著者
中山 修一 和田 文雄 高田 準一郎
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.57-64, 2012 (Released:2012-04-09)
参考文献数
12
被引用文献数
2 4

新学習指導要領に盛り込まれた持続発展教育の推進と地理教育の在り方に関し,国際地理学連合地理教育委員会の取組み,さらに,その推進母体であるユネスコの教育革新運動の系譜の考察を通して,日本における持続発展教育としての地理教育の進むべき道を検討することは喫緊の課題である.
著者
桐村 喬
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.83, no.2, pp.151-175, 2010-03-01 (Released:2012-01-31)
参考文献数
37
被引用文献数
2 1

本稿は,都市内部の居住者特性に関する入力変数の情報を最大限に活用した類型化および可視化手法としての自己組織化マップ(Self-Organizing Map: SOM)の有効性や網羅性を示すことを目的としている.SOMでは「マップ」と呼ばれる2次元空間を利用して,居住者特性の時空間的な変化を示すこともできる.そこで本稿では,SOMを用いて,阪神・淡路大震災前後の神戸市の既成市街地における時空間的な居住者特性の変化を明らかにする.SOMおよび「マップ」による分析の結果,被害が大きく,利便性の高い地域における若年層の増加や,製造業中心の地域における失業率の悪化や高齢化といった,従来の個別の事例研究において得られた成果と同様の結果が確認された.また,「マップ」によって,震災直後の居住者特性が従前よりも多様化したことが示された.こうしたことから,SOMは,都市内部における居住者特性の分析に対して非常に有効であり,網羅的に検討できる手法であることが示された.
著者
羽佐田 紘大
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.88, no.2, pp.118-137, 2015-03-01 (Released:2019-10-05)
参考文献数
53
被引用文献数
4 5

濃尾平野で得られた合計2,701本のボーリング柱状図の土質区分とN値によって,沖積層を基底礫層,下部砂層,中部泥層,上部砂層,沖積陸成層,人工改変層に区分した.この層序区分と218点の14C年代値によって,地層境界面および等時間面標高データベースを作成した.これらのデータベースを基に,GISを用いた空間解析を行い,沖積層の3次元構造と堆積土砂量を復原した.その結果,中部泥層よりも下位面には谷地形が認められること,その谷地形はデルタの前進に伴う中部泥層や上部砂層の堆積によって埋積されていったことが明らかになった.また,1,000calBP以降は,沖積陸成層の堆積域が現在の三角州まで達し,陸上デルタが広範囲に拡大した.過去6,000年間の堆積土砂量は約211015gと推定される.特に,1,000calBP以降に急激な増加が認められる.これは,流域における農耕や森林伐採といった人為的影響によって土砂生産量が増加したことに起因すると考えられる.
著者
網島 聖
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.87, no.1, pp.38-59, 2014-01-01 (Released:2018-03-22)
参考文献数
50

近代日本の大都市内部では,工業と商業が密接に結びついた同一産業集積が展開したが,そこでは同業者の相互関係に基づく「調整」が集積の維持発展に重要な役割を担ったと考えられる.本稿は,大阪道修町の医薬品産業同業者町に着目し,近代日本の経済システムが変化した戦間期において,取引関係の変化が「調整」と集積のあり方にどう影響したかを検討する.第一次世界大戦による輸入医薬品の途絶により,国内医薬品業界は国産製薬業を本格化させる必要性に直面した.大阪の医薬品業界では,製薬業に進出した問屋を頂点とする流通系列化の構造的変化が起こった.これは,大阪道修町における問屋・卸売業者間の「調整」に影響を与え,同業者の協調的で水平的な関係に依拠した利害対立の「調整」が,系列ごとの垂直的で対立的な関係を踏まえたものへと変化した.戦間期において,道修町の見かけの集積は維持されたが,内実は製薬業の営業拠点集積へと変質した.
著者
大谷 真樹
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2018年度日本地理学会秋季学術大会
巻号頁・発行日
pp.154, 2018 (Released:2018-12-01)

植民地の開発・経営において、インフラストラクチャー事業は、重要な要素である。しかし、鉄道や都市計画など、日本統治期の朝鮮における他のインフラストラクチャー事業に対する研究が盛んな一方、河川に関する研究は限定的であった。これは、河川事業が治水、灌漑、電源開発など多方面に渡り、研究も断片的であったことが考えられる。本発表では、河川の持つ自然資源という側面と、河川事業の植民地的性格、そこに携わった土木技術者の流動性と開発思想に着目し、日本統治期の朝鮮における植民地開発を、河川事業の展開という観点から明らかにする。
著者
岩間 信之 浅川 達人 田中 耕市 駒木 伸比古
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.70-84, 2016 (Released:2016-06-23)
参考文献数
39
被引用文献数
1 3

本研究の目的は,住民の買い物利便性(食料品アクセス)および家族・地域住民との繋がり(いわゆるソーシャル・キャピタル)を基にフードデザート(以下FDs)を析出するとともに,FDsの特徴を地理学的視点から明らかにすることにある.研究対象地域は,関東地方の県庁所在都市A市の都心部である.分析の結果,低栄養のリスクが高い高齢者は,全体の49%に達した.地区別にみると,都心部のなかでも市街地中心部と市街地外縁の一部において,低栄養高齢者の集住がみられた.なかでも,市街地中心部において食生活の悪化が顕著であった.市街地中心部ではソーシャル・キャピタルの著しい低下,市街地外縁では食料品アクセスとソーシャル・キャピタルの相対的な低さが,高齢者の食生活を阻害する主要因であると考えられる.従来,FDs問題研究では買い物先空白地域に注目が集ってきた.しかし本研究から,ソーシャル・キャピタルが希薄な大都市中心部でも,FDsが存在することが明らかとなった.
著者
遠藤 なつみ
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2021年度日本地理学会秋季学術大会
巻号頁・発行日
pp.62, 2021 (Released:2021-09-27)

ジャンケンは世代を問わない身近な遊戯であり,その種類や掛け声は非常に多様で,分布には地域差がみられる。ジャンケン全般の研究としては,加古(2008)が1948〜2001年に全国のジャンケンの種類や掛け声などを,都道府県レベルで記録している。また多くの自治体史では,一般的なジャンケンの掛け声を方言や子どもの遊びの記録としてまとめている。特定のジャンケンでは“2チーム分けジャンケン”が方言研究の立場より多く研究されており,小学校区レベルの言語地図を作成し,掛け声の地域差や語形の変容に着目している(山田2007;佐々木 2012ほか)。本研究で取り上げる“ひとりもんジャンケン”は1回もしくは少ない回数で,大人数の中から1人だけ異なる手形を出した人が鬼などになる方法である。加古(2008)は,長野・山梨・島根・広島・徳島・高知の6県で使用されていること,掛け声は8種類でさらに3分類でき,長野県のみ2分類の掛け声がみられることを明らかにした。本研究では,長野県を対象とし,“ひとりもんジャンケン”の掛け声や使用展開、用途などの地域的差異を明らかにすることを目的とする。研究では,“ひとりもんジャンケン”の使用や掛け声などを調査するため,2018年11〜12月に長野県内の国公立小学校362校にアンケートを郵送し,249校(67.9%)から返信を得た。アンケートの対象者は「普段の子どもたちの生活の様子をよく知っている学校職員」としたため間接的な回答ではあるが,おおむね子どもたちについてのデータを得られたと考える。ほかに,“ひとりもんジャンケン”の使用などの世代差を明らかにするため,2017〜2019年にかけて,県内小学校出身の全ての年代を対象に,幼少期に使用していた掛け声の聞き取りを行い,346人から160校分のデータを得ることができた。以上のデータを小学校の位置に図示し,分布とその地域的差異を考察した。2018年のアンケート調査より,“ひとりもんジャンケン”の使用は全体の約34%の小学校であった。その使用は南信と中信に集中していた。確認された掛け声は42種類であり,5タイプに分類できた。掛け声は地域ごとに異なり,「ひとりだし〜」タイプは飯伊・上伊那,「あいてのないもの〜」タイプは松本・諏訪・大北・木曽・上伊那に集中する。「なかまのないもの〜」タイプは非常に少数であり,上伊那・松本・長野と分布もまばらであった。「ひとりなし〜」タイプは上伊那のみであった。県内小学校出身者の聞き取りからも,掛け声は5タイプに分類できた。調査データよりグロットグラムを作成し,長野県の“ひとりもんジャンケン”の年代・地域別の掛け声、伝播などを考察した。使用は全年代を通して南信・中信に集中し,前半の掛け声は「ひとりだし〜」と「あいてのないもの〜」タイプが主流である。前者は飯伊,後者は松本や諏訪に集中し,両者の接触地域にあたる上伊那では2タイプ以外に「なかまのないもの〜」や「ひとりなし〜」タイプもみられ,複数の掛け声タイプの併用があるなど,最も多様性に富む。また,掛け声の使用開始時期が地域で異なっている。県内の使用は1930年代まで遡ることができ,飯伊で「ひとりだし〜」,上伊那で「あいてのないもの〜」タイプが使用されていた。1960〜1970年代頃では使用範囲が拡大し,「ひとりだし〜」タイプは上伊那,「あいてのないもの〜」タイプは松本へ拡がり,その後,大北や木曽に拡がったと考えられる。飯伊と上伊那,松本を核とし,周縁部へ連続的に伝播したと推察する。一方で使用率の低い北信・東信では,核となる地域からの移動による飛び地的な伝播であると考えられる。後半の掛け声では,両調査より39種類が確認でき,「鬼」という語を含む掛け声と,その他の語を含む掛け声とに大きく二分できた。前者は長野県全域でみられるが,後者は「ひとりだし〜」タイプを多用する飯伊に集中していた。用途などの詳細な事項を聞き取ることができた52名分のデータより掛け声と用途をまとめた。用途の大半が鬼決めで用いられ,そのほとんどの掛け声に「鬼」という語が含まれる。その他の用途としては,当番や係,順番,人気のある事柄を獲得できる人を決める際に用いている。また,「ひとりだし〜」タイプは,効率性のほか遊戯性を求めた使用もみられ,掛け声や用途は非常に多様性に富む。「あいてのないもの〜」タイプは,鬼を決める以外の用途ではほとんど使用がみられず,マイナスな事柄を決めるイメージを持つ人が多い傾向にあり,「ひとりだし〜」と「あいてのないもの〜」タイプの性格は明瞭に異なっていた。
著者
成瀬 敏郎
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.4, no.2, pp.47-51, 2010 (Released:2010-04-06)
参考文献数
4
被引用文献数
2 2

2009 年8 月8 日に島根県出雲市多伎町に発達する海洋酸素同位体ステージ(MIS)5e の海成段丘堆積層を覆う古土壌3(VIb)から玉髄製の剥片1点を発見した.さらに同年8 月22 日から3 日間の予備調査において露頭面に表れた同層中から5 点の人工的に打ち欠いた石片が確認されたのを受けて,同年9 月16 日~29 日にトレンチ掘削による本調査が実施された.この結果,約12 万年前のMIS 5e に形成された古土壌層中から流紋岩や石英製の石器,石核,砕片,破砕礫など15 点が出土した.これらは日本で最も古い石器である可能性がある.今後,出土遺物の年代や古環境復元など,さらなる調査・分析が急務である.
著者
谷 謙二
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.70, no.5, pp.263-286, 1997-05-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
31
被引用文献数
5 11

本稿は,戦後の大都市圏の形成とその後の郊外化を経験した世代に着目し,その居住経歴を詳細に明らかにしたものである.方法論的枠組みとしてライフコース・アプローチを採用し,名古屋大都市圏郊外の高蔵寺ニュータウン戸建住宅居住者 (1935~1955年出生)を対象として縦断分析を行った.その結果,移動性が最も高まる時期は離家から結婚までの間であり,さらに離家を経験した者の多くが非大都市圏出生者であった.大部分の夫は結婚に際しては大都市圏内での移動にとどまるのに対し,妻は長距離移動者も多く,中心市を経由せずに直接郊外に流入するなど,大都市圏への集中プロセスは男女間で相違が見られた.結婚後の名古屋大都市圏への流入は転勤によるものであり,その際は春日井市に直接流入することが多い.それは妻子を伴っての流入であるために,新しい職場が名古屋市であるにもかかわらず,居住環境の問題などから郊外の春日井市を選択するためである.
著者
久保田 雄大
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2015, 2015

赤石山脈を通過するリニア中央新幹線のトンネル建設は、史上最大の環境破壊である。東京&mdash;名古屋間で約250 kmのトンネルを掘り、残土の量は6200 m<sup>3</sup>にのぼる。通気口、非常坑口もあちこちに掘られ、とてつもない範囲で環境に影響が出る。 その中でも一番の渦中にあるのは大鹿村だ。南アルプスに抱かれるような谷間集落が点在するこの美しい村は、過去50年間人口流出に悩まされて来たが、いま大鹿にのこって住んでいる人々は、不便な中にも辺境の村で暮らす幸せを持っている。移住者も増え、200人とも300人とも言われている。 大鹿村は10年以上リニアトンネルの掘削工事に悩ませることとなる。残土運搬ダンプの台数は、最大一日1700台という数字が示された。トンネル付近の沢では50~80%の水量低下、生活用水の影響など、アセスメントで示されたものだけでも生活に相当のダメージを与える。「リニアによるメリットは、大鹿村には、何も無い」。住民も、村役場も、JRでさえもこのことを認めている。 <br> 住民は、様々な方法で要望を伝えて来た。パブコメで。役場を通じて。環境アセスメントの手続きにのっとり、県知事意見書経由で。JRは、しかし、一度たりもまともな説明はなく、現場で工事が次々と始まっているのが現状である。 10月に国交省の着工認可が出て、工事に関係する東京-名古屋間の市町村すべてで、すぐに説明会が始まった。2014年11月10日JR東海が大鹿村で開いたリニア中新幹線の事業説明会には約300人の住民が集まり、質疑応答は延長に延長を重ね2時間半に及んだ。工事への理解を求めるJR東海に対し、住民からは「リニア計画は白紙に戻すべきだ」「山に手をつけなければ失われる命(山、水、動植物)はない」「風景は一度失ったら取り戻せない」など根本的な反論が相次いだ。今までJRが説明責任を果たして来なかった不満も爆発した。JRは「地元との合意がなければ、着工できないとおもっています」という言葉を繰り返した。議論はなく、結局は平行線に終わった。 11月下旬、JRは地区単位の説明会を行った。それも骨抜きの内容で「今後、詳しく説明します」に終始し、地主と直接交渉をし、集落の至近距離の土地を借り上げ、工事を着手している。<br> JRとの合意形成に住民が関わる最後の場として、大鹿村では、他の町村に先んじて「対策委員会」がつくられたが、突如「着工ありき」議論しかしてはいけないことになり、残土置き場をどこにするか、JRが議論するダンプの通行道ルートどの道にするかなど具体的な妥協案を住民がだしていくことが求められた。JR+政府&rArr;役場&rArr;住民という力でねじ伏せて行くやり方への不快感が、「対策委員会」メンバーの住民や村会議員からも聞こえてくる。 南アルプスを貫くトンネル工事や、残土処理に関しては、地元在住の専門家達が最も危険を警告していることである。世界でも造山運動が最も活発な南アルプスの掘削と、断層段丘である伊那谷での残土処理は、最近頻発する集中豪雨による災害の危険と隣合わせだ。国交省自身が、伊那谷のほとんどの場所が深層崩壊の危険地に指定しているので、矛盾している。アセスでは残土処理に関してはすっぽり抜けていて、地域に処理の方法を考えさせようとしている。責任を回避しようとしているように感じられる。自民党色の強い自治体では大量の残土で土地を造成する計画を既に進めているところもある。
著者
栗林 賢
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.86, no.5, pp.436-450, 2013-09-01 (Released:2017-12-08)
参考文献数
13

本稿は,青森県における集出荷業者を経由したリンゴ流通の特性を,集出荷業者の集出荷戦略の視点から検討した.集出荷業者は出荷するリンゴの品質を最重視する一方で,集荷基準を提示すると農家が出荷を中止する可能性があることから,集荷基準を提示せずに農家からリンゴを集荷している.この集荷・出荷間の矛盾を解消するために,集荷では仲買人を雇用して農家の選別をしたり,意図した品質のものを買付けできる産地市場を利用している.また,出荷では長期的な関係を築くことで取引先にリンゴの特質を理解してもらうなどの方策をとっていることが明らかになった.また,集出荷業者は農家から集荷する中で,運搬労働力や資材の提供をすることで有袋栽培を行う小規模農家群の経営を支え,4月以降の出荷を安定したものとしている.このように,集出荷業者が出荷・集荷間の矛盾を解決した結果として,現在の集出荷業者を介したリンゴ流通は成り立っている.
著者
穂積 謙吾
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.160-175, 2021 (Released:2021-05-15)
参考文献数
32
被引用文献数
2

本研究は,愛媛県宇和島市宇和島地区の養殖業者における出荷対応の実態を,ブランド品の生産ならびに中間流通業者との取引関係に注目して解明し,一連の対応を可能とする要因を考察した.ブランド品は事業収入の安定化を目的に,労働力規模が大きい一部の養殖業者により生産されていた.ただし,宇和島地区においてブランド品は副次的であり,大多数の養殖業者は負担が軽いノンブランド品に特化していた.安定的な価格よりも経営上の負担軽減を優先する出荷対応は,ノンブランド品の流通形態である市場流通を中間流通業者が重視しているため可能になっていると考えられる.ノンブランド品を生産する養殖業者は,取引を行う中間流通業者の数を選択し,取引により得られた情報を経営に活用していた.これらの対応は,出荷先の中間流通業者を問わず一律であるノンブランド品の出荷価格や,中間流通業者との相互依存性により可能になっていると考えられる.
著者
林 正久
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.26-46, 1991-01-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
48
被引用文献数
3 4

テフラ,鉄津を指標とした沖積層の分析や微地形分類,風土記など歴史的資料の検討によって出雲平野の地形発達を考察した.完新世の海面高頂期は6,000~5,000y. B.P. で現海面上3~4m,水道状の内湾が形成され,島根半島が切り離された.3,600y.B.P.頃から2,700y. B. P. にかけての時期に,小海退がみられ,海面は-2m以下にあった.3,600y. B. P. に噴出した三瓶山の火砕流が大量の砂礫を供給し,海退期の内湾を急速に埋積し,その結果,半島は再び陸続きとなり,内湾は東西2つの潟湖に分離した.その後,海面は現在とほぼ等しくなり潟湖の埋積が続く.『出雲国風土記』の記す時代は潟湖埋積の一時期にあたる.当時は斐伊川が西流していたため,西の潟湖の方が速く埋積された.近世以降は鉄穴流しによる大量の土砂が宍道湖を急速に埋積するとともに,古い三角州面も埋積した,出雲平野はその形成に海面変動のほか,火砕流と鉄穴流しが大きな影響を与えている点に特異性がある.
著者
梶田 真
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.87, no.2, pp.108-127, 2014-03-01 (Released:2019-07-12)
参考文献数
35
被引用文献数
2

本稿では,福島第2原子力発電所が立地する福島県富岡町を事例に,原子力発電所の経済効果の世代間の差異に焦点を当て,原子力発電所の建設・稼働による地域社会・経済の再編および経済効果の変化の受容について検討した.主に文献・統計資料を検討した分析の結果,経済面では原子力発電所関連産業を中心とした構成に再編され,社会面では①在来住民,②原子力発電所の建設以降に流入・定着した住民,③流動性の高い短期在住者,の三つのグループに再編され,地方圏一般とは異なり,②や③の人口が大きな構成比率を占めていることが明らかになった.また,原子力発電所依存経済の時期限定性の問題は,このようなかたちで再編された地域社会の下で出現し,②のグループ,特に原子力発電所建設期に青年層として流入し,人口規模のピークを構成している1951~1955年生とその周辺のコーホートに最も大きな影響を与えていることも示された.
著者
遠藤 匡俊 土井 宣夫
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.86, no.6, pp.505-521, 2013-11-01 (Released:2017-12-08)
参考文献数
77
被引用文献数
2

1822(文政5)年の有珠山噴火の火砕流・火砕サージにより南麓のアブタ集落が被災したが,死亡者数は明確ではなかった.本研究では,史料を用いて災害の発生過程および被災状況の詳細を復元することで,アイヌの死亡者数を確定し,アブタ集落のアイヌの居住者数と災害時の滞在者数を明らかにした.滞在者数に対する死亡率は非常に高く,火砕流・火砕サージに遭遇した際には生存の可能性が低いことを示した.一方,居住者数に対する死亡率は低かった.当時のアブタ集落は和人の社会経済活動に深く組み込まれた強制部落(強制コタン)として知られてきたが,10月から翌年3月ころにかけて行われていた季節的移動は主体的・自律的な行動であった可能性が高い.被災を免れたのは,多くのアイヌの人々が自らの食糧となるサケ(鮭)を漁獲するためにシリベツ川上流域へ季節的移動をしており不在であったことが一因という解釈を提示した.
著者
髙根 雄也 日下 博幸 髙木 美彩 岡田 牧 阿部 紫織 永井 徹 冨士 友紀乃 飯塚 悟
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.86, no.1, pp.14-37, 2013-01-01 (Released:2017-12-02)
参考文献数
52
被引用文献数
1

これまで調査されてこなかった岐阜県多治見市と愛知県春日井市の暑熱環境の実態を明らかにするため,2010年8月の晴天日に,両市の15地点に気温計を,2地点にアスマン通風乾湿計と黒球温度計をそれぞれ設置し,両市の気温と湿球黒球温度WBGTの実態を調査した.次に,領域気象モデルWRFを用いて気温とWBGTの予測実験を行い,これらの予測に対するWRFモデルの有用性を確認した.最後に,WRFモデルの物理モデルと水平解像度の選択に伴うWBGT予測結果の不確実性の大きさを相互比較するために,物理モデルと水平解像度の感度実験を行った.その結果,選択した物理モデルによって予測値が日中平均で最大8.4°C異なること,特に地表面モデルSLABは観測値の過大評価(6.8°C)をもたらすことが確認された.一方,水平解像度が3 km以下の場合,WBGTの予測値の解像度依存性は日中平均で最大0.5°Cと非常に小さいことが確認された.
著者
鎌倉 夏来
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.85, no.2, pp.138-156, 2012-03-01 (Released:2017-02-21)
参考文献数
34
被引用文献数
2 1

本稿の目的は,首都圏近郊の東海道線沿線における大規模工場用地の利用変化と存続工場における研究開発機能の新展開を分析することである.首都圏に古くから立地してきた大規模工場は,特に都心に近接している場合,その多くがすでに閉鎖し,オフィスビルやマンション,商業施設に変化していた.しかしながら,マザー工場として生産機能を維持することで,あるいはまた研究開発機能を強化することで,存続している拠点も存在している.特に2000年代以降の研究開発機能の変化としては,1)製造機能と研究開発機能との近接性を重視した研究開発機能の強化,2)顧客志向の研究開発拠点の増設,3)シナジー効果の創出を目的とした集約型研究開発拠点の新設といった点があげられる.
著者
長谷川 直子
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2017, 2017

<b><u>1. </u></b><b><u>はじめに/目的</u></b><b><u></u></b> 演者は総合学としての地理の視点を広く社会に広める一環として、大学で実施した1授業の成果を2016年3月に出版した(お茶の水女子大学ガイドブック編集委員会編2016).この雑誌の出版をきっかけとして様々なメディアに露出する機会があった。今後のアウトリーチ活動の参考とするために、これまでに対応したメディアとのやりとりや学生主体の社会発信について報告・総括したい。 &nbsp; <br> <u>2.</u><u> メディアからの問い合わせと対応</u>&nbsp;学生によるTwitterの書き込みを日本地理学会がRetweetした。タモリ倶楽部のプロデューサーが日本地理学会のツイートをフォローしており、地理女子の書き込みを見つけた。地理に女子という存在がいるという発見と、そのフォロー数が少ないことからまだメジャーでないと認識され(メジャーなものは取り上げない主義)、タモリ倶楽部の出演の依頼があった。 タモリ倶楽部の担当者からお茶の水女子大学広報宛に2016年2月2日に出演の依頼があった。その時点で収録日は2月20日と予定しているのことだった。学生の希望を募り、出演希望の学生と制作会社とで打ち合わせが約2週間かけて行われた。雑誌の発売後3月20日頃に文京経済新聞から取材の依頼があった。販売後の反響や作成側の思い等について、演者と学生2名が取材対応され、記事は約1週間後に掲載された。 4月1日にタモリ倶楽部が放送された。放送は神回と評され、そのツイッターをまとめたサイトtogetterは放送直後に60万ビュー、(2017年1月現在70万ビュー)を越えた。その反響の大きさから、aol.news やlivedoor.newsの記事になった。「地理女子という新たなジャンルの誕生」というtogetterのまとめサイトも作られた。 5月12日に大学広報経由で東京新聞記者から取材の依頼があった。東京新聞の最終面TOKYO発に掲載する記事で、地理女子の実態を知りたいとのことだった。記者さんからの依頼で学生5名が記者さんをまちあるき案内しながら、地理の魅力等の質問に答えるという形で取材が行われ、6月23日に記事が掲載された。 6月25日、雑誌版元経由で東京FMの放送作家から取材の依頼があった。内容は学生に朝の番組クロノスへ生出演し、地理の魅力について語ってほしいというものだった。学生2名が7月15日に生放送に出演した。 &nbsp;7月21日、大学広報経由でJ-waveの放送作家から取材の依頼があった。東京の今を切り取るtokyo dictionaryというコーナーで紹介するため、演者が電話録音での取材に答え、7月28日に放送された。 9月28日、日経MJの記者から取材の依頼があった。日経MJ最終面の「トレンド」というコーナーで、最近ブームになりつつある地理女の実態やその広がりを取材したいということだった。10月22日に行われるひらめき☆ときめきサイエンスで地理女子が女子中高生をまちあるき案内するというイベントが地理女子の活動の広がりにあたるということで取材をしたいということだった。そのためこのイベントに参加する中高生と同伴者全員に許可を取り(日本学術振興会のルールによる)、取材が行われた。日経MJの記事が好評だったことを理由に、日経新聞(全国版)11月26日に縮小記事が再掲された。 なお、文京経済新聞を除くラジオと新聞の取材はすべて、タモリ倶楽部の出演がきっかけとなっていた。 &nbsp; <br> <b><u>3</u></b><b><u>.まとめ</u></b><b></b> 雑誌を出版してもタモリ倶楽部の出演がなければその後のマスコミ取材はなかったと思われる。がタモリ倶楽部の視点が(番組の性質上)出演学生の一部にとっては違和感を感じるものであったことも事実である(真面目な「地理学」を語りたかったのにステレオタイプな「女子」の面が強調された)。そのようなことがかえって、一部の学生内に「女子」と言われることへの違和感やアレルギーを引き起こしていることも事実である。しかしこれをきっかけに、(自分が考える、社会が考える)「地理」や「女子」とはなんなのか、といった議論が学生内で起こり、それについて真剣に考えていることは、ある意味での教育にもなっていると考える。 関わった教員としては、「発信の結果起こったことを教員のせいにするのではなく、学生自身が考えて結論を出し、その結果起こったものは自らでその責任を負う」という自立性を学んでもらうところまでもって行く必要があると考えているが、その部分がまだできていないことが課題である。 &nbsp; (本研究はJSPS科研費(課題番号26560154)の成果の一部である。 &nbsp; <br> <b><u>参考文献:</u></b>お茶の水女子大学ガイドブック編集委員会編(2016)「地理&times;女子=新しいまちあるき」古今書院.128p
著者
荒堀 智彦
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2020年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.205, 2020 (Released:2020-03-30)

1. 研究の背景と目的 グローバル化が進む現代社会において,世界各地で発生している新興・再興感染症の問題は,公衆衛生上の新たなリスクとなっている.インフルエンザについては,2017年に世界保健機関(WHO)がインフルエンザリスクマネジメントに関する基本方針を発表した.その基本方針の一部には,社会包摂的アプローチの導入が提案されている(WHO, 2017).そこでは,世界レベル,国レベル,地方レベル,コミュニティレベルの各レベルで,経済,交通,エネルギー,福祉などの各分野が協同でリスクマネジメントに取り組むことが明記されている.感染症を撲滅するのではなく,いかにして予防・制御していくのかに重点が置かれ,日常的な備えとして,各レベルにおける効果的な情報配信とリスクコミュニケーション体制の整備が求められている. 世界各国では,感染症の状況把握と分析のために感染症サーベイランスを運用し,サーベイランス情報を地理情報システム(GIS)に組み込んだ,Webベースのデジタル疾病地図の整備が進められている.加えて,それらのツールを利用したリスクコミュニケーションへの応用も行われている(荒堀,2017). 日本では,厚生労働省と国立感染症研究所を中心とした感染症発生動向調査(NESID)が国の感染症サーベイランスシステムとして構築され,1週間毎の患者数や病原体検査結果が報告されている.しかし,NESIDで収集されるインフルエンザ情報は,報告する定点医療機関が5,000と限られており,全国における流行の傾向を知ることには適しているが,地方レベル以下のローカルスケールにおける詳細な流行状況を知ることには適していない.そこで本研究では,日本の各地域における感染症予防と制御に向けたWebベースの疾病地図の利用状況について,調査を行った.2. 感染症専門機関データの収集と構築 本研究では,日本全国の感染症専門機関および地方自治体のWebサイト調査を実施した.調査に先立ち,感染症専門機関および地方自治体のWebサイトのデータ収集を行い,専門機関のデータを構築した.対象となる専門機関および自治体数は82地方衛生研究所,552保健所,1,042医師会,1,977地方自治体である.3. 疾病地図の利用状況 Webサイト調査の結果,地方レベル以下の空間スケールにおける感染症情報を提供している機関・自治体は,332の専門機関および地方自治体のみであった.その内訳は,57地方衛生研究所,116保健所,108医師会,51地方自治体であった.サーベイランスの空間スケールは,一般に,専門機関や地方自治体の管轄に対応している.しかし,医師会は,郡および市の医師会レベル,市区町村レベル,公立学校区レベル,丁目および字レベル,学校施設レベル,病院および診療所レベルなど,さまざまなレベルで提供されていることが明らかとなった.疾病地図による可視化を行っている56の機関および地方自治体のうち,WebGISを使用しているのは3機関のみであり,htmlまたはPDFの画像形式によるものが中心であった. 東京都,愛知県,兵庫県,広島県など大都市を含む都道府県に位置する専門機関や地方自治体においては,保健所レベル以下のローカルスケールのデータを提供していることが明らかとなった.これらの地域に位置する自治体は中核市であることが多く,保健衛生に関する権限委譲に伴う機能の多様化が背景にあると推察される.4. まとめ 調査の結果,日本のローカルスケールにおける疾病地図・WebGISの活用事例は少ないことが明らかとなった.現状では,地図をリスクコミュニケーションに活用するというよりは,情報をWeb上に一方的に流している状態であるといえる.加えて,使用されている疾病地図は,地域特性を反映しているものが少ない.リスクコミュニケーションには,専門家と非専門家(地域住民)との対話が欠かせない要素になる.そのため,リスクコミュニケーションツールとしての対話型地図に関する議論が必要になると考えられる.