著者
大西 真晶 森野 博章 実藤 亨 井上 真杉
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. MoMuC, モバイルマルチメディア通信 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.109, no.380, pp.93-98, 2010-01-14
被引用文献数
11

現在のデジタルサイネージは地域性に応じた電子広告を街頭において提示するものが主流である。配信される広告の効果を客観的に計測することは効果的な広告配信を行う上で重要であるが,その効果測定手段は提供されていない.そこで本研究では,地域ネットワークを利用して配信広告を見た人々の持つ端末情報をリアルタイムに追跡し,広告による購買効果を広告主が分析可能なデジタルサイネージシステムを提案する.具体的には,携帯端末から嗜好情報と位置情報を地域ネットワークにより自動収集し,最初の広告配信時,店舗サーバ接続時,来店時のそれぞれについて実際の効果を統計的に把握する.本提案システムにより地域の小規模店舗でも地域環境やユーザ特性に応じた広告の効果的な配信が可能となり,地域産業創生と地域活性化への寄与が期待できる.
著者
曽根 秀昭
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. SITE, 技術と社会・倫理 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.111, no.240, pp.19-24, 2011-10-11
被引用文献数
1

東日本大震災は,インターネット基盤に依存する社会に対して災害時ディジタルディバイドを出現させ,長時間,広域にわたって情報流通を困難にした。早期に復旧できた地域では,知人の安否や被災・復旧状況を把握し,生活物資の供給情報を得られた。放送や新聞は広域な被災地の詳細情報を扱いにくく,ネット上の多様な情報から個別に検索できる効果は大きかった。その反面で,ディジタルディバイドによる生活の質の格差が現れた。平時からのディジタルディバイド解消が,災害時に生命・安全を保つ減災対策,あるいは復旧・復興の重要な鍵になる。筆者の体験に基づく大学と地域の情報通信基盤の被災の報告に併せて,この問題について述べる。
著者
吉村 正義 細川 利典 太田 光保
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. D-I, 情報・システム, I-情報処理 (ISSN:09151915)
巻号頁・発行日
vol.86, no.12, pp.884-896, 2003-12-01
参考文献数
10
被引用文献数
4

LSIの回路規模の増大により,フルスキャン設計方法によるテスト実行時間が重要な問題となっている.本論文では,フルスキャン設計されたLSIに対して,テストポイント挿入を行うことによって,ATPGパターン数を削減する方法を提案する.ATPGパターン数を削減する方法として,改善故障検出確率に基づくテストポイント挿入アルゴリズムと改善値割当確率に基づくテストポイント挿入アルゴリズムを提案する.提案した方法をいくつかの実際のLSIに適用したところ,LSI中の全FF数の0.4〜2.2%のテストポイントを追加することによって,ATPGパターン数を従来のフルスキャン設計と比較して,48〜78%削減することができた.
著者
神保 智子 石川 勝彦 伊藤 雅樹 津金 賢 田辺 義和 斎藤 由雄 富岡 秀起
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. ED, 電子デバイス
巻号頁・発行日
vol.96, no.18, pp.75-82, 1996-04-25
参考文献数
9
被引用文献数
1

ゲート酸化膜の絶縁耐圧に影饗を及ぼす有機物汚染の評価を行った。ゲート酸化-polySi成膿を窒素券囲気下で連続処理した場合、酸化膜の欠陥密度が低減することを確認した。非連続処理の場合に搬送・保管中のウェハ表面に吸着する成分を、大気圧質量分析計を用いた昇温脱離法で解析した。その結果、プラスチック製ウェハカセットケースからの脱ガスである有機物がpolySi成膜時に脱離せず、酸化膜とpolySi界面に残留し、これが欠陥密度増加を引き起こすと考えられる。
著者
堀 洋平 片下 敏宏 坂根 広史 佐藤 証 戸田 賢二 今井 秀樹
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. RECONF, リコンフィギャラブルシステム : IEICE technical report (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.108, no.300, pp.87-92, 2008-11-10
被引用文献数
1

近年,暗号モジュールの電力波形や電磁波などから内部の情報を暴露する新たな物理攻撃であるサイドチャネル攻撃が登場しており,その対策方法や評価基準の策定が急務となっている.我々は,統一された実験環境の構築により国際標準規格の策定へ貢献する目的に,サイドチャネル攻撃に対する標準評価ボードSide-Channel Attack Evaluation Standard BOard(SASEBO)を開発し,標準実験環境として国内外の研究機関へ配布を行っている.また,実験に必要となる暗号モジュールや制御IPマクロ,およびそれらのドキュメントも配布している.本論文では,標準評価ボードによる環境を紹介し,現在開発を行っている安全性を検証するソフトウェアについて述べる.
著者
幸田 新平 宮城 洋之 荒川 豊 岡本 聡 山中 直明
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. PN, フォトニックネットワーク (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.106, no.546, pp.17-20, 2007-02-27

近年,光ネットワーク技術の発展によりグリッドシステム内のネットワークに光ネットワークを用いた光グリッドに関する研究が盛んに行なわれている.光グリッドでは,光ネットワークを制御するGMPLS技術を用いることで,計算機リソース,実行時間などに加えてネットワークリソースの自動的な事前予約が可能である.従来のジョブスケジューリング方式では,新たに発生したジョブ(新ジョブ)がすでに割り当てられてるジョブ(既存ジョブ)の影響によって,要求通りにリソースを割り当てることができない場合,スケジューラは既存ジョブと新ジョブの優先度を比較し,既存ジョブの優先度が低い場合には,たとえジョブの実行がまもなく終了する場合でも既存ジョブを中断させ新ジョブを割り当てる.中断により,ネットワークリソースの資源確保といったオーバーヘッドが増加する.そこで本論文では,優先度に加え既存ジョブのジョブ終了時間を考慮したジョブスケジューリング方式を提案する.計算機シミュレーションによる特性評価を行い,従来のジョブスケジューリング方式と比較して,グリッドシステム内の平均遅延時間を約20%改善できることを示す.また既存ジョブの中断回数を減少できることを示す.
著者
東本 崇仁 赤倉 貴子
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. ET, 教育工学 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.114, no.121, pp.23-26, 2014-06-28

プログラミング言語の学習においては,要求(問題文等)を実現するアルゴリズムの理解と,アルゴリズムをコードに変換するための言語知識の理解の2面が存在することは既知であり,個別に学習支援を行う研究は多くなされている.一方,プログラミングスキルの向上のためには,プログラムを読み,理解することも重要であることは経験上明らかである.そこで,本研究ではプログラムを読むことによる学習に着目し,プログラムを読むプロセスとして,コードからアルゴリズムを理解する「読解」とアルゴリズムから元の要求を理解する「意味理解」の2ステップを提案する.また,「アルゴリズム」「コーディング」「読解」「意味理解」の4ステップによる統括的なプログラミング学習を提案し,その支援システムについて検討する.
著者
Voas Jeffrey M. 福田 収一
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会誌 (ISSN:09135693)
巻号頁・発行日
vol.89, no.12, pp.1040-1043, 2006-12-01

本稿では,ソフトウェア工学の研究,実務における13の重要な課題を明らかにする.すなわち,(1)ソフトウェアの品質とは何か?(2)現在のソフトウェアの技法の背景にあるROI(投資利益率),そして経済とは何か?(3)プロセス改善(process improvement)は重要か?(4)ソフトウェアメトリックスを信用できるか,あるいは解釈ができるか?(5)ソフトウェア工学の基準は余りにも混乱しており,実装,法令順守(compliance)が困難ではないか?(6)なぜ,競合する基準に相互運用性のプリディクター(interoperability predictor)がないのか?(7)遺産的ソフトウェア(legacy software)とそのデコミッショニングをいかに処理するか?(8)テスト終了について使用すべき妥当な基準があるか?(9)COTS(Commercial Off-The-Shelf Software:市販の既成ソフトウェア)にはほとんど相互運用性,結合可能性(composability)がない.なぜか?(10)信頼性評価法,オペレーショナルプロファイルはしばしば疑わしいとみなされる.何が本当のオペレーショナルプロファイルなのか?(11)「…性」を基本にした設計は,ないものねだりの希望的観測である.技術的,あるいは経済的にどのように対応すればよいのか分からない問題である.(12)ソフトウェアの認証(software certification)は必要である.しかし,どのようにしてそれを実施するか,また,それに関連した責任をどのようにとればよいか分からない.(13)インテリジェンス,自律形コンピューテイングは結構である.でも実現可能か?
著者
町田 史門 小山 貴之 宋 洋 高田 さとみ 嶋田 茂 越前 功
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. EMM, マルチメディア情報ハイディング・エンリッチメント (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.112, no.226, pp.5-10, 2012-09-27

カメラ付きモバイルデバイスの普及により,SNSへの写真投稿が容易になっているが,その写真投稿に起因したプライバシー侵害の問題が次第に増加しつつある.この問題の多くは,被写体ユーザの了解を得ることなく写真を投稿する行為にあるが,そのプライバシー侵害と感じる要因を,アンケート調査と過去のSNS記事アーカイブを用いたマイニングにより解析し類型化を行なった.更にそれを用いたプライバシー保護サービスの策定を行なった.
著者
三浦 佳世
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. HIP, ヒューマン情報処理 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.109, no.261, pp.41-46, 2009-10-22
被引用文献数
2

実写なのに模型を写したように見える写真作品がある。こうした作品は、三つの観点で興味深い。ひとつには、大きさ-距離判断という知覚の観点からである。どのような知覚要因が判断の誤りに関与しているのだろうか?二つめには、リアリティ判断の観点からである。私たちは何に基づき、リアルな実体という判断を下すのだろうか?三つめには、こうした作品が注目される社会的背景からである。写真の記録性が技術的には高まる一方、それを否定する写真が楽しまれる背景に何があるのだろうか?ここでは1番目の知覚的観点に焦点をあて、撮影俯角、ぼけ、色彩、線遠近法などの視覚要因を中心に、ミニチュア効果について考える。また、リアリティ判断ならびに社会的背景についても触れることとする。アイステーシスとは広義の「知覚」を意味する古代ギリシャ語で、感覚から感性まで、また、生理学から文化までを含む概念である。模型のように見える実写の作品を通して、「知覚」を多層的に捉えてみたい。
著者
牛島 瑞恵 藤原 暁宏
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. COMP, コンピュテーション (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.104, no.339, pp.25-32, 2004-10-08

近年の高性能計算に関する研究において,非シリコン型計算の1つとしてDNA分子を用いて計算を行うDNA計算が注目を集めている.本研究では,DNAを用いて表現された2進数の集合に対してソートを行うアルゴリズムを2つ提案する.これらのアルゴリズムに対する入力は, O(mn)種類の一本鎖DNAで表現されているn個のmビットの2進数の集合である.本研究では,まず最初に2つのソートアルゴリズムの基本演算として,2つの数を比較し昇順に並べる比較交換操作を定義し,この比較交換操作を効率よく行うアルゴリズムを提案する.このアルゴリズムの計算量はO(n)個の対のmビットの2進数に対してO(1)ステップで実行可能である.次に前述の比較交換操作を用いて奇偶転換ソートに基づくソートアルゴリズムを提案する.このアルゴリズムは,O(mn^2)種類のDNAを用いることによりO(n)ステップでソートを実行可能である.最後に,前述の比較交換操作を用いてシェアソートに基づくソートアルゴリズムを提案する.このアルゴリズムは,O(√n log n)種類のDNAを用いることにより O(mn√n log n)ステップでソートを実行可能である.
著者
東田 正信 奥 雅博 村上 仁一
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. D, 情報・システム (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.96, no.10, pp.2249-2261, 2013-10-01

PB(プッシュボタン)電話機から利用者が検索条件を入力して電話番号を検索できる自動電話番号案内システムを開発した.検索キーワード入力には,情報機器に不慣れな利用者でも,簡単に操作方法を学習でき,短時間で入力できる文字情報縮退入力方式を採用した.本方式では,ひらがな5文字を一つの数字キーに縮退させて割り付けたPB電話機の数字キーを使い,検索キーワードをその「よみがな」に従って逐次数字キーを押下することで入力する.同様の文字割付に従い数字列化された情報を付加した電話帳DBを数字列化されたキーワードで検索する.本論文では,文字情報の縮退度情報を用いて利用者からの入力回数を最少化するための入力情報数最少化技術,採用した入力方式に起因する曖昧性を複数の曖昧さを含む情報の相互接続可能性を用いて解消する相乗的曖昧性解消技術などの知的対話誘導技術,及びこれらの技術を実装した自動電話番号案内システムの構築と評価について述べる.このシステムは「あんないジョーズ」という名称で公衆サービスとして提供された.1998年から2007年までのサービス期間中に,約1300万呼に対して検索処理を実行し,正しく電話番号を案内できた呼は約1000万呼であった.表示機能がないことによる入力内容のミスやキータッチのミスなどに起因して,番号が案内できなかった呼を除いて,「あんないジョーズ」が利用者に対してオペレータと同等の応対を提供できた呼の数は呼全体の約85%であった.
著者
鷲澤 輝芳
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. HIP, ヒューマン情報処理
巻号頁・発行日
vol.96, no.499, pp.13-18, 1997-01-24

眼球運動を伴う視覚的注意に対する数学モデルを提案した. モデルは初期視覚, 視覚メモリ, 注意マップから構成される. 初期視覚では, 入力画像を多重解像度部分空間(SubMRR)で表現する. 視覚メモリでは, 認識対象に関する知識を確率セルオートマトン(PCA)で表現する. PCAはSubMRRの離散パラメタと同じセル空間を持ち, セルの確率分布は条件付き確率で結びつけられている. 注意マップはPCAのセル空間と同様に配置されたノードより構成され, それぞれのノードには, 対応するセルに関する平均相互情報量が割り当てられている. この平均相互情報量によって次のFOAが決定される. シミュレーション実験では, 周辺視と事前知識(文脈)の影響がモデルで表現されているかどうかを検証した.
著者
西本 博則 島田 育廣 藤本 一郎 正木 信夫
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. SP, 音声 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.109, no.99, pp.17-22, 2009-06-17
被引用文献数
2

声帯振動や歯茎ふるえ音等の高速で振動する調音器官の観測のための超高時間分解能MRI movieの撮像法を提案する.本手法では光マイクロホンを用いてMRI撮像中の被験者の音声を,さらに空芯ソレノイドコイルを用いてMRIスキャナーの傾斜磁場の磁場変動を両方同時収録することで両者の正確な時間的関係を求め,動画の各フレームを作成している.さらにMRIスキャナーの高性能化によりデータ収録時間の短縮が可能になり,MRI movieの高時間分解能化を実現した.本稿では,振動子からなるファントムによる実証実験を行い,最大6384 fpsのフレームレートの画像が得られた.さらに歯茎ふるえ音発話時の舌の振動の撮像を行い,舌の振動の様子が確認された.
著者
宮部 滋樹 猿渡 洋 鹿野 清宏
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. EA, 応用音響 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.104, no.246, pp.19-24, 2004-08-12
被引用文献数
1

本稿では,制御点で出力音を相殺するマルチチャネル音場制御とマイクロホンアレーを併用した,新たな小規模バージインフリー音声対話インタフェースを提案する.従来手法は,無音信号を再現するマイクロホン素子位置以外に応答音の再現点を制御点として設けているため,ユーザの位置を拘束していた.しかし提案手法は応答音を厳密に再現する制御点を設けないため,ユーザの移動を許容する.更に,応答音再現の制御点を設けないことにより,従来法では安定に動作させることができない少数のラウドスピーカ数でも安定なシステムを設計できる.実験により,従来法では安定に動作しない少ないラウドスピーカ数でも安定な制御が行えるということを示す.
著者
ストヤノフ ジョージ 川又 政征 バルコバ ズラトヤ
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. DSP, ディジタル信号処理 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.96, no.424, pp.39-45, 1996-12-13

本稿では,さまざまな低域通過プロトタイプセクションの構成とその検討によって,極めて低い振幅感度をもつ1次および2次の複素係数直交フィルタの構造を導出する.これらの構造と既知の構造とを比較・検討する.新しい構造に用いられる遅延素子数と乗算器数は標準的(最小)である.このため,導出された構造の素子数は,既知の構造と比べて,1次の場合には1/2に減少し,2次の場合には1/3に減少している.しかも同時に,狭帯域実現では,従来のものより1/10〜1/100以下の低感度性をもっている.既知の構造では,3ビットの係数語長を使用しても振幅特性が破壊されるにも係わらず,新しい構造では,係数が2ビットの正規SDコードで表現された場合でさえ,振幅特性が損なわれないとことが実験によって実証される.新しい構造は高性能な高次直交フィルタの実現に適している.
著者
豊嶋 守生 高山 佳久
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. OPE, 光エレクトロニクス (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.110, no.156, pp.21-26, 2010-07-22
被引用文献数
2

宇宙空間における通信は,空間的に離れた場所へ情報を伝送するために,通常電波が用いられている.しかし,近年,光ファイバ通信をはじめとする光学技術やレーザ技術の発達に伴い,レーザ光線つまり光波を用いて離れた宇宙機器間で通信を実現できる時代に突入した.電波も光波も同じ電磁波であるが,とりわけ宇宙における光波の利用は,使用レーザの周波数が非常に高いことに起因して,小型・軽量化,高速・大容量化などの特徴を有し,周波数資源の有効活用や法的規制が無いこともあり,電波よりも将来に向けて有望な手段である.欧州では,低高度軌道(LEO)の観測衛星と静止軌道(GEO)の衛星間において,既に2003年から50Mbpsの光通信回線が定常的に運用されている.日本においては,光通信機器を搭載した光衛星間通信衛星(OICETS)が2005年8月に打ち上げられ,欧州の衛星との間で光衛星間通信実験が成功裏に実施された.その後,世界の4局の光地上局(OGS)との間でOICETSを用いた衛星-光地上局間レーザ通信実験が実施され,各サイトにおけるレーザ伝搬データの取得に成功している.情報通信研究機構(NICT)では,これらの伝搬データを持ち寄り,伝搬モデルの構築に資するため,光地上局-OICETS間レーザ通信実験に関する国際ワークショップ2010(GOLCE2010)を主催し,スペインのテネリフェ島で2010年5月に開催した.GOLCE2010では,世界各国での宇宙光通信に関する活動状況も報告された.本稿では,GOLCE2010を通して,宇宙光通信に関する研究開発動向を紹介する.