁画は御里御殿が「内着帯」の儀式空間に変化したことを視覚的に表現したと考えられる。(3)旧東宮御所(明治42年竣工、現:迎賓館)は、従来欧州の宮殿建築を参考にしたと指摘されていたが、洋館でありながら明治宮殿(明治21年竣工)や近世内裏の配置を参考に設計され、特に1階の寝室や居間は、東宮が東宮妃側を訪れるという近世以来の用法を前提に計画されたことが判明した。一方、東宮妃側にも政務を行う御学問所や内謁見所を設けた点は近世と大きく異なり、東宮妃の公務への関与が想定された。また、各室を東宮・東宮妃側で同型同大で設け、意匠にも大きな格差をつけないこと、東宮妃側のみ子ども用の椅子やフットレスト(足台)を配置したことは、東宮妃が東宮と「一対」であり、東宮妃が理想の妻・母であることを強調したと考えられ、明治天皇以前とは異なる「理想の家族」という新たな天皇・皇后像の表現が意図された。
著者
矢野 裕俊 岡本 洋之 田中 圭治郎 石附 実 添田 晴雄 碓井 知鶴子
出版者
大阪市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本研究では、日本の教育において常識とされる問題や事象を諸外国との比較によって、あらためて常識-非常識の対抗軸の中でとらえ直し、そうした常識が世界では必ずしも常識ではないという例が少なくないことを明らかにした。1)異文化理解と国家へのアイデンティティ形成を両立させるという課題は世界各国の教育において重要な関心事とされてきたが、日本では一方において国家を介在させない異文化理解教育の推進と、他方において教育のナショナリズムに対する相反するとらえ方がそれぞれ別個の問題として議論されてきた。2)入学式に代表される学校行事は、集団への帰属意識の形成と結びついて日本の学校では行事の文化が格別に発達した。日本の学校のもつ集団性をこの点から解明する試みが重要である。3)教員研修の文化においても、アメリカでは個々の教員の教育的力量形成、キャリア向上が研修の目的であるが、日本では、教員の集団による学校全体の改善に重きが置かれ、研修は学校単位で行われる。4)歴史教育は、その国の歴史の「影の部分」にどのように触れるのかという問題を避けて通れない。イギリスと日本を比較すると、前者では異なる歴史認識が交錯する中で、共通認識形成と妥協の努力が見られるのに対して、日本では異なる歴史認識に基づいて体系的に記述された異なる教科書が出され、共通認識形成の努力が必ずしも教科書に反映していない。5)戦後日本の大学における「大学の自治」の問題も大学の非軍事化、非ナチ化が不徹底に終わったドイツの大学の例と関連づけて考えてみることによって新たな視点が得られる。
著者
進藤 兵
出版者
都留文科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

1.本研究は、石原都政に関して、都市政治学的アプローチに拠りながら、大ロンドン行政庁(GLA)との比較を行うことを通して、その現代的特質を解明することを目的としていた。当初の研究計画においては、初年次(2005年度)には先進諸国の地方自治体における現代都市政治に関する理論研究を進め、第2年次(2006年度)には、東京都およびGLAにおけるいくつかの政策分野についての比較研究を行い、第3年次(2007年度)には東京都知事選挙の分析と行うとともに、全体の総括を行う予定であった。2.研究の成果について、理論面と東京・ロンドンの具体的な都市政治に関する実証面とに分けて述べる。 まず理論面に関してであるが、(1)現代先進諸国における1970年代までと1990年代以降とのそれぞれの経済-社会-政治をトータルに捉えれば、「国民経済の枠内でのフォード主義経済」から「グローバル化しつつある知識集約型経済」へ-「国民社会の統合」から「多文化主義/新保守主義の拮抗」へ-「ケインズ主義型福祉重視国民国家」から「シュムペーター主義型就労重視脱国民的脱国家化」へ、と要約できること、(2)この図式は、地方自治体でありながら世界都市として国民国家やグローバル経済の動向と密接不可分である東京やロンドンのような都市における政治には、おおむね妥当すること、(3)ただし上記の構造変動にはいくつかのヴァリエーションがあること、すなわち現代都市政治には少なくとも2つのタイプの公共性が並存していること、(4)具体的には、石原・東京都政に現れているような「新自由主義プラス新保守主義型」とリヴィングストン・GLA政治に現れているような「維持可能性のある福祉国家型」という2つのタイプの都市政治が存在すること、を明らかにした。次に実証面であるが、(1)2007年4月の東京都知事選挙について分析を行うことが出来たこと、(2)GLAについては4年に一度の市長選挙・議会選挙は本研究の終了直後である2008年5月1日に行われたが、本研究によって購入することが出来た文献・機材や行うことが出来たロンドン現地での調査(2007年3月)によって、この2つの選挙についても分析行うことが出来たこと(その内容については、研究成果報告書の中に収録する予定である)、(3)具体的な政策分野としては、本研究に着手した後に教育改革の分野が重要であることが次第に明らかになったことから、教育政策についても検討したこと、が成果であった。3.上記の点いずれについても、石原都政についてはジャーナリスティックな取り上げ方がなお多数を占め、GLAについては具体的な研究が日本ではあまり進んでいない中、比較的ユニークな成果を上げることが出来たと考えており、現代日本の地方自治および都市政治の将来像について学界に一定の貢献をなしえたと思料する。
著者
鈴木 直人
出版者
同志社大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

ポジティブ・サイコロジーの出現以来、感情心理学の分野においてもポジティブ感情の機能や存在意義に関する様々な説が提示されるようになってきた。例えば、まず第1に、ポジティブ感情は、ネガティブな感情によって亢進された精神生理学的反応を素早く元に戻す『元通り効果(undoing effect)』を持つという機能的意義も提唱された。さらには、ポジティブ感情は試行の柔軟性をもたらす、社交性を高めたり、健康にもプラスに働くなど、問題への対処というよりは、時定数の長い広範囲の有効な資源の動員を促すというFredricksonらの拡大-形成理論が提唱されるにいたった。しかしながら、一部の研究を除きこれらの存在意義や機能的意義に関して十分な十書的研究は行われておらず、ややもするとアイディアだけが先行している感がある。当初、申請では、主に元通り効果について検討する予定をしていたが、これまでの申請者の研究でも元通り効果と思われる現象が見られたことと、ポジティブ感情が思考などの柔軟性をもたらすという指摘については実証的なデータがあまり見られないことなどを鑑み、補助金を受けた研究では主にポジティブ感情が真に試行の柔軟性や、対処事態での行動の切り替えの柔軟性に効果を持つのかについて検討した。本研究報告では2つの実験についてその結果を報告している。まず、第1の実験パラダイムとしてポジティブ感情状態の実験参加者と、低い実験参加者を用いて問題解決実験を行わせ、その課題の解決方法が途中で急変し、それに対処しなければならない事態を作って研究した。その結果、ポジティブ感情の高低は、事態急変前後の課題遂行成績には影響を及ぼさなかったが、ポジティブ感情が心身への負荷を和らげる効果が示された。第2の実験パラダイムとして、実験参加者にポジティブ感情、ネガティブ感情、ニュートラル感情を歓喜し、その前後で、物事を考えなければ、あるいは発想の転換をしなければ解決できないを拡散課題、物事を考えるというよりは課題に集中しなければならない集中課題を負荷し、その成績を比較した。その結果、ポジティブ感情の喚起は」、拡散課題の成績を上昇させたのに対し、ネガティブ感情、ニュートラル観桜はそのよう奈効果をもたらさなかった。また一方、ネガティブ感情の喚起は集中課題の成績を上昇させたが、ポジティブ感情の喚起では集中課題に対してはなんら変化をもたらさなかった。以上の結果からポジティブ感情の喚起、もしくはおポジティブ感情状態にあるものは、問題解決場面などで、柔軟な考えかたができ、対処ができる可能性が示唆された。先述したように、ポジティブ感情の機能や存在意義に関して実証的データは少なく、本研究の成果、特に題2番目の研究はIsenやFredricksonらの主張を強く支持するデータであり、ポジティブ感情研究、あるいはポジティブ心理学に貢献するものである。
著者
増田 聡 村山 良之 佐藤 健
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究では、自然(災害)科学の研究成果として公開が進むハザード情報が、「行政やプランナー、地域住民からどのように受け止められ」、「今後の都市計画制度や防災まちづくりに如何に反映されるべきか」について、地震災害を中心に、重層的リスク・コミュニケーションをキー概念に据えて、人口減少期を迎えた我が国の市街化動向を踏まえた検討を行い、(1)地域コミュニティにおけるリスク・コミュニケーションと行動変容の課題と、(2)自治体内リスク・コミュニケーションを核とする防災都市計画の実態を明らかにした。
著者
林 正子
出版者
岐阜大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

日清戦争後から大正期にかけての日本におけるドイツ思想・文化論が、当時の知識人の意識や国情の実態を反映していることを確認し、国民国家確立期の日本におけるドイツ哲学・芸術の受容の意義について論じるというのが、本研究の目的であった。次のようにその結論の概要を挙げておきたい。1.当時の青年知識人たちにとって、ショーペンハウアー、ニーチェ、ウァーグナーらが代表するドイツ思想・文化は、俗化の方向をたどる文明の改革と主体性のない社会の道徳への反抗を実現するための支柱となった。2.ドイツ思想・文化受容の成果が雑誌「太陽」に掲載されたことで、数多くの読者に具体的な情報が与えられ、相対的・客観的な日本文化論の展開によって、日本(=自己)自身への認識を深めさせるというパラダイムが創り上げられ、時代精神そのものが形成されていった。3.<生の哲学>(Lebensphilosophie)の受容とその評論の隆盛は、明治というひとつの時代を閲した時期の[日本=自己]の存在の基盤を問う風潮と精神性を象徴的に表わすものであった。4.オイケンの<新理想主義>が移入されたことによって、現代文明・自然主義の超克、精神生活の建設が提唱されることとなった。5.<文明>と<文化>が、当該の社会状況や思潮の動向に応じ、用語として区別されるようになるのは1910年代であり、ドイツ語<Kultur>の翻訳である<文化>概念の登場が<文化主義>を導き出した。その要因としては、明治期における<日本文明>の進展についての自覚、<国民文化>確立の重要性の認識、ドイツ思想の受容による<教養>の練磨などが挙げられる。
著者
平田 光弘
出版者
星城大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究の主要目的は、日本の不祥事企業に着目して、不祥事企業が必死の思いで経営再生に取り組み、社会からの信頼回復に立ち向かう事態をつぶさに観察することによって、「社会に信頼される企業」形成の実践的条件を探ることにあった。1不祥事企業が経営再生するための鍵概念は、「持続可能な発展」「社会に信頼される企業」「新しい企業の社会的責任」「コーポレート・ガバナンス」「コンプライアンス」「内部統制」および「リスク・マネジメント」である。これらの鍵概念は同時に、不祥事とは一見無縁の、堅実に経営業績を上げている企業が、いまの経営を、そしてこれからの事業展開を考えていく上で欠かせない鍵概念でもある。2不祥事企業が経営再生するための必要条件は、(1)起業の原点に帰り、自社の社会における存在意義と使命を改めて問い、確認し、それを全社員が共有すること、(2)不祥事の芽は現場にあるとの認識に立って、全社員が常に危機意識を共有すること、(3)企業はこぞって、地球社会の持続可能な発展に貢献することが期待されているとの認識に立って、杜会から信頼される企業づくりに努め、そして、それを可能にするのがCSR経営であることを自覚し、実践することである。これらの条件は同時に、「社会に信頼される企業」形成の実践的条件をもなしている。3「社会に信頼される企業」形成の実践的条件は、(1)経営者は明確な経営倫理観・経営姿勢を持ち、常に起業の原点に帰り、自社の社会における存在意義と使命を問い、社員との対話等のコミュニケーションを通じて、これを社員とともに確認し共有すること、(2)経営者は社員とともに、不祥事の芽は現場にあるとの認識に立って、危機意識を共有すること、(3)経営者は社員とともに、社内の聖域をなくすことに努め、風通しの良い企業風土を醸成し、経営の透明度を高め、情報開示すること、(4)経営者は社員とともに、自社も地球杜会の持続可能な発展に対する貢献を期待されているとの認識に立って、社会から信頼される企業づくりに努め、そして、それを可能にするのがCSR経営であることを自覚し、実践することである。
著者
北澤 毅 近藤 弘 佐々木 一也 有本 真紀
出版者
立教大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本共同研究におけるテーマは、感情をめぐって、(1)発達・社会化、(2)文化的規範、(3)人間関係(解釈学の視点から)、(4)情操教育(音楽教育の歴史と現状)の観点に大別される。これらの観点から3年間研究を重ね、上記(1)〜(4)までの観点を、主に(a)理論的検討、(b)相互行為における子どもの泣き、(c)記憶と涙、(d)ジェンダーと涙という研究課題へと展開させた。その成果として研究協力者の協力を得つつ、下記構成のもとで報告書を執筆した。以下の成果が本研究のまとめとなる。第1部 問題設定と理論枠組第1章 本研究のねらい-「文化」概念に着目して-第2章 感情概念の捉え方の変遷-その社会性に着目して-第2部 相互行為における子どもの泣き第3章 発達という文化-保育実践における泣きの記述に着目して-第4章 園児間トラブルにおける保育士のワーク-<泣き>への対応に着目して-第5章 児童のく泣き>を巡るトラブルの構成-遊び場のフィールドワークから-第6章 「涙」をめぐる定義活動及び修復活動の開始と園児の「泣き」-「泣き始めること」と「泣き続けること」の相互行為分析-第3部 制度化された涙3-1.記憶と涙第7章 卒業式の唱歌-共同記憶のための聖なる歌-第8章 制度化された場面の感情喚起力-テレビドラマの分析を通して-3-2.ジェンダーと涙第9章 表象としての涙とジェンダー-絵本の表現技法の分析を通して-第10章 涙・泣きに関するジェンダー言説の分析補論関係性としての涙-哲学的考察-
著者
田中 弥生 武田 晴人 山内 直人 三好 皓一 高橋 淑郎 西出 優子
出版者
独立行政法人大学評価・学位授与機構
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

非営利組織には、営利組織の利潤に匹敵するような業績判断基準が不在であること、それゆえに非営利組織の経営が困難であることを最初に指摘したのはP.F.ドラッカーであった。たしかに、評価の不在が、非効率な行動を招き、成長の機会を逃している。そこで、ドラッカーの非営利組織論の原点に立ち返りながら「社会変革性」「市民性」「組織安定性」の3つの基本条件を軸に、非営利組織の評価基準を作成した。まず、NPOセクターの現状分析を行なうべく、定量・定性的な分析を行なった。財務データベースをつくり、財政的な持続性にかかる財源の種類など要因分析を行なった。その結果、非営利組織の場合には、収益事業収入に加え、寄付や会費などを組み合わせたほうが財務的な持続性が高いことがわかった。またアンケート調査を実施した。その結果、社会変革の担い手になりたいという願望を持ちながらも組織体制や技術面で不十分なこと、さらには、社会的な信頼性が低く、市民との関係性がより希薄になっていることがわかった。次に、研究者および実践者によるチームを編成し、先の現状分析結果を踏まえ、社会的なイノベーション力を備えた望ましい非営利組織像に到達するためには、どのような条件を満たすことが求められるのか議論した。そして、評価基準策定工程をデザインし、先の議論からエッセンスを抽出し、33の評価基準にまとめた。また、33基準を満たしていることを確認するための105の自己チェック項目もデザインした。これらの研究成果は、6本の研究論文、4冊の図書にまとめられ、5回の学会発表、8回の講演で発表された。なお、研究成果を非営利組織が活用できるよう、これらの基準とチェック項目を「エクセレントNPO基準」と名付け、2冊のブックレットにまとめた。さらに、フォーラム、講演などで説明を行ったが、5大紙、雑誌などで取り上げられた。また、2011年1月には本評価基準を普及すべく、推進母体として「エクセレントNPOをめざそう市民会議」を発足させた。
著者
西野 和典 高橋 参吉 大倉 孝昭 大西 淑雅 山口 真之介
出版者
九州工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

高校教科「情報」担当教員が専門的な知識や技能を得て、実践的な授業スキルを身につけるためのe-ラーニング教材を開発する。そのために、大学の教科「情報」の教職課程科目の授業内容をe-ラーニング教材にして、現職教員が働きながら学ぶことができる環境を実現する。また、インターネットを活用して遠隔から授業を評価するシステムを構築し、ベテラン教員から授業改善について指導を受け、相互評価を行い教科「情報」の授業のスキルアップを行う。
著者
中村 陽子 人見 裕江 西内 章 津村 智惠子 上村 聡子 松浦 尊麿 村岡 節 金 玄勲 金 東善
出版者
園田学園女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

限界集落における終末期の現状は在宅死よりも病院での死亡が多かったが、後期高齢者になると自宅か町内の病院死が多かった。厳しい生活条件の下での暮らしの中、人々は地域に深い愛情を持ち、家で終末期を迎えることを希望しながらも現実は無理であるとの思いが強かった。高齢化と過疎化、相互扶助の文化が薄れてきており、看取りの文化の継承が困難である現状が明らかになった。韓国の過疎地域における終末期ケアの課題としては医療・福祉サービスなどの多様なサービスの提供と都市部と地方の地域格差の解消が重要であることの示唆を得た。