著者
高瀬 英希 冨山 宏之 高田 広章
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. DC, ディペンダブルコンピューティング (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.107, no.559, pp.109-114, 2008-03-20

本研究では,マルチタスク環境にスクラッチパッドメモリを活用することにより,組込みシステムの命令メモリにおける消費エネルギーの削減を目指す.固定優先度付きの周期タスクが複数存在するシステムに対応した,スクラッチパッドメモリ領域分割方針を提案する.提案するスクラッチパッドメモリ領域分割方針は,領域分割法,時間分割法,および混合分割法の3種類である.各方針について,タスクごとの領域分割およびコード割当てを同時に決定可能な整数計画問題として定式化する.評価実験を行い,提案手法の有効性を確認した.
著者
立石 健二 宮崎 林太郎 長田 誠也 増山 毅司
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告 = IEICE technical report : 信学技報 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.114, no.211, pp.53-57, 2014-09-11

本稿では、「結婚」「子育て」等のライフイベントに関するユーザ属性をYahoo!知恵袋の書込みとYahoo! Japan上の行動ログを用いて推定する方法を提案する。ユーザ属性は詳細に得られる程、ピンポイントなパーソナライズが可能になる一方、取得方法が課題となる。提案方式は2ステップで構成され、まずYahoo!知恵袋の「3歳の子供がいる」といった書き込みから「子育て」といった特定のライフイベント属性を持つ質問者をパターンマッチングにより抽出する。次に、得られた質問者を学習データとして、質問者のYahoo! Japan上の行動ログ(例.クエリ、閲覧ページ)を元に、知恵袋に投稿しないユーザがライフイベント属性を持つかを推定する。評価実験により、1ステップ目が、2ステップ目で正例として用いるに十分な数の質問者を高精度に抽出できることを確認した。
著者
高橋 弘志 大町 美歩 松葉 育雄
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. NLP, 非線形問題 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.101, no.614, pp.1-6, 2002-01-22

経済時系列の分布は一般的にガウス分布ではなくレヴィ分布に従うことが知られている.しかし, 実際にその分布がレヴィ分布に起因するような原理は発見されていない.ただ, 経済時系列の特徴である長期記憶性によってレヴィ分布が発生することは知られている.そこで一般化エントロピーの最大化原理を用いることで, レヴィ分布のスケーリング指数μとTsallisのq-エントロピーのパラメータであるqとの関係を導き出すことができると考える.その関係性を実データとして1991年から2000年までの日次日経平均株価を用いることでその妥当性について検証した.
著者
二藤 宏美 林 安紀子 南 曜子
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. SP, 音声 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.100, no.240, pp.47-52, 2000-07-21
参考文献数
3

乳児が日常において養育者から聴いている音楽への選好をどのように形成していくか、童謡を用いて検討した。選好振り向き法を用い、5〜14ヵ月児に対し、長調の童謡6曲とそれらの短調への変型6曲の旋律を聴かせ、聴取反応を測定した。その結果、5、8、11ヵ月児群においては月齢内で一貫した聴取反応は認められなかったのに対し、14ヵ月齢群において、原型への有意な選好が認められた。また、8、11ヵ月児群において、聴取経験と選好との相関が認められた。以上より、乳児は0歳後期から徐々に音楽の聴取経験の影響を受け、1歳前期にはこれらの原型への選好が形成される可能性が示唆された。
著者
嵯峨山 茂樹 板倉 文忠
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. A, 基礎・境界 (ISSN:09135707)
巻号頁・発行日
vol.83, no.11, pp.1244-1255, 2000-11-25
参考文献数
26
被引用文献数
3

線形予測符号化(LPC)分析と複合正弦波モデル化(CSM)分析の間にあるエレガントな関係(ここではこれを対称性と呼ぶ)について述べる.目的は, LPC, PARCOR, CSM, 線スペクトル対(LSP)などの音声スペクトルモデル化の理論に統合的な視点を与えることにある.これらの分析法はいずれもモデルの自由度に等しい個数の低次の自己相関関数を与えられたとき, モデルのパラメータを求める問題となっているが, LPCもCSMも、直交多項式の理論の観点から見ると, 音声のパワースペクトル密度関数を重み関数として定義される単位円周上の直交多項式の理論(LPCの場合)及び実軸上の直交多項式の理論(CSMの場合)であり, 定式化, 各種のパラメータの定義, 解析アルゴリズムなどに関して美しい対称性が成り立つ.また, 直交多項式の観点からLSPに対して新しい解釈を与える.
著者
森尾 稔
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会誌 (ISSN:09135693)
巻号頁・発行日
vol.82, no.11, pp.1178-1182, 1999-11-25
参考文献数
5
被引用文献数
4

ソニーは,1946年,井深大と盛田昭夫により東京通信工業として設立された.井深が書いた設立趣意書には「自由闊達にして愉快なる理想工場」とある.若い技術者集団は多くの人に楽しんでもらえる新商品を他社に先駆けて世に送り出すことに情熱を燃やし,テープレコーダ,トランジスタラジオ,VTR,トリニトロンカラーテレビ,CCD,CDなどの新技術を開発してきた.個人の「自由」,「やる気」,「挑戦」を基本に,明確な目標設定とその実現に向かって邁進する集中力が新技術の開発には不可欠である.
著者
佐古 和恵
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会誌 (ISSN:09135693)
巻号頁・発行日
vol.83, no.2, pp.112-116, 2000-02-25

情報秘匿や認証を目的として研究開発された暗号技術を応用すると, ネットワーク上での公平性を保証したり, プライバシーを保護するといった新しい機能が提供できる.本稿では暗号プロトコルを利用して公平性を保証する電子抽選手法, 投票の秘密を確保しながら不正投票, 不正集計を防止する電子投票手法, 落札値以外の入札値を秘匿したまま落札値が最小であることを保証する電子入札手法について紹介する.電子化に伴うデメリットを解消し, 紙ベースのシステムにはない新機能を提供する暗号プロトコルの研究は, よりよい社会システムの実現に大きく寄与する.
著者
星合 隆成 小柳 恵一 ビルゲ スクバタール 久保田 稔 柴田 弘 酒井 隆道
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. B, 通信 (ISSN:13444697)
巻号頁・発行日
vol.84, no.3, pp.411-424, 2001-03-01
被引用文献数
46

本論文では, 意味情報に基づいて, イベントを目的地まで配送することが可能な意味情報ネットワーク(SION : Semantic Information-Oriented Network)を提案する.SIONを用いることにより, ブローカを介することなく, 情報提供者が, 提供するに相応しいユーザに対してのみ, 自身の情報を直接提案することが可能になる.また, 不特定多数のエンティティのなかから, 対象となるエンティティをスケーラブルかつリアルタイムに探索・発見することが可能になる.更に本論文では, SIONを実現するための要素技術であるイベントルーチング方式, ウェデレーション方式等について示す.また, SIONの効果を明らかにするとともに, SIONのキラーサービスであるコミュニティサービスについて説明する.
著者
趙 奇方 島村 徹也 高橋 淳一 鈴木 誠史
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. A, 基礎・境界 (ISSN:09135707)
巻号頁・発行日
vol.84, no.6, pp.745-758, 2001-06-01
被引用文献数
7

本論文では, 自己相関関数の雑音低減能力を利用し, 線形予測分析に基づくホルマント周波数抽出法の雑音耐性の改善を考える.自己相関関数は, 白色雑音が混入した音声信号に対して, 雑音成分を遅延の低い部分に集中させる性質がある.これを利用し, 音声信号の代わりにその自己相関関数をホルマント周波数の抽出に用いることにより, ホルマント周波数抽出の雑音耐性を改善することが可能であると考えられる.本論文では, まず自己相関関数からホルマント周波数を抽出するための原理を解析し, その問題点及び可能な解決策を詳細に検討する.そしてこれらの解析に基づき, 音声信号の自己相関関数に線形予測分析を施す提案法1を提案する.実験結果より, 提案法1を用いることによってクリーンな音声に対しては従来法と同程度の抽出精度が得られ, 雑音の混入した音声に対しては従来法より抽出精度が大幅に改善されることが確認される.しかし一方で, 強雑音環境下においては抽出精度が十分でない点も指摘し, その原因を解析した上で, 自己相関関数の引き算を利用する改善法を提案法2として提案する.実験結果は, SN比が15dB以下のとき, 提案法2ではホルマント周波数抽出誤差(Average Absolute Error)が従来法の3分の1程度に, また提案法1の2分の1程度に抑えられることを示す.
著者
島 貴宏 寺沢 憲吾 川嶋 稔夫
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. PRMU, パターン認識・メディア理解 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.109, no.418, pp.57-62, 2010-02-11
参考文献数
7

割注の含まれた活字文書資料画像における文字切り出しの手法を提案する.市販OCRソフトウェアでは割注を検出することができないため,電子化の妨げとなっている.本研究では,割注の特性に注目して射影のモデルを立てることにより,割注を含んだ文書画像から文字の切り出しを行う.
著者
豊川 修平 田村 英一 仕幸 英治 新庄 輝也 安藤 裕一郎 ラザロフ ヴラド 廣畑 貴文 白石 誠司
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. MR, 磁気記録 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.112, no.416, pp.29-32, 2013-01-18

C_<60>-Coグラニュラー薄膜はC_<60>マトリクス中に単磁区構造を持つCo微粒子が分散した構造をした超常磁性体である。これまで、C_<60>-Coグラニュラー薄膜の電気伝導特性や磁気輸送特性について、Co微粒子やC_<60>/Co界面に関する様々な研究がされてきた。それぞれのCo粒子は粒子の小ささ故に大きな帯電エネルギーを有しており、それよりエネルギーが低い電子の伝導を阻害する。これをクーロンブロッケード(CB)効果と呼ぶ。我々は、C_<60>-Coグラニュラー薄膜においてCBの外部磁場による閾値電圧のシフトとヒステリシスを観測し、低温で100万%を超える磁気抵抗効果を得た。この現象を反強磁性結合した二粒子ボトルネックモデルにより説明し、モデルの妥当性について磁化曲線の面から検証した。
著者
王 彩華 棚橋 英樹 平湯 秀和 丹羽 義典 山本 和彦
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. PRMU, パターン認識・メディア理解 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.101, no.58, pp.77-83, 2001-05-11
参考文献数
13

本研究では, ノイズのあるレンジデータから局所平面を安定的かつ, 効率的に当てはめるために, タイムフライレーザーレンジファインダーで得られたレンジデータのノイズモデルに基づいて, 局所平面の最適当てはめの幾つかの近似的な推定手法を導出する. また, シミュレーションレンジデータとGround Truthの分かる実測レンジデータを用いて, 提案手法に対して, 最小二乗法や固有値法, 最尤推定法など一般的な平面当てはめ手法, 及びノイズモデルに最適な当てはめ手法であるくりこみ法を比較し, これらの手法の性能と安定性を評価し, 提案手法の有効性を示す.
著者
武川 直樹
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. HCS, ヒューマンコミュニケーション基礎
巻号頁・発行日
vol.108, no.317, pp.17-18, 2008-11-16
参考文献数
2
被引用文献数
1

人の「共食」をコミュニケーションとしてとらえ,共食におけるインタラクション研究の重要性を述べ,そのアプローチ方法を提案する.また,期待される結果について述べる.
著者
有澤 博
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. DE, データ工学 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.105, no.117, pp.29-34, 2005-06-10
参考文献数
10
被引用文献数
4

現在医学界では、全身PET(Positron Emission Tomography陽電子放射断層撮像)画像診断が、非常に有効なガン診断法として新たに注目されている。このPET診断を集団検診で用いたいというニーズも発生しているが、医師の負担が大きい、専門医の不足などの問題がある。これらの問題を解決するために情報科学的な手法を駆使した精度の高いPET自動診断システムが求められている。本研究では、そのひとつの解として医師の診断を模倣したPET自動診断システムを提案し、その実用性について検証を行う。
著者
中司 弘樹 河野 靖美 松田 沙織 夏目 季代久
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. NC, ニューロコンピューティング (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.114, no.437, pp.39-45, 2015-01-22

本研究は心音の脳波に対する影響を調べた.実験は、被験者白身の心音、彼らの母親の心音、他人の心音、雑音をランダムに提示し、その音源を聴取している時の脳波を測定した.またそれぞれの音源聴取後、アンケートを取り、その音源が、どれくらい心地良いか、眠気を誘導するか評価して貰った.測定した脳波との比較に用いた,脳波は、各音源聴取期間後半で高速フーリエ変換を行い、δ、θ、α、β、γの周波数帯域毎に平均周波数スペクトルパワー値及び各脳波測定電極間でコヒーレンスを計算した.その結果、パワー値に関しては脳波θ波が主に眠さ得点と相関がある事が明らかになった.一方、心音聴取時、聴覚野部位を含む脳波電極間のコヒーレンス変化が生じる事、その空間パターンは心音音源により異なる事が明らかになった.以上の結果は、私達は心音を区別出来、誘導する脳内情報処理が異なる事を示唆している.
著者
山岡 沙織 力丸 裕
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. SP, 音声 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.111, no.471, pp.55-59, 2012-03-01
参考文献数
5

先行研究によってSpatial-Musical Association of Response Codes (SMARC)効果が報告されている。これは、ピッチ比較課題において高音と右、低音と左の結びつきの場合は、その逆で高音と左、低音と右の結びつきの場合よりもより反応時間が短く、またより正確であるという現象である。しかし、この現象が先天的現象なのか後天的現象なのか、またそのしくみについても明らかになっていない。そこで、まず行動実験によりSMARC効果を実証し、SMARC効果が音楽経験に依存するのかを調べた。被験者は学生25人(音楽経験者16人、音楽非経験者9人)である。被験者は2種類のトーンバースト(参照音:523Hz,プローブ音:330, 370, 415, 466, 587, 659, 739, 831Hz)のピッチ比較をし、プローブ音の方が高い場合は右もしくは上を低い場合は左もしくは下のボタンを押す課題と、またその逆で高い場合に左もしくは下を低い場合に対して右もしくは上のボタンを押す課題が与えられた。プローブ音を聞いてからボタンを押すまでの反応時間を測定した結果、SMARC効果の強さには個人差が見られたが現象は確認された。しかし、音楽経験とSMARC効果の間には強い相関は得られず、SMARC効果が音楽経験に依存するとは言えないことが分かった。さらに、高さの異なる2種類のトーンバースト聴取時の脳活動をfMRIで撮像した結果、被験者14人に共通して活動が見られた前帯状皮質と行動実験において計測したSMARC効果の強さに負の相関が見られた。
著者
柳原 圭雄 濱 裕光
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. D-II, 情報・システム, II-情報処理 (ISSN:09151923)
巻号頁・発行日
vol.79, no.11, pp.1977-1979, 1996-11-25
参考文献数
3

PET画像による脳賦活部位抽出法を提案し,抽出の確からしさを検討した.均一濃度ファントム画像を用いて補正式を作成し画素ごとの濃度ばらつきを補正するものである.リーブワンアウト(leave-one-out)法により信頼性のある抽出ができることを確認した.
著者
大和 淳司 大谷 淳 石井 健一郎
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. D-II, 情報・システム, II-情報処理 (ISSN:09151923)
巻号頁・発行日
vol.76, no.12, pp.2556-2563, 1993-12-25
被引用文献数
59

本論文では,画像によるモニタリングの自動化を目的として,動画像中の人物像の行動を認識する方法を提案している.実画像に対してもロバストな認識系を構築するために,幾何学的なモデルに基づくモデルフィッティングによらず,特徴量ベースのボトムアップな学習によるアプローチをとる.このために隠れマルコフモデル(HMM)を適用した時系列パターン認識を行った.HMMは音声認識で広く応用されているが,動画像への適用はほとんど例がない.本手法では,画像中の人物領域のメッシュ特徴をベクトル量子化によりシンボルに変換し,このシンボル列をHMMで学習,認識する.これにより,教師付き学習による,所与の動作カテゴリーの認識が実現できる.テニスの動作を列に,複数の被験者の動作認識実験を行い,90%以上の認識率を得た.また,不特定多数の人物動作認識を目的として,学習に用いなかった被験者を認識対象とした場合についても検討を行った.この場合,認識率の低下が起こるが,学習に用いる被験者数を増やすことにより認識率が向上することを確認した.
著者
西川 嘉人 辻 俊明 金子 裕良 阿部 茂
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. D, 情報・システム (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.92, no.1, pp.1-11, 2009-01-01

GPS等の位置情報取得技術と移動体通信技術の進歩に伴い,車や電車,人といった時々刻々位置の変化する物体(以下,移動オブジェクトと呼ぶ)の位置情報の継続的な入手が容易となってきた.これに伴い移動オブジェクトの運行効率の向上,セキュリティ管理,位置に基づく情報提供などの応用が検討され,移動オブジェクトに適したデータ管理構造の研究が行われている.研究は目的により大きく,(1)最新位置管理,(2)未来位置予測,(3)軌跡管理,の三つに分けられる.本論文では(1)の最新位置管理を扱う.最新位置管理では,一般に1万以上の移動オブジェクトの最新位置を,秒や分単位で更新する必要があり,この頻繁な更新による処理コストがデータ管理構造の大きな問題となる.筆者らはこの解決のためには,(1)領域分割形の多次元データ管理構造が適している,(2)データの削除と挿入が同時に起こるためデータ削除の負荷が小さい構造が必要である,と考えた.本論文ではこれらを備えたバランスM分木kdm-tree (k-d tree for moving objects)を提案する.本文ではkdm-treeのアルゴリズムと特徴を述べ,他の木構造との性能比較実験を行い, kdm-treeが更新性能に優れ,メモリコストや検索性能も同等以上であることを示す.