著者
松本 健佑
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2022年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.106, 2022 (Released:2022-03-28)

本研究の目的は,地方選挙が同時に行われると国政選挙の投票率が上がるのかを検討することである.2004~2013年の参議院選挙が地方選挙と同時に行われた際にどの程度投票率が上昇したのか,差の差法によって分析した.分析の結果は以下の3点にまとめられる.第1に,地方選挙が同じ日に行われると平均で6.65ポイント参議院選挙の投票率が上がる.第2に,都道府県レベルの選挙よりも市区町村レベルの選挙が同時に行われたときの方が参議院選挙の投票率が大きく上がる.第3に,市区町村レベルの選挙については,首長選挙よりも議会選挙が同時に行われたときの方が参議院選挙の投票率が大きく上がる.また,同日選挙の効果は地域によって異なるのかについても分析した.その結果,市区町村レベルの選挙が同時に行われる場合は,農村的な地域であるほど参議院選挙の投票率が上がることがわかった.
著者
根元 裕樹 中山 大地 松山 洋
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.84, no.6, pp.553-571, 2011-11-01 (Released:2016-09-29)
参考文献数
15
被引用文献数
3 6

山梨県甲府盆地の西部,釜無川と御勅使川の合流部付近には信玄堤と呼ばれる治水施設群がある.信玄堤に関する歴史的研究では,近世以降に築かれた可能性や,自然に起こった流路変遷を固定化するための工事であるという見解が示されてきた.しかしながら,自然科学的研究は少ないため,本研究では洪水氾濫シミュレーションを行って,これらの治水能力を再評価した.現在の地形をスムージングした地形に各施設(石積出,白根将棋頭,竜岡将棋頭,堀切,竜王川除,かすみ堤)を配置し,dynamic wave model による御勅使川の洪水氾濫シミュレーションを行った.その結果,御勅使川の過去の流路が再現され,各治水施設が及ぼす影響を確認できた.これによると,石積出→白根将棋頭→堀切→高岩(岩壁)→竜王川除という順に設置されなければ,信玄堤は有効に機能しない.つまり,これらの施設は近世より前に短期間のうちに意図的に築かれた可能性が高く,既存の歴史的研究成果とは異なる結果が得られた.
著者
鈴木 晃志郎 于 燕楠
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.55-73, 2020
被引用文献数
3

<p>今日の地理学において,幽霊や妖怪を含む怪異は,専ら民俗学的な手法に依拠して検討されている.しかし隣接分野では,定量的な手法に基づいた知見が数多く存在し,客観性と厳密性を確保することによって学術的信頼性を高める試みが多くなされている.そこで本研究は富山県を対象とし,今からおよそ100年前(大正時代)の地元紙に連載された怪異譚と,ウェブ上に書き込まれた現代の怪異に関するうわさを内容分析し,(1) 怪異を類型化して出現頻度の有意差検定を行うとともに,(2) カーネル推定(検索半径8 km,出力セルサイズ300 m)とラスタ演算による差分の算出により,怪異の出没地点の時代変化を解析した.その結果,現代の怪異は大正時代に比して種類が画一化され,可視性が失われ,生活圏から離れた山間部に退いていることが示された.</p>
著者
尾方 隆幸 大坪 誠 伊藤 英之
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.44-54, 2020 (Released:2020-02-22)
参考文献数
22

琉球弧の最西端に位置する与那国島で,数値標高モデル(DEM)による地形解析と,露頭における地層・岩石と微地形の記載を行い,隣接する台湾島との関係も含めてジオサイトとしての価値を検討した.与那国島の表層地質は,主に八重山層群(新第三系中新統)と琉球層群(第四系更新統)からなり,地質条件によって異なる地形が形成されている.与那国島の代表的なジオサイトとして,ティンダバナ,久部良フリシ,サンニヌ台が挙げられる.ティンダバナでは,八重山層群と琉球層群の不整合が崖に露出し,地下水流出に伴うノッチが形成されている.久部良フリシでは,八重山層群の砂岩が波食棚を形成し,岩石海岸にはタフォニが発達する.サンニヌ台には正断層の露頭があり,断層と節理に支配された地形プロセスが認められる.与那国島のジオサイトは,外洋に囲まれた離島の自然環境や背弧海盆に近いテクトニクスを明瞭に示しており,将来的には台湾と連携したジオツーリズムやボーダーツーリズムに展開させうる可能性を秘めている.そのためにも,地球科学の複数分野を統合するような基礎的・応用的研究を継続することが必要である.
著者
稲垣 稜
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.87, no.1, pp.17-37, 2014-01-01 (Released:2018-03-22)
参考文献数
38
被引用文献数
1 2

本研究では,奈良県生駒市の例を中心に,大阪大都市圏の郊外から中心都市への通勤者数の減少を属性別に検討し,その減少の要因を明らかにした.その結果は以下の通りである.郊外における現在の住宅取得層は,地方圏出身者が減少し,郊外第一世代の子どもに相当する世代の占める割合が高まっていた.この郊外第二世代は,雇用の郊外化の影響を受けて,新規就業の段階から郊外内部での通勤を指向する傾向にあった.またさらに若い世代では,少子化や非正規雇用化により,中心都市へ通勤する新規就業者は大幅に減少していた.それら以上に中心都市への通勤者数の減少に寄与したのが,人口規模が大きく中心都市への通勤に特化していた郊外第一世代の退職であった.一方,中心都市への通勤者を増加させる方向には,郊外での住宅取得後も中心都市で就業を継続する既婚女性の増加が作用していたが,減少を相殺する規模ではなかった.
著者
柚洞 一央 新名 阿津子 梶原 宏之 目代 邦康
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.13-25, 2014-03-31 (Released:2014-04-23)
参考文献数
24
被引用文献数
2 6

ジオパークは,地形・地質遺産が主となって構成されるが,特に,これまで日本のジオパークでは地質公園的な側面が強く現れていた.Global Geoparks Networkのガイドラインでは,地形・地質のほか,生態系,考古,歴史,文化的価値を持つものの重要性も述べられている.それらは地理学的視点によって関連性を科学的に整理し理解することが重要である.地理学の成果にもとづいて,それぞれのジオパークのストーリー,ナラティブが構築されれば,その地域で発生している問題の解決の糸口を与えることになるだろう.そうすることにより,ジオパークの活動が持続可能な発展を目指すものとなる.
著者
住吉 康大
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.94, no.5, pp.348-363, 2021-09-01 (Released:2023-02-19)
参考文献数
38
被引用文献数
1

本稿では,千葉県南房総市と周辺地域を事例に,近年メディア等で注目を集める「二地域居住」に焦点を当て,二地域居住者と地域の実態を明らかにし,人口減少社会における地域振興との関係性を検討した.現地調査を通じて,二地域居住は「田舎暮らし」を希望していても移住は難しい場合の次善策として選択されていることや,事例地域では,大都市部からの良好な交通条件と豊富な自然環境に加え,先駆的なリーダーによる情報発信が機能して,多様な二地域居住者が集まっていることが示された.自治体が行う移住支援策との相乗効果が生まれ,二地域居住者が地域の課題解決を目指す活動も生じているなど,二地域居住が地域振興に寄与する可能性はあるものの,現時点では地域住民からの二地域居住に対する認知度は低いため,地域振興策として二地域居住を推進する際には,リーダーの活動を生かす一方で,自治体が地域住民との橋渡しを行う必要があると考えられる.
著者
高橋 学
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.69, no.7, pp.504-517, 1996-07-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
32
被引用文献数
3 5

現在,地震の発生を予知することは困難な状況にある.しかしながら,土地の履歴を知ることにより地震の被害を予測することは不可能ではない.埋蔵文化財の発掘調査に際し,過去の災害と土地開発の様子を詳細に検討することは,防災計画を考えるうえで重要なデータをもたらす. 兵庫県南部地震による神戸周辺の被害状況を概観すると,高速道路や鉄道,それに駅舎などの大型建造物と,木造一戸建て住宅とでは被災した場所の土地条件が異なる.大型建造物の場合には,硬軟の地盤の境目で被害が大きい.他方,木造一戸建て住宅の被害は,微地形や埋没微地形に由来する表層部数メートルの堆積物の状況と関係が深い.原型をとどめないほど激しく破壊された家屋は,旧河道や埋没旧河道にあたる部分に多く存在した.また,木造一戸建ての倒壊による圧死者も旧河道や埋没旧河道に集中する傾向が強い.
著者
須崎 成二
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.92, no.2, pp.72-87, 2019 (Released:2022-09-28)
参考文献数
30
被引用文献数
4 1

本研究は,日本の地理学では実証研究が乏しいセクシュアリティに着目し,ゲイ男性の新宿二丁目に対する場所イメージを,彼らの実践および経験に基づいて検討したものである.首都圏に居住するゲイ男性24名への聞取り調査を行った結果,オンラインツールなどによるゲイ男性同士の新たなつながりの創出は,新宿二丁目のゲイバー利用を妨げるわけではないことがわかった.また,新宿二丁目ではマスメディアなどの影響によって異性愛者の流入もみられるが,それに対してゲイ男性は拒絶と受容の相反する認識を持っている.ゲイ男性の多くは,安心してセクシュアリティを解放できる特別な場所として新宿二丁目を肯定的にとらえているとはいえ,その特殊性の認識には人間関係の構築や自己の確立に伴う変化がみられた.
著者
牛垣 雄矢 久保 薫 坂本 律樹 関根 大器 近井 駿介 原田 怜於 松井 彩桜
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.285-306, 2020 (Released:2020-11-10)
参考文献数
34

アクアラインの通行料引下げの結果,高速バスによる東京都心部や川崎・横浜方面への通勤者が増加し,その中にはパーク&ライドを行う人も多い.東京大都市圏郊外としては相対的に地価も安いため,木更津市の人口は増加し,中心市街地から離れた郊外住宅地がその受け皿となっている.市や県など行政の協力・連携のもと,イオンモールなどのショッピングセンターが立地し,周辺ではチェーン店等が集積した.これにより木更津市の買物環境と商業中心性は向上したが,中心市街地の個人商店は厳しい状況にあり,スーパーやドラッグストアが少なく生活必需品が購入しづらい状況にある.その中でイオンによって無料送迎バスが運営され,高齢者の重要な移動手段となっている.木更津市の人口分布や商業は自家用車の利用を前提とした構造となり,イオンとの関わりや更なる高齢化が進展する中で,住民に対する買い物の機会や移動手段の確保が課題となっている.
著者
水谷 知生
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.82, no.4, pp.300-322, 2009-07-01 (Released:2011-08-25)
参考文献数
90

現在,九州と台湾の間の島々を示す地域名称として「南西諸島」,「琉球諸島」,「薩南諸島」などが重層的に用いられている.本稿ではこの地域の地域名称の使用,浸透の経過を政治的な背景とともに明らかにした.「南西諸島」をはじめこの地域の島々の地域名称の多くは,明治期に海軍省水路部により付与されたが,「薩南諸島」は民間で用いられ,広く使われるようになった.地域名称は教科書類によって一般に浸透し,名称の整理には教科書検定制度が役割を果たした.奄美諸島は,江戸期には,薩摩藩の直轄領でありながら対外的には琉球領として扱われたが,明治初期の日清間での琉球領有を巡る論争の際,日本政府は「琉球諸島」を沖縄諸島以南と整理し,奄美諸島を含めないこととした.一方,第二次世界大戦後,米国は軍事上の必要性から奄美諸島以南を日本本土と切り離す意図を持ってこの地域をRyukyu Islandsとした.「琉球諸島」の名称の使用には特に政治的な意図が多く働いた.
著者
岩間 信之
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.74, no.3, pp.117-132, 2001-03-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
33

本研究では,百貨店における取扱商品や併設施設の店舗間の差異に着目し,これらを定量的に分析することによって,百貨店の店舗特性と立地位置との関係を考察した.因子分析,クラスター分析の結果, 105の店舗は9類型に分類された.各類型の分布から,以下の点が明らかとなった.高次の中心商業地に立地する店舗は買回品へ専門化する傾向にあるが,郊外の店舗では最寄品の比重が相対的に高い.また,婦人服を指標として顧客の年齢構成と商品単価を考察したところ,都心に近づくにっれ顧客の年齢構成は若年化し,取扱商品は高級化する.さらに,郊外型の店舗は35km圏内ではショッピングセンター的な性格を有し, 36km以遠ではスーパーマーケットに類似する傾向がみられる.ま孝セクター間にも差異が存在し,買回品の卓越した店舗は南~北西郊に多く立地する.百貨店の店舗特性には,都心を核とした階層構造が確認された.
著者
髙橋 品子
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.82, no.5, pp.442-464, 2009-09-01 (Released:2011-08-25)
参考文献数
62
被引用文献数
1 1

近代八重山の廃村は,そのほとんどがマラリアによる人口減少が原因とされてきた.しかし一方で,マラリア禍の激しかった西表島において500年以上も存続してきた祖納のような集落も存在する.本稿では,近代廃村期(1900年から1938年)を生き延びたマラリア有病地集落共通の特徴を分析し,その集落存続要因を探った.その結果,不明な点の多い伊原間集落を除き,八重山のマラリア有病地存続集落はすべて蔡温施政期以前からの古集落であった.古集落は,良港や湧き水の存在など立地条件がもともと良く,生活基盤がすでに整備されていたため,近世の地元役人による不正な課税に苦しみながらも人口を維持し得たと考えられる.また,近代廃村期における石垣島と西表島の廃村状況およびマラリア罹患率の違いから,マラリア予防対策は西表島の方がより効果があがったことが明らかになった.資料の多く残る西表島の古集落祖納を事例として検討したところ,住民による自発的集落移動や予防事業への全面的協力があった.祖納のような古集落には,人口減少を回避する強い集落内結束があり,こうした人間関係を基にした社会構造が,マラリア禍を緩和し,集落存続のための生存戦略を生む背景となっていたのである.
著者
成瀬 厚
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.180-196, 2022 (Released:2022-07-01)
参考文献数
22

本稿は,東京2020五輪大会で実施されたホストタウンについて,登録自治体にアンケートを行い,回答を分析することでその全体像を把握したものである.世界中から集まる出場選手のために事前合宿の場所を日本全国から募るホストタウン政策は,国際交流を行う目的も有する.アンケートで集まった226件の回答では,事業の主目的として6割が事前合宿を,4割が国際交流を,それぞれ志向する結果となった.事業計画では,トレーニングが7割,スポーツによる交流事業が7割,レセプション・パーティも6割で,それぞれ計画されていた.選手団の国内での移動費や宿泊費は自治体が賄い,事業に伴う施設整備を行わない自治体が半数を占め,職員の再配置や研修を行う自治体は多くなかった.ホストタウンは相手国・地域の受け入れ競技選手の出場が決定する時期と前後して計画され,選手が競技に集中すべきところで交流事業を行わなければならないといういくつかの矛盾も確認できた.
著者
小泉 諒 西山 弘泰 久保 倫子 久木元 美琴 川口 太郎
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.84, no.6, pp.592-609, 2011-11-01 (Released:2016-09-29)
参考文献数
30
被引用文献数
4 8

本研究では,1990年代後半以降における東京都心部での人口増加の受け皿と考えられる超高層マンションを対象にアンケート調査を行い,その居住者特性を明らかにするとともに,今日における住宅取得の新たな展開を考察した.その結果,居住者像として,これまで都心居住者層とされてきた小規模世帯だけでなく,子育て期のファミリー世帯や,郊外の持ち家を売却して転居した中高年層といった多様な世帯がみられた.それぞれの居住地選択には,ライフステージごとに特有の要因が存在するものの,その背景には共通した行動原理として社会的リスクの最小化が意識されていることが推察された.社会構造が大きく変化し雇用や収入の不安定性が増大している中で,持ち家の取得は,機会の平等が前提された「住宅双六」の形態から,個々の世帯や個人の資源と合理的選択に応じた「梯子」を登る形態へと変化したと考えられる.
著者
池田 千恵子
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2019年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.265, 2019 (Released:2019-03-30)

本研究では,京都市におけるゲストハウスなどの簡易宿所の急激な増加に伴う影響について,ツーリズムジェントリフィケーションの観点で検証を行う.ツーリズムジェントリフィケーションは,地域住民が利用していた日常的な店舗が減少する一方で,娯楽や観光に関わる施設や高級店が増加し,富裕層の来住が増えることにより賃料が上昇し,低所得者層の立ち退きを生じさせる現象である(Gotham 2005).簡易宿所が急増した背景や簡易宿所の増加が地域に及ぼした影響について示す. 京都市内の簡易宿所の数は,2011年の249軒から2018年9月末時点では2,711軒と7年間で約11倍(988.8%増)になった.東山区でもっとも簡易宿所が多い六原は91軒で,2018年9月30日時点において京都市内で一番簡易宿所が多い地区でもある.下京区で簡易宿所が一番多い菊浜は,2016年の14軒から2018年の47軒(図1)と1年10ヶ月で33軒増加した.南区では山王が44軒である. 簡易宿泊が増加している地区には特徴がある.一つめは,交通の利便性である.六原と菊浜は清水五条駅,山王は京都駅の南側と主要な駅に隣接している.二つめは,既存産業の衰退である.六原は京焼・清水焼などの窯業の衰退とともに人口流出や高齢化が進み,空き家が増加した.大正から昭和中期頃まで京都市内最大の娼妓がいた菊浜は,2010年に全ての貸座敷が廃業になった(井上 2014).三つめは地域の負のイメージによる.菊浜は性風俗などのイメージがあり(内貴ほか2015),山王は京都市内最大の在日朝鮮人が集住し,貧困化・不良住宅化が進んだ地域(山本 2012)が含まれている.このように,地域の負のイメージにより地価も低く,空き家などが活用されていなかった地域で,簡易宿所の開業が進行したと想定される.簡易宿所の急激な増加による不動産価格の高騰や住民の立ち退きなどについて報告を行う.
著者
小口 千明
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.67, no.9, pp.638-654, 1994-09-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
46
被引用文献数
1 1

本研究は,位置選定にかかわる日本の伝統的な吉凶判断において方位がきわめて重要視されるのに対し,距離や寸法にはあまり関心がもたれないことに着目して,日本における伝統的な空間認識の特質を寸法とのかかわりから捉えようとしたものである. 沖縄県を中心として唐尺と呼ばれるものさしが存在し,このものさしを用いて,寸法による吉凶判断が行なわれている.そこで,現実の景観のなかにこのものさしに基づく吉凶の観念がどのように投影されているかを,沖縄県の波照間島と鹿児島県の与路島を事例として検討した. 沖縄県の波照間島では,住居の門の幅と墓の特定部分の寸法が唐尺による吉凶判断の対象とされる.奄美の与路島では唐尺は用いられていないが,唐尺と類似の目盛りを有するさしがねが門の位置と幅を定めるための判断基準として用いられている.両島内の集落で住居の門幅を実測したところ,それぞれの地域の判断方法に基づき吉寸を示すものが高率であった.これは,寸法に対する吉凶の観念が投影された住居景観が現実に存在することを示している.ただし,両島に方位にかかわる習俗が存在しないことを意味するものではない. 日本では,位置選定にかかわる吉凶判断において,空間の評価軸が方位に置かれる場合が多い.しかし,現在までのところ沖縄や奄美地方でのみ確認された例ではあるが,寸法の概念も評価軸として存在することが示された.理論的には方位も寸法もともに空間評価のための座標軸となりうるなかで,現実としてどの尺度が座標軸として選択されるかは地域によって相対的であるといえる.したがって,方位による吉凶を著しく重視した空間認識は,見方を変えれば寸法による吉凶を重視しない空間認識としてその特質を把握することが可能となる.
著者
大島 英幹
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.145-151, 2016 (Released:2016-03-15)
参考文献数
17
被引用文献数
2

高等学校の教員は,新しい学習指導要領に対応して,GISの活用を工夫することが求められている.そのため,GISの専門家は,設備や予算に見合ったGISサイト・ソフトの選択や教員の指導,GIS教材の開発などを通じて,教員を支援してきた.本稿では,これらのGISの専門家による支援の事例をレビューした.その結果,GISを用いた地図を作成するよりもGISの地図を閲覧するための支援が重要であり,そのためにはGISの操作を録画した動画の制作が有効であることが明らかになった.
著者
川浪 朋恵
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.89, no.3, pp.118-135, 2016-05-01 (Released:2019-10-05)
参考文献数
29
被引用文献数
2 2

日本における世界遺産登録は,地域資源の価値の評価と保存・保全への担保という性格だけでなく,地域資源と観光とのより強固な結合という性格も有する.2011年6月に日本で4番目の世界自然遺産に登録された小笠原諸島においても,登録が観光に大きな影響を与えた.本稿では,世界遺産登録前後の観光客について,その数の変化と,属性・観光行動などの質的変化を明らかにした.その結果,登録によって,全国的に知名度が上がり,急激な観光客の増加が見られた一方で,受入数の制限から,観光客の入替わりが起こり,リピーターの減少,初訪問者の増加,一人旅の減少などの属性の変化のほか,滞在の短期化やツアーへの参加率の上昇,トレッキングの人気,物見遊山的な行動など,観光行動も変化した.世界遺産登録は,観光地としての小笠原諸島に強力な付加価値を生み出すとともに,そこに引きつけられる観光客を変化させたことが示された.