著者
保母 敏行 山田 正昭
出版者
東京都立大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

フェニルアセトアルデヒド(PAA)とアミノ酸とを反応させてシッフ塩基を得、これとフェントン試薬とを反応させる際に発生する光を測定するアミノ酸の化学発光定量系を開発した。又、反応場としての逆ミセル溶液の有効性を2つの化学発光系で確認した。まず、シッフ塩基生成において、均一溶液系および不均一溶液系で行わせ、種々の酸化剤を添加し、観察される化学発光について検討した。その結果、シッフ塩基生成はAOT逆ミセル溶液中で著しく加速されることがわかった。又、酸化剤にはフェントン試薬を用いた場合、最も強い化学発光応答を得た。AOT逆ミセルでのシッフ塩基生成速度はミセルサイズが小さくなるに従い大きくなる事が分った。アミノ酸のフローインジェクション化学発光定量法を確立した。定量下限1pmol〜100pmolという結果を得た。又、HPLC用検出系とする試みも行った。すなわち、ODSマイクロカラムを使い、アミノ酸を分離したのち、逆ミセル溶液を混合し、テフロン製反応管中でシッフ塩基を形成させる。続いてメタノールとフェントン試薬を混合、発光検出する系を開発した。チロシン、フェニルアラニン、トリプトファンおよびヒスチジンの定量下限それぞれ14、1、34および62pmolという結果を得た。さらに、化学発光反応系における逆ミセルの有効性を示す例としてシュウ酸ジエステル化学発光系を見出した。2,4,6-(トリクロロフェニル)オキザレートは過酸化水素との反応でジオキセタンを生成し、ケイ光物質の存在で強く化学発光する。逆ミセル利用により、シュウ酸ジエステルが水に難溶で、しかも加水分解されるという問題点を解決できた。また、アセトニトリル溶媒中で発光させる場合と比較し、10倍以上の感度向上を見た。提案した手法で過酸化水素定量が行える事を確認するとともに反応機構に関する理論的考察も行った。
著者
梅垣 高士 戸田 善朝 鈴木 喬 門間 英毅 安江 任 荒井 康夫
出版者
東京都立大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1995

リン酸塩類の水和およびその生成物について、研究・調査を行い、下記のような成果を得た。1)ポルトランドセメントや石膏から得られる水和硬化体は、多孔体となるため、曲げ強度が充分でない。リン酸カルシウム類の水和硬化体も同じ欠点を持っているので、硬化体の密度を増加させることと水和生成物粒子同士の結合強度を増加させる目的で、水和反応時に水溶性の高分子化合物を添加して、硬化体の調製を行っている。現在のところ、硬化体の密度の増加は、十分でないものの、曲げ強度は、改善された。(梅垣高士,山下仁大)2)アパタイト水和硬化体を調製する際に、出発物質として、非晶質リン酸カルシウムの利用を試み、また、有機酸を添加してその効果をしらべた。(安江任、荒井康夫)3)骨生理学上重要な各種カチオンを共存させて水酸アパタイトを電析させて、その生成結晶について、詳細な検討を行った。(門間英毅)4)水酸アパタイトを無機イオン交換体への応用についての検討を行った。その結果、鉛、カドウミウムなどの有害イオンを除去できる可能性を認めた。(鈴木喬)5)コバルト、ニッケルなどのリン酸塩類水和物を合成し、顔料として応用の検討を行い、合成法は、簡便で、従来の顔料と比較しても遜色ないものが得られることを認めた。(戸田善朝)
著者
御厨 貴 小塩 和人 牧原 出 野中 尚人 河野 康子 伊藤 隆
出版者
東京都立大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1995

今年度の研究の進展状況については、前年度から継続して行なってきた鈴木俊一氏(前東京都知事・現自治体国際化協会名誉顧問)に対するインタビューを7回(前年度よりの通算では17回)、後藤田正晴氏(元警察庁長官・元内閣官房長官)に対するインタビューを10回(同通算14回)実施したことに加えて、今年度より奥野誠亮氏(元自治事務次官・元国土庁長官・現衆議院議員)に対するインタビューを2回行なったことが主たる成果である。旧内務省出身の三者から、継続的、集中的にインタビューを実施した結果、新たなる知見を得ることができた。具体的には、戦前・戦中における地方(県)行政の状況、占領戦後期のおける地方財政制度整備の方針、警察予備隊発足時のGHQとの交渉の経緯、戦後の警察行政の流れ、内閣官房の役割の変遷、東京五輪時・いわゆるバブル期の東京都政、などが主要なものとして挙げられる。自治省、警察庁、東京都、そして政界・知事職とそれぞれに要職を経験した立場から、その時々の官僚機構における人事運営や意思決定の手法をもまじえての重要な情報がもたらされた。このような継続的、集中的インタビューをより実効性のあるのもとして実施していくために、迅速で正確な速記録を作成し、多くの資料を準備することにより、インタビュー前後の論点整理や質問項目の検討に役立てた。全体としては本プロジェクトは着実に成果を挙げ、基礎研究としての性格から見ても意義ある進展を示したと考える。
著者
桑沢 清明 松村 伸治 矢沢 徹
出版者
東京都立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1996

有爪動物(Onychophora)カギムシperipatusは環形動物と節足動物をつなぐ幻の動物の近縁動物とも考えられていて、系統進化上で貴重な動物群である。このため比較生理学、神経生物学上興味がもたれる動物であるが、現在までのところほとんど研究されない。本研究では心臓とその神経支配について、主として、すでに調べられてきた周辺の動物群である甲殻類、昆虫類、環形動物、軟体動物との関係のなかで研究を進めることを目的とした。カギムシをオーストラリアに求め、Euperipatoides kanangrensisを取得して研究室で飼育管理し研究に用いた。神経伝達物質または神経修飾物質の面から中枢及び末梢のニューロン構成を明らかにして、ニューロンのマッピングを行うため各種推定伝達物質の抗体を用いて免疫細胞化学的に研究を行った。1. 中枢神経系は左右の脳神経節球とそれぞれに続く腹神経索および多数の腹神経索横連合神経からなる。全神経系に亘ってFMRFamide様免疫陽性細胞やそのプロセスを検出した。心臓神経、腸管にも免疫陽性プロセスが認められた。脳神経節中では横連合中に、特に多くの免疫陽性ニューロンが存在した。腸管にも免疫陽性ニューロンの存在が認められた。本研究により有爪動物にFMRFamide様物質が存在するこという最初の知見がえられたことになる。2. 神経系全般に亘りセロトニン様免疫陽性ニューロンプロセスが観察された。脳神経節では横連合に陽性プロセスを多く認め、その近くの領域にニューロン細胞体が多く認められた。アンテナには陽性プロセスが認められなかったが、基部の脳糸球体構造に陽性プロセスが観察された。視索には認められなかったが、網膜および視神経節に免疫陽性プロセスが認められた。心臓、輸卵管に免疫陽性プロセスが認められた。これらのことから、セロトニンは感覚、運動神経で神経伝達物質として使われていると推測された。
著者
福澤 仁之 安田 喜憲 町田 洋 岩田 修二
出版者
東京都立大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1995

すでに入手済みの福井県三方五湖水月湖における過去15万年間の年稿堆積物コアおよび鳥取県東郷池における過去5万年間の年稿堆積物の観察および記載を行った.その結果、1年毎に形成される年稿葉理(ラミナ)と、地震による津波や乱泥流によって形成される厚い葉理を分離し識別することが可能となった.地震による葉理はその前後の年稿に比べて、層厚が厚く粒子比重が大きいことが特徴であり、分級化構造も認められる.また、水月湖の場合には、氷期の葉理は1年に2枚の暗灰色葉理が認められることがあり、この暗灰色薄層は夏期と冬期の菱鉄鉱濃集層である.すなわち、氷期における水月湖は冬期に氷結して垂直循環が停止した可能性がある.一方、東郷池にはこのような冬期の暗灰色葉理が認められず、冬期に氷結しなかった可能性が高い.これらの事実は、湖沼の年稿堆積物を用いて編年を行なう際の留意点を示しており、今後、放射性炭素年代の測定を行なって、これらの仮定を裏付ることが是非必要である.一方、これらの年稿堆積物に含まれる風成塵鉱物の同定および定量を行って、次のことが明らかになった.1)中国大陸起源の風成塵鉱物の一つであるイライト(雲母鉱物の一種)の結晶度は、最終氷期の最寒期(ステージ2およびステージ4)において最も良好になるが、最終間氷期(エ-ミアンすなわちステージ5)においては最も不良になる.ただし、エ-ミアンの中ではほとんど結晶度の変動は認められなかった.2)イライト堆積量の変動についてみると、氷期には多いが間氷期には少ない.しかも、年稿との対比から、その変動は数年単位で急激に変動していることが明らかになった.これらの事実は、氷期から間氷期へあるいはその反対の移行期に、中国大陸へ湿潤な空気をもたらすモンスーンと、日本列島周辺に風成塵をもたらす偏西風の強度が数年間で急激に変動したことを示しており、その変動現象は注目される.
著者
大和 毅彦
出版者
東京都立大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1995

所有権が明確に定義されていないため共有地の資源が過剰に利用された結果,さまざまな社会的損失が生じる問題は「共有地の悲劇」と呼ばれる.本研究では,この重要な問題を解決するための社会制度・メカニズムの設計に関する理論的分析とパソコンを使用してのシミュレーション分析を行った.共有地の悲劇が起こっている経済において,問題解決を目指す制度・メカニズムが自発的に生まれてくる可能性について吟味した.いま,湖に面している漁村を考えよう.労働に関して収穫逓減の場合には,漁村の各漁師が非協力的に行動するナッシュ均衡での総労働投入量はパレート最適な水準よりも大きくなり,漁が過剰に捕獲され共有地の悲劇が起こる.しかし,漁師間で十分なコミュニケーションが可能であれば,協力が生まれ,共有地の悲劇を回避できる余地はないのであろうか,いま,あるグループに属する漁師の間で話し合いが行われて,彼らの総所得を最大にするように彼らの総労働投入量を決定し、捕獲された魚の総量は彼らの間で再分配するような提携が結ばれたとする.外部性が存在するために,提携を形成することによって獲得可能な利得は,提携のメンバー以外の漁師の行動・協力関係に大きく依存する.提携を形成することにより,外部のメンバーがいかなる提携を形成するかについて,各提携が慎重な悲観的予想をしている場合には,コアが存在することを示した.つまり,いかなる提携によっても拒否されず,いかなる提携を考えても,その提携の力だけでは改善不可能な配分が存在する.よって,自由な交渉が可能ならば,パレート最適性が達成され共有地の悲劇を回避できるのである.しかし,この結果は提携構造に関する予測に依存し,外部のメンバーがいかなる提携を形成するかについて,各提携が楽観的予想をしている場合には,コアは存在しない.
著者
江原 由美子 樫村 志郎 西阪 仰 藤村 正之 山崎 敬一 山田 富秋 椎野 信雄 坂本 佳鶴恵
出版者
東京都立大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1990

初年度においては文献研究と研究計画の決定のための研究活動をおこない、第二年度においてはその研究計画に基き調査を実施した。最終年度においては、それらをもとに、研究成果を論文化することを主要な課題とし、研究報告書の作成に着手した。本研究の性格上、収集したデータの分析は、今後も継続して行われると思われるが、報告書作成段階において得られた知見を以下に挙げる。第一に、対面的相互行存状況においては、状況内にある参与者の身体(視線、顔、身体の向き、参与者相互の身体配置等)が相互行存進行の上で非常に重要な意味をもっていること。第二に、特定の制度的文脈においては、特定の相互行存的特徴がみられること.第三に、特定の制度的文脈において発生する会話トピックには、一定の範域があり、その範域をコントロールしようとする参与者の実践がみられること。第四に、それらの特定の制度的な文脈における相互行存の特徴は、相互行存参与者の、「協働的達成」として成立していること。これらの知見は、社会秩序それじたいが、行存者の「協働的達成」として成立していることを明らかにしている。社会秩序の「協働的達成」のための身体技術に関しては、その一部を報告書において明らかにしたが、今後さらに詳細な研究が必要である。
著者
神崎 繁 樋口 克己 丹治 信春 岡田 紀子 伊吹 雄 関口 浩喜
出版者
東京都立大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

平成7年度は、本研究課題に基づく研究の最終年度にあたるので、その研究成果を纏める意味でも、古代から現代までの道徳的価値をめぐる様々な立場の歴史的再検討と、現代的視角からの原理的研究の双方にわたって、研究分担者の各自の領域に関して研究を行い、その成果を発表してきた。古代に関して神崎は、特にアリストテレスにおける生命の原理としての「魂」概念の関係において、しばしばその生物学的・自然主義的価値理解が問題とされる点を整理し、価値認知がむしろ習慣的な「第二の自然」としての性格を持つ点を確認した。伊吹は、新約聖書における「アガペ-(愛)」の概念を分析して、その価値の志向的性格を明確にした。また樋口は、ニーチェにおける「テンペラメント(気質)」の概念に注目して、ヨーロッパの既成の価値概念の転倒を主張するニーチェの真意を明らかにする作業を行った。岡田は、ハイデガ-における価値哲学批判の意義を、以上の歴史的考察の背景において位置付ける考察を行った。そして丹治は、最近公刊された著書において、言語の共有ということの意義を検討することを通して、全体主義的言語観における価値の問題の位置付けに関する原理的考察の端緒を開いた。また、神崎は研究総括者として、そのような原理的研究において、所謂自然主義的立場の可能性に関して、丹治の立場を批判的に検討することによって、議論を深めることができた。また、以上の研究成果の一部を、報告書として公表すべく、その準備作業を行った。
著者
林 文男
出版者
東京都立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

研究材料としてカワトンボとミヤマカワトンボを用い、精子の量と質の比較を行った。2種ともに,メスの体内には,交尾嚢と受精嚢と呼ばれる2つの精子貯蔵器官を有している.一方,オスの交尾器の先端には,交尾嚢の中の精子を掻き出す器官(耳掻き状の反転部)と受精嚢の中の精子を掻き出す器官(ブラシ状の側突起)が備わっている.ミヤマカワトンボでは,交尾嚢,受精嚢ともに多くの精子が貯えられており,精子の生存率は交尾嚢,受精嚢ともに高く維持されていた.これに対し,カワトンボでは,受精嚢が著しく小さく,ここに精子を貯えているメスの割合は少なかった.また,受精嚢内に精子が貯えられている場合でも,精子の生存率は交尾嚢に貯えられている精子よりも低い傾向があった.つまり、カワトンボでは,受精嚢は精子の貯蔵器官として利用されていないと考えられた.それにもかかわらず,カワトンボのオスの交尾器には,ミヤマカワトンボと同様ブラシ状の側突起が発達していた.従来,オスの側突起は受精嚢の中の精子を掻き出すための器官としてのみ考えられてきたが,他の機能(交尾嚢内で交尾器の位置を確保したり,支持したりする機能など)を有する可能性があり,今後の検討が必要である.ミヤマカワトンボでは,交尾中および交尾直後の精子の挙動を明らかにするために,ハンドペアリング法によって交尾を行わせ,途中で交尾を中断させる実験も行った.その結果,交尾嚢内の精子については,オスによってほぼ全てが掻き出されることがわかった.しかし,受精嚢内の精子については掻き出しは不充分であった.受精嚢は左右の細長い袋からなるが,多くの場合,オスは片方の袋の精子しか掻き出せなかった.つまり,メスの生殖器のうちの受精嚢は,オスによる精子の掻き出しを防ぐ機能を有していると考えられた.
著者
森 善一
出版者
東京都立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

本研究では,車椅子生活を送っている方々が特別なインフラのない環境でも,健常者と同等の日常生活を送れるような直立移動システムを開発することが目的である.本移動システムは(1)移動台車,(2)伸縮松葉杖,(3)下肢関節駆動機,の3装置から構成される.これらの3装置のうち,本研究に先立ち申請者は伸縮松葉杖の製作を行っており,また昨年度は,旋回機能を持つ移動台車の製作,および下肢関節駆動機の設計を行ってきた.今年度は以下の研究を行った.1.下肢関節駆動機の製作,および動作確認実験を行った.2.3装置を装着し,椅子からの起立動作を行った.この動作において伸縮松葉杖と下肢関節駆動機の協調動作が必要となり,どちらの装置を主として使用するかは,杖をつく位置や動作シーケンスによりさまざまに取ることができる,昨年までは,杖を体の後方へつき,杖の伸縮駆動力に頼った動作を行ってきたが,例えば電車における長椅子等の場合は,杖を後方へつけないという問題がある.また,動作中に杖がスリップした場合には,転倒する危険をはらんでいる.そこで,今年度は,杖を体の前方へつき,腕の力を利用して,体の重心位置が常に移動台車の上に来るように変更した.実験を通して,ほぼシミュレーション通りの起立動作が実現できることを確認した.また同様の動作手法を階段昇降へも応用し,シミュレーションを通して有効性を検証した.3.これまでは,電源装置や制御装置をシステムの外においていたが,今年度は,それらをバックパックへ収納して背負い,システムの完全自立化を実現した.システムへの通信には,他のPCを用いて無線で行った.4.当初の最終実験目標として,駅から駅への電車を利用した移動を掲げていたが,今年度は,実際の駅(京王線南大沢駅)において,改札の通り抜け動作,およびエレベータへの乗り込み,乗り出し動作を実現した.
著者
富田 裕介
出版者
東京都立大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2001

クラスターアルゴリズムは隣り合うスピンをある確率でつなぎ、系を大域的に更新することによって効率よく計算するアルゴリズムである。しかし、系にフラストレートがあるときやスピンと相転移との関係が明らかでないときにはクラスターアルゴリズムは必ずしも有効ではない。このような背景から我々は確率変動クラスターアルゴリズムを一般化し、クラスターアルゴリズムと切り離すことを考えた。確率変動クラスターアルゴリズムの枠組みを広げてみると、1変数有限サイズスケーリング関数に閾値を設定し、ある瞬間において系の状態がその閾値を超えているか否かで温度を変化させていると考えることができる。1変数有限サイズスケーリング関数はパーコレーションのほかに秩序変数のモーメント比や相関関数の比(相関比)などが考えられる。2次元イジングモデルとクロックモデルを用いて、モーメント比と相関比を数値的に求め比較を行い、相関比がモーメント比より確率変動アルゴリズムに適していることを確かめた。特に2次元クロックモデルのKosterlitz-Thouless相と秩序相の臨界領域において、モーメント比では解析が非常に困難なのに対し、相関比では比較的容易に解析できることを示した。相関比を使った確率変動アルゴリズムで2次元S=1/2量子XYモデルの解析を行った。アルゴリズムは、鈴木-トロッター軸の外挿が必要ない・非対角成分の計算が容易、などの利点があることから連続虚時間ループクラスターアルゴリズムを用いた。確率変動アルゴリズムから得られた結果は相転移温度の評価に関して最近の結果と誤差の範囲で一致した。また臨界指数に関してはくりこみ群の計算が正しいことを裏付け、確率変動アルゴリズムが量子スピン系の臨界現象の解析にも有効であることを示した。
著者
高本 教之
出版者
東京都立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

1988年から刊行中のR.ロイスとPシュテングレ編のベルリン(現在はブランデンブルク)版クライスト全集では、2005年に『詩集』、2006年に『プリンツ・フリードリヒ・フォン・ボムブルク』が公刊された。本研究「19世紀ドイツ散文文学の『身振り』の研究」は、散文作品を主対象とするものであるが、同時にまた、新版全集により開かれるクライスト読解の新たな可能性を探ることをも目的とするため、公刊された両文献も考察の対象となった。かっまた、同様の観点から刊行済みの他の戯曲作品も考察の対象とすることとなった。そこでは、散文作品『聖ドミンゴ島の婚約』における主人公の名前の書き換え(Gustav-August)のような、研究者に対し新たな読解を要請する文字どおり劇的な変更は見られなかった。たとえば戯曲『ペンテジレーア』においては、OdysseusがUlyssesに変わるなど、ギリシア名からローマ名への変更が認められるものの、これは通常作者が両者を区別していなかったことの証左に過ぎないものと解される。しかし、セリフにおいてもbeim Zeusとbeim Jupiterがテクスト上に並置されている点については、韻律の問題としてばかりでなく、作者の「書き方」(Schreibvefahren)を探る上でも、看過しえないものと考える。本年は発表しうる研究成果はあげられなかったが、クライストの本領である戯曲を視野に入れた研究へと、考察の射程は広がりつつある。
著者
前田 幸男
出版者
東京都立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

本研究のデータ収集計画の過程で、従来とは異なる角度から政党支持・内閣支持の意味につき理論的に検討する必要を感じ、集計された世論調査データの推移を実際の国政の変化と対比させつつ検討する作業を行った。1993年以来の政党の離合集散は、政党支持の測定について、いわゆる五五年体制下では必ずしも明確に意識されなかった諸問題を認識する絶好の機会を提供していると考えたからである。その成果は、後掲の「中央調査報」論文に掲載した。また、内閣支持率の推移を検討する過程で、首相・内閣評価の問題について基礎的な情報を収集する必要を感じ、本調査の質問票には小泉首相を支持する・支持しない理由についての自由回答を付け加えた。本研究のデータ収集は計画より数か月遅れたが、予定された三重県松阪市で2004年12月に行われた。2005年1月末にデータは納品され、現在データ・クリーニングを兼ねた記述的分析が行われている。初期段階で注目するべき成果としては、A・Bの分割調査票形式で行った実験において、「政治」と「政府」では、有権者の反応に興味深い差が見られたことである。即ち、「政治」に対する信頼が「政府」に対する信頼よりも若干高めに出るのみならず、「わからない・答えない」の比率は「政治」についての信頼の方が低い。また、社会福祉質問では、「財政が苦しくても」と「増税してでも」という二つの似通った言葉を使い分けたが、そこにおいても統計的に有意な差が確認できた。今後は、分割票の特性を生かして、一体どのような属性の人々が、如何なる条件で異なる反応を示しているのか検討を続ける予定である。本調査で採用した政治知識尺度を利用することで、従来は得られなかった興味深い知見が得られるものと考えている。
著者
木村 光江 前田 雅英 亀井 源太郎
出版者
東京都立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本研究は,強姦罪,強制わいせつ罪の他,児童買春等処罰法,ドメスティック・バイオレンス防止法(DV防止法),ストーカー規制法,さらに人身売買罪を含む,主として女性を被害者とする犯罪行為を取り上げ,その実態並びに法整備についての検討を行ったものである。まず,強姦罪・強制わいせつ罪については,本研究実施期間中の平成16年に,刑法典改正により重罰化が実施された。本研究では,このような重罰化の背景には,性犯罪に対する国民の意識の変化があることを明らかとした。すなわち,このような変化は,単に性犯罪を「性的自己決定に対する罪」「性的自由に対する罪」とする考え方から,女性の尊厳に対する重大な侵害を伴う「性的暴行・脅迫罪」とする理解へと変化したことの現れであると理解すべきなのである。このような理解の変化は,児童買春等処罰法,DV防止法,ストーカー規制法という一連の特別法制定の延長線上にある。これらの特別法は,従来,「犯罪」とはみなされてこなかった行為類型について,明確に処罰化したものである。女性を被害者とする行為に対して,国民は,より厳格な処罰を求めるようになってきたのである。本研究では,特に,特別法についてその実態を踏まえて分析・検討を行った。その結果,DV防止法,ストーカー規制法においては,刑罰以上に,その前段階としての接近禁止命令や退去命令,警察による警告が極めて有効であることが明らかとなった。ストーカー規制法に基づく,警察による援助も急増しており,これらが効果を発揮していることが分かる。刑罰以前の手段が有効であることは,人身売買に関する分析・検討からも窺われる。すなわち,人身売買罪の制定自体が諸外国に向けたわが国の姿勢を示すものとして重要であることは明白である。しかし,実質的には,特に風俗営業適性化法の改正などにより,人身売買の温床となる営業事態を取り締まることの重要性が明らかとなった。
著者
小谷 汪之 関根 康正 麻田 豊 小西 正捷 山下 博司 石井 博
出版者
東京都立大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
1998

現代インドにおける宗教対立(とくにヒンドゥーとムスリムの対立)はパキスタンとの関係の変化を伴いながら、南アジア世界をきわめて不安定にしている。小谷は歴史学の立場から、この問題を長期的な見通しで研究し、その成果をWestern India in Historicae Fansitionとして、インド、ニュー・デリーのマノーイル出版社から刊行した。又、2001年12月7-8日にニューデリーのJ.ネルー大学で開かれたUnderstanding Japanese Perspectreis on Fudia : An Inolo-Japanese DialogueというWorkshopで発表した。小西は長年の亘ってインドの民衆文化、とくに民画の研究をつづけてきたが、その成果を『インド:大地の民俗画』(未来社)として公刊した。インドの民衆の間に生きつづける伝統文化が時代の変化に対応して、日々新しいものをつけ加えていく姿がよく捉えられている。
著者
堀 信行 岡 秀一 大山 修一 松尾 容孝 高岡 貞夫
出版者
東京都立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

最終年度として、研究代表者の堀は、霊山およびそれに関係する聖所にあたる広島湾内の厳島(宮島)の弥山など、自然植生に対する桜と紅葉の植生景観に関する人為的干渉の歴史や、その文化的背景について考察を加えた(この成果の一部は『風景の世界』(二宮書店:2004)に掲載された。このほか聖所を創出する樹としてのスギに注目し、自然植生としてのスギと植林としてのスギに分けて、その全国分布および神社の分布との関係について考察を進めた。このほか沖縄の代表的聖所である斎場御嶽の空間構成については、上述の『風景の世界』に公表した。このほか都市の中の聖所の事例として鎮守の森との関係についても考察を加え、上記出版物に公表した。なおこれまでに調査を行った各地の霊山および関連する聖所に関する全体的な考察は、本研究のおかげで更なる展開が期待され、そのまとめに向かって鋭意努力中である。また岡は、古代から古墳など歴史的なかかわりが深い隠岐諸島の森林植生について、土地利用との関連で人為的干渉の影響について現地調査を行うとともに、考察を行い報告書にまとめた。松尾は霊山の聖域の構造と自然植生の残り方に注目しまとめを行っている。高岡は、東日本を中心に霊山をはじめとする神社仏閣の分布と、GIS(地理情報システム)を活用して自然植生と人為植生との関係を追及し、論文としてまとめを行っている。大山は、琉球弧では食用に供されてきたソテツが、本州では神社仏閣に植栽されていることに注目し、ソテツの樹齢や歴史、逸話などの資料を収集し、日本人の自然観と人為的な営為との関係についてまとめを行っている。本研究が自然植生を見る視座に新たな観点を加えることができたと考えている。問題の深まりと新たな展開を取り入れて、さらなる研究成果を随時出して生きたい。
著者
森岡 清志 大谷 信介 松本 康 園部 雅久 金子 勇 直井 道子 中尾 啓子
出版者
東京都立大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1994

本研究の目的は、第一に都市度とパーソナルネットワークの関連を都市間比較を通して明らかにすること、第二に、都市度の他に、階層性、家族的特性などのパーソナルネットワークへの効果も明らかにすること、第三に、「それほど親しくない人びと」とのネットワークを年賀状調査を中心とする事例分析をもとに捉え、機関や集団の存在を明らかにしながら、パーソナルネットワークと都市社会構造との連結点を具体的に把握することの三点である。第一と第二の研究目的に従って、平成6年度と平成7年度には、仮説の検討、調査票の作製、全国7地区における実査、調査票の点検、エラーチェックなどをおこなった。調査地は東京都文京区、調布市、福岡市中央区、西区、新潟市、富士市、松江市であり、各地点300サンプルを選挙人名簿から抽出した。回収率は全体で約48%であった。詳細は報告書第2章に記載されている。また、この調査結果の解析と知見については報告書の第3章〜第11章にまとめられている。平成8年度は、上記調査の集計分析の他、第三の研究目的を達成するべく年賀状調査を実施した。現在この事例分析の知見を整理・検討しているところである。調査票にもとづく大規模調査の結果は、都市度と友人ネットワークとに先行研究で示されたようなストレートな相関を見出しえないものとなった。都市度の高低は、遠距離に居住する友人数の大小と有意な相関を示し、むしろ親族ネットワークと都市度との間に興味深い関連が見出されるものとなった。このような結果の差異は、親しい親族数、友人数の聴き方のちがいによっても生じたものと思われる。
著者
大口 敬 桑原 雅夫 鹿田 成則 片倉 正彦 吉井 稔雄 赤羽 弘和
出版者
東京都立大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2001

自動車の運転者の認知・挙動には様々な場面が想定されるが,本研究では道路における安全性評価・効率性評価(交通容量)に関連した道路線形・道路構造・周辺車両との関係性における速度感,距離感,および案内標識などの視認性を対象とする.こうした運転特性を分析・検討するために,これまで困難とされてきた室内実験手法による実証データの収集を可能とする室内実験システムを確立すること,その場合の実際の道路交通環境下における挙動との違い,相似関係を明確化し,実験結果の評価方法を確立することを目的としている.また,こうした実験による実証的検討を通して,運転者の認知・判断・挙動の特性を「リスク認知」という観点から整理・統合することを試みる.今年度は,東京都立大学に既設の動景観画像室内実験装置を用いて,交通事故が多発しているカーブ道路区間を対象に,熟練運転者と初心運転者によるカーブ走行特性が異なることを利用して,道路上の運転者からの模擬視界を生成する3次元CGモデルにより,交通安全施設の有無,施設のタイプ(ポストコーン,デリニエータ),設置形態と運用形態(高さ,設置頻度)の異なる条件を設定し,交通安全施設設置効果の実験的検証を行った.また,交差点信号機の下などによく設置される補助標識である名称標識に代えて,記号や色などによる認知しやすい補助標識と案内システムの併用による交差点案内システムの有効性検証の実験も行った.これらの実験を通して,視認開始距離における画像を表示するには,汎用のCG画像では画素の精度により限界があること,速度感の認知にはまだ課題が残されているものの,室内実験システムにより,こうしたドライバの認知挙動実験が一定の範囲で可能であることを明らかにした.
著者
宇沢 美子
出版者
東京都立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本研究は、19世紀から20世紀転換期のアメリカ文学における日本観の変遷を扱うことを目的とする。元祖黄禍はジンギスカン率いるモンゴル民族軍によるヨーロッパ侵略の形をとったが、その悪夢は、アジアからの移民の増加と日本の軍事力の増大により、19世紀から20世紀転換期にアメリカで再燃した。本研究は、東洋による西洋(領土/仕事/女性)の支配に対する懸念である黄禍論に対する異議申し立てを、西洋と東洋を相対化する視点を模索した(人種的/文化的)ユーラシアンたちの作品に見出そうとする。中国系カナダ人ウィニフレッド・リーヴ(オノト・ワタンナ)の日本小説は、蝶々夫人やお菊さんなどで定着しつつあった、西洋(男性)による東洋(女性)の支配というジェンダー/性で織りなされたオリエンタリズムの関係を脱し、世紀転換期にアメリカで取りざたされた「新しい女」の日本版を作り出し、国籍を超えた女性同士の「心」と「神経」による「シンパシー」を模索した。自身のユーラシア性を文化翻訳者に見出していたと思われるこの作家は、日本の浦島伝説を、西欧の人魚伝説とあわせ、浦島太郎ではなく、あとに残される乙姫の物語へと翻案し、出世作『日本鶯』を書いた。ヨネ・ノグチの朝顔嬢小説は、蝶々夫人やコミックオペラ「芸者」に対する批判を含み、ワタンナの日本小説に対するパロディとして意図されたものだが、あまりに過激なジャポニスムとの戯れゆえに、またゲンジロウ・エトウのジャポニスム装丁ゆえに、かえって出来の悪い日本小説として受容された。白人作家ウォラス・アーウィンが生み出したハシムラ東郷は、日露戦争後の黄禍論や東洋人排斥運動を直接的な背景とし登場した擬似日本人だが.幾度となく「黄禍」と呼ばれた賢い道化のスラップスティックは、黄禍論の(イ)ロジックのみならず、ジャポニスムや日本小説のウェットな感性をも完壁に笑いのめした。
著者
初見 基 北島 玲子 OPHULSーKASHI ライノルト
出版者
東京都立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

科学研究費を受けて行なわれた4年間にわたる本研究の究極的な目的は、1989年の「ベルリンの壁崩壊」、そして90年の東西ドイツ統一に端的に現れた<世界の冷戦構造の解体>を背景に、1990年代のドイツの文化状況がどのような変化をこうむったか、知識人の発言及び発表作品に即して具体的に険証し、それを20世紀思想史の枠組みに位置づけることにあった。ただ、この4年問は、その研究のための準備段階と当初から構想されており、第一に据えられた具体的な課題は、基礎資料の収集・整理だった。そのなかではとくに、1990年以降刊行されたものを中心とする、新刊作品・研究書の充実化、雑誌・新聞等に掲載された論文や記事等の資料の収集、そして、コンピュータ・ネットワークを通じて流されている、主として90年代そして2000年代に入ってからのドイツの言論状況をめぐる資料収集が試みられた。こうしたもくろみの7割方は達成されたかと思うこの4年問の作業において、第二には、上記資料の整理・ファイリングが試みられた。ただ、量的に多いだけでなく、質的にも多岐に渡るため、いまだ充分な整理には到っていない。これは今後の課題として残ってしまった。また第三に、これまでも行なわれてきた共同研究が継続された。定例研究会が開かれた他、全国から研究者が集まるドイツ現代文学ゼミナール、オーストリア現代文学ゼミナールなどにも参加し、研究成果の検討がなされた。この成果の一端は、『成果報告書』にまとめられる他、それとは別途に、4年間の研究の最新成果が論考としてまとめられ、2002年度末に公表される予定である。そこにおいては、統一ドイツにおける、<民族>、<国家>、<性>等の<アイデンティティ>が、従来とではいかに変化しているか、という点についての考察がなされる。