著者
石坂 愛
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.299-315, 2016-09-30 (Released:2016-10-11)
参考文献数
17
被引用文献数
1

本研究では,都市化と宗教弾圧の歴史の中で発展した新宗教の聖地における教団と地域住民間の土地をめぐる葛藤の実態とその要因を明らかにすることを目的とする.研究方法として,奈良県天理市において進められる天理教教会本部の宗教都市構想の基盤となる八町四方構想に着目し,その計画地をめぐる地域住民と教団の交渉過程と,構想に対する地域住民の意識を追った.その結果,調査対象者の地域住民のうち約90%が天理教信者であるにも関わらず,約45%がこの構想に葛藤を抱いていることがわかった.その要因として,①教団の持つ宗教的イデオロギーと自身の考える教理の不一致があることがわかった.その他の要因として,②地域住民内部での八町四方構想に関する知識共有の薄弱化③教団と土地所有者のみで取り行われる土地・建物の譲渡交渉が考えられる.
著者
尾方 隆幸
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.338-346, 2018 (Released:2018-05-31)
参考文献数
11
被引用文献数
1
著者
福井 一喜
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.1-13, 2019 (Released:2019-01-29)
参考文献数
19
被引用文献数
4

東京大都市圏に居住する若者の観光・レジャーにおけるSNS利用を,目的地による情報環境の差異と,SNS上での影響力の個人差に着目して分析した.観光・レジャーにおいてSNSを積極利用するのは,SNS上での影響力が大きい者であり,彼ら彼女らは情報探索時に自治体や観光協会のSNSアカウントよりも,企業のほか友人や知人などのSNSアカウントを参考にしている.それは彼ら彼女らが,SNS上で他者から凡庸と判断される情報の探索や発信を慎重に忌避したり,自身の観光・レジャー体験をより上質なものにしたりするために,目的地の情報の量や流通速度の差を認識しながら,SNSで拡充した個人的な社会関係を活用したためである.こうしたSNS利用は,若者たちが置かれる他者評価を重視せざるを得ない相互監視的な情報環境の中で,戦略的にICTを活用し観光・レジャーを効果的に実施しようとした結果だと解釈できる.
著者
内田 順文
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.62, no.7, pp.495-512, 1989-07-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
28
被引用文献数
2 9

わが国の著名な避暑地・別荘地である軽井沢を事例として取り上げ,場所イメージの成立とその変化の過程を具体的に示すことによって,どのように「高級別荘地・避暑地」としての軽井沢のイメージが定着し,より多くの人々の問に浸透していったかを明らかにする.方法として,まず軽井沢を扱った文学作品や新聞・雑誌の記事などをもとに,過去の人々が抱いていた軽井沢のイメージを復元し,それを軽井沢の開発史と重ね合わせながら,軽井沢のイメージ,とくに「高級避暑地・別荘地」としてのイメージが歴史的にどのように形成され,定着していったかを記述した.次にそのイメージの定着の結果として引き起こされた地名の改変とくに「軽井沢」の名を冠した地名の分布の拡大という現象を解釈した.これらの結果は,ある一定の社会集団のレベルで,ある種の場所イメージが定着することを記号関係の形成(場所イメージの記号化)として捉えることにより,よりよく理解することができる.
著者
原田 悠紀 青木 久
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2018年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.000213, 2018 (Released:2018-06-27)

1.はじめに 海水飛沫帯の岩石表面に形成される微地形に,タフォニやハニカム構造(以下,単にハニカムとする)がある.両者は塩類風化によって岩石表面の強度が低下した結果形成される窪みであるが,一般に,ハニカムはタフォニよりも窪みが浅く,蜂の巣状の平面形態を示す地形である.ハニカムはタフォニの生成初期の地形であると指摘する研究が存在するものの,両者の関係性を実証的かつ定量的に考察された研究はない.本研究では,海岸域に建設された砂岩塊からなる石垣表面にタフォニとハニカムがみられることに着目し,それらの分布,窪み深さ,および岩石強度を調べ,タフォニとハニカムの形成条件を明らかにすることを目的とする.さらにそれらの結果からタフォニとハニカムの関係性について考察する. 2.調査地域 千葉県銚子市海鹿島海岸は砂浜や波食棚が発達している.その波打ち際には全長約100 m,高さ約2.5 mの昭和初期に建てられた石垣が存在する.石垣は砂岩塊で積み上げられた最大7段の積み石からなっている.砂岩塊の大きさは,幅約40 ㎝,高さ約30 ㎝である. 3.調査方法 まず観察により,砂岩塊表面に見られる微地形について,窪みの有無,風化物質の有無,平面形態に基づき地形分類を行った.タフォニとハニカムのように窪んでいる地形については窪み深さを計測した.次にエコーチップやシュミットハンマーを用いて砂岩塊表面の強度計測を行った. 4.調査結果と考察砂浜背後の砂岩塊には,多くのハニカムが形成されており,波食棚背後の砂岩塊にはタフォニが卓越していた.潮間帯の砂岩塊は風化物質が付着しておらず,ほとんど窪んでいなかった.タフォニとハニカムの窪み深さを比較してみると,タフォニの方がハニカムよりも大きかった.風化していない砂岩塊(以下,未風化砂岩),タフォニ,ハニカムの岩石強度を比べてみると,岩石強度は,タフォニ<ハニカム≦未風化砂岩であった.この結果から,タフォニはハニカムに比べて,塩類風化によって強度が大きく低下した砂岩塊に形成される地形であり,ハニカムとタフォニの形成の差異は,砂岩塊表面の風化による強度低下量の違いに関係することがわかった.同一の砂岩塊においてハニカムとタフォニが共存していたり,ハニカムの側壁に穴が空いていたりする地形が観察された.以上のことから,塩類風化によってわずかに強度低下した砂岩塊に形成されたハニカムは,風化の進行に伴い,窪みがより深くなり,側壁が破壊されることによってタフォニに変化していくと推察される.付記 本研究は科研費(17K18524)の助成を受けて実施された成果の一部である.
著者
桐村 喬
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2017年度日本地理学会秋季学術大会
巻号頁・発行日
pp.100020, 2017 (Released:2017-10-26)

I 研究の背景・目的  日本においては,地名に由来する名字が8割を占めるとされている(丹羽, 2002).そのため,名字の分布は,由来となる地名の存在する地域と一定の関連性を備えたものになると考えられ,どの名字がどの地域に多いのかが電話帳や名簿データなどに基づき詳細に調査されてきた(矢野, 2007など)。一方,名字からは,様々な地理的情報を得ることができる.例えばMateos(2014)は,名字に基づき,主にロンドンにおける言語や民族別の人口分布を明らかにしている.どの名字がどの地域で多いのかという従来的な視点からではなく,出身地あるいは祖先が居住していた地域(以下,これらを「出身地等」と呼ぶ)を知るための手がかりとして名字を捉えることで,有用な知見を新たに得ることができるものと考えられる.  そこで本研究では,地域ごとに特有の名字を求めるために名字の分類を行った上で,名字の類型別の構成比に基づいて地域を分類し,名字を通して観察できる出身地等別の人口構成に基づく地域間の結び付きを明らかにすることを試みる.出身地や出生地別の全国的な居住人口統計は,1950年の国勢調査結果以降作成されておらず,本研究で得られる知見は,一定の重要性を持つものと考えられる.II 名字の類型化  名字に関するデータとして,東京大学空間情報科学研究センターとの共同研究により提供された2014年版の「テレポイント Pack!」(以下,電話帳データと呼ぶ)を用いる.電話帳データからは,2013年末時点の電話帳に掲載されている1,600万件の個人の名字を把握できる.分析対象とするのは,全国で100件以上のデータを持つ,9,985種類の名字である.  名字の類型化のために,2013年末時点の市区町村単位でそれぞれの名字の件数を集計し,名字ごとに市区町村別の構成比を求める.この構成比を,SOM(自己組織化マップ)とWard法を用いて類型化し,名字に関する33類型を作成した(以下,名字類型と呼ぶ).名字類型は,主に分布する地域が類似している名字のまとまりである.例えば,名字類型のS33は沖縄県に分布が集中する名字の類型であり,S10は,関東地方が分布の中心であるものの全国で1万件以上のデータを持つ名字の40.8%が含まれるなど,分布範囲の集中傾向が弱い名字の類型である.  地域ごとに名字類型別の名字件数の構成を求めることで,各類型の名字が主に分布する地域を出身地等とする人口の構成を推定できる.この推定の妥当性を検証するために,各類型の名字が主に分布する地域を都道府県単位で特定し,これらの都道府県を出生地とする1950年時点の人口を都道府県別に求めて出生地別人口比率を算出し,都道府県別の名字類型の構成比と比較した.これらの間には有意な一定の相関関係があることから,名字類型を通して,出身地等別の人口構成をある程度把握できると考えられる.III 名字類型別の構成比に基づく地域分類  市区町村単位で名字類型別の構成比を求め,SOMおよびWard法を用いて類型化し,市区町村を分類する12類型(以下,地域類型と呼ぶ)を得た(図).大部分の地域類型は,複数の都道府県にまたがっており,北海道を除けば飛び地の少ない分布となっている.近畿および四国はおおむね同じ地域類型R08に含まれる一方で,東北および関東はそれぞれ3類型(東北:R01・R02・R04,関東:R02・R03・R06)に,九州は2類型(R10・R12)に分かれており,必ずしも地方単位の分類にはなっていない.沖縄については単独の地域類型R09を構成している.北海道は,道南を中心とする地域が北東北と同じ地域類型R04に含まれる一方,札幌市を含めた残る地域の大部分が北陸と同じ地域類型R05に含まれており,明治以来の開拓に伴う人口移動の結果が地域類型の分布に現れている.  一方で,東京や大阪などの大都市圏では,12の地域類型としては,それ以外の地域からの大規模な人口移動の結果と考えられるような分布パターンを十分に認めることができなかった.名字類型の段階で,すでに2013年時点の名字の分布が反映されているためと考えられる.ただし,栃木・茨城県と福島県がR02に,群馬・埼玉県と山梨・長野県がR03にそれぞれ属するなど,大都市圏の一部とその後背地とも考えられる地域のまとまりが抽出されており,人口移動に基づく地域間の結び付きの一端を示している可能性が示唆される.
著者
埴淵 知哉 村中 亮夫 安藤 雅登
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.81-98, 2015-01-01 (Released:2015-10-08)
参考文献数
35
被引用文献数
7 14

社会調査環境の変化を受けて,廉価で迅速にデータを収集できるインターネット調査に注目が集まっている.本論文では,標本の代表性と測定の精度という二つの側面からインターネット調査の課題を整理するとともに,実際に行われた調査データを用いて,回答行動,回答内容,そして地理的特性について分析した.その結果,インターネット調査における標本の偏りや,「不良回答」が回答時間と関連していることを確認し,地理的特性がそれらと一定の関連をもつことを指摘した.さらに,地理学における今後のインターネット調査利用の課題と将来の利用可能性について考察した.
著者
須山 聡
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.66, no.10, pp.597-618, 1993-10-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
23
被引用文献数
2 2

本稿は,職人の地域的移動パターンの側面から輪島漆器の生産地域の拡大を考察することを目的とする.漆器関連事業所の分布は, 1960年代における輪島漆器業の発展に伴い拡大した.また1960年代には輪島漆器業の技能継承システムである徒弟制が変質し,漆器業とは無関係な出自をもつ労働力が広範囲から参入した.職人の移動をライフパスとして分析した結果,(1)家業継承者を主体とした,中心地域において滞留するパターン,(2)周辺・外縁地域出身で,中心地域で修業し,独立後周辺地域に移動するパターン,(3)中心地域出身で,独立後周辺地域に移動するパターン,が抽出された,輪島漆器の生産地域の拡大は,徒弟制の変質によって増加した漆器業とは無関係な出自をもつ,(2)および(3)のパターンに該当する職人が,良好な生産・居住環境を確保した結果生じたものである.同時に(1)のパターンは中心地域における漆器関連事業所の集積を継続させている.
著者
中川 紗智
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.92, no.5, pp.283-298, 2019-09-01 (Released:2022-09-28)
参考文献数
42
被引用文献数
1

本研究は,娼婦の通時的な経歴を定量,定性の両面から検討することでその移動実態を明らかにし,彼女らが盛り場をどのように生きたのかという視点から盛り場の性格を把握した.研究対象として1950年代の横浜をとりあげた.その結果,1950年代の横浜には盛り場の重要な構成員である娼婦が大規模に集積する基盤があった.娼婦の中にはほかの盛り場を経由した者や自身の判断によって移動した者も存在した.彼女らが生きる盛り場は全国から人々を惹きつけ,横浜における娼婦のさらなる増加につながった.移動してきた女性たちは横浜での売春を開始して以降もそれぞれが多様な経歴を形成しながら盛り場を生きていた.横浜の盛り場は,多様な背景をもつ多くの女性を絶え間なく流入させ,売春をおこなう彼女らの生活を内包することによって異質性の高い空間であり続けるという性格を持っていた.
著者
横田 祐季
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2020年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.247, 2020 (Released:2020-03-30)

Ⅰ はじめに近年アニメ聖地巡礼が盛んであり,その中で,コラボ終了後の持続可能性は重要な課題とされる(風呂本,2012).作品愛着を超えて地域愛着を持ち地域を何度も訪れるようなファンを獲得することが重要と言えるが,アニメファンの地域愛着については研究が不足している.また近年では聖地に移住するファンの存在も指摘されているが(喜馬ほか,2018),聖地移住についての研究は為されていない.Ⅱ 研究目的と調査概要 本研究では,前述の研究背景を踏まえ,①聖地巡礼を通じたアニメファンの地域愛着の存在とその形成に影響を与える要因,また②そうしたアニメファンが聖地巡礼を契機に聖地への移住へと至るプロセスの二点を明らかにすることを目的とする. 対象地域は『ラブライブ!サンシャイン!!』聖地静岡県沼津市とした.近年アニメツーリズムの成功事例として注目を集めており,関係者への取材によると,アニメ放送が開始された2016年以降少なくとも50人以上はアニメ聖地巡礼を契機とした移住者がいるという. まず上記①を明らかにすることを目的に,聖地巡礼者にアンケート調査を実施した(Ⅲ).その結果アニメファン166名の有効回答を得た. また②を明らかにすることを目的に聖地移住者にヒアリング調査とアンケート調査を実施した(Ⅳ).ヒアリング調査は10名の移住者に対して行われ,アンケート調査はさらに10名を加えた20名に対して行われた.Ⅲ アニメファンの聖地への地域愛着 地域愛着の分析には,単純な嗜好の程度を表す地域愛着(選好),「そこに住みたい」という地域との結び付きを感じる程度を表す地域愛着(感情),「このような地域であって欲しい」という願いの程度を表す地域愛着(持続願望)の3指標を用いた.また地域愛着の形成に影響を与えると思われる要因として聖地巡礼の内容や地域への意識など様々な質問項目を設定した.分析では相関分析とt検定を用いた. 調査の結果,以下の知見が得られた.まず,アニメファンは聖地に対して一定の地域愛着を持つ(平均:選好4.6,感情3.69,持続願望:3.78/5点満点).また地域愛着(選好)→(感情)→(持続願望)と,より深い次元の地域愛着へと段階的に醸成されること,そして地域愛着の醸成が次回,さらにはコラボ終了後の来訪意欲にも繋がることが示唆された. 地域愛着(選好)は来訪回数や来訪満足度,地域交流度,SNS利用と関連があり,単純に訪問を重ねることでも醸成されると考えられる.また地域住民との交流機会の創出やSNSの活用を意識したイベント展開で醸成を促せると考えられ,来訪意欲との相関も最も高いことから観光振興を図る上で有効な指標といえる. 地域愛着(感情)は滞在日数や来訪満足度,地域交流度,SNS利用と一定の関連があり,地域愛着(選好)と同様の施策展開を行うことである程度醸成を促せると考えられる.また「景色が美しいまち」「人のあたたかいまち」「自然豊かなまち」といったイメージを持つ人は高い値を示す傾向にあり,アニメ作中で描かれるイメージを実際に聖地巡礼でも抱けたことで「居場所がある」といった感情が生まれると考えられる.移住者はこの値が高く,そのために移住に至ったと推察される. 地域愛着(持続願望)は地域愛着(選好・感情)と比べると様々な要素と関連が薄く,来訪意欲との関連も薄い.アニメツーリズムの展開を促す上では有効な指標とはいえないと思われる.Ⅳ 聖地移住のプロセス 聖地巡礼を通じた認知や体験によって地域愛着(選好)→(感情)というように深い次元の地域愛着の醸成に繋がり,これがプル要因となっていた.その際,自然的環境や都市的環境に加え,アニメ聖地巡礼に特有なものとして「地域の人のあたたかさ」「ファンの集う場所」といった社会的環境や「地域に根付いたアニメの存在」が認知され,アニメが媒介となって自らと地域の結び付きを感じる状態になっていた.前環境への不満がプッシュ要因となった場合もあったが,必ずしも移住の決断に際して必要な条件ではなかった.また移住者・移住希望者交流会の定期開催が近年の移住者数の増加に寄与しており,そこでもアニメを通じたコミュニティの形成が参加への障壁を下げ情報交換を促し移住の決断を後押ししていたと考えられる.謝辞:調査にご協力頂いたアニメファンの皆様,沼津市の方々に心より感謝いたします.参考文献風呂本武典 2012. 過疎地域におけるアニメ系コンテンツツーリズムの構造と課題—アニメ「たまゆら」と竹原市を事例に.広島商船高等専門学校紀要 34:101-119.喜馬佳也乃・坂本優紀・川添 航・佐藤壮太・松井圭介 2018. リピーターの観光行動からみたアニメツーリズムの持続性—茨城県大洗町「ガールズ&パンツァー」を事例として.筑波大学人文地理学研究 38:13-43.
著者
澤 宗則 南埜 猛
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2020年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.70, 2020 (Released:2020-03-30)

1.問題の所在日本において, 「インド料理店」が急増している。しかし新規店舗は, ネパール人経営者と料理人であることがほとんどである。しかも, チェーン店化していてもあまり繁盛しているようには見えない。本発表ではネパール人経営の「インド料理店」が急増している理由・背景の解明を出発点として, ネパール人移民のエスニック戦略を神戸市を事例として明らかにする。エスニック戦略とは, エスニックな社会集団の構成員が, そのネットワークを社会関係資本(Social Capital)として活用しながら, ホスト社会の中で独自に実践する方策である。日本ではベトナム人とならびネパール人の移民が急増している。ネパール人は日本語学校の留学生(いわゆる「出稼ぎ留学生」 が多い), 「インド料理店」の経営者・料理人, および料理店関係者の妻子が主である。2.神戸市のネパール人神戸市もネパール人は急増している。東灘区深江浜に食品工場(弁当・冷凍食品など), 中央区・東灘区に多くの日本語学校・専門学校が立地し, 両区にネパール人は多い。食品工場の労働者は, かつては「日系人」が主力であったが, 現在は日本語学校のベトナム人・ネパール人などの留学生や, ネパール人料理店経営者や料理人の妻子が主力となった。日本語学校は, 東日本大震災(2011年)以降減少した中国人学生の代替としてベトナム人とネパール人学生を積極的に増やした。人手不足のコンビニ, 食品工場, ホテルのベッドメーキングが, ネパール人留学生と料理人の妻子のアルバイト先となった。3.神戸市の「インド料理店」のエスニック戦略神戸市のインド料理店も急増し, 新規店舗の多くはネパール人経営である。「インド料理店」とは, インドカレーを看板メニューにした飲食店であるが, 経営者がインド人, パキスタン人, ネパール人でその経営戦略が大きく異なる。①インド人経営の場合, 古くからのインド人集住地(中央区北野〜三宮)に集中し, インド人定住者向けの料理店を発祥とし, 現在は日本人(観光客を含む)向けのやや高級な非日常的なエスニック料理を提供する。食事も内装もインド伝統にこだわる。ウッタラカンド州のデヘラドゥーン周辺出身からのchain migrantがほとんどである。②パキスタン人経営の場合, 中央区の神戸モスク・兵庫モスクのそばにハラール食材店とともに局地立地。ムスリムが主な顧客で, ハラール食材のみ使用し, アルコール飲料も原則置かないため, 収益はあまり期待できない。経営者は, 中古車貿易業が主であり, 料理店は食事面で不便なイスラム同胞のために開始したサイドビジネスであることが多い。印パ分離独立(1947年)にインドからパキスタン・カラチに避難したムスリムが多い。③ネパール人経営の場合, 駅前・郊外・バイパス・ショッピングモールなどに居抜きで出店(出店料を抑える)。昼はランチ1000円未満のセット(ナン食べ放題など)を提供する定食屋, 夜は飲み放題などの居酒屋として, コストパフォーマンス重視の戦略である。主な顧客は日本人である。経営不振の際は夜にもランチメニューを導入, さらには価格を下げることで対応しているが効果は薄い。経営赤字は妻子の収入(食品工場・ベットメーキング)で補填している。できる限りチェーン店化を進め, 兄弟, 親戚, 同郷者を呼び寄せる。チェーン店化が進むほど, チェーンマイグレイションが進む。山間部のバグルン周辺出身者がほとんどである。必ず実家へ送金し(料理人の月収は約13万円, 生活費3万円, 残りの10万円送金), 実家の子どもの教育に投資, さらには実家が平野部の都市・チトワンに移動する場合もある。日本のネパール人留学生が卒業後, 料理店を起業する場合も増加した。さらには, 出身地で「日本語学校」を起業する場合もある。4.エスニック料理店のエスニック戦略「エスニックビジネス」としての「インド料理店」はそれぞれの地域の資源(顧客層)を独自に読み解きながら, エスニックネットワークを社会関係資本として活用し, 独自のエスニック戦略のもと経営を行っている。「エスニックビジネス」を単体のみで考えるのではなく, トランスナショナルな領域で形成されている社会関係資本の一部として考える必要がある。
著者
三上 岳彦 永田 玲奈 大和 広明 森島 済 高橋 日出男 赤坂 郁美
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2017年度日本地理学会秋季学術大会
巻号頁・発行日
pp.100193, 2017 (Released:2017-10-26)

筆者らの研究グループでは、東京首都圏におけるヒートアイランドと短時間強雨発生の関連を解明する目的で、気温・ 湿度(143地点)、気圧(49地点)の高密度観測(広域METROS)を行っている。2015年7月24日の14:00-15:00に、東京南部の世田谷区を中心に時間雨量が約50mmの短時間強雨が発生した。そこで、この日の短時間強雨について、事例解析を行った。この事例解析から、世田谷付近で増加傾向を示す短時間の局地的豪雨の要因として、降雨開始3時間前頃に高温域が形成されると、その約1時間後に熱的低気圧が発生し、さらに2時間後には、南からの海風進入による湿潤空気の流入で水蒸気量が急激に増加して豪雨となると考えられる。豪雨開始と同時に急激な気圧の上昇が起こるが、これは発達した積乱雲内部での強い下降流によるものと推察される。
著者
伊藤 千尋
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.327-344, 2021 (Released:2021-10-20)
参考文献数
39
被引用文献数
1

「人種」は,一般に浸透している用語であるが,概念の定義を学ばなければ誤解しやすい.人種概念に対する誤った認識や,過去・現在の人種主義に対する理解の欠如は,国内外で生じている人種差別への理解を矮小化し,他者への差別・偏見を助長する土壌にもなりかねない.人種概念の理解に向けて地理教育も積極的な役割を担う必要がある.現行の高校地理教科書における「人種」および「黒人」に関する記述を分析した結果,すべての教科書において「人種」や「黒人」という語は使用されているが,概念の定義を説明している教科書は限定的であり,その説明にも不十分な点がみられた.「人種」や「黒人」という語を用いることでしか表せない現実も存在するため,使用を必要以上に避けるのではなく,注意を払って使用することが求められる.また,不必要に人種概念によって地域を表象することにより,単純な地域理解に生徒を導いてしまうことは避けなければならない.
著者
平峰 玲緒奈 青木 かおり 鈴木 毅彦
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2020年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.238, 2020 (Released:2020-03-30)

1.はじめに火山砕屑物の一つである軽石は,多孔質であるために水に浮くこ とが多い.そのため,海域での漂流を開始した軽石は,海岸に打ち上げられるか,海底に沈むまで,漂流し続けると考えられている(加藤,2009).このような軽石は,「漂着軽石」や「漂流軽石」と呼ばれ, 海岸や地層中から発見・認定されてきた.地層中に認定される漂着軽石は,年代指標,古環境指標として利用できると期待される.しかし,漂着軽石に関する基礎的な研究は少なく,それらの漂流・漂着に関わるプロセスは明らかになっていない.日本列島とその周辺海域では,1986 年の福徳岡ノ場噴火以降, 大量の軽石を海域に供給する噴火は発生していないにもかかわらず,現在の日本列島の海岸には軽石が漂着している.これは,噴火活動以外に海域へ軽石を供給する仕組みがあること示唆する. しかし,日本の複数地点で,ほぼ同時期に漂着軽石を調査した例 は存在しない.また,軽石を海域へ供給する噴火が発生していない「平穏時」における漂着軽石の給源やそれらの地理的分布は不 明である.そこで,本研究では,記載岩石学的特徴に基づき日本列島の現世海岸における漂着軽石の給源とその地理的分布を明らかにし,海域への軽石供給の仕組みや,漂着軽石の漂流・漂着に関するプロセスを解明することを目的とした.2.研究手法沖縄県西表島から青森県下北半島にかけての,日本列島の海岸25 地点から採取した漂着軽石120 試料について,肉眼的特徴による分類を行い,個別に粉砕した試料を洗浄,ふるい分けし,63-120 μm サイズの火山ガラスを用いて主成分化学組成分析を実施した. 分析には高知大学海洋コア総合研究センターの共同利用機器であるEPMA(日本電子株式会社製 JXA-8200)を使用した.3.結果・考察漂着軽石は,幅の狭い浜など漂着物が保存されにくい海岸を除くと全ての海岸で確認された.浮遊しやすい発泡スチロールやクルミなどが多く漂着する海岸では,漂着軽石も多く見出された.EPMA 分析の結果,漂着軽石は13グループに分けられた.13グループの中で,給源が推定可能なものは4グループあり,その給源となるテフラは,姶良カルデラの約3万年前(Smith et al., 2013)の 噴出物である姶良Tnテフラ(AT:町田・新井,2003),十和田火山 の約1万5千年前の噴出物である十和田八戸テフラ(To-H:町田・ 新井,2003)と AD915 年の十和田aテフラ(To-a:町田・新井,2003),1924 年の西表島北北東海底火山噴出物,1986 年の福徳岡ノ場噴出物である.AT起源の漂着軽石は日本各地の海岸から見出され,青森県の下北半島を最北端,沖縄県の西表島を最南端として確認された.特に,西表島で見出されたAT 起源の漂着軽石は,周辺の海流系を考慮すると,黒潮,黒潮続流,北赤道海流等 での漂流を経て,再度,黒潮本流に合流し,当該地域に漂着した可能性がある.また,鹿児島県奄美大島の海岸から,十和田火山起源の漂着軽石も見出されており,AT起源の軽石同様に,漂着軽石は海流により太平洋上を循環している可能性が示唆される.現世の海岸に分布する漂着軽石は,噴火により直接海域に流入した可能性と、陸域に一次堆積した火砕物が,二次的な移動により海域に流入した可能性がある.約3万年前(Smith et al., 2013)の噴出物である AT起源の漂着軽石は,日本列島各地の海岸で見出さ れた.また,AT噴火の火砕流堆積物は,入戸火砕流堆積物 (A-Ito:町田・新井,2003)として給源近くに厚く分布し,火砕流台地であるシラス台地を形成しており,海岸沿いや開析谷沿いに広く露出している.以上を考慮すると,火砕流堆積物が海岸侵食や崩壊,土石流により二次的に移動し海域へ流入したものが,漂着軽石として現世海岸に分布すると考えられる.つまり,陸域に分布する軽石主体の堆積物の二次的な海域への運搬が,平穏時における軽石供給の主要なメカニズムであると考えられる.4.まとめ本研究結果から,軽石を海域に供給する噴火が発生していない平穏時であっても,現世海岸には漂着軽石が多く分布していることがわかった.給源テフラの推定結果から,最近100年間に発生した海底噴火に伴うものと1万年以上前の大規模噴火に伴うものが見出された.特に1万年以上前の大規模噴火に伴うものは,現在火砕流台地を広く形成しており,それらの二次的な移動が平穏時における継続的な軽石供給の重要なメカニズムであると考えられる.
著者
久保 純子
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.25-48, 1988-01-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
51
被引用文献数
1 6

南関東の相模野台地・武蔵野台地に分布する谷の地形・地質を比較検討し,これらの谷の形成過程について考察した. 相模野・武蔵野をはじめとする関東平野の台地には,台地上に厚い風成テフラをのせるものが多い.これらの台地では現在までの数万年の間,テフラの問けつ的な降下と,台地に流域をもつような小さい川の侵食・運搬作用が同時に進行していたと考えられる.このような堆積(テフラの降下)と侵食・運搬作用(谷の成長)の積分の結果が現在の相模野・武蔵野台地の谷地形であること,すなわち,礫層を堆積させた過去の大河川の名残川が降下テフラを流し去ることによって谷を形成したことを,相模野および武蔵野台地の各時代の面を「刻む」谷の地形・地質を比較することにより導き,谷の形成過程を説明した.
著者
川添 航 坂本 優紀 喜馬 佳也乃 佐藤 壮太 松井 圭介
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2018年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.000228, 2018 (Released:2018-06-27)

1.はじめに近年,アニメーションや映画,漫画などを資源とした観光現象であるコンテンツ・ツーリズムの隆盛が指摘されている.本研究は,コンテンツ・ツーリズムの成立による来訪者の変容に伴い,観光現象や観光地における施設や関連団体,行政などの各アクターにどのような変化が生じたかという点に着目する.研究対象地域とした茨城県大洗町は県中央部に位置しており,大洗サンビーチ海水浴場やアクアワールド茨城県大洗水族館などを有する県内でも有数の海浜観光地である(第1 図).また2012 年以降はアニメ「ガールズ&パンツァー」の舞台として商店街を中心に町内に多くのファンが訪れるなど,新たな観光現象が生じている地域でもある(石坂ほか 2016).本研究においては,大洗におけるコンテンツ・ツーリズムの成立が各アクターにどのように影響したかについて整理し,観光地域がどのように変化してきたか考察することを目的とする.2.対象地域調査対象地域である大洗町は,江戸時代より多くの人々が潮湯治に訪れる観光地であった.その観光地としての機能は明治期以降も存続しており,戦前期においてすでに海水浴場が開設されるなど, 豊かな自然環境を活かした海浜観光地として栄えてきた.戦後・高度経済成長期以降も当地域における観光業は,各観光施設の整備や常磐道,北関東道,鹿島臨海鉄道大洗鹿島線の開通などを通じ強化されていった.しかし,2011 年に発生した東日本大震災は当地にも大きな被害をもたらし,基幹産業である観光業や漁業,住民の生活にも深刻な影響を与えた.大洗町における観光収入は震災以前の4 割程度まで落ち込む事になり,商工会などを中心に地域住民による観光業の立て直しが模索されることになった.3.大洗町における観光空間の変容2012 年放映のアニメ「ガールズ&パンツァー」の舞台として地域が取り上げられたことにより,大洗町には多くのファンが観光者として訪れるようになった.当初は各アクターにおける対応はまちまちであったが,多くの訪問客が訪れるにつれて様々な方策がとられている.大洗町商工会は当初からキャラクターパネルの設置や町内でのスタンプラリーの実施など,積極的にコンテンツを地域の資源として取り入れれ,商店街などに多くのファンを来訪者として呼び込むことに成功した.また,海楽フェスタや大洗あんこう祭りなどそれまで町内で行われていたイベントにおいてもコンテンツが取り入れられるようになり,同様に多くの来訪者が訪れるようになった.これらコンテンツを取り入れたことにより,以前は観光地として認識されていなかった商店街や大洗鹿島線大洗駅などにも多くの観光者が訪問するようになった.宿泊業においても,アニメ放映以前までは家族連れや団体客が宿泊者の中心であったが,放映以降は1人客の割合が大きく増加するなどの変化が生じた.
著者
谷 謙二
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.85, no.4, pp.324-341, 2012-07-01 (Released:2017-11-03)
参考文献数
38
被引用文献数
1

本研究では,これまで十分な検討がなされてこなかった1940年代の国内人口移動の動向に関して,当時行われた人口調査と臨時国勢調査を使用してその動向を明らかにした.これらの調査は調査日が異なるものの,年齢が各歳の数え年で表章されており,コーホート分析が可能である.まず1944年時点では,兵役の影響で男子青壮年人口が極端に少ない特異な年齢構成を示す.都市部では若年男子人口が集積したが,その傾向は軍需産業の立地動向に影響を受けていた.終戦をはさむ1944~1945年にかけては,男子の兵役に関わる年齢層を除き,全年齢層にわたって都市部からの大規模な人口分散が起こった.大部分の人員疎開は縁故疎開であり,疎開先は戦前の人口移動の影響を受けた還流移動のかたちをとった.1945~1947年にかけての東京都と大阪府での人口回復は限定的で,疎開先にとどまった者が多い.その結果,東京都と大阪府では終戦をはさんで居住者がかなりの程度入れ替わった.
著者
谷口 智雅
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.70, no.10, pp.642-660, 1997-10-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
43
被引用文献数
1

水質分析資料がない時代の水環境の復元方法として,本研究では文学作品中の水に関する文章に着目した.隅田川を中心とし,東京における文学作品中の水に関する生物指標および視覚的な表現を抽出し,それを現在行われている水域類型区分にあてはめ,20世紀前半の東京の河川の水質を推定した. 文学作品中の文章表現から推定した東京全体の水環境を見ると, 1920年頃にはすでに水質が悪化している河川や水路がかなり存在した. 1940年頃になると汚れた水域が増加しており, 1920年頃から1940年頃にかけて水質が一段と悪化していたことが,この方法により示された.同様の方法を用いて隅田川の水質を推定すると,すでに1905年には浅草付近で著しく汚れていた. 1915年になると,吾妻橋から清洲橋にかけて汚染が顕著で,白鬚橋や永代橋,佃大橋でも水質悪化を示すようになり,汚れた水域が拡大していた. 1935年になると,白鬚橋から永代橋にかけた全域で汚染が顕著になった.本稿では,得られた水質評価と土地利用あるいは工場数,人口変化との比較検討を行い,水質の悪化と人間活動が対応していることを示した.
著者
山内 昌和 西岡 八郎 江崎 雄治 小池 司朗 菅 桂太
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.93, no.2, pp.85-106, 2020-03-01 (Released:2023-02-19)
参考文献数
60
被引用文献数
1

本稿の目的は,沖縄県の合計出生率が本土よりも高くなるメカニズムを解明することである.分析では,筆者らが独自に実施した質問紙調査や,政府統計の1つである第4回全国家庭動向調査等を資料として,沖縄県と本土の出生行動を比較した.その結果,沖縄県の合計出生率が本土よりも高いのは,沖縄県に特有の文脈効果の影響,具体的には,多くの子どもを持つことを望ましいとする価値観,結婚前に子どもを授かることへの寛容さ,家系継承が父系の嫡出子に限定されるという家族形成規範の3つの家族観が出生行動に影響を及ぼし,沖縄県の有配偶女性の子ども数が多くなるからであった.考察では,沖縄県における3つの家族観の内実にゆらぎがみられること,所得水準や待機児童などの出生に関連する沖縄県の社会経済状況が本土より劣位にあることを踏まえ,沖縄県の合計出生率が今後低下して本土の水準に近づく可能性があることを論じた.
著者
松浦 誠
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2016年度日本地理学会秋季学術大会
巻号頁・発行日
pp.100076, 2016 (Released:2016-11-09)

1.はじめに 参詣は交通や都市計画,経済などと密接に関係しており,地理学においても重要な研究対象となっている。日本の伝統的な社寺参詣に関しては特にルートが注目され,田中(1987)や,小野寺(1990),小田(2007)などによって研究されてきた。その結果,交通機関の近代化に伴い,より利便性の高い手段を利用するように参詣ルートが変化した点や,参詣の前後に観光目的の社寺名所旧跡巡りが行われていた点が明らかになった。 一方,新宗教の参詣については,地理学以外の学問分野を含めても、ほとんど研究が行われていない。近世末期以降に新宗教が成立すると,それまで特別な往来がなかった地域へ多数の参詣者が流入し,それに伴って交通網の整備や都市機能の変革がもたらされた。新宗教の勢いが衰えたと言われる現在でも,大規模な参詣が定期的に行われ,教団本部や参詣途中の経由地,交通機関に影響を及ぼしている。よって,新宗教の集団参詣は,関連する地域への影響が多大な事柄であり,地理学的に研究すべき重要な課題である。この問題関心から,松浦(2016)では戦後の天理教信者による団体参詣(以下,団参とする)の変遷と,教会による団参の事例を明らかにした。   2.研究目的 本研究では,松浦(2016)で扱わなかった明治期から昭和戦前期までを対象とする。この期間は,天理教の教団形成から一派独立,教勢拡大期にあたる時期である。天理への団参が成立・慣例化する過程を明らかにし,聖地・地場や参詣に対する天理教信者の意識の変化と本部からの働きかけについて考察することを目的とする。また,教会間の縦のつながりが重視されていた天理教において,都道府県単位の教務支庁が設置された経緯と,設置による参詣行動やその他の宗教活動への影響を明らかにする。   3.研究方法 はじめに,明治24(1891)年創刊の天理教の広報誌「道の友」と昭和5(1930)年創刊の「天理時報」に掲載されている団参の報告・募集記事から,各時代の団参の傾向と団参に対する天理教本部の働きかけを明らかにする。 次に,対象期間内の各教会の日誌や教報誌,団参記念の写真帳などから,団参の旅程や実施時期,参加人数,参加者の性別や年齢の傾向など,団参の実態を明らかにする。また,団参及び地場に対する教会,信者の意識を考察する。これらの史料は教会ごとに作成状況や残存状況が異なる。今回は入手できた益津大教会(静岡県),東大教会(東京都),新潟県内の湖東大教会部属教会及び新潟教務支庁と各教会の上部教会の史料を利用した。特に,新潟県内の湖東大教会部属教会と新潟教務支庁の史料からは,天理教における地域意識の形成過程と要因,地方居住者の移動行動への影響を考察する。  4.まとめ 天理教における団参は,教団本部の教会施設建設のための労働力確保という俗的要因と大規模分教会による教勢拡大の報告という信仰的要因から生じた。そして,昭和11(1936)年の教祖50年祭に伴う別席の聴講及び授訓の活発化と普請の労働力確保という本部の思惑から,これまで容易に参詣を行なえなかった遠方の小規模団体を本部へ集めるため,教務支庁に輸送機能を付与した。また,新潟県教務支庁による団参には,オプショナルツアー形式の観光が含まれ,これには鉄道会社が影響を与えていると考えられる。 詳細は,発表で報告する。