著者
遠城 明雄
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2018年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.000098, 2018 (Released:2018-06-27)

祭礼は、一般的に日常性とは異なる時空間を創出し、独自の身体技法の実践による共同性の感覚や地域の記憶・歴史の意識の再生産、さらに見る/見られるという関係性の構築などを通じて、ある地域集団とその外部をつなぐと同時にその差異を際立たせることによって、個人あるいは集合体を活性化させる役割を果たす一種の文化装置という側面を有する。1960年代以降、祭礼を支える社会的紐帯が弱体化する一方で、祭礼は都市と農村を問わず、地域の観光資源となり、さらには「文化遺産」へと「格上げ」されていくことで、祭礼を支え、またそれを媒介として培われるローカルな社会関係や地域意識に変化が生じてきた。本報告では、博多祇園山笠(福岡市)を事例に、そうした変化の一端を考えてみたい。
著者
熊原 康博
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.15-34, 2010 (Released:2010-08-23)
参考文献数
53
被引用文献数
1

本研究では,江戸時代の五街道の一つである中山道の関東平野の範囲を対象に,平野地域における歴史的な街道の地形条件の特徴を明らかにした.研究の方法は,街道のルートを正確にマッピングし,第二次世界大戦直後の空中写真の実体視により街道沿いの地形を分類した.本研究で明らかになったことは,平野全体でみた場合,そのルートは比較的直線であり,台地をできるだけ通過し,山地や丘陵,沖積低地を避ける傾向があることである.また,地形分類でみた場合,以下の特徴が挙げられる.台地では開析谷を避け,面の分水界に沿う傾向があること,扇状地性の台地では等高線に平行する弧を描くルートをとること,沖積低地では自然堤防を伝い,旧河道や後背湿地,河川を可能な限り通過しないことである.これらの特徴からは,高低差を少なくする通行の容易性と,水害を避けるという安全性の両面に配慮していることが指摘できる.ただし,いくつかの地点では,安全性よりも容易性を優先したルートも認められる.

8 0 0 0 OA 文献等

出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.73, no.4, pp.327-330,391_7, 2000-04-01 (Released:2008-12-25)
著者
荒木 一視
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2014, 2014

&nbsp;戦前の日本の米が国内で自給されていたわけではない。少なからぬ量の米が植民地であった台湾や朝鮮半島から供給され,国内の需要を賄ってきた。その一方で,少なからぬ穀物(米,小麦,粟など)がこれらの地域に輸移入されていた。本発表では朝鮮半島の主要港湾のデータに基づき,これらの主要食用の輸移出入の動向を把握する。これを通じて,戦前期の日本(内地)の食料(米)需要を支えた植民地からの移入米を巡る動向と,1939~1940年にそのような仕組みが破綻したことの背景を明らかにしたい。 <br>&nbsp;第一次大戦と1918年の米騒動を期に,日本は東南アジアに対する米依存を減らし,それにかわって朝鮮半島と台湾に対する依存を高める。円ブロック内での安定的な米自給体系を確立しようとするもので,1920年代から30年代にかけて,朝鮮半島と台湾からの安定した米の供給が実現していた。しかし,1939年の朝鮮半島の干ばつを期にこの食料供給体系は破綻し,再び東南アジアへの依存を高め,戦争に突入していく。以下では朝鮮半島の干ばつまでの時期を取り上げ,朝鮮半島の主要港の食料貿易の状況を把握する。 この時期の貿易総額は1914(大正3)年の97.6百万円から1924(大正13)年には639百万円,1934(昭和9)年には985百万円,1939年(昭和14)年には2,395百万円と大きく拡大する。貿易額の最も多いのが釜山港で期間を通じて全体の15~20%を占める。これに次ぐのが仁川港で,新南浦や群山港,新義州港がそれに続く。また,清津,雄基,羅津の北鮮三港も一定の貿易額を持っている。 <br>&nbsp;釜山:最大の貿易港であるが,1939年の動向の貿易総額734百万円のうち外国貿易額は35百万円,内国貿易が697百万円となり,内地との貿易が中心である。釜山港の移出額260万円のうち米及び籾が46百万円,水産物が14百万円を占め,食料貿易の多くの部分を占める。なお,1926年では輸移出額計124万円のうち玄米と精米で50百万円と,時代をさかのぼると米の比率は大きくなる。1939年の釜山港の移入額では,菓子(4百万円)や生果(8百万円)が大きく,米及び籾と裸麦がそれぞれ3百万円程度となる。1926年(輸移入額104百万円)においても輸移入される食料のうち最大のものは米(主に台湾米)で,5百万円程度にのぼる。これに次ぐのが小麦粉の2百万円,菓子の百万円などである。 <br>仁川:釜山港同様に1939年の総額367百万円のうち外国貿易は67百万円と内地との貿易が主となる。1920年代から1930年代にかけて,米が移出の中心で,1925年の輸移出額64百万円のうち,玄米と精米で47百万円を占め,1933年では同様に43百万円中の28百万円,1939年では106百万円のうち32百万円を占める。なお仕向け先は東京,大阪,名古屋,神戸が中心である。輸移入食料では米及び籾,小麦粉が中心となる。 <br>鎮南浦:平壌の外港となる同港も総額213百万円(1939)のうち,外国貿易は29百万円にとどまる。同年の移出額89百万円のうち玄米と精米で15百万円を占め,主に吉浦(呉)や東京,大阪に仕向けられる。移入では内地からの菓子や小麦,台湾からの切干藷が認められる。 <br>新義州:総額135百万円のうち外国貿易が120百万円を占め,朝鮮半島では外国貿易に特化した港湾である。1926年の主要輸出品は久留米産の綿糸,新義州周辺でとれた木材,朝鮮半島各地からの魚類などで,1939年には金属等,薬剤等,木材が中心となる。いずれも対岸の安東や営口,撫順,大連などに仕向けられる。輸入品は粟が中心で,1926年の輸入総額52百万円中17百万円,1930年には35百万円中,15百万円,1939年には46百万円中12百万円を占める。移出は他と比べて大きくはないが,米及び籾を東京や大阪に仕向けている。 <br>清津:日本海経由で満州と連結する北鮮三港のひとつで,1939年の総額158百万円中35百万円が外国貿易である。1932年の主要移出品は大豆で,移出額7百万円中3百万円を占める。ほかに魚肥や魚油がある。移入品では工業製品のほか小麦粉,米及び籾,輸入品では大豆と粟が中心である。&nbsp;
著者
小林 茂
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.52-66, 2006 (Released:2010-06-02)
参考文献数
63
被引用文献数
1 4

第二次世界大戦終結まで,日本がアジア太平洋地域で作製した地図を「外邦図」と呼んでいる.外邦図の多くは,旧日本軍が作製し,その性格からこれまで利用が限られてきたが,近年は景観・環境の長期的変化を考える上で重要な資料と考えられるようになってきた.ただしその利用にあたっては,東アジアの近代史を意識しつつ,作製過程や仕様,精度などを解明する作業が不可欠である.そこで本稿では,ここ数年間関係者の協力を得て研究を進めてきた成果を紹介する.外邦図の多様性に始まり,外国での秘密測量,台湾や朝鮮など旧植民地での地籍測量に伴う地形図作製,外国製図の複製や空中写真測量の発展など外邦図に関連する主要なトピックついて触れ,あわせて東アジア地域への技術移転にも言及する.
著者
青木 賢人 林 紀代美
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.82, no.3, pp.243-257, 2009-05-01 (Released:2011-08-25)
参考文献数
27
被引用文献数
2 4

2007年3月25日に発生した能登半島地震の被災住民である石川県輪島市と志賀町の中学生およびその保護者に対して,地震発生時の意識と行動に関するアンケート調査を行った.あわせて,地震発生以前の災害に対する知識,認識や経験,すなわち防災に対するレディネスを調査し,これと被災時の意識・行動との関係を,被災前後の比較が効果的に行える津波に焦点を当てて分析した.その結果,避難訓練や防災情報などから学んだ内容がとっさの行動として表出したり,直接・間接の被災経験が津波からの適切な避難行動に結びついたりするなど,被災以前のレディネスが適切な被災時の意識・行動の励起を強く規定していることが確認された.その一方,災害に対する警戒感が低かった能登では住民のレディネスは十分ではなかったため,住民の多くが適切な想起や行動が行えなかった課題も浮き彫りとなった.これらを踏まえ,今後の地域防災力強化のためには,学校教育,社会教育などのチャンネルを通じた防災教育の充実と,地域環境に応じた防災へのレディネスの構築が必要であることを指摘した.
著者
鈴木 美佳
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.94, no.3, pp.152-169, 2021-05-01 (Released:2023-02-19)
参考文献数
16
被引用文献数
3

本稿では自転車の共同利用システムであるシェアサイクルについて,利用目的ごとの傾向と,現状における運営上の課題を明らかにすることを目的とする.三つの都市での事例から得た利用データの分析により,通勤・通学目的での利用が多い場合は駅を発着地とする移動が多く,観光目的での利用が多い場合は地域の観光拠点を結ぶ移動が多いことが判明した.一方,主な利用目的にかかわらず,駅周辺ポートの利用数が全体に占める割合は高くなっていた.各事例の運営主体への聞取り調査からは,先行研究で指摘されている通り自転車数やポート配置の調整によって利用率は高まるものの,利用料金が廉価なためシェアサイクル事業独立で採算をとることは難しいという現状が明らかになった.持続可能性を高めるためには,既存交通を結びつける移動手段として位置づけ,行政からの支援制度を整えること,自転車専用道の整備など他の交通施策も同時に行うことがのぞまれる.
著者
小島 泰雄
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2018年度日本地理学会秋季学術大会
巻号頁・発行日
pp.86, 2018 (Released:2018-12-01)

1.中国の辛い地域 四川料理が辛いことを説明するのは、夏が暑いことを論じるようなある種の徒労を感じる作業である。「麻辣」が正しい辛さの表現である、四川料理にも辛くない料理がある、湖南人の方が「怕不辣」であるといったことも、耳を傾けるべき指摘であるが、ここでは中国のどこが辛い料理を好むのかについてなされた興味深い報告を紹介したい。藍勇(2001)は、シリーズとして刊行された中国12省市の料理書の調味記載を定量的に分析(「辣度」)し、辛さの地域分化を提示している(下表)。この表は、中国食文化の多様な地域的展開において、一つの特色ある地域文化として四川料理を捉えるべきことを示唆している。2.とうがらしの伝播 辛い四川料理はそれほど長い歴史をもつものではない。その辛さにはとうがらしが主たる貢献をなしていることから、新大陸原産のそれが四川に到達して以降であることは容易に思い至るだろう。 この方面の研究も近年、詳細さを深めている。丁暁蕾・胡乂尹(2015)は、明清期の地方誌に記載されたとうがらし関連の記載を全国にわたって丹念にたどり、とうがらしの中国国内での伝播を復原している。初期のとうがらしの呼称である「番椒」は、明朝末期から18世紀までは主に東南沿海地区と黄河中下流という離れた2つの地域で確認され、19世紀前半に東南沿海から北上および内陸に展開している。四川の方志にとうがらしの記載が見られるのは、19世紀になってからとする。方志が数十年間隔で編纂されたことを加味するならば、四川でのとうがらしの普及が18世紀に遡る可能性はあるが、それにしても清朝中期のことである。 新大陸原産の作物が、現代中国の農業と食において欠くべからざる存在となっていることは、とうもろこしやさつまいも、じゃがいもといった主食となる作物、あるいはトマト、なす、かぼちゃといった野菜の名を挙げるだけで十分に理解されよう。これらの入っていない中国料理はなんとみすぼらしいことだろうか。こうした新大陸原産作物の伝播は、時間と空間において決して単純なものではなく、繰り返し様々なルートでもたらされたものとされる(李昕昇・王思明2016)。3.自然地理と歴史地理 熱帯で栽培される胡椒と異なり、とうがらしは温帯でも栽培できる香辛料であり、新大陸から運び出された種子は持ち込まれた世界各地に定着していった。食文化の地域性は、その素材となる動植物の分布・農牧業を媒介項として、気候や地形といった自然地理と結びつけられて解釈されることが一般的である。中国は季節風により夏季温暖多雨であり、とうがらしは農耕地域であればほとんどの地域で栽培しうる。したがって中国における辛さを好む地域性は異なる理路で説明されることが求められることとなる。 とうがらしは、寒冷や湿潤に伴う身体的反応と結びつけられてきたが、類似の気候条件で辛さを好まない地域を容易に提示できることから明らかなように、環境決定論的な単純な推論は説得力を持ち得ない。そこで考慮すべきなのが、社会経済的な、あるいは文化的な、言い換えれば歴史地理的な推論である。 現在、中国では各地で四川料理が食べられているが、共通するのがその庶民性である。とうがらしの入った料理は素材の善し悪しをそれほど問わない。とうがらしが定着していった清朝中期、四川はまさにフロンティアであった。多くの移民を受け入れ、人口過剰な情況になった四川には普遍的な貧しさがあり、「開胃」(食欲増進)に顕著な効果のある(山本紀夫2016)とうがらしは、地域住民に歓迎されたと考えられる。 ただし前近代の農村の不安定性は、四川に特権的な貧しさを認めないであろう。そこで食文化の連続性が浮かび上がる。中国在来の香辛料である花椒が陝西から四川にかけて多く使われていたとする指摘は、さらに深く考究してゆくに値するであろう。 モンスーンアジアに視野を拡げると、胡椒産地であるインドが熱烈なとうがらし受容地域であるのに対して、食文化に関して多様な地域性をもつ中国がとうがらしの受容において選択的であることは、まさに食文化の連続性を物語る対照性と言えるのではないであろうか。
著者
久島 桃代
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.92, no.4, pp.224-240, 2019 (Released:2022-09-28)
参考文献数
29
被引用文献数
7

本稿では,女性に再生産役割を期待しがちな農山村において女性移住者たちが抱えている戸惑いと,地域に関わりたい,村で暮らし続けたいという意思や実践が生み出されていく過程を考察した.本稿が対象とする福島県昭和村では,「からむし」と呼ばれる植物を素材とする織物作りが行われ,「織姫」と呼ばれる女性移住者たちが技術を学んでいる.「織姫には嫁として村に残って欲しい」という村民たちの期待は小さくなく,それが独身の織姫の疎外感に結び付くことがある.また,経済的に不安定であることが,彼女たちの「刹那的な場所感覚」を形成していた.しかし織姫は,栽培農家とからむしを育てることを通じて,そこに埋め込まれた地域の記憶や,栽培農家に対する理解を深めていった.村の文化を次世代に伝えたい,村で暮らし続けたいという織姫の生き方は,性別役割とは別の形で地域に関わるものであり,彼女たちが去った後も村に影響を及ぼしている.
著者
渡辺 理絵
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.83, no.3, pp.248-269, 2010-05-01 (Released:2012-01-31)
参考文献数
56
被引用文献数
1 1

本稿は,近世の農村社会における天然痘の伝播過程について,村落間・村落内・世帯内の三つの空間スケールを設定し,伝播が起きる人々の社会的なつながりや行動様式,習俗などを加味して考察した.1795~1796年,出羽国中津川郷で起きた天然痘流行は罹患者の大半が10歳以下の子どもであった.子どものモビリティの低さから,周囲の村へ急速に天然痘が伝播することはなく,最近隣村への伝播に1ヵ月を要するほど,村落間における伝播速度は緩慢であった.また積雪などの気象条件や農閑期の副業労働は,子どものモビリティに影響を及ぼす伝播の障壁効果となり,農閑期,降雪期の村落間の伝播は一層緩慢であった.村落内の伝播は,子どもの異年齢集団による行動様式を反映し,集団感染に近い特徴を有している.同世帯における兄弟間の発症率も高い.患児を隔離するような天然痘対策を採らなかった当該地域において,収束までに流行開始前における未罹患者の8割以上が罹患し,次の流行を迎えることとなった.
著者
宮澤 仁
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.4, no.2, pp.69-85, 2010 (Released:2010-04-06)
参考文献数
26
被引用文献数
4 3

本研究では,介護保険の開始以降,民間事業者により急増をみてきた有料老人ホームの立地特性を全国と都市圏の二つのスケールで分析し,供給の拡大要因について地理学的観点から考察した.その結果,近年,有料老人ホームは大都市を中心に供給され,特に東京大都市圏には全国定員の約4割が集中していることが明らかになった.そこで,東京大都市圏を事例地域に分析したところ,有料老人ホームは既成市街地に立地する傾向とともに,供給量と入居費用には大きな地域差が確認された.また,供給量とニーズの関係は弱く,むしろニーズの大きな地域で入居費用が高いことや,企業のリストラにより閉鎖された社員寮等を転用した施設が多数みられ,その多寡が地域的な供給量を左右したことが明らかになった.以上の結果から,(1)有料老人ホームの供給は,不動産流動の活性化といった経済動向の影響を受けやすいこと,(2)有料老人ホームは,近年の急増によりはからずも行き場のない高齢者の受け皿となっているが,入居費用には大きな地域差がある,といった問題点が指摘される.特に後者の問題に関しては,生活困窮高齢者の周縁化を社会的-地理的に強化しかねないことが危惧される.
著者
有馬 貴之
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.93-111, 2022 (Released:2022-05-12)
参考文献数
207

本稿は,東京2020後のオリンピック・パラリンピックと観光に関する研究視点を導出するために,日本国内において行われてきた研究の整理を行ったものである.その結果,日本においては主に「観光政策」「観光施策・計画」「都市アメニティ・インフラ整備」「ビジネス・制度・開発主義」「国民意識」「観光の多様化」「経済効果」「観光教育」の八つのトピックにおいて研究がなされてきたといえる.英語圏の研究と比較すると,日本の研究では「観光教育」に関するおもてなしなどの日本独特のホスピタリティ教育に関する言及が特徴的である一方で,オリンピック・パラリンピックと観光の視点を踏まえた観光マーケティングに関する議論は少なく,これらの点において国際的な議論への貢献が必要である.
著者
篠原 弘樹 坂本 優紀
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.253-266, 2020 (Released:2020-10-09)
参考文献数
14
被引用文献数
1 1

本稿は,メキシコ合衆国テキーラにおける観光地の形成プロセスを観光に関わるアクターの取組みと景観整備に着目しながら明らかにした.1990年代後半にツアー会社主導で始まったテキーラの観光は,2000年代に入り行政の観光促進プログラム導入や世界遺産登録,テレビドラマの舞台化などの外的要因を受け観光地としての整備がなされていった.観光地化のプロセスではツアー会社やガイド,蒸留所など観光に関わるアクターが登場し,積極的に観光を促進した.当初,各アクターはテキーラのローカル性を強調する事物や事象を積極的に採用していったが,観光が発展するに従いメキシコを象徴するような対象も利用するようになった.現在は大手蒸留所が大規模な観光施設を建設し,観光客を誘引する主要なアクターとなっている.
著者
森川 洋
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.84, no.5, pp.421-441, 2011-09-01 (Released:2015-10-15)
参考文献数
46
被引用文献数
4 2

「平成の大合併」を通勤圏(日常生活圏)や国土集落システムとの関係から考察した結果,「昭和の大合併」では中心地システムへ適合するかたちの合併が多かったが,高度経済成長期を経て大きく変化した国土の中で実施された「平成の大合併」では,国土集落システムへの適合が基本的条件となった.過疎地域が広い面積を占める地方圏では小規模町村の多くが合併したが,市町の規模が大きく財政的にも豊かな大都市圏内の市町村では合併は比較的少ないままにとどまったので,住民生活における地域格差をむしろ拡大することとなった.通勤圏の未発達な山間僻地や離島には未合併町村が多く残されているが,通勤圏や日常生活圏を全く無視した市町村合併は少ない.
著者
田中 耕市
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.74, no.5, pp.264-286, 2001-05-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
31
被引用文献数
1 4

本研究は,福島県いわき市を対象地域として,個人属性で秀類した住民グループからみた生活関連施設に関する利便性をGISによって測定した.そして,グループ間における生活利便性の差異,および都市中心部と周辺部の生活利便性の格差を定量的に明らかにした.生活利便性を測定する際には,客観的なアクセシビリティ評価に加えて,住民からの主観的な評価を考慮に入れた生活利便性評価モデルを構築した.その結果,以下の点が明らかになった. 多数の生活関連施設が都市中心部に分布しているため,都市中心部ではすべてのグループからみた生活利便性が最良であり,グループ間における利便性の差異も小さかった.また,都市中心部から遠ざかるにっれて,生活利便性は徐々に悪くなる傾向にあった.都市中心部からの距離の増加に伴って生活利便性が悪化する割合は,各グループによって大きな差異がみられた.自家用車の所持率が高い就業者や男性高齢者では,生活利便性が悪化する割合は比較的小さかった.その一方で,自家用車の所持率が低い学生や女性高齢者は,都市中心部から遠ざかるにっれて生活利便性の悪化する割合が大きく,都市中心部と周辺部における生活利便性の格差が著しかった.
著者
佐賀 達矢 野中 健一 ファン イッテルベーク ヨースト
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.350-362, 2022 (Released:2022-10-25)
参考文献数
18

伝統的な昆虫食文化を理解することは環境と人間の関係を含めた生物資源利用の本質的な理解につながると考え,高校生を対象に昆虫食の試食を伴う講義を行った.ここで得られたアンケート・感想から高校生の昆虫食の経験やとらえ方,講義の効果を分析した.昆虫食が食料問題の解決策になるという国連食糧農業機構(FAO)の提言を知っている生徒は多かった一方で,昆虫食文化がある地域の人々は食料不足だから昆虫を食べるという誤った見方も見られた.講義後には,多くの生徒が昆虫食を肯定的にとらえ,社会文化的な視点を身につけられた.予想に反し,現在も伝統的な昆虫食文化が残る岐阜県東濃地域の高校生の方がそうでない地域の高校生よりも昆虫食に対して抵抗感をもっていた.講義後には,日々の食生活を充実させるために昆虫食文化があることに気付いたという感想が多く,生徒に単なる異文化の理解だけでなく,自他の文化を尊重する態度をもたらすことができた.
著者
矢部 直人
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.85, no.4, pp.301-323, 2012-07-01 (Released:2017-11-03)
参考文献数
27
被引用文献数
6 3

本研究は,裏原宿における小売店集積が形成された要因を検討した上で,集積内部の小売店におけるアパレル生産体制の特徴を明らかにすることを目的とする.裏原宿に小売店の集積が形成された要因は,店舗の供給側から見ると,1980年代後半のバブル経済期に,不動産開発が住宅地の内部まで進んだことが大きい.一方,店舗に出店するテナント側では,友人の紹介など人脈に頼った出店が小売店集積のきっかけとなっていた.小売店のアパレル生産体制の特徴は二つあった.一つは,消費者の情報を商品企画に生かす姿勢が強まったことであった.もう一つは,小売店が企画機能のウェートを高め,生産を海外に依存するようになったことである.小売店が生産機能を海外に外注するにあたっては,原宿の近隣に立地する商社が果たす,海外企業との仲介機能の役割が大きいことが明らかになった.
著者
成瀬 厚
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.280-293, 2017 (Released:2017-12-16)
参考文献数
8
被引用文献数
1

大学非常勤講師の処遇に関する議論は1990年代以降なされており,2007年前後に盛り上がりをみせていたが,大きな改善がみられないまま現在に至っている.2013年には労働契約法が改正され,非正規の有期労働契約を無期契約へと転換する道が開かれたが,逆にそのことが「雇い止め」という事態を拡大させる契機となっている.本稿で筆者は,そうした議論を整理し,大学で地理学関連科目を担当する本学会員の大学非常勤講師にアンケート調査を行った.回答者15人の属性として,講師歴15年以上および年齢46歳以上が回答者の半数以上を占めた.かれらの収入は週1コマ当たり月額で30,000円以下がほとんどで,かれらは4校程度を掛け持ちしている.大学の非常勤講師で生計を立てている専業非常勤講師は,平均週8コマを担当しているという状況が確認された.